【Side:太老】

「太平要術の書?」
「ええ。以前ここにあった古書なのだけど、賊に盗まれてから行方知れずなのよ。あなたのところなら、その手の情報は集まりやすいのではないかと思って」

 ここでその話が登場するとは思ってもいなかった。実際には、すっかり忘れていたのだ。
 原作では『太平要術の書』を張三姉妹が手に入れて、それを使って黄巾党の勢力を拡大したという話があった。
 しかしこちらでは歴史が大きく変わってしまった所為で、そもそも黄巾党その物が存在しないし張三姉妹も俺が知っている限り、そんな書を商会に加わってから使ったような形跡はない。
 正木商会が出来る前に既に手に入れていたのだとしたら所持している可能性はあるが、本人達に訊いて見ない事には何とも言えなかった。

「頼む、御遣い殿。力を貸してもらえないだろうか!?」

 謁見の間に呼び出されて何事かと思えば、華琳に太平要術の書の事を尋ねられ、そして今度は華佗に膝をついて頭を下げられていた。
 さすがにここまでされれば協力しない訳にはいかない。華琳の面目もあるだろうし、華佗とはそれほど面識がある訳ではないが悪い人物じゃないのは分かっている。土下座までされて話も聞かずに断ったのでは後味が悪すぎる。

「分かりました。協力しますから、頭を上げてください」
「本当か!?」
「それと俺の事は名前でいいですよ。その呼ばれ方は余り慣れてないんで……」
「すまない! 恩に着る正木殿!」

 本当は下の名前でもよかったのだが、俺が良いと言っても真名とかを気にする人は名字で呼ぶ人も少なくない。
 まあ、『天の御遣い』よりはマシだ。それでいいかと諦める事にした。

「それで、なんでそんなに必死にその書を探してるんですか?」
「それなのだが――」

 どうも、『太平要術の書』というのは相当に危険な代物らしいというのは華佗の話からも分かった。
 妖力やなんだの話が出て来たが、特に胡散臭い話だとは思わない。魑魅魍魎を操れる魎呼だっているくらいだし、俺の世界ではアストラルに関しても研究が進んでいたほどだ。
 魂や気といった物も全て科学的な観点から実証が済んでいるので、俺も大体の仕組みは理解している。人心を決まった方向に導く力があるという事は、俺達の世界でいうところのメルマスの巫女が持つ集団意識の操作≠ノ近い精神操作系の能力なのかもしれないと考えた。
 ただ話に聞いている限り、あれほど強い力と言う訳でもなさそうだ。意思をねじ曲げたり持って行くというよりは、心の弱い部分につけ込み不安を煽ったりマイナスの感情を増幅する力といった方が近いようだった。
 元からそうした感情を持っていない人物には効果がないとはいえ、確かにこの世界では危険な代物である事に変わりはない。
 漢王朝の腐敗により官は力を失い、盗賊や山賊といった匪賊が我が物顔で跋扈する時代だ。それにエン州は俺が行った土壌改良などが効果を表し影響を殆ど受けていないが、他の州では満足に作物が育たず天候不良や虫害などの影響で飢饉が起こっているところもあるという。
 官に対する不満。そして明日食べる物にも困る有様では、人々の不安は増すばかりだ。

(なるほど、確かに厄介な事になりそうだな)

 張三姉妹が持っていればいいが、そうでなかった場合、別のカタチで黄巾の乱と同じような事件が起こる可能性がある事に気付かされた。
 残念ながら、俺の商会に大陸全土の民を養ってやるほどの力はない。エン州や近くの集落から流れてくる行商人や難民を受け入れるだけで精一杯なのが現状だ。それは華琳の力を借りたところで同じ事だろう。
 最初から生活能力のある商人達ならまだマシだが、戦に巻き込まれ田畑や家を焼かれて何もかも失った農民や、賊や飢饉から逃れ着の身着のままで流れてきた難民達など、そうした者達に仕事を与え生活を保障してやるのにも限界がある。
 まず一番簡単なのは俺のところなら自警団として、華琳のところなら兵として雇い入れる事だが、兵とは非生産的なモノだ。そうした生産の伴わない物に、バランスを崩してまで必要以上の力を入れる訳にはいかない。商人達から出資を募ったところでそれにも限度があるし、治安を維持するためにより多くの出費が嵩んだのでは結局意味がなくなってしまうからだ。

 それに幾ら農地を開拓したところで、そちらにも限界がある。
 直ぐに作物が育つ訳ではなく、その間は流れてきた人達の住居や生活の面倒を見てやる必要があり、そこでも物と金が必要となってくる訳だ。
 金と資源は有限だ。その中で受け入れられる範囲を決め、遣り繰りをしながら何とかやっていくしかない。
 正直、今のエン州の人口増加は異常な域にある。人が増えればそれだけ活気も増すが、度が過ぎればそれは猛毒にも成り得る。かといって助けを求めてきた人達を見捨てるような真似も出来ず、バランスを取るのが非常に難しかった。
 今、うちの商会でも急ピッチで農地開拓を進めているが、そこにはそうした人口の増加に伴う食糧不足の問題をどうにかしようという狙いがあった。
 水の問題と同じだ。食べ物と水。最低でも、その二つが無ければ人間は生きてはいけない。
 農地開拓と平行して漁業に狩猟。そして酪農や家畜も拡大を進めていた。今はそのために必要な道具を優先して技術開発局には製作させているところだ。

「太平要術の書の事は分かった。出来るだけの協力はするよ」
「ありがたい! 正木殿、俺に協力できる事があったら何でも言ってくれ、微力ながら力になる」
「その機会があったら、遠慮無くお願いします」

 華佗は医者だと言うし、役に立つ事もあるだろう。今は猫の手でも借りたい忙しさだ。
 我ながら本当によく働いていると思う。まあ、華琳が全面的に協力してくれると約束してくれているし、自然とその辺りの問題も解決してくるだろう。とはいえ、やはり戦争は避けられないという認識は俺も持っていた。
 策を講じてどうにか出来る段階にあればいいが、もうそうした段階をこの世界は通り過ぎている。黄巾の乱が起こる起こらないは別として、漢王朝が滅びるのはもはや避けられない運命だ。
 そうして朝廷が完全に力を失えば、確実に戦乱の時代はやってくるはずだ。

(何でこんな面倒な世界に飛ばされたんだろうな……)

 言っても始まらない事だが、やはり溜息を漏らしたくなる。
 ただ平穏に過ごしたいだけなのに、これじゃあ絶対に叶いそうにない。
 華琳と華佗の話を聞きながらこの半年の事を振り返り、まだまだ道程が遠い事を改めて自覚した。

【Side out】





異世界の伝道師外伝/天の御遣い編 第11話『噂の実力』
作者 193






【Side:桂花】

「くっ……」

 悔しいが正木太老に協力して一緒に仕事をして分かった事がある。
 戦場ではどうかは分からないが、政治……特に経済の分野に置いてあの男は確かに優秀だ。半年で商会をあそこまで押し上げたのは間違いなく正木太老の求心力と実力である事は疑いようがなかった。
 私は華琳様の軍師だ。戦いだけでなく、経済、政治全てに通じる知識を兼ね備えているという自負がある。
 それでも、あの男の作る計画書や出してくる案は私の想像を上回るモノばかりで、基礎にある知識や考え方からして何もかもが私達とは違い過ぎる事に気付かされた。

「やっぱり凄い……どれだけ知恵を絞っても、この数字を私は出せない」

 まるで何百年、何千年も先の時代の人間と話をしているかのような違和感。ここと正木太老の住んでいた国とでは、どれだけの文明の差があるのか私には想像も付かない。
 経験に基づいた深い知識と技術の差を見せつけられ、自分の未熟さを思い知らされたようだった。
 軍師として一人の文官として、これほどの屈辱はない。バカにしていた相手が自分よりも優れていたなんて、それを思うと惨めでしかなかった。

「荀イク、ちょっといいか? 東地区の開発の件で相談があるんだけど」
「……はい」

 目の前の男を見て思う。少なくとも華琳様の目に誤りはなかったという事だ。
 男である事はこの際置いておくとして、正木太老が有能な人材である事は誰の目にも明らか。城の文官達もその知識の深さと実力を見せられ、次第に正木太老の存在を認めていった。いや、認めざるを得なかった。
 非常に不本意だが、正木太老の存在は華琳様の力となる。他の諸侯を経済的にも軍事的にも大きく引き離す事が出来る有利な条件を得たのは確実だ。
 物に金に、そして人。その全てがこのエン州に集まって来ている。
 今の私達の力では扱いきれるか分からない大変な状態ではあるが、これを乗り越える事が出来ればきっと華琳様の覇業の大きな助けになるはずだ。そして、そのためにはあの男の力が必要だという事は私も分かっていた。
 感情では気に食わなくても理性ではあの男が必要な事、そしてその実力を私は誰よりも認めていたのだ。

「なるほど、参考になったよ。荀イクを紹介してくれた華琳と秋蘭さんには感謝だな」
「……何で」
「ん?」
「何で、私の事を真名で呼ばないのよ! 華琳様にも言われたんでしょ! あてつけのつもり!?」

 今思えば、あれもこれも全部焦りだったのかもしれない。
 今まで自分が担ってきた役目が正木太老によって脅かされ、華琳様の心が私から離れていく事を何よりも私は恐れていたのだ。
 現に過程は違うが、結果的にそれと近い状態に私は追い込まれている。華琳様にはもう、私は以前のように必要とされていないのかもしれない。正木太老の事を知れば知るほどに、その想いは強くなっていった。

「いや、そんなつもりはないけど。真名で呼んで欲しいのか?」
「嫌よ! 嫌だけど仕方が無いじゃない!」
「じゃあ、別に荀イクでいいじゃないか。嫌なのにそう呼ばれたってイライラするだけだろ?」
「でも、それじゃあ華琳様に――」
「華琳が何を言ったかは知らないけど、そう言うのって命令でする事じゃないだろ?」
「え……?」
「荀イクが真名を許してくれるまで俺は真名で呼ぶつもりはないし、荀イクだって俺の事は好きに呼べばいい。畏まって『御遣い様』とか呼ばなくたっていいんだから。ってか、気持ち悪いからやめてくれ」
「……気持ち悪いって」
「背中がむず痒くなるんだよ。そう呼ばれ慣れてないのもあるけど、お前の場合、明らかに嫌々呼んでるだろ? まあ、嬉々として呼ばれてもそれはそれで引くんだが……」

 本当に失礼な奴だった。でも……私の事を気遣って言ってくれているんだ、って事くらいはさすがに私でも分かる。
 嫌いだけど、凄くむかつくけど、こいつは自分から私に嫌な事をしない。無理強いをする事もない。
 でもそれが余計に私の劣等感を刺激する。本当に私は何をやってるんだろう、と自分でも自分の事が嫌になるくらい、その事ばかりを繰り返し悩んでいた。

「怒りっぽいのはカルシウムが足りてない証拠だな。魚を食え。いや……牛乳を飲んだ方がいいか?」
「カルシウム? それにどこを見て言ってるのよ……」
「うん。やっぱり、その方がらしい≠じゃないか。一々、口調を改めようとするな。丁寧語も背中が痒くなるから」
「ううぅ……私の気も知らないで」
「はあ……お前も俺の気持ちをもう少し分かってくれ」

 私が出来るだけ言葉遣いに気をつけて感情を抑制しているのは、華琳様にそんなところを見られたくないからだ。
 これ以上、華琳様の心象を悪くするような行動を取りたくはなかった。
 先程の発言だって、ギリギリの線だと自分で自覚している。こっちは抑えるので必死だというのに、この男は――

「平行線だな……この頑固者め」
「そっちこそ……素直に私の真名を呼びなさいよ」
「呼んだら怒るんだろ?」
「嫌に決まってるでしょ!」
『はあ……』

 幾ら問答をしても、どっちかが折れるような事はなかった。
 というか、そもそも私はなんでこんなアホらしい言い争いをしているのか、それすらも分からなくなってきた。
 結局、私達の話し合いは決着がつかないまま、次回に持ち越しとなってしまった。これも正木太老が城に滞在して、十日ほどずっと続いている事だ。
 早く仲良くなったところを華琳様にお見せしたいのに、私の苦難の道程はまだまだ続くようだった。

【Side out】





【Side:太老】

 荀イクの言ってる事が支離滅裂すぎて、俺には理解不能だった。
 真名で呼んだら嫌だと言う癖に、俺に真名で呼べという。で、『真名で呼んだら怒るだろ?』と尋ねたら『嫌よ!』と言うし、本当にどうしていいか分からない。仕事は出来るし、確かに有能なのだが怒りっぽいというか色々と人格に問題がある人物だった。

「あれじゃあ……彼氏も出来ないよな。ああ、男嫌いだったっけ……ううむ」

 原作でも確か男嫌いかなんかで主人公を困らせていた記憶があるし、まあアレが地なんだろうと納得はしているが、無理に作り笑顔で『御遣い様』とか敬語を使うのだけは本当にやめてもらえないだろうかと思う。
 あれだけは気持ち悪い、というか本当に怖い。チクチクと俺に精神攻撃を仕掛けてくる上に、それを言っても絶対にやめてくれる気配はない。まだあれなら春蘭のように実力行使で来られる方が遥かにマシだ。

「仕事は出来るんだけどな……」

 とはいえ、仕事は出来るから今のところ荀イク以上の人材は思い当たらない。多分、稟や風よりも単純な能力だけでいえば荀イクの方が上だ。教えた事はスポンジに水を吸い込ませるかのようにどんどん吸収していくし、何よりも早速それを仕事に応用する柔軟性と発想力の高さは目を見張るモノがある。政治、経済両方に精通し、書類整理を始めとする執務能力も相当のものだ。
 ここの仕事量を見て思ったが、荀イクが居なかったら文官達を始め華琳も過労で倒れているのではないか、と思えるほどの仕事振りだった。

「あれで、もう少し人並みに人付き合いが出来ればな……」

 あの性格がマイナス要素になっている分、色々な面で相殺してしまっていて非常に勿体ない。
 でもまあ、荀イクなら問題なく頼りになる。仕事の面に関しては取り敢えず問題はないだろう。

「商会に戻るそうね」
「華琳か。ノックくらいしろよ?」
「ノック?」
「俺の国の風習で扉を軽く叩いて来意を知らせるんだよ。着替え中とかだったら困るだろ? 俺の着替えを覗きたいというのなら別に構わないけど……」
「なっ――そんなの見たい訳がないでしょ!」

 失礼な。まあ、見たいと言われても困ってしまうのだが――俺は露出狂ではない。さすがに貂蝉や卑弥呼みたいには成れないしな。
 しかし不意を突かれて、いつになく動揺した感じで顔を真っ赤にして慌てる華琳が、普段とのギャップもあって少し可愛かった。
 こうしていると、『治世の能臣、乱世の奸雄』と呼ばれているあの曹孟徳には見えない。年相応の女の子だ。
 こんな時代、こんな世界で無ければ、彼女も一人の女性として幸せを掴む事が出来たのだろうか?

『魔法少女しにかる☆華琳参上! べ、別にアンタを助けにきたんじゃないんだからね!』

 ――いや、全く想像出来なかったので、この話はなかった事にしよう。
 そもそも、これでは魔法少女であって普通の少女ではない。というか、なんでツンデレ?
 覇王と呼ばれる『曹孟徳』の顔も、『華琳』という小さな一人の少女も、どちらも彼女自身である事に変わりはない。
 結局のところ時代云々は関係なく、どこに居ようとこの少女は変わらない、自分の考えや生き方を曲げない気がした。

「何だか、変な事を考えてない?」
「いや、そんな事はないよ? 商会に戻る件だっけ? 明日にはここを発つつもりだけど」

 勘が鋭いようで……さすがは曹孟徳と言ったところか?
 まさか、『魔法少女姿の華琳を想像してました』なんて口が裂けても言えるはずもない。怒るのが目に見えている。

「何だか誤魔化された気がするのだけど……いいわ。責任者が居なくて開発計画の方は大丈夫なの?」
「荀イクに任せてあるから大丈夫だと思うよ。こっちも一ヶ月ほどで戻ってくるつもりだし、その間に商会の設備も準備が済みそうだから」

 華琳の所有する屋敷の一つを譲り受け、そこを改装して商会の本部にする事にした。
 その改装作業や手配しておいた資材などの搬入に後一ヶ月ほど掛かるという事で、その時間を利用して一度商会に戻り、あちらの引き継ぎや片付けを済ませて来ようと考えていた。城で手配してもらった早馬を出して稟宛の手紙を届けてもらってあるので、大体の事情は察して準備を進めてくれているはずだ。
 ついでに華佗に頼まれた太平要術の書の件もある。張三姉妹にその事を尋ねない事には話が進まない。
 さすがにあれだけは手紙で済ませられるような内容でもないしな。

「一ヶ月か……丁度良いわ。私も一緒に行くわよ」
「……へ?」
「何よ? 嫌なの?」
「嫌とかそう言うのじゃなくて、公務はどうするんだ? 一ヶ月も留守にして大丈夫なのか?」
「開発計画の件は桂花に任せて大丈夫って、あなたが自分で言ったんじゃない。それに私の判断が必要な案件は今朝までに終わらせてあるわよ。念のため秋蘭は残して行くし、文官達もあなたのお陰で仕事の効率が以前よりも格段に上がっている、何も問題ないわ。あなたに触発されたのもあるんでしょうけど、あの便利な道具が作業効率の向上に一役買っているようね」
「それじゃあ、最近忙しそうにしてたのって……」
「ええ、そろそろ一度商会に戻る頃だろうと思って、それに付いていくつもりで公務を調整していたの」

 そこまで準備万端に整えられた後とあっては断るに断れない。
 まあ、連れて行く事は別に構わないのだが、何でそんなについて行きたがるのか?

「一度、あなたが発展させた商会や街を見ておきたいのよ。話を信じていない訳ではないのだけど、この目で確認して置かないと安心できない主義でね。後は他にも良い点があれば、積極的にこの街にも取り入れていきたいと思って。話に聞くのと実際に現物を見るのとでは感じ方も違うでしょう?」

 それは確かに一理あった。華琳の言うように実際に見るのと話に聞くのとでは、見え方も感じ方も変わってくる。
 それに商会の設備は、俺もそこそこ自慢できる物ばかりだ。見られて困るような物はないし、特に問題はないはずだ。
 例え断ったところで、この唯我独尊お姫様は勝手に付いてくるのだろうし、反抗するだけ無駄と言うモノだ。
 最初に『一緒に行くわよ』と言った時点で尋ねている訳ではない。あれは単なる確認だ。そこが華琳らしいと言えばそれまでなんだが……。

「それじゃあ、凪と風はこっちに残していくよ。風には荀イクの補佐をしてもらわないといけないし」
「ええ、それじゃあ……春蘭も残していった方がいいわね。護衛には季衣を連れていきましょう」

 兵の調練の方は大分カタチになってきたようだし、ここで時間を空けるのは余り好ましくない。だから凪には残ってもらわないと困る。
 それに荀イクが幾ら有能だとはいっても、十日やそこらでは商会のやり方や俺の考え方に慣れていない所為もあって、何か問題があった時にトラブルへの対処に不安が残る。その点、風は稟と一緒に半年もの間、商会で働いていた実績があるのでその辺りの事には慣れているし経験も荀イクよりもある。補佐役としては適任だろう。

「それじゃあ、後は華佗と……卑弥呼か」
「まさか、あれも連れて行くつもりじゃ……」
「華佗も来るなら確実に付いてくるだろ? 嫌なら説得してくれるか?」
「……無理。あなたが説得なさいよ!」
「それこそ、無理だ。いやまあ、服装が変だったり変態だったり筋肉だったり気持ち悪かったりするけど、それさえ我慢できればそう悪い奴じゃないと思うぞ?」
「それだけ我慢しないといけない時点で大問題よ!」

 さっきよりも激しく声を荒らげ、顔を真っ赤にして抗議する華琳。
 華琳の気持ちも分からないではないが、卑弥呼の嫌われ方は半端ではなかった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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