「島を一個まるごと吹き飛ばす……!?そんな危ないものがっ……!」

作戦行動でハワイ市街を飛行中の穴拭智子は`核兵器アリ`の布告に驚きと焦りが入り交じった危惧を見せた。敵がそんな大層な代物を地獄の道づれに使おうとするのなら早くそれを見つけ、止めなくてはならない。こんな事で仲間を失うのは真っ平御免だ。

「智子中尉、ここは私に任せてください。中尉は早く核の捜索を!」
「……死ぬんじゃないわよ、ハルカ」
「ご武運を」
「……ゴメンなさい。せっかく久しぶりにあったのにこんな事に付き合わせて」
「……構いません。智子中尉のためなら私は命を賭けます。……行って下さい」
「ハルカ……っ!!」

涙腺が崩壊しそうなほどの悲しみを必至に堪えながら智子は編隊を解いて、北北西に進路を取った。部下の迫水ハルカの想いを無駄にしないために。

そしてハルカは兵団の編隊に向けて、この日にまとっていたストライカーユニット`零式五二型`のエンジンを全開にし、銃と刀を手に突貫していった。

―そして一つの閃光の花火が空に現れたのはそれからすぐのことだった……果たしてそれは彼女の散華の光なのだろうか?それとも……?










−地球連邦軍はハワイまでの兵站を安定化させるため、輸送艦の他にもかつての米軍や日本軍が行なったように空母などを兵器運搬に使用していた。一年戦争中から度々隠密部隊などに運用されてきたペガサス級強襲揚陸艦「サラブレッド」もその一隻。
サラブレッドは今や古参艦として位置づけられる艦。次々と造られる後継の新型艦の竣工、能力向上のための艦内設備の近代化改修こそ行われたもの、
搭載量が相対的にラー・カイラム級やネェル・アーガマ級などに劣る、などの理由で空母としての任は事実上解かれた。元々強襲揚陸艦として造られた事によるモビルスーツなどの運搬能力は評価されており、自衛力も、下手な水上輸送艦艇より上であるという理由により、艦籍を強襲揚陸艦からモビルスーツ輸送艦に変えられて任に就いていた。これはサラブレッドに限った話では無く、ペガサス級強襲揚陸艦の同型艦である「ブランリヴァル」なども同様の措置が取られていた。(アルビオンより後の艦は搭載量が多いため現役であるが、
旧型の初期型ペガサス級は退役か他用途への転用がなされていた)
それらペガサス級をも動員した兵站構築に連邦軍の苦労が偲ばれるが、ペガサス級は元々連邦軍の象徴の一つであった事により、ジオン残党軍などに襲撃される事も多かった。今回もそのケースであった。










−第二次・ネオ・ジオン戦争後のジオン残党軍はネオ・ジオン指導者であったシャア・アズナブルを失って一端は消滅寸前に陥ったが、行方不明、もしくは戦死したと思われた旧・ジオン公国時代のエースパイロット達が合流した事により、その組織を三度復興させる事に成功していた。
その内の一人が「ソロモンの悪夢」と異名をとっていたアナベル・ガトーである。彼はデラーズ紛争当時、当時の愛機「ノイエ・ジール」でサラミス級巡洋艦に特攻したが、奇跡的にコックピットブロックが無事であり、特攻から1時間後に通りかかった民間船に回収された。その民間船の船長がジオンシンパだったおかげもあり、彼は匿われた。負傷が癒えたのが第二次ネオ・ジオン戦争終結時だったので、数度のジオンが絡んだ戦争には馳せ参じる事はできなかった。



−数年前 月面第二の都市「グラナダ」

「こ、これは……」
「AMS-119 ギラ・ドーガ。此度の戦争でネオ・ジオンが主力として用いたモビルスーツです」
「素晴らしい!ジオンの魂を確実に受け継いでいる……」

そう。ギラ・ドーガはザクの基本設計を受け継ぐ汎用量産型モビルスーツであり、ジオン系量産型モビルスーツの集大成なのだ。その性能はこの当時の連邦軍主力である「ジェガン」と比べても遜色なく、十分に名機と呼べる。ガトーは数年の療養で訛った体とカンを取り戻すべく、この機体で訓練を重ねた。


「いかがですか大尉……いえ、少佐」
(一般にはガトーの最終階級は大尉と知られている。デラーズ・フリート所属時の少佐への進級は非公式なものである)

「反応速度、運動性もゲルググとは比べ物にならん……流石はネオ・ジオンの最新鋭機……」

ガトーは僅かな期間で目覚しい進歩を遂げたモビルスーツに感嘆しつつ、すぐに順応。匿ってくれたシンパ達に最大限の謝礼をし、その機体を持ってネオ・ジオン残党軍へ合流。ギラ・ドーガを自らのパーソナルカラーに彩り、自らの復活を以てしてジオンの中興を誓った。

ソロモンの悪夢の復活に色めき立つ一人の男がいた。ガトーが宿敵と認めた連邦軍きってのエースパイロット「コウ・ウラキ」である。彼はデラーズ紛争後、ティターンズを嫌ってエゥーゴに合流し、第二次ネオ・ジオン戦争ではエゥーゴ時代の戦友に誘われてロンド・ベルに属した。第二次ネオ・ジオン戦争・白色彗星帝国戦後はその腕を買われ、入隊時同様にテストパイロットに戻って、RGM−122「ジャベリン」のテストパイロットの一人として月面都市「フォン・ブラウン」に赴任していた。その時に目にしたニュースで前線復帰を決意したのだ。

『連邦軍第16水雷戦隊がジオン残党軍の襲撃で壊滅したとの情報が入りました。この戦闘では青と緑のギラ・ドーガが目撃されております。このパーソナルカラーはかつてのエース`ソロモンの悪夢`以外には考えられず、参謀本部を震撼させております……』

「……生きていたのか、ガトー……!」

かつての宿敵の健在に驚きつつもコウはすぐに行動を起こした。ジャベリンが正式採用されてすぐに前線復帰願いを提出。折しも白色彗星帝国戦後の人材不足とレビル将軍の復帰が重なり、すぐに受理された。そしてコーウェン中将の肝いりで小型モビルスーツに用いられる技術で近代化改修されたガンダム試作3号機を受領してジオン残党軍との戦いに臨んだのだ……。





「……という訳です、少佐」

コウは乗り込んでいるハワイ行きの補給船替わりに物資運搬中の輸送艦(旧・ペガサス級強襲揚陸艦)「サラブレッド」 の休憩室で自分がどのような経緯で前線復帰したのかを、
向かい側に座っている旧・日本陸軍の軍服を来たウィッチ−加東圭子−に話す。彼女もアフリカ戦線から本国からの帰還命令で帰投した後、タイムふろしきによる若返りを果たし、前線復帰した。外見年齢は彼女の希望ギリギリの14歳(ロリータと紙一重だが、なんとか容認の範囲内だった)。すぐにアフリカに戻りたかったが、連邦軍に恩を売る事を画策した上層部の命令で未来世界の戦いへ参加する事になったのである。

「なるほど。私の場合は上から無理やり言われちゃったんだけどね……」

圭子は自分が未来世界行きを命じられた事に複雑な心中をのぞかせる。元の時代での指揮をマルセイユに任せたはいいが、
我の強いマルセイユが部隊をまとめられているのか、それが心配だった。

「おねーちゃんも大変なんだね」

横でチョコハプェをを食べながらエルピー・プルが言う。無邪気なその声は圭子には暖かく感じられ、微笑ましい。
自分がアレくらいだった時期はもう`10年`以上昔のことだなぁ……と懐かしく思えた……。







−同海域 旧・ジオン公国軍地球方面軍潜水艦隊所属ユーコン級「U−505」

「少佐、ペガサス級を補足しました。形状から言って、初期型と思われます」
「ペガサス級強襲揚陸艦……つくづく私も縁があるな。モビルスーツの用意はどうか」
「ハイゴッグ及びズコック小隊とゲタ付きのドライセンが一機出せます」
「私も出る。ペガサス級ならガンダムタイプが必ず搭載されいるはずだ」
「ご武運を」

−なんという宿命だろうか。コウ達の乗るサラブレッドを補足したのはアナベル・ガトーが各地に点在する残党軍と連絡をとるべく乗り込んでいたユーコン級潜水艦だったのだ。彼らは深く、静かに強襲を行った。


格納庫に出たガトーを待ち受けていたのは自らのパーソナルカラーに彩られたドライセンだった。

「整備兵も粋な計らいを……」

ガトーは自分のパーソナルカラーに塗ってくれた整備兵に感謝しつ、機体に乗り込む。

武装その他は開発時のそれとは異なり、ガトーがよく知るMS−09系統とほぼ同様の兵装が装備されている。汎用性を重視したのだろうか。

「アナベル・ガトー、`ドライセン`で出る!!」

ハッチから一端水中に出て、それから同じく射出されたドダイ(水中からでも発進可能なように改良した現地改修型)に乗り込む。水中からは水陸両用機部隊が続く。







−水中から出現したミサイルにサラブレッドは慌てて回避行動に入る。

「艦長、ソナーに反応!ユーコン級です!!それとモビルスーツ部隊接近中!!」
「馬鹿者!!何故気付かなかった!!……総員、戦闘配備!!モビルスーツを発進させよ!元は空母だ、こういうことにも対応できる」
「今出ます!!」


「ウラキ少尉、F91で出ます!!」

左舷カタパルトにはコウ・ウラキの駆る量産型F91が接続され、発進する。右舷からは格納庫に置かれたウィッチ用発進促進システムから加東圭子が発進した。




−2人はこの時、思い知る。ソロモンの悪夢の再来を。



『あ、あれは!?』

視認できた敵モビルスーツにコウは息を呑む。緑と青のカラーを持つ機体は紛れもなく、士官学校時代に現在戦史の授業で見、幾度と無く刃を交えた宿敵−アナベル・ガトー−の
一年戦争当時のパーソナルカラーだったからだ。

『……その声はウラキか。……久しぶりだな』
『生きていたのか……ガトー……!!」

ガトーは宿敵との久しぶりの邂逅に微かに微笑えんだ。そして驚くコウに言い放つ。自らの決意を。

『再びジオンの理想を掲げるために……新たなる星の屑成就のため……私は帰ってきた!!』

『そんな事はさせるものか!!……ジオンやネオ・ジオンは滅びたんだぞ、それでも理想に殉じるというのか!?」
『そうだ。連邦の愚者たちがあるかぎりスペースノイドの解放はなされん!!その為に私は帰ってきた!!』

量産型F91とドライセンが互いにビーム・サーベルを交えあう。それは達人たちの剣を見ている圭子から見ても圧倒されると感じるほどだ。


F91を援護すべく、ZB26を構える。最盛期の魔力を取り戻した今ならこの程度の狙撃は容易だ。モビルスーツの足場となる飛行機をやる。
圭子は久しぶりに機関砲の引き金を引く。


`ズキュ`とドダイのエンジンが正確に狙撃され、ガトーはドダイを乗り捨てる。

「……狙撃か!しかしモビルスーツらしき反応はないが……」

ガトーはとっさにレーダーに目をやる。すると鳥よりは大きいが飛行機よりは小さい反応が一つある。その方向にモノアイを動かし、モニターを拡大する。

「……!?連邦め、人手不足が極まるあまり、面妖なことを……」

歴戦の猛者たるガトーをして目を白黒させるウィッチの衝撃。だが、すぐに固定武装の一つ`トライブレード`を投げて追い払おうとする。

『加東少佐、危ない!!』

コウは圭子に警告を発する。ドライブレードは並のガンダリウム合金なら一刀で切り裂くことが出来る武器だ。だが、圭子は冷静にドライブレードを撃ち落とす。
扶桑海事変トップエースであり、アフリカ戦線帰りは伊達ではないのだ。

『……ほう。面白い。だが……邪魔するな!』

ビーム・サーベルを構えて威嚇代わりに圭子に接近し、ビーム・サーベルを振るう。圭子はとっさにシールドを貼って防ぐが、サーベルとシールドがぶつかり合った衝撃で吹き飛ばされる。

『少しは出来るようだが、私を敵に回すには君はまだ……未熟!!』
「み、未熟……!?ふざけるなぁぁぁ―っ!!」

圭子はその言語にカチンときた。仮にも自分はアフリカ戦線を生き残ってきて、扶桑海事変でトップエースとなっている。その自分が`未熟`と敵に軽く見られた事はこれ以上なく悔しい。
この時、圭子は指揮官としてではなく、一人の`戦士`として初めて怒りを顕にした。



実際、この時期の圭子はネウロイとは違う敵との戦闘はこの日が初めてだった。

しかし、対するアナベル・ガトーは彼女以上に多くの修羅場を潜り抜けてきた歴戦のエースパイロット。ウィッチにも動じることなく対処してみせた。
これはまさに経験の差だった。圭子は怒りに身を任せ、ZB26を連射するが、弾道をガトーに見切られ、全て避けられる。

「嘘っ……タイミングはドンピシャだったはずよ!?」

圭子はキ61(飛燕)を纏って戦闘に出ていた。飛燕は史実では日本機特有の運動性能重視傾向は薄い(元が中戦という邀撃と制空の双方をこなせる万能機というコンセプトであったため)ため、空中機動は欧米寄りになる。
そのため一撃離脱戦法を行うのが飛燕の戦法になるが、ガトーは圭子の銃撃の癖を一目で見抜き、その攻撃を先読みしていた。
機銃とは言え、モビルスーツのメインカメラ程度は破壊できる程度の攻撃力はあるからだが、圭子は絶対的な自信を持っていた射撃を避けられることに狼狽し、
すっかり冷静さを欠いていた。それをカバーするコウ。

『少佐、落ち着いて!!ガトーはあなたの射撃の癖を読んでいる。射撃の仕方を変えて攻撃を!』
「私の癖っ!?」

圭子はとっさに部下のマルセイユの姿を頭に思い浮かべる。そして、弾切れのマガジンをマルセイユがいつもやっている方法で替えて、頭を切り替える。

(マルセイユ!!悪いけど……空戦機動`借りる`わよ!)

心の中でそう断りを入れ、改めてガトーとの空戦に臨んだ。

「ソロモンの悪夢`アナベル・ガトー`!!いざ、勝負!!」
『いいだろう。このアナベル・ガトー、たとえ魔女といえど、全力で相手をしてやろう!」


−圭子は久しぶりに咆えた。一人の戦士として。それは久しく感じていなかった戦いの空の感触。たとえ戦いから離れて久しくとも忘れることのできない昂揚に彼女は
心を委ねてみる事にした。




















 ―連邦軍は慎重な行動を取らざるを得なくなっていた。水爆の存在が明らかになったせいで迂闊な行動を取れなくなったのだ。
全軍の攻勢にも影響を及ぼし、艦砲砲撃も中止命令が出されてしまった。そして連邦軍は水爆の所在を捜索すべく、それまで直掩防空の任に就いていたモビルスーツを援護に振り向けると同時に、
確保に成功した地域は直ちに兵士たちによる捜索が行われた。

「こちらカイルア方面。水爆は発見できず」

前日にカールスラント軍機甲師団の奮戦で奪還に成功した旧ホノルル群・カイルアから前線司令部に報告が入る。この地域はカールスラント軍の重戦車大隊とグロースドイッチュラント師団が敵兵力を電撃戦によって参戦より4日で撃破、奪還に成功していた。同師団は全兵力で民間人が住んでいた住宅までも徹底的に捜索を行ったが、水爆の影も形も発見できなかった。これでカイルアはシロである事は判明したが、まだまだ予断を許さないことには変りない。


―最大の激戦地であり、かつてのハワイ最大都市であったホノルルでは銃弾とビームが飛び交う中、穴吹智子が市街地をひた走っていた。前線のトーチカでストライカーユニットを脱ぎ、陸戦態勢に入ったうえで市街地を必死に探し回っているのだ。

「……ッ、どこよ水爆はッ!!」

無人のビルに入って全ての階の部屋を捜し回る。一階、二階……はたまた元は警備室であった部屋も。監視カメラシステムを統括するコンピュータも作動させて通路や階段に至るまで全て調べつくしたが、このビルには影も形もない。

―この時、智子の焦燥は大きく膨らんでいた。もし陸上の最大戦力が集中しているこの地で爆発すれば作戦の失敗と連邦軍太平洋方面戦力の壊滅を意味する。更に前線司令部に仮面ライダーたちから入ったメールによれば、この地でクライシス帝国が暗躍しているという。焦りも次第に大きくなるのも当然であった。

(クライシスまで来てるなら漁夫の利を狙っているはず……ジャーク将軍はなかなかの戦略家だから)

智子はこの世界で行動するうちに仮面ライダー達との面識が出来ていた。そしてバダンやクライシス帝国とも刃を交えている。栄光の11人ライダー相手によく戦い、帝国攻撃兵団を統率している「ジャーク将軍」を彼女は軍人として高く評価していた。連邦軍と鉄人兵団の争いをよそに、クライシスの目的は何であろうか。

ビルを出て、大通りに差し掛かるところで、どこからかレーザーの射撃を受ける。智子はとっさに備前長船則光を鞘から抜きに魔力を宿して振るい、レーザーを逸らす。

「……何者?出てきなさいよ、いることはわかってる」
『随分と血気盛んな小娘だ。……いいぜ、出てきてやろう』
「その声は……アンタだったのね」
「ほう。貴様……この前の……」

智子の前に立ち塞がったのはモノアイの頭部と革ジャン姿が特徴的なロボットであり、クライシス帝国の幹部`機甲隊長ガテゾーン`だった。
彼は一匹狼的な性格だが、攻撃兵団参謀のマリバロンとは比較的良好な仲で、単独行動を取っているのは彼女の頼みによるものだ。

「どういう事?機甲隊長のアンタともあろう者が怪魔ロボットも引き連れずに何でこんなところをうろついてるんのよ」
「さあな。……連邦軍は大変なようだな」
「あんたらに言われるまでもない。今度は何を企んでいるっていうのよ」
「オレがここにいる以上はわかるだろう。それにボスガンの奴は漁夫の利を狙っているようだが、それは俺の性には合わん」

彼はロボットであり、生粋のクライシス人ではない。それ故に同僚の海兵隊長ボスガンとはいまいち反りが合わない。
ボスガンはクライシス帝国の名家の出身で、俗にいう貴族だ。地球でも使われている功労者への称号としての騎士の称号を持つもの、出世に執着を持つために卑劣な手段を取る事も多い。その上、生粋のクライシス人でない者を見下す傾向がある。
それがガデゾーンをして「反りが合わない」点なのだ。

「あの男にRX打倒のチャンスでも掠め取られたの?」
「そうだ。ここの処はアイツにプレゼンで負け続きなんだよ、自信あったのに」

うんざりしている声でそう言うとガデゾーンは`敵に塩を送る`かのように一つのメモを残して愛車のバイク「ストームダガー」でその場を離れた。そのメモには兵団が水爆をどこへ運んだのかの会話内容が書かれていた。

「これって……どういう事?」

智子は何故クライシスが水爆がどこに運ばれつつあるのかをわざわざ自分達に教えたのか疑問を持つ。
ジャーク将軍が自分たちの手でRX達を倒す事を悲願としていることは知っているが、何故敵に利する情報を意図的に流すような真似をしたのだろうか。彼の真意は何であろうか……?

―とりあえずこの事を司令部に伝えなくては。

「いたぞ地球人だ!!捕らえろ!!」
「……ッ!邪魔だぁぁぁぁっ!!!」

彼女は鉄人兵団の兵士を備前長船則光で片っ端から薙ぎ払いながら市街地を駆け抜けていった。









−兵団に突撃した迫水ハルカであったが、彼女は生きていた。玉砕覚悟で最悪、刺し違えるつもりだったが、辛うじてそれは回避された。
援護に駆けつけたアムロ・レイの駆るνガンダム(この時は一般にいうところのフルアーマー形態に当たるHWS装備であった)がその重火器で敵を吹き飛ばしたのだ。

「どうにか間に合ったか」

νガンダムのコックピットでアムロは安堵の表情を浮かべると外部スピーカーをオンにしてハルカに話しかける。もちろん手持ち火器は撃ちまくっている。

「あ、ありがとうございます」
『無事でよかった。迫水ハルカ中尉だね?』
「は、はい」
「智子中尉から話は聞いている。俺はアムロ・レイ大尉。ここは俺が引き受ける。君は智子中尉のところへ応援に行ってくれ。いくら智子中尉でも単独では危険だ」
「分かりました!でも……いくらガンダムでも、たった一機じゃ」

(この時、ウィッチ達には連邦軍の戦線に加わる際に2199年時点で配備・および開発中のモビルスーツの情報が通達されていた。ガンダムタイプもまた然りである)

「大丈夫だ。νガンダムは伊達じゃない」

アムロはνガンダムに絶対の自信を持っているようだ。当然といえば当然である。このνガンダムは彼自身が基本設計を行い、第二次ネオ・ジオン戦争を戦い抜いた精鋭機である。現在では`連邦軍最強`の地位こそ直系後継機「HI−νガンダム」や新世代小型機「ガンダムF91」に譲ったもの、その優れたポテンシャルは歴代ガンダムで未だトップレベルであり続けている。

「ご武運を、大尉」
「君もな、中尉」

ハルカはアムロに促され、智子の応援へ向かう。アムロはそれを見届けながらνガンダムの特徴的武装であり、大気圏内運用に当たり、
後継機で実用化された最新技術により、大気圏内使用可能なように改良されたサイコミュ兵器「フィン・ファンネル」を起動させる。


「行けっ!!フィン・ファンネル!!」
−フィン・ファンネル。連邦軍が正式採用した初のファンネルであり、
威力・稼働時間共に大方のジオン系モビルスーツが有したファンネルを遙かに超える。アムロの思念に導かれ、フィン・ファンネルは兵団を片っ端から撃ち落としていく。ガンダムの面目躍如である。

「くそ、あのガンダムはバケモノか!!」
「隊長!!味方が次々と!!指示を!!」

兵団小隊長は鬼神の如き強さを発揮するνガンダムを吐き捨てるように叫ぶ。地球連邦軍が抵抗と勝利の象徴だと吹聴する`最強のモビルスーツ『ガンダム』`。彼はその武勇伝を連邦軍のプロパガンダだと馬鹿にしていたが、こうも`戦場を支配する`圧倒的強さ`を目の当たりにしてしまうと、心胆を寒からしめられてしまう。

そして逆方面から砲撃が加えられる。あの方面に機甲師団はまだいないはずであるが……。

『大尉、自分達はアッツ島方面より馳せ参じました宇宙軍第102突撃中隊であります!援護します!!』
『……感謝する!頼むぞ!』

アムロの応援に、攻略部隊とは別働隊の空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」から発進した`宇宙軍第102突撃中隊`所属のフルアーマーガンダム(素体は最末期に追加試作されていたRX−78−3タイプ。追加装甲の素材などの細かなところが第二世代以降の技術で近代化されたので一年戦争の開発時に見られた`意外に鈍重`な機動性は解消されている)が馳せ参じ、
重火器を一斉掃射する。フルアーマーガンダムの大盤振る舞いとも言うべき光景は、一年戦争当時に、ある技術者の提出した
ガンダムの強化案が元となって起草されたFSWS計画は予算の無駄などではなかった事の証明であった。

「オラオラ!!消し飛べ!!」


フルアーマーガンダムの誇る「360mmカノン」(近代化の際に砲弾の多種多様さを重視する運用性から、カノン砲に換装されている)と
3連装ビームライフル(形状は正規のものではなく、部隊独自にZZ系ののダブルビームライフルの改造型のようなもの)、各部ミサイルが火を吹く。
2機のフルアーマーガンダムがνガンダムの背中を守る。それに安心したアムロは思う存分、νガンダムの力を振るった。















−ハワイの戦いは次第にであるが、連邦優位に傾きつつあった。
水爆の存在が明らかになった事で積極攻勢こそ出来なくなったが、鬼気迫る連邦・連合軍将兵の士気の高さ(この時に前線を支えていた熟練連邦軍将兵の殆どは絶望的な戦いをくぐり抜けた者ばかりであり、物量程度では動じない)と兵団前線の指揮官の指揮が稚拙であった事によって、
3週間後の9月初旬を境に兵団の前線は一気に縮小し始めた。









−兵団 基地司令部

「閣下、残念ながら各地の部隊は`3体`のスーパーロボット敵の機甲師団と航空支援によって撃破されつつ……」
「……分かっている。水爆は奴の手にある。奴が自爆スイッチを押さないことを祈るばかりだよ」

`奴`とは兵団内部で彼−地球名「ミシチェンコ」−とは対立する派閥の長の男。ミッチャーと同じ派閥に属し、本国から派遣されて間もないために、
正式な地球名はまだ持っていない。



これは兵団と言っても、決して一枚岩でなく、対外進出強硬派・その腰巾着の保守派・穏健・融和派など様々な様相を呈している。
現在の本国で実権を握る政権は穏健派の対外融和政策に業を煮やし、クーデターで実権を握った強硬派。深刻な問題となっていた`労働力不足`を他の星の生物を強制連行・奴隷として扱うことで解決しようとする軍事政権であった。水爆のスイッチを握っているのはその強硬派の急先鋒と言われ、穏健派に属するミシチェンコとは対立している男だ。今回の作戦で彼がハワイ基地の基地司令になった時に強硬派が監視として寄越したと、兵たちの間ではもっぱらの噂だ。

(奴なら躊躇なく水爆のスイッチを押しかねん。何とかスイッチを押しても30秒のインターバルが生じるように改造しておいた……解体、もしくは無力化のチャンスを与えただけマシと考えてくれよ)

彼は強硬派の言う`奴隷として他の星の生物を連れてくる`事などこれっぽちも賛同していない。軍人であるので軍務の遂行は行うが、この戦いには国家の言う戦争遂行の大義は無い事は重々承知している。だが、あくまで軍務は果たす。それが彼の軍人としての戦いなのだ。幸い、以前の戦功で家族の身の安全は確保されている。たとえ本国で政変が起こったとしても責任は負えない。

「滅び行く者の為に……」

こう呟いた時、彼は死を覚悟していたかも知れない。
兵団は最初こそ優位に戦いを進めたもの、前線指揮官の戦術の稚拙さや補給の軽視が原因で次第に敗北していっている。
小さい地区での初めての敗北が段々と傷口を広げていき、ついには大出血を強いられた。さらにかの`宇宙戦艦ヤマト`所属の航空隊が接近してきているとの情報もある。今の平均練度の低下した兵士たちにはあの2大星間帝国の誇る航空隊を打ち負かした彼らに対抗する術は無い。さらにあの`真ゲッターロボ`……あの赤い戦神は地球の最後の希望というが……こっちのほうが神にすがりたい程だ。本国に伝わる神話`メカトピアは天国のようになってほしい`と願った神……そしてそれを信じて行動する本国のレジスタンス運動。

「中佐、本当の天国とは何だろうな」
「分かりません。ただ政府の言うようなものでは無いのは確かでしょうな……」
「この星には滅びから救った歌があると聞く。その歌……一度全フレーズを聞いてみたかったよ」

それは彼の本心だったかもしれない。大昔の`プロトカルチャー`が創りだした戦闘種族とすら共存に成功した地球人類。
そしてその原動力となった文化。今の政府は文化的行動を`退廃的`と称しているが、それは間違いである。リン・ミンメイという歌姫の歌はそう感じさせてくれる。
彼は生涯最後の戦いへ赴く決心を固め、自ら前線で指揮をとると全軍に布告した。




−ベルギー王国

「敵に一矢報いる。例の計画を実行に移す」
「司令?」
「復唱はするな」
「は、はい」

兵団は地球連邦軍に一矢報いるべく、ある作戦を実行に移す。その作戦とは敵本土への大胆な空襲作戦。その目標は……

『D作戦を発動する。目標、地球連邦政府`帝都`日本!!」

彼は全軍に指令する。連邦軍へ一矢報いるための一手を。作戦名「D作戦」。それが彼等の太平洋での取れうる最後の作戦行動であった。







連邦軍にとって顔面蒼白の事態が巻き起こる……兵団の作戦行動によって−

−ギアナ高地 執務室

「ウム。ハワイの状況は予断を許さないか……」
「目下、全力で捜索を行っておりますが……未だ発見出来ません」
「クライシスが動いているとの仮面ライダー1号からの情報もある。兵団を追い詰め始めたとは言え、奴らの存在は厄介だ。気をつけたまえ」
「承知しております」

レビル将軍は政府からの強引な指示で決行したハワイ攻略作戦が水爆という思わぬファクターで予断を許さない状況になったもの、戦況そのものは好転しつつある事に安堵していた。ただクライシス帝国の存在は厄介だ。彼ら次第では今後の行動に大いに影響が出かねないからである。兵団はハワイを失った場合は欧州方面に残存戦力を結集するであろうことは容易に想像が出来る。来年の欧州方面攻略作戦の為にもこの作戦は成功させなくてはならない。

−この時の地球の勢力図は以下の通り。

アジア太平洋方面はほぼ連邦、アフリカ大陸はジオン残党とティターンズ残党の勢力下、北アメリカは再建途上地?で軍関連施設のみ。欧州方面は鉄人兵団の牙城となっていた。地球派遣軍団の本部は旧・ベルギー王国の首都であり、旧・欧州連合の主要都市でもあったブリュッセルに置かれており、開戦時に旧態依然とした防衛装備しか持たぬ地球連邦陸軍を駆逐して拠点とした。そこを奪還するのが今次大戦における連邦軍の最終目的であり、今次大戦での勝利を左右するのだ。



―欧州 ベルギー王国


「閣下、ハワイは後数週間持つかどうか……」
「そうか……」

副官の報告に鉄人兵団地球遠征軍司令長官`グデーリアン`は残念そうな声で答える。彼はハワイ基地司令のミシチェンコが属する派閥の長であり、兵団の緒戦での電撃戦による勝利の立役者でもある。彼はメカトピアがまだ軍事体制でない、共和体制化時代に軍人であった父の嫡男として生まれ、軍事政権下では新戦術を提唱し、それを見事成功させた名指揮官である。彼はアジア太平洋方面で敗北を重ねる方面軍の指揮を配下のミシチェンコに任せて派遣したのだが、彼を以てしてもアジア太平洋方面の退潮を食い止める事は出来無かったのである。

「欧州はほぼ全てこちらの手にあるとはいえ……ハワイが落ちればあの方面は事実上放棄せざるを得ん。ニューギニアなどの方面軍で生き残っているものは全てハワイに回せ。連邦軍といえどもハワイを落とすと引換にその海軍力を減じれば行動は制限されるはずだ。それと`D作戦`部隊は?」
「只今発進しました。後10分もあれば敵の絶対防空圏内を突破し、敵都市に爆撃が行われます」
「本国の最新鋭アクティブステレス技術の賜物か…」

それはアジア太平洋方面の総力で連邦軍を瀕死に追い込み、例えハワイを制圧しても今後半年間、連邦軍の行動を制限できる事を意図する策だった。既にロシア駐留部隊には敵の重要都市・日本の工業地帯を空襲するように通達を出してある。連邦軍のレーダーを欺瞞できるステレス技術のおかげで完全な奇襲となりそうだ。彼は時計の針が動く音をきしりに気にする。そしてそれからしばらくして……奇襲成功の報が届いたのは云うまでもない。この日、ブリュッセルの本部に久しぶりの歓声が響き渡った。

−D作戦。アメリカ軍が日本に対して大胆な初空襲を行なった故事に因んで名付けられたこの作戦は、鉄人兵団の必勝の策であり、ハワイでの戦いでの敗勢に一矢報いる為の大胆な攻撃である。目標はその由来のとおりに日本の4大工業地帯。そこを大部隊を持って空襲、生産力に痛撃を与える。本部直属の精鋭部隊主力を中心に、今次大戦で名を上げた部隊を掻き集めて参加させたこの作戦に対する鉄人兵団の意気込みは凄まじいものだった。








−日本 


「くそったれ!!何故今まで探知できなかった!!」
「ウィッチからの報告によれば、アクティブステレス技術を応用した追加装甲をまとった部隊のようです!!レーダー反応が殆ど無いハズだ……!!」
「航空隊やモビルスーツ部隊へのスクランブルは出したのか!!」
「もう出しました!!航空隊は松山の343、345が間もなく接敵します!!」

この時期の連邦軍の重要都市である日本地区には最新鋭機が優先して配備されていた。航空機は配備開始間もない新コスモタイガー及び従来型、バルキリーはVF−19A、P型及びVF−22Sで固められている。さらに連合軍の協力で各基地には練度の高い扶桑のウィッチが派遣されているなど、強力な防空体制であった。だが、レーダーを封じられてしまい、敵発見が遅れ、迎撃が遅れてしまった。今は少しでも被害を食い止めなくては。

「ミスマル閣下は?」
「既に防空の指揮を取っておいでです。指揮権は先ほどを持って全面的に閣下に移行しました!」

遅れてきた通報に、慌ただしく迎撃態勢を整える連邦軍。そして迎撃戦に従事するウィッチの中には扶桑皇国のエースでは苦労人であると言われ、北アフリカ方面の防衛で名を知られた`黒田那佳(くろだくにか)``中尉`の姿もあった……。

彼女は扶桑陸軍が誇るアフリカ防衛のエースと名高いウィッチで、容姿は黒江綾香とよく似ているが、黒江よりもお調子者的な所があり、顔つきにそれが出ているので見分けは効くとの智子の談。現在は陸軍での上官である、黒江の指令で本国帰還中に未来世界へ呼び出され、智子と黒江にヴィータの面倒を任せられた(……というよりは押し付けられた)。智子らとは彼女のほうが入隊年次が後なので、有無を言わさずに引き受ける事になった。

ちなみに彼女は穴拭智子よりも上手く`鍾馗`を使いこなす事で知られる。その武器は`ホ301`40ミリ機関砲。本来は大型ネウロイ迎撃用に用いる目的で作られた(史実では爆撃機迎撃用)機関砲。彼女は連邦軍の防空網の一角を担う存在であった。





日本にはなのはと別れて別行動を取ったヴィータがいた。彼女はハワイ攻略でのなのはの面倒を穴拭智子に任せ、自身は日本に残った。八神はやてからの連絡があり、彼女がもうじきこの世界にやってくるのを出迎えるためだったが、その前にとんでもない事になった。黒田那佳の指揮下に入り、迎撃戦に加わった。

「くそっ!!奴らとんでもないこと考えやがる!!」

赤毛のお下げ頭が特徴的な彼女は兵団の巧妙な作戦に毒づく。ハンマー型のデバイス「グラーフアイゼン」を片手に飛行し、北九州工業地帯の防衛に向かう。

「昔から奇襲は乾坤一擲の手よ。真珠湾奇襲、ドーリットル空襲、桶狭間……歴史上でも例がいくつもあるの。これほど大規模なのは数える程度だけど……
奴さんはドーリットル空襲を再現しようっていうの……?」
「大変じゃねえか。やられたら人がたくさん死んじまうじゃねーか!どうするんだよ、くにかさん!!」
「ああ。このままだと不味い……急ぐぞ、ヴィータ!!」
「おうよ!!」

黒田那佳はこの世界の大東亜戦争で行われたドーリットル空襲の再現に悪寒を感じずにはいられない。民間人の大量殺戮を阻止すべく、黒田那佳は配下のウィッチ隊や連邦軍の航空隊などを率いて北九州工業地帯の防衛に向かった。





−ハワイ攻略が峠を越えようとした矢先の本土空襲。虚を突かれた連邦軍は狼狽した。

「レーダーに反応しない部隊か……どのくらい被害を食い止められるか……」

連邦軍極東支部の厚木基地ではミスマル・コウイチロウがこう漏らす。完全な防空網はありえない事は分かっているが、向こうもアクティブステルスを持っていた事も驚きだが、いくらミノフスキー粒子があるからと言ってもレーダーに全く反応が無かったなどまったくもって信じ難い。既に各工業地?には被害が出始めているが、日本の誇る強力なレーダー網を完璧に潜り抜けるほどの高い技術を持っていたなど……。ミスマル以下連邦軍将兵は一様に驚愕を隠せなかった。


さて、迎撃戦を行っているのは各地の航空隊及びモビルスーツ隊であるが、空中戦が主になるためモビルスーツは空戦が可能な可変モビルスーツがかき集められ、迎撃戦に参加していた。機種はMSZ−006A1〜D型までのZプラス、NRX−044「アッシマー」、その後継のRAS−96「アンクシャ」などである。ファーストストライクはバルキリーに任せ、彼らはその後の連続攻撃の要だ。

「流石に練度がいいな。マイクロミサイルの雨霰を潜り抜けてくるとは」

迎撃戦に駆りだされたZプラスのパイロットはバルキリー隊の放ったミサイルを避けきった兵団の兵士たちが見慣れぬ追加装甲をパージし、一斉に散る動きが手馴れている事に気づく。あのような追加装甲をパージすれば一瞬の隙が生じるが、彼らはそのタイムラグを自らの技量で補い、隙を無くしている。敵ながら見事だ。おそらく今回の攻撃のために精鋭を選りすぐってきたのだろう。だが、侵略者には死あるのみ。計器やモニターにロックオンを告げるアラームがなった瞬間、コントロールスティックのトリガーを引き、ウェイブライダー形態のままでビームスマートガンを叩き込んだ。メガ粒子の高出力ビームは見事に装甲ごと敵を貫き、空に盛大な花火を上げる。

−彼らにとっては優秀な兵士が失われただろう。だが、こちらは多くの人命がかかっているんだ、悪く思うなよ。

`彼`は心のなかで敵兵士に念仏を称えながら次の敵を落とす準備を整える。戦争とは虚しいものだ。だが、平和は戦って勝ち取らければならない。それが今の地球人の共通認識であった。(これはなのはやフェイト達もそう認識している)

「おらぁぁぁぁっ!!」

−ヴィータは久しぶりに愛用のデバイスで暴れていた。グラーフアイゼンを振りまわして兵団の頭をかち割ったり、胴体をぶち抜いて破壊したりしている。ただし決して無傷ではなく、ビームなどのせいでバリアジャケットの裾などは焼け焦げている。この事はウィッチ達も同様で、乱戦で具足の手甲の片方が破壊され、手が無防備となった者もいる。

「各編隊長は残弾と損害を知らせて!!」

ヴィータと共に戦っている黒田那佳は無線で同空域にいる航空隊及びモビルスーツ隊に状況確認を呼びかける。乱戦のさなかだからこそ状況確認は大事だ。那佳の呼びかけに各編隊長が応える。

『こちらはブラックナイト1。僚機を4機失った。こちらはそう長く支えられん!!援護を求む!』
『こちらイーグル1、なんとか民間家屋への爆撃は阻止した。残弾はまだ残ってるから当面は踏ん張る』
『こちらインドラ1。敵は手練だ!!あらうる状況を利用して攻撃してくる!!残弾僅か、援護を!!』
『コスモタイガー1番隊、これより敵左翼に突撃を敢行する!!』
『こちらデルタ1、敵部隊と交戦中!これより白兵戦闘に移行する、以上!』
『扶桑2番です!3名負傷しました!……くっ!敵が多すぎる!!弾が……』

松山から発進した部隊は練度が高い部隊である。数的劣勢を補って余るほどの奮戦を見せているが、敵も去る者、巧みな十字砲火でウィッチや戦闘機、可変モビルスーツなどの逃げ場を無くして撃墜に追い込んでいく。

「……状況は厳しい……っ!!」

彼女はホ301航空機関砲を撃ちながら敵に突撃を敢行する。大威力の賜物か、一、二発で鉄人兵団の兵士を蜂の巣にし、撃墜する。だが、敢行弾数は多くない。`カチッカチ`とトリガーを引いても弾が出なくなる。弾が切れたのだ。機関砲を投棄して格闘戦へ移行する。

「ぉおおおおおっ!!」

お叫びを上げて敵に突撃をかける。兵団の兵士は格闘戦を行える武器を持ち合わせていない。それが数の劣る人類側が漬け込む隙なのだ。だが、それを裏切るように兵団側が腕の追加装甲から白兵戦用の剣やら斧、槍を取り出して逆に突撃をかけた。兵団はこう言うことも想定し、この部隊に優先して装備を配備していたのだ。

「格闘戦がお前らの独壇場だと思うなよ。さあ血祭りだぜ`人間`!!」
「ふざけんな!テメーら、どういうつもりなんだよ!!」

怒声を上げるヴィータに兵士の誰かが答える。

「お前らが地球のために戦うように、俺達はメカトピアの為に戦っている。どっちかが生き残り、どっちかが滅ぼされる。それが戦いってものだろうが!!」

−未来は誰のためにあるのだろうか。それは分からない。ただあるのは生き残りたいがために必死に戦うものだけだ。嵐は駆け抜けていく。絶望と共に。

「この空は……地獄だ……」

兵士の誰かがこういった。鮮血やオイル、各種部品が飛び散る、正に地獄絵図のような戦い。混戦の様相を呈していた。刺し違えてその命の火を消し去るウィッチ。血路を切りひらくために特攻していくコスモタイガー、無言で翼をもがれ、コックピットを撃ちぬかれるバルキリー……空は地獄だった。





−そして九州に向かう一つのオートバイがあった。そのオートバイに乗る男の名は`筑波洋`。またの名を`スカイライダー`。

「……彼女達が守ろうとしてる空か。……いい風だ。これならどこまでも飛べそうだ」

彼は`クスッ`と笑った。人々が命を賭して守ろうとする空。歴代の仮面ライダーの中で`空を飛ぶ`事を能力として持。


−仮面ライダーの中で`翼`を持つ唯一の男は自らの使命を全うするべく、戦いの空へ舞い上がる。

『スカァァァイッ……変んんっ身!!』









「中尉、既に各工業地帯は打撃を受け、我軍の今後の行動が制限されてしまう水準の損害をこうむっております!!」
「主力を全てハワイに向かわしたツケが回って来たわね……」

黒田那佳は連邦軍の読みが甘かったことを痛感していた。主力がいれば日本は無傷で守れただろうが、いまさら悔しがっても後の祭りだ。なんとしても市街地への侵入は阻止せねば。

『編隊が一つ突破して市街地に向かっている!!』

迎撃の網をくぐり抜けて市街地に侵入しようと兵団の一個小隊が追加装甲のスラスターを全力噴射して低空飛行に写る。バルキリーやコスモタイガーは足止めされ、ウィッチは追従すらできない。モビルスーツが向かうが、援護弾幕に阻まれる。

「そうはさせるか!!」

黒田那佳は`鍾馗`の魔導エンジンをフルに吹かして敵を追う。この位置からならたとえレシプロエンジンであろうが急降下のスピードで追いつけるはずだ。瞬く間に急降下速度は時速700キロを超える(これは扶桑陸軍の設定急降下制限速度を上回るものだが、元々Bf109を目標に設計されているので余裕で設計強度の許容範囲である)。

「お願い、追いついてぇぇっ!!」

必死に追う。世界は違えど、ここは`扶桑`だ。それを戦火で焼くことは許せるものではない。祈りながら刀を構える。だが、敵の速度は早い。音速超えの時に発生するソニックブームが発生し、吹き飛ばされる。

「……うわぁぁぁっ!!」

急降下で追いつくと思われた瞬間、敵がジェット噴射の一部を偏向させてその衝撃波で彼女を吹き飛ばしたのだ。敵も咄嗟の行動であったらしく、速度の多少の低下を承知の上で行った。
安全を確保した兵団は悠然と市街地に侵入する……はずであった。

「大回転……スカァァイキィ―――ックッ!!」

―すんでのところで兵団を一筋の`風`が貫いた。それは……。

「あ、あれは`スカイライダー`!?」

誰かがその男の名を言った。『スカイライダー』。11人の歴代仮面ライダーの中で唯一完全な飛行能力を持つ8人目の男。(不完全ながら他に飛行能力を持つのはZX。足のエンジンである程度の空中機動が可能。)。彼もその使命を全うすべく馳せ参じたのである。これで再び歴史の表舞台に現れた`仮面ライダー`は現役のRXを除くと7人に達した(表立って行動を起こしたという意味で)

「ほう。空を飛べる仮面ライダーが居たとは……」

「そうだ。俺は空を飛べる仮面ライダー……`スカイライダー`だ!!」

スカイライダーは大昔の武者のごとく声高く名乗りを上げ、その飛行能力`セイリングジャンプ`を持って戦闘に参加した。その飛行速度は800キロに達し、存分に力を奮う。

「これ以上は一歩足りとも近づけん!!」

兵団の前に立塞がりながら見得を切るスカイライダー。その姿ゆえかどことなく迫力に溢れている。
彼も由緒正しき仮面ライダーの名を継ぐ者と言う事だろう。そしてその華麗な空中機動で兵団を叩きのめす。

「まずはこれだ。99の技の一つ!!スカァイ大旋回キィィィ――ック!!」

―99の技とは歴代7人ライダーとの特訓でパワーアップしたスカイライダーが身につけた技の数であり、現在の彼の象徴だ。
そもそも彼は元から現在の姿でなく、誕生時は暗色系のカラーリングの姿であった。その能力は元から戦闘用改造人間として作られたストロンガー以前のライダー達に比べると特筆すべき点はない。
手術が助命目的であったためだが、仮面ライダー系列の開発資産で作られたので高水準のスペックは確保されていた。やがて当時の組織の強力怪人「グランバザーミー」に一蹴された際に7人ライダーの特訓で生まれ変わり、さらなる強さを手に入れた。
現在の姿はその証である。

「すげぇ……あの人も仮面ライダーなのか……」


ヴィータは獅子奮迅の強さで奮戦するスカイライダーの勇姿にすっかり釘付けとなっていた。以前、スバルが保護されたときに状況説明の際に仮面ライダー一号こと本郷猛に会って話したことがあったが、
彼は`私以外にも仮面ライダーはいる`と言っていたが、正にその通りだった。彼の登場で士気が落ち込んでいた部隊も動きにキレが戻る。


スカイライダーの勇姿はヴィータ達にはこれ以上ないくらいに頼もしく見えた。



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