土砂とともに地表から姿を現した小型のガンメン。
 もう一方のガンメンを上空で粉砕すると、その眩い光を身に纏いながらさらに空へと舞い上がる。

「うおっ! なんだありゃ?!」
「なんか、落ちてくるみたいよ?」

 キヤルとキヨウが声を揃えて上空のガンメンに目をやる。
 ドゴォォォ――ン!!!
 土煙を撒き散らしながら、地面に落下する小型ガンメン。

「お前ら、気をつけろ」

 キタンの声で全員に緊張が走る。そして、晴れてきた土煙の中から現れたのは――

「ううぅ……手荒い歓迎だな」
「死ぬかと思った……」

 小型のガンメンを操る二人の若者の姿だった。

「なんだ? 獣人じゃねえのか?」
「あ?! なんだ、テメエ?」



紅蓮と黒い王子 第7話「私はね。この何もない空が好きなの」
193作





「――以上ガ昼間ノ戦闘ノ詳細ダヨ」
「そうか、よくやってくれたな。ラピス」

 ラピスの頭を優しく撫でるアキト。

「いいな〜。ラピスちゃんばっかり〜」
「俺達もがんばったんだぞ!」
「……羨ましいです」

 三人姉妹に迫られ、仕方なくも頭を撫でさせられるアキトの姿がそこにあった。

「…………おい。アキト」
「なんだ? キタンも撫でて欲しいのか?」
「アホかぁ!!!」

 アキトがヨーコを追いかけた後、キタン達の協力もあって二匹のガンメンの内、一体を破壊。
 もう一体は取り逃がしたらしいが上々の戦果と言える。
 問題はもう一つの件だった。あの小型ガンメンとジーハ村出身の二人の男性。
 彼等が小型ガンメンを操り、敵のガンメンを倒した事は明らかだった。
 あの小さいボディからは想像も付かないパワーと驚異的な耐久力。
 他のガンメン達とは一線を駕したその能力に、アキトの表情も重くなる。

「戦力。いや、味方と見てよい物か……」
「問題ないだろ? あいつらバカそうだし」
「兄ちゃんがそれを言うか……」
「似たもの同士って奴よね」
「類は友を呼ぶとも言います」
コラッ! 待てテメエら!!

 兄妹の漫才を無視し、アキトはラピスの方を見直る。

「アキト、ゴメン。アノ、ガンメンノ詳細ハヨクワカラナイ。リーロンガ今モ分析シテル見タイダケド、サンプルニナル情報モ少ナ過ギルカラ」
「そうか。すまない。何か分かったら、また報告してくれ」
「ウン」

 未知の兵器ほど危険な物はない。それにあのパワーは使い道を誤れば、危険な諸刃の刃にもなりかねない。アキトはそう考えていた。

「そういや、ヨーコの奴はどうしたんだ? いつもならアキトの周りをウロチョロしてんのに?」

 ヨーコの姿が見当たらないことに気付いたキタンは、キョロキョロと辺りを見回す。

「ばつが悪いんだよ」
「ダーリンに怒られてからね」
「昼間も一人、忠告を無視して先行してましたし……」

 ヨーコの件も気がかりではあった。独断先行による被害も考えれば、あの責任感が強いヨーコが気落ちするのも無理はない。
 仲間に迷惑をかけただけではなく、関係のない者たちまで巻き込んだのは確かだ。
 ユーチャリスとバッタ達を使い、応急的な修復作業と支援は行ったが、怪我をした人たちも決して少なくなかった。
 そのことは、ヨーコにも伝わっていた。



 ――パンッ!
 乾いた音が艦内に響く。アキトの掌がヨーコの左頬を払う。

『自分が何をしたのか、分かっているのか?』
『…………』
『ヨーコ。仲間を信頼できないなら、もう戦いには出るな。早死にするだけだ』



「仲間を信頼か……俺の言えた台詞ではないな」

 仲間の手を振り解き復讐に走った自分が、それを言うとは皮肉な物だとアキトは思う。
 今の自分にはラピスがいる。そう簡単に死ぬつもりはない。
 だが、もしラピスに危険が及べば、自分もまたヨーコのような行動を取った可能性もある。

「本当に死に急いでいるのは、俺の方かも知れないな……」

 その呟きは誰の耳に届くこともなく、アキトの心の闇に溶けていった。






挿絵
 リットナーの断崖にある見晴台の上にヨーコの姿があった。

 ――アキトに嫌われた。
 自分が先走ったせいで、ジーハ村の人たちに及ぼした被害も聞いた。
 リットナーの皆にも、物凄く心配と迷惑を掛けた事も分かっていた。
 でも、あの時の私は止められなかった。前に進み続けることでしか、自分を保てたなかったのだ。
 結果――あのおかしな二人組に助けられ、アキトが助けに来てくれなかったら死んでいたかもしれない。
 助けられてばかりだ。今の私は弱い。でも、どうすることも出来ない。

「ダメだな……私って」

 ヨーコの心に浮かぶものは不甲斐無い自分への叱責。膝を抱えながら、どうする事も出来なかった自分への苛ただしさが募る。

「……お前、こんなとこで何してんだ?」

 そう言いながら現れたのはカミナだった。

「……あんたこそ、どうしたのよ?」
「ま、メシ貰ったしな。世話になった礼に、見張りを手伝ってやろうと思ってな」
「見張り? 無駄よ。ガンメンは朝にしか来ないから意味がないわ」
「……そうなのか? なら、なんでお前はこんなとこにいるんだ?」
「関係ないでしょ。一人になりたいの、放っておいてくれる?!」

 そう言うと後ろを向いてしまうヨーコにカミナは話を続ける。

「何、落込んでるのかはしんねーけどよ。お前はよくやったと思うぜ。あんな怪物を相手に逃げないで戦った。それは自分に負けなかったってことだ。だから、もっと自分を認めてやっても良いんじゃねえか?」

 そう言うとカミナは元来た道を戻り、見晴台から姿を消した。

「……バカ」

 それは誰に言った言葉か。残された見晴台には、肩を震わせて泣くヨーコの姿があった。






「兄貴、どこ行ってたの?」
「ん、ちょっとションベンにな。おおっ! 綺麗になったじゃねーか」

 倉庫の一角、そこには磨き上げられたラガンの姿があった。

「そうでしょ〜。この子達に手伝ってもらって、ピッカピカに磨いたんだから〜」

 そう言うリーロンが指し示す先には、イソイソと作業をするバッタたちの姿があった。

「なんだ? あれもガンメンか?」
「違うわよ〜。あれはラピスちゃんに借りたメカなの。何でもバッタとか言うらしいわ。本当はバラして調べたいところなんだけど、それは止められちゃっててね。人員も少ないから作業員の代わりとして少し借りてるのよ」
「ふ〜ん、ってこらっ! くっつくんじゃねーよ! この男女!!」
「あら、ツレないわね。そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はメカニック担当のリーロンよ。ロン≠チて呼んで。もしくはビューティフルクイーンで」
「誰が呼ぶかっ!!」

 自己紹介も済むと、カミナとシモンはリーロンに案内され、倉庫の一角にある部屋に連れてこられる。

「ここを好きに使ってくれて良いわよ。取り合えず、毛布や必要な物は一通り運ばせて置いたから」
「おう、悪いな」
「私の部屋はすぐ隣だから、いつ夜這いに来てくれてもOKだから……ウフ」
「……!! 斬るっ!!!
「兄貴っ!!」

 迫り来るリーロンから距離をとって刀を抜くカミナを、シモンが必死に止める。

「もう、冗談の通じない男ね。ま、何かあったらいつでも言って頂戴」
「はい。ありがとうございます」

 カミナの分もリーロンに頭を下げて礼を言うシモン。リーロンはそれだけを言うと、軽やかなステップで来た道を戻っていった。

「シモン」
「どうしたの、兄貴?」
「俺達、地上に来たんだな」

 そう言うカミナの表情は、これから待ち受ける物への期待と、地上に来た喜びで満ちていた。






 ――ドッ! ドオオォォン!!!
 物凄い轟音とともに朝が訪れる。

「な、なんだ?! 地震か?!」
「な、何、今の何?!」

 突然の揺れと大きな音に目を覚ましたカミナとシモンがラガンの置いてある倉庫にやってくる。

「あら、お・は・よ。お二人さん。コーヒー飲む?」
「んなことより、さっきの揺れはなんだ?」
「ああ、アレ。ガンメンよ。地上の朝はガンメンで始まるの」
「二日連続とは少しきついな」

 そう言いながら現れるダヤッカ、他の者達も武器を片手に後に続く。

「ヨーコの奴は、大丈夫なのか?」
「さあ? 取り合えず本人の問題だし、放っておくしかないんじゃない?」
「仕方ない。じゃ、ヨーコ抜きで……」

 ダヤッカとリーロンが話していいると、奥の扉が開き、そこからヨーコが出てくる。

「いけるわっ! ううん、やらせて」

 現れたヨーコは昨日までと違い、何処か晴れやかな表情をしながらも、その両目に決意の様なものをたぎらせていた。

「いけるのか?」
「大丈夫よ。ゴメンね、心配かけちゃって」
「なんだ、シケたツラがちょっとはマシになったか?」

 後ろからニヤけた笑顔で話しかけるカミナにヨーコは答える。

「誰かさんの無神経な物言いのおかげでね。そう言えば、名前を言ってなかったわね。ヨーコよ」
「カミナだ、そしてコイツが相棒の――」
「シモン」

 カミナは自己紹介を済ませると、気合を入れて外へと歩き出す。

「んじゃ、ガンメンの奴をぶっ飛ばしに行くとするか。シモン、お前はラガンで出ろ」
「ええ、兄貴が乗ってよ!」
「おいおい、ラガンはお前のモンだ。しっかり頼むぜ相棒」

 掌をヒラヒラと振りながら走り去るカミナをシモンは後ろから見送っていた。

「カミナ」
「うん?」
……ありがと、ね

 カミナの横を追走しながらヨーコは小さく礼を言う。

「あ? なんだ?! 小さくて聞こえねえぞ?!」
「なんでもないわよ! ほら、いくわよ!!」

 空が青い、それを知ったのは地上に来れたから。土の匂い、水のせせらぎ、風の清々しさ、その全てがここは地下と違う。
 多くの仲間達が死んで、今も家族を守る為に多くの友人達が戦っている。
 ここを地獄だって人は言うけど、そうじゃないと思う。地下でも地上でも、生きていることには変わりはない。
 何処にいたって何もしなければ変わらない。
 ここに来て、多くの人と出会う切っ掛けを私は貰った。多くの仲間と青空の下で笑いあえる時間を貰った。
 なら、それを皆と一緒に守っていこう。私だけの物じゃない。みんなの日常なのだから。

「私はね。この何もない空が好きなの」

 晴れ晴れとした笑顔で言うヨーコの言葉は、カミナの耳にも届いた。

「俺もだ」






挿絵
「……アキト?」

 ラガンの置いてある場所にいくと、そこでシモンを待っていたのはアキトとラピスだった。

「シモン、君は何故戦う?」

 それはアキトにとって重要な質問だった。ラガンはその見た目とは裏腹に強力な兵器だ。
 ならば、それを扱う者を見極めなくてはいけない。
 暴走した兵器の末路は無残なものだ。アキトはそう考えていた。

「俺は……」

 下を俯いて黙ってしまうシモンにアキトは聞く。

「戦うのは怖いか?」
「……アキトは怖くないの?」

 あのガンメンと生身で戦って見せたアキトを見て、シモンは思う。
 この人に怖いものなんてないんじゃないだろうかと。

「怖いさ。傷つくこともあるし、死ぬこともあるかも知れない。それが怖くない人間なんていないさ」
「ならっ! どうして戦えるんだよ! 兄貴も、ヨーコもみんなっ!!」
「戦うことは怖い。でも、失う方がずっと怖いことがある」

 ――それはシモンにとって重い一言だった。目の前で土砂に埋まり死んでいった両親の姿が頭を過ぎる。

「シモン。君にとって大切なものとはなんだ?」
「俺は……」

 シモンの頭に浮かぶのはいつも傍にいてくれたカミナの姿。後ろからみた大きな背中。
 震える自分を力強く抱きしめてくれた腕。いつも、兄貴はすぐ傍で助けてくれていた。
 自分はまだ、何も返していない。返せていないと。

俺は兄貴に死んで欲しくない!!
「……そうか。なら、君は君の思うように戦え」

 そう言うとユーチャリスに戻っていくアキト。それを見て、隣で黙っていたラピスが口を開ける。

「アキト、イイノ?」
「大丈夫だ。守るものがあるうちは」

 それは自身にも言い聞かせる、アキトの心からの言葉だった。






 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 アキトと兄貴はタイプは違えど、周りの支えになってるところが大きいんでしょう。
 今回から挿絵を1話〜7話まで全部リメイクしました。作風にもう少し合わしたってことで。
 今後はこれでいきます。
 ヨーコ写真集、書店で見つけて思わず買ってしまいましたw
 密かにライフルやガンバイクの設定画が入っていたのは嬉しかったですね。
 今後の作品に生かせるといいんですけど。
 あと、前回も後書きに書きましたが次は月曜日の配信はないので、一週間後です。
 ゆっくりと身体を癒してきます。

 次回は、新たに現れた新型の赤いガンメン! ライフルも通じないその敵にカミナが取った行動とは?!
 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。



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