【Side:キャイア】

 ――やられる!
 そう死を覚悟したところに、助けに入った白い聖機人。黒い聖機人同様、見た事も無い形状の聖機人だ。
 月明かりに照らされたその真っ白な聖機人を、私は不謹慎にも『綺麗』だと思ってしまった。

「はっ! あ、貴方一体!?」
『…………』

 一瞬、その幻想的な美しさに見惚れてしまったが、直ぐに意識を揺り戻すと私は白い聖機人のパイロットに向かって叫んだ。
 だが、私の質問に答えず、凄い早さで黒い聖機人へと攻撃を仕掛ける白い聖機人。

「凄い……」

 傍から見ているだけでも分かる。
 スピード、パワー、そして剣の技量。どれを取っても私以上、悔しいけど勝負にすらなりそうにない。
 私を赤ん坊扱いした黒い聖機人と互角以上に渡り合うその圧倒的な実力。まるで夢でも見ているかのような光景を、私は目の当たりにしていた。
 こんな聖機師が居るなんて話は聞いた事がない。白い聖機人に黒い聖機人、一体何が起こっているのか?

「――ラシャラ様!?」

 直ぐに頭を過ぎったのはラシャラ様の事だ。
 あの白い聖機人が誰かは分からないが、黒い聖機人を足止めしてくれているなら寧ろ好都合と言える。
 敵の狙いは間違い無くラシャラ様だ。一刻も早くラシャラ様の安否を確認に行かなくては、と聖機人を動かそうとするがピクリとも動かない。

「やはり、ダメか……」

 とても動かせる状態では無かった。ここまで、あの黒い聖機人と戦って保っただけでも奇跡と言って良い。
 親衛隊長、ラシャラ様の護衛機師を名乗りながらこの体たらく。
 自分の未熟さを情けなく思うが、今はそんな事で落ち込んでいられる状況では無かった。

「ラシャラ様! どうか、ご無事で!」

 聖機人をその場に乗り捨て、ラシャラ様の元へと走る。
 後では剣の交わる甲高い金属音が響き、黒と白の聖機人の激しい戦いが繰り広げられていた。
 すると、その時――

「何!? くっ、ああああぁぁ!」

 黒い聖機人の肘に付けられた二基の亜法結界炉が突然、眩い光を放った。
 込み上げてくる猛烈な吐き気。黒い聖機人との戦いで消耗した身体を、今まで体験した事が無いほど強烈な亜法波が襲う。

「こんなところで……」

 力無く膝を突き、その場に倒れ込む私。
 薄れ行く意識の中、幼くして大国の皇になった一人の少女の姿が思い浮かんでいた。

【Side out】





異世界の伝道師 第204話『白機師』
作者 193






【Side:ドール】

「くっ! なんなのよ! コイツは――」

 私が押されていた。一見互角に見える勝負だが、明らかに白い方が強い。
 スピードではなんとか互角の勝負を繰り広げているが、互角なのはそれだけだ。
 パワーも剣の練度も、他は全て白い奴の方が勝っていた。

「こんな奴が太老以外にもいたなんて……」

 目の前の予期せぬ強敵を前に、ギリッと歯軋りをする。
 楽な任務なんてとんでもない。気を抜けば、この私だって一瞬でやられてしまいかねない相手だ。

(まずいわね。ここは一先ず退くか……)

 時間稼ぎの役目は十分に果たしたと考える。
 そもそもクリフがちゃんと仕事をしていれば、とっくに片付いていた簡単な仕事だったはずだ。
 一向に連絡が入らないところをみると作戦に失敗したか逃げたか、何れにせよ使えない男だ。

『――!』

 突然、亜法結界炉の出力を上げた私に驚く白い聖機人のパイロット。

(くっ……結構きついわね)

 かなりきついけど、こいつから逃げるならこのくらいの無茶をしないと逃がしてくれそうにない。
 実力は相手の方が上。なら、機体性能で上回るしかなかった。
 亜法結界炉の回転を速め、機体限界を起こす限界近くにまで出力をもっていく。

「――今!」

 機体がバースト状態に入ったところで一気に白い聖機人に距離を詰め、死角から手にした鎌を振り下ろした。

【Side out】





【Side:ミツキ】

「緑の聖機人はワウに任せておけば問題なかろう。それより問題は――」

 ラシャラ様が一番気にしているのはやはり、キャイアさんの方だった。
 突然、黒い聖機人の攻撃からキャイアさんの聖機人を護るように現れた白い聖機人。正体不明の黒い聖機人が襲ってきたと言うだけでもイレギュラーな事態だというのに、ここにきて白い聖機人の登場には驚きを隠せない。
 白と黒。聖地学院にも登録されていない見た事もない形状の聖機人。しかも、女性聖機師の中でもトップクラスの実力を有するキャイアさんの聖機人を赤ん坊扱いした黒い聖機人と、その聖機人と互角以上の実力を持つ白い聖機人など前代未聞だ。
 太老様の『黄金の聖機人』同様、イレギュラーな存在と言っても良い。それほどの力をあの二体は有していた。

「さっき言っておった負ける要素が無いというのは、あ奴の事か?」
「いえ……白い聖機人が現れるなんて、さすがに予想していませんでした」

 私が言っていたのは、いざとなったらスワン(ここ)には太老様やワウさんが開発した試作型兵器があると言う意味でだ。
 どんなに強力な聖機人が相手であっても所詮は一体だけ。であれば、強力な兵器と数で押せば敵わない相手ではない。
 高い資質を持つ有能な聖機師が操る聖機人は確かに強力だが、強力な聖機人であればあるほど太老様の黄金の聖機人と同様、機体限界の問題が付き纏うからだ。

「ふむ……。しかし次から次へと本当に飽きる事が無いのう」
「また、そのような不謹慎な事を……。狙われているのはラシャラ様なのですよ?」

 侍従長のマーヤさんに咎められても、全く堪えた様子も無く高笑いをするラシャラ様。
 器が大きいというか、肝が据わっているというか、狙われているとは思えないくらい堂々としたものだった。
 こうしたところは、やはりシトレイユの皇と呼ぶに相応しい器量を備えているのかもしれない。
 マリア様と同様、この少女もまた人の上に立つ知略と度量、その両方を兼ね備えた為政者たる資質を持つ御方なのだと実感させられた。

「ぬっ! あ奴、亜法結界炉のリミッターを――」

 ラシャラ様だけではない。その場に居る全員が驚いていた。
 聖機人に搭載されている亜法結界炉はスワンのような大型船で使う物と違ってかなり小型の物だが、小型であるが故に発生する亜法波はかなり強烈になってしまう。聖機人が聖機師にしか乗れないのも、その亜法波が強すぎるためだ。だからこそ、亜法結界炉にはリミッターが施されていた。
 それは機体限界を起こさせないためだけではなく、パイロットを高い亜法波から護るためでもある。だが、黒い聖機人のパイロットは自分の意思でそのリミッターを解除した。本来では考えられないような事、自殺行為と言ってもいい無茶だ。
 しかも普通であれば、機体限界よりも先に亜法酔いで意識を失っても不思議では無い状況の中で、黒い聖機人のパイロットは意識を失うこと無く動いていた。実際にこの目で見ても信じられないような、驚異的な耐久持続力だ。

「消えた!?」

 ラシャラ様の目には消えたように映ったに違いない。それほどに速い動きだった。
 私でも残像を微かに目で追うのがやっとの素早い動き。
 一瞬で白い聖機人の死角に回り込み、手にした鎌を振り下ろす黒い聖機人。タイミングは完璧だった。

 ――グオオオォォォォ!

 すると、その時だった。静かに格納庫で鎮座していた聖機神が、突然の咆哮を上げたのだ。
 これに驚かない者はいない。聖機神が反応をみせるなど、発掘されてから数百年一度として無かった事だ。
 しかも――

「あの攻撃を受け止めるなんて……」

 黒い聖機人の攻撃を剣で受けきれないと判断したのか、白い聖機人のパイロットはまさかの事をやってのけた。
 武器を捨て、黒い聖機人の鎌を手の平と手の平の間に挟み、素手で受け止めて見せたのだ。
 これにはさすがの黒い聖機人のパイロットも驚いた様子だったが、迷ったのは一瞬だけ、次の行動は驚くほど早かった。
 鎌から離した右腕で漆黒の弾を放ち、白い聖機人の手が緩んだところで、そのまま強引に鎌を手にした左腕を地面に向かって振り下ろす。

「くっ! あ奴、スワンを壊す気か!」

 暴走状態の聖機人によって放たれた一撃により、凄まじい衝撃がスワンを襲った。
 黒い聖機人の渾身の一撃によって、スワンの一部が砕かれ土砂と岩の破片が宙を舞う。
 その一瞬の隙をついて、空に飛び上がる黒い聖機人。土煙が晴れた場所には、白い聖機人の姿も既に無くなっていた。

【Side out】





【Side:ラシャラ】

 襲撃から一夜明け――

「あくまで応急処置ですので、聖地についたらちゃんと修理にだす事をオススメします。お安くして置きますよ」
「鬼! この悪魔! 太老の婚約者である我から金を取るというのか!?」
「公私混同はご遠慮ください。こちらも商売でやっていますので」

 ミツキから手渡された修理費の見積書をみて、顔を青くした。
 黒い聖機人の攻撃によって破損したスワンは航行不能に陥るほど深刻なものでは無かったが、それでもスワンを形成する岩盤の一部が崩落と、かなりの損害を被っていた。
 襲撃された事よりも、遥かにこちらの方が堪える。散々な出来事じゃった。しかも――

「犯人を取り逃すなど……」
「ううっ……これでも一生懸命やったんですよ!? あそこで邪魔さえ入らなければ……」
「……ワウさん」
「はい! 私が全面的に悪かったです!」

 既にミツキにこってり絞られた後で、部屋の隅で小さくなっているワウ。余程、恐い目に遭わされたらしい。

「せめて、犯人の特定が出来る手掛かりが一つでもあればよかったが……仮面をして声まで変えておったいう話じゃしの」

 主犯格と思われる聖機師の捕獲には失敗し、タチコマや侍従達が捕らえた聖機人のパイロットも金で雇われただけの浪人と分かって、結局手掛かりは何も掴めないままじゃった。
 その上、仮面をして声まで変えていたというのじゃから、なかなかに用心深い奴じゃ。

「申し訳ありません。首謀者を捕まえられなかったのは私の判断ミスです」
「よい。緑の聖機人の事も確かに気に掛かるが、それよりも問題は……あの黒と白の聖機人じゃ」
「確かに、あの二体の力は異常でした。あの力、太老様の聖機人とも互角に戦える可能性が……」
「そうではない!」
「はい?」
「我のスワンを壊しておいて何も言わずに逃げおった事じゃ! この請求は必ずしてやるぞ!」
『…………』

 呆れた表情で我の方を見るミツキとワウ。しかし、これは一番重要な問題じゃ。
 次にあったら、船の修理費と我が受けた精神的賠償を上乗せした請求書を叩き付けてやるつもりでいた。
 黒い聖機人がやった事とはいえ、あの白い聖機人も何も言わずに逃げた以上、同罪じゃ。
 金の恨みは恐ろしいと言う事を、次にあったら教えてやる。

「おっ、それよりもキャイアはどうしたのじゃ? 今朝から姿が見えぬようじゃが……」
「朝から、ずっと何かに取り憑かれたように庭で鍛錬をされています」
「鍛錬じゃと?」

 黒い聖機人が解除したリミッターの影響を受け、その亜法波を浴びて気絶したキャイアが格納庫近くの棟で発見された。
 聖機人を捨てて逃げようとしたようじゃが間に合わず、戦いに巻き込まれてしまったようじゃ。ただ問題はキャイアが発見された位置。キャイアが置き去りにした聖機人から棟までの距離はかなりある。あの僅かな時間でそこまで走って移動したとも考えられぬ。その事からも、キャイアが気絶したと思われる場所は丁度、崩落のあった場所の近くのはずじゃった。
 と言う事は、何者かが気絶したキャイアを助け、棟の近くまで運んだと言う事になる。
 あの時、キャイアの近くに居てそれが可能だった者といえば、あの白い聖機人のパイロットを置いて他にいない。

(何者なのじゃ、あの聖機師は……)

 男か女かも分からぬ聖機師。その圧倒的な力は、ミツキの言うように太老に近しいものを感じるほどじゃった。
 キャイアを助けたと言う事は敵ではないのやもしれぬが、油断は出来ぬ。

「多分、昨日の黒い聖機人との戦いが原因かと……」
「なるほど……あ奴も不器用じゃからな。聖機師としての誇りを傷つけられたか……」

 あの黒い聖機人の放った亜法波は、それほどに強烈なものじゃった。
 しかもあれだけの戦闘を繰り広げた後じゃ。既に肉体的にも精神的にも、かなり消耗しておったはず。
 格納庫に居た我等ですら若干の不快感を感じたほどの亜法波を、あんな直ぐ傍で受けたのでは気を失ったのも無理はない。
 尤も、そんな言葉を掛けたところで、今のキャイアは納得などせぬじゃろうが……。

「キャイア自身の問題じゃ。しばらくは好きなようにさせて置いてやれ」
「お優しいのですね」
「ただ面倒なだけじゃ」

 素っ気なく返事をするも、ミツキが微笑みを崩す事は無かった。
 何やら子供扱いされているようで気に食わぬが仕方あるまい。
 歳の話を口にする事だけは避けねば……ワウの二の舞にだけはなりたく無かった。

「それよりもワウ、御主の邪魔をしたという聖機人じゃが……」
「ああ、それなんですよね……。仮面をした聖機人なんて見た事も聞いた事も……」
「またも素性の分からぬ聖機人か、厄介じゃな……。ん? どうしたのじゃ? ミツキ」

 仮面を付けた聖機人の話をした途端、妙な表情を浮かべるミツキ。

「いえ、ただの思い過ごしであれば良いのですが……。その聖機人の事で少し気になる事がありまして……」
「気になる事?」
「ユライト・メスト。彼が、今回の件に関与している可能性があります」

【Side out】





「聖機神が反応を示すとは……あの白い聖機人のパイロット。何者ですかね?」
『それよりも、何故あの男を助けたの?』
「まだ使い道がありそうでしたからね。それに、ここで彼に捕まってもらっては困ります」

 付け加えて、計画に支障をきたさないためです、とユライトは言った。
 ババルンが捨て駒に使うつもりだったのは間違い無いが、ここでクリフが捕まるような事があれば、幾ら協力関係を結んでいるとはいえ、自分に追及の手が及ぶ危険もある。そう考えたユライトはネイザイに身体を代わり、タチコマに捕獲された浪人の聖機人を使ってクリフを助けるという行動にでた。
 それにユライトも、ダグマイアが密かに組織していた思想集団をクリフが引き継いだ事を知っていた。
 ――捨てる神あれば拾う神あり
 もう一つの目的は、その言葉通り手駒の一つとしてクリフを利用するつもりでいた事だ。
 行動が制限されている中で使えそうな駒は幾らあっても困らない、とユライトは考えていた。

『本当に気付かれていないか、正直微妙なところね。次も上手く行くとは限らないわ』
「わかっています。出来る事ならリスクは避けたい」
『……忠告はしたわよ』

 身体と目的を共有する同志ではあったが、二人の間には深い溝が出来つつあった。
 考え方のズレ。目的に対する心構え。そして正木太老に対する認識の齟齬。
 ユライトの興味は、聖機神が反応を示した白い聖機人へと向かっている。ネイザイにはそれが危険な事のように思えてならなかった。

(……何かが起ころうとしている。私達の想像を大きく超える何かが……)

 自分と同じ、人造人間のドールを容易く退けた白い聖機人。そしてそれをも上回る力を持つ黄金の聖機人。
 数千年の時をコアクリスタルに記憶を繋ぎ止める事で存在し続けてきたネイザイにも、胸の奥に渦巻く不安の正体が何かまでは分からなかった。




 ……TO BE CONTINUED



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