【Side:太老】

 華琳に告白された。とはいえ行き成り『夫になれ』とか言われても、こちらは混乱するばかり。どう考えても変だ。
 知り合ってからまだ一ヶ月も経っておらず、一目惚れと言うには無理があるのは誰よりも俺が自覚している。
 言ってて悲しくなるが、前世から数えて彼女居ない歴ン十年。俺がモテるなどと自惚れてはいないつもりだ。
 第一、華琳は好色家という話を聞いている。しかも男ではなく女好きと言う話で、自分の閨には女しか入れないという噂だ。
 そんな華琳が男に興味を持つ? いや、まずありえない話だろう。
 なら、『夫になれ』とはどういう事なのか、頭を捻って考えてみた。その結果――

 ――正木商会を取り込みたいのではないか?

 という結論に達した。
 俺が言うのもなんだが、正木商会は当初の予想を大きく超えて強い影響力を持つ勢力に成長した。いや、今も成長を続けていると言った方が正しい。
 商会に所属する商人の数は日を追う毎に増え続けている。
 この街がここまで急激に成長した背景には、近隣の邑から人が流れてきた影響だけでなく、ここでしか手に入らない物や知識を求めて商人達が集まってきたためだ。

 俺達だけで商会を大きくするには人数的にも資金的にも限界がある事は最初から分かっていた。
 そこで俺がとった方式は、技術開発局で商品として開発された物を順に、営業のノウハウから商品を提供する権利の全てをパッケージ化して正木商会の商会員になった商人達に教え込む事だった。

 ――料理の屋台を出したい物にはそれに関連した知識を
 ――貴族や豪族向けに装飾品やカラクリ細工を販売したい物にはその技術と商品の提供を

 販売数に応じて対価を支払う事を約束をさせ、それを実行させた。所謂フランチャイズ経営という奴だ。
 そうした商人達が市を形成し、その商品を目当てにやってきた貴族や豪族、行商人が街を訪れる事で金が集まる。
 街が潤えば人も増え、結果的に商会の力も増していくと言う訳だ。

 それに、やはり一番の成功の秘訣は商会という制度その物にあると考える。
 商会員から会費というカタチで資金を募り、それを元に自警団の運営や新商品の開発、更には農業を充実させるために農地開拓や肥料開発と言った物に使用し、食糧の確保と労働力の充実を図った。
 まずは農業。収穫高が低い根本的な問題の一つに休耕もせず無茶な農作を続けた結果と言うのがある。後もう一つは、まともな肥料が何一つ無かった事だろう。
 前者は輪作を指示し徹底させる事で休耕せずに連作障害を減らし、新しく作成した肥料を素に土壌改良を行った。商会で作成した農作機や耕具も生産性のアップに繋がっている。僅か半年余りで、この辺りの豪族の支配地域は見渡すばかり畑一色だ。商会も旨味を得ているが、彼等自身もそれによる利は得ているので文句が出るはずもない。

 難民の多くは、その日食べる物にも困り果て流れ着いた者が殆どであるため、『衣・食・住』この三つさえきちんとしてやれば殆どの者は文句一つ言わず黙って働いてくれる。寧ろ、命の恩人として感謝されるくらいだ。
 最低限の食生活は保証される上、収穫高に応じて給金が支払われるシステムを採用しているため、頑張れば頑張っただけ自分に返ってくる見返りが大きいという訳だ。今では実にエン州の三分の一に上る農業に商会が関与している。
 一回目となる収穫が先日行われたばかりだが、華琳が俺を呼び出す原因となったのもその収穫高にあった。他州が不作続きで苦しんでいるという状況の中、エン州の収穫高は例年の二倍強だ。
 俺の予想では一年後には今の十倍の収穫高にまで引き上げる自信がある。開拓速度に肥料の生産が追いつかず肥料不足が起こっているほどで、商人達に依頼して肥料の原材料を各地から買い付けさせているほどだ。それだけ今の商会は勢いづいていた。

 恐らく華琳はそこに目を付けたのだろう。華琳は確かに一角の人物ではあるし、その部下も有能な人材ばかりだ。
 しかし絶対的に足りない物がある。それが資金力と生産力、それを可能とする技術力だ。
 華琳は確かに為政者としては優秀で、民のために有用な治政を行っていると俺は考えている。
 だがそれでも現状では、河北の袁紹や河南の袁術に比べれば圧倒的に劣る弱小勢力だ。所詮は地方の一州牧に過ぎない。覇王とは言っても、まだ飛び立つ前の雛に過ぎず、今彼女がすべき事は理想に向かって羽ばたくその日まで力を蓄える事だ。
 その地力を底上げするために、この商会の力を欲しているのだろう、と考えた。

 とはいえ、行き成り『夫になれ』というのは話が飛躍し過ぎだと思う。それに華琳に手を出してしまったら男として色々と負けな気がする。
 風と殆ど変わらない小さな身体。胸は風よりも若干あるが、それでも少女≠ニ言って良い華奢な体つきをしている。
 少女は確かに好きだ。幼女を愛でるのは大好きだ。しかし俺は可愛い物が好きなだけであって、決してロリコンではない。ポリシーとしては『イエス・ロリータ・ノータッチ』と言う物に共感する部分があるが。
 少女とは愛でるモノ。性の対象としてみるなど言語道断。紳士として絶対に許されない行為だ。
 俺は未成熟な身体に欲求不満をぶつけたり、手を掛けるような節操無しではない。なので、華琳に返す言葉は一つしか無かった。

「そういう話は、もうちょっと成長してからな」

 女としての魅力が無いとまでは言わないが、今の華琳と付き合う事も出来なければ結婚する気も当然おきない。
 確かに合理的な手段ではある。しかし現実主義なのはいいが、もっと自分を大切にして欲しいと切に願う。
 政略結婚の必要性は俺も理解しているつもりだが、華琳ならそんなモノに頼らなくてもなんとか出来る力があると俺は思っているからだ。

(それに今、華琳と結婚なんてしたら平穏どころじゃないしな……)

 華琳の提案を承諾できない一番の理由はそこにあった。
 覇王の夫と言う肩書きがどれだけ重い物か考えると俺には受け入れられない。俺は商売でもしてマッタリ平穏に暮らしたいのであって、華琳のように大陸を統一したいという大層な理想がある訳ではない。
 華琳に協力するとは言ったが、それはあくまで俺の目的を叶えるために一番の近道だと考えたからだ。
 降りかかる火の粉は当然振り払うが、自分から率先して関わるつもりはなかった。

(今は保留だな。数年経ったら、華琳の考えも変わるかもしれないし)

 これから華琳は覇王として大陸に名を馳せて行く事になる。
 その頃には商会の力など借りなくても自分でなんとか出来るようになっているだろうし、考え方も変わってるだろう。
 据え膳食わぬは男の恥――などという言葉があるが、それが猛毒と分かっていて食らいつくほど俺はバカではない。
 トラブルの種と分かっていて華琳を受け入れる事が出来るほど、俺には度胸も甲斐性もなかった。

【Side out】





異世界の伝道師外伝/天の御遣い編 第15話『平穏への第一歩』
作者 193






【Side:華琳】

 太老にフラれた。
 いや、厳密に言えば少し違うのかもしれないが、告白を断られた事には違いない。

『そういう話は、もうちょっと成長してからな』

 今の私では自分に釣り合わないという太老。この曹孟徳を恐れず、そんな大それた態度を取れるのも、やはり太老ならではだった。
 太老の言いたい事も分かる。今の状態では確かに交渉とは言えない。
 太老にも利はあるかもしれないが、商会の力や天の御遣いという名が持つ影響力を考えれば、私の方が多く得をするのは確かだ。
 それに私は覇を唱えていても、胸を張って誇れるような実績を何一つ上げてはいない。今のエン州があるのも、半分以上は太老の力に頼った物だと私も自覚している。
 力尽くで話を進めたところで、決して太老は首を縦には振らないだろう。
 一度でも対等である事を認めた以上、権力に任せていう事を聞かせるのは私の望むところではない。

 ――俺をモノにしたければ力を示せ

 太老は、私にそう言いたかったに違いない。あれは太老からの挑戦状と私は受け取った。
 商会を物にし太老を縛るのであれば、太老を夫として迎えるのが最善の策ではあるが、それはあくまで目的のための手段でしかない。
 それにあそこまで言われて力尽くで従属させるなど、私の誇りが許さない。

(絶対に認めさせてやるわ)

 太老に実力を示し納得させた上で、必ず私の物にしてみせる、と心に誓った。
 寧ろ今回の件で、その意欲が掻き立てられたと言う物だ。
 この曹孟徳。一度欲しいと心に決めた物は、どれだけ困難な物であろうと必ず手に入れてみせる。
 そのためにも、まずは目の前の問題を片付けなくてはならない。遠くを見すぎて足下がおぼつかなければ、それこそ未熟者と笑われても仕方の無い話だ。
 理想を口にするだけなら誰にでも出来る。だからこそ、誰もが認めざるを得ない最高の結果を持って実力を示す、それが私のやり方だ。

「朝廷からの軍令か。賊徒を平定せよね……」

 今朝、商会に陳留からの早馬が到着した。届けられた書簡には、都からの軍令が下った事が記されていた。
 遅すぎる対応と言わざるを得ないが、それが今の朝廷の実力。軍令である以上、一諸侯に過ぎない私は動かない訳にはいかない。
 だが、これはまさしく待ち望んでいた好機だと考えた。
 朝廷からの指示であるなら、大手を振るって大軍を動かす事が出来る。ここで大きな戦果を挙げることが出来れば、私の名は大陸中に知れ渡る。同時に朝廷の権威は地に落ちるだろうが、それこそ願っても無い話だ。
 漢の名で馳せた巨大な龍は落ち、時代は新たな王の到来を待ち望んでいる。これを機に私は大陸に住まう全ての民に、天に示すのだ。

 曹孟徳の名を――
 己の誇りと力の全てを懸けて、理想を現実へと変えるための覇業の第一歩を――

「太老に私の力を見せる良い機会でもあるわね」

 太老の言いたい事は理解出来るし納得しているが、告白を断られた事をなんとも思っていない訳ではない。
 好きか嫌いか定かではないが、男の中では間違いなく一番に太老の事を気に入っていた。
 私も女だ。だからこそ、告白を断られた事を少なからず根に持っている。

「どうにかして太老を戦場に連れ出せないかしら?」

 私の部下という訳ではないので、討伐軍として指揮下に加えるのは難しい。
 税収が増えた事で十分すぎるほど兵站はあるし、そこから商会に協力を求めるのも理由としては弱い。
 とはいえ、太老に私の力を見せるには戦場に連れ出すのが一番確実で、先日見せつけられた商会の戦力を使えないのは惜しいという考えもあった。

「……やはり、ここは小細工なしで協力を要請してみるのが一番かしらね」

 治安維持にあたる自警団、としてではなく義勇兵として協力を求めれば或いは、と考える。
 頻繁に賊の襲撃を受けているという話だし、その大元を絶つという意味では彼等にも利はあるはずだ。
 それに自警団を始め、商会に所属する者の殆どは『天の御遣い』の名に惹かれ集まって来た者達だ。そうした者の多くは、賊に虐げられ落ち延びて来た者達が多い。被害者の感情を利用するようだが、条件次第では交渉の余地はあるだろう。
 これまでの情報から推察するに敵は何万、いや何十万いるか分からない暴徒の群れだ。強力な味方は幾ら居ても困る事はない。
 寧ろ、今の私の力を冷静に判断すれば、贅沢を言っていられるほど余裕がある訳ではない。感情としては自分の力だけで、という思いは確かにある。太老に認めさせるなら、寧ろ商会の力を借りるべきではないのかもしれない。だが、ここで無駄に力を消耗する訳にはいかず、そのためには全力で事に当たり誰もが認める圧倒的な成果を上げる方が重要だ。
 太老と商会の力を借りられれば、より確実に名と実の両方を得られる事が分かっていて、それを見逃すのは惜しい。現実を見据えれば最も確実な方法だからだ。
 華琳個人としてではなく、曹孟徳としての判断。つまらない意地を張って、こんなところで躓く訳にはいかなかった。

【Side out】





【Side:太老】

 都から賊の討伐命令が下ったらしく、華琳から俺に協力要請がきていた。正規兵としてでなくてもいいので、義勇兵を募り参加して欲しいと言う物だ。
 黄巾の乱――張三姉妹がこちらに居る以上、起こらないと思っていたものだが、やはり考えは甘かったようだ。
 河北を始め、南は荊州でも大規模な暴乱が起こっているという話だった。
 張三姉妹はやはり単なる切っ掛けに過ぎず、反乱が起こるだけの下地は既にあったという事なのだろう。

「んー、どう思う? 稟」
「太老様の判断に私達は従いますが、ここは受けるべきかと思います」
「やっぱりそうか……」

 稟の言うように俺も受けるべきかな? と思う理由があった。

 第一に、自警団に所属している者達の凡そ半数が義勇軍への参加を希望していた事。
 故郷を賊に襲われた経験がある彼等からすれば、復讐したいという気持ちがあるのも分かる。強引に徴兵しないで義勇軍として協力を促したのは、官に対する不満を持つ者達も少なくないので、華琳もそこに配慮したのだろうという事は分かる。
 ようは天の御遣いとして俺に挙兵しろ、という事だった。

 第二に、華琳が俺達に協力を申し出た一番の理由。兵数や兵站の問題だ。
 軍を動かす以上、金が掛かるのは仕方のない事だ。ましてやこれは賊討伐とはいえ、もう戦争と言っても過言ではない規模の戦いだ。
 軍令とはいえ、実際に軍を動かす諸侯の負担は大きい。とはいえエン州に限っていえば、兵站は税収が増えているので糧食を始め数の方は問題ないと考える。この事態を想定していないほど華琳は間抜けではないだろうし、遠征に必要な備蓄は十分に用意してあるはずだ。しかし圧倒的に足りない物がある。それが兵数だ。

 話に聞いたところ、華琳が集められる兵はざっと一万が限界という話だ。多いか少ないかという話をすれば、相手の規模を考えれば決して多いとは言えない。史実通りかどうかは既に分からない状態だが、最終的に百万人の暴動に発展した大きな乱だ。油断は出来ない。
 他の諸侯も参加しているとはいえ、それぞれ別の思惑がある以上、足並みが揃うとはとても思えない。それは賊も同じだが、質はともかく数では圧倒的に相手の方が勝っているため苦戦は必至となるだろう。
 兵は急に都合がつくものではない。農民に武器を持たせれば兵になると言う訳ではなく、一定の調練を課さなければまともな兵としては役に立たない。犠牲を増やすだけの話だ。それならば、俺はまだ少数精鋭の方がリスクが少ないと考えている。
 兵数が多くなればその分、多くの兵站が必要となり行軍速度も遅くなる。それに加えて被害が大きくなれば兵の士気が低下する上に怪我人の面倒を見る者達が必要となり、結果的に足手纏いが増えるだけで戦力が低下する懸念も出て来る。商会の自警団が訓練について来られない者を切り捨て、少数精鋭で担っているのもそのためだ。
 数の理屈は分かるがそれは条件が五分の場合の話で、兵数に差があるからといって勝敗は必ずしも数が多い方に傾くとは限らない。
 まあ、さすがに二十倍、三十倍と差があった場合は難しいかもしれないが……。
 実のところ、一番の懸念がそこにあった。

 第三に、今回の暴動が起こる原因の一つに、正木商会の存在が少なからず関与している部分があった事だ。
 俺としてはそのつもりは無かったのだが、華琳や稟の話を総合すると商会が一因を担っているのは確実だという結論に達した。
 エン州が潤っているのは、商会が他州から富を吸い上げているからだ。それは商会と縁のない地方の豪族や領主から既得権益を奪っているに他ならなかった。
 そうして富を奪われた者達が無茶をした結果、民の反乱が起き、結果的に賊に身を落とす者が増えたと言う訳だ。
 単に結果を早めただけに過ぎないのかもしれないが、引き金を引いたのは間違いなく俺だ。その責任は少なからず感じていた。
 これも結果だけをみれば、黄巾党(正木商会)の仕業と言えなくはないのかもしれないが、正直微妙な心境だ。
 それ故に、商会が賊徒に狙われる可能性は非常に高い。頻繁に賊の襲撃にあっていたのも、それが原因の一つではないかと今なら思える。

「仕方ない……。義勇兵として参加したい連中を集めてくれ。それと、この街は放棄する」
「街を捨てるのですか?」
「今の状況だと立地条件が最悪だしね。丁度、陳留に商会本部を移設するつもりだったし、この機会に移動しようと思う」

 ここの防衛力なら十倍の兵力で攻められても大丈夫だが、その差が二十倍、三十倍となるとやはり難しい。手段を選ばなければ守りきれるだろうが、さすがに今すぐに近代兵器なんて用意できないし。
 だとすれば、ここが戦地になる可能性が高い以上、住民の安全を考慮して今の内に避難しておくのが一番だ。
 州境に位置するこの街を放棄し陳留に住民を避難させた後、出来るだけ早く争乱を鎮めるために打って出るのも方策の一つだろうと考えられる。戦争をしたい訳ではないが、現状を顧みればベストではないがベターな方法だと思う。

「後、そのまま放置して連中に使われるのも困るし、移動が終わった後、ここは州境の防衛拠点として使うか」
「それが無難でしょうね。下手な城よりも堅牢な造りをしていますから」
技術開発局(あいつら)、自重ないんだよね……」

 外壁に備えられた弓矢の自動射出装置は俺が考案した物だが、あれほど大規模な物にするつもりは当初なかった。
 あそこまで規模を大きくしたのは技術開発局の連中だ。俺の指示ではないとだけ言っておく。
 皮肉にも、その実験台となったのは今までに商会を襲ってきた賊達だ。改良に改良を重ね大掛かりなカラクリに成りすぎて持ち運びは出来ない代物になってしまったのだが、お陰でここの防衛力は格段に向上した。
 その結果、この街の事を『要塞都市』と稟や商会の面々は言っている。

「そういや、天和達は?」
「明日、地方興行を終えてこちらに戻ってくるはずです」
「なら、移動の準備を進めておいてもらえる? 後、全員を移動させるのに、大体どのくらい掛かる?」
「御意。では、そのように取り計らいます。移動は一月もあれば可能かと」

 正直、面倒な事になったと思う。やはり知識や技術的な優位性が絶対とはいっても、何でも思い通りには行かないモノだ。
 とはいえ、そういう世界に来てしまったのだと諦めるしかない。今回の暴動にせよ、何をどうしても避けられない問題だからだ。
 今は目の前の問題を解決するために全力を尽くす。その上で、やはり平穏無事に過ごすためには地盤を固めるしかないと考える。
 華琳がそれなりの力を持つようになれば、俺もお役ご免となるだろう。それまでの辛抱だ。上手く行けば、そこまでの時間を短縮する事も出来るだろうし、ここが正念場だと考えていた。
 ぶっちゃけ今一番俺の平穏を乱しているのは、暴れ回っている賊もそうだが、その結果を招いた漢王朝そのものだ。
 不謹慎かもしれないが、奴等にはさっさと退場願って華琳に手早く国を興して貰いたいと考える。
 引き金を引いた事には責任を感じているが、考え方によってはじわじわと被害が広がる前に争乱を早めたのだ。どうせ避けられないのであれば、時間の短縮に繋がったと考えを切り替える事にした。

(犠牲を少なくするなら、やはり手早く終わらせる事だろうしな)

 元居たあちらの世界では数え切れないほどの海賊を手に掛けた。そしてこちらでも自衛のためとはいえ、大勢の盗賊・山賊の命を奪っている。その行為を正当化するつもりはないが必要な事だと思っているし、その事を後悔したり謝罪するつもりはない。
 いつからこんな風な考え方をするようになってしまったのかは分からないが、結構最初からこんな感じだったように思える。
 何事にも優先順位を付けているだけの事。まず自分であり、家族であり、友人であり、仲間だ。
 顔も名前も知らない奴の事を気遣ってやる余裕もなければ、敵対して命を狙ってくる連中に遠慮してやる理由もないだけの話だ。
 こういうところは、樹雷というか鬼姫の考え方に染まっているのではないか、と自分でも思う。

 まあ、俺って一見平和主義≠セが、基本的に自己中心的という自覚はあるし、自分自身や周りに被害がない限りはどうでも良いって考え方だ。争いなんて無くなる物でも無いし、そうした事は自己責任の範囲で好きにやってくれと諦めていた。
 願いとしては平穏に何事もなく生活する事なのだが、そういう状況にこれまで全然恵まれて来なかったしな。ここらで本格的にどうにかしたいと考えていた。
 連中にとっては嫌な話かもしれないが、そのためであれば俺はなんでもするつもりだ。目的を阻む奴に容赦はしない。
 暴れ回っている連中にも言い分はあるのかもしれないが、今の俺からしてみれば百害あって一利なしだ。現に、折角つくった商会を畳んで陳留に移動しなくてはならなくなっているし。

(穏便にいくつもりだったけど、いっそ積極的に協力して華琳に早く大陸統一してもらうのがベストかな?)

 結論を出すのはまだ早いが、今回の事といい状況次第では考慮してみるべきかもしれない、と考え始めていた。
 華琳の覇業を成就させるためと言うより、主に俺の平穏を一刻も早く実現するために――

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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