「ここが……」
「スカリエッティのアジト……」
俺達は、特にフェイトとすずかは世代的なものもあるだろう絶句していた。
スカリエッティのアジトを前に絶句する、人の住まない惑星に鎮座したそのアジトは、
まるで昔見たアニメ、ゲキガンガーのボスが使っていたような、鬼の顔をした城。
この年になってみると恥ずかしい限りではあるが、そんなものを堂々と使っているあたりスカリエッティは確信犯なのだろう。
面白がってケラケラ笑っている奴の顔が目に浮かぶ。
俺は努めて冷静を装い、そのままアジトの中へ入って行った。
「がらんとしてる……」
「トラップなんかも見当たりません」
「恐らくは、もう必要ないという事だろうな」
「それって……」
「まだそうとは限らないが、覚悟だけはしておいたほうがいい」
「(コクリ)」
そう、恐らく究極の生命は完成一歩手前まで来ているのだろう、完成していれば既に世に出ているだろうから。
それがないなら、まだ完成してはいないはず。
とはいえ、ギリギリのラインだ。
皆は飛行の魔法を使って加速し、俺はリインフォースに抱えてもらう格好になっている。
アジト内はかなり広い構造だったが、戦力をほとんど出しきったせいだろう、今やガランとしているだけでなにもない。
「こういうのって、落ち着かないですね……、待ちかまえられてるみたいで」
「すずか、大丈夫だよ……みんなは私が守るから」
「フェイトちゃん……」
「あまり気を張りすぎてはいけません、決戦となれば、我ら全ての力が必要になるでしょうから」
「そうですね……」
「それにそういうときのための、パワードスーツ部隊でもある」
『『『まかせてください!』』』
パワードスーツ部隊と魔導師部隊、各一個小隊を連れてきている。
これは、もし究極の生命が生まれていた場合、力をつける前に仕留めるためだ。
そのための兵器も用意してはいる。
とはいえ、絶対の安心などありはしないが……。
「ここか?」
大きなドーム状の部屋、周辺には沢山の培養層が存在している。
とはいえ、中身が入っているのは2つだけで、残りは全て空のようだった。
俺はとっさに培養層を破壊すべく懐から銃を抜き出し連射する。
フェイトやすずか、魔導師部隊、パワードスーツ部隊などが皆連携を取って攻撃をぶつける。
そもそもの目的は奴の研究を御破算にすること、そうすれば奴もすぐに計画を復活させる事は出来ないだろう。
そうでなければ、ナンバーズ達が今までわざわざ時間を稼いできた意味が通らない。
「消えろ!!」
「消されては困るなぁ……」
「ッ!?」
攻撃が一通り終了したとき、2つの培養層の前には、携帯用DFを展開し北辰とその後ろに自身満々に立つスカリエッティがいた。
そう、余裕の笑み、それは奴がいつも浮かべている、腹が立つ話だが確かに奴は俺より頭の回転が速い。
今まで俺達が何度追いつめても逃げ切られてしまうのだからその差は推して知るべしだ。
「ふふふ、まさか君達が既にここまで来ているとはね。
驚きを隠せないよ、まさか僕の予想を超えてくるなんてね。
究極の生命誕生の瞬間に居合わせることはないだろうと思っていたけど……」
「ぬかせ! 誕生などさせるか!!」
俺達が続けた飽和攻撃が意味がない以上、俺はジャンプイメージを展開し、10mほどボソンジャンプ。
声に出すというのはあくまでイメージを固めるための作業にすぎない。
キーは通常C・Cであるのだが、演算ユニットと同化した俺には必要ない。
当然相手に気づかれたころには既にジャンプは終了しており、袈裟切りにスカリエッティを切り倒す。
「携帯用のDFは任意の方向にしか発生させられない」
「流石……だね……」
スカリエッティはそれでもニヤリと笑う。
ホクシンは俺に気づいており既に攻撃を開始している。
俺はボソンジャンプを使って後方の空間をくりぬき、ホクシンにぶち当てる。
「これは……まさか!?」
「培養層をくりぬいた、貴様は俺と同じらしいから直接は関与できないが、このくらいはな」
「きっ、貴様ッ!!」
「遅かりし復讐者、だったか、そっくり返すぞ北辰ッ!!」
俺はこれを成功させた事で安心していた、北進は強敵だが、もう究極の生命やスカリエッティは相手にせずに済むと。
しかし、それが間違いだった事にすぐに気付いた……。
なぜなら、死体となったはずのスカリエッティの上に肉塊が移動していくのが見えたからだ。
「ッ!?」
「ッ!?」
絶句したのは俺だけではなかったらしい、北進もまた息をのんでいた。
俺達が見たのは、肉塊がスカリエッティをのみこみ、人の形をとるというありえないものだった。
その姿は一瞬で形成され、見覚えのある人物を形作る……。
「草壁!?」
「閣下!?」
起き上ったのはまさに草壁春樹、そう元木連中将にして、火星の後継者のリーダー。
もっとも、裸のためさほど威厳はないうえ若すぎる気はするが。
元々の彼の行動を思えば今なぜここにいるのか、それすら分からない、しかし、一つだけわかる。
これはやばい……。
「ジャンプ」
俺はとっさに、奴らから離れ、すずか達のいるところまで戻っていた。
すずかやフェイトが心配そうに俺を見る。
俺は首を縦に振って心配ない事を示す。
しかし、目の前の状況はそんな事を許してはくれない。
「草壁閣下……ご復活おめでとうございます」
「ああ……清々しい気分だよ。山崎君には悪い事をしたが、今や彼は私の血肉となり力となってくれている」
「それは……」
「何、さしたる能力ではない。他者を吸収し優秀な部分を引き継ぐというのは昔からよくあったことらしい。
彼は私の知識を補ってくれている」
「それはつまり……」
「ああ、分かってくれるかね?」
「ご存念のままに」
言い終わると同時に北辰は草壁を手で触れると北進は吸収され草壁の中に消えた。
他者を吸収する能力……強大だが行使すること自体人間の神経では無理だろう……。
この草壁は既に壊れている……。
「さて次は……」
草壁の視線はどうやら、もう一つの培養層のほうへと向かっている。
俺は今しかないと悟った、少なくとも現時点において他にアレに対抗できる装備はない。
奴の言う事が正しければボソンジャンプを行う事が出来、北進の身体能力を持ち、
そしてスカリエッティの知識と自らの頭脳を持つという事だ。
しっかり、携帯用DF発生装置も装備している。
その上吸収すればするほど強くなり、肉片からも再生するとなると、手がつけられない。
「くそっ……パワードスーツ部隊及び魔導師部隊展開! すずか、いけるか!?」
「はい!」
「フェイト、リインフォース、接触しないように時間を稼いでくれ!」
「分かりました義父さん」
「主アキトの望みのままに」
リインフォースとフェイトが遠距離からの魔法を連発する、ジャンプする時間を与えればこちらが負ける。
それ故、二人の弾幕は今までにないほどに過激になっていた。
普通ならここを破壊してもおかしくないレベルの……。
そう、このアジトは異常なまでに強度のある作りをしている……。
「パワードスーツ部隊、バックパックパージ」
『『『パージ!!』』』
24人分のバックパックがパージされ、積み重なる。
そして、バックパックは一つの大きな箱状に組みあがった。
「続いて、魔導師部隊、魔力注入、いけるか?」
「「「了解しました!!」」」
24人がそれぞれ箱を取り出すと魔力を注入し始める。
魔力が一定量たまるとそれらはバックパックと同じ大きさとなり、バックパックの箱と同じように自走して積み重なる。
そして、バックパックの箱と魔力の箱はそれぞれ24個が一つの巨大な箱となり、その箱からは人が持ち上げるべき柄が出ていた。
しかし、巨大さから考えると普通は持ち上げられはしない。
もっとも、彼女を除けばだが。
「動力槌、魔力槌確保……ではいきます」
「ああ、頼む」
すずかは、両方の巨大な槌を軽々とそれぞれ片手で持ち上げると、
魔力槌に魔力を、動力槌には重力波エネルギーをそれぞれつぎ込む。
そして、2つの槌は彼女の頭上で一つになる。
彼女の周囲から、すさまじいまでのエネルギーの奔流が発生し始めた。
「フェイト、リインフォース!」
「!」
「はい!」
二人は飛びずさって距離をあけ、すずかの道を作る。
その道には魔力エネルギーと重力波エネルギーを無理やりスパークさせた事による反発が発生しており、
草壁もその中に囚われている。
ボソンジャンプなど行おうものなら、この次元から弾き飛ばされ遠い亜空間辺りまで行ってしまうだろう。
そして、すずかは告げる。
「おとなしくしてくださいと言いたいところですが、貴方からそういう譲歩を引き出せるとは思えません」
「ふむ、交渉の余地なしという訳か」
「貴方の存在を消滅させます」
「それは困るな」
草壁はまだ余裕があるように見える、しかし、今はこの手段以外に手はない。
草壁の精神性を攻める方向もあるだろうが、それを行うには時間がなさすぎた。
俺がうなずくと、すずかも覚悟を決める。
「グラビティショックウェーブ!!」
すずかが槌を一振りしただけで空間がひしゃげ、草壁はぶっ飛んで背後の壁にめり込む。
ただめり込んだだけではなく、重力と魔力の鎖が草壁を縫い止めていた。
そしてそこに、すずかが滑るように走って行く。
「インパクトクラッシャー!!!」
その掛け声と同時に、巨大な槌を、そうヴィータのギガントシュラークと同等の大きさ、そして2つの力を兼ね備えた破壊の権化。
2つのエネルギーがスパークすることによって、ごくごく一部に重力崩壊を引き起こす。
マイクロブラックホールと言っていいその力は全てインパクトポイントに還元される仕組みだ。
あまりに強力であるため、忍もすずかに装備させる事を渋っていたが、この場面で他に手があるとは思えない。
その効果は、展開された結界内を荒れ狂い、すずかの前方半径50mの空間を完全な無へと変換した。
「使わせておいて何だが、すさまじい威力だな……」
「はい……」
すずか自身その力に呆然としていた。
何もなくなってしまったその空間を、俺達は後にした……。
魔力による検査や、視認、機械によるサーチにはなにもひっかからなかったのだ。
もちろん警戒を怠るつもりはなかった、だが人員を残していざという時狙われるのも意味がない。
無人のサーチャーを置けるだけおいて一度本部に戻ることになった。
イネスの保護に成功したという話でもある、俺としても興味は尽きない。
ただ、やはり一抹の不安はあった。
この程度で究極というには少し弱いのではないかと。
しかし、その時俺はまだ気づいていなかった、相手が究極本当の意味での生命である事実に。
そう、俺は彼らから奪った能力が全てだと考えていたのだった……。
なのは達は、ヴィヴィオの攻勢を前に、二の足を踏んでいた。
彼女が洗脳されている事は明らかだが、一体どういう方法で洗脳されたのか、どういう方法でとけばいいのかがわからないのだ。
ただ、短期間で洗脳したのは間違いないので解く方法もあるはずではあった。
しかし、このままでは彼女の部下達に被害が出かねない。
なのはは唇をかみつつ、思索を巡らせる、どちらにしろ他に方法がないならやるしかないのだと。
「ヴィヴィオ、ちょっとだけ痛いの我慢できる?」
「アアッ、敵っ!!」
「ごめんね……」
殴りかかってくるヴィヴィオとそれを守護するように出現するガジェット。
そして本当に彼女の意思で操っているのか疑わしい魔法。
3つをいなしながら、ヴィヴィオに語りかけるなのは。
魔法による洗脳である確率が高いと踏んだなのはは、ヴィヴィオを救う方法を魔力ダメージによる、洗脳魔法消去を選択した。
もちろん、ゆりかごからヴィヴィオに送り込まれている魔力の流れを見て判断した事でもある。
あながち的外れでもないはずだ。
「魔導師部隊は、一斉にバインドを、パワードスーツ部隊は電磁ネットを使用してください」
「電磁ネットは完全非殺傷とはいきませんが?」
「もちろん後で一生懸命看病します」
「分かりました、ヴィヴィオお嬢さんが頑丈な事を祈りますよ」
「にゃははは……あんまり頑丈でも困るんですけど」
「それは違いない」
軽口を交わしながら、ヴィヴィオの相手をしているなのは達をクアットロは不思議そうに見ていた。
何故?
この状況では彼女らの性格から聖王を傷つけたりはしないと考えていた、
いざとなれば分からないが少なくとも進んでするタイプではないと考えていたからだ。
事実最初はなのはも取り乱していたし、部隊も混乱しかけていた。
しかし、いつの間にか冷静さを取り戻したなのはは、今や隊員と軽口を交わすほどになっている。
聖王は脅威ではないと認識されたのか?
違う、現に彼女らは今も無数とも言えるか擦り傷を負い、中には軽傷とは呼べないレベルの傷を負っている者もいる。
このまま戦えば、ヴィヴィオの無尽蔵の魔力にじり貧となるのは確実だ。
だがその割には余裕がある。
クアットロはなのは達に何か得体のしれないものを見ていた。
「拘束は完了しました」
「とはいえ、これだと……20秒がいいところですかね?」
「十分です。出来るだけ離れていてくださいね、ブラスタービット射出!」
「全員退避!!! 隊長がアレを使うぞ!!」
「「「「ヒィィ!?」」」」
「もう、なんだかな……」
なのはは、いつの間にかある種の人気者になっている自分に苦笑いをする。
そうしつつも、魔力を充填し始める。
放つのはもちろん、S+の魔法力を全て込めた非殺傷設定のスターライトブレイカー。
魔力ダメージは精神に直接届くので、後はヴィヴィオの防壁を突破できる出力になるかどうかだ。
「全力……全開! スターライトブレイカー!!」
ブラスタービットによって増幅されたそのスターライトブレイカーはヴィヴィオの体を直撃する。
しかし、彼女からあふれ出した魔力はスターライトブレイカーに拮抗し、侵入を妨げる。
「くぅ、流石……そのままじゃ勝てないか……。ブラスターモードリミット1、リリース!!」
そう、なのはは、この時点で限界を突破する事を選んだ、
ブラスターモードはブラスタービットからもスターライトブレイカーを放つことでその出力を増幅する。
リミット1ならまだしも2ともなると限界以上の魔力消費に対しリンカーコアにダメージが残る可能性がある。
それでもまだ粘るヴィヴィオを見てなのはは更に次を仕掛ける。
「ブラスターモードリミット2、リリース!!」
「隊長!? いくらなんでもそれは!?」
「確かアレって、リミット1までしか使うなって言ってなかったっけ……」
「隊長!?」
リミット2、もうここまでくれば出力だけならランクが上のはずのはやてと互角かそれ以上。
そしてそれはヴィヴィオも同じだったらしく、噴出する魔力すら吹き飛ばされそのまま壁に叩きつけられる。
なのはは血を吐き、命が削られかねないほどに消耗していたがそれでもスターライトブレイカーを維持し続けた。
それはヴィヴィオに対し、攻撃を加えるという痛みとともに、
「効果は……」
「なのは……敵」
「やっぱりそうか……」
「隊長……」
「もう一度拘束いける?」
「ええ、大丈夫ですけど……ヴィヴィオちゃん、いいんですか?」
「大丈夫、今は少なくとも今はそんなやわな子じゃないみたい」
なのはが視線をヴィヴィオに向けて言うと、隊員達はおぞけを振るった。
あのなのはの砲撃を、非殺傷設定とはいえ、ブラスターリミット2でくらったのだ。
それでいて傷などはまったく付いていない。
その上またゆりかごから魔力が供給されたようでみるみる回復していくのが分かった。
「でも、あんな状態の相手ですし、ブラスターモードでも足止めにしかならないのでは?」
「それでいいんだよ」
なのはは、にこりとして返す。
クアットロはその様子をモニターしつつ、ほぞを噛んでいた。
こちらのほうが有利なのは変わらない、今自分がいるのは箱舟の最深部、
ここにたどり着くためには無数のガジェットを相手にする必要があり、
また隔壁が何重にもロックされているから力押しでどうにかなる事はない。
だから、何度ヴィヴィオが打ち負かされようと、また魔力を注ぎこんでやればいい。
実際今ヴィヴィオはほぼ100%の状態まで回復したし、先ほどの戦闘を理解し、次は同じ事をする事はないはず。
その上、彼女の洗脳を解くには、ここにいる自分を、正確には箱舟の制御装置を破壊しなければならない。
事実上不可能であるはずだった。
しかし、何かひっかかる……。
彼女は自分の周囲をスキャンした。
「……え?」
「あら、もう見つかったんだ……背後を取るまで気づかれないかと思ってたんだけど」
「……ティアナ・ランスター……何故ここに?」
「だってさ、この前の借りを返してないじゃない?
管理局をあおって、戦争を引き起こそうとしてくれたおかげで私はなのは隊長に随分と……ね。
隊長のおはなしってさ……こわいよ?」
「どういう……?」
『見つけた』
「あっ」
クアットロが気付いた時はもう遅かった、ティアナは元々幻像を使う魔導師なのだ、ここにそれを送り込むくらい造作もない。
多分本体は隔壁の外にいる……そして、現在位置をなのはに送信したということか。
驚いている間にきちんと調べ対処して逃げていればこういう事にならなかったのだろうが……もう震えて動けない自分がいた。
そして……。
『ブラスターモードリミット3、スターライト、ブレイカー!!』
彼女の記憶は真っ白になった……。
……
…………
………………
「?」
……
…………
「……なんだ……ここは?」
それは、白い天井、寝ているのはベッド。
明らかに運び込まれ、治療されている。
「生きている……のか?」
「あら、もう起きてこられたんですね」
彼はふと近くに座る女医風の女性を見る。
見た事がある顔だ、それは彼にとって敵対者となっていたもののはず。
「ゼストさん、今の状況理解できます?」
「いや、悪いが……俺は死んだのではなかったのか?」
その質問は当然のものだった、あの状況ではどう考えても彼が助かる術はない。
肉体はほとんど機械、脳こそ残っていたが、魂を無理やりつなぎとめるために加工のような事すらされていたのだ。
これで生きていたら化け物か神の奇跡を受けたもののどちらかだけだろう。
そして、ゼストはそのどちらにも心当たりはなかった。
「貴方は確かに一度死にました。しかし、魂を加工していたのが逆によかったのかもしれませんね」
「逆に良かった?」
「アキトさんは人造の魂を感知し、取り込んで過去のデータから肉体を複製し、蘇らせる事が出来るんです」
「!? そんな事が出来るわけが……」
「できますよ。だって、貴方自身今の肉体に違和感がありますか?」
そう言われてゼストは肉体を動かしてみる、機械だったころの違和感も、
スカリエッティに無理やり復活させられてからの肉体が崩壊していく痛みもない。
それどころではない、全盛期の頃と変わらないほど肉体が充実しているのが分かる。
不思議に思って体をいろいろ点検してみるがおかしなところはどこにもなかった。
「これだけ見てもまだ信じるのは難しいな」
「幽霊になった実感がないでしょうから、当然かもしれないですね。
でも、リニスさんもリーンフォースも同じようにアキトさんに蘇らせてもらったんです」
「それは……」
死者、いや人造生命限定とはいえ、ほとんど神のような存在という事になるのではないか。
生き返らせてくれた事は感謝してもいいが、アキトに対しては恐れが先に立ちそうだった。
しかし、それも彼女達が現れるまでであったろうか。
「ゼスト……」
「ゼストの旦那!!!」
「お前達……」
ルーテシアとアギトが部屋に飛び込んできた。
アギトに至ってはゼストの胸に突撃し、跳ね返って膝の上に落下する始末。
アギトほど盛大ではないがルーテシアも走ってきたらしく息が上がっている、それに目もうるんでいるようだ。
「どういうことだ?」
「ごめん、あたしらも捕まっちゃった……けど、ゼストの旦那、改造されてからまともに口もきけた事なかったし。
もうあいつらの命令聞かなくてもいいんだよな!?
だったら、これでいいんじゃないかとも思ってる」
「でも……母さんが……」
「うーん、それは取り戻しに行かないとね……でも、だったら急いだほうがいいのかな?」
「どういう意味だ?」
「いや、あいつらアジトに突っ込んでいったみたいだから」
「何!?」
以前アキトと会った時は、戦闘だったのだが、最初の時はかなり裏に一物ある人間に思えた。
そして、彼とある契約を交わしたのだ、それはタイミング的に果たす事は出来なかったが、仕込みだけはしている。
出来ればその事は伝えたい。
同じスカリエッティの被害者として、そして恐らくは恩人として、次がなければならない。
しかし、このままではそれが叶うかどうか……。
「くそ、間が悪いな……」
「そうでもないわよ、恐らくね」
「?」
渋い顔をしていたゼストの前に、金髪碧眼の女性、ちょうど30歳ほどのお……いや、女性が立っていた。
彼女は、どちらかといえば表情はほとんどなく、どこかラピスやルーテシアと似た雰囲気を持っている。
しかし、それだけという事でもないはずだ、どちらかといえば受動的な彼女らとは違うものも持っているように見える。
だが、そんなことより、何か貫くべき意思を持っている、そう感じさせる目が印象的だった。
「報告を聞いた限りではそろそろアキト君達も帰ってくるらしいわね。
丁度いいわ、揃ったら全員を集めて説明しましょう」
「はぁ……」
ゼストは知らなかった、それが彼女の決め台詞だということを……。