【Side:佐天】

 昨日の夜、いつものように都市伝説の掲示板を覗き、噂になっている幻想御手(レベルアッパー)の情報をパソコンを使って探していた。
 虚空爆破(グラビトン)事件や、先日の妹達(シスターズ)と呼ばれる御坂さんのクローンの一件。無能力者(レベル0)の私では、ただ傍観者として見ていることしか出来ず、結局何の役にも立つことが出来なかった。
 御坂さんは今更説明するまでもなく、学園都市最強の超能力者(レベル5)。あの名門、常盤台中学を代表する『超電磁砲(レールガン)』だ。
 そして白井さんも、常盤台中学に通う大能力者(レベル4)風紀委員(ジャッジメント)のエースと目される空間移動能力者(テレポーター)
 あの二人は、能力(レベル)差など気にせず、友達として気さくに接してくれているが、やはり見ているモノ、住んでいる世界が私とは違う。
 それに初春は、低能力者(レベル1)とはいえ、風紀委員(ジャッジメント)をやっていけるだけの、それなりの技能(スキル)を持っている。白井さんの相棒(パートナー)というだけのことはある。

 ――結局、何もないのは私だけか

 それが、能力というものに強い憧れと、コンプレックスを抱く、私の心から出た本音だった。
 初春や、白井さん、御坂さんのことが嫌いな訳じゃない。とても良い人達だと思うし、私も友達になれてよかった、と心の底から思っている。
 でも、やはり心の奥底にある劣等感≠セけは隠しきれなかった。

 私だけが何も出来ない。何の力も持っていない。
 学園都市に選ばれて、自分も超能力者になれるんだって、そう思った時は凄く嬉しかった。でも、現実はそれほど甘いものではなかった。
 初めての身体能力(システムスキャン)で押されたのは、無能力者(レベル0)≠フ烙印。
 超能力に憧れ、家族と離れ、夢を抱いて学園都市の門を叩いた私。しかし、現実はそんな私の夢を真っ向から否定し、粉々に打ち砕いていった。
 私は何のために学園都市(ここ)にきたんだろう? そんなことを考えながらも、一度思い描いた夢を、憧れを諦め切れなくて、私は今もここにいる。

幻想御手(レベルアッパー)?」

 そんな時、偶然見つけた夢への片道切符。
 ネットを徘徊し、何気なく見つけた隠しリンクをクリックすると、捜し求めていたそれ≠ヘあった。
 欲しかった物、望んでいた物、憧れた物、その全てが今――私の手の中≠ノある。

 しかし偶然耳にしてしまった話。
 最近になって、また初春が忙しそうにしているので理由を聞いてみると、幻想御手(レベルアッパー)を探しているという。しかも、幻想御手(レベルアッパー)には副作用がある可能性が高いので、その所有者を見つけ保護するといった話だった。

「結局、言い出せなかったな……」

 初春や白井さんが必死になって、今も幻想御手(レベルアッパー)を探している。
 私が持っていることを教えれば、捜査は確かに進展するだろう。だけど、その代わりに折角手にした機会(チャンス)を失うことになる。
 とても、自分勝手な理由だとは思う。得体の知れない物を使うのは怖いし、苦労して身に付けるはずの能力を楽に手にしよう、って考えが間違っているってことは分かっている。
 でも――努力しても、どうにもならない壁。決して埋まらない、生まれ持っての才能の差。
 何の才能もない、能力を持たない私にとって、幻想御手(レベルアッパー)は最後の希望≠セった。

「生まれ持った才能の差は、受け入れなきゃいけないってこと?」

 右手に握られた携帯音楽プレイヤー。普段、私が持ち歩いている持ち物(アイテム)だ。
 問題は、この中に入っている曲にあった。ピピッと指先で操作して、目的の楽曲(タイトル)を呼び出す。
 そこには、『幻想御手(レベルアッパー)』の文字。

「……折角、見つけたんだもん」

 まだ、一度も使っていない幻想御手(レベルアッパー)を見る。
 使う勇気もない、話す勇気もない、でも私には、この手の中の希望≠捨てることはきっと出来ない。

【Side out】





異世界の伝道師外伝
とある樹雷のフラグメイカー 第23話『幻想御手』
作者 193






【Side:太老】

 ちゃっかりと、俺達と相席をして珈琲(コーヒー)を注文する木原。
 黒子は木原を警戒して俺の隣に席を移し、今は俺と黒子、その向かいに木原と、テーブルを挟んで重苦しい空気が漂っていた。

「率直に言うぜ。俺はてめェに興味ある」
「…………は?」

 身を乗り出し、俺の眼を見てそう言う木原。
 はっきり言って、男に告白されても全然嬉しくない。しかし、この真剣な表情、どうやら冗談ではなさそうだ。
 変態だとは思っていたが、まさか本物≠フ変態だったとは……。

「すまん……俺はお前の気持ちに応えられない」
「そう言うなよ。俺はオマエの体≠ノ興味があるんだ」

 木原の発言に、思わずドン引きしてしまった。体に興味あるって……やはり真性のホモ≠セったようだ。

 ――俺の隣には真性の百合属性を持つ黒子が
 ――目の前には真性のホモ属性を持つ木原が

 一転して変態に挟みされるような状況に陥るとは、以前から不幸だ不幸だと思っていたが、ここまでとは――やはり、呪われているのではないだろうか?
 上条当麻の不幸など、今の俺に比べれば、まだ生易しいものだと本気で思う。
 女にモテないことは自覚していたが、まさか男に求愛されることになるなんて……。
 前にぶちのめした時に頭でも打って、本当におかしくなってしまったか?

一方通行(アクセラレーター)もイイ体してたが、てめェはそれ以上みたいだからな。騒ぐんだよ、俺の血が」

 と、心配したのだが前言撤回だ。以前から、こうだったようだ。
 俺が原因で、変な道に目覚めしてしまったか? と心配したが、心配するだけ無駄だったらしい。

「悪いが、俺にその気はない。他を当たってくれ」
「そう言う訳にはいかねェんだよ。俺が一度決めたんだ。てめェが首を縦に振るまで、付き合わせてもらうぜ」

 何と言う、木原主義(ジャイアニズム)。俺としては迷惑極まりない。

「……上に確認を取ってみましたが、きちんとした手続きを経て、彼は釈放されてましたわ」
警備員(アンチスキル)は何で、こんな危険人物を野放しにするかね?」

 黒子が携帯電話を片手に、大きく嘆息し、残念そうにそう呟いた。
 科学者としては優秀という話だが、人間として色々と間違っている上に、真性のホモとくる。
 大方、統括理事会辺りが手を回したのだろうが、こんな変態を野放しにするとは迷惑極まりない話だ。

(……掘るなら連中の(ケツ)でも掘ってろよ)

 どうせ追いかけるなら、逆さの人の尻でも狙ってくれ、本気でそう思わずにはいられなかった。

【Side out】





【Side:黒子】

 木原数多――学園上層部直轄の暗部を指揮していた男が、突如目の前に現れたことには驚いた。
 彼は、他の関係者と一緒に学園都市内にある収容施設に居るはずだ。それが何故?
 わたくしは木原を警戒をしながらも、確認のために警備員(アンチスキル)の支部に連絡を取った。

「……上に確認を取ってみましたが、きちんとした手続きを経て、彼は釈放されてましたわ」
警備員(アンチスキル)は何で、こんな危険人物を野放しにするかね?」

 案の定、木原数多の釈放は上からの指示だったようだ。
 太老の言うように、こんな危険人物を野に放つなど、上は何を考えているのか?
 木原数多の狙い。考えられることは、わたくし達の監視。いや、木原の言葉を額面通りに受け取るならば、太老の監視役としてこの男が上層部から送り込まれた、と考えるべきだろう。
 特に何のお咎めもなかったとはいっても、あの一件でわたくし達は上層部――統括理事会に睨まれることになった。
 表立って強硬的な手段に訴えて来ないのは、妹達(シスターズ)の暴走と、それを掌握している太老の力を警戒しているからに違いない、とわたくしは推察していた。

(確かに……彼等からしてみれば、太老は扱いの難しい存在ですし)

 正木太老を中心に、大能力者(レベル4)一万人という、下手をすれば学園都市中を相手に出来る戦力が集まっている。
 その上、彼の手札はそれだけではない。学園都市第一位の『一方通行(アクセラレーター)』とも関係があり、犬猿の仲といった感じだが学園都市第三位『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴お姉様とも友人関係にある。
 彼等にしてみれば、学園都市にも、国家にも、どの組織にも属さない強大な勢力が、自分達の膝元(テリトリー)を徘徊しているのだ。
 そのことを考えれば、警戒するのは当然のことだ。
 監視役に木原数多を寄越したのは、わたくし達への警告も兼ねているのだろう。

「どうせ狙うなら、逆さの人≠ナも狙ってくれない?」
「あ? やっぱてめェ、アレイスターのことも知ってやがったか。
 しかし、奴を狙うね……なるほど、てめェの本当の狙いはそこか」

 逆さの人? アレイスター? 狙う? わたくしには、その符号が何を意味するのかは分からない。
 しかし、二人の間では会話が成立しているようだ。
 やはり太老は、まだわたくし達には話していない、大きな秘密がある。それも、木原のこの驚きようから察するに、学園都市の根幹に深く関わる重要な何か知っている可能性が高い。
 妹達(シスターズ)の一件も、太老からしてみれば、その流れの中の一幕に過ぎないのだろう。

(……思っていた以上に、ずっと根深い問題のようですわね)

 これ以上先は、所詮は一学生に過ぎない風紀委員(ジャッジメント)如きが、踏み込んでいい領域ではないように思える。
 わたくしが決死の覚悟を持って垣間見た学園都市の裏の姿ですら、目の前にいる彼等からしてみれば、闇のほんの一端に過ぎないのかもしれない。
 それでも、わたくしにはこのまま太老に全てを任せ、ぬくぬくと表の世界で生活を続けることは出来そうもなかった。
 太老がわたくしのことを想って涙してくれたように、わたくしの中で太老は、お姉様や初春達と同じように大切な存在になっている。
 これがお姉様や初春達の言うように、本当に恋心なのかどうかは分からない。でも、わたくしは太老に居なくならないで欲しい、ずっと傍に居て欲しいと思っていた。
 それが、今回の事件を通して、わたくしが自覚した気持ちだ。

 今回のようなことが繰り返されれば、いつか遠くない未来に、太老がわたくし達の目の前から居なくなってしまう。
 何も告げず、忽然と姿を消してしまうのではないか? という不安があった。
 だからこそ、わたくしは太老を放って置けないのかもしれない。彼を失うことが怖いのだ。

「――子、黒子どうした?」
「あ……な、何でもありませんわ。それよりも幻想御手(レベルアッパー)のことを」

 太老に名前を呼ばれ、ハッと我に変える。
 今、そのことを考えても仕方ない。木原のこと、これからのこと、考えるのは目の前の事件を解決してからだ。
 何があっても、わたくしが風紀委員(ジャッジメント)であることに変わりはない。
 初春と誓い合った約束、風紀委員(ジャッジメント)の教え。

 ――己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし

 わたくしは自分の信じた道を、正しいと感じた行動をこれからも取り続ける。
 ある意味で、自然とそうした行動を取ってしまう太老は――わたくしの目指す理想≠サのモノだったのかもしれない。

【Side out】





【Side:太老】

 取り敢えず、黒子が持って来た資料を基に、幻想御手(レベルアッパー)の取引現場を押さえようという話になった。
 初春がネットの書き込みなどを基に調べ上げてくれたという資料には、幻想御手(レベルアッパー)の裏取引の現場と思われる場所と時間が、無数に記されていた。
 一緒に取引されている相場なども記されているが、大体が数万から十数万で取引されているようだ。
 本来なら数年掛けて、じっくりと開発していくはずの能力を、何の努力もなしに一気に引き上げられる夢のようなアイテムだ。欲しがる奴は後を絶たない、ということなのだろう。
 しかし、これを放置することは出来ない。幻想御手(レベルアッパー)の後遺症として意識不明者が出ている以上、その使用を止めさせないと、とんでもないことになる。

「じゃあ、木原、これお前の分。ちょっと多いけど、よろしくな」
「――って、何で俺がこんなことを!?」
「勝手について来てるんだから、手伝うのは当たり前だろ。大体、お前には貸しはあっても借りはない。
 嫌なら、警備員(アンチスキル)権限で逮捕したっていいんだぜ? お前みたいな奴は、叩けば幾らでも埃がでるだろうしな。
 ああ、何なら先日のセミヌード写真を、学園都市中にばら撒いてやってもいいぞ」
「くっ――やっぱり、イイ性格してやがるな……随分と悪辣じゃねェか」
他人(ヒト)のことを言えないだろうが、誰に喧嘩を売ったと思ってるんだ?」

 変態や外道に容赦する寛大な心は持ち合わせていない。
 ましてや、俺の体≠狙っているような変態には余計だ。

「手分けした方が早いですわね」
「そうだな。じゃあ、二時間後に、もう一度ここのファミレスで落ち合うってことで、一度バラけるか」
「チッ! しゃーねェな」
「あ、言っておくが殺すなよ? 重要な証人なんだからな」

 渋々と言った様子で了承しながらも、舌打ちをする木原。
 釘を刺しておかないと、木原なら平然とした顔で相手を亡き者にしてしまいそうだ。
 警備員(アンチスキル)の仕事の一環である以上、捜索は真面目にするが、さっさと面倒なことは終わらせてしまいたい、というのが俺の本音だ。
 別に悪党の擁護をするつもりはないが、折角の情報源を殺されてしまっては元も子もない。

「では、二時間後に――」

 黒子の言葉に頷き、それぞれの獲物を求めて散り散りになる俺達。

 ――幻想御手(レベルアッパー)事件
 この事件が、あんな予想もしない最悪の事態≠呼び起こす事になるとは、この時は思いもしなかった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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