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Fate/ZERO―イレギュラーズ―
第73話:相対戦=第三戦その5=
(Fate/ZERO×銀魂×境界線上のホライゾン×神咒神威神楽×灼眼のシャナ×11eyes×戦国BASARA×龍が如く×ジョジョの奇妙な冒険×装甲悪鬼村正×Dies irae)
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この銀時とセイバー両者の闘いの行方を見届けていた誰もが目の前の光景に息を呑むほど唖然としていた。
ありったけの罵声と共にセイバーの放った拳が銀時の顔に容赦なく叩き込まれた、否、叩き込まれてしまったのだ。
能力値の優れたセイバー自身の力に加えて、甲鉄の籠手に纏われた拳は、激闘に次ぐ激闘で死に体同然となった銀時にとって致命的な一撃を与えるのに充分すぎるモノだった。

「えっ…?」

だが、この場に於いて、誰よりも困惑していたのは拳を叩き込んだ当人であるセイバー自身だった。
事実、如何に満身創痍の身といえども、銀時ほどの戦闘に長けた強者ならば殺気を読むなどして、セイバーの拳を防ぐことはもちろん、避ける事もカウンターで反撃する事など造作もない事だった。
にもかかわらず、セイバーの繰り出した拳は一切の防御も回避も反撃もないまま、銀時の顔に叩き込まれたのだ。
ならば、考えられる理由は一つだけだった。

「…これで全部かよ、セイバー」

そう、銀時はあえて無抵抗のまま、自身に迫りくるセイバーの拳を真っ向から受け止める事を選んだのだ。
だが、それは悪手などというのも烏滸がましい、誰の目から見ても無謀な自殺行為に他ならなかった。
普通に考えれば、万全とは程遠い死に体同然の身体で、頑強な甲鉄で形成された剱冑の籠手を纏ったセイバーの拳を受ければどうなるかは考えずとも分かる事だった。
事実、セイバーに問いかける程度には未だに意識は留めているとはいえ、銀時の肉体は既に生きていること自体が奇跡に等しいほど深いダメージを負っていた。

「な、何で…」

だが、そんな死人寸前の銀時を前に、圧倒的優勢に立っている筈のセイバーは更なる攻勢に転ずるどころか、むしろ何かに怯えるように後ずさりしてしまった。
それほどまでに、セイバーの心は令呪の効果を薄めるほど激しく動揺し、銀時の余りにも理解不能な行動に混乱してしまっていた。
―――何で避けないのよ…?
―――何で防がないのよ…?
―――何で反撃しないのよ…?
―――何で、何で…!?
そして、セイバーにとって何よりも不可解だったのは―――

「―――何でそんな眼で私を見るのよ…!?」
「…当たり前だろうが、馬鹿ヤロー」

―――銀時の目に自身を死の淵まで追い込んだセイバーに対する敵意や憎悪が一欠けらも含まれていない事だった。
これまで溜めこんでいた鬱憤をぶちまけるように一方的に罵りながら殴り続けた以上、セイバーも銀時に憎まれ恨まれるのは当然の事だと覚悟していた。
だが、当の銀時は売り言葉に買い言葉という形で反論したものの、その言葉にはセイバーに対する恨み辛みなど一切含まれていなかった。
一方、“ならば、何故…?”と何一つ答えの見いだせぬまま困惑するセイバーを前に、当の銀時は何故か申し訳なさ気な表情で罰悪そうにぼやきながらも、いつまでも愚図り続ける駄々っ子を諭すようにこう告げた。

「形はどうあれ…最初に俺がおめぇを傷つけちまったんだからよ」

“セイバーを傷つけてしまったから”―――それこそが死に体寸前の銀時が一欠けらの憎しみさえ抱かずに、セイバーの攻撃を無抵抗のまま受け続けた理由だった。
かつて、聖杯や桜たちの処遇について、切嗣と対立した銀時は“護るべき者を護り通す”という自身の信念を貫かんとして、直も切嗣を支持するセイバー達と袂を別つことになった。
無論、銀時も共に闘うと誓った手前、この結果に後味の悪さを感じてはいたものの、自身の選択自体に後悔はなかった。
だが、後に洞爺湖仙人との対話を通じて、銀時はセイバーの負った心の傷を知り、図らずも自身がセイバーの心の傷を抉ってしまった事に気付くことになった。
ならば、どうして、仲間を重んずる銀時が自身の行動によって、ここまで追い詰めてしまったセイバーに対して憎悪を抱く事ができるだろうか?

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