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〜Lost Serenity 失われた平穏〜
四話 視点者 黒髪 蒼 「ちょっとダイナミック下山をだな……」
(オリジナル)
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『12月16日 黒髪 蒼』



「う〜ん、これなら行けそうだな、良かったなアエラ」

 白い髪、紅の瞳、まるで小説のキャラクターのような整った顔立ち、太陽のように存在感で魅せるというより、月のような物静かで目立つことのない、言うならば記憶に残りにくい傾国、『黒髪 蒼』が少し笑いながらアエラに向かっていった。

「じゃあ、約束通り、案内を頼みます」

 ブロンドの髪、白いコートを着ている、アンダーバストのベルトで大きい胸がより強調されている。下は黒いズボンで防寒性に優れている素材、サファイアのような澄んだ双眸が強い眼差しで蒼を見た。

「おう、任しとけ」

 蒼は割と適当な返事をすると、右手を上げ背中に木製のボロい四角い箱を乗せ洞窟の外に出た。

「さて、この森を抜けるまで特に気を付ける事もない、なんか話でもしてるか」

 山岳地帯や森の中などの時の長距離移動においてもっとも重要なこと、それは焦らない事、一流のクライマーやそこに住んでいる蒼のような人間なら走ったりしても問題ないが、アエラはその手の人間にどう見てもあり得ない。アエラのペースに合わせるしかない。

「ええ、賛成よ」

「と言っても、まぁ、昨日色々話したし、特に聞きたいこともないんだけどな」

 蒼は苦笑いした、木々のおかげで通り道はさほど雪も多くなく、移動が楽だった。

「そうですか、じゃあ聞いてもいいですか?」

「おう、なんだ?」

「生物兵器について昨日、お話しましたが、それについてのあなたの見解を聞きたい」

 ……だから、知らねえよ、生物兵器だろうがなんだろうがウマかったらどうでもいいわ!! などと考えている蒼の脳内はアエラには内緒。

「生物兵器だろ? たしか生き物を無理やり改造して、人を殺したりする意図的に作られた生き物、で合ってるな?」

「ええ、当たっています」

「う〜ん、実際に見てみないと分からないな、とりあえず危険な奴だけ倒しておけばいいじゃないか?」

「なるほど、ちなみに私はどんな生物兵器でも有害なら一匹残らずこの世界から全滅させるべきだと思います」

「そうか、じゃあ、もしも人間と区別がつかないけど生物兵器みたいなのが出てきたらどうする? 人の言葉を話、理性もあるそんな奴が」

「そうですね、やはり有害ならそれも殺すべきだと思います、既に人間ではないので」

 アエラは頑固なまでにそう断言した。

「それもまた一つの意見だな、けどその生物兵器で恩恵を受けている人間もまたいる、その事実を曲げてはいけない、生物学がどんなものかは知らねえけどきっと『殺』が出来るなら『救』も出来るんじゃないか?」

 アエラが口籠った、たしかにバイオテロ対策のために各国が医療技術、生物学に対する研究、資金提供が盛んに行われた、その中で再生医療、抗体研究が短い期間で成果が上がっている。

「そ、それは……」

「こういう言葉がある“毒を転ずれば薬となる”日本のことわざだ。昔、母に日本語を習った」
 蒼が静かに笑った。森の道が終わりに近づいているのか、光が徐々に遠くから見えた。

「意外に博識ですね」

「いや、そうでもないさ、オレは日本語と今喋ってる言葉以外は話せない、一応うる憶えだけどチベット語も少しなら話せる」

「今喋っているのは英語です、それにしてもチベットの言葉を知っているのは珍しいですね」

「母さんが死んだあとすぐに、武者修行をしていた僧侶のおっさんがいて、3年くらいここら辺で修行していた」

「そうなんですか、この時代に武者修行なんて珍しいですね」

「アエラは武術の経験は?」

「CQCなら少しやっていました、蒼はやはりチベットの武術を――」

 アエラの靴底が白い雪の上を滑り、身体のバランスを崩した。
 蒼が静かに体勢を低くし腕でアエラの背中と膝の裏にそっと手を滑らせる。ちょうどお姫様抱っこされたような状態にとても近い。

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