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Muv-Luv ノイマンのおとぎばなし
第41話 善と悪の彼岸で(前)
(マブラヴオルタネイティヴ)
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【1993年10月30日 帝国軍富士演習場・戦術機シミュレーター室】

シミュレーターから出て来た新井の表情は冴えなかった。
いや、悔しさを堪えた顔だと言った方が正確だろう。

「まずまずの動きだったな新井少尉」

自分にかけられたまりものその言葉で、新井の顔は一層悔しさを深くした。

「子供相手に手玉に取られてまずまず…ですか」

自嘲気味に吐き出された新井の言葉にまりもは苦笑しながら答える。

「白銀相手では仕方なかろう…そもそもアレは他人とは出来が違い過ぎるし、貴様はまだ乗り慣れていない撃震・解であそこまで粘れたのだからそういじける事はない」

HASによる大容量通信網によってオノゴロにいる武と1対1の模擬戦を行っていた新井だったが、恐ろしいほどの機動センスとXM、そして撃震・解を扱い慣れた武の機動に翻弄され完敗を喫したのであった。
もっともそれで新井を笑う者は誰もおらず、むしろ武の人間離れした機動をどうすれば再現可能か、あるいはどうすればあれに対抗できるのかといった空気が模擬戦を見ていた観客…富士教導隊の衛士たちに蔓延していた。

「貴様の機動もそして大陸での指揮ぶりも、この富士の教導隊に参加するに足る物だという評価は間違いではなかった…私はそう思うがな」

「……」

それはあなたのお蔭だ…という言葉を口にするほどには、まりもに対して未だ素直になれない新井であった。
大陸の激戦の中幾人かの部下を戦死させ心を折られかけた事もあった新井だが、その都度静かにそして厳しい言葉で自分を励まし、立ち直らせてくれたまりもは今の彼にとって最大にして最高の目標であった。
そしてだからこそまず彼女の「一番弟子」とも言われる白銀特尉に対等の条件で勝ってみせる…と、意気込んで挑んだ模擬戦で惨敗してしまったので余計に気分は屈折していた。

そしてそれだけではなく、新井にはもう一つ気に入らない…いや、どうしても納得できない事があった。

「…それで中尉殿、あの坊やたちは今後もまだ兵隊稼業をやらされるんですか?」

「……」

その質問にまりもは即答も、そして叱責もしなかった。

「アイツは、あの白銀たちは確かに優秀な衛士です。 しかし同時にまだ10代前半の子供でもある…そんな奴らを兵隊としてこの先も使い続けて本当にいいんですか…?」

新井の言う事はある意味で正論である。
日本帝国の徴兵年齢は基本的に18歳以上であり、斯衛軍にしても元服年齢の15歳以上が通常であった。
徴兵制度の改正によって年齢を引き下げるにしても精々斯衛と同レベルの徴兵が妥当なラインであって、10代前半の子供を徴兵する事はまず考えられない。
それにも関わらず軍人として採用され、更には実戦にまで参加した武たちの扱いは確かに常軌を逸した物ではあったのだ。

「あの坊やたちはもう他の衛士や兵士が10年以上勤めても挙げられない程の成果と貢献を国や軍にした筈でしょう? だったらもう…」

これ以上子供の彼らに重荷を科せなくてもいいのではないか? という新井の問いに対してまりもは静かに口を開く。

「確かに貴様の言う事にも一理はある。 白銀たちが成し遂げた成果はこれまで誰も出来なかった物だし、それによって我が国や人類全体の対BETA戦力も大きく前進したとすら言えるだろう。
しかしな新井少尉、貴様も見た筈だ……あの大陸の大地を埋め尽くさんばかりの規模で迫りくる異星起源種の数の暴力を」

「ッ!それは…」

「如何に優れた兵器、強力な火力を保持しようと、一旦それが尽きれば我々は無力だ。 だからこそより高度な運用手段を編み出し、全ての兵士がそれを身に付けるべく手を尽さなくてはならない…そしてより強力な装備の開発や運用、あるいはこの先徴兵年齢が下がればまだ若すぎる衛士を育てるための人材はいくらいても足りなくなるのは確実だ。 白銀たちのような人材が要らなくなるという事はまず考えられないだろうな…」

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