【Side：斗詩】
「ラスボス。わたくしに相応しい荘厳で趣のある名前だとは思いませんか？」
「ううん、あたしはよく分からないけど、なんか凄そうな感じですよね」
上手く曹操さんに乗せられた気がしなくも無かったのだけど、あの場で余計な事は言える雰囲気ではなかった。
軍議そっちのけで袁術様と麗羽様、どちらが総大将をやるかで揉めるに揉め、その騒ぎに巻き込まれた諸侯の苛立ちは静観していた私にも伝わってくるほどだった。あそこで曹操さんの提案が無かったら、初日で連合軍解散なんて話になっていたかもしれない。結果的には曹操さんに助けられた格好だ。
（ラスボスか……）
ラスボスと言うのがなんなのかはよく分からないけど、麗羽様や文ちゃんが考えているような物では無いと私は思う。
普通に考えて、曹操さんが麗羽様を褒め称えるような真似をするとは思えなかった。
あの場では最善の提案だったとはいえ、絶対にその言葉には裏があるはずだ。
「斗詩、どうかしたのか？ なんか、ぼーっとしてるけど」
「ううん。な、なんでもないよ！」
こういう時に限って、いつにも増して勘の鋭い文ちゃん。
普段から、このくらい空気を読んでくれると助かるのだけど、そこは麗羽様と一緒で余り期待は出来なかった。
そもそもこの連合だって、どこかおかしい事は少し考えれば分かる事だ。
あの唯我独尊、自由気まま、麗羽様の従姉妹の袁術様が連合の発起人だと言う時点で、そのおかしさを物語っていた。
袁術様に入れ知恵をした者が別にいる。袁術様至上主義の張勲さんは考え難いし、となると孫策さんか、天の御遣いが都に連れて行かれたという話からも正木商会が画策した可能性もある。そう言う意味では、あそこであんな提案をした曹操さんにも動機は十分にあった。
この諸侯連合に参加するべきかは正直悩んだが、袁術様が発起人と聞いて麗羽様が参加しないはずがない。
結局、いつものように私の意見は聞き入れられないまま、こうして諸侯連合に流れのままに参加する羽目になってしまった。
心配した通り、麗羽様も曹操さんに上手く乗せられているし、何か良くない事が起こりそうな気がしてならない。
私は駄目元でもう一度、麗羽様に考えを改めて頂けないか話を振ってみる事にした。
「……麗羽様。本当に商会の義勇軍に先陣を取らせてもよかったのですか？」
「当然ですわ。二十万を超す黄巾党を相手に勝利したのですから、八万なんて高が知れているでしょう？」
確かにあの時は色々とあって黄巾党本隊を解散に追い込む事が出来たけど、今回とあの時では条件が違い過ぎる。
あれは相手が練度の低い賊だったと言う事と、怪しげな術で操られていた人々が殆どだったからだ。
商会が幾ら一騎当千の将と精兵を集めているとは言っても、十倍近い兵力差が相手では無謀にも等しい行為だ。
それに今回は董卓軍の精鋭が相手。それもシ水関という難攻不落の関所に相手は籠もっている状態で攻め落とすなど、連合の全戦力を投入しても簡単に片付く話ではなかった。
普通に考えれば、犬死に。全滅は必至だ。
「寧ろ、先陣は武人の誉れ。一番槍の栄誉を譲ってあげましょう、とこのわたくしが言っているのですから感謝するのが筋でしょう？」
「さすがは麗羽様。よっ、この太っ腹！ 三段腹！ 無駄おっぱい！」
「オーホッホホホ！ そんなに褒めても何もでませんわよ？ まあ、人の上に立つ者として当然の事ですわ」
調子に乗って文ちゃんが嫌味を混ぜて言っているのに、全く麗羽様は堪えていなかった。いや、気付いてもいなかった。
私の言いたい事は、またしても二人には伝わっていない。私が一番危惧しているのは、これ以上彼等との関係を悪化させる事だ。
正直な話、孫策さんや曹操さんと言った名のある英傑よりも、私は天の御遣いとその商会の方がずっと危険だと考えている。
だと言うのに、黄巾党の一件以来、彼等との関係は悪化の一途を辿るばかりだ。
麗羽様は余り政務や雑務を自分でこなされる事が無い。それは今までもそうだったのだけど、ここにきて城の仕事を文官達に任せきりだった事が大きな災いとなり、商会との関係を悪化させる原因となっていた。
中央の宦官と通じていた文官が関所の通行料を引き上げ、行商人から不当な税を徴収していた事が発覚したのは遂先日の事。
彼等は陳留に拠点を置く曹操さんだけでなく、幽州の公孫賛さんにまで喧嘩を売るような政策を行っていた。
私が気付いた時には何もかもが遅かった。中央と繋がっていた文官を処分したくらいでは収まりが付かない事態へと発展していたからだ。
そこに加えて今回の脅迫とも取れる命令。今回の件で私達は完全に彼等を敵に回してしまった。
今は董卓に向けられている力が、明日こちらに向いてこないとも限らない。そしてそうなった時、曹操さんは必ず商会に味方をするだろうし、北に拠点を構える公孫賛もどうでるか分からない。彼女は商会との交易で旨味を得ている一人だからだ。
麗羽様がこれまでの事を反省し、曹操さんや商会に頭を下げて謝ってくだされば話は別かもしれないが、それが一番ありえない話だった。
「ええっと、それはそうですけど失敗した時の事を考えておいた方が……」
「わたくしの完璧で華麗な作戦に失敗などありえませんわ！」
そう言って、また高笑いを上げる麗羽様。私は肩を落として、大きくため息を漏らす。
無駄とは知りつつも話をしたのだけど、やっぱりその努力は徒労に終わった。
後は運を天に任せるしかない。とはいえ、最悪の場合その天の御遣いと呼ばれている人が敵となる訳だ。
天の御遣いと呼ばれるような人に、袁家の幸運がどこまで通用するかは私にも分からなかった。
「それに華琳さんも言ってたじゃありませんか。わたくしは〝切り札〟だと。ラスボスらしくドンっと構えていれば、最後の最後に出番が巡ってくるというものですわ！」
その出番があれば良い方だ。それほどに、あの商会と天の御遣いの力は異常と言って良い。それを私は黄巾の乱の時に痛感した。
麗羽様の言うように、本当に〝最後の最後〟にならない事を今は祈るばかりだった。
（麗羽様と文ちゃんを連れて逃げる準備をしておいた方が良さそうね……）
【Side out】
異世界の伝道師外伝/天の御遣い編 第63話『誤解の連鎖』
作者 193
【Side：朱里】
洛陽に向けて進軍を開始して一週間。私達は途中にある小さな関所を落としながら、第一の難関となるシ水関へと向かっていた。
シ水関までは問題となるような大きな関所もなく、これまで敵の強い抵抗もないまま無事に来ている。予定よりも順調すぎるほどだ。
このまま何事も無ければ、三、四日で目的のシ水関に到着すると言うところにまで私達は迫っていた。
ただ、ここから先は更に気を引き締める必要がある。この先は左右を崖に挟まれた一本道が続く。シ水関と虎牢関を難攻不落の要塞と言わしめているのは、この地形があるからだ。
場所が場所だけに不用意に近付けば待ち伏せをされ、敵の奇襲を受ける可能性もあった。
それに快調に飛ばしてきた事もあって士気は高いが、予定よりも大幅に時間を短縮できているため、連合本隊との距離も開いていた。
このままでは突出しすぎたところを各個撃破されかねない。士気の高い内に流れに身を任せたいが急いては事をし損じる。
先行しすぎないように時間を稼ぐため、私達はここで一先ず大休止を取る事にした。
「――朱里ちゃん！」
「雛里ちゃん？」
陣を張ってからずっと姿の見えなかった雛里ちゃんに後から声を掛けられた。走ってきたのか、息を切らせている様子が窺える。
理由を尋ねてみると、それは直ぐに納得が行く内容だった。
「そう、北郷さんにちゃんと謝れたんだね。頑張ったね、雛里ちゃん」
「うん。朱里ちゃんが励ましてくれたから……」
この時間を利用して、雛里ちゃんは北郷さんのところに行っていたらしい。ちゃんと謝れたようで私もほっとした。
「それで……」
「桃香様にはちゃんと私が説明して置いたから、分かって頂けたと思う」
「よかった……」
北郷さんは『今までも似たような事が遭ったから気にしなくていい』と言ってくれたそうだ。
確かに彼なら、そう言うであろう事は容易に想像が付く。気にしていないと言えば嘘になるかもしれないが、そのくらいの事で雛里ちゃんを責めるような狭量な男性ではないからだ。それは私達への対応からも分かる。
しかしこのまま北郷さんの噂が消えなければ、雛里ちゃんはずっと負い目を感じて暗い影を落としたままになるだろう。
北郷さんの事もあるけど、私は友達としてそんな雛里ちゃんを見ているのが辛かった。噂の火消し役を買ってでたのもそのためだ。
そのためには、まずは当事者である桃香様の誤解だけでも解いて置かなくては話にならない。
そう考えた私は昨晩遅く、見張りの兵以外が寝静まったのを確認して、天幕で休まれていた桃香様を捕まえ事情を説明した。
友達の秘密を守るために雛里ちゃんの名前を伏せてではあったが、北郷さんが〝普通に女性が好きな男性〟だと分かってもらえたはずだ。
「朱里ちゃん、色々とありがとう」
「私達、友達なんだし当然だよ。それに今は目的を同じくする仲間でしょ？」
「……うん」
仕える主が違ってしまったとはいえ、私達が親友である事に変わりはない。それに今は目的を同じくする仲間だ。
先の事は分からないけど、今この時だけは雛里ちゃんと今まで通り友達でいたい。そう、私は考えいた。
「朱里ちゃん。出来れば、このまま商会で一緒に――」
「ダメだよ、雛里ちゃん。それ以上、言ったら……」
「でも……」
今はこうして同じ商会に身を置く立場ではあるが、いつかは私も商会を去る日が来るかもしれない。
最悪の場合、桃香様と太老さんの理想がぶつかり、敵として戦場でまみえる事もあるかもしれない。
「私も雛里ちゃんとは一緒にいたい。でも、同じように桃香様を裏切るような真似だけは出来ない。それは雛里ちゃんも同じでしょう？」
「うん……」
雛里ちゃんが抱えている不安や恐れは、私が胸の内に抱えている物と同じだ。それは痛いほどに、雛里ちゃんの言葉からも伝わってくる。
それでも、自分の意思で一度決めた主君を、自分から裏切るような真似だけは出来ない。
私が桃香様を裏切れないように、雛里ちゃんが太老さんを裏切る事が出来ないのと同じだ。
「ごめんね、変な事を言って……」
悲しげな表情を浮かべながらも、雛里ちゃんは自分を納得させるかのように私にそう言った。
胸に僅かな痛みを感じながらも、私はそう口にする雛里ちゃんに友達として何も返してあげる事が出来なかった。
（でも、今の桃香様ならきっと……）
今の桃香様であれば、最善ではなくても後悔するような結論を決してされないはずだ。桃香様がどのような答えを出されたとしても、私はその後をついていく覚悟を決めていた。
それに、これは私の勘に過ぎない話だけど、雛里ちゃんの心配しているような事には多分ならないと思う。桃香様自身が変わってきているというのも理由にあるが、一番の理由は太老さんにあった。
そもそも、前提がこれまでと大きく違う。私達が想定していた事態とは違う未来へと進み始めている。それは曹操さんや孫策さんも気付いているはずだ。
いや、恐らく気付いていないのは、連合に参加している中では袁紹さんと袁術さんくらいのものだろう。だからきっと――
「何があっても、私と雛里ちゃんは友達だよ。それだけは絶対に変わらない」
「朱里ちゃん……うん。ずっと友達でいようね。これからもずっと……」
【Side out】
【Side：一刀】
あれからの経過報告をしたいと思う。
慣れない部隊長という役目ではあるが、ここ一週間の成果を見れば上々と言えた。逆に自分でも出来すぎなくらいだと感じているくらいだ。
それと言うのも、この隊の兵士達が思いの外、優秀な人材ばかりだった事も要因の一つとして大きかった。
警備隊、自警団、カラクリ職人、料理人、調教師……後半に行くにつれて段々と兵士と関係のない職業に変わってきてはいるが、彼等はそれぞれが得意とする分野のエキスパートと呼べる存在だった。
確かに癖のある面子ばかり揃ってはいるが、逆にその癖の強さが北郷隊の強みとなっているくらいだ。
「正直、これは予想外だったな……」
目的があれば人は頑張れると言うが、今の彼等は凄い。
女の子にモテたい、ちやほやされたいという一心で欲望に忠実な僕と化している。その士気の高さは他の隊を圧倒するほどだった。
これは何がなんでも張三姉妹との握手会をセッティングしてもらわない事には、彼等を煽動した俺の身が危ない。
身の危険を感じるほどに、彼等の身体からは闘志が溢れていた。
この先、第一の難関と呼ばれる関所『シ水関』が待ち構えている訳だが、彼等の行く手を遮る事が出来るとは俺には思えない。
北郷隊の数は凡そ千。シ水関に詰める董卓軍の数は八万。数の上では千対八万では勝負にすらならない。義勇軍全体を足しても、こちらの戦力は精々一万だ。
本来であれば勝負にすらならないが、彼等はその不可能をなんとかしてしまいかねないほどに、やる気に満ち溢れている。
実のところ、そこそこ頑張ってくれればそれで良かったのだ。女の子に戦わせて後に控えているような真似はしたくはないが、何も率先して前線に飛び出して戦おうとまでは考えていなかった。
しかし彼等は違った。俺の言葉通りに武功を上げよう、女の子達を護ろう、と常に全身全力で戦いに挑んでいた。
北郷隊が遊撃部隊という位置付けながら、ここまでの関の殆どで一番乗りを果たしているのもそれが原因だ。
「いや、でもさすがに拙いよな……。俺、マジで生きて帰れるのか？」
今度の相手は、今までのような数とは比較にならない。しかも、あのシ水関だ。千では、どうやったって八万には勝てない。
そこまでバカじゃないと思いたいけど、言って聞くような彼等ではない。彼等ならなんとなくやりかねない気がした。
ここで俺は一つ重要な事を学んだ。天の御遣いだけが変なんじゃない。商会に所属する人達、全員が変なのだと。
その中でも、貂蝉をはじめとした特に個性豊かな面子が集められたと思われる北郷隊は、まさしく変人の巣窟だった。いや魔窟と言っても良い。唯一なんの取り柄もない一般人代表の俺は、こうして隊長という職に就き、胃を痛める毎日を送っていると言う訳だ。
それにあれだけ怖がっていた癖に、ここ一週間で戦いを通じて貂蝉といつの間にか打ち解けているし……。適応力も侮れなかった。
「た、隊長！ 大変です！」
「なんだ？ 貂蝉が二人に増えでもしたのか？」
「それはそれで確かに大変ですけど……今回はそんなんじゃありません！」
「じゃあ、なんだって……」
休憩を取りながら考え事をしていたところで、突然、隊の兵士が一人、天幕に飛び込んできた。
また貂蝉が問題でも起こしたのかと考え、勘弁して欲しい俺はやる気が無さそうに返事をするが、次の瞬間、天幕の入り口の方を見てピタリと身体が固まった。
「劉備さん！？ なんで、ここに……！？」
「北郷さんに話があって……。その、少しいいかな？」
そう言って、愛らしい表情で俺に尋ねてくる劉備さん。上目遣いでポヨンと揺れた胸が男心を刺激する。
まさに天然の癒しおっぱ……いや、男ばかりのむさ苦しい隊には似つかわしくないお客様の登場だった。
それは案内してきた兵士も理解しているようで――
「た、隊長に春が来た！ この勝ち組！ アンタなんて俺達の隊長じゃないやい！」
「いや、ちょっと待て！ てか、勝ち組なんて言葉をどこで覚えた！？」
マジ泣きして走り去っていく兵士の背中を、俺はなんとも言えない気持ちで見送った。
いや、それを言うなら、俺もお前達の隊長をやれているのが正直不思議なくらいなんだがな……。
「朱里ちゃんから話を聞いたの……。私、北郷さんの事を誤解していたみたいで、その事を謝りたくて」
「ああ、その事ですか。それなら鳳統ちゃんにも言いましたけど、全然怒ってませんから気にしないでください」
怒ってはないけど、実のところちょっと傷ついていた。まあ、貂蝉の所為で慣れっこになってしまったけどな。
とはいえ、その事で女性を責めるような真似は出来ない。これは男のちっぽけなプライドという奴だ。
「ありがとう。やっぱり北郷さんて優しいね。そう言うところは凄く太老様に似てる」
変人の中の親玉のような人と一緒にされるのは迷惑だが、ここで水を差すのもよくない。
劉備さんも悪気はないのだ。優しいと褒めてくれているのだし、そこは素直に納得して置く事にした。
誤解さえ解けたのであれば、それだけで俺は十分だ。さすがに男色疑惑だけは勘弁して欲しいしな……。貂蝉という実害がある俺にとっては洒落になってない。
「私、北郷さんの事を応援するね！」
「応援？ いやまあ、劉備さんに応援してもらえるなら正直嬉し……」
「朱里ちゃんの事、幸せにしてあげて」
「はい、それはもち……はあ！？」
真剣な表情で、そんな爆弾発言をぶちかます桜色の悪魔。いや、天然おっぱい。
誤解が解けたと思ったのも束の間、何がなんだかさっぱり分からないカオスな展開に突入した。
いやいや、それはまずないでしょ？ 何がどうなったらそんな急展開な話になるんだ？
「劉備さん……。諸葛亮ちゃんから何を聞いた？ さっき、誤解は解けたって言ったよね？」
「え？ 女の人にもちゃんと興味があるって話だったから、どっちもいけ……」
神は俺を見放した。いや、最初から神などいなかった。誤解が解けるどころか、何故か拗れているし……。
男色疑惑の次は両刀使いになってました、って洒落になってない誤解だ。
女性に興味があると思われて好転したと考えるべきか、いやいや違うだろ全然！
「そ、それに朱里ちゃんが自分から、あんなにも積極的に行動するのはとても珍しい事なんだよ？」
そこは感謝したいところだ。諸葛亮ちゃんの事だ。親友の鳳統ちゃんに頼まれて、恐らくは必死に俺の誤解を解こうとしてくれたのだと思う。
その結果がこれでは報われない話だが、その行為自体は素直に嬉しいと思った。劉備さんが天然でなかったら、という条件が付くが……。
こうなったら、俺の口から誤解だと説明するしかない。信じて貰えるかは別の話だが、このままにして置くのは危険過ぎる。
「劉備さん、ちゃんと話を聞いて欲しいんだけど――」
「ご、ご主人様と私の愛の巣に、別の女がぁぁぁ！？」
天幕の外から、天が張り裂けんばかりの貂蝉の怒声が聞こえた。
大方、先程飛び出していった兵士が貂蝉に、劉備さんが来ている事を報告したのだろうと直ぐに察しがついた。
嫌がらせのつもりだろうか？ 自分がモテないからって、それは酷くないか？
俺、やっぱり仲間に恵まれていない気が……。
「あっ、ごめんなさい。お邪魔……でしたよね」
「いや、そうじゃなくて！」
「それじゃあ、私はこれで。北郷さん、頑張ってくださいね！」
何を頑張れと？
という台詞を最後まで言わせてもらえないまま、劉備さんは慌てて帰ってしまった。
また一つ大きな誤解を抱えたまま――
【Side out】
……TO BE CONTINUED
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