−兵団はD作戦にて日本本土空襲を行い、その途上で、石油コンビナートを爆撃した。無論、この時期には地球上の化石燃料は貯蔵量が多かった中東含めて全て枯渇していたが、エデンなどの多くの植民星から輸入される燃料の一つとしては化石燃料は依然として存在していた。ただしコンビナートの貯蔵量はかつての旧・国連時代の主要先進国が一年間に消費していたであろう量に比べれば、その貯蔵量は実に『ささやか』である。(これは推進機関などの技術革新で動力としての化石燃料の需要が一部愛好家の保有するガソリン車や航空機・艦船などに限られるためでもある)それでも引火すれば大火災を起こることには変わりはない。攻撃により貯蔵タンクの一つが破壊され、漏れ出したガソリンに兵団は火種を用意してやり、人為的に引火させる。


「てめえら!!よくも……こんな事をなんで平気でやれる!!」

ヴィータは戦禍を広げるこの行為に激昂し、グラーフアイゼンを「ギガントシュラーク」発動時の巨大形態へ変形させ、叫ぶ。だが、兵団側は至って冷静どころか、状況を『愉しんでいた』。

「愉快至極じゃないか。これこそが闘争、闘争だよ。一般市民が何万、何億死のうが関係ない。闘争に犠牲はつきものだ。そう。犠牲は……な」

愉快そうにいう兵団の指揮官に思わず体が動きそうになるヴィータだが、それより先に黒田那佳が動いた。よほど兵団側のこの一言が頭に来たらしく、お調子者的な彼女にしては狂気すら感じさせる物言いで言った。

「首おいてけ!!なあ、大将首だ!大将首!!大将首だろう!?なあ大将首だろおまえ」

まるで、どこぞの「妖怪首おいてけ」のような……というよりは、完全に乗り移ったかのような言動である。黒田は剣術においては黒江や穴拭、加藤などの『偉大な先輩達』には及ばないもの、
十分に達人レベルの腕は持ち合わせていた。一瞬で接近し、居合で相手の首を掻っ切る。これは完全に『ブチ切れた』事で頭のリミッターが無くなったせいだろう。敵を残虐に『殺す』事も、もはや躊躇しなかった。視線も完全に『イッている』と思わせる狂気を纏っている。このブチ切れ状態の黒田とヴィータ、更にはスカイライダーは戦い、戦って、戦い抜いた。


だが、それでも情勢を覆すには至らず、鉄人兵団にもかなりの出血は強いたもの、戦略目的は達しられてしまった。
つまり、かつての珊瑚海海戦の如き『戦術的には連邦軍勝利、戦略的には鉄人兵団の勝利』という状況となってしまった。






−こうして、兵団の「D作戦」は見事に成功。立ち直りかけていた日本の工業地帯に打撃を与え、さしもの精鋭もすべてを守り通すことはできなかった。
そしてかの「スカイライダー」を以てしても、だ。戦争という現実にヴィータは打ちのめされそうになり、嗚咽を漏らす。


「ちくしょぉ……ちくしょぉぉぉっ!!守れなかったのかよ……またあたしは……!」
「泣くな。全てが守れなかったわけじゃないんだ」
「そうだ。君たちがやった事は無駄じゃない……必ず今度は守ってみせる」


扶桑陸軍のエースと誉れの高い「黒田那佳」も内心は痛恨の極みであるのは間違いなかった。泣きじゃくるヴィータを抱きかかえてなだめているが、配下のウィッチに複数の戦死者も出ている以上、彼女もまた本来であればこの場で感情のままに叫びたかっただろう。だが「自分は指揮官である」という自覚がそれを押し留めた。戦闘中に流れた歌の力で勝ちはしたが、失ったものもまた大きい。スカイライダーこと、筑波洋もそれを自覚しているからこそ、戦死者へのせめての手向けとして敬礼をする。こうして供養してやることが戦死者の最大の慰め。スカイライダーが敬礼をしたのをきっかけに全員が敬礼を行う。誰かが弔砲代わりに「ホ5 20ミリ機関砲」を空へ向けて撃つ。九州の佐世保基地で防空の陣頭指揮を執っていたレビル将軍も基地の一角で戦死者へ敬礼し、基地には半旗が掲げられた。

−ハワイを巡る戦いは日本にも深い傷跡を残した。だが、これが戦争の現実である。誰も傷つかない戦争などありはしない。
むしろ今までの戦いが「甘すぎた」のだ。大昔はそれが当たり前であったのではないか。それをヴィータは深く心に刻むのであった……。





−さて、なのははこの日、ドラえもんからの通信でサラブレッドの救援に赴いた。そこで初めてジオンのエースと対峙した。






「……ええい、連邦の人手不足はとうとうここまで来たか!」

……と、ガトーが嘆いたのは無理もない。連邦がとうとう魔法少女をも戦線に出すという普通ならおおよそ有り得ない出来事が目の前に起こっているのだ。
歴戦の勇士の彼もこの立て続けの衝撃には唖然としてしまう。

「お待たせしました!高町なのは少尉、これより戦線に加わります!!」
「あなたが智子の言っていた……。加東圭子少佐です。貴官には私の指揮下に入ってもらいます。いいですね?」
「はいっ!」

なのはは圭子に敬礼すると、そのまま戦線に加わった。圭子も扶桑を立つ前に届いた穴拭智子からの手紙を見ていたので、なのはの事をすぐに理解出来たのだ。そしてこの少女が原隊での部下のティアナ・ランスターの`上司`となる人物である事も分かっていた。(ティアナが圭子に`なのはさんによろしく`と言っていたためである)


「……おのれ!!このアナベル・ガトーは幾星霜の年月を待ったのだ、貴様らのような分別のない者共に我々の理想を邪魔されてたまるかッ!!」

ガトーは宿敵であるコウ・ウラキ、そして名も知れぬ連邦軍の戦士達に向けて言い放つ。これが彼を彼たらしめる信念。一年戦争以来彼がひたすら殉じてきた理想を。

「理想……!?」
「我々はスペース・ノイドの真の解放を掴み取るのだ!地球からの悪しき呪縛を我が正義の剣によってな!」
「なっ……!?こんな小さな戦闘の時に何をッ!!そんな演説じみた事をして……」
「君も将校だろう!!ただの兵でないのなら大局的に物を見ろ!!」
「うっ……」

これはかつて新兵時代のコウ・ウラキが言われたことそのままである。今のなのはは治安維持組織の一員としての素質はあるが、軍人−それも士官−として持つべきである`大局的な判断力`を持ち合わせていなかった。戦いは戦術的決着だけでは片付かない。それを改めて思い知った瞬間であった。

そしてガトーのドライセンはガンダム一機、ウィッチ一人、空戦魔導士一人に包囲されているが、ガトーが注意しているのはコウ・ウラキの駆る新型ガンダム(F91)だけだ。後の2人はどうにでも出来る。

なのはは一気に落とすべく、レイジングハート・エクセリオンにカートリッジをロードする。いくらガンダリウム合金を装甲に用いる第二世代モビルスーツといえども自身最強の砲撃`スターライトブレイカー`を叩き込めばただでは済まないはずだと踏んでいるようで、一気に落とすつもりだ。−だが、なのははまだ知らない。対峙しているドムの発展型のモビルスーツを駆っているパイロットが、連邦軍士官学校の教科書にも名を残したジオン屈指のエースパイロットの`ソロモンの悪夢`である事を。


「スターァァライトォ……ブレイカーァァァァァッ!!」

「……ぬっ!!」

この計り知れない威力の攻撃にもガトーはMSパイロットとして鍛え上げた反射神経で直ぐ様反応し、操縦桿、スロットルレバーを巧みに動かし、機体を紙一重で回避させる。正に神業だ。

この時のなのはのミスは気持ちが高ぶっていたせいで動きを封じるための拘束魔法を用意していなかった事だった。
未来世界での空戦はこの時が初めてだったので、無理もないが、彼女にしては珍しいミスであった。

「……えっ!?」
「ぼーっとしてたら落とされるわよ、少尉!」
「分かってます!!」


これには動揺してしまう。自身の必殺技をこうもあっさりと回避されたのだから。
そしてガトーは当面の目的であるユーコンの安全を確保するべく、コウたちを自分のところに引き付ける。


−コウ、圭子、なのはの3人を相手取り、大立ち回りを演じるガトー。
ある意味では彼の経験勝ちといったところであり、被弾していないのはジオンの誇るエースたる所以であった。







そして海中から迫る水陸両用モビルスーツ群を迎え撃つべく、サラブレッドから一機の高性能機が発進した。`MSK-100S`陸戦用百式改。この機体は水中でも戦えるように改良がなされた第二期生産ロット機である。パイロットはエルピー・プル。

グリーン系の塗装の機体が水中に潜り、旧式化したジオン系水陸両用機を待ち受ける。

「……いた!!そこだッ!!」

プルは持ち前のニュータイプ能力で敵の気配を感じ取り、その方向へレールガン付ビームライフルを向ける。気配が近づき、射程へ入った瞬間、ライフルについているレールガンを放つ。ややあって、爆発の衝撃が響いてくる。命中したようだ。

「大当たり〜!さあ次いくよ!」

陸戦用百式改。これは原型機の関係でガンダムタイプに分類される。旧式化して久しいアクア・ジムやガンダイバーよりも戦闘能力に優れる事から、旧・カラバが取り込まれる際に海軍に制式採用され指揮官・エース用として配備され始めていた。プルが今回使用したのもそのような理由からだった。

ズコックのアイアン・ネイル(俗に言う格闘戦用クロー)の攻撃を受け流し、逆にサーベルでズコックの胴体を一刀両断にする。水陸両用機でなく、元が汎用機の出自ながらも陸戦用百式改はエルピー・プルの操縦によってその真価を発揮。一年戦争中の機種を圧倒した。その意外な活躍はジオン残党軍を驚かせ、予想以上の損害にユーコン級は全速で離脱。残存機に撤退命令を出す。


『ガトー少佐、本艦は海域を離れます!ご帰還を!』
『了解した!』
『ガトー!』
『覚えておけ。ジオンの再興を成し遂げるまで私は死なん。そして貴様との因縁もな』

ガトーは本来の目的の為に海域を離脱した。コウは彼の再来に自らの使命を自覚する。

(ガトー、お前が何度蘇って星の屑をやろうというのなら……俺は阻止してみせる)

星の屑の輝きが蘇った時、それはジオンの3度の復興の時でもあった。



−地球連邦軍はハワイ攻略に太平洋方面で動員出来るだけの戦力を全て注ぎこんだ。
それだけに補給線の維持には気を使っていた。かつての日本海軍がシーレーンを軽視し、国を飢餓に追い込んでしまった戦訓がここで生かされていた。対潜部隊や大西洋方面から回された空母が補給艦の護衛を行いながら弾薬や食料が前線に運ばれていった。



−攻略部隊旗艦「土佐」

「サラブレッドがジオン残党の襲撃を受けたと?」
「ハッ。アナベル・ガトー麾下の部隊と鉢合わせしたようですが、一定時間の交戦の後に彼らが転進したとの事です。現在は航路に復帰し、後3日ほどで到着予定との報告が」
「そうか。それは幸いだったと言うべきだな。奴が本気になれば護衛艦の一隻や二隻の犠牲は覚悟しなくてはならないからな」

ソロモンの悪夢の異名は名将と名高い山南をして心胆を底冷えさせるほどの威力を発揮していた。それはアナベル・ガトーの勇名がこの時期には既に全連邦軍将兵に轟いている事の現れでもあった。

「ジオン残党の行動も活発になってきています。アッツ島付近では‘白いスナイパー仕様のリゲルグ‘の姿が確認されたとの報告も上がってきています」
「`白狼`……生きていたのか」

山南をしてそう言わしめた旧ジオン軍のトップエースの一人に数えられる`白狼`。かつて宇宙攻撃軍の中でも武人として知られ、サイド3の名家の出であった人物。その名をシン・マツナガ。戦時中の階級は大尉である。`ソロモンの悪夢`アナベル・ガトーに続き、彼が加わったのなら、ジオン残党軍も体制を立て直してきたと考えるべきか。

「これは侮れんぞ。背後を突かれる可能性もある」

ジオン残党はザンスカール帝国やクロスボーンがその当初の理想を見失って自然消滅や崩壊した中でもその求心力を維持した。
その規模も各種残党の中では大きい。練度も連邦軍の平均レベルより上で、連邦軍が恐れる敵の一つでもある。
山南は逐次、ジオン残党の動きを見逃さないように情報収集艦群に命じた。






























−ハワイ攻略は峠を越えようとしていた。各地区の捜索も順次完了し、残りは中心市街のみとなり、ひとまず安堵が全軍に広がっていた。ある日の夜、戦車隊の臨時駐屯地で休憩を取っていた仮面ライダーV3=風見志郎一行の内、なのはは普段着(……といっても連邦軍から支給された軍服だが)で外に出て、考え込んでいた。`力`とは何か?守るためのものか、それともただひたすらに敵を討つ為のものなのか。自分は個人ではどうしようもない巨大な`戦争`という力の前に動かされているだけでは無いのか?と悩んでいた。

−前線司令部となっているテントの周りに戦闘態勢のままでバリアジャケット姿をした高町なのはがいた。彼女はサラブレッド救援の際にアナベル・ガトーと交戦。もはや`戦士`とも呼べるレベルまで達し、大局を読んで行動する彼とは違い、`将校`の肩書きを持ちながら兵卒とさほど変わらないレベルでしか行動出来ない自分に大きな差があるのを認識し、`士官`として何を成せばいいのかと悩んでいた。

−たしかに管理局や連邦軍でも士官としての教育は受けた。だけど大局を読むってどういう事なんだろう?

`大局を読む`。それはそれ相応の地位を持つ軍人ならば学ぶべき事だ。アムロ・レイやブライト・ノアのように有能な軍人はそれを読んで自軍を優位に運ぶように仕向けられる。古くは米海軍のチェスター・ニミッツ、日本海軍の小沢治三郎やドイツのエルヴィン・ロンメルが備えていたとも言われるこの素養。彼女は今、その領域に足を踏み入れつつあった。そして、その素養を備えた人物が彼女の身近にいた。−そう。ドラえもんである。

「サラブレッドの救援、ご苦労様」
「ドラえもん君」

ドラえもんはその愛くるしい外見とは裏腹に厳格な現実主義者であり、多くの大冒険でもその一端を垣間見せていた。彼は今、前線司令部に詰めて作戦を練っている所だが、休憩のために一端外へ出てきたのだ。

「……『大局を読む』か。何、簡単な事さ。オセロとか将棋とかチェスとかのボードゲームとかトランプをやったことはあるかい?」
「うん、オセロやトランプならやったことはあるよ。……でもそれがどうして?」
「オセロとかトランプだって、自分が置かれた状況で最善の手を出そうと考えるだろう?相手がこの先どういう手を出すのかも頭の中で考えておいた上で。大局を読むというのはそういう事さ。例えば囲碁や将棋の名人級になると数十手先を読めるようになるけど、それは軍人だって同じさ。過去の歴史上の有能な軍人達、例えばチェスター・ニミッツやエルヴィン・ロンメルとか、小沢治三郎とかはそれができた」

ドラえもんは分かりやすく説明する。それは彼の`人生経験`の豊富さや実戦で鍛えたカンの現れでもある。なのははそんなドラえもんに羨ましさを感じていた。

「……羨ましいな。ドラえもん君って」
「君だって必ず出来るようになるさ。本来は小守ロボットだった僕でもできたんだ。君もやれるようになれる。必ず」

これはドラえもんならばの励ましでもあった。彼の出自を考えれば当然といえば当然だが、彼だからこそ言える事でもあった。

「……私でも誰かを守れるのかな」

うつむきながらそういうなのは。そこには、自分だけでも世の中の裏に関わって欲しくないと、父親の以前の仕事で起こった事件の詳細を自分に内緒していた家族の想いを裏切ってしまい、危険な管理局の仕事をし、そしてさらに地球連邦の軍人となってしまった自身の行動は正しかったのかと思い悩む一人の少女の姿があった。



「何かを守りたいって気持ちがあるなら、君だけが守れるモノがどこかにあるさ」

そこへ、もう一人の声が響く。野比のび太だ。コルト・パイソン357を右腕に持って階段の上に立っている。その眼差しは彼の優しさを表すように穏やかだが、確かな意志が感じられる。大冒険になると普段からは想像のつかないかっこよさを見せる。

「私だけが守れるモノ……?」
「そうさ。君だけが守れる何かはあるさ。必ず」

−なのはが彼らの言葉の意味を知るにはもうしばらくの時間を必要とする。

そして、ドラえもん達と別れた後はしばらく自分なりに考えていた。

「……力って何なのかな。小さいころのお父さんのあの`事故`の時もそうだったけど……」

なのはは此頃になっても、幼少期に父親が`事故`にあい、生死の境をさまよっていた時の`無力感`が尾を引いていた。9歳の時に魔法を得ることに何の躊躇いが無かったのもそれが起因しているが、
今回、この世界にきてからというもの、多くの戦争を見てきて改めて自分が如何にちっぽけであるかを認識した。`個人ではどうしようもない`時代の流れ。スペースノイドとアースノイドの対立がやがて地球連邦とジオン公国の対立へ拡大して`一年戦争`を引き起こし、その後も争いの火種は残ったまま。`自らの大義のもとに、争いを起こすことを厭わないジオン軍残党`に、フェイトは憤慨していたが、自分としても争いを起こす彼らは許せない。だが、自分はそれらを止められるほど強くない。

「何かを守りたい気持ちがあればそれだけで何も要らないもんよ」
「美琴さん」

駐屯地のベンチに座っているなのはの隣にはいつの間にか御坂美琴がいた。彼女はたまたま外の空気吸うために建物の外に出たのだが、そこで偶然なのはを見つけたわけである。(因みに美琴の服装は常盤台中学の制服の夏服である)

「……私も前に無力感に耐え切れなさそうになった時があってね。あれはこんな夜の時だった」

美琴は学園都市で有数の超能力者と言われ、常盤台中学のエースとまで謳われている。その彼女をして精神を病む一歩手前までいった出来事があった。それは絶対能力進化(レベル6シフト)と呼ばれる実験。
学園都市第一位の`一方通行`を使って絶対能力を産み出そうとした狂気。その実験で使われた`実験動物`は美琴の体細胞クローンがおよそ20000体。そのうちの一体と出会った事で実験を知り、その実験で他愛もなく人形を壊すかのように殺される自らのクローンを目撃してからは阻止に奔走したという出来事を話した。

「その過程で`第四位`とも戦ったりした。……でも結局自分の力じゃ実験は止められなかった。
`第一位`とも戦ったけど結局どうしようもなかった。`常盤台中学のエース`なんで言われてる自分が一矢報いることもできずに負けた。……あの時の悔しさは一生忘れられないわ」

美琴は実験のさなか、第一位の`一方通行`と直接交戦していた。目の前で自らの`妹`を殺され、激昂して戦ったもの、その能力の前に決め手の`超電磁砲`を弾かれ、戦意を喪失した。その後、彼女の心は次第に病んでいき、相棒の白井黒子にすらその心を晒さずに実験を止めようと無力感と怒りが交錯するままに行動した。だが、彼女の心は救われた。あの高校生`上条当麻`が実験を止めてくれたためだ。彼はボロボロになりながらも奮戦し、一方通行を`ぶん殴った`。それは今でも目に焼き付いている。美琴によって彼は`妹達の命の恩人`でもあり、`自分が自分らしく振る舞える`大切な人でもあるのだ。

「アイツが止めてくれなければ、今頃私は暗部に身を落としてたかもしれない。アイツのおかげで私は救われたし、私もアイツの背中を追いかけているうちに何かを救うために戦った。……いや、戦えた」

幻想御手(レベルアッパー)事件や乱雑開放(ポルターガイスト)事件で自らの手で事件に決着をつけたのは自然と上条当麻の背中を追うようになったからかもしれない。今はそう結論づけている。

「……大事なことは仲間を信じることよ。それがあれば力は自然と湧いて出るもんよ」
「仲間を信じる……」

背中を預けられる、白井黒子という仲間がいるから美琴は戦える。穴吹智子にとっての迫水ハルカ、
仮面ライダー一号にとっての二号達。ドラえもんとのび太にとっての三人の幼なじみ。自分にとってはフェイトやスバルだろうか……。

「とりあえず飲みものでももらってくるわ。喉乾いたでしょう」

美琴はそう言って立ち上がり、建物にもどって行く。その背中を見送りながらなのはは`力`について自分なりに考えてみることにした。

−彼女にとって、この御坂美琴との会話が後々にまで影響を及ぼす事になるが、それはまた別の話。



















−ハワイでの戦いは佳境を迎えようとしていた。多数の兵器が投入され、激烈な戦闘などは連日連夜の事であった。高性能の兵器が必ず活躍するとは限らず、汎用性の高さが鍵となったケースもあった。


−ハワイ攻略部隊 臨時駐屯地

「今日はZプラスで行く。調整はすんでいるな」
「いいんですか?νガンダムでなくって」
「こういう時には可変型のZ系の方が一撃離脱をしやすいからな」

アムロ・レイはνガンダムがロールアウトした後も一撃離脱戦法を行い易いZ系に好んで搭乗していた。そのバリエーションの内、最大を誇るのが Zplus(通常はカタカナ表記でプラスと表記される)である。元来はZガンダムを基にグリプス戦役時に反連邦組織「カラバ」が大気圏内用に再設計を行って一定数量産したのが始まりとされ、第一次ネオ・ジオン戦争が終結した後にエゥーゴが正規軍として連邦軍の実権を握ったのを境に、戦力の立て直しを急に要する連邦軍に正式採用されてさらに量産された。様々なバリエーションが作られ、中には「ハミングバード」なる過激な仕様が計画され、白色彗星帝国との`フェーベ航空決戦`には当時すでに試作されていた5機が投入されたという記録が残っている。
今回はそのZプラスの標準型のA1型で、武装に追加で本来はC1用のビームスマートガンを敢行している。機体の塗装は白を基調としたスプリンター迷彩である。(因みに連邦軍が独自にZの量産型として研究していたのがA/FMSZ−007IIと呼ばれるもので、これも一定数が量産された。そしてそれらを経て、コスト削減のために計画されたのがリ・ガズィであり、リゼルである)

彼はハワイ攻略でも戦果を上げ、攻勢に貢献している。そして彼はドラえもんらの援護を上層部から命じられ、早速発進したのである。`Zの鼓動を継ぐ`機体が空を乱舞する。これもある`戦争`の一幕……。`連邦の白い悪魔`と言われるエースは今日もハワイの空へ飛翔していく。












ドラえもん達や仮面ライダーと共に轡を並べて戦うなのはだったが、彼らと比べて一歩間違えれば死ぬような`修羅場`に身をおいた経験が少ない(強いて言えば闇の書事件か)ために死への恐怖がどこかにある事を指摘されていた。


「なのはちゃん、君は死ぬことを恐れているね」
「うん。でも、どうしてドラえもん君達はそんなに落ち着いてるの?一歩間違えれば死ぬんだよ?」

なのははドラえもんからのこの一言にうなづき、同時に自分から見れば同じ(正確に言えば異なる。のび太達は同じ地球人という観点から見れば、なのはとは住んでいる時代が20年近い差があり、年代的にはなのはの時代には子持ちになっているであろう世代である)年代の子どものはずののび太達が戦場に身をおいているのにも関わらず、どうして落ち着いているのか疑問を投げかける。ドラえもんとのび太はこう答えた。

「僕たちは地球の運命がかかってるような戦いを何度も生き残っているからね。それに僕自身、特攻して死にかけた事もあった」
「僕も宇宙でレジスタンス活動をやって処刑されかかったり、危うく鍋で焼かれそうになった時もあったからね。今となっちゃ怯えてるなんて考えてられないよ」

2人が言っているのはかつての大冒険の一幕である。ドラえもんの場合は`雲の王国`を作ったときの冒険で雲もどしガスのタンクに特攻した時のことを、のび太は歴史を元に戻すための`パラレル西遊記`、別の星の`宇宙小戦争`の事を差している。その時の戦いを思えばどうという事はない。さらに前の兵団との戦いではたった4人で兵団に立ち向かっていた。それに比べれば地球の軍隊やヒーローが味方についている今回は楽なものだ。

「君は誰がために戦えるかい?」
「`誰がため`……?」
「そう。誰がために……その意味を理解して初めて`正義`なんて物言いが許される。仮面ライダー達はその為に戦う。僕達もそうさ」

「`誰がため`か……」

なのははそのフレーズに昔、父親が自室で読んでいた「サイボーグ009」という漫画を連想した。その漫画も9人のサイボーグが改造された悲哀などに悩みながらも巨大な敵と戦う内容だった。その彼らの戦う理由について考えた事は無かったが、同じように戦いに身を置いてみて初めて分かるように思える。

「ええ。あたしもその意味についてずいぶん考えました」
「スバル」

スバルは仮面ライダー達に助けられ、共に戦った経験があるので当然、仮面ライダー達と共に戦ったときに同じような疑問に突き当たった。その点ではなのはの`先輩`であると言えるが、彼女は持ち前の明るさでそれを乗り切った。そして自分が戦える理由を見いだしている。ちなみに現在は穴吹智子がなのはの師匠兼保護者のような立ち位置にいるのと同様になのはの`姉`的な立ち位置にいる。

「誰がために戦える事はいい事です。守れるモノがあればどこまでも強くなれる。例えどんなにちっぽけでも……」

スバルは今ではあこがれの人を守り、この世界の未来をつかむという心を抱き、その気持ちを原動力に戦っている。なのはの頭を撫でて、からかう素振りを見せると、突撃態勢に入った。

「まずは化け物退治としゃれこみましょう!」
「うん!」

意気軒昂と突撃する準備を進める2人。仮面ライダー達や御坂美琴、さらにドラえもんとのび太も同様に、準備を整える。既に先行してルーデルが急降下爆撃を行っており、火の手が上がっている。

「よし!みんな、行くぞ!!」

仮面ライダーV3の号令で各メンバーは各々に突撃していく。兵団を倒すために。美琴の電撃、Xライダーのライドルスティック、RXとV3の拳、のび太とドラえもんの空気砲……なのはのディバインバスター、スバルの突撃と兵団の十字砲火とが入り混じる。

(初めて死にそうになった時は怖かった……だけど、今はスバルが……みんながいる。もう何も怖くない。私だって誰かのために戦えるんだ……!)

そんな独白をしながらなのははこの戦いで初めてレイジングハートを介さない攻撃を行った。両手で練り上げた魔力で前方に魔力スフィアを形成、左拳でスフィアを保持し、右拳で加速をつけて撃ち出すというプロセスを取るこの攻撃はスバルがあみ出した砲撃魔法そのものだった。

「スバル、行くよ!!」
「はいっ!!」
『ダブル!!ディバイィィィンッ!!バスターァァァッ!!』

これはスバルが用いていたモノをなのはが特訓で習得するという、その名の由来を考えると実に痛快な攻撃だった。ダブルというのは仮面ライダー達が必殺技を「ダブル〜」という形で合体技を繰り出すというのにヒントを得たという。ライダー達は自分たちの攻撃が彼女たちに影響を与えたことに思わず苦笑いしたとか。




「あの時のことを思い出すよドラえもん」
「……ペコとの時のあれかい?」
「うん」

あの大冒険の時は初めて生きるか死ぬかの境地を初めて味わった。「空飛ぶ船」の爆撃+「火を吐く車」……今考えてみれば実に原始的な兵器だが……の攻勢にひみつ道具を以てしても苦戦させられた。そしてあの剣の名人の前には秘剣電光丸をしても互角に持ち込むのが精一杯だった。まあ最後はマンパワーが勝つというのが人間の道具らしいといえばらしいが。

「あの時も苦労したけど、今回は最近の冒険より命がかかってるぜ」
「ああ。退屈しなさそうだ」

のび太は夢幻三剣士の大冒険以来久しぶりの感覚が蘇ってくるのを感じていた。ここ最近は恐怖こそ味わったが、自ら命を賭ける事は比較的少なくなっていた。直接敵と交戦した事例が段々と少なくなってきていたせいもある。5人での直接的な地上での命がけな大規模戦はアニマル惑星の時以来行っていないし、何回も冒険していると経験にバラつきが出てくるものだ。(例えば魔法世界での経験はのび太とドラえもんだけのものだし、宇宙小戦争で敵機動戦力と対等な意味で大規模戦闘したのはしずかとスネ夫のみなど)

のび太は手にもつコルト・パイソン(6インチモデル。のび太曰く`僕は自動拳銃より回転式を信頼する`とこだわりを見せている)を派手にぶっ放つ。威力・反動など、どう考えても小学生に扱える銃ではないが、のび太はひみつ道具で銃の重さなどを軽減している。反動はこれまたグレードアップ液で全身のグレードを上げることで耐えられている。

「357マグナム弾はたんまり確保してるからありったけぶちかませ!!」
「あいよ!」

本人曰く空気砲から一気に実弾を使う拳銃に変えたわけは「そのほうが僕らしい」との事だが、どう考えても普通の小学生とは思えないほどに銃の扱い方が熟練している。瞬時に撃鉄を起こして腰だめで撃つ動作の速さは銃の素人であるなのははもちろん、学園都市で`警備員`を見慣れている美琴をしても鮮やかと関心させられるもので、
西部開拓時代のガンマンを思わせる。弾を変える速度は道具を用いていないのに速いの一言。まるでシ◯ィーハンターだ。

「にゃっ!?」

なのはは銃声に思わず耳をふさぐ。以前ドラマで聞いた銃声より遙かに重い。何せマグナムの名を冠する銃弾なのだ。当然といえば当然である。仮面ライダー達もこの達人芸な早打ちに感嘆の声を上げる。

「凄いな……俺も以前やったことあるがここまでは早くないぞ」
「あの子、オリンピックに出れますよ」
「拳銃でこれだとすると……狙撃銃を持たせたら恐ろしいですよ。……敵じゃなくって良かった」
「お前のロボライダー並の精度だもんな」

その通り。のび太は銃器一般に精通しており、狙撃銃を持たせたら本人曰く「たぶんシモ・ヘイヘと同じ位の事は出来る」と豪語している。サブマシンガンやアサルトライフルだろうが、大砲だろうが対応可能なその腕は正に化け物な逸材だ。もし、出ればオリンピックで金は間違いなしだろう。

「V3さん、今です!」
「おおっ!!」

仮面ライダーV3はのび太が敵にマグナム弾を叩き込んだ隙を狙って空高く舞い上がり、お得意の必殺技の態勢に入る。そして叫ぶ。

『V3フル回転……キィィ―――ック!!』

飛び蹴りのバリエーション豊かさが仮面ライダーV3の真価である。そのバリエーションは錐揉みや反転、3段など多岐に渡る。今回は比較的一発あたりの威力を高めたタイプのキックだ。普通のキックとどのへんが違うかは本人しか分からないが……。

V3の右足が敵兵の動力炉をぶち抜き、大爆発を起こす。爆発を背に悠然と立つのは風格あふれるものだ。そしてV3に続けとばかりにXライダーも動きを見せる。


「ライドルホイップ!!」

Xライダーはベルトから万能武器「ライドル」を引き抜き、第一形態のホイップを存分に奮う。正に獅子奮迅の強さである。

「死ねぇ!!」

過激な台詞とともにライドルホイップを突き刺し、動力炉を貫く。Xライダーの真骨頂な攻撃である。傍からみると残酷だが、敵は情け容赦なく地球人類を抹殺・あるいは奴隷にしようとする侵略者だ。こちらもそれ相応の対応をする。それだけだ。

「リボルケイン!!」

RXも本来は斬撃にはあまり使わないリボルケインを生成し、ベルトから引きぬく。貫通力に優れる。切断力はバイオブレードには劣るがそれでも威力は高い部類に入る。彼らも本気なのだろう。

「……さあて、あたしも本気出させてもらうわよっ!!」

さらに美琴もコインを取り出し、必殺の`超電磁砲`を放つ。なのははこの未知の攻撃に目が点となる。電気を帯びた、雷の如き一筋の閃光が敵を貫く。同時に美琴の周囲には電流が迸っている。


「ふ、ふぇっ!?魔法も無しにビームみたいなのを……!?」
「あれが美琴さんの`力`だよ。あの人は`学園都市`の能力者。俗にいう超能力の類を持ってる」
「それじゃエスパー……?」
「いや、あれとはちょっと違うけどね。美琴さんの場合は`電気を操る`能力を持ってる。そのパワーはおよそ10億ボルトって聞いてる。」
「じ、十億ぅ!?」
「そう。それを応用したのがあれ。`超電磁砲`、弾体となる物体に電磁加速を加えて撃ち出す兵器。なのはちゃんの時代だったら米海軍が駆逐艦に積んでるはずの代物だけど……美琴さんはそれを生身で出来る。あの人が持ってるのはそれほどの力なのさ。」



ドラえもんの解説になのははただ唖然とするばかりだ。それまでに強大無比な力を持っているという御坂美琴は見たところ普通の女子中学生といった印象だ。それとは裏腹なまでに強大な力を有するとは。自分も親友たちや同僚に`砲撃魔法の鬼`と言われたことがあるが、それが霞んでしまうほどのインパクトだ。

「VF‐25のルーデル大佐から連絡が入った。敵の守りがここから1キロ先から厚くなってるそうだ。状況からいって、例のブツはその当たりにあると推測している。既に軍の前線司令部には打電済みだろうだ」

「通信機も無しにどうやって?」
「俺達の電子頭脳には通信機能が備わっている。テレパシーみたいなものと考えてくれればいいが、それを使って話したのさ」

『上には打電した。私は弾薬を使い果たしたから一端帰還する』
『VFで急降下爆撃するからだ。それでどうするんだ?』
『パックをつけてくる。`トルネード`の試作のモノの使用許可が降りたからちょうどいい』

ハンナ・ルーデルは意気軒昂とバルキリーの新型パックで急降下爆撃を行う腹積もりである。V3はあまりの急降下爆撃狂ぶりに半分呆れかえっている。

『ガーデルマンも大変だな』

ルーデルの相棒のガーデルマンはため息をつきながらV3に一言だけ言った。

『もう慣れましたよ』

カールスラントの誇る撃墜王達、歴代の仮面ライダーなどの強力な味方がついてくれるのはいいのだが、「はたして自分は彼らに付いて来れるのか」と、
なのはは内心ため息をついていた。こうなるとスバルの底抜けの明るさが羨ましい。しかしこうなった以上は覚悟を決めなくては。



彼女は`別の自分`が見たら卒倒間違い無しであろう戦場に身を置いていた。それがどう自分の未来に作用するのだろうか。

‐スバルの世界の私が見たら気絶しちゃうよね……だけどこれも私が決めた道なんだ……!覚悟は……ある。



これはなのはが、スバルと出会った事でスバルのいた未来と、ここにいる自分の未来がスバルの知る未来が分岐した事を自覚した故の独白である。

未来は変わる。何かのきっかけさえあれば。この戦い以降、なのはは「運命は自分で切り開く」という信条を持つようになる。




‐VF−25は初代バルキリーからの設計思想を延々と受け継ぐ戦闘機である。25はそれの最新型と言っていい。本来はフロンティア船団独自の仕様であったが、暗黒星団帝国の脅威に晒されるであろう地球本星は本土防衛強化を焦った。そこでレビル将軍はこの仕様を急ぎ次期主力戦闘機に選定し、軍としてその方針を定め、それまでの最高水準機であるVF−19シリーズとのハイ・ローミックス運用を想定して量産を開始していた。本来はVF−19Pから転換した3個航空隊の攻略作戦への参加が予定されていたが、作戦が予定より早まってしまったために見送られ、中隊長用として先行配備されていた2機だけが宙に浮いてしまっていた。その2 機をハンナ・ルーデルとガーデルマンは手に入れたのである。
土佐に帰還したルーデルは再整備とトルネードパックの装着が済むまでの時間を休憩時間として格納庫で待機していた。

「トルネードパックか……ずいぶんゴツイな」
「スーパーパックよりパワーアップ出来てアーマードと同レベルの火力を得られる新型のパックです。さらなる新型機の技術実証も兼ねているそうですよ」

それは自分達の時代にも通じるものだった。既存機のパワーアップ機として配備されたモノは実は新型機を作るための礎を築くためのモノだったというのは良くある。
扶桑のストライカーユニット「紫電一一型」はさらなる新型の「紫電二一型」への礎だというのは山西飛行機技術陣の言だし、長島飛行機のジェットストライカーユニット「菊花」と「火竜」も同様である。近頃、上層部が狂ったようにジェットストライカーユニットの開発を推進するのは、実戦で嫌というほどジェット機の優位性をアピールさせられたからだという。これは第一次・第二次大戦が起きなかった世界での帳尻合わせみたいなモノだろうか。

(魔のクロエが扶桑でのジェット導入推進の旗振り役になっていると聞くが、たしかにコイツのスピードに慣れてしまうと`戻れない`よな)

ルーデルは黒江綾香同様にバルキリーの持つスピードに`惚れていた`。そう。2199年の`戦史`で日本軍が`本土決戦`最後の切り札として開発を急ぎ、ドイツが最後の希望として技術的欠陥を差し引いて急ぎ量産した事からも頷けるが、それほどまでにジェットは革新的かつ敵に対抗出来る力だったのだ。実際、黒江綾香もフロンティア船団に行くまでにVF−17に乗って以来、バルキリー乗りとしての訓練を受けているし、自分もそれに続いた。

−音速のスピードに慣れてしまうとレシプロが鈍く思えるというのはこの事か。

ルーデルは妙に納得してしまう自分を自嘲しながら、用を済ますものは全て済ませ、
メサイアに再度乗り込んだ。

「さて……トルネードがどの程度のものか……テストしてやる」

トルネードパックは旧来のスーパーパックと異なり大気圏内外両用のパックである。推力も火力もスーパーパック装着時以上の数値をたたき出す。旧来のスーパーパックが宇宙用だったのに比べるとスゴイ進歩だ。まだ試作が上がってきたに過ぎないので自分が装着する。

−次世代機の技術実証ならこの私が実証してやる。最高の形でな!

メサイアのステージU熱核タービンエンジンが吠え、ルーデルを再び戦いの場に飛び立たせる。その大推力は別系統の超技術で作られたコスモタイガーにも引けは取らないほどに凄まじいパワーで空を切り裂く。

新たな`聖剣`の礎となるように……。その名はYF−29「デュランダル」。


「早速来たな」

レーダーは敵の兵士の反応が複数確認された。本来は畑違いの事だが、ルーデルは不敵に笑い、機体をコントロールする。

「こんなものか?」

コントロールスティックを小刻みに動かし、敵の攻撃を回避する。人形をとれる戦闘機というのは自分たちウィッチには都合が良い兵器だ。自分たちがストライカーユニットで取る機動を違和感無く再現出来、スピードも速い。この戦闘機で培う技能はストライカーユニットでの空戦技術にも応用できるだろう。
冷静にマイクロミサイルを放ち、スコアを重ねる。初めてにしては上出来な戦果だろう。

「あいつらのもとに急ぐか」

矢のように機体をかっ飛ばし、先程の地点へ急行する。所要時間は2分と掛かるまい。ガーデルマンと共に彼女は`戦乙女`として空に君臨していた。トルネードパックはそれほどまでの力を彼女らに与えていた。





「よし、これで……」

この日もなのはは支援の急降下爆撃を敢行していた。傍らにはストライカーユニットを付けたルーデルもいる。(なのはの護衛任務のためか空対空戦闘用の Fw190D型である)なのはは現地で即興的にルーデルの教えを受けて急降下爆撃のノウハウを吸収し、近接航空支援にこの戦いでの活路を見出していた。

「筋は良い。あとは経験だな」
「ありがとうございます、大佐」


(ルーデル大佐か……物凄い人って聞いたけど……)

地上で戦うスバルはルーデルの武勇伝に半信半疑であった。ルーデルの半ば伝説じみた戦果の数々はケタが違い過ぎてピンと来ないのだ。時空管理局の誇るエースでも戦果はルーデルほどでは無いし、戦艦までも沈めたといっても現実感が感じられない。しかし、会ってからのこの3日間でのルーデルの行動や戦果を見ると驚きの連続である。VF−25で出撃した2日前には空対空戦闘だけでなく、近接航空支援で多数の火砲を沈黙させたし、昨日は自前のストライカーユニットで敵の対空砲火をモノともせずにトーチカを沈黙させている。

「なのはさんが憧れるのも分かるなぁ。37ミリ砲のあの火力での支援に冷静な判断力……あれが軍人さんの本分なのかな?」

スバルは37ミリ砲で適切な支援を行い、匠に味方に指示を与えるルーデルの姿に何か感じるものがあるようだった。こうあるべきとばかりに指揮官の姿を表していたルーデルに上司としての理想像を見出していたからかも知れない。

(余談だが、声が似ているからなのか、スバルは無線連絡の際に付近にいるロマーニャ出身のウィッチから、501のフランチェスカ・ルッキーニ少尉に間違えられる事が多いとか。10人中8人まで間違えられたと後々になのはにいったと記録されている。)


「スバルちゃん、下がれ!コイツは俺が引き受ける!」
「は、はいっ」

スバルを守るためにRXが鉄人兵団の前に立ちふさがり、二段変身を行う。そのプロセスは一瞬であり、戦闘機人であるスバルでも視覚できないほどの素早さだった。

「貴様は何者!!」
「俺は炎の王子!!RX・ロボライダー!!」

分隊長と思しき兵団の兵士に相対するはRXが二段変身した「RX・ロボライダー」。
ロボライダーはどちらかと言えばパワー型に属し、敏捷性は多少欠けるが、その代わりに物凄いパワーをもたらす。装甲も強化され、並大抵の事では揺らぎもしない。黒と黄色が主体のボディは力強さを感じさせる。ロボライダーは鉄人兵団の兵士を圧倒的な力でねじ伏せる。銃撃を一切寄せ付けず、さらに格闘戦ではパンチ一発で相手を数十メートル吹き飛ばす離れ技を見せる。

「トゥア!」
「ぬああああぁ……馬鹿なぁぁぁぁぁああああああ!!」

ロボライダーの重いパンチが兵団の兵士の体にヒビを入れながら数十メートル相手を吹き飛ばす。まさにロボライダーの面目躍如である。とどめとばかりに右太もも付近で光を結晶化させる。必殺武器の「ボルティックシューター」を召喚したのだ。ロボライダーとなった彼にとって有効射程の上限など存在しない。エネルギーを充填し、最大出力で放つ。

「ボルティックシューター!!」

光線銃から放たれた光は正確に相手を撃ちぬき、大爆発を起こす。もちろん、彼は決めポーズを怠ってはいない。決めポーズを決めてこそヒーローと言うものだ。

「……で、そのポーズに何か意味あんの?」
「特に意味はないが、時代劇とかと一緒で、様式美なんだ」
「そういうもん?」
「ああ」

その様子を見ていた美琴からこういう質問が来るが、ロボライダーは時代劇を例に決めポーズの重要性を説く。
美琴は釈然としないが、自分にも思い当たるフシはあるのでこれ以上突っ込まないことにした。そして自身も道路の砂鉄を利用して`砂鉄の剣`を生成し、縦横無尽に動かし、兵団の兵士を切り裂く。

「もう一丁っ!!」

さらに左手で高圧電流を起こし、10億ボルトの高圧電流の槍で相手を攻撃する。
電撃を浴びた兵士だけでなく、直接電撃に触れていない者も吹き飛ばされていく。彼女の面目躍如である。もし、この場に同じ電撃系の攻撃を得意とするフェイトがいたら驚くに違いない。美琴の能力はそれほどスバ抜けているのだ。上空からその様子を目にしたなのはは改めて美琴に対して心強さを感じずにはいられなかった。


「あれは……Zガンダム!?」

なのはの視界に兵団を蹴散らしながら華麗な機動を見せる一機のウェイブライダーの姿が入ってきた。白を基調としたスプリンター迷彩のボディのウェイブライダーは資料映像で見たZガンダムと殆ど同じであったので、なのはは直感的にZガンダムだと言ったわけである。そのウェイブライダーは瞬時に変形し
、その流麗な姿を見せる。

「いや、あれはZの量産型のZプラスだ。よく見てみろ、背中がウイング・バインダーになっているだろう」
「あ、本当だ」

なのははややこしいなと変形を終えたZプラスを見てみる。アムロの機体らしく、彼のエンブレムが書かれている。
一般にZの量産型といえば、自分の世界の映画にも登場したリ・ガズィだが、この世界では可変機構が評価され、『可変機構を持つZの子孫」が複数あるとは聞いていたが…。

(確かに変形してこそZで、変形しないリ・ガズィは邪道なんだよね)


『こちらアムロ・レイ大尉。これよりそちらを援護します』
「貴官が`連邦の白い悪魔`か。噂は聞いている。アテにさせてもらうぞ」
『了解しました』

(ほえ……やっぱり`大佐`ってえらいんだなぁ。)

ルーデルとアムロの会話を聞くと改めて軍隊の上下関係が分かる。尉官にとって佐官以降の軍人は格が違うという事だろうか。(これは下士官までにとっての尉官にも言える)実際、尉官と佐官には権限自体にはそんなに差がないが、佐官とも成れば海軍では戦艦の艦長、陸軍では連隊指揮官の責務を追う場合があるし、空軍では大部隊の前線指揮官になれる。故に連邦軍では士官学校を出ていない軍人は佐官になれない(戦死の二階級特進は除く)という規則があると聞く。(同時に、速成コースであろうが一応士官学校を出ている者ならば、その気に成れば佐官に昇進できることも表している)
そんな事を思いながらなのははアムロとルーデルの護衛のこと、近接航空支援を続けるが、そんな彼らに司令部より通信が入る。その通信こそは重大な事実を告げるもの。内容はどこかで蠢く水爆の所在についてのものであった。

『全部隊に通達!!緊急!!こちら司令部!!繰り返す、全部隊に通達!!水爆の所在が判明した!!敵要塞の奥深くにある。歩兵部隊や陸戦ウィッチは場所の確保を急げ!水爆のスイッチは兵団の強硬派の将官が握っている!!自爆の可能性もある!!迅速な確保を急げ……』




















クライシス帝国から思わぬ情報を得た穴拭智子は水爆があるであろう場所へ全力で向かっていた。息を切らせながらも必死の形相でひた走る。刀で立塞がる敵兵を蹴散らしながら。

「ハァ…ハァ……」

敵はどんどん現れる。切っても切っても金太郎飴宜しく数が減らない。さしもの彼女もスタミナが切れてとうとう膝をついてしまう。

(ダメ……こんなところで……)

意識が朦朧とし、体が言うことを聞かない。運が尽きてしまったのか。こんなところで自分は死ぬのだろうか?それでも彼女は肉体にムチを打って必死に戦おうとする。

−こんなことじゃ、この戦いで先に`靖国`へ逝ってしまった連中に顔向けできない。それに私にはまだやらなくてはならない事がたくさんあるのよ……!


『どけ、俺がプチっと潰す』

智子に立塞がった一体の`ザンタクロス`が足を上にあげて踏み潰す態勢に入る。そのまま足を下ろせば智子は間違いなく潰される。今の智子にはもはやシールドを張る余力は無いのだから。

「……!!」

思わず目をつぶる。さしもの智子もこの時ばかりは`覚悟`を決めた。−だが、そんな彼女の覚悟が事態の好転を生んだ。別方向からミサイルが飛来し、ザンタクロスのバランスを崩して転倒させたのだ。

「あ、あれは!?」

智子の目に飛び込んできたのは戦闘機の3機編隊だった。赤・白・黄色の3色の機体が朝日に映えている。

『よう。まだ生きてるか?』

インカムに男の声が飛び込んできた。ドスの聞いた、迫力のある声だ。

「え、ええ。あなた達は……?」
『俺達は`ゲッターチーム`。付近の部隊からの通報で急いで来たんだが、ジャストタイミングだったようだな。今からそいつの土手っ腹を掻っ捌く』

そういうと編隊は一端上昇に転じ、赤の機体を先頭に並ぶ。ややあって叫びが響く。

『チェェェェェンジ!!真!!ゲッターァァァァァァァァァァッ……ヌゥゥワンッ!!
俺達がいる限り地球はテメエらには渡さん!!』


−遂に真ゲッターロボが戦場に馳せ参じたのだ。その姿は「悪魔の翼を持つ赤き戦神」とも言うべきもの。



彼らは他の面々と合流する際のやり取りは以下の通り。



「よう、久しぶりだなみんな」
「お前は相変わらずだな、藤原」
「あたぼうよ。こちとら鬱憤が溜まってるんだ、たっぷり暴れさせてもらうぜ」
「あまりハメを外すなよ、忍」
「わかってるぜ、亮」
「あんたはすぐに突っ走るからね、それが心配だよ」
「うっせえ!!」
「ハハハ……、変わってないなお前たちは」

ダンクーガのパイロットである`獣戦機隊`はスーパーロボット乗りの例に漏れず、個性的な面々が揃っている。『やぁぁってやるぜ!!』が口癖な藤原忍を筆頭に、強気な性格な紅一点の結城沙羅、格闘技を嗜んでいる参謀役の司馬亮(実は他のメンバーより士官学校の期が一期上)、最年少の式部雅人の四人である。前大戦では最終戦にも参加し、
機体が原型を保った状態で帰還できた数少ないメンバーの一人だ。

「ところで竜馬。そのゲットマシンってドラゴンより新型だよな。ゲッタードラゴンはどうしたんだ?」
「ああ、ドラゴンはゲッター線の実験用に回されてな。こいつはその後継のゲッター`真ゲッターロボ`だ」
「`真`ねぇ……これまた大きく出るじゃねえか。…さっきから気になってたんだけど、お前、雰囲気変わったよな?」
「それは最近良く言われる」

真ゲッターロボはその名は伊達ではなく、ゲッタードラゴンを超越する力を秘める現時点最強のスーパーロボットの一角である。
合体した状態ならば光速をも越えられるというテスト結果をたたき出した恐るべき機体。その力を見せるのはお楽しみだ。

「まあ見てろ」

竜馬は笑みを浮かべた。得物を追い求める獣の目で。アムロ・レイに`最近雰囲気変わったよな?なんかこう……ワイルドと言おうか……`と指摘されるほどに雰囲気が変貌した。

その理由は実家の道場を継いだからとの事だが……。







『ゲッタートマホォォォォゥク!!』

余談はここまでにして、両刃の槍状の斧が真ゲッター1の肩の突起から射出され、それを片手で持ってそのまま振りかざす。
その一連の動きの速さは正に神速と言って良い。空気を切り裂くような音が響き、真ゲッター1は急降下しながらトマホークを振り下ろし、ザンタクロスの足を両断する。そして右腕のパンチで胴体に食い込ませてそのままレザーの切れ味で文字通りに腹を掻っ捌く。正に鬼神と言って良い戦いぶりに智子は息を呑む。



『おぉりゃあ!!』

最後に頭部を潰す、情け容赦ない真ゲッター1の動き。(此頃の竜馬は19歳の誕生日を迎え、実家の家業を継き、自らを鍛え直した。そのために敵に対して容赦ない熾烈な一面を見せるようになった。僚はこの変わり様を`石●賢のあのドワォ!!`と呼んでいるとか。これには隼人及び弁慶にも当てはまる)

「す、すごい……!」

それしか言えない智子。言うそばから真ゲッターがさらなる動きを見せる。





『ゲッターァァァァッ!サイトぉ!!』

真ゲッターは左肩から如何にも死神が持ちそうなタイプの鎌を召喚し、それで敵の首を掻っ切っていく。
斧系の武装が必ず装備されることの多いゲッターロボでは初めてのケースである。これはゲッタートマホークの応用であり、通常のトマホークランサータイプも装備しているのだが、今回は取り回しの良さからか鎌を使用した。



『おおおりゃあぁっ!!』

力任せにザンダクロスの首を掻っ切ると同時に、瞬時に陸戦形態である真ゲッター2へ変形する。

『お嬢ちゃんはそこで休んでな。ここの獲物は俺達が狩る。……ドリルアーム!!』

真ゲッター2は地上をものすごい速さで駆け抜け、超高速回転するドリルを敵に突き立てる。ドリルの火花と
敵の悲鳴が響き渡り、ザンタクロス小隊をまとめてドリルで串刺しにしていく。

−オイルが血のように飛び散り、悲鳴が響き渡る。敵にとっては災厄の悪魔以外の何者でも無いだろう。

(これがゲッターロボ……これがスーパーロボット……!!」

真ゲッターロボのあまりの威力に智子は味方ながら身震いする想いだった。

「智子!!」
「圭子……あなた……どうして……?」
「上からの命令でこの戦いに参戦したのよ。生きてるわね?」
「……あたりまえよ。それじゃゲッターチームにあたしのことを通報したのは……」
「私よ。あなたのことが`見えて`ね。それで」
「……あり…が……とう…これを上に………」

仲間の姿に、安心したのか、智子は気絶する。圭子はなのはに助けられた後、すぐに戦線にに参加。
固有魔法の`超視力`により智子を発見し、緊急で付近の部隊に救援を呼びかけた。それに答えたのがゲッターチームであった。

『少佐はその子を野戦病院へ連れていってくれ。ここは俺達でどうにかなる』
「分かりました」

真ゲッター2の神隼人が外部スピーカーで呼びかける。加東圭子はそれに答え、`飛燕`のエンジンを吹かして智子をお姫様抱っこして近くの野戦病院につれていく。智子の腕にはガデゾーンがもたらした情報のメモが握られていた……。それが今回の戦いで重要な役割を果たすことになる。
















−野戦病院では智子が寝込んでいた。いくら魔力の減衰とは無関係になったとは言え、
過剰に魔力を消費すれば疲労し、倒れてしまう事には変りない。看病には加東圭子が付いているが、心配そうに智子に付き添っている。

「無茶し過ぎよ智子。昔からそういうところは変わってないんだから……」

加東圭子はかつて飛行第一戦隊所属時に同僚であった穴拭智子の事を妹分のように見ていた節があるのを思い出した。今はそれぞれ部隊を率いるまでに成長した自分たちだが、昔は戦果や飛行技能を争い、喧嘩になったこともあった。それを当時の上官の江藤敏子中佐に諌められたものだ。自分は部隊の年長者だったので、そういう争いはあまり気にしていなかったが、部隊の中で若輩だった智子や黒江などはよく争っていたのは覚えている。
まあ時には自分も加わったが……。2人の喧嘩を中佐に変わって仲裁することもあったなと述懐する。

(私も年くったって事かしら……)

この様子を智子が見たら「オバハンになったわねぇ」と言われてしまうだろう。いつの間にか老婆心というのが身についてしまった自分に苦笑すると彼女は再び戦場に赴く。戦死した戦友達の志や魂に報いるために。(こういう点は敢闘精神旺盛であった時代の日本人らしい)同期の中にも今回の作戦では戦死者が出ている。仇討というわけではないが、戦うことが先に靖国に逝ってしまった仲間たちへのせめての供養だ。

「……智子のことを頼むわ」
「わかりました。気をつけてください。死んだら穴拭中尉が泣きますよ」
「分かってる」


看護師として穴拭智子に付き添う源しずかに後のことを託し、彼女は戦う。それが今できる戦友へのせめての供養だ。

敬礼し、戦場へ舞い戻っていく加東圭子をしずかは答礼で見送った。それが`礼儀`というものだ。しずかはいつまでも敬礼をやめなかった……。





−前線司令部に轟音が響く。特徴的な飛行音から、合流したばかりの真ゲッターロボだろう。

ゲッターロボGのそれより遙かに鋭利かつ槍を思わせる`真ゲッタートマホーク`を構え、慣性の法則を全く無視したその動きでザンダクロスの`兄弟`を空中で一刀の元に両断する。その様は実に見事だ。


『ふう……20体目だ。ゲッタービームや真シャインスパークが使えりゃ一発で終わるんだがな』

真ゲッター1から`必殺技`を積極的に放てない事をボヤく竜馬の声が響く。市街地への被害をなるべく抑えたいために武器の使用を制限されている状況に若干不満げだ。彼のワイルドかつ、好戦的な一面が伺える。臨時司令部に着陸し、代表で竜馬が報告に向かう。

「ザンダクロスを20体ぶっ倒した。補給や整備の方はよろしく頼みまっせ」
「ご苦労。整備班に行わせよう。……しかし凄いな君たちの新しいゲッターの再生機能は」

司令官は多少の損傷なら癒してしまう真ゲッターロボの自己再生機能に感心したりの様子だ。

「今までのゲッターとは次元が違いますからね真ゲッターは」
「これからもよろしく頼む。飯はバーベキューを用意してある」
「そいつはありがたい。さっそく隼人と弁慶を呼んできます」

バーベキューと聞いて小躍りしながら外に出て行く竜馬。


司令官は「グレートマジンガーとダンクーガの帰還はまだだ。彼らも相当苦労している筈だ。帰還したらねぎらってやらなければ」と漏らしながら口に加えた煙草に火をつける。

―また大砲の炸裂音が響く。前線に馳せ参じたケーニッヒス・ティーガーの主砲「88 mm KwK 43 L/71」が敵の歩兵を塹壕ごと粉砕した音だろうか。

―まさか第二次大戦では防衛戦で威力を発揮したあれが改装されて、攻勢に貢献するとは。当時のヘンシェル社やポルシェ社の開発スタッフが聞いたら、なんと思うのだろう?他には、何でもガンダリウム合金で徹底的に軽量化して作ったナチスの遺産`P1500 モンスター`が同じく`現在技術`で作ったラーテと共に、艦砲射撃より確実に敵の要塞を粉砕するべく投入されると聞いたが、戦艦より遙かに強力な80cm 砲を主砲に添えた化物戦車をよく作ったもんだと『彼』は軍需産業の道楽にため息をついていた。窓から見えるかつての名戦車群の勇姿は夜空に映えていた。これから過酷な戦場へ駆り出される軍馬たちは静かにその咆哮の時を待っていた。かつて陸の王者として君臨した戦車は今、縁の下の力持ちとして戦線を支えていた。



















−野戦病院では穴拭智子が寝込んでいた。魔力の減衰とは無関係になったとは言え、過剰に魔力を消費すれば疲労し、倒れてしまう事には変りない。看病には加東圭子が付いているが、心配そうに智子に付き添っている。

「無茶し過ぎよ智子。昔からそういうところは変わってないんだから……」

加東圭子はかつて飛行第一戦隊所属時に同僚であった穴拭智子の事を妹分のように見ていた節があるのを思い出した。今はそれぞれ部隊を率いるまでに成長した自分たちだが、昔は戦果や飛行技能を争い、喧嘩になったこともあった。それを当時の上官の江藤敏子中佐に諌められたものだ。自分は部隊の年長者だったので、そういう争いはあまり気にしていなかったが、部隊の中で若輩だった智子や黒江などはよく争っていたのは覚えている。まあ時には自分も加わったが……。2人の喧嘩を中佐に変わって仲裁することもあったなと述懐する。

(私も年くったって事かしら……)

この様子を智子が見たら「オバハンになったわねぇ」と言われてしまうだろう。いつの間にか老婆心というのが身についてしまった自分に苦笑すると彼女は再び戦場に赴く。戦死した戦友達の志や魂に報いるために。(こういう点は敢闘精神旺盛であった時代の日本人らしい)同期の中にも今回の作戦では戦死者が出ている。仇討というわけではないが、戦うことが先に靖国に逝ってしまった仲間たちへのせめての供養だ。

「……智子のことを頼むわ」
「わかりました。気をつけてください。死んだら穴拭中尉が泣きますよ」
「分かってる」


看護師として穴拭智子に付き添う源しずかに後のことを託し、彼女は戦う。それが今できる戦友へのせめての供養だ。

敬礼し、戦場へ舞い戻っていく加東圭子をしずかは答礼で見送った。それが`礼儀`というものだ。しずかはいつまでも敬礼をやめなかった……。






 −地球連邦軍は兵力を捻出するために各種兵器を色々な戦場へ投入した。その最たる物だったのがハワイでの戦いであった。新旧問わず使いやすい兵器が主で、中には一線級装備ではなくなったジムUやネモなどのモビルスーツ、VF−1やVF−5000などの旧世代の可変戦闘機(VF)群も防衛用戦力として活用されていた。

「旧型も前線に出すんだ……」
「それはそうよ。最新型はたいてい配備数が少ないから実際は旧型も多く使われてるの。第二次大戦でドイツ軍が大戦中期には旧型になったW号戦車をマイナーチェンジで使い続けたり、日本軍が零戦を使い回し続けたみたいにね。最も両国は事情があったけど」

なのはは地上で作戦行動を取るジムUやネモの部隊や、自分達と共に編隊を組んでいるVF−5000「スターミラージュ」の姿にそう感想を言う。今回の落ち武者がりでの僚機は別部隊からの支援要請で離れたルーデルに代わって、加東圭子である。彼女は兵器に求められる物の一つに扱いやすさをあげる。なのはに話をしているうちに彼女はふと、音に聞いた`穴拭智子がスオムスでの戦いで新型への機種転換に不快感を示した`という話を思い出す。

(そういえば智子も二式への機種転換の時にずいぶん渋ったとか聞いたけど……いつの時代も同じようなもんね)

加東圭子は連邦軍内部でもモビルスーツは新式に属するジェガンやジャベリンが、可変戦闘機(VF)はエクスカリバーは愚か、メサイアが配備されつつある状況でも旧型がなお重宝されている事に時代の共通点を見つけた。兵器というのは扱いやすさも愛され続ける条件の一つなのだ。自分達の世界でももはや旧型になったストライカーユニットを使い続けている例はいくらでもあるし、坂本美緒も零式にこだわり続け、紫電シリーズへの機種転換をいやいやながら行ったと聞く。

「来たわね。各機散開!」
「了解!」

編隊を解き、各自で空戦に入る。鉄人兵団は規律のとれた編隊行動を取れなくなっているので一対一のドッグファイトに持ち込んで撃墜に追い込む。元々、地球連邦軍はかつての米軍などの流れを組んで編隊空戦を重視していたもの、ミノフスキー粒子の影響である程度巴戦も復権し、空軍パイロットなどはその技能を身につけていた。その技能が役に立ったのだ。

VFなどは火力と機動性を両立できているが、なのは達はその特性がどちらかと言えばDive and Zoomの一撃離脱戦法である。それはなのは自身、この戦いを通して理解し始めた事で、『推力があり、飛行特性が重いのであれば一撃離脱戦法を行う』。それは智子から常々言われてきた事で、飛行特性を無視して無理やり巴戦を行おうとするのは無茶だと気づいた。なので今ではその範疇での格闘戦にも取り組んでいる。


(これは親友のフェイトがスピード+格闘戦型だったので、それに合わせようとした事に由来しており、智子はそれを是正させるべくなのはに毎日、火力と防御力・推力を生かした一撃離脱戦法を仕込んでいた)

上空から急降下し、火力で強襲すると大きめのインメルマンターンで速度を殺さずにUターンし、再度襲いかかる。圭子はそういう時の指揮はお手のもので、編隊空戦に慣れていない(なのはは単独での空戦が多かったので編隊を維持したままの空戦機動は不慣れであった。そこでベテランである圭子が長機となることでサポートするのだ)なのはを誘導しながら、自身は飛燕に合わせる形で支給された二式二十粍固定機関砲を連射する。弾が軽量なので威力は他の国の20ミリに比べれば低いが、その分扱いやすい。徹甲弾で鉄人兵団兵士の各所をぶち抜いて墜落(戦死)させる。なのはは無駄な魔力消耗を抑えるためにレイジングハートを変形させて剣にする。これはこちら側の科学者達が修復の際に独自に付けた形態であり、管理局非公認(フェイトやヴィータなどしか知らない)の形態なのだが、智子への憧れを持つゆえか、割とこの形態を使用する事が多い。

「これ、言ってみたかったんだよね。オー◯斬りだぁっ!」
「……ダ◯バイン?まったく智子もああいうの好きだからって……まあいいか面白いし〜後でいってやろ」

なのはは某オーラバ◯ラーの如き雄叫びを上げながら一撃離脱戦法の要領で斬る。これを見て、圭子は元同僚が思わぬ所まで影響を与えたのに『後でどうからかってやろうか』と微笑ましく思った。またいっぺん智子の私室を覗いてやろうかとも考えた。きっと面白いものが出てくるだろう。

(後で迫水ハルカ中尉に命じてスパイさせよう)

と、しょうもないことを考えたとか。

『やってるな。俺も手伝いをさせてもらおう!……サンダーブレイク!!』

雷雲が現れ、雷鳴が轟くと同時に何かに導かれるように雷が敵を薙ぎ払う。それの正体はすぐに分かった。2人の前に臨戦態勢のグレートマジンガーが現れたからだ。雷を背にする構図は多少大げさだが……。

「鉄也さん!」
『よう』
「ずいぶん派手なご登場ね」
『それはそうだ。スーパーロボットというのはかっこ良く現れないとな。絵になるだろう?』


−グレートマジンガー。マジンガーZの後継機だって聞いてたけど改めて見ると大きいわね。

圭子はこの世界に来るに当たって、歴史ドキュメントを多く見させられた。そこには当然ながら在りし日のスーパーロボット軍団の勇姿も写っており、
その中には今は亡きマジンガーZを救うグレートマジンガーの姿もあった。この世界で俗にいうスーパーロボットは`材質、動力源などに超物質、超エネルギーなどが使用されている`、`搭乗者が武装を使用する際にその武器、技名等を叫びながら使用する`などが定義となっており、マジンガーZはその元祖的存在である。その正当な後継者がグレートマジンガーであり、初陣ではマジンガーZの4倍とも称される力で敵を薙ぎ払ったという。

その力を間近で見る機会が来るとはと、関心が高い素振りを見せた。

因みにグレートマジンガーのサイズが実は大型モビルスーツと同等の25mなのは一般に余り知られておらず、ドキュメントなどではマジンガーZと同等のサイズに描かれる場合が多い。
実際にはマジンガーZとのサイズ差は大きく、グレートマジンガーが大破したマジンガーZを回収した際にはまるで大人と子ども程の差あったと兜甲児は語っている。

『ブレストバーン!!』

グレートマジンガーの胸の放熱板が発光し、5万度の熱線を放つ。(当初は4万度であったが改良で威力が増した)5万度の高熱に耐えられるはずもなく、
瞬く間に溶解して液体になって落ちていく。兵団は慌ててグレートマジンガーに攻撃するが、宇宙有数の強度の超合金ニューZの装甲に掠り傷すら付けられない。レーザー、熱線、ビームなどのどんな攻撃を以てもだ。


『そんな攻撃ではグレートの装甲はびくともせんよ』

仁王立ちのグレートマジンガーはさらなる動きを見せる。口に当たるスリットから暴風を吹出す。グレートタイフーンと呼ばれる技で、マジンガーZのルストハリケーンと同系の技だ。単に敵を吹き飛ばすだけだが、威力はスゴイ。風速150mの風というのは台風よりも遙かにすごい威力。直撃を受ければジェット噴射でも抗えぬほどの暴風。

「スゴイ風……ストライカーユニットを全開にしてるのに吹き飛ばされないようにするのが精一杯なんて……!」

グレートマジンガーの後ろにいるだけでも吹き飛ばされそうな余波を感じる。風向きの問題だろう。

当たりで竜巻に巻き込まれたように渦巻く風に振り回され、死亡する兵士が相次ぐ。とうの剣鉄也は余裕だ。当人曰く『グレートマジンガーには物足りない』らしい

加東圭子は穴拭智子に続いてスーパーロボットの圧倒的な威力を目の当たりにしたのであった。


『ドリルプレッシャーパーンチ!!』

グレートマジンガーの右腕に螺旋状の突起が現れ、高速回転しながら発射される。打ち出されたそれはドリルのごとく敵を貫き、粉砕していく。




まさに偉大な勇者と言うべきグレートマジンガーの威力に2人はしばし呆然としたそうな。2人は司令部より、別働隊の支援に駆り出される事となり、
その空域に向かった。























−日本から飛来した宇宙戦艦ヤマト所属のコスモタイガー隊は戦線に馳せ参ずると直ちに行動を開始。
同隊長で、宇宙戦艦ヤマト艦長代理でもある古代進は直ちに現地の航空隊を指揮下に置き、兵団の脱出手段を断つべく、船舶ドック区間へ集中的に爆撃を敢行した。

「こちら宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進。これより航空隊の指揮は小官が指揮を取る。全機続け!!」

古代の新コスモタイガーに続き、航空隊は編隊を形作る。そして目標区間に達すると急降下。兵団の必死の対空砲火を物ともせず、目標の艦艇へ爆撃を敢行した。大昔の急降下爆撃機や艦上攻撃機よろしく、低高度で爆弾やらミサイル、あるいは魚雷、機銃掃射が加えられる。艦攻タイプを装備したウィッチたちは主に威力が高い扶桑の九一式魚雷を装備し、一斉に放つ。酸素魚雷の破壊力は兵団が摂取し、運用するこの時代の輸送艦艇にも効果を上げ、浅い海の底に着底させる。ちょうど太平洋戦争開戦劈頭の真珠湾奇襲を再現したような光景が繰り広げられる。ウィッチたちにとっては実戦での初の魚雷攻撃。それを成功させたのは元「赤城」航空隊所属の「村田」中佐の指揮手腕に他ならない。彼女は史実で言えば真珠湾奇襲での雷撃隊隊長の村田重治中佐に相当するウィッチ。彼女は上層部からの指示で極秘に浅沈度魚雷の開発と戦術研究に関わっていた。それが実った形であるが、それは扶桑皇国軍上層部が仮想敵国の概念を忘れていないことの現れでもあった。
そしてそれが奇しくも真珠湾で使われ、真珠湾奇襲と同じような戦果を以て示したのは世界を超えた因果を暗に示していた。その光景に因果を最も感じていたのは恐らくは加東圭子や、共にこの攻撃に艦攻隊の護衛として参加していた高町なのはだろう。


「これってまるっきり真珠湾奇襲と同じですよね、少佐……」
「……ええ。同じような場面でしかも戦果も同じ……何かの運命としか思えないわね」
「運命……確かにそうかも知れませんね。日本人だからとかそういうわけじゃないんですけど……」
「たしかにここは帝国海軍の栄光と悲劇の始まりの地であり、次代の勝者の米軍の旭日の地……歴史的に因縁深いのよねここは」

この日は加東圭子の僚機として戦闘に参加していたなのはは子供ながらも、真珠湾奇襲をそっくりそのまま再現したような光景に因縁じみた何かを感じたのか、圭子に言う。圭子も同じ`日本人`である関係上、同様の気持ちであるようである。大した抵抗も出来ずに着底していく輸送艦艇。そして練度の高いコスモタイガーにハエのように落とされていく兵団兵士達。艦攻隊は意気往々と引き上げようとするも、`そうは問屋がおろさない`とばかりにドックに備え付けられた自立型の地対空ミサイルの砲台が起動する。しかもそれは兵団が本国から取り寄せた最新鋭装備。ミサイルは凄まじい機動力で退避が遅れていた艦攻ウィッチを一人、また一人と餌食とする。しかもそれはコスモタイガーも例外でなく、撃墜機が出始める。


「各機、退避!撃墜可能な戦闘ウィッチは艦攻ウィッチを守ることに専念しろ!!」

すぐに古代から指示が飛ぶ。加東圭子はこれにすぐに応じた。自身の固有魔法と射撃の名手として名を馳せた往年の腕をなのはの前で始めて披露した。

「久しぶりにやってみるか……!」
「どうするんですか!?」
「あれを落とす!」
「え!?」
「見てなさい。これでも一応扶桑海のトップエースなんだから」

ミサイルを機銃で迎撃するという芸当を加東圭子はやってのける。なのははルーデルに続き、エースと呼ばれた者の働きを目の辺りにした。超視力と射撃の名手と言われた圭子の腕がなせる技。最低限の動作で最大の働きをする圭子になのはは感銘を受けた。しかしミサイル砲台は確実に圭子を照準に収める。

古代進は戦闘ウィッチに艦爆・艦攻型ストライカーユニットを纏うウィッチたちの護衛を命じた。そこで加東圭子は取り戻した往年の射撃の名手としての自分を信じ、援護に打って出た。

「……次っ!!」

機銃を手にミサイルを迎撃していく加東圭子。その技はバルキリー乗り達にも劣らぬ程の技量を以て冴えを見せる。なのはは近接航空支援が主体のルーデルとは違った形のエースをまたまた垣間見た事になるが、圭子から学ぶことはいくらでもある。穴拭智子はどちらかというと戦術的立場で力を発揮する`戦闘隊長`的性格が強い戦士だが、加東圭子は戦略的判断に強いタイプ。圭子は的確に状況を判断し、危険度の高いミサイルから迎撃していく。その背中を守る形でなのははレイジングハートを以て圭子の護衛を行っていく。彼女は史実では教導隊入隊後は自身の腕に比肩しうる人材はいても`自分を完全に超える`人間と出会っていなかったが故に個人の感情の暴走を止める術を教わることが無く、術を持たなかった。だが、智子や圭子、ルーデルはなのはを凌駕する空戦術を持ち、なおかつ隊長として部隊を纏め上げた経験を持つ逸材。彼女らはこの戦いで、幼いなのはを守りつつも`武人`としての立ち振る舞いを教え、他部隊の兵士たちのからかいを諫め、時には厳しくなのはを叱責するなど、3人のウィッチはなのはにとって`保護者`の役割を果たした。彼女にとってその日々は`自信`、`仲間への信頼`に繋がっていた。―友を、仲間を信じること。それが真の強さ。

「少佐、背中は任せてください!」
「頼む!」

二人は巧みな連携でミサイルを落としていく。コスモタイガーやウィッチたちを退避させるために奮闘するその姿はまさに北欧神話の`戦乙女`そのものであった。

「よし、彼女たちの行いを無駄にするな!!続け!!」

古代も護衛のコスモタイガーと共に率先して愛機をミサイルの弾雨に突っ込ませる。ここで逃げたら男じゃないとばかりに吶喊し、見事な機動でミサイル砲台に照準を絞らせない。そして絶妙なタイミングで攻撃していく。彼もまた`勇士`であった。―高町なのは、加東圭子、古代進。三者はそれぞれの最善を尽くして戦っていた。



だが、そこに更なる敵が現れた。旧ジオン軍残党である。彼らは漁夫の利の要領でテロを行う。





「あれはジオンの……こんな時にっ!!」

加東圭子は焦った。兵団基地のドックへの攻撃途上なのに関わらずジオン軍地上部隊の残党はお構いなしに戦闘を仕掛けてくる。加東圭子は決して彼らの気持ちは分からないわけではない。自分の世界にはノイエ・カールスラントのように国土を喪失してもなお戦いを続ける国家は存在するからだ。だが、もはや自分たちの掲げる大義の名のもとに人々を大量に殺戮しようとする事はテロ行為に等しい。

−そう。ジオン軍はもう`この世には存在しない`軍隊なのだから。

彼らは何のために戦うのか。加東圭子は過去の亡霊たちの執念を垣間見る。

天佑(てんゆう)は我にあり!!ぬぉぉぉぉぉぉっ!!」

海上から出現したMSM−07「ズゴック」の中隊はまるでかつての旧日本陸軍の如き突撃で、連邦軍のモビルスーツを破壊していく。恐らくは長年地上に潜伏していた潜水艦部隊の艦載機だろう。この時代から見ればずいぶんと旧式となった水陸両用機なのにも関わらず、連邦軍の割と新しい汎用量産機「ヌーベルジム V」を事も無げに薙ぎ倒していく。高練度の兵が乗る「ジェガン」もその老練な業に苦戦している。その動きは正しく、地形を知り尽くしているといるとも過言ではない。

「えっ!?は、速い!!ズゴックってこんなに速いの!?」

圭子の護衛に当たっているなのはもディバインバスターやアクセルシューターなどで攻撃を加えるが、百戦錬磨のジオン軍兵士達(海軍の荒くれ者たちの生き残り)は見事な操縦技術でなのはの攻撃を避けていく。頭部240mmミサイルや腕部メガ粒子砲の弾幕を貼り、なのはや圭子に隙を与えない。

「気をつけろ!!奴らはプロだ!!それもここの元守備隊だ!!」
「えっ!?ど、どういう事なんです!?」
「部隊を示すマーキングを見たが……忘れもしない……あれは一年戦争の時に俺が戦った部隊だ。ズゴックに機種転換していたのか……!」

ジェガン部隊を率いる、一年戦争からの軍歴を持つ高級将校の一人が圭子に警告を発する。彼は一年戦争中盤の反攻の第一陣のこの基地の奪還戦に従事していて、その際にそこの守備隊で試験運用中であったMS-06M「水中用ザク」の部隊と交戦。所属していた部隊の潜水艦を屠られた経験を持つという。その時の部隊がズゴックで襲撃して来たのだという。

「あの時は`61`(61式戦車の事)の155ミリで陸に上がったところを`狩って`やったが……ズゴックじゃそうは問屋がおろさないしな」

その将校(彼曰く`現場からの叩き上げ`とのこと)はズゴックを手ごわい相手だと圭子に言う。連邦軍のシーレーンを幾度となく脅かした`名機`で、戦後の評価試験でも連邦軍の急ごしらえで制式化された「アクア・ジム」を避けつけない強さを見せたとも付け加えて説明した。

「装甲もゴッグほどじゃないが厚い。おまけに隊長機は後継機(連邦軍ではそう認識されている)のズゴックEときている。あれに乗るってことは玄人の証だ。一筋縄ではいかん相手だ。これを聞いて怖気付いたか?少佐」
「いえ、それなら面白い。やってやりますよ中佐`殿`」
「威勢のいいお嬢さんだ。お手並み拝見といこう」


そんな間にもヌーベルジムVがまた一機、ズゴックEのバイス・クローに串刺しにされ、沈黙する。ジオン残党兵士達の練度は長年の潜伏のために平均的に連邦軍の一般搭乗員を凌ぐ。新米か経験の少ないパイロットではジオンの水陸両用機の`手`を読めきれないのは明白。高練度のベテラン勢が乗るジェガン隊が相手を引き受け、新米達を下がらせ、ジェガンのショートバレルのビーム・ライフルとズゴッグのメガ粒子砲の火線が入り交じる。その中を加東圭子はくぐり抜けながら近づく。そして、ズゴックの一機の胴体部めがけ魔力を通した日本刀を居合の要領で横一文字に振るった。


「悪い、武子!!技を借りる!!無双神殿流……っ!`空の太刀`!!」

それは本来なら`扶桑海の隼`を謳われた加藤武子の得意とする必殺技。
射撃の名手と謳われた加東圭子なら決して使わないであろう攻撃。
だが、そんな事など戦場では気にしてはいられないし、四の五のぬかしていられない。圭子はこっそりと未来世界で取り組んでいた特訓の成果をここで見せたのであった。そして 1944年ではその主である加藤武子がなぜかくしゃみをしたとか。


「っクション!!誰かが私の噂でもしてるのかしら……智子かしら」



ジオンと連邦の血みどろの戦いはまだ始まったばかりであった。ジオンから見れば「自分たちの武勇を後世に残さんとする」万歳突撃かつ玉砕覚悟の戦い。一方、体制側である連邦から見れば戦場を混乱させるだけの傍迷惑なテロ行為。この場合、どちらの言い分も一理ある。戦いとはそういうものだ。正義か悪かという単純なものではない。古来から`勝てば官軍、負ければ賊軍`の原理なのだ。そういう結果などは後世の人間に勝手に判断される。日本の戊辰戦争における会津藩や、西南戦争における西郷隆盛、第二次大戦における大日本帝国陸軍のように。後世の人間は自分たちの価値観でその時の事を判断する。それは地球連邦政府の時代であっても変わりはない。ティターンズが敗北した途端に`反逆軍`の汚名を着せられて`反政府組織`のレッテルを貼られたように。なのはと圭子はその一端を垣間見たのだ。

「なんでジオンの人たちは死ぬって分かってるのに戦うの……!?どうして!?こんなのっておかしいよ!!」

なのはの声は憤りで震えていた。死ぬとわかっていながらなお自分達の信じた事のために戦う事。それは古来より敗北する側の軍隊ではよく見られる光景。
日本では、中世の大阪夏の陣で徳川家康にあと一歩というところまで肉薄し、家康の心胆を寒からしめた真田信繁(一般には真田幸村という名で有名)、硫黄島の戦いを指揮し、米軍を畏れさせた「栗林忠道」中将の例がある。子供である上に、平和な時代を生きてきて、戦後日本の平和教育を受けてきた彼女には戦場の真の虚しさや戦争特有の無常さは重すぎると言ってよかった。ドラえもんが言った「平和はただ唱えているだけじゃ何も守れない」という言葉の重みを噛み締めながら戦った。





ジオン軍残党が行なっている事は日本の軍隊が行った玉砕である。それをそのまま再現したかのような死をも恐れぬ突撃は戦争の無常さをこれ以上無く示していた。

「う、うわぁあああああっ!!」

なのはには耐えられなかったのだ。死を覚悟した上での戦いを行うジオン兵士達を`殺すこと`を。モビルスーツに乗っているとは言え、`人`を殺す事には変りはない。レイジングハート・エクセリオンを持つ手が自然と震え、いつの間にか叫んでいた。

レイジングハートから砲撃魔法が放たれ、ズゴックを貫く。

「……やった、やったの……!?」

息を荒くしながら言う。目の前には装甲を貫かれ、倒れ伏すズゴックがあった。加東圭子はなのはを我に返させる。戦場では一瞬の隙が命取りだからだ。

「しっかりしろ!!敵はまだいるんだぞ。初めて人を殺した気持ちはよくわかる。……だけど、今は戦闘中だ。こんなことだとお前が死ぬぞ!!」

……と、叱咤する。普段と比べて言葉使いが荒くなっているが、これは少尉時代の時の同僚への言葉使いであり、肉体が若返ったためと、指揮官としてではなく、一兵士として戦う内に気が若くなったためである(どんな人間でもこの傾向はある)。

「は、はい……」
「戦いってのはこういうものよ。人が死ぬなんてのは当たり前。誰も死なない戦争なんて`まやかし`以外の何者でも無い。私も扶桑海の時に同僚を何人も見送ってきた。だけど彼女たちの死を無駄にはしない。それが私の意志」
「少佐……」
「あなたは何のためにここにいる?」

圭子は若手時代から持つ信念をなのはに話す。
管理局では非殺傷設定で戦うこともあるので、こういう人の死を遠い世界のことと認識し始めていたなのはにとっては、
`死の恐怖`を乗り越えて戦うことの大事さを改めて認識した一幕でもあった。

「それは……」

しばしの沈黙の後になのははレイジングハートを構えなおして叫んだ。

「あの人達が死んでも信じようとするもの……なら……`フェイトちゃんやスバル……みんなを守る`!!そのために`あたし`はここにいるんだから!!」

−それは決意。幼い頃の`いい子`を取り繕っていた頃の自分、魔法という力にはしゃぎ、才能に溺れかかっていた`あの日`の自分……それらとの決別の雄叫び。御坂美琴との出会いがもたらした変化。その言葉の端々からは美琴の影響が見て取れる。一人称をあたしといったのもその為。彼女は自ら変わることを選んだのだ。今までの`良い子`から`自分らしく生きる`ために杖をとり、戦った。



−戦争には負けるとわかっていても戦う時がある。それを地で行くジオン残党軍は玉砕をも辞さぬ戦いを見せる。地獄の道づれとばかりに。なのははそんな彼らの行為に例えようのない悔しさを感じていた。出身地の日本が過去に保有していた軍隊らが取った行動である玉砕。彼女にはそれが許せなかったのだ。

「なんで……なんでそこまでして戦うの!?」

自然となのはは叫んでいた。既にジオン軍は滅んで久しいはず。それなのにあくまで組織に殉じる事は戦後日本の価値観を持つ彼女の理解を超えていた。
だが、彼らは最期まで戦い続ける事を是非とする価値観の持ち主。それは戦前の大日本帝国に通じる価値観。なのはの曽祖父世代までの人間ならば誰もが持っていた敢闘精神。戦後の日本人は`争い`に過剰までのアレルギー反応を見せるが、`受験戦争`などで結局争い合っている。
それは人の本質なのだ。


「誰だって争いは避けたい。だが人間の歴史から戦争は消えない。そうして多くの国々が滅んでいった。必然だよ、どんなに進化したとしても……
ニュータイプに覚醒しようと人は所詮、猿に知能がつき、進化した動物だ。……結局人間は争いからは逃れられんのだよ」
「そうじゃない!!人間には心がある!どんな相手とだって分かり合える!!なんでそこまで……!?」
「青臭い理想論だが…今回ばかりはお嬢ちゃんのほうに理がある。だが、分かり合えても人は結局……」
「それでも……私は戦います!」

ズゴックEのパイロットはなのはの叫びに答えた。それは人とて所詮は猿から進化し、万能の霊長、かつての恐竜族に代わり、地球上の覇者としての称号を得たに過ぎない『動物』という事実。人間は戦争が無くとも受験戦争、就職戦線などの色々な争いがあり、それらに明け暮れている。彼はそれらを内包してそう言ったのだ。それは誰でも否定はできない。そして『軍人』として生きてきた彼の本心であった。

「我々の戦いを後世に伝えんがため……いざ!!」

ズゴックEは歩みを早め、バイス・クローをなのはに突きたてようとする。なのははこの時、`覚悟`を決めた。

−争いが避けられないのなら、あたしはそれを止めてやる!!それが……あたしの……!!

レイジングハートにエネルギーを充填させ、ほぼゼロ距離射撃で必殺の砲撃を放った。それはこの時点ではスターライトブレイカーに次ぐ威力を誇る砲撃であった。

「エクセリオォォォォォンバスターァァァァ!!」

負傷を覚悟してのゼロ距離射撃。それは勇気が恐怖を上回った事を示す一幕。死への恐怖を乗り越えた者達だけが辿りつく境地。
圭子はそれを見て「あの娘も`たどり着いたか`」と嬉しそうな表情を見せていた。




(あとは突入したドラえもん君達に任せるしかないか……)

要塞突入を敢行したドラえもん達がここにいる全ての人間の運命を握っている。あとは彼らに任せるしか無い。圭子は祈るような気持ちだった。








−内部に突入したドラえもん・のび太・御坂美琴、その護衛の仮面ライダー達は急ぎ要塞の奥深くへ向かった。穴拭智子がクライシス帝国の幹部「ガテゾーン」から入手したメモによれば水爆はスィッチを押されたら4分以内に解体しなければならないからだ。如何にロボライダーや御坂美琴の能力でも4分で解除するのは難しく、そこが彼らを焦らせる要因であった。兵士たちをドラえもんたちはなぎ倒しながらひたすら奥へ進んだ。
それぞれ別行動を取り、別れる。

「たくっ、いい加減にしなさいよっ!!」

美琴はドアを回し蹴りでぶち破る。その部屋には一人の男がいた。歴史上の人物である「ラスプーチン」の名を頂いた鉄人兵団きっての怪人物。

「おお、遂に来たか」
「ついにって……アンタ何者!」
「私は君たちの常識で言えば`ラスプーチン`と名乗っている男さ」
「ラスプーチン……帝政ロシア時代の怪人物。その名をどうしてアンタが!!」

鉄人兵団の中でも異端的な銀色の外見を持つその男は敵を前にしても平然としている。むしろ楽しんでいるような雰囲気である。

「何、単に外見が異端的なのと私が政権の中枢に意見できる立場だから地球についた際にその地の歴史的人物になぞらえてそう呼ばれただけだ。はじめに言っていこう。今回の戦いは君たちが勝つだろう」
「どういうこと?」
「軍の幹部達はこの基地の司令官「ミシチェンコ」を心良くは思ってはいない。あまり有能すぎても幹部達に取っては自分の出世を阻む壁でしか無いという事だ。あの男も哀れなものだ」

彼は兵団内部の派閥争いにこの戦いは利用されたのだと告げる。美琴は驚きつつもその男の言葉を聞いていた。彼の言葉にはそのような力があったからだ。

「でも、この戦いに負けるってことはあんたたちに取っても困るはずよ?ここが落ちたら太平洋戦線は放棄に等しい状態になる……」
「そこがミソだ。君たちも最重要点であるここを……と思っているだろう?軍幹部の中の強硬派は勝敗関係なしに連邦の兵力ものとも自爆をする腹積もりだ。私は政権のある幹部からそれを阻止せよとの極秘指令を帯びた。だから君にこうして話している」
「じゃあクライシスに情報がいったのは……?」
「私がわざと流したのさ。君たちが持ち込んだあの化物自走砲が火を吹けば水爆が吹き飛んでGAME OVERになる。だからクライシスや連邦の情報部に水爆の情報をリークしたのさ。あの時はそうそう焦ったよ」

ラスプーチンは美琴に自身の任務などを話す。そして彼は水爆の詳細を話す。

「ここにある水爆は地球連邦が出来てからの紛争で米国が最後の力を振り絞って作った代物だ」
「え?ちょっと待ってよ、米国は資本主義国家の大家のはずよ。それがどうして?」
「米国は地球連邦を作った日本と英国に反発したのさ。ここに残ってる記録によれば、アメリカ合衆国はその当時、21世紀序盤から相次いだ失政と遠征の失敗で超大国の地位を失い、米国の国際的地位は20世紀初頭頃よりも失墜した。それでも1950年代の前途洋々よ超大国としての繁栄を忘れられない国民が右翼の急先鋒の大統領を選んだ。皮肉にも第一次世界大戦の敗北で屈辱にまみれたドイツがアドルフ・ヒトラーを選んだのと同じように」

それは一度は全世界を敵に回しても勝てると謳われた国家の哀れな末路であった。
地球連邦政府の設立に多大な影響を行使した日本と英国に対して反発した合衆国国民はかつて自らが倒したアドルフ・ヒトラーと同じ運命を選んだのだ。
そして案の定、歴史の繰り返しのように、米国は破局を迎えた。美琴はラスプーチンから米国の運命を聞かされ、驚きのあまり二の句が告げなかったという。









-遂にのび太は敵要塞最深部にたどり着いた。そこにあるのは史上最後とされる水爆(水素爆弾)。のび太はそれと対峙していた。

「これが水爆か……!}」
「そうだ、小僧」
「誰だ!!」

のび太の前に現れた一人の男……というよりはロボットは自らの名を名乗る。彼はロシア赴任経験者が多いこの基地では異例とも言える名だった。主に帝政ロシア時代の偉人や軍人の名を持つ人物が多い中では少数派の米国系の名だった。

「私の名は「ミッチャー」。この基地の航空部隊の司令だ」
「ミッチャー……ああ、戦艦大和をかってに攻撃した野暮な軍人さんね」

のび太はその名に不快感を示した。日本の象徴であった戦艦大和を次代の最強兵器でなぶり殺しにし、しかも上官の指令を待たないで攻撃した男の名。それは戦艦大和に興味がある男の子なら知っている事であった。

「それは知っている。私も好きでこの名になったわけでも無いからな。これを見ろ」

彼は自分の手に握られているモノをのび太に見せた。それは正しく水爆の起爆装置を起動させるスイッチであった。作られた年代を考えるとなんともローテクだが、ヘタにハイテクだと当時の最新装備でハッキングされるので、あえて枯れた技術で作られたのだろう。それを示すように水爆は弾頭部だけであるが、構造そのものは単順に作られている。

「それが水爆だね」
「そうだ。私がこれを押せばここは跡形もなく吹き飛ぶ。跡形もなくだ!」
「何故だい?ここが落とされば太平洋の兵団は旧日本軍と同じ運命を辿る……玉砕だ」
「それもまた一興だ、小僧。これは我々の思惑なのだよ」
「……そうか、派閥争いか」

のび太は直感的にそう言った。軍隊で割と見られる光景なのですぐに考えついたのだが、図らずもそれは的中していた。彼は地球に対して強硬に事を運ぶべきと常々言っており、ミシチェンコとは対立している。そのため彼を快く思わない軍の幹部に接近し、彼が死んだ後の軍内での地位を保証させたのだ。

「そうだ。この基地の司令のアイツは軍でいつも私の目の上の瘤だった。出世でもいつも私より一歩先、軍内での評価も上だ。だが、これで変わる。全てだ」
「情けないね、男の妬みかい」
「そう取ってもらえるのは結構。だが、そのためには小僧、まずお前を始末する」

そういって彼は銃を構える。のび太を殺すつもりだろう。のび太は身構えるが……次の瞬間、ミッチャーの前に一人の少女が現れた。ツインテールの髪型のその少女は正しく白井黒子であった。

「お待ちなさい。此処から先は私がお相手を致しますの」
「貴様は!?」
「……急いで来たかいがありましたわね」
「し、白井さん!どうしてここに?」
「初春からの連絡でテレポートを繰り返して急いで来たんですの。この方を取り押さえればよろしいのかしら?」
「フ……なめられたモノだ」

黒子はミッチャーと戦闘を開始した。黒子は空間移動を駆使した体術と金属矢で立ち向かうが、やはり人間を凌駕する反応速度を持つロボット相手では今ひとつ攻めきれない。やがて体力の差で押されていく。

「ハッ!」

ミッチャーの回し蹴りが黒子に炸裂する。咄嗟に鞄で防御したもの、凄まじい衝撃が黒子を襲う。そういう点は伊達に戦闘用ロボットではないと言うことだろう。

「やりますわね」
「フン。貴様のような子どもに遅れをとる作りはしていない」
「面白いですわね」(とはいうもの、持久戦は不利ですわね。相手は機械なのに対してこちらは生身ですし。一気に決めたほうがよさそうですわね)


「ではこれはどうしたしますの?」

黒子はテレポートで懐に飛び込み、合気道にも似た体術でミッチャーを投げ飛ばし、四肢の関節部に矢を打ち込む。だが、その瞬間`ポチッ`と音が響いた。彼もさる者。投げ飛ばされる瞬間に水爆のスイッチをいれたのだ。

`ピピピ……`

電子音と共に水爆の起爆装置のカウントが開始される。その時間は凡そ4分。いつの間に押したのか。

「あなた……まさか!?」
「そう。そのまさかだ。せいぜい1分間あがくんだな」

ミッチャーはそう言うと勝ち誇るように高笑いする。勝利を確信した男の笑いだ。だが、それを打ち消すようにのび太はコルト・パイソンを連続で放ち、タイマーの周りのボルトをマグナム弾の威力を用いて外す。黒子は驚愕した。
銃で核爆弾を無力化しようとするなどあまりにも無謀だ。

「正気ですの!?……下手をすれば……」
「爆弾解体の知識が無い以上はこれしか手段はないんですよ。僕の射撃の腕は知ってるでしょう?」
「……でも、もし失敗すれば……」
「…白井さん」

のび太は黒子を安心させるために静かに一言だけ言う。


「僕を信じてください」

そういうと、無言で銃弾の最後の一発を装填し、パイソンを構える。目標はむき出しになった内部のコード。赤と黄色の2つがタイマーと繋がっている。片方を切れば止まるのがこういう時のお約束だ。のび太は迷わずにその一発を撃つべく、ゆっくりと照準を構える。まるで、その場の空気が静まり返ったような感覚をのび太は覚えた。黒子も同様の感覚を覚え、息を呑んで様子を見守る。そして引き金が引かれ、鈍い銃声と共に一発が放たれる。

銃弾はまっすぐに黄色のコードを絶ち切り、作動を停止する。



のび太の卓越した射撃センスが可能にした出来事であり、まさに彼の才能が発揮された最良の時であった。



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