■一覧に戻る
■ページ指定
■別話を閲覧する
■感想を見る・書く
マブラヴ 転生者による歴史改変
歴史改変の章その17
(マブラヴオルタネイティヴ)
  [→]  【PAGE 1/3】
1992 晩春 統一中華戦線 作戦立案部

 「スワラージ作戦か」

 作戦立案部のまとめ役を務める関大将が戦域図をながめながら呟く。彼は、50代半ばのややたるみをましつつある体躯を、中華統一戦線に属することを意味する軍服に押しつつんでいる。蓄えたひげは、彼と同姓の美髯公関羽に勝るとも劣らない立派な物だが、彼をよく知るものは決してそれを引き合いには出さない。お世辞ならともかく、その性はかの美髯公とは比ぶべくもない俗物だからだ。

 「我々に協力要請がきているのは、武器弾薬に関する後方支援だったか?」

 「ふむ、その程度あれば問題のではないですかな?近年のBETA東進の停滞により、武器弾薬の融通は利く。もっとも、適正な価格での買い取りはお願いしますがね」

 関大将の問いを受けた、馬中将が嫌らしい笑いをこぼしながら答える。こちらは40代後半。身体が資本とも言える軍人とは思えないほどたるんだ体つきだ。だらしなく垂れ下がった頬肉からもそれは見て取れる。

 「適正な価格ですな。なるほど。我々は最前線、武器弾薬は金にも勝る生命線ですからな」

 孫中将もそれに追随する。彼の頭は見事にはげ上がったており、側頭部に申し訳程度に髪の毛が付着している。彼ら前線とは無縁の将軍達にとっては、全ては数字で把握されるものであり、そして数字で勘定される限りいくらでも換えの聞く物であった。
 前線で恐怖のあまり糞尿を垂れ流し、BETAに喰われていく衛士や軍人も、絶望と無力さに歯がみしながらも必死に生き延びようとする民衆も、等しく1という数に集約される物であり、それ以上の物ではない。

 「そういうことです。アフリカ連合と東南アジア連合がなにやら血気はやっているらしいですし、せいぜいがんばってもらいましょう」

 馬中将が我が意を得たりと頷く。

 「しかし、万が一にでもハイヴ攻略がされるとなると、G元素がやつらの手元に渡ることになりますが?」

 1人だけ周りの将軍の会話を忌々しげに聞いていた趙少将が苦言を呈す。三十代前半の軍人らしく鍛え上げられた身体、そして、強靱な意志を宿す瞳。彼だけが、この汚泥のような腐った意志の集まりを寄せ付けずに佇んでいた。

 「ふん、ばかな。相手はあのBETA。しかも巣窟であるハイヴだぞ。いくらレベルが3程度とはいえ、成功するとは思えんな。そもそも、われわれがここまで押し込まれたのも、あの忌々しい化け物達のせいだ。それを国連主導の寄せ集め部隊どもが攻略できるとは到底思えん」

 バカにしたように関将軍が反論すると、周りの人間もそれに追随する。

 「全く、そのとおりですな。趙少将、君の心配は杞憂というものだ。奴らがハイヴを攻略することなぞ、決してありえん。まあ、我らが統一中華戦線が協力でもすれば、話は違ってくるがな」

 「ならばなぜ、声を上げないのです!今はBETAの殲滅こそが唯一の正義のはず」

 階級差を気にせずに趙少将が食って掛かるが、相手は戦場での駆け引きよりも政治での駆け引きを得意とする連中ばかりだ。現場上がりの趙少将の声など、簡単にかき消されてしまう。

 「参加要請もないのにか?それは国連にとっては、余計なお節介というものだよ。それにだ、それにだよ、趙少将」

 侮蔑の色を隠そうともせずに、関大将が趙少将を見つめる。

 「我々には我々の祖国をBETAどもより奪い返し、そして守るという崇高な使命がある。国外の些事に関わり合っているひまどないのだよ」

 うそだ。そう叫びそうになるのを必死に堪える趙少将。ここ数年の不可解なBETA東進の停滞により、統一中華戦線にはかなりの余裕が生まれてきている。
 それにも関わらずにオリジナルハイヴへの積極的な攻勢をしかけないのは、ここにいる作戦本部の指示であることは分かっている。

  [→]  【PAGE 1/3】

■感想を見る・書く
■別話を閲覧する
■ページ指定
■一覧に戻る