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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 13 ユダが悪人とは限らない。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/08/13(水) 03:55公開   ID:SUURLksaq0Y
ここははやての家、守護騎士達にとってもある意味アジトでもある。

そのダイニングでははやてが料理を作っている間に、こそこそと言うかんじでシグナムの治療を施すシャマルがいた。

魔法についてははやても知っていることだが怪我の理由を誤魔化すのは難しい。

そういう理由もあってこそこそとしているわけである。

幸い、ヴィータがギガウマの歌だかを歌いながらはやての周りを駆け回っているので少し話しても聞こえない。



「治療が終わりましたよ、シグナム」

「ああ、すまないな」

「でも貴女がここまでやられるなんて……」

「流石にSランクオーバーの魔導師相手は厳しい……私の基本魔力はS−だからな。

 レヴァンティンの増幅効果を受けても一時的に上回れるかどうかといったところだ」

「ベルカ式デバイスの強みである近接戦闘で五分以上……化け物ですね」

「ああ、しかし、私もあの手の武器は初めてだったからな、次回はこうも後れは取るまい」

「まあ、貴女が負けるなんて考えてもいませんが……。

 でも、テンカワさんとリニスさんの記憶、上手く奪えていればいいのですが」

「主はやてには知られないようにしたいからな……知ればおそらく止められる。

 そして、そうなれば我らにNOという術はない」

「そうですね、私たちははやてちゃんの命と健康のためにしているつもりですが……。

 それでも、彼女の嫌いな人を傷つけることをしているのは間違いないのですから」

「闇の書を完成すればとりあえず主はやての足の悪化は止められるだろう、それに魔法で足の回復も可能なはずだ」

「そうですね、でもそのせいではやてちゃんを寂しがらせては本末転倒です。

 ここ数日はやてちゃんと一緒にお風呂に入ってあげないものだから少し拗ねてましたよ」

「ああ、そうだな……回復したことだし、今日は一緒に入るとしよう」



その言葉が終わるのを待ちかねたがごとくシャマルが厨房の方へ向う。

今日はシチューを作ることになっていた、はやてに運ばせるのは酷だろうし、

ヴィータは少し背が低いためテーブルに置くのはつらい。

急いで行く必要があった。



「お、シャマル。シグナムの調子よなったん?」

「はい、もう大丈夫です」

「でも風邪は長引くいうし、魔法でなんとかなるものなん?」

「まあ、もともと殆ど治りかけでしたし、ここ二日風呂に入れなかったのは彼女にも辛かったと思います。

 今日は一緒に入っていいですよ」

「おお、またシグナムのあの感触が味わえるんやねー♪」

「はやてちゃん、ちょっとおやじっぽいですよ……」



はやてはおっぱい好きだ、理由は不明だがようは母親というか母性の象徴として欲しているのではないかと思われる。

そのせいかどうか、シグナムやシャマルはよく揉まれていた。

主なのではねのけるわけにもいかず、シグナムもシャマルもどう扱っていいのかわからないでいる。

特に大きさではなかなか類を見ないシグナムの胸ははやてのお気に入りでよく揉まれるのだ。

しばらく一緒に入れなくてさびしかったというのは本当だろうが、

胸の感触が味わえなくてさびしかったのではないかと疑いたくなるシャマルだった……。



(でも変ですね……リニスさんの魔力がオーバーSなのにマスターであるテンカワさんがCランクなんて……。

 維持の為の魔力だけでも死に兼ねないレベルのはずですが……)















地球静止衛星軌道上、ステルスを魔法で行い潜行する船、巡航艦アースラ。

そこに、魔法による秘匿通信が入ってきていた……。

匿名というわけではないが、管理局の局員からでもない。

秘匿回線に侵入されるというのは、この時点ですでに問題であった。

しかし、アースラ艦長にして提督の地位にもあるリンディはその通信を開くように命じた。



『半年ぶりくらいかな、リンディ提督』

「はい、お久しぶりです。テンカワ・アキトさん」

『俺の言いたいことは分かっているな?』

「んーいくつか予想はつくのですが、とりあえず最初に言うべきことは。

 フェイトちゃんの件、突然で申し訳ありませんでした」

『現状魔法使いを保護できるのがそこだけであることは否定する気はない、預かってもらっていることに感謝する。

 しかし、嘱託として働かせる件に関しては反対の意見をださせてもらおう』

「ですが、フェイトちゃん本人の意思でもあります」

『フェイトの意思は尊重している、だからこそそちらに預けることに同意した。

 しかし、10歳になる前の人間の意思を大人の意思と同じものとして扱う管理局と管理世界については信用していない。

 普通はその頃はまだ親の近くにいたい年頃だ』



アキトの追及に関して、確かに最もだという思いはリンディの中にもあった。

だが、クロノにしろ初任官は10歳になるより前だった。

どうしてそうなるのかと言われれば、魔導師としてAランクを超える素質を秘めた人間は一般人から差別を受けやすいのだ。

家で普通の育てたとしても、一度魔法を暴発させてしまえば一躍犯罪者の仲間入り。

そうでなくとも、妙な勧誘も受けやすい、なによりも魔法の無い世界では魔女狩りのような事態すら起こりうる。

Aランクというのは本庁でもエリートクラスなのだ、それ以上の能力を子供のころから持っているというのは異常だった。

だから、そういう例外はまとめて管理局が引き取り無理にでも役職に就かせるのが通例となっていた。

もちろん例外はある、生まれてきた全員を調査できるわけもないのだから。

しかし、知ってしまった以上そうして管理局に取り込むのはリンディの役目でもあった。



「確かに、貴方の言うとおりだと思います。

 しかし、管理世界から外れた世界でフェイトちゃんのような存在が生きていくのがつらいことは予想が出来るはずです」

『もしそうだとして、そこにいれば安全か? フェイトの情操はどうなる?』

「もちろん、一時的にお借りしているだけですから。

 今回のような危機が去ればいつでも戻ってもらうこともできますし、

 私が責任を持ってお預かりしますので偏った思想を植え付けるつもりもありません」

『……その件については今は引き下がろう、現時点では確かにそちらのほうがフェイトやなのはは安全だ』

「御理解いただけて恐縮です」



おそらく、最初からその件については認めているのだろう、

それでも突っ込んできたのは嘱託の件をアキトの寝ているうちにフェイトに話したからだ。

リンディとしても嘱託の件は少し尚早だったかもしれないと考えてもいた。

テンカワ・アキトという人物が時空管理局をあまりよく思っていないのは事実だ。

その理由もわかる、

前回の件はこの世界の住人には全く関わりのないものであったのに、巻き込んだ件で謝罪すらおこなっていない。

そして、今回の件も魔法世界の関係であってもけしてこの世界の責任ではない、だが今後も管理局側は何もする気がない。

それは、魔法をこの世界に明かすことで世界に混乱をもたらさないためである。

だが同時にそれは、この世界に魔法による危機がおとずれても彼らは理由も分からず逃げ惑うしかないということでもある。

どちらがいいのかという結論が出ていない以上リンディは管理局の方針に従うつもりであったが、

その事を突かれると弱いのも事実である。



『さて、理解していると思うがもう一つ言っておくことがある』

「なんでしょう?」

『管理局という組織が強大であることはわかる、だが同時にそれは動きが遅いことも示す。

 しかし、おかしなことに前回の件も今回の件も事件が起こって間もない間にお前たちはこの世界に来ている』

「それは、通報があったから……というのでは理由になりませんか?」

『悪いが少し調べさせてもらった、この世界にお前たちは諜報用のゴーレムを多数放っている。その事は知っていたか?』

「……いえ、私はそのような指示は出していません」

『それはつまり、別の指揮系統が動いているということだな』



リンディはその件について報告を受けていなかった、だとすれば指示した誰かがいるはずである。

確かにそうなればアキトの不信も頷けるものではある……。

しかし、いったい誰がそんなことをしたというのか。



「その件に関しては私の方でも調査しておきます」

『あまり派手なことはしない方がいい、貴方の立場が悪化すればフェイトやなのはにも影響が及ぶ』

「大丈夫です。私はこれでも提督ですし、それなりに横のつながりもありますから」



リンディは微笑んでアキトに返すが、その表情には少し陰りがある。

理由はやはりアキトの管理局に対する不信と、裏で動いている何かに対する焦燥であろう。

もちろん彼女は管理局以上の組織が次元世界に存在するとは考えていない、しかし、大きな組織には腐敗があるのも事実なのだ。

そう言う部分を改めてつきつけられているように感じてやはり心穏やかではいられなかった。



「それで、フェイトちゃんとはお話しますか?」

『そうだな……いや、今は必要ないだろう、下手に話しても愚痴になってしまいそうだ』

「それはそれは、お父さんしてますね」

『たかだか半年の新米ではあるが、それなりに頑張らせてもらっているよ』

「はい、がんばってくださいね」



言ってからその娘を取り上げた人間の台詞ではないなと思うが、アキトはそのことについて返しては来ず少し微笑んでいた。

それを見て自分が完全に信用されているわけではないようだが、人の親という意味では信用してくれていると感じる事が出来た。

その信頼を崩さないようにしなければと思いつつも、事件解決のためには多少の無茶が必要になるかもしれないとは感じていた。

リンディにとってはどちらも頭の痛い問題であった……。






















「あの、ギル・グレアム元提督ってどういう方なんですか?」

「ああ、そうだな……やさしい方だよ。威厳もあるし、包容力もある、でもこれ以上言うと身内びいきみたいだな……。

 まあ、会ってみればわかるよ」

「クロノ君にとっても目標とする人っていうこと?」

「そういうことになるかな」



なのはとフェイトを嘱託にする際の骨折りをしてくれたギル・グレアム提督への挨拶を行うため、

なのはとフェイトはクロノについてグレアムの執務室へと向かっていた。

先ほど無限書庫で仕事をしていたユーノも一緒についてきていたがクロノはがん無視だった。

この年齢で女尊男卑のような考え方をしているクロノはかなりおませと言えるかもしれない。


グレアムの執務室前にある休憩室では二人の女性がくつろいでいた。

どちらも猫耳を出しており、一見して使い魔であると知れる。

よく似ている姿は双子を思わせるが、一方は猫特有とでも言おうかいたずら好きそうな顔をしており。

もう一方は落ち着いた装いを持っている、髪型や服装、体型までよく似ているだけにその違いが際立っていた。



「おっ、クロ助。来ると思ってたよ」

「クロノお久しぶりね」

「ロッテにアリアか……久し振りって前に会ったのは3日前じゃなかったか?」

「クロノに会えないのがさびしかったのさー」

「おちょくりたいだけだろ!」

「ふふふ、でも会えてうれしいのは本当よ」

「だいたい!」

「でもあのクロノが結構言うようになったもんだ」

「えっ、クロノ君と親しいんですか?」

「そうだよー、それはそれは深い関係さ」

「ですね、昔はそれはもう」

「変な事を吹き込まないでくれ! 彼女らは俺の戦技教官だったんだ」

「へー、じゃあお二人は強いんですね」



クロノの説明になのはは目を丸くして驚いていた。

なのははまだ相手の物腰で強いか弱いかを見る事は出来ない、

戦闘経験はそこそこにあるものの、それはフェイトかモンスターのようなものだけだ。

対人戦闘なれするか、気配を察知できるほど鍛える事が出来ればまた違うのだが。



「リーゼロッテは近接戦闘、リーゼアリアは魔法技術それぞれ一流の使い手だよ。

 二人とグレアム提督のチームは管理局でも最強のチームの一つだ」

「そんなに凄い人なんだ」

「まあ、父様の魔力を分け与えられて存在してる私たちだし、凄いのは父様だけどね」

「確かに、二人を支え続ける魔力は尋常ではないな」



実際の数値などは公開されていないため不明だが、二人の実力は何億人もいるはずの管理局局員内でもトップレベルだ。

更にはその2人を支えるだけの魔力供給を常時行っているグレアムはいったいどれほどのものか。

少なく見積もってもS+、場合によってはSSランクということもありうる。



「まあ、父様がしんどくなったらクロノが引き受けてくれるよね?」

「はい、期待してますよ♪」

「ぐっ……俺達は今からグレアム提督に会いに行くんだ、おちょくるならそっちのフェレットもどきにしておいてくれ」

「えっ!? 僕!? ちょなんで!?」

「おお、フェレットってことはネズミ系か、なんかうまそうな匂いがすると思ってたんだよ」

「こらこら悪ノリしないの」

「そういいつつその獲物を見る目は何ですかー!?」

「ユーノくんお願いね」

「きっとユーノならお二人も満足だと思うからがんばって」

「ってちょっと、二人ともー!?」



今にもかぶりつきそうな顔のロッテに見つめられて震え上がるユーノ。

なのはとフェイトは助けを求められているが笑って助けようとしない。

まあ当然といえば当然だがリーゼロッテとリーゼアリアのおもちゃにされる運命であった。

ユーノをいけにえにささげ、クロノはグレアムの執務室に入室する、なのはとフェイトもそれに続いた。

ユーノは世の無常を儚んでいるようだったが、まあお姉さん二人にかわいがってもらう分に問題はあるまい。



「クロノ・ハラオウン執務官、以下3名入ります」

「来たかね、待っていたよ」

「お待たせして申し訳ありません」

「あっ、あのはじめまして高町なのはです」

「フェイト・テスタロッサです」

「はじめまして、ギル・グレアムだ。ささ、立ち話も何だ、座ってくれたまえ」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「失礼します」



そして、グレアムが手づからお茶を用意する、ちょっとした趣味もあるのだろう。

管理局ではそう言うのが流行っているのかもしれない。



「あっ、ありがとうございます」

「どうも……」

「さて、何から話すべきかね……」

「あの、母さんのほうですけど……」

「ああ、プレシア・テスタロッサの病状かね……彼女はかなり無理をしてきたようだね。

 元々年齢的にも更年期に入る時期でもある、今から回復させるのは少し厳しいかもしれない」

「そう……なんですか……」

「だがまあ、幸いにしてこのままなら悪化もしないはずだ。

 医療というのは日進月歩だからね、希望を捨てるほどの事ではない」

「あっ、はい」



フェイトは少し表情を緩める、今はプレシアも血を吐くようなこともない。

少しやつれてはいるものの目の険も取れて病状が悪いというほどでもないようだった。

この状況のままならそれほど悪くはないのかもしれない、あまり会えないのは心苦しくはあるが……。



「よかったね、フェイトちゃん」

「うん、心配してくれてありがとうなのは」

「それで、今回の事件についてお聞きしたいのですが」

「クロノ……君も分かっているんじゃないかね?」

「やはり……」



部屋のモニターにはこの間のアキト達と敵との戦闘が写されている。

顔などはぼんやりしか見えないものの、

ピンク色の服と白い剣型デバイスを持つ魔導師が戦闘後に取り出したのは明らかに本だった。

本がリンカーコアの光を吸い込んでいるのだけははっきりと分かる。



「闇の書と認定して問題ないでしょう」

「ああ、ロストロギア闇の書……できればもう現れて欲しくはなかったが……」

「あの……それはどういうロストロギアなのですか?」

「破壊の願いを叶える書物とでもいえばいいのか……あの書は一定の魔力を吸収しないと完全起動しない。

 しかし、完全起動したときには全てが破壊される」

「そんな……何の意味があるんですか?」

「元々は別の使い方があったのかもしれないが……。

 今は持ち主の願いを叶えるふりをして破壊をふりまき、

 持ち主が死ぬと次元転移して行方をくらませる厄介なロストロギアとなっている」

「じゃあ、この桃色の人が持ち主?」

「いや、あれは恐らく守護騎士システムだろう」

「システム……ですか?」

「4体の守護騎士が本の中から現れて主を守る、そういうシステムになっている」

「ロボットのようなものでしょうか? でも、それにしては時代がかってる気がします」

「見た目や言動は兎も角、奴らは意思は持っていない、闇の書の一部だからな」

「そうなんだ……」



実際のところまだ戦闘したことがないなのはやフェイトとしては彼女らが意思を持っているのかどうか判別することはできない。

しかし、フェイトは少し違和感も感じてはいた。

アキトやリニスが覚えていないと言っている戦闘経過がここにある理由がわからない。

それに映像にも少し不審な点はあった、いったいどこから映しているのか……遠くではあるが衛星軌道からではないはずだ。

アキトに諭されたせいもあるのかもしれないが、フェイトは一歩引いた目で見ている自分に気づいた。

しかし、それを問いただす気にはなれない、自信がないし、不和の元になるような気がしたからだ……。




















「さて、どうするザフィーラ?」

「そうだな……できれば衛星軌道にあがった大きな魔力が欲しい所だが……」

「時間もあんまりないしな、だけどあれは管理局の船だ、闇の書が完成してんならともかく今は……」

「そういうことだな、後地上にははめぼしい魔力の持ち主はいない。世界を移すことを提案する」

「そうだな……どうせなら、うんと遠くて人間のいない世界でやろうぜ」

「管理局に見られないためにもそのほうがいいな……」

「はやてにも知られたくないしな」

「ああ」



赤い鎧というよりゴスロリ服を翻しヴィータが世界を跳ぶ、ザフィーラの巨体も同時に世界から消滅した。

原始的な文明すら存在しない世界へと向かう彼女たちは、

本当に人格がないのか、それにこたえる事が出来る人間ははやてだけだろう。

ただ、彼女らははやてのために魔力を集める、砂漠に覆われた世界で巨大な砂虫と闘いながら……。























アキトはパワードスーツの制作を忍に一任し、自分は脚の回復に全力を注いだ。

この状況では交渉するにしろ、戦闘するにしろフットワークが第一になりそうだ……。

そのため、自分も全力を出せる状態になりたいというのはアキトの願いでもあった。



「くそ……まだ歩いて100mも進まないうちに足がガクガクしてくる……」

「それでもかなりの進歩だと思う」

「ラピス……すまないな、つきあってもらって」

「ううん……ラピスはアキトの手でアキトの足だから……」

「そういうことをさらっと言わないでくれ……」

「どうして?」



ここ半年で随分世間というものを知ったはずのラピスだが、未だにアキトに対する態度は変わっていない。

自らの意思よりアキトを優先していたころと比べればまだましだが、それでも依存という意味では一番だろう。

もっとも、ラピスの依存はどちらかというとアキトにしてもらうことよりもアキトの傍にいる事に集中している。

もっといえば、自分の我儘よりもアキトの頼みを優先する傾向にあるのだ。

そのためアキトはラピスに頼まない、だが当然ラピスは不満だった。

だから、今回のような事はラピスにとってはうれしいのである。



「とりあえず、せめて走れる程度には回復しないとな」

「まだリハビリは2日目……せめて一週間はかけないと筋肉がついてこないって医者に言われたはず」

「そうかもしれないが……状況が許してくれない気がするからな」



アキトは焦っていた、状況が動くのが早すぎる、ここ半年の間はゆっくりだったものがたったの数日でこのザマだ。

管理局はアースラを送り出し、敵は出現し、こちらは準備が間に合わず、自分とリニスがやられた。

このままでは敵と管理局の一騎打ちになってしまう。

そうなれば、こちらは介入することもできず話は終わる。

管理局が被害を出さずに終えればそれも悪くはないが今後のためにはよくない。

逆に被害が出た場合、管理局は現場の判断で出来るだけ被害を小さくし救助を行うだろう。

しかし、それは同時に魔法世界に対しこの世界は全く無防備であることの証明でもある。

損害賠償をすることもできないし、自然災害と同じように通り過ぎるのを待つことしかできない。

ということは同時に、それは管理世界にとってこの世界が人間のいる世界と認知されないということでもある。

この世界にとっては二重の意味で侮辱であり不幸でもある。



「できれば穏便にすませたいが……」

「でも、無力と認識されるから無視されていた事も気をつけないといけない」

「そうだな。極論、認めさせた後戦争になる可能性もある」

「どうすればいい?」

「俺も外交なんてやった事はない……俺のやり方はアカツキやエリナのものの受け売りだからな」

「でも……」

「始めてしまった責任がある……管理局に認めさせて、その上で通商条約や不戦条約を結べる程度まではやってみせないとな」



アキトは門外漢だった、外交どころか組織そのものについても疎かった、しかし、復讐を誓ったときから利用する術を学んだ。

アカツキを使い、エリナやイネスを巻き込んで自分の専用機を用意させもした。

正直、ブラックサレナは何度も破壊され改修を繰り返していたし、ユーチャリスなどは戦艦なのだ、

いくら実験の何のと言っても景気良く破壊されれば会社の運営に支障が出る、何よりあの頃はネルガルは戦犯扱いで落ち目だった。

その上でアカツキはよくやっていたし、エリナやイネスもよく働いた、アキトもその中でかなりの技術を覚えもした。

とはいえ、まだで出来る事は多くない、うまくコネを作り他の人を利用しなければ成り立たないだろう。



「そういう意味では、運が良かったのか悪かったのか……」

「私はアキトがしたいことに従う、それは変わらない」

「ああ、ありがとう……さて、そろそろ会談の時間だな」

「うん」



そう、ここは月村家ではなかった、料亭の裏庭にすぎない場所。

会談までの時間を無駄にしないためにアキトは歩く訓練をしていたのだ。

そして、会談の場に招待された人物の説得、それは忍を交えずに行うつもりであった。

理由はいくつかあるが、月村重工の使者ではなくテンカワ・アキト個人として会談をする必要を感じたからであった……。

それは、アキトにとって切り札となりえるカードだ。

他の誰にも切らせるつもりはなかった。

だが同時に後ろ盾のない状態で会うことのリスクも大きいことは理解していた……。

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■作者からのメッセージ
深夜に投稿します。
しばらくは錯綜する人間模様ということになるでしょうか。
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