−もはや水爆を失った兵団に連邦軍を止める手立ては無かった。アッツ島での戦いは予想以上の進行を見せ、作戦を完了させたが、そこに噂の相手が襲来してくる。





「速いぞ!」
「うろたえるな、V2やF91ほどじゃないぞ!」

彼らはRGM−89S「スタークジェガン」の小隊。敵ガンダムの速さは中々のものだが、戦史に名を刻んだガンダムの中の最新の2体と比べればどうという事はない。あの様なアンバランスな武装を積んでいる(対艦用の剣と推進装置を持たない長砲身砲は高機動モビルスーツには合わないだろう)のでは互いの長所を相殺しているとしか思えない。散弾のバズーカでバランスを崩させて、スラスターを吹かして飛び上がる。そしてビーム・サーベルを腕の追加装甲から引きぬき、白兵戦に移行する。

ビーム・サーベルと相手の対艦刀がぶつかり合うが、スタークジェガンのビーム・サーベルの方が相手の対艦刀のレーザー部分の出力を上回るようで、ジワジワと刀身を溶かしていく。一応、ジオンのヒート系装備のようにサーベルと反発できているのは装備の優秀さによるものだろう。相手は空中戦が可能なようだが、こちらは所詮スラスターの推力でむりやり飛んでいるに過ぎないので不利だ。

「`メタルアーマー`はまだか?」

かつての戦争で`ギガノス帝国`が投入した機動兵器「メタルアーマー」。あれは大気圏内での空戦能力を付加させられる装備が一般的なので空中戦はモビルスーツより有利だ。
まあ連邦軍が相手方の最新鋭機を奪取したというのはガンダム試作2号機関連の不祥事を思い出す。その時とは逆の立場なので痛快だったが。

「Dチームか。まあ`ドラグーン`は練度が低いからな」

このアッツ島の戦いは半分メタルアーマー部隊の練度訓練のような戦いであったが、ガンダムタイプと戦えるほど量産型のドラグーン装備部隊は精強とは言えない。その点、`ドラグナー遊撃隊`は`蒼き鷹`と張り合える腕を持つので安心出来る。(ちなみに蒼き鷹というのは、前大戦におけるギガノス帝国最高のエースパイロットの`マイヨ・プラート`の異名である)ここは彼らに任せるのが賢明だろう。

そのDチーム……ドラグナー遊撃隊は久しぶりの勇姿を噂のガンダムに存分に見せつける。
自身満々とばかりに。

「ドラグナー遊撃隊、只今到着!!久しぶりの出番だから暴れてやるぜ」
「こらケーン、メタフィクション的セリフを言うんじゃない」
「でも久しぶりのなのは確かだぜ?俺達なんて下痢だったし」
「それはそうだが、タップ。それ言っちゃ元も子もないぞ」


久しぶりの3機によるコンビネーションを見せつけられると張り切るケーン・ワカバ。D−1カスタムは音速の速さで敵のガンダムに接近するとレーザーソードを構える。スタークジェガン隊が下がるのを確認すると戦闘を開始した。

D−1カスタムは大きめにインメルマンターンを行って相手の背後を取るとそのまま攻撃に移る。相手のガンダムは大火力のD−2カスタムを落とそうと躍起になっているようで、背後に気を配っていない。
いわば隙だらけの状態だ。取り敢えず左腕に持ち直して構えている55ミリハンドレールガンを撃ってみる。

55ミリ口径の超高速徹甲弾が至近距離で相手の翼に当たり、爆発を起こすが大して傷は負っていない。
バランスを崩させただけだ。

「おいライト!こりゃあどういうことだよ」

ケーンはすぐに部隊の知恵袋であり、こういう時の情報収集などに優れるD−3のライト・ニューマンへ通信をつなげる。するとすぐに答えが返ってきた。

「`マギー`ちゃんによるとそのガンダムの装甲は普通の金属じゃなく、相転移で物理的攻撃への耐性を高めた奴らしい。レーザーソードとかで攻撃しろ」
「了解。ずいぶん嫌な奴だなそれ」

D−3は優れた電子戦能力を発揮する。それがたとえ未知のガンダムの管制OSであっても例外ではなく、
ハッキングして情報を盗む事は容易らしい。これが頭部がレドームなD−3の恐ろしさだ。

「一応OSには細工はしてある。その細工はあと5分で発動するから」
「さすが!こういう時にD−3は頼りになる」



「くそっ、このウィンダムモドキ……チョコマカと!!」

ドラグナー達の高練度な攻撃に苛立ちを顕にするデスティニーのパイロット「シン・アスカ」。
彼はドラグナーを自分達の世界の地球連合軍主力モビルスーツ「ウィンダム」に似ていたのでこう言った。だが……彼はどこかで見くびっていた。ドラグナーの実力を。そしてドラグナーの3機を駆る者たちが自分以上のエースパイロットであることなど知る由もなかった。


知のガンダムと交戦したドラグナー達だが、練度の差で優位に持ち込む事に成功していた。突撃一辺倒の敵ガンダムの動きから行って、かつての自分達と同年代の少年が乗っているのは間違いないと目星を付けていた。

「やれやれこういうのはお約束って奴だなぁ」

歴代の歴史に名を刻んだガンダムは、一部除いて少年が偶然乗り込むケースが多い。一年戦争のアムロ・レイ、グリプス戦役のカミーユ・ビダン、第一次ネオ・ジオン戦争のジュドー・アーシタしかり。その法則は目の前の機体にも当てはまったようだ。アッツ島方面の主力を担っている自分達もまだ10代なので、いつの時代もなにかしらこういう事は起きるとケーン・ワカバは関心するとD−1カスタムを巧みに操り、ガンダムを匠みに翻弄した。

「ガンダムのOSに仕込んだっていう仕掛けはそろそろ発動するはずだけど……」

そろそろ先程から5分が経過する。D−3の仕掛けが発動するはずだ。どのような仕掛けだろうか。成り行きを見守る。すると敵のガンダムの装甲の色が急激に色褪せてメタリックグレーになっていく。D−3の仕込んだ仕掛けが働いたらしい。

「ケーン、今なら実弾兵器でも通じるはずだ。畳み掛けろ!!」
「アイアイサー!!」

D−3が仕込んだのはある一定の機能をおかしくするコンピューターウイルス。今回の場合は相手の装甲の機能を働かすアプリケーションを犯し、相転移を停止させたのだ。実に単純なようだが、かつての地球連邦軍教導団が反乱を起こした際、モビルスーツのOSにウイルスを仕込んでおき、当時のエゥーゴの降下作戦を失敗に追い込んだ例が存在する。コンピューターウイルスはこの時代でも有効であるのは確かだった。ケーンはここぞとばかりに攻撃を畳み掛けていった。



デスティニーの装甲が機能不全に陥った事はシン・アスカを混乱に追い込んだ。`最新鋭`の機体であるので整備は一番気を使っているハズ。OSの動作も完璧だったのに突然装甲の機能に異常が出たのか。大昔のパソコンのOSにはたまにこういうトラブルが出ていたのは聞いているが、こうも最新鋭のモノででるのだろうか。


「動力伝達機構には問題ないハズだ……何で!?」

武装などには問題は出ていない。何故、装甲の機能だけがダウンしたのか。彼にはわからなかった。電子戦の概念は彼の知る限りでは`前の戦争`で殆ど顧みられることは無くなったはず。前の戦争で在来のレーダーなどを自然に撹乱する装置が投下されたおかげでと一部のテクノロジーを除いて、全般的に技術的に優れる`プラント`のモノがこうも……(電磁パルスなどを応用した兵器はあるが、コストがかかるので投入は前大戦の一度だけ)

プラントの事実上の国軍のザフトの技術はモビルスーツなどの技術的にはコズミック・イラ73年の時点では地球側を凌ぐ。それはビームシールドや核分裂炉の出力向上のためのハイブリッド機関の存在に寄る物である。シンは知らないが、そのテクノロジーは前の戦争の際に回収したモノ達の解析結果で生み出されたとの噂が政府内部であった。一節によれば地球軍が秘密裏に投入した新型モビルスーツだとかモビルアーマーの残骸、もしくは機体そのものともされ、僅か3年でビームシールドを実用に押し上げた原因は地球側の技術を獲得し、なおかつそれを在来技術と組み合わせたおかげであるとも言われていた。そしてデスティニーの動力はその産物。何故ここまで急激に技術が向上したのか。それは……。

「なんで落ちないんだよ、落ちろぉっ!!」

シンは傷があるもの、攻撃力は損なわれていない対艦刀をイチかバチかで目の前にいる機体へ振り下ろす。不意打ちなので対応できないはずだが、次の瞬間。ドラグナー側のケーンはかつてギガノス帝国の大型機「ギルガザムネ」に対して行った方法を取った。

「あの時じゃないけど……必殺!!真剣白刃取り!!」



D−1カスタムは頭部に当たるかというすんでのところで真剣白刃取りをしたのだ。

「こいつ、アロンダイトを受け止めた!?」


これにシンは驚愕した。モビルスーツ(?)が大昔の時代劇のような行為を行うなど聞いたこと無いからだ。シンは操縦桿を押しこむが押し込めない。が、動かない。腕を動かそうと操縦桿を動かそうとするが、ピクリとも動かず、一向に相手を押し返せないのだ。

これにはメタルアーマーは核融合炉駆動である事が原因であった。いくらデスティニーのハイブリッド機関が膨大な主力を出せると言っても発電効率が違う。メタルアーマーの核融合炉は発生させるエネルギーをほぼ完全に動力へ変換できる。カタログスペックの出力はデスティニーより小さいが、動力伝達機構は洗練されているので、全体へ行き渡るパワーは大きい。その差が現れたのだ。

「ケーン、近くに母艦がいる。増援が出てくるぞ」
「え、マジ?俺いまそれどころじゃないって」
「安心しろ。そっちの増援にSSMS-010ZZの皆さんが行った」
「あ〜あ。終わったな」

敵も運がない。全長31m以上のZZの派生型に襲われるというのだから。ケーンは相手の不運を同情したくなった。




「必殺!ドラグナー三枚おろし!!」

戦いは双方の技量の差でドラグナーに優位であった。双方とも実戦を経験してきたことには違いないが、踏んでいる修羅場の場数が違った。ドラグナー1型カスタムのパイロットであるケーン・ワカバは最初こそ素人同然であったが、最終的には連邦のメタルアーマー乗りとしては最強と言えるほどのエースパイロットとして頭角を現した。元々偶発的に乗り込んでしまったので正規の訓練課程は踏んでおらず、パイロットとして常道の手段は取らない。それが正規の軍人として訓練を積んできたシン・アスカを翻弄できる要因であった。

「うわぁぁっ!?」

デスティニーのボディにレーザーソードによる突き刺しと多少の切れ込みが入る。フェイズシフトによる守りも無効化された今、デスティニーの防御手段は腕のビーム・シールドのみ。だが、ボディに直接攻撃を加えられては使えない。動作の速さもドラグナーの方が上であったために防御が間に合わなかったのだ。突き刺されたソードが引き抜かれると同時にデスティニーは小爆発を起こし、墜落する。突き刺された場所からのスパークが動力伝達機構と、操縦系統の配線を傷つけたらしく、不意に頭部メインカメラのデュアルアイから光が消えたと思えば、バランスを崩しての墜落であった。様子から察するに操縦不能になったようである。

「ライト、奴さんは落とした。一応近くの回収船に連絡しといてくれ」
「わかった。もう一機の方は対処中だそうだが、じきに片付くだろう」
「了解。母艦の方はどうする?」
「俺たち単独じゃ危険だ。今日はこの辺で引き上げてハワイに行こう」
「了解」

ケーンはD−3のライトと合議し、戦闘を打ち切って引き上げる。この日の戦闘での彼の戦果は`ガンダムタイプ`一機撃墜。ガンダムタイプの連邦での価値を考えると大金星であった。彼はアッツ島での戦功と合わせて後に勲章を貰い受けることになる。













「ち、ちょっと……なんなのよコイツら!?」

デスティニーの応援に派遣された「インパルス」。これもガンダムタイプというべきモノだが、相手はとんでもないもの。巨大戦闘機が合体して超大型モビルスーツになるなど常識はずれだ。しかも以前、相対した地球軍の奴より遥かに俊敏な動きを見せている。この間の小型機といい、常識が全く通用しない。パイロットの赤毛の少女「ルナマリア・ホーク」は敵の威容に思わず息を呑む。

次の瞬間、相手の2連装ビーム・ライフルとおぼしき火器が火を噴く。危険を感じ、回避するが……

「きゃあっ!!近くを通り過ぎただけなのにこれ……!?反則よ!!」

敵の2連装ビームライフルの威力は大きく、近くを通り過ぎただけで機体を大きく揺さぶられ、装甲が一部融解する。

「こんなことなら接近戦用の「ソードシルエット」でいくんだったっ……」

彼女は対MS格闘戦を想定した装備に換装したい気持ちに狩られた。だが、今はそれどころではない。今は現状の装備で対応するしか無い。だが、あの武器を見た後だと心許ないが……。

「…!!」


SSMS-010ZZはZZガンダムを設計母体としているので、その装備は同様だ。バックパックに仕込まれたミサイルランチャーが火を噴く。対艦用の大型弾頭だ。バルキリーのマイクロミサイルの技術を応用して機動性はピカイチ。瞬く間にインパルスを爆炎に包みこんでいき、派手に爆炎をあげる。このミサイル掃射には耐え切ったもの、ZZ系のモビルスーツ特有の武装である、頭部ハイメガキャノンの標的になってしまい……。

「ロールアウト間もないから試し打ち!!喰らえぃ!!」

この機体の頭部ハイメガキャノンは大気圏内でのビームの減衰作用も考えてもインパルスの下半身を`消滅`させるだけの威力はゆうに発揮。インパルスのパイロットの「ルナマリア・ホーク」はとっさに残った上半身も切り離し、この世界での常識で言えば「コアファイター」というべき脱出装置を兼ねた飛行機で逃走を図る。敵前逃亡ではなく、`態勢を立て直すため`に、だ。

「なんなのよあいつら……バケモノぞろいじゃない……!」

…と、悪態をついてみるが、ここまで絶望的な性能差は中々体験したことはない。士官学校時代に`前大戦`の生き残り達の中に`当時の最新鋭機「ゲイツ」に乗っていたのに旧世代の訓練用に乗っていると錯覚させられたほどの絶対的性能差を持つV字の『光の翼』を持ったガンダムタイプと対峙して……と授業の講演で話す実戦部隊の`赤服`や`白服`(彼女の所属組織のザフトは士官学校卒業時の成績で、着る制服が赤と緑に分かれる。さらに隊長格は白である。コレは後の連邦軍の推測では`階級が存在しないために身分をはっきりさせるため`とされている)の人間達がいたが、その話を当時は敵に臆した兵士の`与太話`と聞き流していたが、この世界の兵器の性能を目の当たりにしてみると、その話もあながち嘘ではないと思えてしまう。

「…ええっ!!今度は戦闘機!?嘘でしょ……`コアスプレンダー`は一応飛行機の形をして、空戦は一応できる程度なのに……!」

今度は見るからに流麗なフォルムを持つ重戦闘機(コスモタイガー)に追われてしまう。しかも火線は信じがたいが`パルスレーザー`と思われるレーザー機関砲が8門と実体弾式が10門。思わず大昔の「ジャグ」、「ヤーボ」と畏れられた`P−47`「サンダーボルト」に狙われた不幸なドイツや日本の戦闘機を連想してしまう。

「なんかあたし悪いことやったぁ〜!?なんでこうなるの〜!!」

敵機の弾の雨に涙目となりながら必死に逃げる。大昔の戦闘機乗りたちが味わった恐怖はルナマリアから正常な判断力を奪っていく。出撃時からの無線の不調(ミノフスキー粒子の影響)がそれに拍車をかける。コスモタイガーのパイロットは所属部隊の思惑のもとに彼女の`コアスプレンダー`へ浴びせる火線を利用して、彼の母艦の待機する空域へ巧みに誘導していく。それはアッツ島攻略の指揮官で、連邦の誇る`猛将`「ジョン・コーウェン」中将の策略でもあった。

「こちら`ブルーイーグル`1。目標は順調にそちらへ向かっている。引き続き電子戦による妨害を頼む」
「了解」

この時代における電子戦とはミノフスキー粒子やコンピュータなどを活用してのレーダー、無線の妨害などを指す。「アイザック」など、依然として電子戦専門のモビルスーツも作られているし、D−3もその能力を備えている。そしてそれを超える能力を備えるのは情報収集艦。アッツ島攻略部隊旗艦の戦闘空母「イラストリアス」に随伴している「ブルー・リッジ」(ヤマトのように歴史的に有名な艦の名を継ぐ艦船は連邦軍では多数作られている)は電子戦を行ない、コーウェン中将の作戦を遂行していた。それは順調に進んでいた。そして、コアスプレンダーの眼前に巨大空母(アッツ島攻略戦に投入されていたウラガ級護衛宇宙空母)が現れる。

「何よアレ……デカイ……ミネルバが巡洋艦だが駆逐艦に見える……」

350m級のミネルバなど問題にもならないほどの巨艦。(コズミック・イラ73年時には初期型バトル級並のゴンドワナ級超大型空母があるのだが、それはルナにとっては規格外の大きさである)それと多数の護衛機(コスモタイガー、VF−171、ベースジャバーに乗ったジェガンなど……)が取り囲んでいる。逃げおおせるものではない。

「そこの空母、聞こえる?投降する!撃たないでちょうだい」
「了解、着艦コースに乗られたし。全機には通告してある」

オペレーターはまるでこうなるのを見越していたかのように、ルナマリアのコアスプレンダーを誘導する。着艦後は武装を解除した上で、ひとまず捕虜として扱われる事になった。

取り敢えずという事で独房に入れられた彼女はザフトの軍服姿での行動は許され、独房で自身の置かれた状況を再認識する。

「これからどうなるのかしら……あたし」

その後のこの戦争中、ルナマリアは日本の、シンはアメリカ地域の捕虜収容所に送られ、それぞれ別に過ごすことになる。その間、2人は色々なカルチャーショックに遭遇し、面食らった。
そして、『前の大戦の真実』を知ることになる。





−ある日の北米 オーガスタ研究所(連邦軍ニュータイプ研究所としては最古の部類に入る。現在は政府の方針により、主に強化人間の安定性の強化を研究している)

「……カミーユ・ビダンが回収した例の子ですが、容態は安定しました。ネオ・ジオンが
残した研究の成果と結城丈二氏のおかげです。ただ、精神的安定はまだ……」
「致し方無い。過去の我々もそうだが、あの様な強化人間はたいていそれは付き物だ」

研究員が所長に報告している。それはヨーロッパから運ばれた未知の大型モビルスーツのパイロットの治療の経過についてである。ニュータイプと異なる強化がなされたそのパイロットの体には本来人体には無い物質が検出され、治療に難儀した。幸い、仮面ライダー4号たるライダーマン=結城丈二が治療用に提供した`組織`の技術で作られ、連邦政府のそれよりも世代の進んだナノマシンの威力でその物質を体内から無くす事に成功していた。そのパイロットは未熟な技術による強化が行われたようで、大半の記憶を消されている(この時期、連邦軍も新生ネオ・ジオンから摂取した強化人間の研究成果を応用し、安定性の高い強化人間を作れるようになっていた。そのためにフォウ・ムラサメの時のように、記憶まで操作するというのは既に過去の話となっていた)し、彼らがかつてティターンズに送り込んだ「ロザミア・バダム」の末期を想起させる情緒不安定さを見せていた。

「肉体年齢は15、6程度と思われますが、精神的には遙かに幼く、まるで幼児です」
「……敢えてそうして育てる事で戦闘で成果を上げられると踏んだのだろう。だが、こちららもそれを逆に利用しての治療は容易い。ええと……ああいう類の強化人間は`向こう`では何と言われていた?」
「不明です。報告書の奴とは別の方法で強化されたようですので」
「そうか」

所長はその治療対象のパイロットの写真を見てそういった。それは回収直後に連邦軍の部隊が撮影した写真だ。金髪ショートカットの髪型の少女の顔がそこにはあった……。



「それと例のサイコガンダムもどきの解析はどうか?」
「こちらは至って順調です。サイコガンダムというよりはジオングにも近い特性を持ち、ビグ・ザムのできこそないのようなMA形態も確認できました。接近戦では脆く、軍はそこを突いて沈黙させています」

オーガスタ研は機体のOSを解析し、機体の情報を詳細に得つつあった。この時期の彼らは軍改革派への全面的協力と引換に研究予算を獲得していた。強硬派やティターンズの協力者として、歴史に悪名を刻んでしまったオーガスタ研は生き残りをかけた策として穏健・改革派へ接近した。そのおかげで一部研究内容の転換を余儀無くされたもの、他の研究所の多くが予算を打ち切られ、閉鎖される中でも生き残ったのである。

「……さて、軍はハワイ攻略をどうやって行うのか……」

所長は軍の重要作戦であるハワイ攻略作戦に言及した。彼は前途の不安さを危惧していた。奇しくもその危惧は的中してしまう。それも水爆という最悪の形で。
`ハワイ`はそれだけ不安要素の高い要所であったからだ。`ハワイ`。かつてはジオン軍の小さな地方基地で、米軍の重要基地であった。かの地は後者の要素を取り戻しつつあったのは周知の事実であったからだ。この会話がなされた日はハワイ攻略まで2週間を切っていた。彼らも協力の一環として彼らが開発に関わったモビルスーツを軍に納入しているが、それでも不安は拭えなかった。その予感は苦戦という形で的中することになる。




この時期、ニュータイプ研究所は地球連邦軍にとってティターンズ時代の悪しき遺産とされてはいたもの、レビル将軍の命により過去の遺産を整理させるために存続が許されていた。その内の最大規模を持つ「オーガスタ研究所」では。Zガンダムのパイロット「カミーユ・ビダン」が保護し、欧州から送られてきた一人の強化人間の治療が行われていた。ネオ・ジオンから接収した技術と連邦が独自に進めた医療技術は彼女の元の世界では成し得なかった、良好な経過をもたらしていた。

「あの子の様態はどうなんです?」
「だいたい安定した。精神的暗示を解くのには相当な苦労がいたがね」

この時期のオーガスタ研究所の所長はかつてのようなマッドサイエンティストではなく、新ネオ・ジオン出身の穏健派の博士が選ばれ、その指揮をとっていた。そのため面会も許され、カミーユは時々合う事でその子の`寂しさ`を紛らしていた。この日は`その子`のたっての願いで運動代わり(研究所にとってはパイロット能力の優劣を見る目的もある)モビルスーツを動かす事が許可され、動かしていた。

オーガスタ研は連邦軍内での次世代モビルスーツへのモビルスーツの稼働データ集計役も担っていたので、テスト場も備えている。研究所にあるのはモビルスーツの稼働研究を兼ねて配備された一線を退いた旧世代のモビルスーツと一部のテスト機。その内で眼を引くのはデータ集計用に改修がなされたガンダムMk−Uであった。内容は装甲とフレームが現役時代のチタン合金セラミック複合材から、素材のテストも兼ねて、第三世代型の複合素材で、V2ガンダムなどに使用されたガンダリウム合金スーパーセラミック複合材に換装されている、一部武装がジェガンR型のモノになっている。これはジェガンの近代化改修へのデータ集計の役割をマークUが担っている事の現れでもあった。


−マークUは俊敏な動きを見せ、標的機の無人操縦の初代ジムやジム改を落としていく。操縦席ではその話の主の少女が自分の知るモビルスーツの操縦系との違いに戸惑っていた。その少女の名は「ステラ・ルーシェ」。シン・アスカが`救えなかった`事を一生の悔いにしているはずの少女である。彼女はシンの言葉を借りるなら「`フリーダム`のせいで死んだ`」はず(シンはその最期も看取った)であるが、幸か不幸か、その彼女とは`遺伝子工学的には別人`である、パラレルワールドの住人であった。(シンへ好意を抱いているのは同様である)

経緯は史実では最後の出撃となる時に乗機ごと行方不明。(転移)偶然にも、たまたま訓練中であったカミーユのいた飛行隊の飛行空域へ現れてしまい、交戦。Zのバイオセンサーの発動で動きを拘束(この際に機体の操縦系は機能不全にされた)され、頭部をハイパー・ビームサーベルで破壊されて沈黙。その際にカミーユによって保護されたというわけである。

「このモビルスーツ……なんか落ち着かないよぉ……360度見れるってのは便利だけど……」
「大丈夫だ、じきに慣れるさ」
「本当……?」
「ああ。僕も乗ってる内に慣れた」

カミーユは研究所の管制室から無線で声をかけ、ステラを安心させてやる。彼はかつて、フォウ・ムラサメの死やロザミア・バダムを自らの手にかけた事を今なお悔やんでおり、そのためか精神が一時的に崩壊した時にもエルピー・プルを導き、死から救ったり、自分の後を担って戦うジュドー・アーシタへ思念を送り援護したりしていた。立ち直った現在は軍に戻り、グリプス戦役以来の因縁がある、戦役中のジェリド・メサとパプテマス・シロッコに変わる宿敵である「ヤザン・ゲーブル」と血みどろの戦いを繰り広げているという。







カミーユは全天周囲モニターとリニアシートに戸惑うのは当然であると思った。話を聞くに、ステラの世界では一年戦争当時の第一世代モビルスーツ同様のパネル式分割モニターが主流で、全天周囲モニターはほとんど無い(正確に言えばフリーダムガンダムとジャスティスガンダム系統のモビルスーツに機体システムとの関係で搭載されている程度)という。一年戦争後、多くのパイロットが一年戦争当時の機体からの機種転換で難儀したという全天周囲モニターは別世界の住人たる、ステラ・ルーシェであろうと例外ではなかったらしい。



次いで、ステラが驚いたのはマークUの持つフレームの柔軟性が実現する`人間に近い`動き。洗練されたムーバブルフレームは同じように内部骨格を持つコズミック・イラ歴のモビルスーツと比べても歴然とした差があり、その気になればカンフーアクションの真似も可能なほどの柔軟性と冗長性を備えていた。(これは`ガンダムファイト`と呼ばれる競技に使われる`モビルファイター`の技術が軍用のモビルスーツにスピンオフされた結果)



「`ガイア`より動きが柔らかい……それに高いところから着地してもすぐに動けるなんて……すごい……これが`ガンダム`…。」

コズミック・イラのモビルスーツは発展途上にあるため、モビルスーツ単体の性能向上が主眼である。そのためにその他の技術がややおざなりになっており、
ショックアブソーバのような技術はまだ大戦中と大差が無かった。そのため高高度からの着地において、衝撃を吸収して動けるまでにごくわずかだが硬直時間が生じる場合がある。だがこの世界では技術が熟成されている上に、一年戦争中に既に初代ガンダムによる例があるので、その後のモビルスーツには必然的にそのような能力が備えられた。マークUはこの時期には現役を退いて久しい(マークUはオリジナルのZと共に第一次ネオ・ジオン戦争直後のアクシズから回収された。そこから運命が枝分かれし、Zがその後の技術で作られた兄弟機が現役で稼働中なのと比べると裏方に回ったマークUは些か不遇ではある。だが、このような裏方の仕事が技術を発展させるのも事実)のだが、それでも高高度からの落下と硬直からの立ち直りはコズミック・イラ歴のモビルスーツより速い。それが彼女を感嘆させる要因であった。マークUはステラの操縦に敏感に反応してみせ、メインスラスターを吹かして跳躍し、空へ舞い上がった。

この事実はシン・アスカにとっての「救い」を意味していた。だか、彼はまだそれを知るよしもなかった。



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