「補佐官、東地区の再開発の件なんですが――」
「未開拓地域の難民収容について、法務局から――」

 ――ロシウは今日も忙しい日々を過ごしていた。
 新政府において、彼の役割は他の幹部に比べても非常に大きい割合を占めている。
 総司令であるシモンよりも、執務のレベルで言えば、その数倍に上るかも知れない仕事を彼はこなしていた。
 更に加えれば、彼は数少ないアキト、ラピスから直接学問を学んだ大戦の遺児の一人であり、その中でも特に物覚えのよかったロシウに対する周りからの期待は言うまでもなく大きかった。
 大戦後――若干十三歳で新政府総司令補佐官に就任。ロシウだけの力ではないとは言え、そこから僅か二年でカミナシティを作り、新政府の基盤を確固たる物としたロシウの手腕は誰の眼から見ても明らかだった。

 ラピスがアキトを捜すと言って旅に出てから一年――世界は大きく変わりつつあった。
 ニア・テッペリン率いる獣人との対談による二大政府の世界再編計画。
 そして、チミルフ達からもたらされた情報から判明したアンチ・スパイラルと言う人類に敵対する存在=\―
 大きな問題を抱えながらも、よりよい未来へと人々は願いなら、新しい文明を築き、時を積み重ねていく。

 ロシウは、そんな計画の中心に立って、多くの技術者、政治家たちを導く立場にあった。

「あの人は、まだそんな甘いことを言っているのか……」

 ロシウは最近のシモンの行動を快く思っていなかった。その中で一番大きな理由としては、ニア含める獣人達への処遇にあった。
 ロージェノムの独裁政治の下とは言え、獣人達が長い年月に渡って地上を支配し、人間達を虐げてきたのは紛れもない事実だ。
 ――にも関わらず、シモンは獣人達に戦犯として大きな責任を追及することをしなかった。
 まだ、ニアは大グレン団に協力し、チミルフとアディーネ達、離反した獣人達はテッペリン攻略戦に多大な尽力をしたこと、それは認められることであり、彼等には恩情があってもよいだろう。
 だが、一分の重犯罪を犯した犯罪者以外、シモンは人間達と同じように、彼等を受け入れようと言い出したのだ。
 ロシウもシモンの決断には驚きを隠せなかった。

 ビーストガバメント――獣人を中心としたもう一つの政府機関。
 この基礎設計をしたのは他ならぬアキトだったと言うことだったが、ロシウにはその意図が理解出来ない。
 人間と獣人の間にある軋轢、そこから生まれる差別社会に関しては多くの問題点が提示されているのも彼も知っている。
 しかし、政府を二極化すると言うことは更なる争いを生み出す懸念材料になりかねない。
 そして、人間達の中からも、獣人達への粛清を望む声が多いのも事実だった。
 そんな中、シモンの決断、ニアの選択はロシウにとって喜んで賛同できるものではなかった。
 彼の一番の目的は、人々の生活と安全――そして確実に分かっている脅威に対抗する手段を講じることにある。

 ロシウも、大グレン団――彼らの戦う姿に魅せられた一人だ。
 だが、自分にはアキトやカミナのように、ましてやシモンのような戦う力はないとロシウは自覚していた。
 だからこそ、政治家として、指導者としてみんなを導き、守れるようになろうと――今の立場に立つことを決めたのだ。

 しかし、そんなロシウにとって、シモンの取っている行動は決して理解できるものではない。
 彼が救おうとしているのは多く≠フ人々の生活だ。かつてのアダイのような生活を二度と起こさせないこと――
 シモンのように、ニアのように理想ばかりを追っていては何も守れない。実現できないと言うことを彼は言いたかった。

「すべてを救うなんて綺麗ごと……誰もがあなたのように強く生きられないんですよ」

 その言葉がシモンの耳に届くことはない。ただ、ゆっくりと歪みは広がり始めていた。





紅蓮と黒い王子 第40話「サレナは――ここにいる」
193作





挿絵「――以上が、第二プロジェクトの概要です」

 総司令シモンを中心に、新政府の幹部が一同に会していた。
 カミナシティも二年と言う歳月でようやく軌道に乗り、新政府のプランも第二段階に進もうとしている。
 そんな中、ロシウから説明された内容にシモンは表情を強張らせていた。

「それは……本当にみんなのためになるのか?」
「当然です。あなたもご存知でしょう? このまま放置しておけば、いずれ人類は危機的な局面を迎えることになる」

 ロシウが提示したのは大移民化計画だった。カミナシティを含める周囲の陸地に政府主導の監視地区を設立し、未だ地下や住み慣れた土地で生活をしている人々を移住させると言うものだ。
 その計画の理由となったのは、世界人口の正確な把握にある。
 市民は知らされていないが、ロージェノムが人類を地下に押し込めていた理由は、政府の幹部、ロシウ直轄の技術者ならば誰もが知る事実となっていた。

 それは、人間の数が百万人に達したとき、アンチスパイラルが人間を滅ぼすために襲来すると言うもの――

 眉唾物の話に聞こえるが、確かにテッペリンの跡地から発掘されたデータなどから、それらの事実を裏付けるものが出てきていた。
 そして、一番の決め手となったのは、チミルフとアディーネがロージェノムから聞かされたという情報、そしてアキトの残した書記によるものが大きい。
 ロシウはそれらのことからも、彼等の襲来を予測する意味でも、人口の把握は急務だと進言していた。
 来る時期が予測できれば、その対策も打ちやすく、また、人口の上昇をある程度コントロールすることで、戦力が整うまでの時期を稼げると考えていたからに他ならない。
 そんなことは、シモンにも分かっていた。しかし、ロシウの提示してきたやり方が、そこに住む人たちの感情を無視した強引なものに思え、賛同できないでいた。

「別に家を奪おう、生活を脅かそうと言うんじゃない。
 彼等には難民収容施設で義務教育を受けてもらい、いずれカミナシティに移り住んでもらいます。
 それに地下で生活しているよりも、ずっと人間らしい、恵まれた生活を送れるはずですから」

 ロシウの言っていることは確かに正論だった。
 周りからも「まあ、地下暮らしよりは今の生活の方がいいよな」など、ロシウを擁護する声がチラホラと聞こえ始める。
 だが、シモンは依然として表情を強張らせたままだった。

「では、決を取りたいと思います。賛成の方は挙手を――」

 そうして、次々に挙げられて手を前に、シモンは静かに目を閉じ覚悟を決める。
 ロシウはこうなることをすでに予測していた。そのために彼等に前もって根回しをし、シモンを追い込むように仕立てていたのだ。
 今の政府の幹部は、その大部分を大グレン団の幹部で占められている。
 政治などに疎い彼らは、ロシウやリーロンなどに頼っているところがあり、幹部とは名ばかりの者が多かった。
 ロシウはそんな者から篭絡し手札に入れ、彼等もロシウならば大丈夫だろうと安直な考えを持っていた。
 だが、そんななか、シモンだけでなく、もう一人――手を挙げない人物がいた。

「…………」

 法務局長キタン・バチカ――面白くなさそうに腕を組み、会議室の豪勢な椅子にふんぞり返っている。
 その態度が気に入らないのか、ロシウは僅かに眉を吊り上げていた。

「では、よろしいですね。総司令」
「ああ……」

 後に大きな問題になることとも知らず、こうして大移民計画が実行されようとしていた。
 そして、このことが後に新政府の在り方に、大きな負債を産むことになる。






「シモン、ちょっといいか?」
「キタンか。どうした?」

 会議が終わってしばらくして、シモンがいつものように執務室で仕事をこなしてると珍しい客が訪れた。
 キタンはいつもの物腰で遠慮する様子も見せず部屋の大きなソファーに腰をそえると、厳しい顔をなる。

「シモン、ロシウのことなんだがな……」

 キタンの話ですべてを悟ったのか、シモンはたまらず苦笑を漏らしていた。

「笑ってる場合じゃねえだろっ! あいつの今のやり方は――」
「分かってるさ、キタン。でも、ロシウだって、この世界のことを思ってのことなんだ。
 あまり悪く言わないでやってくれ」
「悪く言うなって……おまえ……」

 ロシウのやり方がすべて間違っているわけじゃない。それは二人にも分かっていた。
 だが、だからと言って、感情では二人はそのロシウのやり方に賛同できないでいる。
 理知的で、現実的な手段。そう言う側面で見れば、ロシウの政策は確かに理にかなったものなのだろう。

「ダヤッカもダヤッカだ……ゾーシィやジョーガン、バリンボーンはともかく、あいつまで……」

 ダヤッカはシモンの味方だと思っていただけに、ロシウの言いなりになっているダヤッカに、キタンはその怒りを顕にする。
 だが、シモンもそれは仕方ないことだと思っていた。事実、シモンも総司令という立場にこそ居ても、そのほとんどの執務はロシウに頼ってしまっている。
 政府を動かしているのは、実際にはロシウの方なのだ。シモンも覚悟を決めて頑張ってはいるが、それでも得て不得手と言うものはある。
 シモンは考えて、計算して動くタイプではない。カミナのように感情に任せて、勘を頼りにして今まで良い結果を出してきた。
 しかし、政治においては、そんな感情や勘と言ったものは敬遠される傾向にある。不確かな物に自分の生活を預かられるほど、人々は広い心を持っていないのだ。

「まあ……兄貴なら、こんな仕事請ける前に逃げ出してただろうね」
「案外、出て来ないのはそれでかもな。あの野郎、目立ちたがりの癖に、細かいことや面倒なことは大嫌えだから」

 キタンの考えは満更、間違ってなかったと言える。






「へっくしょ!!」
「何? ――風邪?」
「わからねえ……誰かオレさまの噂でもしてやがるのか?」

 教会の屋根を器用に昇り、カミナは金槌を片手に屋根の修理に勤しんでいた。

「カモン――遊ぼうぜ!!」
「おう、ちびっ子! もうちょっと待ちな!!
 危ねえから、あんまり近寄るんじゃねえぞ!!」
「今日はカモンがヴィラルの役だからな――」
「ああ、わかった。わかった。だから、大人しく待ってやがれ」

 男の子達にとって、カミナはよい遊び友達となっていた。この島、コノハナ島には若い男の数が少ない。
 大グレン団に合流するため、レジスタンスとして村を出て行ったまま帰らない者――
 職や、豊かな暮らしを求めてカミナシティに移住した者――
 様々だが、そのために村では深刻な過疎化が進んでいた。

 だが、今この島に住んでいる人達は皆、住みなれたこの場所を離れ、首都に行こうと思うものはいない。
 カミナ達が来てから、常人の数倍動くカミナやヨーコのお陰もあって、食料の問題など色々と良くなったこともあるが、それ以前に先祖代々ここで暮らしてきた彼等にとって、思い出の染み付いた土地を離れる気にはならなかった。

「あ、センセーだ! センセー!!」

 教会の隅で洗濯物を干しているヨーコの側に、センセーと子供達に呼ばれた筋肉質の大柄な男性が立っていた。
 大の大人でも尻込みしてしまいそうな大男に向かって、子供達は人懐っこく「センセー」と呼び、笑顔で慕いながら擦り寄っていく。
 彼も満更でもないのか、表情を僅かに緩ませながら、自分の足にしがみつく子供達の頭をそっと撫でていた。

「ヨー……いやヨマコ、そろそろ診察の時間なんだが、アクトを知らないか?」

 まさか、この男が、かつて世界の頂点に君臨し、人々に恐れられたロージェノムだと言っても誰も信じないだろう。
 今はアキトの主治医として付き添い、コノハナ島で唯一の医者として、皆に慕われていた。
 ロージェノムはその強さだけでなく、学者としても超一流だった。
 今まで管理者として生きてきた数千年に及ぶ知識と、そして経験は他の追随を許さないほど優れたものだ。
 ブラックサレナや、パドマに残されていた数々のデータから、アキトの身体に起こっている異変に一早く気付いたのも彼だった。

「……それなら、ほらあそこ」

 不機嫌な顔でヨーコがそう言って指し示した先では、元気な男の子に好かれるカミナに対して、女の子とその母親や姉、女性に囲まれるアキトの姿があった。
 ここまで来ると、もはやアキトの周りにそう言ったフェロモンか何かでも出ているのではないかと思わざる得ない。
 だが、それもある意味当然の帰結なのかも知れない。若い男が少ないという現状――そして、アキトは当事のようにバイザーもしていないため、その年齢からは少し幼く見えるそれで居て美男子とは言わないまでも甘く整った容姿が、女性たちに受けていた。

 今から二年前――ロージェノムがサレナとともに施した治療により、アキトの身体を蝕んでいたナノマシンの暴走も止まり、五感に関しても生活に問題がない程度までほとんど回復していた。
 故に、素顔を見せたときのアキトのあの笑顔を知っているヨーコからしてみれば、あそこに集まっている女性達の気持ちも分からなくない。
 子供達に向ける優しい笑顔。それを見たいがために、集まってくる女性は後を絶たなかった。

「相変わらず、モテるようだな」
「皮肉のつもりか?」

 アキトの身体を探るように手をあて、状態を確認していくロージェノム。
 あれから大分安定したとは言え、アキトの身体は以前のような無茶を出来る状態ではない。
 ナノマシンの暴走による末期状態――それは彼の命をいつ奪っても不思議ではなかった。
 そんな状態から、アキトの命が助かったのは、まさに奇跡と言ってもよい。

「一つ聞いていもいいか? サレナは……」
「…………」

 アキトは目覚めてからヨーコ、カミナ、そしてロージェノムから、この島での生活のことを聞かされていた。
 そして自分が二年もの間、眠り続けていたことを――
 しかし、サレナがここにいない理由、あの大戦の後、何があったかと言うことをまだ聞かされないでいた。
 だが、そんなアキトにも分かることがある。それは――

「サレナの話になると、みんな揃って辛そうな顔をする。
 だが、あの状態のオレはどう考えても絶望的だったはずだ……
 そんなオレがどうして助かり、こうして生きているのか……」

 アキトの口から紡がれる言葉の一つ一つに耳を傾け、ロージェノムは覚悟を決めた。

「薄々は、自分でも気づいていたのだろう?」
「ああ……」

 自分の胸に手を当て、愛しいものを触るようにアキトは彼女の名前を呼ぶ。

「サレナは――ここにいる」






 ユーチャリスが首都を出てから一年余り――ラピス達はそれこそ世界中を旅してきていた。
 アキト達の僅かな痕跡も逃さないよう、注意を払いながらの旅だ。ユーチャリスの速度なら、本来なら数日で周れるはずの距離も、三分の二を周ったところで一年の歳月が経過していた。
 その旅の間にあった様々な出会い、別れも、彼女達にとっては今では良い経験、思い出になっていた。
※紅蓮と黒い王子外伝『ラピス奮闘記』参照――嘘です。そんなのありません

「ラピス、食事にしようぜ! ほら、ヴィラルもそんなとこにつっ立ってないで、こっち来いよ」

 キヤルの用意した昼食を頬張るラピスとヴィラル。

「随分と美味くなった。昔は、ヴィラルの歯が欠けるようなおにぎりしか作れなかったのに……」
「あれは、本当におにぎりだったのか? オレには爆弾にしか……」
「……二人ともそんなこと言ってると、食わせないぞ?」

 ヴィラルの用意する食事というと、そのほとんどが丸焼きのような原始的な食事ばかりだった。
 ラピスもお世辞にも、それほど料理が美味いわけではなく(それでも当事のキヤルよりは随分とマシだったのだが)、ユーチャリスでの食事事情はかなりお粗末な状態となっていた。

 ――自分で食べる分には栄養を取れればよいと思っているラピス。
 そして、肉さえあれば丸焼きだろうがなんだろうが満足なヴィラル。

 我慢の出来なくなったキヤルは、やもなく苦手だった料理に奮闘することになる。
 一年と言う時間はかかったが、それでも人並みに食えるものは作れるようにどうにかなっていた。
 あまりに情けなくなる食事事情――最低、キヨウくらいは誘ってくるべきだったかと本気でキヤルは涙したほどだ。
 そして試食と言う名目で一年もの間、キヤルの料理に耐え続けてきたヴィラルは賞賛に値すると言えよう。
 ラピスはというと上手くその場をやり過ごし、差し出された料理をこっそりとヴィラルに食わせていた。
 ある意味で二重苦を味わっていたヴィラル。彼の胃はきっと鋼のように鍛えられたに違いない。

「そういや、次はどこだっけ? 出来ればあったかいとこがいいな」
「キヤル、何度も言ってるけど、旅行じゃないんだから……」
「だからって、暗くしてても仕方ないだろ? 旅は楽しまなきゃ損だって――
 それにアキトのことは絶対に生きてるって信じてるからな。だから、気長に行こうぜ」
「うん――」
「むしろ、アキトのことで心配なのは女性関係だな……」
「…………」

 それに関してはラピスもぐうの音もでなかった。
 確かにアキトなら、今頃『たくさんの女性に囲まれているのではないか?』と言う予測がいくつも立ったからだ。
 事実、二人の予想は間違ってはいなかったのだが……

「やっぱり、早くアキトを捜そう。嫌な予感がする」
「同感……」
「そういや、次の目的地って――」
『コノハナ島デス』

 キヤルがラピスに再度聞こうとすると、代わりにオモイカネが答えた。

『サクラト言ウ綺麗ナ花ガ咲ク、緑豊カナ島デス』
「へ〜、良いとこそうだな」






『東ブロックA――難民の収容完了しました』
「ご苦労様。それでは、引き続きB3〜B7までの収容御願いします」

 キノンは今、ロシウの直属の部下としてその補佐を行なっていた。
 ロシウ直轄の下位機関として作られたテクノクラート。それをロシウに代わって取りまとめるのも彼女の役目だった。
 アンチスパイラルとの決戦に向けて開発されている、ガンメンに代わる人型兵器の開発も、彼女に課せられた重要な仕事の一つだ。

「ご苦労様、キノン」
「あ、ありがとうございます」

 リーロンから差し出されたコーヒーを、キノンは恐縮そうにそれを受け取る。
 大きなプロジェクトを任せられているとは言っても、幹部ではない秘書官に過ぎない彼女にとって、科学局長官と言う立場にあるリーロンはかなり目上の存在だった。
 それにリーロンがいなければ、短期間でのここまでの技術革新や、開発中の人型兵器に着手することは難しかったと言うことをキノンはよく理解していた。
 それ故に、ロシウと同じようにリーロンのことを尊敬していたと言うのもある。
 大戦の功労者と言うだけで幹部の椅子に座り、大して政府に貢献できていない兄や、かつての仲間達のことを考えるたびに、キノンの中でこのままではいけないと思いが過ぎる。
 そんな中でも、ロシウとリーロンはキノンにとっても別の存在で、今の新政権を維持できているのは、この二人による功労があってこそだと彼女は考えていた。

「あの……長官は今度の移民計画の件をどう思いますか?」

 だからこそ、彼に聞いてみたかった。ロシウの打ち出した今回の政策は、世界のためとは言え、かなり強引な手段だと言うことはキノンにも分かっていた。
 事実、相当数の住民による抵抗、テッペリンの残党による反抗運動にあっていると言う報告が彼女の下に上がってきている。
 感情論の問題で言えば、キノンに取っても気持ちのよいものではなかった。
 だが、ロシウの取っている行動も間違っているとも、そしてそのロシウについて行くと決めた自分も間違っているとは思えない。

「ん〜、別にあたしがどうかじゃなくて、あなたがどうしたいか? ――じゃないかしら?」
「私がどうしたいか?」
「あたしが何を言ったとしても、あなたの心はすでに決まってるんでしょ?
 なら、答えるだけ無駄よ。自分の信じた男を――もっと信じてあげなさい」

 シモンの考え、そしてロシウの考え、そのどちらが正しく間違っているのかは誰にも分からない。
 だが、リーロンの言葉はキノンの心に深く沁みこんでいた。

「はい、ありがとうございます」






 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 しばらく不定期ですが、かならず更新するのでお許し下さい。
 年末にかけて加速する忙しさが続いているので;
 更新が遅れてる原因としては、一番に見直しと挿絵なんですよね。
 まあ、挿絵はここまで番外除いて全話つけてるので、今更外せませんしw
 可能な限り頑張ります。

 次回は、あの時、何があったのか? ロージェノムの口から語られる大戦の終結とは――








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