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マブラヴ 転生者による歴史改変
歴史改変の章その12
(マブラヴオルタネイティヴ)
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 1990年 初秋 帝国技術廠

 「高畑是清、やれやれ思っていたよりも欲望に正直な男だったな」

 手元の資料に目を通しながら、小塚三郎技術大尉はぼやいた。
 帝国軍技術廠にある小塚三郎技術大尉の執務室は、いつにもまして積まれている書類の山が大きくなっていた。
 原因は今小塚が口にした、高畑是清と彼に任した合成食材用調味料の供給だった。
 合成食材用調味料については、まずは日本帝国が掲げている前線国家への積極的な支援の名のもと、最優先で前線国家へ向けての供給が始まった。今回はものが食べ物に関する物であるだけに、外務省、農水省が緻密に連携を取っての施策となった。
 味も素っ気もない合成食材の味の向上、これには小塚が想像していた以上の大きな反響があった。実際に、前線での士気向上などに大いに役立っていた。
 小塚としてはしてやったとり、といったところだったのだが、ここで生け贄、もとい代理人として見いだした高畑が大きなミスを起こす。
 前線国家への合成食材用調味料供給に対する反響の大きさに驚きと共に欲目を働かせた高畑は、旨みつまり利潤が少ない前線国家への供給を絞り、大きな利潤を生み出せるであろう後方支援国家への供給を行おうとしたのだ。
 しかも前線国家に向けての供給制限の理由が、「長期的な健康に関するデータ採集については不十分であるため、健康面での保証が出来ないため供給を限定する」と言うのに対して、後方支援国家に対するセールストークが「技術大国である日本帝国が誇る安全性が保証された合成食料調味料」となっているあたりが最悪だった。
 前線国家からは、猛烈なクレームの嵐が、そして後方支援国家からは、前線国家への説明とは反対のセールストークに対する追求が、主管部であった外務省と農水省に押し寄せてきたのだ。
 当然その報いを受けるのは、目先の金に目を奪われた高畑であり、袖の下を受け取りその方針をよしとした農水省と外務省の主管担当者達だった。
 結果として、一連の騒動はそれに関わった主な担当者の処分により、事態の収束自体はなされた。
 だが事態が収束したとは言え、全く違った主張を行った合成食材の調味料の安全性については、世間から不審の目がそそがれるようになってしまった。
 最終的には、これはまずい、と判断した小塚が、仕方なくも自らが表にでることにした。
 幸い調味料の作成関係者になぜか帝国技術廠のしかも小塚の名前を高畑が載せていたことで驚くほど事態はスムーズに沈静化した。

 「いや、私の名前が売れているのは分かるんだが、専門は戦術機や兵器に関する物なんだぞ。それがなんで畑違いも甚だしい食料分野の安全性検証データに、私が太鼓判を押しただけで皆一様に安心するんだ?」

 ぼやく小塚の声を聞いた者たちは口を揃えてこう言ったという。

 「だって、小塚技術大尉ですから」

 と。
 そのおかげで、小塚は外務省と農水省に大きな貸しを作ることになり、太いパイプを作ることが出来たのだが、何か釈然としない物を感じているのも確かだった。
 それがなんであるかは、すぐに気づくことになる。

 「小塚技術大尉、次の合成食料調味料の案はまだでしょうか?」

 それはいつもの帝国軍技術廠の定例会議が終わった後に、不意に訪れた農水省の担当者の口から紡がれた言葉。
 ここに来てようやく小塚三郎技術大尉は気づいたのだ。代理人としていた高畑が大ゴケしたことにより、結局自分が矢面に立ってしまったことに。
 日々の業務に忙殺される小塚の業務に、新たに食料品分野に関する業務が追加された瞬間であった。

 「まあ、この程度の意趣返しは許されるよな」

 言って今まで見ていた書類を、廃棄書類の束の上に投げ捨てる。
 そこにはこう書かれていた。
 農水省第三合成食材技術研究室所属の高畑是清主任、現職を解任され、第一次日本帝国大陸派遣軍の炊事担当班へと降格配属になる、と。

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