五月。春風が優しく、おだやかで暖かな日差しが続く過ごしやすい季節。
 こんな日はまったりと縁側で日向ぼっこをしたい。まあ、これは現実逃避だったりする訳だが。
 なんだかんだであっと言う間に、クラス対抗戦一回戦の当日になった。
 あれから鈴と一度も顔を合わせていない。どう言う訳かマッサージの一件以来、鈴に避けられていた。
 箒とセシリアの機嫌は悪いし、千冬姉にはまた怒られるし、厚意でマッサージをしてやったというのに踏んだり蹴ったりだ。
 世の理不尽さを味わった気がする。これが男性蔑視の風潮という奴だろうか?
 いや違うな。俺の周りの女達が強すぎるだけだ。はっきりと口に出して言えない我が身が情けない。

「そろそろ試合開始か。うわっ、凄い人の数だな」
「当然ですわ。それだけ、一夏さんが注目されている証拠です」

 少しは機嫌が直ったのか?
 なんだか自分のことのように喜ぶセシリア。俺は余り目立ち過ぎても嬉しくないのだが……。
 俺と鈴の試合は第一試合。既に会場には客が入っていて、ピットのリアルタイムモニターから見た第二アリーナの客席は満員御礼の賑わいを見せていた。
 余談ではあるが、その客席を『指定席』にして売り捌こうとしていた二年生が、千冬姉に捕まって制裁を受けたそうだ。全く、あの姉を怒らせるなど恐い物知らずな先輩も居たモノだ。
 それだけの賑わいを見せている背景には、ここにもやはり世界で唯一ISを動かせる男≠フ影響が大きいようだった。

(俺としては、そっとしておいて欲しいんだが……)

 IS学園に来る前から、ずっとこの調子だ。もう三年。いい加減慣れてきた頃だが、学園の中でも外でも話題の対象であることに変わりはなく、動物園の客寄せパンダや珍獣と大差ない状況に辟易としていた。
 男でISを動かせるというのは、それほどの影響力を持つ大ニュースと言うことだ。
 あの事件の後、世界中の国や企業で男を対象としたIS適性検査が行われたそうだが、三年経った今でも男でISを動かせるのは、俺以外に一人も発見されていない。
 全世界六十億人のなかで、たった一人の男のIS操縦者ともなれば注目されるのは必然。
 俺自身はどこにでもいる極普通の高校生なのだが、そんなことを言ったところで周囲がそう思ってくれるかどうかは別問題だった。

「浮かない顔をしているな」
「そりゃ……こんな見世物みたいにされたらな」
「政府や企業の関係者も注目している試合だ。このくらいは当然だろう。早く慣れておいた方がいい。これから公式試合に出る度にそれでは身が保たないぞ」

 箒の言っていることもわかる。俺だってそこまでバカじゃない。ただ、箒の言葉はどこか、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
 箒の姉は、IS開発者として世界的に有名な篠ノ之束――絶賛指名手配中のあの人だ。
 箒の気持ちを全てわかってやることは出来ないが、有名人の妹という立場がどういうモノかはなんとなくわかるつもりだ。俺も、箒と同じような立場だから――
 男性IS操縦者という点を除いても、織斑千冬の弟≠ニいう周囲の先入観は消えない。
 俺はそれでも、幼い頃から女手一つで養ってくれた千冬姉に感謝しているし、たった一人の家族、姉として大切に想っている。
 その辺り、箒はどうなんだろうか?
 箒は束さんのことを余り話そうとしない。意図的に避けている節も見受けられる。

(まあ、箒が自分から話してくれる気にならないと、こればかりはな)

 覚悟もなしに下手に首を突っ込めば口論になるだろう。お節介をするか否か。そこが難しい選択だ。幼馴染みとはいえ、踏み込んで欲しくない一線というのは誰にでもある。箒にとっては、それが束さんということだ。
 まあ実際、俺にもそういう話がないわけではない。三年前の事件や、顔も知らない両親。小さい頃のことなんかがそうだ。
 三年前、正木グループに保護されなかったら、俺は間違いなく実験動物(モルモット)行きだった。
 今でも国や企業の研究機関から、しつこい勧誘や研究協力の要請がきているらしいが、正木グループが間に入って断ってくれているそうだ。その話は千冬姉に聞かされた。
 正木の名は今や、ISを語る上で外すことの出来ない世界最大のIS企業。世界中の国家や企業が正木グループからの技術提供を受けているとかで、アラスカ条約に基づいて設置された国際機関――『国際IS委員会』も余り強くは言えないらしい。
 俺としてはたった一人の家族を、千冬姉を悲しませなくて済んだことが一番嬉しい。
 俺の所属先を巡って委員会が紛糾した時も、技術提供を含めた多くの代償を払って各国を説得してくれたらしく、俺がこうしていられるのも正木グループの総帥、正木太老さんの助けがあってこそだった。
 当然、感謝している。

『織斑くん、準備はいいですか?』
「はい。問題ありません」

 山田先生の声が通信越しに耳に届く。
 俺のクラスの副担任。見た目は同い年くらいにしか見えない、童顔にメガネに巨乳と三拍子揃った色々と反則的な先生だ。
 白式を装備した俺の目の前に浮かび上がるのは、鈴のIS『甲龍(シェンロン)』の基本情報。
 とはいえ、この名前はあるモノを連想させる。甲龍と書いてシェンロンなんて読み難いしな。

(なんか別のモノを連想する読み方だな。もう、日本読みでいいだろう。日本読みで)

 気分的に『甲龍(こうりゅう)』と呼ぶ事に決めた。生粋の日本人だ。中国なんて行ったことがないしな。
 甲龍は俺の白式と同じ近接格闘型の機体。前に鈴が練習しているところを少し見せてもらったが、あの馬鹿でかい青竜刀の他に、何かまだ隠し球を持っていそうな雰囲気だった。
 スペック上、機動力では白式の方が上だが、パワーでは向こうに分があるようだ。
 それに白式は搭載している武器の性質上、燃費が悪く長期戦に向かない。攻撃に大きく偏った機体だ。一度守りに入れば押し切られる可能性がある。
 なら、やるべきことは一つ。鈴が何を企んでいようと関係無い。全力で一気に勝負を決めさせてもらう。

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 アナウンスが流れ、俺は規定の位置まで移動する。
 アリーナの空。俺と鈴は互いのISを身に纏い、対峙した。





異世界の伝道師外伝/一夏無用 第6話『鈴の秘策』
作者 193






「鈴、試合を始める前にひとつ訊いてもいいか?」
「……何よ?」
「なんでここ最近、俺を避けてたんだ?」
「……アンタが、それをあたしに訊く? 自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ!」
「いや、考えてわからないから訊いてるんだが……」

 考えてわかるなら、こんなことを尋ねたりしない。
 理由もわからない状態で避けられているのは、幼馴染みとしては悲しい。
 俺が悪いなら悪いと、はっきり何が悪かったのかを教えて欲しかった。

「くぅ……! アンタは昔からそう言う奴だったわよね」
「……どう言う意味だよ?」
「どうせ、あの約束だって覚えてないんでしょう!」
「あの約束?」

 あの約束ってなんだ? ちょっと昔を思い出しながら考えてみた。
 鈴との約束。そう言うからには昔のことだろうが、俺が覚えているのは――

「あれか? 料理の腕が上がったら酢豚を毎日――」
「そ、そう、それ! なんだ、ちゃんと覚えて」
「――(おご)ってくれるって奴か?」

 そう、忘れもしない。子供の頃の記憶なんて確かにあやふやだが、人とした約束はちゃんと覚えている方だ。
 小学生の頃に、教室でそんな約束をした記憶がある。ただメシを食わせてくれるって言っていたので、よく覚えていた。
 今は企業所属で、それなりの給料も貰っているので貯金は結構あるのだが、あの当時は千冬姉に食わせて学校に行かせてもらっていたので、子供ながらに気になっていたのだ。
 三年前のあの事件がなかったら、多分普通にバイト三昧の学生生活を送っていたと思う。中学を卒業したら就職して働きにでようと考えていたくらいだ。
 こうみえて意外と面倒見のいい鈴のことだ。俺の家庭の事情に配慮して、そんなことを言ってくれたのだとわかっていた。
 やっぱり持つべきは幼馴染みだな。それにしても酢豚か。鈴のもいいが、久し振りに親父さんのも食いたいな。

「いやあ、結構覚えてるもんだ……な?」

 ドヒュンという音と共に、何かが俺の顔の横をかすめていった。
 なんだ? 鈴のISの攻撃か? ちょっ、不意打ちかよ!

「そうよね……ちょっとでも期待をしたあたしがバカだったわ」
「ちょっと待て、鈴! いきなりは卑怯――」
「約束の件も、この間のアレも、勝って責任取ってもらうからね!」

 ビーッと鳴り響くブザー。それを合図に試合が開始された。


   ◆


「何をやってるんだ? あの馬鹿共は……」
「あはは……。これ、リアルタイムで中継されているって……忘れてますね」

 試合開始と同時に、織斑千冬と山田真耶が見たモノ。それは教え子の痴話喧嘩だった。
 勿論、映像は記録されていた。それを知った鈴が後日、床を転がりながら身悶えることになるのだが、それは後の話だ。
 ピットのリアルタイムモニターには、一夏と鈴の戦いの様子が映し出されていた。
 空中で交わる二つの光。交差する度に、火花が飛び散る。
 やはり近接戦闘では一夏に分があるようで、一見互角の勝負を繰り広げているように見えるが、徐々に鈴が押されはじめていた。

 ――バリア貫通、ダメージ76。実体ダメージ、レベル低。

 モニターの下に表示された鈴のシールドエネルギーの残量が減っていく。
 ISの戦闘はシールドエネルギーを0にすれば勝ちだ。
 ただし、今のようにシールドを貫通する一撃を受ければ機体が損傷し、戦闘に影響を及ぼすダメージとなる。
 勿論、戦闘には細心の注意が払われ、操縦者の命を守るための工夫が機体には施されている。
 いや、正確にはコアに搭載された機能と言うべきか、『絶対防御』という能力がISには必ず備わっていた。
 あらゆる攻撃を受け止める無敵の防御機能。
 しかしこれはシールドエネルギーを極端に消耗するため、ISの判断で操縦者の命に関わる″U撃以外では滅多に発動しないように出来ていた。
 逆を言えば、これを発動させるほどの攻撃を相手に与えることが出来れば、大幅にシールドエネルギーを削ることが出来るということだ。
 そして一夏の白式には、それを可能とする機能が搭載されていた。

 ――零落白夜。白式唯一の武器『雪片弐型』を媒介に発動する単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)

 バリアー無効化攻撃。あらゆるエネルギーを消滅させる白式最大の攻撃能力がそれだ。
 嘗て、千冬がモンド・グロッソで優勝できたのも、この雪片の特殊能力によるところが大きかった。
 先程、鈴のバリアを貫通して大きなダメージを与えたのも、この機能によるものだ。
 かすった程度でこの威力だ。当たり所が悪ければ、一撃で大破という可能性もある。事実、セシリアはたった一撃で一夏に敗北を喫してしまった。
 唯一の弱点は、エネルギーの消耗が激しすぎる点だ。
 シールドエネルギーを攻撃エネルギーに変換して使用するため、どうしても燃費が悪くなってしまう。言ってみれば、諸刃の剣。
 使い所が難しく、当たればふたつとない最強の武器となるが、当たらなければ自分の方が不利になる。どれだけ強力な攻撃も当たってこそだ。
 だが、一夏は武器の特性を掴み、上手く攻撃に零落白夜を組み込んでいた。

「上手いですね、一夏くん。あの武器をあそこまで使いこなすなんて」
「当然だ。私の弟だからな」

 真耶の感心した様子に、自分のことのように自慢気に答える千冬。
 そう、一夏は戦い方が上手かった。
 攻撃に転じるほんの僅かな一瞬。その一瞬だけ零落白夜を展開し、相手のバリアーを切り裂く。
 確かにこれなら常時発動させる必要がなく、エネルギーの消耗を最小限に抑えることが可能だ。しかし、言うほど容易い事ではなかった。

「あれが一夏か……」

 箒はモニターを食い入るように見詰め、ギュッと唇を噛む。
 剣術の心得がある箒だからこそ、この戦いの凄さがよくわかる。
 箒以外でそのことに気付いている人物は、千冬を除けばこの場に居ないだろう。
 攻撃が当たる瞬間にだけ零落白夜を発動させているということは、相手を切り裂くまでの道筋が一夏には見えているということだ。
 剣を振りはじめてから零落白夜を発動したのでは間に合わない。動きを読み、場を支配し、相手の律動(リズム)の空白をつく。それは攻撃が当たる状況≠作り出せる――技量と経験がなければ不可能な攻撃だった。

 ――そしてそれは古武術に通じる動きでもある。

 箒の使う剣術にも同じような動きはあるが、一夏のように出来るかと言われれば難しいと言わざるを得ない。
 それは、武を極めた達人の技。何十年と修行を重ね、辿り着けるかどうかわからない領域。
 一朝一夕に……若干十五才の青年が、おいそれと辿り着ける境地ではない。
 天才――陳腐だが、そんな言葉しか思い浮かばないほど、一夏の動きは洗練されたものだった。

 道場で一度剣を交え、完璧な敗北を喫した箒。
 それがまぐれなどではなかったことを嬉しく思うと同時に、嘗ての同門――同じ剣術家としての誇りが、箒に悔しいという想いを抱かせる。
 会えなかった六年間。自身が剣術を磨き続けていた六年と、自分の知らない一夏の六年。
 同じ歳月を重ねながら、何故こんなにも実力に開きが出てしまったのか?
 篠ノ之箒は生まれて初めて、織斑一夏の才能に嫉妬を覚えた。

(何を考えているのだ。私は――)

 一夏に嫉妬するなど、お門違いだということは箒自身が一番良くわかっていた。
 しかし一度芽生えた黒い感情は、簡単には払拭できない。
 そんな時だ。千冬が口を開いたのは――

「……妙だな」
「妙ですか? 織斑くんが優勢のように見えますが?」
「だからだ。織斑に、今の(ファン)が勝てるはずがない。なのに――」

 一夏の攻撃は確かに鈴を捉えている。しかし、かすりはしているものの有効打は一撃もない。
 そう、本来なら当たるはずの攻撃≠ェ外れていた。
 これは一夏と鈴の技量差を考えれば、まず有り得ないことだ。
 ISの機動力でも一夏の方が勝っている以上、鈴が一夏の攻撃を回避できるはずがない。だが、戦いは長引いていた。
 しかも、徐々に一夏の動きに慣れていっているようにも見える。
 最初は大きくかすっていた攻撃が、今はかろうじて回避できるところにまで食らいついていた。

「当然でしょ? この私が教えたんだから、このくらいやってもらわないと」

 ――ッ!?
 声のした方に一斉に振り向く一同。
 視線の先には、コンテナの上に腰掛け、足をブラブラとさせている小さな女の子の姿があった。
 ここは出場選手の関係者以外は立ち入り禁止の場所。子供が勝手に入っていいような場所ではない。
 いや、それ以前に入り口には厳重なセキュリティーが敷かれており、勝手に入ってこられるような場所ではなかった。

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「それを言うなら、私も立派な関係者だと思うけど?」
「何故、ここにいる? VIP用の特別席が用意されているはずだろう?」
「あんな退屈な場所で観戦するより、こっちの方が楽しそうだから」

 旧知の間柄のように言葉を交わす二人。
 これには箒とセシリアだけでなく、真耶も驚いた。
 千冬に、こんな小さな女の子の知り合いがいるなんて話は聞いた事もなかったからだ。

「あの、織斑先生。この子は……?」
「ああ、山田くん。この人は――」
「ママ!」
「「「ママ!?」」」

 千冬にママと言って抱きつく少女に、異様なモノでも見たかのように驚き固まる一同。

「誰がママだ!」
「織斑先生……いつの間にそんな子を……」
「違うんだ! 山田くん!」
「うん。やっぱりお兄ちゃんの言った通り、千冬お姉ちゃんはからかい甲斐があるね」
「やはり、太老(カレ)の仕業か……」

 周囲の温度が十度ほど下がった気がした。
 誰の仕業かを知り、周りがガクガクと震えるほどに強い殺気を放つ千冬。
 桜花の悪戯が原因で、自分の知らないところで死亡フラグが立っているとは太老も知らない。
 女心のわからない太老に対する、桜花なりの意趣返しだった。

「彼女は平田桜花。『正木』の関係者だ」
「え、正木ってまさか……」
「そう、あの『正木』だ」

 絶句する真耶。同じように箒とセシリアも目を見開いて驚いた。
 こんな小さな女の子があの世界に名を連ねる大企業、正木グループの関係者だとは思いもしなかったからだ。
 だが、それなら彼女が関係者と言った理由にも納得が行く。
 織斑一夏の所属先は正木グループ。あの白式も、正木が用意したものだからだ。

「それよりも、やはりアレ≠ヘあなたの仕業か」
「うん。話を聞いてみると不憫でね。少しくらいは手助けしてあげてもいいかなって」
「まあ、事情は大体呑み込めるが、一体何をしたんだ?」
「ちょっとした武術の指導と、一夏対策を仕込んだくらいかな」
「……くらい、か」

 大体、目の前の少女が何をしたのか、千冬はそれだけで察する事が出来た。
 本来なら何か一言いっておくべきなのかもしれないが、こうなっている原因が自分の弟にあるとわかると、千冬も余り強くは言えなかった。
 しかし、そんな千冬とは違い、納得の行っていない人物がいた。箒だ。

「一体、何をしたんだ?」
「ん? 箒お姉ちゃん。知りたいの?」
「どうして、私の名前を――」
「知ってるよ。有名人≠セからね」

 桜花のその一言で、誰の事を言っているのか箒にはわかってしまった。
 篠ノ之束――箒が彼女の妹だということを、この少女は知っているのだ。

「さっき言った通り、武術とちょっとした一夏対策を仕込んだだけ」
「だが、今の一夏に付け焼き刃の武術など――」
「誰が武術だけ≠ナ戦うって言ったの? これはISバトルだよ?」
「な――っ!」

 桜花の言っていることは正論だ。剣術や武術で今の一夏に勝てる相手は少ないだろう。
 生身で戦えば、万分の一も鈴に勝ち目は無い。しかし、これはISの試合だ。
 勝てないなら、勝てる条件を揃えればいい。条件が揃わないなら作ればいい。

甲龍(シェンロン)には、一夏の癖や動きなんかを解析した戦闘データが入ってる。勿論、完璧なものとは言えないけど、鈴にはそのデータを利用した戦い方を叩き込んだわ」
「まさか、ずっと防戦一方だったのは……」

 箒は桜花の一言で、鈴の狙いに気付いた。
 最初に不意打ちで見せた一撃以外では、鈴はまだ二本の青竜刀――『双天牙月(そうてんがげつ)』しか武器を使っていない。
 ずっと防戦一方になり、一夏の攻撃からただ逃げ回るだけ。
 しかし、それを狙ってやっていたのだとしたら、鈴の狙いは――

「一夏っ――!?」

 箒の悲鳴がピットに響く。次の瞬間、モニターの向こうで動きがあった。
 全てが噛み合ったかのように紙一重のところで攻撃をかわし、流れるような動作で反撃に移る鈴。
 甲龍の肩に浮かぶ二つの球体が光った、と思った刹那。
 ゼロ距離から強力な一撃を受けた白式の身体が弾け飛び、地面にバウンドするかのように叩き付けられた。
 すかさず、追い打ちのように撃ち込まれる見えない砲弾の嵐。轟く爆音。打ち上げられる土砂。
 砂嵐のように巻き上がる土煙で、モニター越しに見るアリーナは何も見えなくなっていた。





 ……TO BE CONTINUED



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