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ネギま!―剣製の凱歌―
第四章-第59話 千の刃vs千の剣(完全版)
(魔法先生ネギま!×Fate/stay night)
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 衛宮士郎とジャック・ラカンの再会から、時は少し遡る。

 麻帆良郊外の森の中、人目を避けるように佇むログハウス風の一軒家。
 その中の趣は、昨日までと少しばかり違っていた。


 麻帆良祭の一日目。
 彼女は起き抜けに、リビングテーブルの上にわかりやすく置かれた“それ”を見つけた。

 雪のように白い肌、蒼氷《そうひ》を思わせる透き通った碧眼。
 絹糸よりも艶めく金の髪を長く垂らした、まだ十歳程度にしか見えないこの美しい少女こそ、邸《やしき》の主。


「……………。」


 その正体は六百年を生きる吸血鬼―――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 彼女は酷く機嫌を損ねた様子で、顔を歪めてそれを睨んだ。

「ケケケッ。随分ナオ目覚メダナ、御主人」

 無人の筈のリビングに、エヴァンジェリンを主と呼ぶ不気味な声が木霊する。
 その出所は、棚の雑貨品《インテリア》に紛れ込むように置かれた、一体の古ぼけた西洋人形だった。

「アイツラガ居ナクテモ、時間ドオリニ起キレンジャネーカ」
「………五月蠅い、チャチャゼロ」

 「寝覚メハ最悪ミテーダガ」と小声で付け足したこの人形の名はチャチャゼロ。
 エヴァンジェリン最初にして最古参の従者であり、先ほど彼女に話しかけた声の主である。

(相変わらず口が悪い)

 チャチャゼロの台詞は、顔を合わせた主人に対する言葉遣いとは到底思えない。
 だが、気心の知れた間柄であるこの二人にとってはいつものことだ。
 いつものことだから気にもしない筈なのに―――何故だか今朝は、無性に苛ついた。
 顰めっ面を浮かべたまま、エヴァンジェリンはテーブルの上に置かれた見慣れぬ鈴をチリンと鳴らす。

「お呼びでしょうか、御主人様《マスター》」
「目覚めの一杯をくれ。あとは何か軽いものを」

 無論、紅茶と朝食の話だ。
 普段はチャチャゼロ以外の二人の従者に頼む所だが、生憎……実に生憎、彼らは昨夜からこの屋敷を不在にしていた。

 現在、エヴァンジェリンの下には、チャチャゼロを含めて三人の従者がいる。
 一人は「親《・》の頼み」で邸を空けていて。
 もう一人は、主人《エヴァンジェリン》の反対を押し切って、異世界〈魔法世界《ムンドゥス・マギクス》〉へと旅立っていた。

 でなければエヴァンジェリンも、鈴を振って使用人を呼ぶなどという七面倒くさい真似をする必要はない。
 たったいま彼女の指示を受けて去っていったメイドの少女も、エヴァンジェリンが魔法で操る“人形”だ。
 魔力を極限まで封じられている彼女が、世界樹の魔力が高まるこの数日間だけ使用できる、期間限定の従者だった。

「デ、ナンカ面白イモンデモアッタノカ?」

 エヴァンジェリンのぶすっとした視線に気づいたのだろう、チャチャゼロが面白半分に問う。
 彼女の主人はそれに対し無言のまま、テーブルの椅子を引いて“それ”の正面に座り込んだ。
 アンティークの風格漂う木テーブルの上には、“彼”が持っている筈の仮契約カードが置かれている。


「………あの馬鹿め、くだらん意地を張りおって。
 これ無しでどうやってあの筋肉ダルマに勝つつもりだ」

 朱と銀の色調で彩られたそのカードには、“魔法使いの従者《マギステル・マギ》”に与えられる専用の魔道具〈アーティファクト〉が宿っている。
 エヴァンジェリンの従者の三――――衛宮士郎。
 主人の意に反した従者、その決意《ケジメ》として、彼がわざと置き去りにした契約《モノ》だった。

 衛宮士郎がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと交わした契約の力、AF《アーティファクト》『顔のない英雄《ホ・ヘーロース・ディーホス・プロソーポーン》』。
 それが姿を現す日は、もう少し未来《さき》の話だった。


 ◇◇◇◇◇




『何ぃ!?ラカンが弟子と決闘するだとぉ!?』

 通信機を介し、魔法飛空艦の艦橋《ブリッジ》に暑苦しい怒号が轟いた。

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