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マブラヴ 転生者による歴史改変
歴史改変の章その10
(マブラヴオルタネイティヴ)
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 目的地に向かって疾走する車の広い後部座席は、沈黙が支配していた。もっとも搭乗しているのが一人だけなので当然と言えば当然ではあるのだが。
 日本帝国の大使館に配備されている公用車ではなく、相手から手配された車での移動。当然と言えば当然の処置。
 今の日本帝国へのCIAの監視は他の国に比べると一ランク高いものなっている。在米日本帝国大使館についてもその例にもれない。従って極秘の会談を行うために移動するのに真正面から堂々と出るわけにはいかなかった。
 要人脱出用のルートを使っての外出に加え、尾行をまくための数々の手段を駆使し、ようやく目的であるハイヤーに乗り込めたときは、安堵のため息と途轍もない疲労感に襲われたものだ。これから本当の仕事である交渉が行われるというのにだ。少々情けなくもあるが、元々このような裏方仕事を行うのは初めてなのだ。今この瞬間だけは勘弁してもらいたい、と内心で言い訳をする小塚一郎外交官であった。
 小塚は、手にしたトランクをしっかりと抱え直し、改めて車中を見渡す。広い後部座席には、小塚が座った席の正面にも席があり、対面での交渉が出来るようになっている。配置されている調度品の数々も、決して豪華ではないが重厚な雰囲気を漂わせる高級品の数々だった。
 運転席とは完全に切り離されており、こちらから運転席の様子をうかがい知ることは出来ない。
 これから交渉するのは、反G弾派とつながりの深いマクダエル・ドグラム社の幹部である。
 今回の小塚の任務は、彼らにとある技術の提供をすることだ。当然提供するだけではなく、できれば第三世代にまつわる技術の幾つかを入手するための交渉も必要になってくるのだが、言ってみればそちらはおまけだ。
 真の目的は、彼ら反G弾派とつながりを持つこと、そして反G弾派の勢力を増すための新技術の提供、それが目的だ。
 耀光計画と呼ばれる日本帝国の純国産第三世代の開発が滞っているのは確かだが、それもどうやらある程度目処が立ったらしく、今は遅れを取り戻すかのように猛烈な勢いで開発が続けられているらしい。
 つらつらと小塚が今回の会談にまつわる背景に思いをはせていると、徐々に車の速度が落ちてきた。どうやら、会談相手のご登場らしい。

 「失礼、お待たせしてしまったかな?」

 完全に停止した車のドアが開き、対談相手が車内に入ってきた。

 「初めまして、トマス・ウォーカーだ。マクダエル・ドグラムで特別技術顧問を行っている」

 50代半ばくらいの金髪碧眼、技術職というよりは戦闘職といったほうがいいほどの体つきをしている男は、そう名乗るとそのまま小塚の真正面に腰を下ろした。

 「始めまして、日本帝国在米大使館一級外交官小塚一郎です」

 「ほう、小塚?」

 小塚の名前に敏感に反応するトマス。兵器産業に従事しているものにとって、その名前は特別なものだ。

 「ええ、ご存じかもしれませんが、帝国軍技術廠の小塚三郎技術大尉は、私の弟です。不出来な弟ではありますが」

 「はは、日本人というのは本当に謙遜というのが好きだな。彼が不出来であれば、自慢できる弟などこの世のどこにもいなくなってしまう」

 「そう言って頂けると恐縮の限りですね」

 小塚が今回の特使として派遣されたのは、ひとえにその弟の存在故であるのだが、もちろんそんなことは言わなくてもトマスにも分かった。
 車がゆっくりと発進するのを感じながら、弟に感謝すればよいのか恨み言を言えばいいのか微妙なところだな、などと小塚が考えていると、トマスは備え付けのクーラーボックスを開けると中からシャンパンを取り出すと手慣れた仕草でふたを開け、いつの間にか用意していたグラスへと注ぎ始めた。

 「極秘会談とはいえ、折角の出会いだ。祝いのシャンパンくらいいいだろう?」

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