【Side:太老】

 どうして、こんな事になってしまったのか?
 俺は聖機人のコクピットの中で、深く溜息を吐いた。

「青コーナー! お馴染み、我等が国境警備隊隊長『剣コノヱ』様と、山賊討伐で多大な成果を上げた期待の新星『ハヴォニワの三連星』」

 司会者もノリノリである。コノヱの赤い聖機人と、タツミ達の紫の聖機人が会場に姿を現すと、観客の兵士達の大きな歓声が渓谷に響き渡る。
 コノヱの聖機人は赤い機体をベースに、胸元や関節部分に黒いラインが入っており、優秀な聖機師の証とされる立派な尻尾も生えていた。
 タツミ達の聖機人も同様だ。紫の機体に黒のライン、そして扇状に広がった尻尾が背中に生えている。

「そして赤コーナー! 今やお馴染み、知らぬ人はいない! 黄金の聖機人を駆る大陸最強の聖機師、天の御遣いこと『正木太老』様と!
 マリア様の護衛騎士であり、アイスドールの異名を持つ『ユキネ・メア』様だ!」
『――おおおおおおっ!』

 こちらも、また歓声が凄い。余りの歓声に、地鳴りがしているかのように錯覚するほどだった。
 ユキネの聖機人を見るのはこれが初めてだが、これだけの歓声を受ける理由にも頷けるほどの美しさがある。
 青白い聖機人。昆虫のような羽が生えており、ふさふさとした白いたてがみのような尻尾が付いている。
 まるで、あの聖戦士ダンバインに登場するオーラバトラー≠フようだ。
 色々な部分で、俺の黄金の聖機人とは大きく違っていた。

『太老、何か作戦はある?』
「作戦か……手練れが四人も相手、数もこっちの倍だしな。コノヱさんって、近接戦闘以外はどうなの?」
『射撃の腕は私の方が上。接近戦では敵わないけど、距離を取った戦闘ならそう簡単に負けない』
「なら、コノヱさんをお願いしていい? 残りの三人は俺が引き受けるよ」

 通信越しに、ユキネが真剣な表情でそう尋ねてくる。俺は『作戦』という言葉に少し思案すると、そう答えを返した。
 実力的には、コノヱが頭一つ抜き出ていると考えて間違いないだろうから、この辺りが妥当なところだろう。
 『ハヴォニワの三連星』なんて恥ずかしい二つ名からも想像出来るとおり、あの三人は三位一体の連携力を強みとしているはずだ。
 こちら同様、あちらも即席のチームに過ぎない。三人の連携の足を引っ張るくらいなら、恐らくコノヱは一人で突出してくるだろう。
 なら、分断して各個撃破した方が確実だ。それに、コノヱはともかく、あの三人なら俺には対抗策がある。

『……分かった。太老、気をつけて』
「ユキネさんも」

 俺の聖機人も、連携するには余り向いていない。
 下手をすると仲間を巻き込んでしまう可能性もあるので、どちらかというとそちらの心配の方が大きかった。

「武器は銃剣か」

 ライフルの片側に刃がついた、こちらの聖機人の武器としては比較的オーソドックスなものだ。
 これなら、接近戦だけでなく飛び道具も使えるので、この物騒な尻尾対策にもある。

「余り気乗りはしないけど……」

 近くの大岩を手にとって意識を集中し、亜法でエナを閉じ込めることで圧縮弾を作り出す。
 眩く輝く黄金の玉が出来上がった。

【Side out】





異世界の伝道師 第111話『黄金の新兵器』
作者 193






【Side:タツミ】

「嘘……あんな一瞬で圧縮弾を」

 太老様の聖機人が大岩を掴んだかと思うと、ほんの一瞬で、黄金に輝く金の玉≠ェ手の平に作り出された。
 太老様の凄さを知っていたつもりでも、これには驚きを隠しきれない。
 『尻尾付き』と呼ばれる有能な聖機師であったとしても、あんな一瞬で圧縮弾を作り出すことは出来ない。
 それだけ太老様が規格外の存在だということを、証明する光景でもあった。

『いよいよだね、タツミ、ミナギ。私、ずっと太老様と一度戦って見たかったのよ』

 ユキノの言うように、『太老様と戦ってみたい』という思いは、私もずっと胸の内に秘めていた。
 黄金の聖機人の姿を見るのは、これで二度目だ。あの圧倒的な光景を、私は直に目の当たりにしている。
 聖機人の限界を超えるほどの能力と、聖機師の常識を覆すほどの圧倒的な実力。
 私達三人掛かりでも、恐らくは足元にも及ばないだろう。

「でも、この『太老のしるし』に報いるためにも」
『うん、頑張ろう。私達の成長した姿を太老様に見てもらうために』
『そういう事なら、あれをやるですの!』

 ミナギの言うアレ≠ニは、太老様に教えて頂いたフォーメーションで、私達が必死になって練習を重ね、体得した物のことだ。
 名を『ジェットストリームアタック』――三位一体の必殺技。
 少しでも三人の呼吸が合わないと、この連係攻撃は成功しない、難易度の高い戦法だった。
 そしてここにも、太老様が伝えたかったことの意味が隠されていた。

 ――仲間との絆、協力し合いことの大切さ

 それを太老様は、私達に教えてくれた。

 ――こうして軍の主戦力が集う『国境警備隊』に任官することが出来たのも
 ――『ハヴォニワの三連星』と大層な二つ名で呼ばれるようになれたのも

 全ては太老様の教えがあったからだ。

「やろう! ユキノ、ミナギ、私達の力を太老様に証明するために!」

【Side out】





【Side:太老】

 こちらの予想通り、コノヱとは別行動を取って飛び出してきたタツミ達。
 しかし、どういう訳か、ユキネには脇目も振らず、俺の方に真っ直ぐ向かってくる。
 コノヱの方は、どうにかユキネが抑えてくれているようだが、あちらもこちらと同じような作戦を考えていた、と言う事か?

「縦一列に!?」

 間違いない、もしやと思っていたが、三位一体のフォーメーションと言えば、これを置いて他にはない。
 元祖『黒い三連星』が得意とした波状攻撃、ジェットストリームアタックだ。
 あの三人がこの技をどこで知ったかは分からないが、『ハヴォニワの三連星』などと呼ばれている理由にも納得が行く。

「だがっ! 甘いぞ!」

 縦一列に隠れることで後ろの機体の姿を隠し、相手をかく乱。
 その上で時間差攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろうが、その戦法は熟知している。

『ジェットストリームアタック!』

 声を合わせ、気合いを入れ直して向かってくる三人。
 剣を振り下ろし、先制攻撃を仕掛けてくるタツミの攻撃を跳んで回避し、俺は彼女の聖機人の頭を踏み台にして更に高く飛び上がる。

『私を踏み台にした!?』

 そのまま後ろに、銃を構えて隠れていたユキノの機体を蹴り飛ばし、更に後方にいたミナギの機体の腕を掴んで二人のところに放り投げた。

『うわっ!』
『きゃあ!』

 それは、あの伝説のシーンの再現だった。
 俺の身体能力と、予め戦法を熟知していたが故に可能だったことだ。見事に、俺の目論見は成功した。
 地面に勢いよく叩き付けられて、目を回している三人に、俺はすかさず距離を取って銃口を向ける。
 コクピットに当てるつもりはない。降伏を促すための威嚇射撃だ。

「――!」

 ――ズドオオオォォン!
 威嚇射撃……のつもりだったのだが、ライフルの銃口から放たれた一撃は、俺の想像を超える威力の物だった。
 三人の聖機人の上を掠め、後方に配置されていたメテオフォールの足を打ち砕き、更に渓谷の分厚い岩壁を粉々に粉砕する。

「えっと……」

 出力が落ち、バランスの崩れたメテオフォールが、渓谷の岩壁にもたれかかるように倒れ込み、その動きを停止した。
 物凄い地響きが轟き、一瞬にしてその場は混沌とした状況に陥ってしまう。
 慌てた様子で騒ぎ立てる兵士達。無理もない。難攻不落と謳われた要塞が、聖機人の銃撃一つで行動不能になったのだから。
 いや……さすがに銃の一撃で、こんな事になるなんて予想出来ないだろ?

『――太老様、お覚悟!』
『待って! コノヱ!』

 コノヱの聖機人が直ぐそこまで近付いていた。
 騒ぎに乗じ、ユキネの隙をついて、彼女の聖機人を振り切ってきたようだ。
 コノヱの後ろから、ユキネの聖機人が追ってきていた。

 だが、この距離は既にコノヱの間合いだ。ユキネは間に合いそうにない。
 俺は直ぐ様、銃剣を構えようとするが、よく見ると先程の一撃に耐えきれず、砲身がドロドロに融解していた。
 銃身の半ばから先が、完全に溶けてなくなっている状態だ。

『そんな物で!』

 俺は使い物にならなくなった銃剣をコノヱに投げつける。
 手にしていた聖機人の巨大な刀で、投げつけた銃剣を真っ二つに叩き斬るコノヱ。
 この程度では足止めにもならないことは承知していた。ほんの少し、注意を逸らし、時間を稼げればよかった。
 尻尾を大きく振りかぶり、俺はそれをコノヱの聖機人にではなく、足下の地面に叩き付ける。

『なっ! ぐあぁ――っ!』

 農地開拓の時にやったアレと同じだ。
 尻尾の威力で大量の土砂が宙を舞い、その濁流がコノヱの聖機人を呑み込む。
 直接攻撃出来ないまでも、間接的に他の物を用いれば動きを封じる程度のことは可能だ。

『ま、まだ! この程度ではっ』
「――!」

 しかし、コノヱは諦めていなかった。
 大量の土砂に埋もれながらも、刀の切っ先を向け、俺の聖機人目掛けて突き出す。
 土砂の間を縫って、俺の聖機人の肩に直撃するコノヱの刀。

 ――バキン!

『そんな!』

 しかし、その執念の一撃も虚しく、黄金の聖機人は傷一つなく、刀の方が粉々に砕け散った。
 いや、正確にはかなりの衝撃が、俺の聖機人の方にも伝わっていた。
 機体の方は傷を負っていないが問題は――

「機体限界か……」

 コノヱの聖機人は、半身が土砂に埋まって身動きが取れない状態で、ユキネに銃口を突きつけられていた。
 しかし、俺の聖機人も肩から腰元にかけて黒ずみ、機体の方が既に限界に達している。

『やはり、敵いませんでしたか』
「いや、コノヱさんも凄かったよ。一撃もらっちゃったし……それに俺の機体もこの状態じゃ引き分けでしょ」
『ご謙遜を……しかし、太老様の力、確かに見せて頂きました』

 コノヱの一撃は、俺に届いていた。
 最後の執念の一撃が、俺の機体を限界にまで消耗させたのは間違いない。
 チーム戦である以上、ユキネが残っている時点で俺達の勝利ではあるが、これで彼女に勝ったとは、胸を張って言う気にはなれなかった。

「しかし、やってしまったな……」

 勝負の決着は一応ついたが、問題は岩壁にもたれかかるように倒れているメテオフォール≠フ方だった。
 不可抗力とはいえ、やってしまった物は仕方ない。
 フローラやマリアに怒られることを、覚悟しなくてはならないだろう。

「はあ……とは言え、一番怒らせたくないのは水穂さんなんだけど」

 小言の一つや二つで済めばいいが、今はこの先のことを思うと、色々と不安でならなかった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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