「あいつは……なんであんな事を……」
チンクは拷問を受けるだろうとばかり思っていた、もちろん核心をしゃべるつもりはない。
しかし、場合によっては博士に施されたマインドコントロールが発動して発狂するか、自殺を選ぶような状況になっても仕方無い。
彼女は彼女の大切なものを守るためとはいえ、罪を犯してきた事は自覚していた。
だが、数日前に言われた一言が心にとげのように刺さっていた。
彼女は回想する、そのあまりにもおかしな話に関して……。
「元気そうだな、囚人28号」
「28号って、なんかロボットの名前みたいだからやめてくれ」
「ならば名前を教えてくれないか? そもそも、ここは厚生施設でもなければ収容施設でもない。
一時拘留を目的とした留置所にすぎない、出来れば早く出て行って欲しいものだ」
「情報を吐き出してから、だろ?」
「否定はしないな……」
その時彼女の前に現れたのが課長のテンカワ・アキトである事は、何度か戦った身であるチンクには分かり切ったことだ。
テンカワ・アキトは少将の飾りのついた連盟の軍服を着込み、彼女の眼の前に立っている。
チンクはベッドの上に座り込んで睨みつけるように一つだけの目で見上げる。
「やめておけ、私は何も吐かないし、殺されても何も変わらん」
「そうか、だが最近はお前も疑問に思っている事があるんじゃないか?」
「何をだ!?」
「スカリエッティの目標は俺達も大体把握している、究極の生命だったか、神のようなものだろうな。
それを作り出すことを目的にしているのだろう?」
「……」
「お前たちはその途中の段階で出来たいわゆるテストタイプ。それも手足として使う戦闘機人としてのだろう」
「否定は……しない」
「こう言っては何だが、奴は俺から得たデータを元にボソンジャンプを使ったいろいろな人体強化案を行っている」
「……」
「つまりは、次のステップに移っているという事だ。それも、恐らくもう最終段階まで来ている」
「そうだ、お前たちでは到達できない領域までもう来ている」
「だが、その後はどうするつもりだ?」
そう言われてチンクは目を見開く。
考えないわけではなかった、博士は究極の生命を生み出すためだけに全精力を注いでいる。
恐らくは、その難事業には凄まじく長い時間がかかるだろうと皆考えていた。
しかし、このところ博士はその研究を飛躍的に進めてしまっている。
その結果、究極の生命が生まれれば、自分たちの役目も終わる。
だが、役目が終わった後の事など全く考えていなかった。
「……」
「恐らく奴は今の研究に全てを注いでいる。終わった後のことなど考えてもいないだろう。
当然お前たちがどうなろうと知ったことではないだろうな」
「博士のためならそれも仕方無い……」
「……それならばいい、感情があるようだったのでな、一応聞いてみたんだ。邪魔をしたな」
テンカワ・アキトとはその一回の話し合いのみであり、それ以後は誰も話しかけてこなくなった。
情報を渡すような事態にならずに済んでほっとしているお同時に、どうにもおかしいと考えてもいた。
この留置所はチンクを逃さないためだろう、重力による結界を施されている。
むこうで博士達が使ったのだろうボソンジャンプを警戒してのことだ、
ボソンジャンプをするにはボソンフェルミオン変換が必要になる。
高重力下では人の情報を持つボソンが発生重力のボソンと干渉してしまい欠損する可能性が高いのだ。
つまり、あまりに高重力の場所を通るのはボソンジャンプといえど自殺に等しいといえる。
そのため、それを使った脱出は諦めねばならなかった。
これだけ厳重に防衛しているのだ、よほど彼女から情報を聞き出したいのだろう。
だが同時に、そんな風に自分の先を心配したものなどいない。
将来……博士が究極の生命を作り出した時、自分たちは必要とされるのだろうか。
「戦闘機人たる私が……迷っているというのか……」
見た目は兎も角、頭脳は大人だ、人を殺した事もある。
今は能力を封じられているが、完璧というわけではない、後一週間もすれば脱出の準備が整う。
冷静で、仲間を重んじる、それがチンクのほぼすべてであると言っていい。
しかし、仲間を重んじるなら、確かにアキトの言うとおりお払い箱にされる可能性。
いや場合によっては消滅させられる可能性すらある。
そんな状況下に姉妹達をいつまでも置いておいていいのか?
それは、スカリエッティという男への反逆という事につながりかねない、自己矛盾に頭が痛くなってくるのを彼女は感じていた。
「主!? 主アキトは無事ですか!?」
「落ち着きなさい、マスターが無事なことは私たち自身が無事であることからわかるでしょう」
「それはそうですが……」
今、司令室にはアキト以外の六課の主要メンバーがほとんど集まっていた。
その理由は簡単だ、管理局の最高評議会が襲撃され、評議員が全員死亡したというものである。
犯人はまだ誰か分かっていないらしいが、最高評議会に会いに行ったアキトが疑われている事はほぼ間違いないだろう。
アキトが短慮に相手を殺すような真似をするとはここにいる全員が考えていなかったが、はめられた可能性は否定できない。
何故ならこれを理由に連盟と管理局の戦争に持ち込めば得をする者がかなりいるだろう事は分かり切っていたからだ。
「まあ、そういうことや。アキトさんが無事なことはわかっとる。恐らくは管理局の本局あたりで足止めくってるはず。
逮捕されたとか言われてへんという事は、今のところ管理局の手に落ちたわけやないということやね」
「ですが主……このままでは捕まるのも時間の問題でしょう。
それに、どうにか課長殿が帰ってきたら事情と共に潔白は表明されるかもしれませんが、全面戦争の可能性も否定できません」
はやてが安心させるためだろうできるだけ明るい材料を並べるのに対し、シグナムは今後の動きの方を心配している。
実際、管理局の上層部が軒並みいなくなったのだ、次の動きは非常に読みにくいものとなるだろう。
「それで、私達はどうすればいいの?
アキトさんを救出に行きたいところだけど、それが引き金になっても目も当てられないし」
「義父さん救出は行うとしても、その前にはっきりしておかなくてはならない事もあると思います」
「はっきりって……ああ、私たちの立場ね……」
なのはとフェイトの話はつまり、六課にいる管理局の魔導師達の問題である。
場合によっては出向取り消しという事になり管理局へ戻る必要が出てくる。
そうなれば、敵対する可能性もあるという事だ。
「そうだね、私個人としては敵対したくない……けども、管理局の動き次第では……」
「ちょっと待ってなのはちゃん」
「……すずかちゃん?」
「前々から聞こうと思ってたんだけど、貴方が命を犠牲にしかけてまで管理局に尽くすのは何のため?」
「ええっと、管理局が沢山の人を救う組織だって信じてるから……かな」
「自信なさそうだね……そうだよね、だんだん上層部が裏でしていたことが明らかになってきているもんね」
「何がいいたいの?」
「なのはちゃんももしかして体制を変えたくない側にいっちゃったのかなって思うとさびしくてね」
「……」
そう、管理局によって沢山の人たちが救われてきたのは事実、しかし、逆に虐げられる人たちがいるのも事実だった。
なのははそんな中で頑張ろうと、正義を貫こうと努力してきた。
しかし、管理局は大きすぎ、神経末端に至るまで物事を徹底させるのは難しい。
これは組織構造によるところが大きく、管理局というのは上からの命令は絶対だが、それ以外は裁量に任されるところが多い。
その裁量が曲者で、管理局からはじき出されたときや権力闘争のために秘密裏に動く国も多いのだ。
それらは、管理局の名を持つゆえに一般には対抗するすべもなく、泣きねいりせねばならない事も多い。
「だから、なのはちゃんは連盟に参加してくれるとばかり思っていたんですよ?」
「それは……」
連盟の理念は、強大な管理局という組織に押しつぶされないようにするため、
また、管理局を必要とせず治安を行うため作り出された組織だ。
管理局が中央集権に近い構造を持つのに対し、連盟は基本的にそれぞれの国家の合意を持って動く。
つまりは、連盟は民主主義に近い権利構造となっている。
日本に生まれた人間ならば、確かに管理局よりも連盟のほうが近しいと考えるのに不思議はない。
ただ、確かにまだ連携が取れているとは言い難く、なかには自国がリーダーシップをとるために巨大になろうとしている国もある。
同じ構図が起こりうる可能性は否定はされない、ただし、他の国々もそういった国には目を光らせているため、
抑止力は常に国家同士の牽制という形で行われている。
逆にそのために力をつけようとしている国もないとはいえないが。
どちらにしろ、すずかはこう言っているのだ、なのはの正義は強大な組織におもねって下されるものなのかと。
それは、なのはにとっては思わぬ打撃だった。
たくさんの悲しみを止め、皆を笑顔にするために頑張ってきたつもりだった。
しかし、すずかはそれは管理局におんぶだっこになっているのではないか、と否定してきたのだ。
管理局内部の悪を裁く事は出来ないのではないかと。
それは、痛い事実ではあるが、確かにその通りだった。
連盟ならば、格国家が問題を起こせばそれに対する制裁を与える措置は存在する。
しかし、管理局は上層部を査察する方法も罰則も存在していなかった。
そもそも、なのはは管理局上層部がどんなものか考えもしなかったのだ。
目の前の人たちを救うということ、そしてそのために新兵を鍛えること、それ以上は考えもしなかった。
それは正義ではあるが、同時に管理局という組織内部でのみ通用するものだったのだ。
「……でも、今までやってきた事を否定することなんて……」
「別に否定しろなんて言ってないよ。ただ、誰がどんな意思を働かせているか、それを考えないで先に進むのは駄目だよ」
「わかった。もう少し考えてみるね」
「うん♪」
それにしてもすずかは最近物おじしなくなったなぁと感心するなのはだった。
そんな言葉も交わしながら、各々この先に起こる事を予想して動く為に会議を続ける。
なぜなら、世界一つではなく100近い次元を巻き込んだ巨大な動きに対応しなくてはならないからだ。
いくら強力な魔導師だろうと、軍隊だろうと、一度動き出してしまえば止める術はない。
だから彼女らの話し合いは当然のごとく未然に防ぐためのものばかりになっていた。
「では、結論としては。アキトさんが帰ってきたらまた相談する部分もあるにしても、
基本は連盟が活動するのを自粛する方向でいくしかないやろね」
「といっても、今レリック事件も他の大きな事件もないのでそれほど問題ないと思います」
「仕方ありませんね、スカリエッティ達のもくろみに乗るようで癪ではありますが、
主の言う以上の策はないように思えます」
「捜索活動に関しては、できるだけ管理局管轄内では動かないこと。
管理局員との衝突がおこりそうな場合は、余裕があれば政治まで手が回る者に聞くこと、無ければできるだけ回避すること。
仕掛けられた場合でも、よほどの事がない場合は逃げてでも戦闘を回避すること。
今六課に出来る事はそれくらいや、慎重に動くように」
「「「「「了解しました」」」」」
実質的に決まったのはその程度であり、はやて自身まだ不安の残る状態だった。
連盟に相談せずに動いたことがかなり裏目に出ていると感じてはいたものの、今それを口に出すわけにもいかず、
眉間のしわをアリシアにつつかれるまでやぶにらみのような眼で考え込んでいた。
「駄目だよ。リーダーであるあなたがそんなしかめっ面してちゃ」
「うっ、わかってるんやけどね……」
「大丈夫ですよ。マイスターはやて、帰ってきたらテンカワさんをぶっとばしてやりましょう!」
「今は義父さんを信じよう。そして打てるだけの手を打っておくしかないよ」
「うん、そやな……失敗したらごめんて言うたらええか」
「そうそう、できないことをしろなんて誰も言わないから」
二人はにこりと笑い、その場にそぐわない、しかし、心が温まるような雰囲気を作り出す。
そして、ここにいる全員が、いつもこうであるために頑張る必要があると再確認することとなった。
「そうか、切り捨てちゃったか……まあ仕方ないね……でもそうなると計画を前倒しする必要が出てくるね」
『申し訳ありません博士……、しかし、現状彼らを生かしておくメリットがなくなっていたのも事実です』
「確かにね、彼に責任をかぶせる方はまだうまくいったとは言えないけど、時間稼ぎには使えるだろう。
僕にとっては問題ない範囲だよ」
『ありがとうございます』
「時間があれば連盟のほうも切り崩しをしたいところだけど、そこまでは難しいし、適度に情報収集したら戻っておいで」
『了解しました』
ここはスカリエッティの新たなアジト、究極の生命の最終的な研究を行うために作ったアジトだった。
耐久性、隠密性が高い事にかけては他のアジトと比較にならない。
ここは彼の研究の集大成といってもよかった。
「さて、ルーテシアの様子はどうだい?」
「はい、比較的安定しています。やはりゼストを取り戻したのが効いたのかと」
「うん、それは良かった。でも流石に今後もパートナーをさせるわけにはいかないよね。
体もボロボロだし、誰かいい子はいるかい?」
「とりあえずプレシアに預けています。彼女は……」
「なるほど、なら暫くは安心だね。両方の精神安定にもなるだろう」
「はい」
ウーノはいつものように秘書然としてスカリエッティの背後に控えいろいろな指示をナンバーズなどに伝えていく。
スカリエッティは気が向いたこと以外直接指示はしない、そういう陰謀は研究のオマケ程度にしか考えていないからだ。
実際研究は大詰めが近づいていた、このままいけばかなりのスピードで最終段階まで到達できるだろう。
「さて、北辰君いるかい?」
返事なのだろうか、スカリエッティが声をかけると、シャランと高い音色が鳴り響く、錫杖を打ち鳴らした音だ。
ウーノはその音に驚く、彼女の視界にも、警備のセンサーにも引っかからず一番奥にあるこの指令室にやってくる事など、
戦闘機人でも不可能に近い。
それを簡単にやってのけるこの男に冷や汗をかく、そしてこの男がスカリエッティに仕えているわけではない事を知るゆえに、
いつも警戒を怠ってはいないはずだが、それでも簡単に出入りされてしまう。
ボソンジャンプだとしても、最近はボソン反応を捕える装置が出来ているのだ、その計器すら反応を見せていない。
つまり、彼は普通に歩いて彼女らの前に来た事になる。
「君にお願いしたいのは過去への扉を開くことだよ」
「過去への跳躍はかなり不安定だが?」
「安定させるのは僕の仕事さ。この計画を完成させるためには古代アルハザードの技術は欠かせないしね」
「いつの時代か、どこにあったのかすらわからぬでは跳躍出来ぬが?」
「その辺りも調査済みさ」
「ふむ、ではいつでも構わぬ」
「そうこなくっちゃ」
スカリエッティはどこか子供のように楽しそうな声で話す。
しかし、危険度の高さは折り紙つきだ、
過去へのジャンプ、それも古代の上イメージは機械任せとなる以上、失敗の事は常に考えておかないといけない。
それゆえウーノは
「アルハザードへ行くのは私ではダメなのでしょうか?」
「うん、どうしてだい?」
「危険すぎます。失敗してもフォローの仕様がない。それに、下手をすれば存在が消滅する可能性すら」
「ああ、そういえばそうだね……でもさ、今回の事が失敗するようなら僕もそれまでだったという事さ」
「そんな気弱な事を……博士は例えアルハザードへ行かずともいずれ自ら研究を完成させることができます」
「そうだとよかったんだけどね……。僕は少しばかり敵に回しちゃいけない相手を敵にしちゃったようだ」
「どういう……」
「あまり時間がないという事さ。だから、今しかアルハザードへ渡る事は出来ない」
「……分かりません、博士の言う事が……」
「さあね、僕は別に預言者じゃない。でも、デジタルな考え方に関しては恐らく君達よりも優れているよ」
「ならば」
「だからこそ、僕が行く必要がある」
「……わかりました、しかし、せめて護衛として私も付いて行かせていただきます」
「わかったよ」
スカリエッティは頑ななウーノに対しどこか疲れたように微笑む。
事実として、研究のために自分の命を危険にさらす研究者は少ない、
究極の生命を生み出すために生まれてきたスカリエッティだからこそではある。
しかし、ウーノの目には早く自分というものを終わらせたがっているという風に見えて仕方なかった……。
「ついに、予言に書かれていたことが実現してしまいました……」
聖王教会自治領にある湖畔に一人の女性がたたずんでいる。
背後には畏まった姿のままもう一人、やはり女性のようだった。
湖畔にたたずむ女性の名はカリム・グラシア、管理局でも少将の肩書を持つ聖王教会の騎士だ。
背後で畏まる女性はシャッハ・ヌエラ、かなりの武闘派で知られた女性ではあるが、地位的にはシスターの階級である。
「予言の詩篇では続いて新たなる王の出現を歌っています」
「はい……吉兆であるのか凶兆であるのかまだわかりませんが……」
「管理局の世界が終るのか、それとも解釈自体が違うのかすら私にもわかりません……しかし」
「はい、連盟の召集がかかりました、場合によっては管理局との全面戦争もありうると」
二人は視線を交わしてはいないが、それでも緊張感が漂っている事は分かる。
しかし、カリムは一息ついてから、どこかものうげな表情で言う。
「分かっています。急がねばなりませんね……。ですが、まだ……カギとなるものが揃っていない」
「カギですか?」
「これは私のカンですけどね」
「はぁ……」
最後に少しだけいたずらっ子のように微笑んだカリムにシャッハはどう対応していいかわからず少し呆れる。
だが、カリムのカンは全く根拠のないものではない、
詩篇などを解釈ばかりしていると、何を目的としたものかある程度よそくできる。
そもそも、そういう能力がないなら聖王教会でも地位は築けなかったろう。
それゆえ軽く流す事も出来ず。カリムは一人考えるためここに来ていたのだ。
しかし、それも最後。今後は怒涛の勢いで周りが動いていくことになるだろうから……。
「あらあら、えらくあわただしいわね。テンカワ代表? それとも今は課長というべきかしら」
「リンディ総務統括官、あなたを信頼して頼みたい事がある」
リンディは現在戦線を遠のき、本局で総務統括官、つまりは雑務の代表のような事をしている……。
最も雑務といえど、何せ何億人という”うみ”の人員全ての雑務の統括だ。
日本の政府予算に匹敵するほどの金を左右する役職ではある。
しかし、派手さは全くなく、軍務に関連することへの口出し権限はほとんどない。
提督として名をはせたリンディに対してであるから、閑職といってもいい人事ではあった。
だが、リンディは特に悲観した様子もなくいつもの角砂糖を入れたお茶を飲んでいる。
そして、俺とヴィータを見てほんわりと言った。
「理由話してくださいますか?」
俺は承諾し、おおよその経緯を話す。
元は隠すべきだ思っていた事情だがこの状況では話すしかない。
様子を探りに、出来れば交渉をするべくやってきたとはいえ、
結果的にこうなってしまった以上罪を被るなら俺一人になるようにしなければならない。
幸い、連盟には相談していない、全員が口をつぐめばそれは成立する。
「そうですか、最高評議会に会おうとしたんですね……」
「ああ……まさか、脳だけになって生きているとは思わなかったが」
「私たち一部の将官には噂程度は流れていましたが、私も一度も拝見した事はなかったです」
「……おそらく、相手は罪を俺にかぶせてくるだろう。しかし、連盟に迷惑はかけられない」
「全面戦争は確かに避けたいですね……分かりました、私も少しお手伝いさせていただきます」
「構わないのか?」
「今回のあなたのやり方は強引過ぎでしたが、戦争を回避するためにもつかまってもらっては困りますから」
リンディの言っている事は明白だ。
俺という人間によって戦争が起こることを避けるために協力すると。
確かに殺されても文句は言えない状況なのだ、そこまで考えてくれただけでありがたい。
「ですが、状況は厳しいと言わざるを得ませんね。
丁度今警戒線の通達が来たところですが、使える扉は軒並み封鎖されています」
「最悪、目立たないなら宇宙へ放り出されても文句は言わないが……」
「警戒網にかかるだけでしょうね、探知用魔法には地球のレーダーと似たようなものがありますから」
「……」
「ボソンジャンプで逃げられないのですか?」
「1km範囲内でしか使えないからな……」
「そうですか」
リンディは困ったという顔をする。
実は1km以上でもボソンジャンプは可能だ、
しかし、正確さが落ちてしまい壁の中や太陽の中などにボソンアウトしてしまう可能性がある。
できれば、そんな一か八かの賭けは一人でいる時だけにしたい。
ヴィータも巻き込んでしまう事を考えると口に出すことはできなかった。
「アタシが捕まるってのは……どうだ?」
「却下ね、貴方達二人のうちどちらが捕まっても同じ事、開戦の口実になってしまう可能性が高い。
特に連盟の方は管理局に対しうっぷんがたまっているでしょうしね」
「そりゃそうか……」
実際問題としてここから脱出できない事には八方塞がりなのだ。
弁明の機会も、戦争抑止も、真犯人の公開も含め全てはここから脱出できてからの事。
『どうも、ヴェロッサです。皆さんいますかー?』
「え……ヴェロッサくん?」
『そうです、カリムの義弟、ヴェロッサ・アコースです。義姉の命により脱出経路の配達にまいりました』
「ぶっ!?」
「なんつータイムリーな……」
「いや、恐らく……」
「能力による予知……そこまで分かるものかしら?」
リンディは警戒心を解いてはいないが、俺はおおよそ分かった。
カリムは既にここまで読んで手を打っていた、恐らく前に俺と同行したときの性格から把握したのか、
詩篇の読み取りと並行して個人の動きも追うというのは並みの頭ではない、正直うすら寒さを覚えた。
だが、ぐずぐずしている暇はないのも事実、俺はリンディに頼んでヴェロッサを部屋に招き入れてもらう事にした……。