何とか美兎跳から逃れる事に成功した。
 あのままなし崩し的に掃除を手伝わされ続ければ、どこに連れて行かれるか分かったモノじゃない。
 俺は原作の天南みたいに銀河清掃ツアーに出る気は毛頭無かった。

「とはいえ、ここって何処なんだ?」

 完全に迷子になってしまった。衣装に着替える時、着ていた服と一緒に端末もうっかり置いてきてしまったし、現在位置を確認する術がない。
 一先ず人の居るところに出ない事には、元の場所に戻る事もままならない。入り組んだ樹の迷路。それに祭りの賑やかさは疎か、人の気配が一切しない。かなり会場から離れてしまった可能性が高かった。

「まさか我々が、こんなルートを使って侵入してくるとは鬼姫も思っていまい」
「情報通り、会場の警備は厳重だからな。この通路は樹雷黎明期に作られた物だという話だが――」
「ん?」
『なっ!』

 通路をあちらこちらに迷いながら歩いていると、目の前からきた変なオッサン達とバッタリ遭遇した。
 何だか妙に驚いた様子のオッサン達。様子がおかしい――

「ああ、なるほど。迷子か」

 俺以外にも迷子になってる人がいるとは思わなかったが、それならば納得が行く。
 本当なら関係者の一人として案内をしてやりたいところだが、俺も迷子である以上どうしてやる事も出来ない。

「な、何者だ! 貴様!」
「え? ただのサンタクロースですけど」

 そう俺の姿はどこからどう見ても紛う事なきサンタクロースだった。
 そう言えば、宇宙の人は地球の文化のサンタクロースなんて知らなかったんだっけ。
 ここは簡単に説明するためにも、サンタクロースがどういうものかを分かりやすく教えてあげるべきだろう、と考えた。
 本来なら子供にしか渡さない物なのだが、袋に入ったプレゼントを目の前のオッサン達にも分けてやる事にした。
 これならサンタクロースがどういうモノか、言葉で細かく説明されるよりも分かり易いはずだ。

「はい。どうぞ」
「な、何だ。これは……」
「プレゼントですよ。サンタクロースって言うのは特別な日に、子供達にプレゼントを配って回る仕事なんです」

 ポカンと呆けている大人達にプレゼントの箱を配って回る。
 全員分を配り終えると、一仕事終えた後のような達成感が込み上げてくる。

「――メリークリスマス!」

 何とも充実した気分だった。

【Side out】





異世界の伝道師/鬼の寵児編 第53話『赤い服の爆弾魔』
作者 193






【Side:水穂】

『追跡していた侵入者を発見したのですが、既に何者かにやられた後で全員が気を失っていました』
「……え?」

 現場は爆発に見舞われた後のように吹き飛んでいたらしく、そこに問題となっている侵入者達も倒れていたとの話だった。

「一体誰がそんな事を……」
『分かりません。仲間割れという可能性も考えられますが、実は他にも数件同じような報告が――』

 爆弾魔の犯行と思われる事件が次々に報告に上がってきていた。
 しかしそれらは全て一般人を狙った犯行ではなく、侵入者や犯罪者に狙いを絞ったモノだった。
 女官達は何れも心当たりが無く、しかもその爆弾魔の足跡すら追えない状況だ。

『私達の目を欺き痕跡を一切残さない手際の良さからも、かなりの手練れの犯行と思われますが、どう致しましょう?』
「引き続き捜査をお願い。今はいいけど、一般人に被害が及ばないとも限らないし」
『了解しました』

 部下に命令を飛ばし、引き続き犯人の捜索に当たらせる。それでなくても、今日は侵入者の件に混じって犯罪者の捕縛報告が多い。
 かなり余裕を持たせて人員を配置しているはずなのに、これでも全く人手が足りてない状態だった。
 しかし、これだけ次々に予想外の事態が起こるのは、やはり――

「太老くんの能力の仕業かしらね……」

 海賊艦の件や以前のアカデミーの件を考えれば、それが一番可能性が高いだろう、と考えていた。
 それに太老くんの捕獲命令が瀬戸様から出されている。
 太老くんの姿を見失ってから、もう直ぐ四時間。パーティー開始の時間まで残り一時間を切った。
 それまでに無事に見つかればいいが圧倒的に人手は足りていないし、この様子だと余り期待は出来そうになかった。

【Side out】





【Side:鷲羽】

「魎呼。アンタ、私がここに置いといた荷物を知らないかい?」
「んなの、あたしが知るかよ。どっかに置き忘れてるんじゃねーのか?」
「そんなはずはないんだけどね」
「何が入ってたんだよ」
「爆弾」
「ば、爆弾だぁ!?」

 確かに白い袋に入れて置いておいたはずなのだが、いつの間にか無くなっていた。
 爆弾とは言っても殺傷能力は無く、対象をビックリさせて気絶させるだけのトラップアイテムだ。
 本体もプレゼント箱に偽装してあって、ちょっとした余興にも使えるように作ってあった。

「な、何でそんな物を……」
「実験して使えそうなら、新しい捕獲用トラップに使おうと思ってね。瀬戸殿が今面白い事をやってるから触発されちゃって」
「だから『マッド』なんて呼ばれ――ぐはッ!」

 ――ゴン、と良い音が響いた。金タライを魎呼の頭の上に落下させる。全く学習能力の無い子だ。
 樹雷で行われているクリスマスパーティーの話は私も知っていた。
 参加したかったのだが、今の仕事が終わるまではここを離れる訳にはいかない。
 なので太老捕獲用トラップ≠フ実験がてらパーティーの余興として瀬戸殿にでも、このトラップアイテムを送ってやれば喜ぶか、と考えて用意したのだが――

「鷲羽様……その袋って、もしかしてこれと同じような白い袋≠ナはありませんか?」
「ああ、それだ。何でノイケ殿が?」
「実は水穂様に頼まれて、イベントで使う子供達のプレゼントを用意したのですが」
「まさか……」
「はい。多分一緒にその袋も転送されたのではないかと……」

 まずい事になった……と二人して冷や汗を流す。ノイケ殿も、私と同じ事を考えたに違いない。

「直ぐに水穂様にご連絡します。まだ配り終えていなければよいのですが……」
「そうだね。あれを子供達が手にしたら大騒ぎだよ」

 殺傷能力は無いとは言え、見た目の派手さは本物の爆弾とさほど変わらないように作ってある。
 何も知らない人がそれを見たら、爆弾テロと間違えて大騒ぎになってもおかしくはない。
 何で、そんな物騒な物を作ったのかって?
 この私が市販品と変わらないような、中途半端な物を作る訳がないじゃないか。
 片手間の作業だろうが、例えそれがパーティーグッズ≠ナあろうとも一切手を抜くつもりはない。
 とは言え――

「……何だか嫌な予感がするね。特に今回ばかりは」

 必要な実験とはいえ、今回は危険を承知の上で意図的に確率の天才≠天樹へと集めていた。
 この観測結果次第では、太老の能力の解明が大きく早まる可能性が高かったからだ。
 多少リスクはあるが瀬戸殿なら上手くやってくれるだろう、という期待もあった。しかし――

(私とノイケ殿も、知らず知らずの内に影響された可能性が高いね。こりゃ……)

 確率の天才の恐ろしさを改めて自覚させられる話だった。

【Side out】





 簾座連合の支配宙域から樹雷領宙の天樹に向かって、光速に近い速度で飛行している一隻の船の姿があった。
 ローレライ西南の船『守蛇怪』。魎皇鬼の妹とも言える生体ユニット『福』を、コンピューター兼動力炉とする哲学士『白眉鷲羽』の開発した船だ。
 そしてその守蛇怪に融合している物こそ、山田霧恋(旧姓正木霧恋)の船『瑞輝』のコアユニット。第二世代の『皇家の樹』と呼ばれる物だった。更に言うなら、その中に固定された亜空間には西南の『神武』も鎮座していた。
 使い方によっては銀河支配すら夢ではない過剰とも言える大戦力。それが樹雷の首都『天樹』へ向けて進路を取っていた。
 その理由は久し振りの長期休暇を利用して、地球に里帰りをするためだ。そしてその途中、火煉(かれん)珀蓮(はくれん)翠簾(すいれん)玉蓮(ぎょくれん)の四人に頼まれたお土産を持って、瀬戸の待つ樹雷へと向かっていた。

「久し振りね。里帰りは――」
「でも、その前に樹雷に寄らないと。火煉さん達に頼まれた簾座のお土産を瀬戸様達に渡さないといけませんし」
「全くあの娘達も自分達で直接渡せばいいのに……」
「でも、支部を留守には出来ませんし……」
「いいえ、違うわ。あれは瀬戸様に会いたくないだけに決まってるわ」

 西南のフォローも何て事はない。霧恋は簾座連合に残った四人の事を思い出しながら、腹立たしそうに愚痴を溢す。
 確かに誰かが支部に残らなくてはならないのは確かだったが、あの四人がそれを自分達から申し出たのは瀬戸と顔を合わせたくないからだと霧恋は思っていた。
 一応の話し合いで決着はついたと言っても、結婚式当日に火煉達簾座組の四人が西南を拉致した事実は変わらない。
 瀬戸も簾座との交流の切っ掛けになればと考え、それを承知の上で泳がせていたのだが――
 多少なりとも負い目を感じている四人が瀬戸との接触を避けたがっているのには理由があった。

 簾座との交流の切っ掛けを作ったのは言うまでもなく山田西南の存在があってこそなのだが、その後の簾座との交流の窓口として最前線で働かされていたのは火煉達四人だった。
 西南を手に入れるために四人が払った代償はとても大きく、それはまさに悪魔との取り引きと言っても過言ではない物だった。
 常人の三倍。いや十倍は密度の濃い仕事を、この十年余り殆ど休み無しで課せられてきた辛い思い出。
 手にした幸せと同じくらい辛く険しい試練を課せられてきた四人にとって、瀬戸は文字通り鬼門≠ニも言える存在だった。
 会いたくない一番の理由は、これ以上面倒な仕事を押しつけられたくない、というのが本音だろう。
 霧恋もその事が分かっているだけに、その面倒事≠押しつけてくれた火煉達に不満を漏らさずにはいられなかった。
 樹雷の鬼姫と関わり合いになりたくないのは、何も火煉達ばかりではないからだ。

「西南様。これなんて如何ですか?」
「いや、こっちの方がいいだろう?」
「ダメだよ。絶対にこっちの方が似合ってる!」

 久し振りに帰省する、しかも樹雷に寄るという事で西南の洋服選びに余念がないリョーコ、雨音、ネージュの三人。
 洋服を手にした三人に詰め寄られて苦笑いを浮かべる西南。霧恋はそんな様子を見て、いつもの事と呆れた表情を浮かべていた。
 こうしたところは出会った当時から全然変わらない。少し変わったところがあるとすれば、ネージュの背が伸びて見た目が少し大人っぽく成長した事と、西南も背が伸びて以前に比べたらずっと男らしく成長した事くらいだ。
 もっとも人がよい性格までは変わらないし、相変わらずの『不幸』振りは健在だ。

 白眉鷲羽曰く――霧恋、雨音、リョーコ、ネージュの四名は山田西南の確率変動値を抑える事が出来る。
 あくまで全員の確率変動値を相互干渉させ中和しているだけの話であって、西南が不幸を引き寄せる体質である事に変わりはないのだが、それでも最悪の事態に及ぶ可能性は抑えれる。こうして霧恋達四人がついてきたのも、火煉達が大人しく残ると言った事もあるが西南のそうした『不幸』による影響を少しでも抑えるためでもあった。
 だと言うのに――

「皆、仕事よ。海賊艦を発見。数は二十」
「たくっ、折角の休暇だっていうのに……遠慮のない連中だな」

 霧恋の報告を聞いて、雨音は不満一杯に愚痴を溢す。他の二人も大きく溜め息を溢すところを見ると、気持ちは一緒のようだった。
 簾座を出たのは二週間前。もう、とっくに樹雷に到着していても不思議ではないのだが、まだ宇宙を彷徨っている原因はこの海賊艦との遭遇頻度にあった。
 これで何回目の事か? 数えるのもバカらしくなる数の海賊艦と戦闘を繰り返し、ようやく天樹の目前まで到着したというのにまた海賊艦発見の報告だ。雨音達が愚痴を溢したくなるのも無理はない話だ。

「艦長、どうしますか?」
「取り敢えず進路をそっちにやってください。樹雷に向かうのはその後って事で」
『了解!』

 ここからなら樹雷まで、もう一時間も掛からない距離だ。
 さっさと片付けて樹雷へ向かおうと考えた西南だったが、なかなか目的地に着かない焦りもあったのだろう、この時ばかりは自分の『才能』を甘く見ていた。

 その先に時を同じくして天樹へと向かっている一隻の船。
 確率の偏りを持つ二人の天才。『偶然』と『不幸』の邂逅が近付いていた。





 ……TO BE CONTINUED



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