「これがナデシコ艦隊……」
「全ての艦にグラビティブラストとディストーションフィールドが装備されています」
「俺もここまでの規模の艦隊が編成されているとは思っていなかったな……」
「貴方のせいでもあるんですよ。
私が組織した火星の後継者の残党狩りという名目のアキトさん捜索部隊のなれの果てなんですから」
「……何それ」
「冗談です」
「ははは……」
俺は乾いた笑いをこぼす。
なんというか、冗談に聞こえないんだが……。
ルリちゃん率いる(階級的にはミスマルのおじさんが率いている)ナデシコ艦隊が合流してきたのがほんの数分前、
合流後ナデシコYにユリカとルリちゃんが乗り込んできたのはそれから1分もしない間であった。
もちろん、回線を開いた直後にボソンジャンプで乗り込んできたのだ。
流石にこれには、六課の面子も面食らったが、その後だんだんと空気の温度が下がっているのが感じられる。
ああ、やっぱりか……。
「アキトったらお嫁さんの私を2年も待たせるなんてぷんぷんだよ?」
「ユリカ……よく回復したな……」
「もっちろん! ユリカはいつでも元気だよ! って、アキトがいなくなってからそうもいかなかったけど……」
「すまないな」
「ううん、こうしてまた会えたんだもん!」
「アキトさん! その人たちを紹介してくれませんか?」
「そうだよ、義父さん。義父さんの知り合いなら私達にも教えてもらわないと」
「あああ……フェイト、何も火の中に飛び込んでいかなくても……」
「では、私から。マスターの身の回りをお世話しています。リニスと申します」
「娘のフェイトです」
「婚約者のすずかです♪」
ナデシコYのブリッジが一気に凍りついた。
というか、俺を挟んでルリちゃん、ユリカ、イネスの3人とリニス、すずか、フェイトが視線をぶつけあっている。
その上、ラピスはこの破局を待っていたという感じの嫌な笑いをしている。
なんとなく、それぞれの考えている事はわかる。
分かるが分かりたくないというか、今はそんな時ではないはずなのだが……。
こうなったら、もう止められないんだろうな……。
「アキト……また犠牲者を出したんだね……」
「犠牲者って……」
「少なくともキスは済ませておりますよ」
「わっ、私も!」
「えっ、いつの間にフェイトちゃん!?」
「ッ!! ……アキトさん、また流されましたね?」
「ぐッ!!」
ルリちゃんの絶対零度の瞳を前に、俺は金縛りに会ったように動けなかった。
いやまあ、実際、流された感は無きにしも非ずではあるが……。
しかし、一言言っておかなくてはならない。
「ユリカ、ルリちゃん、ここまで来てくれた事は正直うれしい。
俺の事をそれだけ心配してくれたという事でもあるしな、だが、俺は既にこの世界で10年生きてきた」
「10年、私達にとってはまだ2年です。諦めるにはまだ早すぎると思いませんか?」
「そう言われると弱い、だけど、俺の中では既に諦めていた事でもある……」
「今さら、そういうつもりですか?」
「アキト何を言ってるの? 私達、ううん少なくとも私ははいつまでだって待ってるんだよ?」
「そうかもしれない、しかし、時は流れているんだ……俺は既にこの世界の人間なんだよ」
これは、俺の元いた世界への決別の言葉。
その言葉に、ラピス、すずか、フェイト、リニス、リインフォースやはやてですら、何か感じ入る事があるようで、
表情を少し緩めた、もしかしたら、俺がこの後、元いた世界に帰るのではないかと思っていたのだろう。
俺としてもそうすることも考えた、しかし、俺が元いた世界に帰れば元々のA級ジャンパーよりも数段上の機密になる。
その上、俺を利用すれば翻訳云々関係なしにボソンジャンプを100%で行える可能性すらあるのだ。
これがどういう意味かなど言われるまでもなく分かるだろう。
俺は元いた世界では、明らかな異端者となってしまったのだ。
「それは、元いた世界に帰るつもりはないという事ですか?」
「そうだ、だから二人とも俺の事は忘れて……」
「なぁんだ、簡単な事だよ!」
「?」
「私はアキトのお嫁さんだよ? 一緒ならどの世界に住んだって同じだもん」
ユリカは俺の考えている事に対してあっけらかんと返す。
昔からユリカは本当にあけっぴろげで、テンション高くて……。
まあおかげでひっぱりまわされて散々な目に会ってきたわけだが……。
その言葉を引き継ぐようにルリちゃんが話す。
「連邦宇宙軍もこれからは次元世界へ進出することになるでしょう。係り合いがなくなるとは考えられませんが?」
「はっ、はぁ……」
「元々私はお嫁さんだからどこへでも付いていくしね!」
「ちょっと、そこのおばさん」
「おばっ!? 私はまだ27だよ!!」
「30手前じゃないですか! 私なんて19歳です!」
「ぐっ……」
「それなら、私は18ですけど」
「ルリちゃん参戦するんだ……」
「このままでは勝てそうにありませんから」
「うぐッ!?」
「でも、その体型ではアキトさんを受け入れるには厳しいんじゃ?」
「そっ……そそそそ、そんなことありませんよ?」
「ちょ、すずかちゃん暴走しすぎ!」
「あぅ……すっ、すみません」
「いっ、いえ……考えている事は私もさほど変わりませんから」
「!!」
「それは、ライバルですね……」
「はい」
すずかとルリちゃんは何かよくわからないうちに友情を芽生えさせたらしい。
おいてけぼりをくらったユリカとフェイト達があいまいな表情をしているが、俺はあえて無視した。
「さて、そろそろ作戦会議といきたいのだが……丁度連盟の艦隊も合流地点についたようだしな」
「あ、はい、了解。(アキトさんこの場を強引に持っていく気やね)」
「それから、管理局への協力要請と草壁の正体に関する報告は管理局に送っているか?」
「問題ないです。管理局側からも感謝表明が来ています。しかし、協力要請に関しては断られました」
「まあ仕方ないと言えば仕方ないな、アルカンシェルだけで型がつけばいいんだが……」
「恐らく無理ね、奴は偏在を使う、でもそれ以前にもう戦闘力が凄まじいレベルに達しているでしょう」
横からイネスが割り込んでくる、確かに、あれだけの龍を顕現させる力が奴の中にもある、
その上1000のドラゴンは本当に1000かどうかわからないのだ。
隠し玉が読めないのが今回の一番痛いところだ。
俺としても、出来れば先に相手の出方を見たいところだが……。
それをするという事は犠牲者が凄まじい数になるという事でもある。
管理局には悪いがある程度の被害は覚悟してもらうしかあるまい、俺達もできるだけ早く駆け付けるが……。
「連盟艦隊をスクリーンに出してくれ」
集まった連盟艦隊はおおよそ7000隻。
とはいえ質は月村重工の資料をもとにした改修ナデシコ100隻以外は次元潜航艦にすぎず、
攻撃用の武装はミサイルや、レーザー、魔法を増幅して撃ち出す魔砲がせいぜいで、アルカンシェル装備艦はない。
よって、火力はやはり連邦宇宙軍のナデシコ艦隊任せとなる。
だがしかし、連盟がこれだけの戦力を出したという事はそれだけ草壁を重く見たか、もしくはナデシコ艦隊を警戒しての事だろう。
どちらとしてもこの場合は関係ない、15000隻の宇宙戦闘艦は全て戦力として使わせてもらう。
問題は管理局の艦隊がどう動くかだが、宣戦を布告されたのは彼らだ、先に動いているはずである。
彼らの動かせる艦艇数は不明だが、恐らく最初からすべて動員しはしまい、3万隻も用意していれば上等なくらいだろう。
それは、数の上でも質の上でも管理局のほうが上であるという事でもある、ナデシコ艦隊を別にすればではあるが。
とはいえ、グラビティブラストと相転移砲の集中打撃で次元移動不能の状態にして叩くというのは恐らく管理局の艦隊にはできない事だ。
だからこそ協力体制がいると考えていた。
そう、ある意味まだ俺達は油断していたのだろう。
これだけの戦力があればなんとかなるだろうと。
「自ら神を名乗るか……我ながらとんだ道化ではあるな」
「ですが、きちんと相手にも火がついたようです」
「そうだな、そうでなくては道化を演じた甲斐もないよ」
草壁は自嘲しつつ、報告をしてきた相手につぶやく。
既に草壁はこの星に住んでいた知的生物を全て喰らっていた。
自らの中にこの星の生態系を作り出す事がわけないほどに。
「私は悪だと思うかね?」
「世間的には悪なのでしょう、何故なら貴方は現在ある秩序を破壊するものなのですから」
「ふむ……やはり、神というよりは悪魔なのだろうね」
応対しているのはウーノであった。
彼女はその能力を買われ秘書官のような事をしている。
草壁は全ての能力を使う事が出来るとはいっても、全てを全力で行使すれば消耗も半端ではない。
現在の彼にはそれも不可能ではないが、
任せておけるところは部下に任せるのもリーダーの務めである事を草壁は熟知している。
当然、北辰にもスカリエッティにも相応しい仕事を与えていた。
とはいえ、何人も作り出せるとはいえ出来うる限りそれはしないつもりであった。
恐らくそれをすれば、アイデンティティの崩壊を招くだろう事は容易にわかったからだ。
それに関してはドラゴンの例もある、今やドラゴン共は個々の感情らしいものを失わせていた。
一体に戻せば戻るのか、その辺りはわからない。
理屈の上では個性のデータも出揃っているはずなのだが……。
「まあ、どちらにしろ現状の戦力でも敵への応戦は難しくないだろう」
「閣下が存命である限り龍の艦隊は無限ですから」
「だが、今の現状では遠くへ行けない。それでは困るのでな」
「は」
彼が次元世界に戦いを挑んだ理由の根本はそこにあった。
別に管理局などどうだっていいのだ。
どうせ神という概念になるならそのうち当たる事になるという程度の認識でしかない。
ではなぜ、草壁は宣戦を布告したのか、その理由は簡単だ。
敵の艦艇とその乗組員がほしかったからである。
まだ、今の草壁は星ごと飲み込めるほどには進化していないものの、無機物を自らの世界に放り込むことは可能になっていた。
偏在のように自分の存在を薄くして複数の世界に飛び出すのも、ボソンジャンプで分岐まで戻り別の世界へ向かうのも、
共にかなりの危険を伴う、特にボソンジャンプとは相性が悪い。
何故なら、ボソンジャンプで持っていけるのはイメージできる範囲であるため、
世界の中のイメージを取りこぼすとそのままボソンの状態で放置してしまう事になる。
そうなれば、二度と探し出すことは不可能になってしまう。
そのため、出来るだけ草壁はそれらの力以外で世界を渡る方法、つまり、門を欲していた。
それを可能とするのは管理局の持つ次元潜航艦隊であることは明白で、
そのためにはこの世界に呼び寄せる必要があったという訳だった。
「おお、艦隊が来たようだな……捕獲作業がある、出来るだけ破壊せずに私の元へ持ってこい」
『『『『ギシャァ!!!』』』』
草壁は一千のドラゴンを率い、三万隻からなる、次元潜航艦隊に向かっていった……。
どう考えても、数の上で圧倒されると考えるのが普通だろう。
また、管理局としても得体が知れないものの3万もいれば流石に飽和攻撃で倒しきれると踏んでいた。
だが、草壁が腕を一振りすると、ドラゴンがどこからともなく現れる。
その数ざっと10万。
30m級とはいえ、それぞれが戦艦の主砲並みのレーザーブレスを吐くドラゴンがである。
それを見て管理局の艦隊は恐慌をきたした。
「やはり、伏兵というのはいつの時代も役に立つ。
……さて、取り込むとするかな」
そして、草壁は目についた敵艦に触れるとその手の中に吸い込まれるように艦が消えた。
その後、更に驚く事に草壁の背後から同じ艦種に見える艦が100隻出現したのだ。
「最初だからまあ、こんなところか。これが管理局の艦艇か。面白いものだな」
その中の一隻に宇宙空間から直接向かう草壁、そう、今まで彼は宇宙空間で普通に話していたのだ。
これはドラゴンの能力を取り込んだところが大きいのだろう。
今や、空気がゼロであっても、絶対零度であっても、草壁を傷つけることはできない。
「諸君にははじめましてかな、とはいえ宣戦布告で知っているだろう。私の名は草壁春樹、君達の神だ」
「はっ!」
「草壁閣下万歳!」
「これより、この艦を含む艦隊は管理局艦隊を殲滅に向かいます!」
草壁はニヤリと笑う、あまり性格などに食い込んだ事は変更するとロボットのようになってしまうが、
その点軍人というのは扱いやすい、ボソン情報内にある、忠誠を誓う何かと草壁をすり替えるだけでいいからだ。
恋愛要素や信頼要素などが絡めばその相手と違う行動をすればそれだけで心理負担になり精神崩壊につながる事もある。
だが、忠誠というものは、個人に対して行う場合もあまりその人物の癖などまでは見ないものだ。
近しい存在となれば信頼がからむが、遠ければ相手はただ泰然としているだけでいい。
それに、組織に対する忠誠となれば、行動云々など関係ない、その組織こそ草壁率いる組織と誤認させるだけでいい。
「では、賊軍の艦隊を出来うる限り拿捕していってくれたまえ」
「は!」
「了解しました!」
彼らは今まで通りの忠誠を草壁に対して尽くす。
彼らは死んでも何度でも蘇る、草壁の世界が終るまで。
そして、どんどん草壁が拿捕した艦隊は増えていき、バランスが逆転する時が来た。
開戦よりわずか半日、その間に艦隊は全て草壁の艦隊と化し、そして、草壁達はその艦隊を用いて門を超えた。
行く先は管理局本局のある、第一管理世界、主星ミッドチルダ。
彼らの持つ情報内で最も多い人口を持ち、魔法に長けた管理局の中枢。
ここさえ潰せば管理局は崩壊する。
そうなれば、勢力的に見て草壁を阻む敵は存在しなくなると考えてもよかった。
とうとう草壁は全てを手に入れるカギをつかみつつあった。
「作戦の概要はこうだ、まず最初にゼストがスカリエッティに仕込んでくれたある物質がまだ反応するのか確認する」
これはゼストがまだ改造される前に、俺がゼストに頼んでいた事だった。
よほどの事がない限り外れない仕掛けではあったが、残念な話。
今のように草壁に取り込まれたとすれば絶対に有効とは言い切れない。
一抹の不安はよぎるのもの、あのマーキングはうまくいけばかなり便利になる。
この事は既に艦隊の指揮官であるカリムには知らされており、それを元にした作戦案を出してもいる。
「ある物質って??」
「俺の剣と同じものを粉末状にした、いわゆる魔力遮断物質だ」
「あの黒い剣ですか……でもそれが有効なんですか?」
「有効かどうかは使ってみなければわからないな」
あれさえきちんと付着していれば、ボソンの状態になっても情報が取得できる。
それに、粒子が普通の物質と比べ凄まじく細かいので機械や魔法などで完全に感知することは難しい。
だから、ゼストのほうにも当然大量に付着していたのだが、今は肉体が新たなものに変わったため付着はリセットされている。
最も、魔力を減殺する能力はある程度まとまった量が必要だが、それとは別に魔力を遮断する時の波長が独特なのだ。
それを俺ならば確実に把握すぐ事が出来る。
後は、スカリエッティがどれほど用心深いのかによる。
「だがあいにくと、俺の感知範囲は広がったとはいっても半径10kmを見通すのが限界だ。
同じ精度で超長距離の探知を行う事が出来るシステムの確立が急がれている」
「後数日あれば使えるものを提供できるはずだったんですけど、ここのところ相手の動きが速すぎて……」
すずかは残念そうに言う、このシステムは剣の素材を開発したという事もあり、月村重工に一任している。
その責任を感じての事だろう。
「兎も角、奴らのいる世界への門が開くまで後10分ほどだ、準備を進めよう」
「了解しました」
そうして艦隊の陣形を整えつつ、別世界への門を開こうとしたその時。
突然、愕然とするニュースが流れてきた。
『艦隊各艦に通達! 神を名乗る男、草壁春樹が管理局第八艦隊を乗っ取った模様!
第八艦隊はミッドチルダ上空に出現! 地上本部が破壊されました!』
「なっ!?」
「ミッドチルダに艦隊ごと……」
「動きが早すぎる……」
「地上本部の人たちはどうなったんですか!?」
『地上本部にいた人間の半数以上が行方不明、死傷者はおおよそ二千人と推定されます。
レジアス中将は会議のためビルにはおらず現在事態の収拾のために動き始めているとの事』
「行方不明……それって……」
「おそらくな……」
まずいことになった、ミッドチルダに奴がやってきた理由は恐らく奴の中にある宇宙を広げるためだろう。
しかも早速数千人を巻き込んだ、いや艦隊をどうにかしてきたならその程度では済まないはずだ。
一体奴は何人の犠牲者を出したんだ!?
もし、ミッドチルダの人間すべてを取り込んだなら、何十億という人間が犠牲になる。
それだけは何としても阻止しなくてはならない。
しかし、地上に対してグラビティブラスト等の攻撃をするのは難しい……。
「くそっ、今は多重結界などで奴の動きを止めミッドチルダから引き離すしかない」
「止まる……かな、あんなの……」
「止めるんだ!!! ここで止めなければミッドチルダは終わる!!」
「「「!!!」」」
そう、ミッドチルダどころの話ではない、もしもここで奴を成長させてしまえばこの世界が終る。
その影響を受けて他の世界でも未曾有の大災害が起こるだろう。
それは、イネスに頭が痛くなるほど教えられた事だ。
何としてもそれだけは阻止しなければならない。
奴の作る新しい宇宙なんて俺は見たくない。
「でも、あんなの滅ぼすことが出来るの?」
アリシアが不安そうに俺に問う、いや、アリシアだけではない。
みんな、口に出してこそいないが不安なのだ、すずか等、一度は限界以上の攻撃をぶつけた事もある。
それでもああして、以前より強くなって戻ってきた。
しかも今度は、無差別に人を喰らい、艦隊すら引き連れてだ。
コピー艦隊は何度でも蘇る可能性がある事を考えれば、戦闘になどなりえないかもしれない。
管理局の艦隊を引き連れている事を考えれば、それをあっさり撃破したという事でもあるのだから。
「方法はなくはない……」
「え?」
「俺の演算ユニットは、根本的には奴と同種の能力を持っている」
「それは、リニスさん達の事を言っているのですか?」
「それもだが、ボソン、フェルミオン変換が出来るという意味で同じなんだ」
「それは、そうですけど……」
「俺は今まで奴のような使い方をした事はない、出来るとも思っていなかったしな。しかし……」
「それは、コピーを量産するということですか?」
「いいや、そんな力は流石にないよ。だが、奴ら聖域であるボソンに俺が干渉する事は出来るはずだ」
「!?」
そう、ボソンのデータ領域に俺が干渉すれば、
もし、奴のデータに傷をつけてやれば、召喚する事も吸収する事も不可能にできる。
もちろん、可能性としての話にすぎないのだが……。
今はそれに賭けるしかないだろう……他に手があるとも思えない。
『アキトさん、無事ですか?』
「カリム連盟代表、ああこちらは大丈夫だ。多少動揺はあったが、直接攻撃を受けたわけでもないしな」
『そうですか、ご無事でなによりです。実は連盟艦隊の事なのですが……』
「やはり動揺が激しいのか?」
『はい、今回の事で、予言が成就された事も大きいでしょうね……』
「予言……管理局が崩れ落ちて新たな王が現れるだったか……」
『おおよそは。彼らはそれは自分たちの事だと以前は思っていたようですが……これは見まごう事もないでしょう』
「だろうな……実際地上本部が崩れ落ちたとなれば」
『ですが、まだ予言は確定したわけではありません、新たな王が草壁の事であるとは限らないはずです』
カリムは力強く応じた。
それは、願いでもあり、また実現させるべく全力を尽くすという表明でもあったろう。
俺は、それに対して口元を弓なりにゆがめることで応じた。
「ならば、俺に手がある。まずは奴を丸裸になくてはない」
『玩具を取り上げれば勝機はあると?』
「リインフォース」
「は」
「リニス」
「Yes、マスター」
「ゼスト」
「おう」
「命と力を預けてもらうぞ」
「「「了解」」」」
俺は、3人を取り込んだ。
正確には元々演算ユニットで彼らの命をつないでいたのを、演算ユニット内に引きもどし、俺のサポートに回らせたのだ。
俺は黒いバイザーとボディスーツ、黒マントという姿になる。
今の俺は、近接戦ではゼスト、魔法センスはリニス、魔法力と知識はリインフォースのサポートを常時受けている状態になる。
つまりは、魔法戦ではやて達に匹敵し、近接でも恐らく月臣に匹敵する。
その上ボソンジャンプは3人の維持に回していた演算能力もまわせる分あがってもいた。
単純に戦闘力という意味なら、最強から数えたほうが早いと言うだけの自信があった。
「チャンスは一度きりだ、俺が奴を衛星軌道上まで跳ねあげる。
その後は飽和攻撃で消滅するまで砲撃を決めてほしい」
「それで大丈夫なんですか?」
「ああ、その時には奴の偏在やジャンプは封じられているはずだ」
上手くいけば……ではあるが。
どちらにしろ、奴を止められるのは今しかない。
今より成長してしまえば、もう近付く事すら不可能になってしまうだろう。
「ならば、援護をさせてください!」
「私も行きます!」
「義父さんを一人では行かせられません!」
「駄目だ!」
「「「「!!??」」」」
「君たちでは、世界に取り込まれる可能性がある」
「でもそれはアキトさんでも同じはずでは」
「いや、演算ユニットと奴の世界は同質のものだと言ったろう。
北辰のように、敵対しないならともかく、演算ユニットが全力で抵抗すれば恐らく取り込むことはできない」
みんながついてくる事を表明する。
しかし、ついてこられるのはまずい、なにより取り込まれた彼らを救いだす術はまだわからないのだ。
今は一刻も早く食い止めねばならないし、犠牲者は敵対者として立ちはだかってくる。
そうなれば、じり貧もいいところだ。
「でも、足止めは必要なんじゃ……」
「それでもだ! 俺は犠牲になりに行くつもりじゃないからな」
「!!?」
「大丈夫だ、俺はきっと帰ってくる」
根拠があるわけじゃない、しかし、死ぬつもりもない。
今の俺は、奴を倒さねば未来はないと思っている、そのために犠牲が必要ならなるかもしれない。
しかし、すぐにあきらめるという選択はしない、今は心配な人々が近くにいるのだから。
帰る場所があるのだから……。
だからこそ俺は、負けるわけにはいかないのだ。
「なら、証をください。私、もう待つのは……限界なんです」
だが、すずかはまだ納得していなかった。
そして、俺に求めているもの……分かっている事。
俺は、草壁と決着をつける前に、一つの決着をつけなくてはならない事を知った。