※本作品は『異世界の伝道師』0話からの分岐IFルートです。 先に『異世界の伝道師』の本編0話をご覧になることを強くオススメします。



【Side:太老】

  目が覚めたら、どこか見知らぬ街に居た。

「どこだよ。ここ……」

 地球に似ているが、どこか違う。文化レベルは高い。
 高層ビルの立ち並ぶ、その近代的な街並みの雰囲気は、東京などの大都市に見受けられる光景だ。
 だが、明らかにここは日本ではない。どこか、どこかおかしい。動く歩道や、風力発電のプロペラ程度なら、地球でも、それなりに見受けられる光景だろう。
 しかし、街中を巡回するドラム缶のような奇妙なロボット。こんな物が存在するなどと、噂にも聞いたことがない。
 挙句には、そのロボットに『IDヲ提示シテ下サイ』などと丁寧な機械口調で話し掛けられ――

「ID? 何、それ?」

 と言うと、追いかけられた。それも群になって。
 その後も、変な腕章を付けた学生服を身にまとった連中に追い回され、中には手から炎を放つような奴や、触れてもいないのに物を飛ばしてくるような、とんでもないのも混じっていた。

(どこの超能力者集団だよ……)

 現在、俺は建設中と思しきビルの屋上に身を潜めていた。
 何故、俺はあの変な集団≠ノ追い掛け回されないといけないのか? 何も理解できないまま、俺はここにいる。
 まあ、似てはいるが、明らかにここ≠ヘ地球ではない。気を失っている間に、どこかに飛ばされたと考えるのが妥当だ。
 その原因には心当たりがありすぎる。この元凶は間違いなく、あの 鷲羽(マッド) ≠ノ違いない。
 鬼姫から解放されて、ようやく自由になれると開放感に包まれていたと言うのに――

「俺の自由を返せ――っ!」

 鷲羽(マッド)への怒りから、隠れていることも忘れ、大声で叫んでしまった。

「あなたですわね。街を騒がせている不法侵入者と言うのは」

 どこから現れたのか? 何の前触れもなく、俺の後ろに突然現れたツインテールの少女。
 やはり、彼女も学生服を身にまとっている。肩には先程、俺を追い回していた連中と同じ、白い四本のラインが入った緑の腕章。肩口の見える位置に、盾のようなマークが入っているのが確認できる。
 どこかの学校の生徒? それにしても侵入者と言うのはなんだろう?
 少なくとも、ここは学校≠ノは見えない。これほどの大都市≠学校などと、冗談もいいところだ。

「不法侵入者?」
「しらばっくれますの? ここが学園都市≠セと知っていて侵入したのでしょう?」

 学園都市? 一体、何のことだ? いや、待てよ……?
 どっかで聞いたことある気がするんだが、学園都市、それにさっきの変なロボット。
 そんなの『天地無用!』に出てきたか? 全然、覚えがないんだが、何故か俺は知っている気がする。

「まあ、そんなことはどうでもいいですわ。抵抗すると言うのなら、その身柄――」

 瞬間――少女の姿が文字通り、その場所から掻き消えた。

「拘束させてもらいますっ!」

 早いなんてものじゃない。次の瞬間には、少女は俺の背後を取っていた。
 しかも、すでに飛び蹴りを放つ態勢に入っている。パッと頭を過ぎったのは空間移動能力者(テレポーター)
 似たようなことをするのは身近にもいたが、見た目、中学生程度の少女に、そんな芸当が出来るなどと誰が思うだろう。

「な――っ!?」

 だが、まだ甘い。瞬間移動は厄介な能力だが、攻撃の速度自体が早くなる訳じゃない。
 攻撃に転じる一瞬の隙――その動作が俺には手に取るように分かる。
 仮にも、もっと人間離れした文字通り怪物≠フような連中を相手にしてきた、この身だ。
 ただ、目に見えないくらい素早く動ける程度≠フ女子校生に負けてやるほど、俺は甘くはない。
 彼女の飛び蹴りに合わせるように掌底を放ち、そのまま咽元を掴んで地面へと押し倒す。

「――きゃっ!」

 少し力任せに押し倒してしまったせいか、衝撃を殺しきれず、背中を強打させてしまったようだ。
 さすがに、女の子にするような攻撃じゃなかった。先に攻撃を仕掛けてきたのは彼女だとは言え、罪悪感が沸々と込み上げて来る。

(しかし、学園都市、ロボット、 空間移動能力者(テレポーター)か……)

  今更だが、嫌な予感しか頭に浮かんでこない。

「あの……ちょっといい?」
「何ですの!? クッ――このくらいで勝ったと!」
「いや、もう抵抗する気はないから、ほらっ」

 そう言って、彼女の拘束を解き、両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。
 胡散臭そうな視線を俺に向けながら、ゆっくりと立ち上がる少女。まあ、先程まで敵対してた上に押し倒されたのだ。警戒されていて当然だ。
 ただ、あそこで拘束を解くことで俺にメリットなどない。次に空間移動能力(テレポート)を使用される前に、気絶させることだって俺には出来た。
 頭は悪くないようだし、自分が不利だと言うことは理解しているのだろう。
 これなら、話を聞くくらいはしてくれそうだ。

「ちょっと、聞きたいんだけど、ここは学園都市≠ナあってるんだよね?」
「……そうですわ。知ってて侵入したんじゃありませんの?」
「じゃあ、俺の名前は正木太老(まさきたろう)=Bキミの名前は?」
「はあ!? こんな時にナンパですの? お生憎ですけど、わたくしにはお姉様≠ニ言う――
 それは、あなたの何万倍も素晴らしい、心に決めた方がすでにいますの。冗談は顔だけにしてくださいませ」
「酷い……」

 だが、これで決定的だろう。
 彼女の言うお姉様≠ニ言うのは、おそらくは御坂美琴(みさかみこと)≠フことで、彼女はあの白井黒子(しらいくろこ)=A本人だと言うことだ。
 だとすれば、この世界は――

「とある魔術の禁書目録……」
「何ですの? それは?」

 いや、『とある科学の超電磁砲』の方か? どちらにせよ、あの世界に間違いはないだろう。
 厄介なことになった。『天地無用!』の世界の次は、科学≠ニ魔術≠ェ混在する異世界とは……。
 こんな面倒な世界に放り込んでくれた鷲羽(マッド)への怒りと、そして自分の運の無さを、ただ嘆くしかなかった。

【Side out】





異世界の伝道師外伝
とある樹雷のフラグメイカー 第1話『とある異世界の来訪者』
作者 193






【Side:黒子】

「まったく……何なんですの、あの男は」

 油断していたとは言え、わたくしを軽くあしらうほどの実力を見せておきながら、約束通り、警備員(アンチスキル)に引き渡すまで一切の抵抗を見せようとはしなかった。
 逆に、わたくしの怪我を心配する始末。多少、強く背中を打っただけだと言うのに……。
 それに、その程度で済んだのも、地面に叩きつけられる直前、咄嗟に彼が手を引き衝撃を逃してくれたからだと、わたくしは気付いていた。
 この風紀委員(ジャッジメント)大能力者(レベル4)空間移動能力者(テレポーター)の白井黒子が、手加減をされたばかりか、情けをかけられたのだ。

「一体、何者ですの?」

 自画自賛する訳じゃないが、風紀委員(ジャッジメント)の中でも、それなりの実力者だと言う自負がある。
 大能力者(レベル4)と言うのは伊達ではない。無能力(レベル0)低能力(レベル1)異能力(レベル2)強能力(レベル3)大能力(レベル4)超能力(レベル5)と続く中の、上から二番目に位置するあの大能力者(レベル4)だ。
 戦闘に特化した能力ではないとはいえ、そこらの並の能力者には負けないと言う絶対の自信があった。
 実際、これまでにも多くの犯罪者を取り締まり、捕縛してきた実績がある。中には強能力(レベル3) の能力者もいたが、一度たりとも負けるようなことはなかった。
 にも関わらず、彼には勝てなかった。いや、彼が本気なら、今頃はこうして息をして立っていることは出来なかったはずだ。
 一切、能力を使った気配などなく、体術だけで、わたくしを圧倒した男。

「正木太老……とか言ってましたわね」

 警備員(アンチスキル)に引き渡したのだ。
 もう二度と会うこともないだろうが、お姉様以外で、わたくしに『敗北』と言う名の土をつけた男の名だ。
 簡単に忘れられるはずもなかった。


   ◆


「――って、何でここ≠ノいるんですの!?」

 一晩中、夢でうなされ続ける原因となった件の人物が、わたくしの目の前にいた。
 しかも、昨日のことなど何もなかったかのように、ケロッとした表情でバナナクレープを美味しそうに頬張っている。
 昨日、あれだけ騒動を起こしておいて、警備員(アンチスキル) に引き渡した後だと言うのに、何故、昨日の今日で当人がここにいるのか?
 まさか逃げてきた? と考えたのだが、すぐにそれを本人は否定した。

「ああ、一日、検査やらなんやら受けさせられてね。
 その後、解放してもらった。あと、ほれ、IDもちゃんとあるぞ」
「…………」

 そう言って差し出されたカードを、わたくしは訝しげな表情でマジマジと観察する。
 偽造IDでもない様子。近くを徘徊していた警備ロボットを捕まえ、身元照会を取らせてみたが、確かに正木太老の身分は保証されていた。
 しかし、何故? IDを持っていたのなら、あんな騒ぎを起こす必要などなかったはず。

「ああ、実はこっちに来て受け取ったばかりのIDカードを紛失してしまってね。
 気付いたら変なロボットに追い掛け回されてるわ、その腕章をつけた学生達に追われてるわ、で――」

 彼の説明を聞いて、何と傍迷惑な、と思わずにはいられなかった。
 確かにそれならば、あの時に言葉通り抵抗しなかったのも頷ける。
 警備員(アンチスキル)から、こんなにも早く解放されたことからも、IDを紛失していただけと言うのも本当なのだろう。
 それならそうと、あの場で正直に話してくれればよかったものを――

「いや、血相を変えて学生服の連中とロボットは追い掛けて来るし――
 それに、先に攻撃を仕掛けてきたのは黒子ちゃん≠カゃないか」
「それは、逃亡中の危険な犯罪者と報告を受けてましたし……と言うか、何故、わたくしの名前を知っているのですか?」

 わたくしはあの時、彼に名前を名乗ってはいない。
 極自然に『ちゃん』付けで名前を呼ぶものだから、聞き逃すところだった。

「あ……えっと、あの後、警備員(アンチスキル)の人に聞いたんだ」
「……まあ、いいですわ。そう言うことにしておきましょう」

 嘘か本当かは、ここでは判断のしようがない。
 まさか、警備員(アンチスキル)の人達に、そのようなことを一人ずつ聞いて回る訳にもいかないだろう。
 それに、この様子では、何を聞いても本当のことを話す気などないに違いない。
 IDも正規の物だし、学園都市の規律を乱していない限りは、風紀委員として彼を取り締まれる立場にもない。
 疑問は残るが、この場は彼の言葉に従って、大人しく身を引くことにした。

【Side out】





【Side:太老】

 咄嗟に吐いた嘘で何とか納得してもらえたが、危ない危ない。思わず名前で呼んでしまった。
 こっちは原作知識から彼女のことを知っているが、向こうは知らないんだもんな。今度からは気をつけないと――
 しかし、最初は警備員(アンチスキル)に連れて行かれた時はどうしようかと焦ったけど、意外と話の分かる良い人達で助かった。
 誠心誠意、自分から侵入するつもりだったのではなく、鷲羽(マッド)のせいで故意ではなく事故で迷い込んでしまったと説明すると、どうやら分かってくれたようで、簡単な身体検査と事情説明をするだけで解放してくれた。
 しかも、学園都市で使用できるIDと、行く当てもないと言うことで当面の生活費まで援助してくれるだなんて、思っていたよりもずっと良い人達だ。
 原作を詳しく知っている訳じゃないが、もっと裏の方は殺伐とした印象を持っていたので、意外と拍子抜けだった。
 きっと、鷲羽(マッド)に弄ばれる俺の事情を知り、同情してくれたのだろう。

「黒子に男の知り合い何て、珍しいわね。まさか……」
「お姉様っ! 違いますわよっ!? そんなこと、天変地異が起こってもありえませんわ!」

 言われずとも分かっていた事とは言え、ここまで徹底的に否定されると、さすがに傷つく。
 黒子と親しげに話をしている少女。彼女が私立常盤台(ときわだい)中学校のエース、学園都市、二百三十万人の頂点に立つ七人の超能力者(レベル5)
 その一人に数えられている第三位、『超電磁砲(レールガン) 』こと御坂美琴(みさかみこと)=B
 ようはビリビリ中学生≠セな。メインキャラ中のメインキャラ。沸点も低そうだし、余りお近付きになりたい人物ではない。
 とは言っても、挨拶もしないのでは失礼だろう。まあ、何事も、近寄り過ぎず、遠過ぎずが一番だ。
 例え何があっても、あの『不幸だ』と年中叫び捲くっているトラブルメイカーこと上条当麻(かみじょうとうま)≠ェ、面倒なフラグを根こそぎ引き受けてくれるはず。

「昨日、一騒動あって黒子ちゃんには迷惑を掛けてね。それでお互いに少し♀轤知ってただけだから」
「少し≠ヒえ……」

 訝しげな表情で、俺を品定めでもするかのように視線を泳がせる美琴。
 黒子に悪い虫でも憑いたかどうか、心配しているのか? だとしたら、意外と良いお姉様をやっているみたいだ。
 まあ、確かに黒子は美少女ではあるが、俺としてはそんな死亡フラグ満載のお付き合いは御免被りたい。
 主要キャラ、しかも風紀委員(ジャッジメント)の彼女と付き合うなんてことになれば、平穏な生活とはお去らばだ。
 ただでさえ、トラブル続きで気が滅入っていると言うのに、これ以上、非日常的な生活に自分から足を踏み入れたいとは思わない。

「まあ、いいわ。御坂美琴よ。えっと……」
「正木太老、太老でいいよ」
「そ、正木。あ、黒子! アンタ、勝手に私のクレープをっ!?」

 このビリビリ。人の話を全然聞いてないな。
 黒子は黒子で、俺と美琴が話をしている隙をついて、美琴が手に持っていた食べかけのクレープに手を付けていた。
 抜け目がないと言うか、やはり、こう言うところが白井黒子≠スる所以なのだろう。
 そういや、黒子って真性≠フ百合属性℃揩ソだったっけ? 原作でも『お姉様』って五月蝿かった憶えがある。
 何だ、最初から脈なしじゃないか。心配する必要もなかったようで安心した。

「あ! 白井黒子さん、それに御坂美琴さんも」

 一つのクレープを取り合う黒子と美琴の間に割って入った声。
 俺達は声の主を探して視線を移動させる。そこには頭に花を乗せた奇妙な少女が、こちらを向いてペコリとお辞儀をしていた。

「あら? 初春(ういはる)じゃありませんの」
「あ、えっと……初春飾利(ういはるかざり)≠ウんだっけ? 黒子と同じ風紀委員(ジャッジメント)の」
「は、はい! 覚えていてくださったんですね」

 余り記憶にないが、彼女にも見覚えがあるような気がする。
 まあ、俺にとっては十年以上も前の記憶だしな。細部まで覚えている方が不思議なんだが――
 俺を置いてけぼりで、他愛のない世間話を始める三人。まあ、それはそれでいいんだが、俺はこのまま帰ってもいいのだろうか?
 一応はIDと一緒に、しばらく住む場所も提供してもらった。そこまではよかったのだが、何分、見知らぬ大都会。道に迷って途方にくれていたところに、このクレープ屋を見つけ、休憩を取っていたところで黒子に出くわしたと言う訳だ。
 黒子に道を聞いてもよかったんだが、美琴には警戒されている様子だし、この調子だと話も何時終わるか分からない。
 やはり、ここは他に人を捕まえて、道を聞いた方が早いかも知れない。
 とは言っても、そっと消えたのでは、次に会った時に何を言われるか分からない。
 どうしようかと腕を組み、思案していた時だった。

「あれ? 白井さん」
「何ですの?」
「あそこの銀行、何で昼間からシャッター閉めてるんですかね?」

 初春が小首を傾げながら、その銀行の方を指差した瞬間だった。
 大きな爆発音が周囲に木霊し、銀行のシャッターが爆発で粉々に弾き飛ばされる。

『――!』

 どうやら銀行強盗のようだ。
 モクモクと立ち上がる煙の中から、口元を布で覆い、顔を隠した三人組の男が、それぞれ大きな鞄を手に銀行から飛び出してきた。
 あの鞄に、強奪してきた金が入っているのだろう。しかし、今時、古典的な強盗もいたものだ。
 すかさず、慣れた様子で初春に避難誘導の指示を出し、自分は犯人を捕まえるために飛び出していく黒子。
 こう言う荒事には慣れている様子だ。でなければ、学園都市の風紀委員(ジャッジメント)は務まらないのだろう。
 美琴は黒子に釘を刺されたようで、ウズウズとした様子で自分も出て行きたいのを我慢している様子。
 まあ、彼女が風紀委員(ジャッジメント)ではない理由を差し置いても、黒子の空間移動能力(テレポーター)と違い、美琴の電撃使い(エレクトロマスター)では周囲へ与える影響も相当に違うに違いない。
 学園都市の治安を守るはずの風紀委員が、逆に街を破壊してたんじゃ世話ないしな。

風紀委員(ジャッジメント)ですの! 器物破損、強盗の現行犯で拘束します!」

 肩の腕章を見せ、声高々に強盗の三人に宣言する黒子。

 これが俺と、不思議な力を持つ能力者≠フ少女達との、数奇な物語のはじまり。
 後に『フラグメイカー』と言う二つ名≠ナ呼ばれることになる、俺の出発点(スタートライン)でもあった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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