パオロからの情報を得て、太老達は再びサルデーニャ島を訪れていた。

「パオロさんの話では、この筋では有名な魔術師がこの街にいるそうだ。で、その人が俺達の知りたいことを知ってるらしい」

 顔色の優れない桜花を背負いながら、太老はサルデーニャへ来た目的を説明する。道中で説明をしてもよかったのだが、生憎と説明されて内容を理解できるほどの余裕は桜花になかった。
 山と海に囲まれた見渡す限りの大自然。彼等は今、サルデーニャの片田舎オリエーナと言う街に来ていた。観光資源と呼べるものも郊外にある遺跡などが主で、人口も一万人に満たない小さな街だ。こんな寂れた街に訪れる時季外れの観光客というのも珍しく、東洋人二人に金髪の美少女、それにお付きのメイドという組み合わせは人目を惹く。良くも悪くも目立っていた。

「相手はルクレチア・ゾラ。『サルデーニャの魔女』と呼ばれる高名な魔術師よ。粗相のないようにね」
「……エリカお姉ちゃん。あの車はどうにかならなかったの?」
「それは私に何の相談もなく話を決めてしまった太老に文句を言って欲しいわ」
「俺もまさか、アンナさんにあんな欠点があるなんて知らなかったんだよ」
「まあ、説明しなかった私も悪いけど……。アリアンナはメイドとしては優秀なのだけど、煮込み料理と運転だけが難点なのよね」

 桜花が太老に背負われているのは船旅に疲れたからではない。アリアンナの運転が原因だった。
 急停止・急発進を繰り返すこと数十回。対向車線に飛び出し民家の庭に突っ込み、川を飛び越え道なき道を行き、街に着くと同時に車が動かなくなったのは運がよかったと喜ぶべきか? 無事に着いてよかったと心の底からアリアンナを除く三人は思った。
 こんなに危険な運転でよく免許が取れたものだと感心するが、免許を取ったのは日本の教習所。更には国際免許を所持しているというのだから驚きだ。それでいてアリアンナは、一度も事故を起こしたことがないという奇跡の腕の持ち主だった。
 桜花ほどではないが、太老とエリカも顔色が優れない。平気なのは車を運転していたアリアンナくらいのものだ。

「酷いですよ。エリカ様だけでなく太老様や桜花ちゃんまで……」

 いつものメイド服姿のアリアンナは他の三人に言葉で打ちのめされ、グスンと涙目を浮かべた。
 そんなこんなで本気とも冗談とも判断の付かない会話を続けていると街並みが途絶え、人気のない寂しげな森までやってきた。

「ここだな」

 街外れの森に古い石造りの洋館を見つけ、太老は建物を見上げる。ルクレチア・ゾラの屋敷だ。
 パオロから聞いた住所だけでは大凡の位置しかわからないが、近隣に他の家は見当たらないので恐らくここで間違いない。それに、まさに魔女の館と言った雰囲気が出ていた。
 表札は出ていないが、ここだと確信した太老は玄関横に設置された呼び鈴を押した。

「……あれ?」

 しかし、待てど反応はなし。壊れているのか? 留守なのか?
 どうしたものかと腕を組んで考える太老の視界に黒い猫が映った。

「猫?」

 如何にも魔女の使い魔といった感じの黒猫が屋根の上に立っていた。
 じっと猫に見詰められ、何となく気になって同じように猫を見詰め返す太老。
 うずうずとした衝動に駆られ、太老はどこからともなく取り出した猫じゃらしを左右に振り始める。

「そんなものをどこから……」
「ぬこグッズを常備するのは紳士の嗜みだ」

 キリッと引き締まった表情でそう答える太老に、エリカは呆れた眼差しを向けた。
 ガンツと仲良く出来る点もそうだが、太老のことがエリカは時々わからなくなる。

「ふむ。面白い客がきたものだ」
「おおっ、猫が喋った!」

 突然、目の前の猫が人間の言葉を話し始め、太老は驚く。エリカにはその声の主が誰か、すぐにわかった。
 ルクレチア・ゾラ。『地』の位を極めた魔女と呼ばれる魔術界の重鎮。
 態々ミラノから船と車を使い、サルデーニャまで会いに来た目的の人物だ。

「太老。彼女がルクレチア・ゾラよ」
「え? ルクレチアさんって猫だったのか?」

 素でボケる太老。場になんとも言えない沈黙が走った。





異世界の伝道師外伝/新約・異界の魔王 第5話『魔女と魔王の共謀』
作者 193






「歳を取ると物臭になっていかん。こんな格好で失礼するよ。私がルクレチア・ゾラだ」

 気だるそうに下着姿でソファーに寝そべりながら、そう話す女性の足下には先程の猫の姿があった。
 彼女こそ、この館の主にして『サルデーニャの魔女』と呼ばれるルクレチア・ゾラその人だった。

「正木太老です。そんでこっちが――」
「初めまして、平田桜花です。よろしくね、魔女のお姉ちゃん」
「エリカ・ブランデッリ、『赤銅黒十字』の大騎士。当代の『紅き悪魔』を名乗らせて頂いています」

 自己紹介を終え、値踏みをするように太老達を観察するルクレチア。そんなルクレチアの視線に気付き、エリカは畏まった様子で早速ここに来た目的を切り出した。
 彼女がパオロに命じられたのは、太老とルクレチアの仲介だ。それに太老の行動と目的を『赤銅黒十字』が正確に把握するための処置でもあった。パオロが太老の調査に協力することを約束したのも、自分達の知らないところで災厄を招かないためだ。事前に情報があるのとないのとでは準備や心構えも違ってくる。太老を止めることが出来ないのなら、せめて目の届くところに置いておきたいという思惑もあった。
 余談だが、会話の内容が内容なのでアリアンナは別室で待機させられていた。これもパオロの指示だ。アリアンナの同行を認めはしたが、エリカの世話役とはいえ魔術師見習いに聞かせられるような話の内容ではないと判断したからでもあった。もっともエリカは、ここで聞いた話の内容をすべて組織に報告するつもりはない。太老の信頼を裏切るような真似は騎士としてするつもりはなかった。
 パオロもその辺りのことは承知している。しかしエリカを太老の傍に置くということは、一早く何かが起こった時に情報が得やすく事態の収拾に介入しやすいと言ったメリットがあった。逆に言えば、そうしなければ組織として太老とエリカの支援をする大義名分が立たない。組織の長としては甘いのだろうが、エリカの叔父としてパオロに出来る最大限の譲歩がそれだった。

「シニョーラ。早速ですが、幾つか質問をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「ああ、聞いているよ。パオロ卿から『投函(とうかん)』の魔術で手紙が届いていたからな。それとルクレチアでいい。年寄り扱いされるのも畏まられるのも苦手でな」

 年寄りという言葉が、これほど似合わない女性はいなかった。
 腰まで届く長い亜麻色の髪に、しわ一つない瑞々しく細やかな肌。妙齢の美女といった感じで、ルクレチアはどう見ても二十代半ばから後半くらいにしか見えない。
 こちらの世界にも生体強化があるのか? と不思議に思いつつも、女性に年齢を尋ねる勇気はさすがの太老もなかった。
 そんな太老の視線に気付いた様子でルクレチアは答える。

「不思議か? これでも、まだ衰えてはおらぬよ。まあ、普通の人間に比べれば高齢かもしれぬがな」

 肉体の若さを保つのは呪力が至純の域に達した魔女の特権。彼女が最高位の魔女である証でもあった。
 しかしルクレチアからすればそんなことより、太老と桜花の方が不思議に思える。

「驚くほどのことでもあるまい。特にそちらの少女は……」

 それ以上言ったら殺すとばかりにルクレチアを睨みつける桜花。
 さすがにルクレチアも危険を察知したのか、この話題をこれ以上続けようとはしなかった。

「それで? ここに来たのは何か訊きたいことがあったのではないのか?」
「そのことなんですけど、ルクレチアさん。『最後の王』って聞いたことはないですか?」

 太老の質問に、ピクリと僅かに眉をひそめ反応を示すルクレチア。
 そんなルクレチアの反応を太老は見逃さなかった。すかさず質問を続ける。

「その反応、やっぱり知っているみたいですね」
「その話を聞きに来たということは、なるほど……そういうことか」

 ルクレチアはそれだけで、太老達がここを尋ねてきた理由を察した。

「パオロ卿も人が悪い。情報提供に協力をして欲しいと手紙には書かれていたから誰が来るかと思えば、まさか噂のカンピオーネ自らやって来るとはな」
「どうして、それを……」
「言っておくが視た≠けではないぞ? 状況から察しただけだ」

 まだ太老が何者かを教えていないのに、正体を見破られたことにエリカは動揺する。しかし事前にパオロから連絡を受けているのだ。そのことに気付いても不思議ではないと思った。
 それにサルデーニャのことならいざ知らず、ミラノでの一件は隠し通せるものではなかった。
 太老のことはまだ伏せているとはいえ、魔術関係者のなかには疑っている者達も居るはずだ。実際、『赤銅黒十字』にも確認の問い合わせが来ている。今はそれをパオロが抑えている状態だ。田舎町に引き籠もっているとはいえ、相手は『サルデーニャの魔女』と呼ばれる大魔術師。既に情報を掴んでいても不思議ではなかった。

「俺はまだカンピオーネだと認めたわけじゃないですけど……」
「だが、神を倒したのだろう?」
「あれは倒したっていうか、不運な事故の結果というか」

 はっきりとしない太老の物言いに、ルクレチアは少し呆れた様子でため息を漏らす。

「事故であろうと神を倒したのなら、そう変わりはあるまい。少々特殊な事情を抱えているようだが、それは些細なことだ。神を倒せる力を持つ者がいる。死すべき運命(さだめ)の子である人間にとって、その事実が最も重要なのだよ」

 太老の言っていることは、『神を倒せる力を持っているけどカンピオーネでない』と意地を張っているようなものだとルクレチアは諭す。
 そんなルクレチアの言葉に疑問を感じ、エリカは質問を返した。

「では、ルクレチア。太老はカンピオーネではないと?」
「そうは言っていない。彼は間違いなく神を倒せるだけの力を持っているのだろう」
「それはカンピオーネではないのですか?」
「さあな。しかし人間の定義で言えば、彼は紛れもなく魔王だ。本人がどれだけ否定しようとね」

 人間にとって重要なのは一つだけだ。彼等から見て脅威となる力を持っているか否か。
 極端な話、カンピオーネであるかどうかなど些細な問題でしかない。神を倒せる力を持っているという事実が重要なのだとルクレチアは指摘する。
 そう言う意味では太老は人間達から見れば、紛れもなく『魔王』と恐れられるだけの力を持っている。

「残念ながら私は、エリカ嬢が望むような答えを持ち合わせてはいない」
「それは……」
「態々こんなところまで訪ねてきたのだ。助言の一つでも授けてやりたいところだが、生憎と視≠ヲないのだよ。私でも彼の正体は見通せない。逆に言えば、それが何よりの証拠と言えるだろうな」

 最高位の魔女でも何もわからない。それは答えになっていないようで、まさにエリカが求めていた回答と言えた。
 魔女の守り神とされる『蛇』は死と生命の循環を司る聖獣であり、地母神の象徴とも言える存在だ。魔女とは、そうした大地の神々に仕えた巫女だと言われている。才能さえあれば誰でも扱える魔術とは異なり、血の継承によってのみ受け継がれる特別な力を彼女達――魔女は持つ。
 エリカが幾ら有能な魔術師でも、魔女の資質を持たない彼女では霊視や予知は行えない。
 その魔女の最高位を極めたルクレチアの言葉だ。信じるに値する価値があった。

「まだ、納得が行かないか?」
「いえ、降参です。ルクレチアさんがどういう人か、少しわかった気がする」
「私もだよ。君との付き合いは長くなりそうだ」

 太老は遂に観念したようで、降参といった様子で両手を挙げた。ルクレチアの話にも一理あると認めたからだ。
 この世界の人達に自分がカンピオーネでないと幾ら説明したところで、理解してもらうことは困難だろうということが太老にはよくわかった。
 本気で誤解を解こうとすれば、今度は自分達が宇宙人であること異世界から来た話をしなくてはならなくなる。そちらの方がずっと説明するのが面倒だ。
 証拠を見せなければ誰も信用しないだろうし、説明をする度に宇宙に連れて行くのは難しい。
 ましてや零式は修理中だ。結論から言えば、相手を納得させるだけの証拠を提示することが今は困難だった。

「だから言ったでしょ。お兄ちゃん」
「ああ……でも、ドニとかと一緒にされるのだけは勘弁だからな」

 そこだけは譲れないと太老は意思を示す。しかし、それも無駄な努力だ。
 ドニに勝ち、ガッレリアを半壊させた一件で太老の名前は知れ渡っている。こんな片田舎に住むルクレチアが知っていたのが何よりの証拠だ。
 口には出さないが、今更そこだけ否定したところで無駄だろうと桜花は考えていた。

「それで『最後の王』についてだったな。どうしてそれを捜しているのかは知らない。本来であれば捜すのは諦めろと言いたいところだが……言っても無駄そうだな」
「はい、それが俺達の目的なんで」

 太老の意思を確認して、後に引く気はないと理解したルクレチアは嘆息する。
 以前にも、そのことでここを尋ねたカンピオーネがいたことを彼女は思い出した。

(彼が何者かまではわからないが、やはり魔王は魔王ということか)

 最後の王とはその名が示す通り『この世の最後に顕れる』とされる鋼の神のことだ。
 鋼とは即ち蛇を殺す英雄。蛇の象徴たる地母神にとって天敵とも言える相手。そして鋼の英雄と魔王は古来より争ってきた仇敵同士だ。
 最後の王が『鋼』であるのなら、カンピオーネにとってもそれは最大の仇敵と言える。

(いや、だからこそ、惹かれ合うのかもしれないな)

 カンピオーネは闘争を好む。個性に差はあれど、災厄の種を見つけ問題を引き起こすことに関しては天才的な者達だ。
 故に『最後の王』にカンピオーネが引き寄せられるのは、自然な流れかとルクレチアは思った。

(だが、その前に確かめておかなくてはいかんな。無駄かもしれんが、手後れとなる前に……)

 まつろわぬ神は、その属性に応じて様々な災厄を引き起こす。
 太陽の神が現れた土地は灼熱に覆われ、闇の神が現れた土地は闇に閉ざされると言った具合に――
 ならば、この世の最後に顕れるとされる神が顕現すれば何が起こるのか?
 ルクレチアが危惧しているのは、そこだった。

「それが『王』の頼みとあっては断れまい。ただし――」

 最後の王の復活は、この世に終末をもたらす引き金になるのではないかと推測を立て、ルクレチアは探索を志半ばで諦めたのだ。
 滅びの引き金になるとわかっていて『最後の王』を甦らせようとするのは、自殺志願者か狂気に取り憑かれた愚か者だ。
 だからこそ、太老の真の目的を知っておく必要がある。ルクレチアは真剣な表情で太老に質問した。

「一つだけ教えて欲しい。『最後の王』を捜し出し、どうするつもりなのだ?」
「特にどうこうするつもりはないですよ?」
「何? では何故、捜している? ただの興味本位か?」
「いえ、俺達が捜しているのは『最後の王』そのものではなく、それに付随するものです」


   ◆


 樹雷服に身を包んだ二人の女性はテーブルを挟み、向かい合っていた。
 長い白銀の髪をした女性は神木瀬戸樹雷。短い黒髪の女性は平田夕咲。
 太老が恐れる樹雷の鬼姫と、平田兼光の妻――桜花の母親だ。

「皇家の樹ですか?」
「そう、それも第二世代の種。原因は桜花ちゃんが一枚噛んでいるらしいんだけど」
「なるほど……それで、あんな許可を出されたんですね」

 夕咲は事情を聞くため瀬戸の船、第二世代艦『水鏡』を訪れていた。
 桜花が太老の補佐に選ばれた本当の理由。そして瀬戸が太老の侍従達を煽って何をやろうとしているのか問い質すためだったのだが、思った以上に深刻な話の内容に夕咲は納得した様子で頷いて見せた。
 皇家の樹の種が亜空間に呑まれ、別次元の世界へ飛ばされていたことが、ここ最近になって判明した。
 原因は桜花が過去に起こした事件が切っ掛けだ。桜花だけの責任とは言えないが、問題が問題だけに早急に調査をする必要があった。
 樹雷の絶対的な軍事力を支える『皇家の樹』の流出。それは樹雷という国の根底を揺るがし兼ねない大事件だ。
 いつもの瀬戸の悪い癖が出ただけなら注意するつもりだったが、これでは夕咲も反対は出来ない。

「いざと言うときの保険ですか」
「そういうことね。それに事後処理をする人間は必要でしょ?」

 瀬戸が何を心配しているかは、夕咲も簡単に察することが出来た。
 太老達が任務が失敗するとは考えていない。寧ろ心配なのはその後始末の方だと、夕咲は瀬戸の言葉に隠された意味を理解する。

「まあ、太老なら心配はいらないわよ。桜花ちゃんも強いんだし」
「そこは心配していないのですが、あの二人の組み合わせは危険ではありませんか?」

 いつかは義理の息子になるかもしれない男と、実の娘に対する言葉とは思えない。しかし夕咲は二人のことよりも、周囲に与える影響の方を心配していた。
 二人のことをよく知るが故にわかるのだ。客観的な経験(データ)に基づいた事実が、これまでにも結果として出ている。責任を取らせると言う意味では正しいが、想定される影響の大きさを考えれば、余り利口な手段とは言えそうにない。瀬戸が率いる女官部隊の精鋭――『剣』や『盾』と言った特殊部隊を派遣する手だってある。それをしないのは、他にも理由があるのではないかと夕咲は疑っていた。

「だから、水穂に命じて助っ人の手配もしたじゃない」
「はあ……。最初から、そのおつもりだったんですね。余りうちの子を使って遊ばないで欲しいんですけど」
「そういう夕咲ちゃんだって、裏では色々とやってるらしいじゃない」
「私はただ娘の幸せを祈って、お節介を焼いているだけです」

 傍から聞けば、どっちもどっちと言った会話だった。


   ◆


「船だと、まさかそんなものが……。その情報を一体どこから?」
「仲間が集めてきた情報なんで出所はなんとも。女神に教えてもらったとは言ってましたけど」
「女神……まつろわぬ神か。なるほど、その着眼点はなかった」

 太老の話に納得した様子で頷くルクレチア。人間にわからないことでも或いは神なら知っている可能性があると思い至った。
 もっとも、そんなことを実行する人間はまず他にいないだろうとルクレチアは考える。
 神託を得るのとは違う。まつろわぬ神と会って生きて帰ることすら困難だというのに、その神から情報を引き出すなど容易なことではない。

(なるほど、これは確かに魔王の器だ)

 太老の仲間が何者かはわからない。しかし神に比肩する存在であることは疑いようがない。
 そんなものを従えている以上、太老もまた神以上の力を所持しているということだ。
 そして太老は、それを極自然なことと捉えていた。そうでなければ神から聞き出したなどと気軽に口から出ない。

(これは、もしかしたらもしかするかもしれないな。自分の勘を信じてみるのも悪くないか……)

 或いは太老なら、長年の懸念を晴らしてくれるのではないかとルクレチアは考える。
 それは予知というよりは直感に近いものだった。女の勘という奴だ。

「よかろう。『最後の王』について、私の知る限りの知識と情報を授けよう。ただし、その件――私も一枚噛ませてもらうぞ」

 この日、魔女と魔王は共犯者になった。





 ……TO BE CONTINUDE



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