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マブラヴ 転生者による歴史改変
歴史改変の章その11
(マブラヴオルタネイティヴ)
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 1990年 初春 日本帝国農水省

 「これはいったい何の冗談なんだ?」

 農水省第三合成食材技術研究室所属の高畑是清主任は、同期の中でも一番の出世頭である小塚三郎技術大尉が持ってきた資料に目を通しながら呟いていた。
 内容は、合成食材の弱点とも言える味を向上するための技術、そしてそれを実現させるための添加物についての量産方法についての技術資料だった。
 おまけに人体に有害であるかを判定するための実験内容、ラットでの影響調査に始まり、最終的には人間への長期間の投与により、生体に何ら影響ないことまでのデータが添付されている。
 馬鹿げている。これほどの革新的な添加物の製造方法、そして膨大な臨床データ、そんなものが簡単に受け渡しされていいわけがない。
 そもそも呼び出しからしておかしかった。

 「やあ、高畑くん。久しぶりだね、去年の同期生の集まり以来か」

 「ああ、そうだね。小塚くん。そう言えば、君の名は世界にまで轟いているじゃないか。同期生として、誇りに思っているよ」

 「はは、そういわれると面はゆいものがあるね。実を言えばね、高畑くん。君の所属している部署に技術提供をしたいと言っている人がいるんだよ。もちろん、君がこれからの日本帝国の食料事情を握る非常な重要な部署に所属していることは知っている。そして、素性も知らないような人間の技術にわざわざ注意を払う暇がないのも当然分かっている。それでもその人の意見を無視するには、ボクは少々借りを作りすぎていてね。少しで良いから時間を割いてもらいたいのだが、どうだろうか?」

 「君にそう言われるとさすがに断りづらいな。わかった、時間を作ろう」

 突然の同期である小塚からのコンタクト。相手は今や、帝国を代表する技術者である。一部署の主任程度の自分とは格がちがう。それのなのに、相手が下手に出てきた優越感に、高畑の思考は正常な判断を下すことが出来なかった。
 少し考えれば、想像はつくはずだった。技術廠の天才とも、奇才とも言われている人物が、まともな話を持ってくるはずがないのだと。
 そして彼は最後まで気づくことができなかった。彼は、小塚三郎技術大尉の持ってきた資料に心奪われていた。
 素晴らしい技術の数々、そして検証データ。これをどうするべきか。
 高畑は大いに悩んだ。自分一人の手柄にする、それが一番良い方法だろうが、相手は小塚だ。発言力も、影響力もまるで違う。最低でも技術協力者として、小塚の名前を入れなければならないだろう。
 それに、この論文が本当に使えるかの検証も必要となってくる。
 所属する部署が部署だけに、検証を依頼するメーカーには事欠かない。まずはそこから手をつけるべきか。
 高畑はそこに注目した。まずは実績を作るために、今手元にある論文を懇意にしているメーカーに渡す。そして実際にどうなるかを実地検証し、問題ないようだったらメーカーにいろいろと便宜をはからせつつ、自分の功績に上乗せさせる。
 よし、と高畑はほくそ笑んだ。
 小塚の名前は最小限に留める、あるいは、本人から文句を言ってきてもしらを切れる程度の名前の公表はする。だが、実際の功績を得るのは自分だ。
 今は小塚の後塵を拝しいている、だが見ていろ、お前が持ってきたこの論文を持って、すぐにおれの方が上だと世間に認識させてやる。
 高畑は、声に出さずに笑っていた。小塚の迂闊さを、そしてこれから自分に訪れるであろう黄金期を思って。
 だが、高畑の暗い感情を小塚三郎技術大尉が全て見抜いており、高畑が小塚の思い通りに踊っているとは、本人は知るよしもない。



 1990年 晩夏 アジア連合共同戦線

 「かぁー、うめぇ!さすが、日本帝国さまだな。合成食材がこんなにうまいなんて、たまらんぜ」

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