学年別トーナメント当日。……朝から大忙しだった。
 生徒まで駆り出されての雑務や会場整理、来賓の誘導などが終わり、やっと解放されたと思ったら、俺達に待っていたのは自分達の出場する試合の組み合わせ確認と着替えだった。
 前もって準備をしていた割には、かなり(せわ)しないスケジュールだ。やはり突然のルール変更とかが影響しているんだろうか?
 試合の組み合わせは当日に発表されるために、生徒はこの組み合わせ表がでるまでは誰が対戦相手かわからない仕組みになっている。
 お陰でアリーナのエントランスホールにある大型モニターの前には人集りが出来、混雑した状態になっていた。

「相変わらず、シャルルは着替えるの早いな」
「え……そ、そうかな?」
「なんかコツでもあるのか?」
「と、特にはないかな……あはは」

 いつもながらシャルルの着替えは早い。俺が着替えに手こずっている間に、いつの間にかスーツに着替えてるんだもんな。
 これはもう一種の特技と言っていいんじゃないだろうか?
 あれか、こんなところにまで高速切替(ラピッド・スイッチ)が役立っているとか、高速着替(ラピッド・チェンジ)なんちゃって。

「一夏、それ余り面白くないよ」

 うっ……なんでわかったんだ? 俺、口にだしてないんだが。
 どうしてか、考えていることがバレる時がある。これはシャルルにもそうだが、他の皆もそうだ。
 この間も鈴とセシリアに考えていることがバレそうになったしな。俺って、そんなに考えてることが顔にでやすいんだろうか?
 いや、下手に考えるのはやめにしよう。それだけで我が身を危険に晒しそうだ。

「しかし、凄いなこれは」
「それだけ、このトーナメントが注目を集めてるんだよ。三年生にはスカウトが、二年生には一年間の成果の確認が、僕達一年生はおまけみたいなものだけど、勿論上位に入ればチェックはされると思う」

 ディスプレイには、インタビューを受けている国や企業のお偉いさんが映っていた。
 ちなみに俺達はエントランスホールに行かずとも、更衣室(ここ)にある空間投影ディスプレイでトーナメント表を確認出来るので、そんな人の多いところに態々行こうとは思わない。
 ただ、女子にはこれがなかなか出来ない……もとい難しい理由があった。
 アリーナに二つあるだだっ広い更衣室に男はたった二人。ここはスカスカ状態だ。逆に、ここと反対側にある女子専用の更衣室はここが男子用として開放されているために、本来の倍以上の女子がすし詰め状態で着替えを行っていた。
 俺達のように更衣室でゆっくりとトーナメント表の確認なんて、とても出来る環境にはなかった。
 それを考えると非常に申し訳ない気持ちになるが、こればっかりはどうしようもない。まさか女子と一緒に着替えるわけにはいかないし、例え向こうが良くても俺の方が困る。

「でも、やっぱりここは普通の学校と色々スケールが違うよな……」

 学園の行事でここまで大掛かりなものは聞いた事も見た事もない。
 さすがはIS学園。政府要人や企業の重役、スカウトマンまできてるって話だ。俺の知っている学校の行事とは何もかもスケールが違いすぎる。
 このイベントだって、一週間も掛けて行われるんだぜ?
 敷地内に来賓用の宿泊施設まであるって話だ。ほんとIS学園は何もかもが常識外れだった。

「そう言えば、シャルル。親父さんは観に来てるのか?」
「え? なんで?」
「いや、政府や企業のお偉いさんもきてるんだろ?」

 企業の重役と言えば、太老さんも会場入りしているようだ。インタビューには映ってなかったけど、あの人、公の場には余り顔を出さないって聞くしな。
 蘭からプライベート・チャネルで連絡をもらい、応援の言葉と一緒に会場入りしたことを教えてもらった。
 どうも太老さんに連れてきてもらったらしく、VIPな観戦席に戸惑っている感じが通信越しにも伝わってくるようだった。
 あの人と一緒というのは色々と大変そうだが、楽しそうにしてたので多分大丈夫だろう。

 しかしVIPフロアか。ちょっとしたパーティーみたいだって言ってたし、豪華な料理もたくさん出るんだろうな。
 蘭にお土産を頼んだら持ってきてくれるかな?
 いや、パックに詰めて持って帰らせるのは、さすがに可哀想か。蘭も年頃の女の子だしな。
 太老さんなら普通にやってそうで全然違和感がないけど……。やっぱりあの人とVIPが俺のイメージのなかでどうしても結びつかない。
 定食屋が実家の蘭の方が、何故か違和感がないから不思議だった。

「多分、来てると思うよ……」

 なんだか、少し元気のないシャルル。様子がおかしい。どうやら触れて欲しくない話題だったようだ。
 親父さんと上手くいってないのか? だとすれば悪いことを訊いてしまったな。
 シャルルの家庭の事情はよく知らないが、知らないだけに迂闊に教えてくれとは言えない。
 この話はシャルルに振らない方がよさそうだ。誰だって訊かれたくないことの一つや二つはあるもんだしな。

(我ながら情けないな……)

 鈴のことといい、最近は家族関連で重い話ばかり聞いている気がする。本当はもっと楽しい話、嬉しい話がしたいはずなのに、実際はそんな理想とは程遠い話ばかりだ。
 俺には鈴やシャルルと違い、親がいない。物心が付く前、幼い頃に両親に捨てられたからだ。
 だからか、親というものが俺にはよくわからない。俺にとって家族と呼べるのは千冬姉しかいなかったから……。
 別にそのことで不幸自慢をするつもりはないし、俺達を捨てた両親に今更会いたいとも思わない。だけど、家族がいて親がいて、それなのに一緒にいられない。家族のことを話せないのは悲しいことだと思う。
 こんな時、気の利いたこと一つ言えない。何も出来ない自分が情けなくなる。だからといって『頑張れ』や『可哀想』なんて言葉は軽はずみに口に出来ない。赤の他人が簡単に口にしていい言葉じゃない。それは、問題を抱えている本人が一番辛いことだとわかっているから――。
 俺はシャルルにかけてやる言葉が見つからなかった。

「あっ、一夏。トーナメントの対戦表が発表されるみたいだよ」

 先程までインタビューが流れていたディスプレイにトーナメント表が映し出され、三年生から順に対戦の組み合わせが発表されていく。
 一年生の番になって、トーナメント表のなかに俺達は自分達の名前を見つけた。

「「――え?」」

 一瞬、間が空き、俺とシャルルの口から同時に声が漏れる。
 Aブロック一回戦第一試合。
 俺達の隣に記されていた対戦相手、それはラウラと箒のペアだった。





異世界の伝道師外伝/一夏無用 第20話『黒い雨』
作者 193






 ――頑張ってください。陰ながら応援していますわ。
 ――絶対に勝ちなさいよ。負けたら承知しないからね!

 と、何やら必死なふたりの言葉を背に、俺はアリーナの舞台で一回戦の対戦相手と対峙していた。
 箒とラウラのペアだ。
 一応言っておくと、鈴とセシリアのふたりは今回のトーナメントは強制不参加だ。それで最初の話に戻る訳だが、『絶対に優勝しろ』と凄い迫力で送り出された。
 優勝しなかったら殺すと脅されているような……正直よくわからん応援のされ方だった。
 気の所為だと思いたい。幾らなんでも、優勝出来なかったら殺されると言うことはないだろう。……多分。
 ちなみにあの二人が不参加の理由は、ラウラとの模擬戦闘で機体に大きな損傷を受け、機体のダメージレベルがCと判定されたからだ。このダメージレベルが一定値を超えると修復に専念しなくてはならない。そうしないと、後々に欠陥を残しかねない重大な問題が発生するからだ。

『ISは戦闘経験を含むすべての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼働も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼働に悪影響を及ぼすことがある』

 IS基礎理論『蓄積経験についての注意事項第三』だ。
 伊達に三年前からISに関わっていない。このくらいの基礎学習は既に習得済みだ。頭が悪いと思ったら大間違いだぜ。
 ――と自慢したが、蘭が正木の専属操縦者になった時、ISの勉強を見てやろうとして逆に教えられた時は少し落ち込んだ。
 蘭の頭が良すぎるんだよな。今では見よう見まねでISの整備まで出来るらしいし……弾の妹とは思えない頭の出来だ。
 さすがは(セント)マリアンヌ女学園中等部生徒会長――五反田蘭おそるべし。
 生徒会長が関係あるかどうかはしらないけど、ここの生徒会長も凄い人だって話だしな。
 生徒会長って、その名の通り生徒の『長』だぜ? うん、なんか凄そうだろ。こう言うと。

「やっと貴様を叩きのめすことが出来る。覚悟は出来ているか? 織斑一夏」
「俺にも負けられない理由があるからな。勝ちを譲ってやるつもりはない」

 向こうはやる気満々の様子。鈴とセシリアを同時に相手して勝つような奴だ。油断など当然ない。最初から全力で行く気で武器を構え、試合開始の合図を待つ。
 ラウラ・ボーデヴィッヒ――千冬姉の強さに憧れた少女。だが、それは俺も同じ。
 どちらの力が上か、勝負で決着をつけようと言う考え方自体はシンプルで嫌いじゃない。
 だが、俺が守ると決めた大切な仲間に、鈴とセシリアに手を出したことは許すつもりはない。
 千冬姉だけじゃない。たくさんの人に守ってもらって、与えてもらった優しさと想い。
 俺が守られた分、もらった優しさの分、いやそれ以上の想いをみんなに返したい。知って欲しい。
 俺はこの手が届く限り、絶対に諦めない。大切な仲間を、家族を守ると決めた。
 それが俺の戦う理由であり、信じる強さだ。

「私が上か――」
「俺が上か――」
「「決着をつける!」」

 試合開始のブザーと同時に前に飛び出す、俺とラウラ。
 過去に決着をつけるため、互いの信じた強さを証明するための戦いが幕を開けた。


   ◆


 ――瞬時加速(イグニッション・ブースト)。急加速した白式とシュヴァルツェア・レーゲンが激しく衝突する。
 最初からラウラも俺と同じ技を使ってきたことには驚かされたが、これはまだ予想の範囲内だ。
 ラウラのプラズマ手刀を機体に当たる寸前のところで、懐に潜り込む素早い踏み込みで回避し、そのまま流れにそって雪片弐型を横凪に振り抜く。
 だが、胴体を捉えたと思われた一撃は、咄嗟に機体を回転させて横に転がったラウラの腕をかすめただけだった。
 
「くっ! やはり近接格闘戦では貴様に分があるか」
「それがわかっていて、突っ込んでくるとは思ってなかった――けどな!」
「その程度、『停止結界』の前では、無意味な行動だ」
「むっ! そいつが――」

 再びラウラに向かって加速した俺をAICが襲う。慣性停止能力。シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器。
 ラウラは『停止結界』などと呼んでいるが、確かにイメージはそれに近い。
 実体のある物なら、それがどんなものでも慣性運動を完全に停止させる。
 ISの基本動作となっているPICを発展させたドイツの秘密兵器だ。

「危ねえ……」
「くっ! やはり足を止めないと当たらないか」

 咄嗟に急加速することで、俺は目に見えないそれを横に回避した。
 鈴とセシリアに話を聞いていなかったら、正直危なかった。

『一夏、やっぱり僕もそっちに――』
『いや、シャルルは箒の相手を頼む。我が儘だっていうのはわかってる。でも、こいつとは俺が決着をつけないといけないんだ』
『……わかった。でも、絶対に勝ってね。一夏』
『任せろ。シャルルこそ、油断するなよ』

 プライベート・チャネルでシャルルと短くやり取りを交わし、俺は目の前の敵に集中する。
 はっきり言って、シュヴァルツェア・レーゲンの能力はチート臭い。慣性運動を停止させる能力なんて反則もいいところだ。
 さっきの様子を見るに弱点はあるようだが、目に見えない上に効果範囲がわからないのでは大きく避けるしかない。
 当たったら機体の動きを止められるのだから、尚更当たるわけにはいかなかった。
 恐らく零落白夜なら、この手の空間作用兵器は切り裂けるはずだが、機体が止められる危険がある以上、迂闊に大きな攻撃は出来ない。
 なら――

「速度が上がった。だが――」

 急加速は使わず、俺は白式の機動力だけでラウラに近接戦闘を仕掛ける。
 ただし真っ直ぐに突っ込むのではなく、上下左右不規則にフェイントを織り交ぜながらだ。
 瞬時加速は確かに使い所を誤らなければ、一瞬で相手との距離をゼロに出来る使い勝手のよい強力な技だ。
 ただ、直線にしか移動できないために、ラウラのAICのような兵器が相手では動きを読まれやすく返って危険になる。

「ちょこまかと……」

 肩と腰から伸びたワイヤーブレードにAICの拘束攻撃を織り交ぜ、執拗に攻め立ててくるラウラ。だが、俺も簡単に食らってやるつもりはない。
 雪片弐型で近付くワイヤーブレードを捌き、更に速度を上げてラウラの周りを円を描くように移動して、その距離を徐々に縮めていく。

「ちっ! 妙な動きを――」
「その兵器は厄介だからな。動きを封じられるわけにはいかないんでね!」

 やはり、思った通りだった。
 あのAICには大きな弱点がある。動作を停止させる対象に意識を集中させなくてはいけないと言う点だ。
 いや、正確には一定の空間に作用を引き起こし、その空間に触れた物の動きを停止させていると言った方が分かり易い。ようは停止させる空間に常に意識を集中しなくてはいけない上に、相手の機動が読めなければこの兵器は使えないということだ。
 事実、先程からラウラの放つAICの拘束攻撃は、俺の動きを捉える事が出来ずにいた。

「だが、その程度のことで私が隙を見せると思ったら大間違いだ!」

 更に手首から発した合計六本のワイヤーブレードを、俺に向かって放つラウラ。
 鈴とセシリアが苦戦させられたという不規則な動きで、俺を取り囲むように六本のワイヤーが迫る。だが、その程度のことは予想の範囲内だ。

「甘い! もらった!」

 ラウラが意識を集中した瞬間、瞬時加速でワイヤーブレードの包囲網を一点突破で抜ける。
 そこから俺は更に急加速を使い、ラウラの死角へと回り込んだ。

「甘いのは貴様だ」
「なっ!?」

 突然、何か強い力に押さえつけられたかのように、俺の身体がピタリと空中で静止した。
 ラウラのAICだ。でも、一体どうやって……まさか!

「機動が読めなければ誘い込めばいい。貴様が接近してくることはわかっていたからな」
「ぐっ……最初から、そのつもりで……」

 わかっていたはずなのに、ラウラを甘く見ていた。
 俺の白式には雪片弐型しか武器がない。接近して攻撃するしかないことを理解した上で、ラウラは罠を張って待ち構えていた。
 さっきの執拗な攻撃は、俺を誘い込むための布石だったということだ。
 これを予測してあらかじめ死角に意識を集中させ、慣性停止結界を張っていたのだと理解した。

「やはり敵ではないな。私と『黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)』の前では、貴様も有象無象の一つでしかない。――消えろ」

 その言葉を合図にシュヴァルツェア・レーゲンの肩に装着された大型レールカノンが火を噴く。
 動きを封じられ、近距離で放たれた超高速攻撃を回避する手段はない。
 視界を覆う眩い光。シールド越しにも伝わってくる衝撃。真っ白な光が俺を――包み込んだ。





 ……TO BE CONTINUED



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