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マブラヴ 転生者による歴史改変
歴史介入の章その3
(マブラヴオルタネイティヴ)
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「ここでいいかな?」
「あ、あの、どこでもいいので、早く下ろしていただけると有り難いのですが」
「わたしもそう思います。いいかげん、この格好ははずかしいので」
「よし、それじゃ下ろすぞ」
武家の人間が見たら怒り狂いそうな姿がそこにあった。
右肩に悠陽を担ぎ、左肩に冥夜を担ぐその姿は、まるきり荷物を運ぶ人夫そのものである。そう、恐れ多くも煌武院の姫君を荷物扱いしているのである。おまけに御剣家も武家の格で言えばかなりの上位に位置する。
武家社会に生きる者たちにとっては噴飯ものの光景だった。
「よし、それじゃ、この公園で遊ぶとしようか」
「公園ですか?」
「公園?」
「あら、おまえ達、公園で遊んだことないのか?」
不思議そうな顔で目の前に広がる空間を見つめる双子に、隆也が怪訝な顔で問いかける。
「はい、遊具を配置した広場、というのは知っていますが、実際に遊んだことはありません」
「わたしも悠陽さまと同じで、かような場所で遊ぶのは初めてです」
冥夜の口から何の気なしにこぼれた「悠陽さま」の一言で、悠陽の表情に一瞬の影が落ちる。
当然、そんなことを見逃す自称紳士の隆也ではなかった。
「めーやよ、おまえ、まだそんことを言っているのか?」
「え?」
責めるような口調で言われた冥夜は、なぜそんなことを言われるのか訳がわからないと、隆也を見上げる。
「めーやよ、お前ににとって、ゆーひとはなんだ?」
「は?悠陽さまですか。当然、我らが武家一同がうやまい、もり立てていくべき血筋の」
「ちげーよ、ばか」
ひどく冷淡な声が隆也の口からこぼれた。その表情は、口調とは裏腹にどこか悲しげだった。
「そんな上っ面な話をしているんじゃねえ。御剣なんてつまらん武家の名前に縛られたお前に聞いているわけじゃねえ。冥夜という名前を持つ一人の人間に聞いているんだ。本当に、お前にとって、この悠陽という人間は、そんな対象なのか?」
「立花さま、冥夜さんを責めるのは」
「ゆーひよ、お前もだ」
「え?」
「お前にとっても、この冥夜という人間は、自分が従えるべき武家の一門の中の一人なのか?」
「いえ、それは」
言葉を濁す悠陽。古き因習に囚われた少女には、そう簡単に本心を明かすことは出来ない。
隆也にもそれは当然わかっていた。それでもなお、聞かなければならないと思った。この二人のために、というよりは隆也の自己満足の側面が強いことは否めない。だが、隆也は自分をそういう人間だと割り切っていた。
己のエゴを貫く、それがたとえ世界の未来を不安定にさせるとしてもだ。
「めーやよ、おれは全てを知っている。その上で聞いていいるんだ。君の本心が聞きたい。冥夜という一人の人間が、悠陽という一人の人間をどう思っているのかを」
「わたしは、わたしは…」
「冥夜さん…」
うつむく冥夜を労るように悠陽が見つめる。
「わたしは、悠陽さまのことをお慕いしています。煌武院家に連なるお方としてではなく、一人の人間として」
冥夜のできうる最大限の表現だったろう。現に悠陽の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。悲しみではない、一人の人間として慕ってくれるという冥夜の言葉に感激してだ。
だがしかし、隆也という人間はそれで満足するような甘い人間ではなかった。
「それだけか?」
「それ以上になにがあると!」
「本来交わるはずのない光と影、それが奇跡的に交わったこの時をもって、なお、くだらん因習に囚われるのか?そんなことで、お前は守れるのか?大切な物を、守りたい物を」
有無を言わせない口調だった。一切の反論を許さない目だった。幼い冥夜にとって、そんなことを言われるのは初めてだった。
沈黙が訪れる。心地よい沈黙ではない。一人の少女の、まだ幼い心の葛藤を表す沈黙。
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