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〜Lost Serenity 失われた平穏〜
六話 視点者 海樹 「正直言うと結構胃にくる」
(オリジナル)
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『12月16日 斬谷 海樹』
無限に広がる闇。
オレは死んだのか?
嗚呼、間違いなく死んだな……
じゃあ、ここは死後の世界? いいや違う、死後の世界はもっと明るくて、なんというか楽ができそうな場所だ、オレは悪いことした覚えねえし、天国のはずだ。
生きてるのか?
死んでるのか?
もし、生きてるなら、力がほしい、あいつを助けられるくらい、強力であの化け物みたいな。
「まぁ、死んでるというか、死にかけだな」
「ん? だれだ?」
「ああ、すまんぬ、さっきお主を飲み込んだやつだ」
「おいおい、人間の言葉がわかるなら、オレ喰うなよ」
海樹は自分が死んだのだと諦観に至った。
「いや、すまない、仕事なんだ、お主を食わなければわしは廃棄処分にされるんだ」
「言われてみりゃあ、そうだけど」
「ひどく冷静だな?」
「ん? いやぁ、単にもうオレ死んでると思ってるからな」
「なに言ってるんだ、生きてるぞ、まぁ、このままなら死ぬがな」
「どういうことなんだ?」
「お主、わしが食う前、ここに運ばれる前の記憶はあるか?」
「甲板にいたけど気づいたらここにいた」
「なるほど、つじつまが合うことになるが、まさかお主のようなやつが、適合者とはな」
「なんだ、その、アニメや漫画みたいな展開」
「ふむ、正確に言えば異常感染者、ウイルスに感染して変異が特異なものことをいう」
「ウイルス? オレはウイルスなんて体に入れた覚え――」
海樹は冷静に思い出す、首筋の絆創膏を――
頭の歯車がギシギシと回転を始める。
諦観に至った感情が徐々に息を吹き返し始める。
もしも、生物兵器のような化け物の力が使えれば。
麻痺した感覚が徐々に指先から脳に伝わる、粘液のようなドロリとした気持ちの悪い感覚だった。
血の香りが鼻を貫き、吐き気を覚える。率直になども思う気持ち悪いと。
「おい、お前、ここから出せよ」
「う〜む、まぁ、同胞のよしみだ、かまわぬぞ……ただし、覚悟せよ?」
体中が気持ち悪い感触に覆われ移動している。
床にドロリと落ち、わずかな光が目に突き刺さる、不思議と無くなった身体のパーツたちに不思議と血液の流れを感じる。徐々に自分の目にはっきりと物が映し出される。
ゆっくりと立ち上がり、失った右腕と右足の感覚を確かめる。
ガタタタタタタ!!!
甲高い、金属と金属が擦れるような耳障りな音が広がる。
あわてて右手に視線を向けると、肘から先には、まるでチェーンソーのような長円状の白い骨格に、赤い筋肉が塗りたくったようにこびり付いておりその上から血管が覆うように脈動する、その筋肉に鮫の歯のような鋭い刃がチェーンのように生えていた。自分の身長ほどある巨大な右手だったものが海樹の目に映り込んだ。
全身も、生皮が剥がれたように赤いグロテスクな肉で醜悪な姿に変わっている、ちょうどゲームに出てくるゾンビゲームのボスのように。
右手を動かそうとすると筋肉が収縮を始め、刃が小刻みに回転を始める。肉体が再構築を遂げ、限界まで圧縮された筋肉が活動を徐々に始める。
飽和し溢れ出した力に海樹は精神が蝕まれる。
「ああああああああああ――!!」
「意思を保て!!」
「わかってる!!」
深呼吸を二度ほど、前屈と屈伸、変化した身体を馴染ませていく。
「大丈夫か?」
「ん? ああ、なんとかな、しっかしこれはひでえ体だな」
色々ありすぎて整理がついていないのか不思議と冷静だった。
「まぁ、急激な変化で皮膚が壊死したのだろう、うまくコントロールできれば元の人間の形に戻れるかもしれぬがのう」
「そうか、ところで、お前、名前は?」
「名前か……デュランとでも呼んでくれ」
デュランと名乗る犬型の化け物、海樹と名乗る人型の化け物が静かに会話を続ける。
「おい、あの娘、連れて行かれるぞ!」
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