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マブラヴ 転生者による歴史改変
歴史介入の章その2
(マブラヴオルタネイティヴ)
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 少女は広間に一人ひっそりと座していた。
 季節は冬。
 ましてや底冷えのする帝都の一画にたたずむ邸宅。
 辛くないはずはない。
 しかし少女は目をつむり、ひっそりとそこに座っていた。その有り様こそが自分の意義だと言わんばかりに。

 「冥夜さん、お風邪を引きますよ。」

 「いえ、約束がありますので」

 少女、御剣冥夜の母が声をかけるが、冥夜は瞳を開くことなく、一言の元に拒絶した。

 「でもね、先ほど言ったように、先方の都合で今回の件はなしに」

 「母上!」

 冥夜の声が広間に響き渡る。普段大声を出さない彼女の声に、母親びくり、と震える。

 「わたしが待っていたいのです。せめて、せめて気が済むまで…」

 哀切とでもいうのだろうか。ひどく儚げで、そして切実な声。

 「わかりました。ですが、くれぐれも風邪を引かないように気をつけるのですよ」

 観念したように、母親が襖を閉じ、その場を後にした。
 それ故に知ることがなかった。気丈な冥夜がこぼした悲しげな言葉を。

 「どうして、どうしてたった一度会うことすらかなわないのですか」



 「さて、警備は厳重、といっても一般家庭に比べればだがな」

 隆也の言葉に、まりもが頷く。

 「守衛が2人。他に一般人らしい反応が3人、おそらく使用人ね。あとは本邸に2人。おそらく反応が小さいのが目的の冥夜ちゃんね」

 「ああ、その見立てであっている。だがまりもん、あまいな。使用人に見せかけているが、そのうち1人は密偵かなんかだ。おそらく冥夜ちゃんの監視役といったところだろう」

 2人の会話を聞きながら、少女は今更ながらに後悔していた。
 なぜ自分はあのとき、この人達に助けを求めたのだろうかと。
 隆也、まりも、と呼ばれている2人はまだいい。
 彼らは純粋な善意で自分を助けてくれた。
 問題は、夕呼とよばれている人物だった。
 協力させるからには、代償をよこせ、と言って、自分の知りうる冥夜との関わりを洗いざらい喋らされてしまったのだ。
 もっとも、その話を聞いた反応は、

 「ふーん、さすが武家。くだらない因習に拘っているのね。ま、いいわ、情報としては問題なしよ。アタシが力を貸すには十分だわ」

 とえらく淡泊なものだった。
 自分としてはもっとも大切な秘事を打ち明けたのに、あまりにあっけらかんとした反応だった。
 その後の彼女は、なにをどうやったのかあっさりと御剣邸の場所を突き止め、2人に教えると自分の仕事は終わったとばかりに宿舎に戻っていった。
 去り際に、

 「あと、なんか面白いことがあったら教えてちょうだいね」

 というのを忘れずに。

 「よ、どうした?不安か?」

 「え?いえ、そのようなことはありません。お二人には助けていただいた上に、わたくしのわがままにまで付き合わせてしまい、申し訳なく思っています」

 「ん〜、堅いなあ、そこは、ありがとう、の一言でいいんじゃないか?な、まりもん」

 「ええ、わたしもそう思うわ。悠陽ちゃんは、すこしよそよそし過ぎるのが難点ね」

 「だ、そうだ。もちっと、肩の力を抜いていいんだぜ」

 「申し訳ありません。このような言葉遣いしか学んでいませんもので」

 本当にすまなそうに頭を下げる悠陽に、隆也、まりもは顔を合わせて苦笑いを交わす。

 「そういうことなら、しょうがないさ。気にするな」

 「そうね。でもさすがに五摂政家のお姫様となると違うのね」

 まりもが感嘆の声を漏らす。隆也は反対に苦い顔だ。

 「さて、おれはこれから屋敷に潜り込んで冥夜ちゃんとやらをかっ攫ってくる。その間の悠陽ちゃんの護衛を頼む」

 「え?攫うって、二人を会わせるのが目的じゃないの?」

 思わぬ答えにびっくりしたのか、まりもが抗議するかのように口を開く。

 「そんだけじゃ、おれが納得いかん。下手すりゃ、くだらん武家のしきたりとかで二度と会えないかもしれないんだぞ。たくさん思い出作りしなきゃ嘘だろ?」

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