−黒江は甲児と箒の2人より一足早く欧州戦線へ合流。現地に派遣された穴拭智子、加東圭子と再会し、ヌーボ・パリで行動を開始していた。ジープで現地を偵察していた所、連邦欧州方面陸軍の第3機甲師団を発見し、事情を聞いていた。

「師団長、宇宙軍から将校が面会を求めております」
「`海`さんだぁ?珍しいな、こんな所で。通せ」
「ハッ」

師団長は宇宙軍からの面会者と面会を行なう。加東たち3人である。彼が宇宙軍を`海`といったのは宇宙軍が今や事実上の海軍の役目を担っているからだ。圭子が3人を代表して事情を問うと師団長は苦笑混じりに答えた。

「この欧州戦線は攻勢を行なっているが、全てではない。指揮官も有能な奴に配置換えされたらしく、一部地域では膠着状態となっている。空軍も定時爆撃を行なっているが、戦局全体への影響は限定されている。我々は斥候任務を負い、フランス地域をパトロールしていたのだが、今しがた敵と遭遇して戦闘中なのだ」
「そんな状態で我々と面会して大丈夫なのですか」
「ハハッ、戦場では状況は選べんよ。この間など私がトイレ行ってる時に戦闘開始の報告を受けたからな」
「凄いですね……」

智子が呆れたような、感心したような声で言う。彼女は航空畑出身なので、陸で戦う兵士たちの苦労は割と気にしてこなかったが、陸戦にも従事したハワイ戦以降はその苦労が身に染みて分かったらしく、その傾向は薄れている。

「そうだ。流石にトイレ行ってる時に報告を受けたときは焦ったがね」

師団長は呵呵と一笑に付すと、部下からの報告を受ける。敵の分隊を155ミリ滑腔砲
で追い散らしたとの内容だ。そしてレーダーに航空部隊の反応があると告げられる。

「ふむ。敵は航空偵察部隊も出してきたか。空軍へ連絡は?」
「ダメです、ミノフスキー粒子が濃く……」
「動けるものは?」
「おりません。皆、戦闘で疲労困憊であります。車走らせたら事故ります」
「う、うぅむ……新兵が多いからな」

……と、通報に回せる兵士がいない事に焦る師団長だったが、圭子らに頼み込み、通報を引き受けさせた。智子はお使いに自分らが使われる事に多少不服そうだったが、圭子と黒江に諌められる。

「相変わらずだなお前。あの場合は引き受けるしかないじゃんか」
「そりゃさ、事故っちゃ困るけど……」
「古代ローマじゃないんだから無茶言えないでしょ」
「うぅ……圭子まで……」

2人の攻勢にすっかりタジタジの智子。3人は以前と比較すると、すっかり戦友として馴染んだようで、会話もどこか砕けた、歳相応の、友達同士で話すような感じとなっていた。これは3人の互いの精神的成長もあるかもしれない。

「見えてきたぞ」

ヌーボ・パリ市内の臨時航空基地司令に機甲師団からの言付けを伝えると、基地司令は直ちに下令。部隊に出撃を命じた。黒江はその場に愛機が無いので、すぐに基地の予備機のVF−25F(最前線なので新型機が運良く配備されていた)で戦列に加わると告げる。圭子はVFの搭乗経験はないもの、アフリカ戦線から召還される前に何度かZ系可変モビルスーツならば訓練と幾度か実戦の搭乗経験があったので、待機中のΖプラスC4型(Zプラスの高高度守備用。旧・米軍出身の宇宙軍第103戦闘攻撃飛行隊所属機。スカル小隊のトレードマークである スカル&クロスボーンの元々の持ち主。ロイ・フォッカーは新人時代には同隊に研修替わりに所属した経験がある)を起動させた。智子はまだモビルスーツ、VF双方の訓練課程の途上状態なので地上待機(運悪くストライカーユニットはなかった)となり、智子は2人を見送るハメとなった。

(くぅ〜あたしだって訓練が終わればVFや可変モビルスーツの一つや二つ……!)

智子は訓練がまだ完了していない己の身を悔やみたい気分だった。戦友らがストライカーユニットが使えない状況でも対応出来る技能を持っている事への羨しさがこの時ばかりは溢れ出んばかりであった。



−それぞれ違う機体で出撃した黒江と圭子は互いになんだかんだ言って連邦軍の機動兵器を動かせるようになっている事に驚きあった。

「……へえ。黒江ちゃんはバルキリー使ってるのね」
「ヒガシ、お前こそなんでΖ系なんだよ。じゃじゃ馬なんだぜ、その系統。車で言えばフェラーリのスーパーカーくらいの」
「アフリカから召還される前に何度か動かしてたのよ。じゃじゃ馬の癖は掴まないとね」
「お前なぁ……」

2人ともとっさに乗り込んだので、格好はウィッチとしてのそれであるが、動かしているものがものである。ある意味ではとんでもない光景である。
しかも高性能機ときている。新兵が乗りたくとも乗れない機体。絶対新兵達からぶーたれられるのは間違いない。


「レーダーに反応があった。高度11200mに反応がある」
「ああ。管制から報告があった。敵はロシア戦線から鹵獲した「An-124」を使って何かを運んでいるらしい」
「ロシア戦線から?それはまた急ね」
「ロシア戦線は奴さんから見れば後方地域だ。大規模な補給基地があるし、兵員なり物資を運んでいるのは間違いない。護衛の姿も見える。師団が捕捉したのはこの護衛隊だろう」
「襲う?」
「たりまえだ。なにかヤバいブツを運ばれたらまた地域が落ちるからな……各機、交戦開始!!」
「了解」

黒江率いるVF隊と圭子率いるウェイブライダー部隊は別々に交戦。手始めに護衛を蹴散らす作戦に打って出た。先制に黒江のVF−25Fから複数のハイマニューバミサイルが放たれ、編隊の出鼻をくじく。

「ちぃ、敵に補足されました!!」
「低空でいけ!!如何に敵が大火力をもっていおうが、市街地は撃てんはずだ!」

彼は一か八かの策で超低空飛行に打って出た。一気に急降下し、バルキリーの火力を封じるために飛行コースを変える。


「大尉、敵が急降下を!!」
「何っ!?」

An-124が巨体を唸らせ、急降下を始める。黒江はこの敵の策の意図を見抜き、単機で後を追った。

「クソッ!!奴らめ……考えたな!!」

護衛をミサイルで蹴散らし、輸送機編隊の内の、急降下する3機を追う。自身も急降下し、市街地での空戦に持ち込む。

「ちいっ!!あんなに低く飛ばれちゃミサイルが撃てん!!」

バルキリーのミサイルの破壊力は通常の航空機破壊には一発で事足りるほどの破壊力はある。だが、超低空を市街地を半分盾にされるような飛び方をされると、自機が爆風に巻きこまれる可能性がある上に、民間人を巻き込んでしまう。黒江はガンボッドで落とすしかないと踏んで、撃つ。しかし、敵もさる者、ラダー操作を巧みに使い、弾道を反らせる。

「アイツ…手馴れてやがるっ!!」

思わずそう毒づく。バトロイド形態での格闘戦をいどめるほど敵も待ってはくれないだろう。焦りで汗が滴りでて、急激に喉が渇くのを感じる。2機とも見事な機動だ。

−このままでは2機に逃げられる!

焦りが一層大きくなる黒江であったが、不意に上空からΖプラスC4型がモビルスーツ形態で降りてきた。

「黒江ちゃん、あとは任せなさい!」
「ヒガシ!?お前、ビームライフルはどうしたんだよ!?」
「替えの弾忘れたから捨てた!」
「ア、アホか〜!」

思わず突っ込む。弾というのはEパックのことだが、モビルスーツのペーペーなドライバーである圭子はそれの敢行を忘れたのだ。しょうがないといえばしょうがないのだが……。

圭子のΖプラスC4型は敵輸送機のエンジンを片側全て、とっさにビーム・サーベルで切り裂いて、一機を不時着に追い込むが、それが限界であった。最後の一機は追撃を振りきり、スイス方面へ逃走。輸送機編隊の内およそ半数とちょっとは落とせたもの、数機は黒江らをも手玉に取る形で逃走(彼らにとっては強行突破)に成功。兵団側の戦術的敗北ではあるが、戦略的目的は果たした格好となった。

「やりましたね」
「ああ。俺は開戦時から輸送任務についてるんだ、このくらいはたやすい」

兵団の輸送機パイロットはハイタッチをしあう。彼らは本国の重要物資輸送の任務を果たすべく、スイスへ機体を向けた。



箒や甲児らが到着したのはそれからおよそ数日後のことであった。これは途中で輸送機が火災と故障を起こし、別の機体に乗り換えるなどの措置が取られたためであった。







―この世界は戦争が続いている。その過程で宇宙戦艦や宇宙戦闘機などの多くの兵器が生み出され、ISのように人の形を成した兵器が花形らしいが……変形・合体、何でもありだな……。

これは篠ノ之箒が欧州戦線へ向かう連邦の輸送機内で見ていた映像資料への彼女の感想である。近代の戦争で最も武勇を上げた兵器は人型機動兵器であり、それが地球圏で最も重要な地位を占めているという事実は自分たちの世界のISに通じる面がある。それに幾つかの少年漫画で見たような兵器群も`本当に実在する`世界。信じがたいが、地球の地形まで変化が生じている事が、根本的に異なる歴史を辿った世界だということを思い知らされる。それに社会構造的に真の意味で男女平等となった世界は多くの人々が夢見た世界。箒の世界ではISの存在が皮肉にも嘗ての男尊女卑の社会を「オセロの駒をひっくり返した」ように裏返しにしただけの女尊男卑を進めてしまった。客観的に自分の世界を見てみると、どこか歪な世界となってしまった事がわかる。

−この世界では宇宙レベルの生存競争が幾度か行われた事で、男も女も性別問わず戦いに従事した。戦争が男女平等を推し進めたとは……皮肉だな。

「女性の活躍は、最近では「ネオ・ジオン」のハマーン・カーンが連邦を完全に手玉に取る立ち回りを見せ、女傑と称された……か。この人はなんとも恐ろしいな」

映像の中で勇壮な演説をみせる第一次ネオ・ジオン戦争当時のネオ・ジオン指導者「ハマーン・カーン」。彼女は最終的にダブルゼータガンダムのパイロットのジュドー・アーシタに敗死したもの、そのカリスマ性は今なおジオンシンパ達の間では健在である。そして一戦士としての能力も随一であり、グリプス戦役時の機体のキュベレイで第一次ネオ・ジオン戦争当時地球連邦軍(当時はエゥーゴ)最新最強を誇ったZZガンダムと対等に渡り合った。彼女が指導者・戦士として名を残したように、リン・ミンメイは当初は若手アイドルに過ぎなかったはずの人間が「人類を歌で救った」事でアイドルが巫女・戦神のように祀り上げられるきっかけを作った。人間、何がどうなるかはわからないという事だ。自分とて、いつの間にか軍隊に協力する事になり、こうして欧州へ向かうことになった。欧州といえばクラスメイトの「シャルロット・デュノア」、「ラウラ・ボーデヴィッヒ」や「セシリア・オルコット」の出身地であるが、今なお連邦の保有する欧州地域で往時の姿を保てた地域はイギリスだけだという。フランスは心の拠り所であったパリを戦火で消失し、地球での地位を大きく減じたと本には記されている。

「シャルが見たらショックで倒れるんじゃないか……?この光景……」

フランス出身のクラスメイトが見たら失神は確実な光景が窓に映る。ここがとても中世以来、フランスの首都として栄華を極めた「花の都」パリとは思えない。

−あの世界有数の大都市の成れの果てがこの大きい湖とは……。宇宙戦争の惨禍は街をこうも簡単に消し去ってしまうのか……?

栄華を極めたパリの骸は箒に戦争の現実をこれ以上ないくらいに示す。残酷な現実。だが、それはこの世界のパリの行く末であって、自分たちの世界ではそうなるとは限らないが、それでも気分のいいものではない。

(シャルにいっても信じないだろうな……)

箒はパリの惨状にそう述懐する。たとえこの光景を自分の世界に戻って聞かせても「与太話」と笑わるのが関の山に思える。やはりこういう事は実体験をしなければ分かるものではない。自分たちの世界・時代での授業の一環として行われる、高齢者の戦争体験談のように。


輸送機は旧・パリの市街地跡の湖(辛うじて水没したエッフェル塔の最上部が確認できることから、ここがかつての`花の都`という事を伝えている)を飛行し、もうじき再建されたヌーボ・パリの軍事基地に着く。箒は自らの前途に待ち構えている過酷な運命に心を曇らせる。

(何はともあれ戦うしかない……戦って、戦い抜いて……もう一度一夏に会うんだ!!)

それが箒のこの世界で生き抜くための決意であった。宇宙戦争というSFでも陳腐でチープな題材となった感がある舞台に身を置くことになった彼女であるが、それでも想い人に会うという希望は捨てていなかった。

−輸送機が軍事基地へ着陸し、タラップを使って降りると、この日は地上待機していた黒江が出迎えてくれた。(箒は今回は黒江からとりあえず渡された、普段着がわりの扶桑陸軍軍服を着込んでいる)

「オッス、ご苦労さん」
「綾香さん」

黒江に案内され、基地の司令官に挨拶をする。軍隊である都合上、敬礼は必須なので、ラウラが転入時にやっていたのを思い出し、ぎこちなくも敬礼を行なう。(大まかな区別で言うならば陸軍式敬礼)

「長旅のところをご苦労だった。君のことは黒江大尉から聞いている。大変だろうが、頑張ってくれ」
「あ、ありがとうございます」

司令官は民間人、それもなし崩しに自分とは全く関係のない世界で戦いに巻き込まれる事になってしまった箒を労い、特別に部屋を工面してくれた(前線であるゆえに浴室は無く、シャワールームのみである)。

「風呂はないのか……まあ贅沢は言ってられんか」

……と、日本人としてはいささか寂しい気持ちになる。風呂はやはり日本人の心なのだ。日本人はシャワーではとても満足できないというが、IS学園でも風呂に入らないと落ち着かなかった。それは正しい。荷物を置き、ひとまず、ベットで一眠りする。



−それからしばらくしただろうか?すっかり眠りこけていたのだが、警報と兵士たちの慌ただしい足音で跳ね起きた。

「なんだ!?」

部屋からでてみると、廊下をパイロットスーツ姿の兵士たちが慌ただしく部屋から見て東の方向へ走っていく。

「綾香さん、これは…‥!?」
「敵の襲撃だ。ここのところは大人しかったんだが、敵も作戦に打って出たようだ。今この基地の兵力の主力は空爆任務で出払っている……そこを上手く突かれた。私も出る。お前も出られるか?」
「……もちろん」

箒は黒江の言葉にうなづき、共に格納庫に向かう。


基地の防空網は場所柄、そこそこ整備されてはいるが、その対応能力のキャパシティを超える物量での襲来は防衛設備だけでは対処できない。司令官は本来なら温存しておきたい予備戦力である、待機部隊を緊急出動させる事を決定したのだ。黒江はこの日は基地へ持ってきていたVF−19Aを使用して事に当たる事にした。基地に残存している部隊は宇宙軍「第86戦闘攻撃飛行隊`サイドワインダーズ`」(部隊の出自は20世紀中の米軍空母「ニミッツ」の戦闘機隊)が主である。部隊の機体は主に「VF−171 ナイトメアプラス」。それに大隊長の好みでカスタムされた「VF−22 シュトゥルムフォーゲルU」が隊長機として配備されている。そこに黒江のVF−19Aと箒が混じる形となった。


−格納庫

「よし、出撃だ!!各機、エンジンを温めろ!!」
「了解!!」

如何にバルキリーと言えど、すぐに出撃できるわけではない。エンジンを程良くアイドリングさせて、エンジンを温めてから発進するのだ。(最初はファイター形態なので)ノーズアートが描かれた機体がそれぞれ「いかにも軍用機」といった風貌を見せている。

「じゃあ箒、お前のISを見せてもらおうか」
「はい」

黒江の言葉に促されるように箒は自身の`世界唯一の完全なる第4世代`IS「赤椿」を展開させる。紅に彩られたその機体は見た感じは「ストライカーユニットを近代化させ、体の各部に装甲を纏った」ような印象を受ける。黒江としては主な武装が刀剣なので、親近感が湧くようで、どことなく嬉しそうな表情を見せる。

「ほう、二刀流か。二天一流みたいだな」
「宮本武蔵のアレですね?そっち方面もお詳しいんですか?」
「若い頃は道場に行ってたこともあってな。剣術をやってるといろいろな流派と剣を交える機会が多いんだよ」


それは宮本武蔵が晩年に完成させた兵法。二刀流の代表的な例だ。箒は実家が篠ノ之流剣術という流派の剣術道場である関係上、同剣術を習得している。箒はそのため剣術には自身があったが、それ以上の使い手である黒江(魔のクロエと畏れられた)にはあっさりと打ち破られた。黒江は今後、時間があれば自身の剣術を伝授していくと箒に告げる。



「よし、行くぞ」(穴拭のツバメ返しを今度見せておこう。あれは使えるからな)

と、一人ごちるとバルキリーに搭乗し、ステージU熱核タービンエンジンを唸らせて飛び立つ。箒もISの推進スラスターに灯を入れ、黒江に続いた。


−VF−19Aはスロットルをそんなに開いていないが、赤椿はほぼ全速に近い。機体の基礎的速力が全く違うのだ。エクスカリバーはA型では大気圏内でも有にマッハ6以上の速力を発揮する。一方のISは小回りの良さで勝負するため、速力は第4世代ジェット戦闘機と比べてそんなに優速ではない。それ故にバルキリーの方がISに合わせるという現象が発生。箒は内心、バルキリーの圧倒的速力に舌を巻いた。

「大尉、敵を発見した。高度14000、速力は今までより速い、VF−11並だ。どうやら新型飛行ユニットを装備したと思われる」
「くっ、この間落とせていれば……!!」


黒江は大隊長機からの連絡に、この間の輸送機隊を一部でも取り逃がした事を悔やんだ。あれは新型飛行ユニットを輸送する部隊だったのだ。一部でも部隊に渡れば前線の工廠で生産体制を整えさせる。兵団の恐ろしさに黒江は思わずキャノピーに拳を打ち付ける。

「大尉、悔やんでいても始まらん。今の俺達の任務は敵を落とすことだ」
「わかってます……!」

「隣のお嬢ちゃんはこれが初陣だったな?」
「は、はいっ」

箒は突然の通信に思わず声が上ずる。なにせ隊を束ねる高級将校直々の通信なのだ。緊張しないはずはない。

「そう硬くなるな。初陣じゃ誰もがそうだ。生き残る事を第一に考えろ。戦果は二の次だ」
「了解しました」
「良い返事だ。……全機、敵は今までのハエじゃない。だが、落としてみせろ。我々は米軍の伝統を受け継ぐ栄光の「サイドワインダーズ」だ。新型完成記念パーティにしてやろう」

大隊長の訓示は若いパイロットたちを奮い立たせる。それほどの言葉の力があった。米軍時代から受け継がれる精神。それを示す。搭乗員はその気持ちで自らを奮い立たせる。

−そして、大隊長機自らの突撃を皮切りに戦闘が始まる。はたして、箒はこの戦闘を生き残れるか。











−欧州戦線で箒と黒江が戦闘開始した頃、欧州戦線へ向かうラー・カイラムでは。

「お久しぶりです、アムロさん」
「ジュドー、久しぶりだな。1944年じゃずいぶん活躍したそうじゃないか」
「俺よりシーブックさんのほうが目立ってましたけどね。例の質量を持った残像で」
「501のメンバーのど肝を抜いただろう?あれ」
「ええ。ネウロイのビーム避けまくってウェスバーの一斉射撃でぶちぬいて見せたんですよ、シーブックさん。真ゲッター並に目立ってましたよ」

ジュドーは1944年での任務を終え、2199年へ帰還してきたのだが、最後の戦いでシーブック・アノーが怪異をF91で撃墜してみせた事で、ミーナたちにガンダムの力を示してみせた事をアムロに告げる。F91はサナリィが造り上げた「F90V」の発展型にして、小型モビルスーツの完成形。その性能はνガンダムを超え、機動性はV2ガンダムに次ぐ物を持つ。その威力を最後に501の面々に見せつけ、ガンダムの力に対して懐疑的であったミーナ・ディートリンデ・ヴィルケを納得させたという。

「確かにあのMEPEは凄いからな。F91を当代最強にした能力だし、模擬戦で俺も苦労したからな」

アムロはかつてF91がまだ最新鋭機であったコスモ・バビロニア建国戦争時、νガンダムでF91と模擬戦を行なった際にMEPEを発動させたF91の前に苦戦した経験があり、あの機動性は歴代のガンダムの中でも屈指のものだとアムロは言う

F91とZZの帰還により、ロンド・ベルの戦力は高まったわけだが、これもロンド・ベルの戦力増強を議会が容認し、ガンダム系の全面的運用が解禁されたために実現した光景。アムロ曰く「本当だったらシャアとの戦いで実現させたかった陣容なんだがな」と第二次ネオ・ジオン戦争当時の戦力不足をボヤくと同時に、今次大戦で議会の改革が進んだ事でガンダム系の運用基準が緩和され、本来なら少数生産で終わるはずのZ系などの大量配備が実現したことへのうれしさを同時にみせる。

「あれ、アムロさんってZ好きなんですか?」
「個人的に気に入ってってな。専用のZをこさえさせた事もある」
「意外ですね。シンプルなの好きとばかり……」
「俺だって男だ。変形合体は一度は憧れるもんだ」



アムロは第一次ネオ・ジオン戦争当時、アナハイム・エレクトロニクス社にカラバが発注したZガンダムの3号機(ただし、予備パーツで組み上げられた機体を2号機と数えた上での事。新規建造分としてはオリジナルのZに次いで2機目に当たる。丁度仕様が3番目に当たることもあり、3号機と呼ばれる)を自身の専用機として仕上げさせ、Zプラスと使い分けていた事をジュドーに告げる。ジュドーもZとZZを使い分けているのでその辺は理解できる。何気ない会話だが、周りの一般兵士達はそんな2人に羨望の眼差しを向けていた。

「いいねえ……大尉とジュドーのやつは」
「なんでです?」
「そうか、お前はまだ配属されて間もないからな。いいか?Z系に乗れるのはエースパイロットの証なんだよ。これが言われるようになったのは第一次ネオ・ジオン戦争からなんだが、Z系は操縦難度がピカイチで、ヒョッ子じゃ持て余す事が多かったし、航空機の操縦技術も持ってないといけないから乗るには苦労が多くて、結構狭き門なんだよ。元・戦闘機畑出身のモビルスーツパイロットの連中が好んで乗ってるし、アムロ大尉とかは言う必要ないくらいの腕だから軽い。だからZに乗れた連中は「Z乗り」とか言って、あこがれの対象なのさ」
「へぇ……」

そう。連邦軍のモビルスーツパイロットの間ではジム系に飽きたら上位機種のZ系に乗るのが一種のステイタスになっているのである。Z系の可変機構の廉価版を目指してリゼルが造られた事で幾分、敷居は低くなったが、それでも本物のZに乗るには相応の腕が要る。
それらを持つパイロットは「Z乗り」と称され、羨望を集める存在となっている。バルキリーで言えば普及版ではなく、特務タイプのAVFに乗るようなものだ。

そんな兵士達の会話を知ってか知らずか、アムロは欧州戦線に行くにあたって正式に配備させた(扱いとしてはνの予備機)Zガンダム3号機の整備をメカニックらと共に行なう。ジュドーはブライト・ノアに帰還の報告を入れるために艦長室へ赴いた。格納庫の陣容も豪華そのものであるが、今はまだ語るべきものではない。





−ドラえもん達はハワイ戦後に軍の要請でラー・カイラムへ乗艦していた。その中の射撃訓練室では。

重く、鈍い銃声を響かせながらのび太とドラ・ザ・キッドが射撃訓練に勤しんでいた。それをなのはが観戦している。のび太は長銃身のS&W M500を持っている。ダーティハリーで有名な「44マグナム」のおよそ3倍の威力のものすごい化物銃で、当然ながらグレードアップ液を使っての訓練である。ちなみにドラ・ザ・キッドの方はこれまた大口径銃のデザートイーグル(50AE弾仕様)という凄まじい大口径銃のオンパレードである。のび太はS&W M500を手足のように扱い、遠くの標的の真ん中に全弾させるという芸当を見せ、キッドも負けじと2発をのぞいて真ん中に命中させる。なのははこの2人の命中精度の凄さに圧倒され、言葉もなかった。自身は砲撃魔法の照準補正はレイジングハートに任せてるので、それを天性の感で行なう2人の凄さが分る。

「今回は僕の勝ちだね、キッド」
「く、くそぉっ……テメエ…、また腕を上げやがったな」
「キッド、`ドリーマーズランド`での事件を知ってるかい」
「お、おう。どうりで……」
「じゃあ横須賀海軍カレー、おごってよ♪」
「ぐぬぬぬ……」

のび太は過去の銀河超特急での冒険で腕をさらに上げたと豪語し、勝ち誇った表情を見せる。これでお昼のランチはキッドのおごりとなった。この訓練は実は昼飯をどっちがおごるかを賭けた男同士のいじらしくも切実な戦いであった。なのはは2人を止めようとしたのだが、キッドに引きずられて連れてこまれたのである。その時にしずかに「と、とめないでいいんですかぁ〜!?」と問いかけたが、しずかは「別にいつものことよ。あの2人、張り合ってるのよ。銃の腕で」と、長い付き合い故の冷めた発言でさほど気にもとめなかったとか。なのははここでしずかの意外にドライな一面を垣間見たという。

「ほぇ……凄いね2人とも。あんなに遠いのに」
「まあね。慣れればこんなもんさ」
「感と度胸。それが秘訣だぜ」

のび太は銃をホルダーに仕舞いながらいう。数十メートル離れた標的にピタリと命中させる凄さ。のび太は非常時にしか使えない特技だというが、オリンピックに出れば金メダル間違い無しの逸材。これはのび太が西部劇に傾倒していることも大きい、マカロニ・ウェスタンの「荒野の用心棒」、往年の名作「荒野の七人」、「OK牧場の決斗」、「明日に向って撃て!」、「シェーン」などは視聴済み。更に西部開拓時代のタブーに触れた「ソルジャー・ブルー」もカバーしているという徹底ぶり。その為彼はオートマチック式より回転式拳銃を好む傾向が強い。キッドもどの時代の銃も使えるが、西部開拓時代〜20世紀頃のものがいいとの判断を下している。その点で2人は気が合うのだ。

「さて、食事に行くぜ」
「キッド、落ち込んでない?」
「るせぇ!」
「も〜、喧嘩はよくないって〜!!」

負けた事にため息をつくキッドを先頭に、食堂へ向かう3人。これからの激戦の前のつかの間の日常であった。








−とある地。無数のゲッターロボGを従えたあしゅら男爵はそのゲッターロボG達の真の姿に気づいていた。

「ふん。早乙女め……まさかこのような機能を持たせているとはな……`ゲッター真ドラゴン`……」

それはゲッターロボGが行き着く一つの形。その名を真ドラゴン。その可能性の一つが機能としてセットされていたのだ。ブロッケン伯爵のほうは作戦には成功したとの報告がはいっている。自分達の宿敵らへの余興としては十分だろう。彼は真ドラゴンという脅威を隠し持つ量産型ゲッターロボGに満足気な顔を浮かべ、自身はさらなる策動に向けて行動を開始した。それは光子力研究所から奪い取った悪の魔神を完成させるための最終調整。闇の帝王が兜甲児、いや、3代に渡り自身の野望を邪魔する兜家そのものへの復讐として完成を心待ちにする魔神。その姿は実に禍々しく、生物を、いや悪魔を思わせるが、マジンガーとしての姿は留めていた。その名は……「デビルマジンガー」。そしてその操縦者、いやその体を動かす頭脳は……

「お喜び下さい地獄大元帥、いえ、ドクターヘル。あれがあなたの新たな体です」

あしゅら男爵は保存容器に入れられている脳髄と眼球のみの存在となり果てた、かつて「ドクターヘル」、「地獄大元帥」と呼ばれた者へ語りかける。肉体が完全なる死を迎えても、その脳髄は未だ生き長らえており、今なお、闇の帝王への忠誠を誓っている。その意思表示は保存容器に備え付けられた、ミケーネの誇る、マンマシンインターフェースを応用した技術の特殊な機械から発しられる音声で行なっている。その音声は生前のそれと同じ声であった。

「……大儀であった。これで鉄也、そして甲児へ復讐できる……見ておれ……`兜`……今度こそ息子と孫を貴様のもとに送ってくれる……」
「ええ。このデビルマジンガーが彼奴らを地獄へ導いてくれましょうぞ」
「マジンガーにマジンガーが仇なす……皮肉なものよ」


肉体を完全に失い、その脳髄−魂−のみとなりながらも、ドクターヘル(地獄大元帥)は尚も自身と闇の帝王が共に抱く野望を成就させんとその生来の野心を燃え上がらせる。その原因となったのは実は若き日の挫折とその時に屈折した心、歴史書に記されたナチス・ドイツ総統「アドルフ・ヒトラー」への憧れ、そして大学時代の親友であったはずの兜十蔵への嫉妬。それらが相まった結果が世界制覇の野望である。それを考えれば彼もなんとも哀れな人間であり、また、時を超えてナチスに魅入られた男でもあった。
そしてその意識は次第に明妙となっていく。以前より更に甲児たちへの復讐心を滾らせながら。















−箒は初陣を行なっていた。相手はマッハ8を叩き出せる装備を備えた兵団の一団。それらを相手取り、奮戦していた。

−ISの真骨頂は機動性だ……たとえ直線的なスピードが劣っていても!

ISが自分達の世界で最強の兵器の座に君臨したのは旧来の兵器群に対する多くの利点だということは理解していた。箒自身、それは骨身にしみるほど分かっている。しかし元が宇宙開発用として造られたとは思えない(兵器を備え、それを余すことなく使いこなす能力を持つ)過剰性能とも取れる、その高性能はいくら兵器転用がなされてから数世代を経たとは言え、そもそもの出自を考えると(似たような例にゲッターロボがあるが、ゲッターロボもそもそもは宇宙開発用ではあるが、それは恐竜帝国の脅威が明らかになった時点で変更され、非武装機とは別に、元から戦闘用に調整された機体が作られた。それが俗に言う初代ゲッターロボである)不明な点が多い。

(赤椿を与えてくれたのは嬉しいが……`姉さん`はまさか元からこのために……?)

この篠ノ之箒は他の並行時空の彼女自身とは違い、ISの発明者である姉の束との関係は対面をきっかけに、ある程度は氷解しており、束を`姉さん`と呼ぶまでには関係を修復していた。そして彼女自身、姉との和解をきっかけに、ISを作った姉の真意に迫ろうとしていた。それ故にこのような思考にたどり着いたのだ。

−発明者達は何時の世も自分の発明を世に売り出し、理解を得ようとする。だが本来の用途を超えてしまったものも多い。炭鉱での爆破用に造られたダイナマイトは爆弾として兵器転用されたし、ライト兄弟が新しい乗り物として造った飛行機は戦闘用に転用された。ただしダイナマイトについては俗説で言われる「ノーベルは兵器転用を快く思ってなかった」は間違いで、実際は「兵器転用は視野に入れており、むしろ冷戦時代の核兵器のような抑止力となる」事を期待し、兵器に転用したのが本当の所である。(少なくとも2200年での世界ではタイムマシンを使っての学術的調査でそのように結論付けられている。そして生前のノーベル自身がその時代の人間として接触した未来の歴史学者に自身の死後の評価を気にしていると述べた)ISを作った箒の姉の篠ノ之束の真意はともかくも、発明の兵器転用に際して一切不満を漏らしていない事から、発明者の宿命は受け入れていたのは間違いないだろう。

今、箒はその姉が造り、与えられた力で戦っている。相手は異星の`知性のあるロボット`、生物学的に言えば`機械生命体`とも言うべき存在。追加装備である可変翼を備えたバックパック(兵団側の地球兵器研究の成果)によってVF−11「サンダーボルト」にも劣らない速度を手に入れた彼らは追加装備についているライフルと銃剣でVF隊と渡り合う。箒は装備が今のところ、事実上、接近戦用しか無い(装備の射程は長いが、互いがマッハ3を超える超スピードで飛び交う実際の空戦では接近しなければ当たらない)事に歯がゆさを感じていた。

「ふはは……どうした小娘!!そんなものが当たると思うか」
「ええい……なめるなっ!」

-確かに箒のIS「赤椿」は全IS中最高の性能を誇るが、その性能を活かした装備があっても当たらないと意味はなさない。それを証明するように、兵団の一小隊長はその機動性と反応速度、スピードで箒の放つ中距離攻撃を避けまくる。箒は帯刀している二つの刀の内、左側の「空裂」を振るい、自動的に帯状の攻性エネルギーが発射されるが、彼はその帯状の範囲外に瞬時に逃れる。三度やってみたが、ビデオを巻き戻して繰り返すかのように同じ結果に終わる。かつて、ジオン公国の誇ったエースパイロットであり、ネオ・ジオン総帥でもあったシャア・アズナブルは如何に強力な武器でも「当たらければどうということはない」と述べたが、正にその通り。攻撃さえ当たらければどうということはないのだ。彼はその言葉を実践するが如き華麗な動きで回避し、箒に銃剣を突きつける。

「駄目だ、貴様は弱すぎる。そんなものを使ってもこのザマとは。話にもならん」

どこか狂気じみた笑い声を混ぜながら彼は箒の首に銃剣を突きつける。機械の顔は無表情のはずだが、それが却って狂気を強調していた。箒は残った「雨月」を瞬時に抜き、銃剣をはねのける。

「ふざけるな……!!よくも……!」

その表情はどことなく怒りに満ちていた。姉が心血を注いで完成させた「赤椿」を「そんなもの」と子供騙しのおもちゃを見るように吐き捨てた事、そして自身をまるで、泣き叫ぶ子供を見るかのように見て、戦力としてみなしていない事への怒り。それらが入り詰った感情。怒りは時として判断力を鈍らせるが、時として大いなる力を与えてもくれる。「雨月」を握った箒は後者のほうであった。心の枷を外した箒にはもはや躊躇いはなかった。

「うぉぉぉぉっ!!」

銃剣を潜りぬけ、懐に潜りこんで雨月を突き刺す。本来ならば打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出するのだが、この場合は怒りに任せ、その前に突き刺したので、その本来放出されるはずのエネルギーは突き刺された彼の`体内`で暴れまわり、貫いた先から火花が噴出する。

「こ、これは……お……の……!」

彼はズタズタになっていく体内回路から搾り出した声で断末魔をあげる。それは彼の最期の言葉でもあった。モノアイが消え、腕から力が抜けていく。

これは奇しくも仮面ライダーBLACK RX=南光太郎の最大の必殺技「リボルクラッシュ」とほぼ同じ構図であった。偶然の産物ではあったもの、威力は凄かった。


「箒、離れろ!!爆発するぞ!!」
「は、はいっ!!」

丁度、その様子をVF−19Aをファイター形態からガウォーク形態を経て、バトロイド形態に変形させ、敵機のオーバーシュートを誘って、敵を一機撃墜したばかりの黒江が目撃し、急いで通信で箒に呼びかける。箒もそれに気づき、慌てて退避する。

黒江はこの時、箒が行なった攻撃が偶然にもRXの必殺技と同じようなものである事に驚きを隠せず、

(アレは間違いない。光太郎さんの……RXのリボルクラッシュそっくりだ……偶然だと思うが……)

……と心のなかで呟いたという。







欧州戦線は概ねフランスが最前線となっている。それ故に地球連邦軍の前線司令部もそこに置かれていた。戦線は連邦軍が攻勢に転じたもの、そう簡単に状況は変わらず、西暦2200年−22世紀最後の年−を迎える事となった。フランスは連日にわたり、激しい空戦の舞台となっていた。


−VF隊は敵の新型飛行ユニットに手を焼きつつも熟練者達の妙技によって撃墜していった。その中では唯一のウィッチ出身者である黒江綾香も例外ではなかった。バジュラやマクロス・ギャラクシー船団との戦いで腕を鍛え上げた彼女は結果的にしろ、今や訓練中の現役・元魔女含めた扶桑出身者の中ではトップエースである。2200年1月現在、扶桑の他の連中が主力機とは言え、廉価版に当たる「VF−11」や「VF−171」で訓練中か、実戦を経験しだした中で、彼女だけが最高水準機群(VF−19A、VF−25Fなど)を悠々と駆っているのもその証であった。世界的に見れば、戦闘機乗りとしての才能もあったらしく、高性能機を駆るようになった者が各国に数人づつ存在するとか。

「少しは歯ごたえは上がったが……ギャラクシーの奴らに比べりゃっ!!」

黒江は自身の愛機の「VF−19A」を駆り、ファイター形態での一撃離脱、ガウォーク形態のホバリング、バトロイド形態の格闘戦を臨機応変に使いこなしてく。ギャラクシー船団との各種VFとの戦闘でジェット機時代の空戦の要領は得ている。黒江が追い越した一体がライフルを撃ってくるが、瞬時にバトロイド形態で応戦する。格闘戦である。変形と同時にピンポイントバリアを右手に展開し、その神速で相手の懐に飛び込み、パンチを見舞って屠る。

「悪いが……こちとら格闘戦は十八番なんだよ」

格闘戦が元々得意である彼女にとって得物があろうがなかろうが関係ない。それを示す一幕であった。501の坂本は戦いの際は剣術に依存している節があるが、黒江の場合は`史実`と異なり、生き残るために困難な状況下(505から召還され、基地を離れようとしていた際にティターンズ残党軍の追撃を受け、サバイバル生活を送った。本人曰く、その際に猛獣と格闘した事もあるとのこと)に置かれた事で素手での格闘戦も得意になり、それらを剣術と織りまぜて戦うようになった。これは1944年冬に坂本に再会した後に模擬戦を行なった際に生身で披露し、坂本を驚かせる事になる。機体のシールドに穴が開いているのはそれまでに何発か被弾しているためである。本体に被弾させていないのは流石であるが、被弾を避けられなかったという点では口惜しさの残る戦闘ではあった。


今回は箒が初撃墜を記録し、VF隊の強さも改めて兵団側に思い知らせる戦闘となったが、その中でも無傷であったのは大隊長の駆る「VF−22 シュトゥルムフォーゲルU」のみ。流石に`二つのAVFを配備された当初から乗りこなしている`と日頃から自負するだけであって、腕は折り紙つき。この日の部隊では、一番の撃墜スコアを記録している。

「ん、退いていくか。鮮やかだが……何かあるな」

敵は飛行ユニットのデータは十分にとれたと判断したのか、それとも部隊の壊滅を避けるためか、撤退を開始している。部隊に`戦闘やめ、集まれ`との指示を飛ばし、彼は上層部を満足させられるだけの戦果を持って帰還の途についた。部隊は一番`足`の遅い赤椿に合わせる形で帰還していった。箒の、そしてISのこの世界での初陣はまあまあ上出来といえた。








−地上基地

「終わったようね」
「……黒江は?」
「三機撃墜。……手馴れてるわね、黒江ちゃん」
「新入りのあの子はどう?」
「一機落としたわ。初陣としては上出来ね」


−地上の基地では戦いの様子を地上から観戦していた加東圭子が穴拭智子に告げる。今回の空戦は基地から割合近い区間での戦闘ではあったが、中高度での戦闘であったので双眼鏡くらいでは窺い知る事はできない。だが、加東圭子はウィッチとしての固有魔法として「超視力」を備えており、それを使えば如何に中高度の戦闘であっても確認することは容易である。圭子の観測によれば黒江は3機撃墜の戦果を上げ、黒江が連れてきたあの少女も一機を落としたらしい。IS(インフィニット・ストラトス)という異世界の兵器を持ち込んできたのは二人としては驚きであった。姿は自分達のストライカーユニットに似ているが、幾分兵器らしい見かけをしている。ただあの少女−篠ノ之箒−が持ち込んできた一機しか存在しないというのは残念の一言である。

「インフィニット・ストラトス……だっけ?あれが数ありゃ一つ、動かしてみたいんだけどね」
「隣の芝生は青く見えるっていうけど……まあわからんでもないわね。」

圭子も智子が箒の持ち込んだ「赤椿」−インフィニット・ストラトス−に憧れるのは理解できる。各国ごとに違いは多少あるが、安定した高性能を兼ね備えているという点は良い。箒のそれはモビルスーツでいえば「特定の個人用にカスタマイズされたエース機」であるが、当然ながら誰でも無難に扱えるような機体もあるだろうから、動かしてみたいというのは当然である。最も動かすだけの最低条件はクリアしているのであるが。

「これからどうするのよ、ISの事。戦争が終わればアナハイム・エレクトロニクス社とか新星とかの各種軍需産業達が黙っちゃいないはずよ?」
「ああ、それは近いうちに日本に建てられる予定の`宇宙科学研究所`がその調査を行なう予定って聞いてるわ。『アレ』はそもそもは宇宙開発用に造られたってことだから、その方面での研究を兵器としての研究と同時に行なうんじゃ?」
「平和利用ねぇ……まあ世の中平和が一番よね」
「そういうこと」

ISはその高性能によって、兵器転用がなされたとはいえ、そもそもは宇宙開発用に造られた。そのため、できるだけ平和利用させたいというのが連邦政府の願いであり、情報が入った政府は戦争が終わり次第、建設中の宇宙科学研究所で赤椿を調査し、平和利用と兵器としてのISを分けて研究させたいとの意向を示している。兵団との戦争が大詰めを迎えつつある中の連邦政府の願いは叶うのだろうか。

圭子と智子は上空を通りすぎていく箒と「赤椿」を仰ぎみ、一刻も早く戦争を終わらすことを誓った。







箒は初陣を終え、部屋で休息を取っていた。何せ訓練でも、相手が死ぬことはまず無いIS同士の戦闘でもない、本物の戦争である。一歩間違えれば死んでいる可能性もあった。いくらロボットとの戦争とはいえ、実際に殺り合った事への恐怖も無いわけではない。戦闘中はISを、ひいては自分の姉を侮辱された事への激情で気に留めなかったが、終わって部屋に入った途端、手が震える。「戦争の現実」。多くの人間が直面するこの現実。箒の年齢からすれば、それほど珍しい事ではない。古今東西、10代半ばでの初陣も珍しくはないが、戦後日本を支配した倫理観が少なからずある箒には辛い現実であった。

(これが戦いなのか……勝ったには勝ったが……こんなにも恐ろしいものとは……)

戦い続ける事でいつか死ぬのではないか、という死への恐怖が自分を襲うのを感じ、ベットに横たわる。`せめて『一夏』がいれば、こんな恐怖などすぐ消えるのに`と想い人であり、幼馴染への思慕を吐露し、枕を抱きしめる。箒にとって幼馴染である「織斑一夏」はそれほどの存在なのだ。

「箒、入っていいか?」
「え、ええ。どうぞ」

黒江は箒のことを心配し、智子とともに入ってきた。箒は黒江が連れてきた、自分より幾分年上(箒は史実では赤椿−紅椿−を使うようになった時点では16歳を迎えているが、甲児が出会った彼女は誕生日が史実と異なるため、まだ15歳である)の少女を連れてきた事に若干面くらった。

「どうした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるぞ」
「そ、そうですか?それで、その方は……?」
「ああ、紹介する。穴拭智子、私の古くからの戦友だ」
「黒江から話は聞いてるわ、よろしく」
「篠ノ之箒です」

智子は箒とそう挨拶を交わす。その後、黒江は単刀直入に箒に初陣の事を聞く。箒は心のどこかに殺し合いへの恐怖があると答える。その声色はどこか沈んだモノだ。黒江と智子は自身の『若いころ』(ウィッチである彼女らにとって10代は若いころになる。ましてや実年齢が20代に突入しているので、尚更である)の話を箒に聞かせる。前置きとして、自分達も実は箒と同じで、こことは違う世界の出身で有ること、世代的に箒から見れば曾祖父母にあたるであろう「大正生まれ」の人間で、住んでいる時代は箒の常識で言えば第二次大戦中の頃である事を告げる。

「え、ええっ!?それって本当なんですか?」
「ああ。嘘いってどうする。平たく言えば私たちはお前から見りゃ`おばあさん`になるんだよ」
「そういうこと」
「信じられませんよ……そんなこと」
「この世界の科学力は時間も次元も飛び越えられる。それで私たちはここにいるわけだ。見たろ、あのバルキリーを。あれがこの世界の技術の証拠だ」
「え、ええ。私の知るどの戦闘機よりも小回りが効くし、ロボットにも変形できますけど……甲児のあの魔神よりは常識的な」
「カイザーか。いきなりあれじゃもう何見ても驚かないな」

……と、笑い飛ばす黒江。ここから彼女と智子の身の上話が始まった。並行時空の別の歴史を辿った日本(近代以降の国号も箒の常識でいう所の大日本帝国ではない)の陸軍に志願した事。自分達の世界ではネウロイという怪異が猛威を振るっていて、自分達はそれに対抗できる力を持った『魔女』で有る事……。箒にとってはどれも驚くべき話であると同時に世代的相違を感じる。一見、同年代に見えても実は曾祖父母と曾孫ほどの差がある。大正世代の少年〜青年期の頃の文化は大正のモダンな雰囲気を色濃く残す。黒江達はその末期の生まれではあるが、史実でも昭和初期まではその傾向は継続していたので、国同士の戦争が起きていない黒江達の世界では大正時代の流れを受け継いで発展した文化が当然ながら存在することになる。だが、意外にも黒江達はあっさりと21世紀以降の文化に順応し、それを楽しんでいるという。怪異への対抗上、各国の交流が盛んとなっている故に、文化のグローバル化が史実より60年以上早く進展した結果、新しい文化を受け入れることに躊躇いがないのだろうが、それにしても早すぎると箒は思った。半年しか経っていないのに、20世紀最末期以降に登場したパソコンを使いこなし、TVゲームなどに興じるまでになっているというのは……と箒は言うが、黒江と智子は「人間、慣れればどうということはない(わ)。郷に入れば郷に従えとかいうだろ(でしょ)」と2人揃ってサラっと言ってのけた。そう言うところは順応性の高さを見せつけた。そしてやがて箒の心にある戦いへの怯えに話題が移る。

「初陣の後には少なからずお前のようになる奴が多い。だが、ビクビクしてちゃこの後生き残れん。心を強く持つんだ」
「で、でも……」
「初陣を無傷で生き残れただけでも大したものよ。あたしは初陣の時は突っ走ってばかりで、上官から怒られたし……」
「そうそう。江藤隊長、あの時凄く怒ってたもんな♪」
「そうそう。被弾したし……機銃はオシャカにするわ……って何言わすのよアンタ!」
「ふふっ」

「おっ、やっと……笑ったな」
「え……っ?」

自然と笑っていることに気づく箒。黒江と智子がこの話をしたのは箒を勇気づけるためであったが、それはうまくいったようだ。

「3人雁首揃えてここにいるのもなんだ。せっかくだから3人でカラオケでもしないか?」
「は、はい?」


そして10分後……。

「基地にまさか……カラオケがあるとは……」
「たりまえだ。これも世の中働くための活力をやしなう必需品じゃい!レクリエーションがなけりゃ働く意欲はわかない!これ世の中の常識だかんな!」

最前線とは言え、レクリエーションがなければ戦う気も失せる。そのため、各種レクリエーション設備は整っていた。箒はこの事実に目が点となる。

マイクを手に、初っ端からハイテンションな黒江。もう曲は予約済みで、早速始まる。それは90年代のバスケットボール漫画の金字塔な位置のあの漫画のメロディーであった。(因みに2代目ED)

「〜〜〜♪」

(ス、ス◯ダン!?それもエンディング……突っ込みたい、無性に……!)

箒は思わずそんな衝動に駆られるが、急いで曲を入れようとリモコンを操作する。箒はこういう場は不慣れではあるが、こうも見せつけられては対抗心が燃え上がる。


−何気に上手いから困るとばかりに智子もリモコンで曲を入れる。手馴れた動きで曲を予約する。その選曲は……。

黒江が歌い終えると、マイクを受け取り、歌い始める。今度はポップではあるが、黒江の歌った曲の流れを組んだ選曲らしく、若干バラードも入っている感じの曲だ。タイトル表示によれば「LIGHT THE LIGHT」という曲らしい。

「FIRE BOMBERか。本当に好きだなぁ、穴拭」
「FIRE BOMBER?」
「ああ、この時代で最も人気のあるロックバンドの一つだよ。歌で移民船団救っちゃった逸話持ちで、ライブのチケットなんか入手が超〜むずいんだ」
「何時の時代もそれは変わらないんですね」

箒は自分の時代と変わらないところもあるのかと感心し、笑う。IS学園でもクラスメイト達の会話でそのような話はちらほら聞くので、そういうところに安心したらしい。やがて曲が終わり、箒の番がやってくる。

「箒、あなたの番よ」
「は、はいっ!」

箒は智子からマイクを受け取る。そして、緊張した赴きでマイクを握る。

−緊張するが、もうこうなったらヤケクソだぁ〜!!

「し、篠ノ之箒、参ります!!」

緊張しながらも彼女は歌い始める。何を歌っているのか?それは意外な選曲だったという。










連邦軍内ではかつての旧・各国軍の伝統が息づいていた。例えば旧・日本出身部隊は大日本帝国陸海軍の各部隊の伝統を明確に受け継いでいるし、旧米国出身部隊は米軍のそれである。それを明確に感じさせるのは隊舎での風景。連邦軍は元々、各国軍の寄せ集めのようなモノであったので礼式などには部隊・地域別の特徴が出ていた。

「同じ軍隊でどうしてこう……やっている事に微妙に差が出るんです?」
「元々旧国連軍に各国の軍隊を順次編入する形でできた、「寄り合い軍隊」みたいなところがあるからなのよ。だから地域別に特色があるの」

現在、箒は便宜上「民間協力者」という形で行動をしている。着ている服はIS学園の制服である。事実上これが私服と化している感があり、持ち合わせが無いことにガックリと落ち込んでいた。それを見かねて、黒江達が扶桑陸軍制式戦闘服と軍服(俗に言う1943年制式の大日本帝国陸軍軍服)を提供してくれたので、今はそれらでローテーションを組んでいる状況である。

(未来の世界か……モビルスーツやVFとか……SFのような兵器がたんまりある割には元の時代とそんなには変わっていないのだな……不思議なものだ)

箒は智子に案内される形で基地を見て回る。基地の様子は21世紀頃のTVでよく見る基地の風景とそんなに変化していない。駐機場に並んでいる兵器群が戦闘機の他に、人型ロボットとそれらの派生型が増えている以外は。ISの通常兵器に利点も対しての利点もそれら同様なので、そういう兵器が普及している時世では当たり前に認知しているだろう。箒はそう思いながら基地を見て回った。だが、既に彼女らの知らぬ所で、この世界にうごめく悪の策動は始まっていた。










−欧州 某所

「フハハハ……見ておれライダー共め」

−欧州で作戦行動を行なっている怪人たちがいた。かつて7人の歴代仮面ライダーと激闘を繰り広げた最強の悪の組織「デルザー軍団」の面々である。一人一人がそれまでの悪の組織の大幹部レベルの戦闘力を誇り、過去にライダー達を数人捕虜にした戦績も持つ。彼らはバダンの尖兵として蘇り、先行して行動を開始していた。それを指揮するは最強のデルザー改造魔人(半機械人)「マシーン大元帥」である。彼等の目的はバダンの力を示すために欧州を蹂躙する事。そのため、マシーン大元帥自ら作戦を指揮していた。
彼らの復活は無論、歴代仮面ライダーたちも察知していた。仮面ライダー1号〜ストロンガーまでの`栄光の7人ライダー`達はかつての因縁からか、日本をスカイライダー〜RXに任せ、次々と欧州へ集結していた……。

−愛車の新サイクロン号を疾走させながら仮面ライダー1号と2号が欧州をひた走る。そこに他のライダー達が加わっていく。集まった訳はこれより数日前の事。一号ライダー=本郷猛へRXの相棒・弟分の男「霞のジョー」からの一本の電話が入ったことがきっかけであった。

「本郷さん、大変だ!!」
「霞のジョーか。なんだやぶからぼうに。何かあったのか」
「バダンの作戦を偵察してるんだが……欧州でデルザー軍団の改造魔人を見た」
「何!!」

この時期には霞のジョーもバダンに連なる歴代組織のことは知っており、仮面ライダーたちを手助けしていた。かつて少年仮面ライダー達の一員であった者達の子孫、また一号ライダー・二号ライダーと共に戦った「滝和也」の末裔「滝二郎」(並行時空では彼が滝和也の役割を担っているが、この次元においては子孫である)の助けもあり、彼はこの情報を得て、一号へ通報した。なので信憑性は確かである。彼の通報に一号はストロンガーまでの後輩たちと連絡を取り、日本をスカイライダー以降の後輩達に任せ、欧州に向かうように指示した。その先陣が姿を見せる。

「V3、ギリシャから到着!!」
「来たか、V3」
「本郷先輩、確かな情報なんですか」
「ああ、霞のジョーからの確定情報だ。間違い無い」

ギリシャからハリケーンをかっ飛ばし、仮面ライダーV3が到着する。彼もかつての最大の敵らの復活が信じられないようである。デルザー軍団は仮面ライダーにとって、それほどの敵なのだ。1号はV3に首を縦に振って肯定し、彼等をして過去最強の強敵であるデルザー軍団の復活を暗に告げる。だが、一号もこの時は半信半疑であり、軍団そのものの復活を確信するのはこのさらに一年後の事である。

V3の到着を皮切りに、他の歴代ライダー達もそれぞれの愛車を駆って颯爽と現れる。



「Xライダー、エジプトから到着!!」
「ライダーマン、南アフリカからやってきたぞ!!」
「アマゾンライダー、ペルーから到着!!」
「ストロンガー、日本から到着!!」

7人ライダーは隊列を組みながらマシーンを平均時速250q以上で飛ばし、ヌーボパリへ急ぐ。全てはデルザーの改造魔人の復活を確かめ、出来ればそれを倒すため。7人はデルザー軍団との因縁が再び始まる事を予期し、闘志を燃やす。

「いいかみんな、バダンがデルザーの改造魔人の誰かを蘇らせ、作戦を開始した。俺たちがスクラムを組んで大首領の野望を打ち砕くんだ!!」
「おう!!」

1号が全員に呼びかけ、それに6人が応える。そして彼等は再建凱旋門をくぐり抜けていく。その颯爽とした勇姿に付近をパトロール中の連邦軍部隊は思わず全員が敬礼をして彼等を見送る。

そして連邦軍欧州方面軍に霞のジョーからの連絡が入るのは7人ライダーの到着と時を同じくしてであった。

「何、バダンが?…うん、それで7人ライダーがここへ向かった?了解した」

連邦軍欧州方面軍司令は霞のジョーからの連絡を受け、事態の深刻さを受け止める。無敵の仮面ライダー達の過半数が一カ所に集結するということはそれだけ強大な敵が欧州に現れた事の表れでもあるからだ。

「失礼します。……司令、どうかなされたのです」
「…少佐か。深刻な事態が発生した」
「なんです、その深刻な事態って」

定時報告のために司令室に入ってきた加東圭子に司令は深刻な赴きで答える。クライシスと並ぶ連邦の最大級の敵で、ナチス残党の「バダン」が行動を遂に起こし始めた事。それに対抗するために栄光の7人ライダー達がやってくると。

「少佐、すぐに基地で手が空いている連中を招集させたまえ。整列で彼等を出迎える。基地の放送を使いたまえ」
「了解です」

圭子は急いで基地の設備を使って放送を行なう。7人ライダーを出迎えるにも一苦労がいるのだ。
基地の滑走路付近に手空きの兵士たちが並んで敬礼し、7人ライダーを出迎える準備を整える。智子と箒もその中に混じる。

そして彼等が姿を見せる。爆音高くマシーンを走らせ、仮面ライダー一号を先頭に、ストロンガーまでのライダーが颯爽と現れる。箒は彼等の姿に驚愕し、思わず目が点となる。何せ『TVの中の特撮ヒーローがそのまま現実に現れた』を地で行く姿なのだ。初めて見た箒が目が点となるのも当然であった。

(なっ、なっ……なっ!?ヒーロー、どう見てもどこかの特撮番組のヒーローではないか!?これはアリなのか!?いくら何でもそれは……!??)

箒は必死に目の前の光景を受け入れようとするが、頭の中の常識がそれを受け入れようとしない。だが、それを智子に追い打ちをかけられる。

(この世界はなんでもありなのよ。ドラえもんも本当にいるしね)
(と、智子さん〜!?)

-箒はこの時、非常識なこの世界の状況と、その光景に、心のなかで思わず泣きたい衝動に駆られたという。









−箒が歴代仮面ライダー達の勇姿に面食らっていたのと時を同じくして。ラー・カイラムとその護衛のペガサス級らはインド洋付近に差し掛かっていた。先のハワイ沖海戦以後、ロンド・ベルの艦隊編成は以前より大幅に強化され、新規に特殊モビルスーツ群やVFを多数搭載する有力部隊がロンド・ベルに編入された。スーパーロボットも真ゲッターロボの他に、先の大戦以来、久方ぶりにダンクーガが積まれている。コン・バトラーVやボルテスVは未だ先の大戦とその後のゴタゴタで受けた痛手から立ち直りきれず、今回の参加は見送られた。ダンガイオーチームからは地球側の技術を加えての修理・調整にもう少し時間がかかるとの通達があり、彼らは後からの参加という事になった。

「ブライト、彼らはどうだった?」
「コン・バトラーチームとボルテスチームは駄目だ。一部の機体を新造しなくてはならないらしくてな……」
「あの旧・ザンスカール帝国系の奴らのテロが響いたか」

ロンド・ベルの司令で、連邦軍大佐のブライト・ノアはスーパーロボットらの内いくつかは未だに再戦力化は不可能という事情に頭を痛める。アムロもそれに同意する。止むに止まれぬ事情とはいえ、泣きたくなる状況だ。

その状況を鑑みて、軍が旧・エゥーゴ系の開発計画とは別に、ダブルゼータの設計をベースにして、単機城塞攻略戦用の大型機を開発したり、空挺作戦のためにZプラスではない、Z系の派生機の独自開発を行なったのも概ね理解できる。


−その当時、白色彗星帝国との戦争が終わっても地球圏は平和を取り戻したとはいえない状況にあった。スーパーロボットを保有する研究所も例外ではなく、コン・バトラーVの南原コネクションとボルテスVのビッグファルコンは先の大戦後間もなく、当時既に自然消滅していた旧・ザンスカール帝国を崇拝する過激派組織のテロに遭ってしまった。その結果、それぞれのマシーンのうち二台を爆破された。この事件は大戦後まもなくであり、資材不足で修理もままならない状況であった両研究所を愕然とさせた。スーパーロボットは大衆や政府には「救世主」として崇められているが、過激派組織らには「何者もねじ伏せる、連邦の力の象徴」として忌み嫌われる。幸いチームは別の場所にいたので難を逃れたもの、テロにあったマシーンは完全に爆破されており、その機体を新造する必要が生じた。今時大戦において彼らが参加できないのはそういう訳である。無論、マシーンの修理と新造は現在も行われているが、合体ロボとなると、既存の機体と新造機の合体機構のマッチングの関係もあり、未だに復活は叶わない。

そんな状況で、ダンクーガがきたのは幸いといっていいだろう。
このように戦力のやりくりにブライトは苦労していた。アムロは冗談めかして「あまり気にしたら髪が後退するぞ」といい、ブライトはその言葉に三十路に突入したばかりの自分の顔を思わず鏡で確認してしまうほど狼狽したとか。




−なのははハワイ沖海戦後、帝政カールスラント空軍の対戦車エース「ハンナ・ウルテカ・ルーデル」の師事を仰ぎ、次第に戦いのイロハを吸収していた。ルーデルと智子の合意により、ルーデル預かりの身となった彼女は剣術の訓練の他、実弾による射撃訓練、戦場での行動に関する講義を受け、少しづつ運動能力を向上させていた。この日は空域のパトロールである。魔法による飛翔だが、持っている得物はレイジングハートではなく、身体能力を強化した上で、ドイツ空軍(帝政カールスラント)の制式航空機関砲「MG 151 機関砲(口径20o)」を持っている。これはストライカーユニットを用いなくても身体能力強化を発揮できる訓練を積んだウィッチから身体能力強化の魔法が伝わり、それを伝え聞いたなのはがそのコツを掴んで発動させているためで、ウィッチへ転向したティアナ・ランスター、元々サイボーグ(戦闘機人)であるスバルを除けば、時空管理局局員では初の「重火器持ち」の魔導師となった。無論、この事はなのはとしては不本意であるが、砲撃魔法の威力を高めるのに必須な魔力増幅用カートリッジの高純度のものが確保できない状況では止むに止まれぬことであった。(カートリッジを用いなくても撃てるが、威力は落ちる)。

「まさか航空機関砲を持って飛ぶなんて……思いも寄らなかった」
「致し方ないだろう。貴官の使う`カートリッジ`は私達の使う弾丸より入手困難なのだからな」
「それはそうですけど大佐……」
「まあそうぶーたれるな。いずれ状況も改善されるだろう。付近に異常はないな?」
「はい。反応はありません」
「よし、帰投するぞ」」

なのははブーたれていた。元々、魔法少女を自認する自分が不釣り合いな得物を持って飛ぶことにいささかの不満があるようだ。ルーデルはそこ行くと軍人だけあって、得物はどうでもいいようだ。彼女はストライカーユニット「FW190D-9」をつけてなのはに同行している。速度はFW190の速度に合わせている。(この時期、ノイエ・カールスラントでは最後のレシプロストライカーユニットであり、発展機の「Ta152」が配備され始めたが、本土防空部隊や精鋭部隊が優先されており、ルーデルのような前線部隊にはまだ回ってきていない)。2人はラー・カイラムのオペレーターに担当区域の異常はないと報告し、帰路についた。近いうちに起こる出会いにて篠ノ乃箒はなのはの声色に驚くのだが、それはまだ先のことである。









−スバル・ナカジマは赤心少林拳の修行を始めていた。実は彼女もハワイ沖海戦後に知ったのだが、仮面ライダー達に命を救われた際に体に仮面ライダースーパー1と同様の重力制御装置が組み込まれていた。(仮面ライダー達の有する技術で治療したので、その関係で埋めこまれた。彼らといえど、未知の技術で造られた戦闘機人を完全に治療する事は出来なかった。そこで一部機構は自分たちの知るそれを組み込む事で対処し、その内の一つが重力制御装置であった。何かの修理不可の部品の代わりに組み込んだとのこと)この機構は意図的に発動可能だということなので、これから戦闘の際に活用すると決めたスバルは日本にいるスーパ−1=沖一也と連絡を取り合い、赤心少林拳と彼の技を特訓していた。その特訓の最中の様子がこれ。

「スゥーパーァ――ッ!!ライダー月面キィ――ック!!」

これは要するにライダーキックなのだが、スーパー1のそれは拳法の要素の入ったもの。その極意は果てしなく遠い。沖一也曰く「打ち得ぬ時に繰り出す。それが極意だ」とのこと。その意味を知るため、スバルは日々特訓に励んでいた。拳法の心得がある流竜馬などの助けも借りて、キックを撃ちこむ。身体能力なども以前より向上し、動きも軽くなった。(内部機械の関節部・動力伝達機構が仮面ライダーらに使われた超技術で改良・強化された事で、肉体とのマッチングが改善されたため)。それをスバルは感じていた。

「凄いなぁ。改めて思ったけど、なんだか体が軽い。これなら……」
「よし、いいぜ。今日はあと10回は打ち込め。」
「はいっ!」

キックの特訓に励むスバルだが、実は地球連邦軍には仮面ライダーストロンガーより伝わりし秘伝とも言えるキック技があった。それは「イナズマキック」。
後輩のZXも最大技として使い、かの宇宙怪獣との戦いで名を馳せたバスターマシン「ガンバスター」も使っていた由緒正しき技。その境地に達するのはまだまだ先の事である。














マジンガー。兜十臓と剣造が生み出しスーパーロボット。欧州に飛来する2機の魔神。偉大な勇者と魔神皇帝は欧州に一足早く飛来。基地で整備を受けていた。

「おっ、甲児くん」
「鉄也さん、来たっすね」
「ああ。今動けるのは俺たちくらいなもんだからな。きっちり働こう」
「おう。ところでその子は?扶桑海軍のセーラー服着てるけど」
「ああ、俺にくっついて来た西沢義子ちゃん。こう見えても俺たちとそんなには変わらんそうだ」

鉄也は甲児に西沢義子を紹介する。明るそうな雰囲気に、活発さを備えた少女である。とてもイギリス海軍(ブリタニア連邦海軍)の流れをくむ日本海軍(扶桑海軍)の軍人とは思えない。

「俺は兜甲児。マジンカイザーのパイロットやってる。よろしくな」
「扶桑海軍、西沢義子。階級は飛曹長。こっちこそよろしくね」

2人は挨拶を交わし合う。1944年時では西沢は女言葉は余り使わず、男言葉を使うほうが多い。それは坂本美緒らと共に戦ったかもしれない。今回は初対面なので語尾に気をつけたのだ。甲児は持ち前の社交性で西沢ともすぐに打ち解け、二時間後にはタメ口で会話するまでになった。ストライカーユニット「烈風」も運び込まれ、整備を受けていく。そして自身が魔王の異名で呼ばれている事を恥ずかしながらに告げる。すると甲児はすぐに西沢がこの世界でかつて同様の異名で畏れられた大日本帝国海軍撃墜王にして、台南空の雄「西沢広義」中尉に当たる事に気づいた。

「ラバウルの魔王か……とてもそんな風に見えないけどな」
「あたしは`リバウ`だけどな。で、そっちのあたしはどんな最期だったんだ……?」

西沢の声のトーンが真剣なものになる。彼女はやはり気になっていたのだ。「並行時空」の自分の最期を。同期の連中らの内何人かが戦死した現状の解明、そしてグレートと共に奥州に向かう中で見た夢。飛行服を身につけた一人の男が自分に何かを語りかけている夢。その事が心に引っかかっていたのだ。そして甲児は知っていた。無敵を謳われた彼の無念の最期を。



―言うべきか、言わざるべきか。

甲児は告げた。乙女には残酷かもしれない事実。西沢が男として生まれた場合に辿ったであろう運命。太平洋戦争末期、大日本帝国海軍航空隊の斜陽が目に見えて現れた1944年10月に神風特別攻撃隊の直掩任務を終え、零式輸送機で帰投途中のところを敵機に襲われて戦死したという歴史的事実を。西沢は悔しそうに拳を握りしめ、目には涙さえ浮かべた。それもそう。空戦の末の戦死ではなく、輸送機搭乗中に輸送機ごと撃墜された不運。名誉の戦死とは言えない呆気無い最期。

「そうだ、カンノは、カンノはどうなったんだ!?アイツは生き残れたよね……?」
「……」
「そんな……!?」

首を横に振る甲児に西沢は愕然とした。その管野という言葉に甲児はすぐに答えた。誰であるか「知っていた」からだ。西沢義子が可愛がる管野直枝の並行時空の姿「管野直」大尉は海軍最後の`まとも`な部隊「第343海軍航空隊」の「戦闘301飛行隊`新選組`」隊長として、海軍最後の撃墜王として、奮戦するも、日本がポツダム宣言を受諾する二週間前にMIA(戦闘中行方不明)となり、戦死判定。22世紀現在でもその行方は不明のままなのだと告げる。

「太平洋戦争末期は平均練度が逆転し、零戦は陳腐化していた。海軍は辛うじて紫電改で対応できる状態だったんだ。いくら菅野大尉と言っても100倍以上の敵機や整備不良には勝てなかったんだよ……」
「零式が陳腐化……整備不良はしょうがないとしても…………くそっ!!」

西沢は改めて登場時は無敵を誇った零式艦上戦闘機の悲劇とも言える凋落の末路に悔しさを滲ませる。それは自分たちの世界でのストライカーユニットの場合の零式にも当てはまる。マイナーチェンジを重ねた所で、進化したネウロイには勝てない。海軍内には零式を捨てて、次世代機の紫電系列などに機種転換を始めたウィッチも多い。だが、ベテラン勢の中には零式にこだわり続ける者が多い。501で戦っている坂本美緒がその最たる例。彼女は空戦フラップを使わなくては`零式並みの旋回半径が得られない`機動性の悪化を理由に紫電の使用を拒んでいる。師である北郷章香大佐の説得が続いているが、自身が開発に関わった零式に絶対の自信を持っているのである。彼女は`魔導エンジンを載せ替えればまだまだいける`とまで豪語する。だが、それは史実の零式艦上戦闘機のマイナーチェンジの数々の失敗が否定していた。


『零式艦上戦闘機五二型両などの再末期の零戦は重量増加に栄エンジンが対応できずに本来の飛行特性を損なわせてしまった』ように、零式は栄エンジンとのベストマッチングを前提に造られているので、一気に大馬力エンジンを載せようとしても無理なのだ。辛うじて載せれたエンジンで比較的大馬力の金星に換装した五四型が精一杯。(金星は設計段階で搭載が検討されていたのでOKだが、それでも580キロが限界)

扶桑の上層部が金星を載せた時点で見切りをつけたのもそのせいであった。軍の関心は根本的な次世代機(戦闘機・ストライカーユニット含め)に移りつつある今、開戦時の開発年度である零式にこだわり続ける者たちの悲哀は際立たっていた。

(坂本のやつにあったら機種転換を薦めるしか無いよな……カンノや醇子に協力してもらうしかないか……)

西沢は零式にこだわり続ける坂本が大日本帝国海軍航空隊の末路のようになるのを恐れ、戦友や妹分に連絡を取り、「坂本の機種転換作戦」を実行に移そうと考えを巡らせる。死んでほしくないのだ。かけがえのない親友であり、リバウの三羽烏として靴を並べた坂本には。それは「大田」を失った西沢の偽りなき本心であった。

「鉄也さん、次元間電話ってどこにあるんだ?」
「基地の西側の塔に何台か置いてある。今なら使えるはずだ」
「ありがとう!」

西沢は連絡をとるために走る。坂本へ太田が戦死したことを伝えるため。そして……。

















時空管理局は地球連邦政府のある意味`寛容`な外交に胸をなでおろす思いだった。
新暦60年代後半現在、地球連邦政府との国交は極めて友好に進んでいた。はやての調査もあって、地球連邦政府が広大な版図を持つ一大星間国家であることが判明した今、友好交流を行なったほうが管理局としても、賢明であった。地球に対し、一部の強硬論者たちの言う「管理世界への編入」を強引に行おうとすれば`神の力`を持つスーパーロボットなどを出撃させ、管理局の艦隊戦力を「赤子の手を捻る」ように、一捻りにしてしまう事は容易に想像できる。初等教育を受けている子供でも想像できる事だ。更にお互いの艦艇の性能に差があること(次期主力として設計中のXV級でさえも、向こうの巡洋艦と渡り合えるかどうかなほど)の事実は当時の管理局主流派の首魁「レジアス・ゲイズ」中将をして「地球連邦政府と事を構えるな」と言わしめた。彼は若手将校や右派の暴走を恐れ、連邦政府の持つ武力が如何に恐るべきものか説いた。これには八神はやてがもたらしたアンドロメダ改級「しゅんらん」、「バトル級」などの情報が役に立った。

新11番惑星(かつて旧・第13番惑星であった`雷王星`よりも更に遠い軌道を回っていたので、かつての戦いで小型ブラックホール化した戦艦「エクセリヲン」の成れの果ての吸い込みから、運良く難を逃れた惑星。2197年に発見された)付近で、51cmショックカノンで白色彗星帝国の残党軍を狩っていくしゅんらん、人型へトランスフォームし、はぐれゼントラーディ軍の艦艇に「ダイダロスアタック」をぶちかます「バトル13」……これら超弩級戦艦群の戦闘の映像ははやてが惑星「エデン」で調査に当たっていた時にイサム・ダイソンが見せた記録映像のコピーである。これらは地球連邦政府の軍事力の巨大さを否応無しに管理局の提督らに思い知らせた。

「なんと……これがあの世界の宇宙戦艦なのか……」
「あのしゅんらんとやらはまだ`常識的`だが……この`マクロス`とやらは……非常識にすぎる`……人型へ変形して格闘戦を行なうなどと……」
「しかもあの巨大さはq級とみて間違いないだろう……あれが来られたらL級など束になろうと鎧袖一触だろう。XV級が竣工しようとも結果は変わらんなこりゃ」

当時の時空管理局の本局所属の提督らは経験豊富なベテラン勢が大半であったので、地球連邦政府や連合軍との外交は慎重論・融和論などが議論の大勢を占めていた。だが、次第に提督の若手への世代交代が進むに連れ、あまりにも進歩してしまった地球連邦政府の軍備を恐れる余りに「強引な国土制圧も辞さぬ」との危ない方向の強硬論が強さを帯びていく。(これは日露戦争、第一次世界大戦の経験者が少なくなった太平洋戦争開戦時の日本軍に似ている)これを抑えるために時空管理局の上層部達はそれら強硬論者たちを事実で圧倒するため、これ以後、地球連邦政府との交流を軍・民間問わず推し進めていく。後になのはたちもその融和の一翼を担う事になるが、それは後々の話である。








 
−この日、なのはとスバルは大詰めを迎えつつあるこの戦争の事をアムロ・レイやドラえもんらと共に語らっていた。

「アムロ大尉、この戦争はどうして始まったんですか?」
「ああ。それはドラえもん君も言っているとおり、鉄人兵団の本星`メカトピア`は平和な星だった。数年前に軍部の強硬論者達がクーデターで実権を握る前はね」
「ええ。メカトピアは平等社会思想が普及していてロボットたちは自由な暮らしを享受していた。だけど、次第に労働ロボットたちの人口が少なくなっていって、労働人口が減っていったんだ」
「当時の政府は近隣の惑星からの労働力受け入れを模索していたが、メカトピア至上主義に染まった軍部のある将軍がクーデターで政権を奪取。それ以後は兵団を派遣して軍事的に屈服させた上で強制的に労働力を搾取するようになった。その矛先が地球連邦に向けられたわけだよ」

ドラえもんとアムロが先にこの戦争の背景を説明する。連邦が掴んでいる限りの範囲内での。ドラえもんはこの戦争は本来、自分達の時代に起るはずの戦いで、その時は背景も異なっており、「自由民権運動が実ったために労働人口が一気に減り、その解消のために地球の人間を奴隷にしようとした」が戦いが起った背景にあったと付け加える。

「えっ!?それって……?」
「僕達が戦って歴史の流れをいい方向に変えたんだが、結局は形を変えて、同じようなことが起こったのさ。運命の皮肉とも言えるね……」

ため息混じりでドラえもんが言う。それはタイムトラベルモノのSFでよく起こるとされる現象。どこかで流れを変えても同じようなことが形を変えて起こりえる事。「兵団の侵攻」は時をおいて、「軍部のクーデター」という形で実現してしまった。流れを変えた世界における戦争の大義は理由は同じにしろ、 形を多少変えて実現してしまった戦い。今回はドラえもん達個人だけの問題ではない。銀河全体に版図を広げた地球連邦政府そのものの問題なのだ。
それに加えて、暗躍するナチス・ドイツ(第3帝国)残党の存在。


「ナチス……アドルフ・ヒトラーが作った狂気の残光……まだこの時代にいるなんて」
「彼等は自分たちを`神に愛されし者`と称している。第三帝国が滅んでもその野望は消えなかった。そして1970年代から80年代半ばまでに下部組織を使って世界制覇を目論んだ。それが仮面ライダー1号から仮面ライダーZXまでの10人を生み出した組織。アマゾンライダーとスーパー1に関しては違うと思われたが、生み出されることは計算の内だったようだ」
「でも、聞いた話だとアマゾンさん……アマゾンライダーは古代インカ帝国のロストテクノロジーの結晶ですし、スーパー1は国連の計画で生み出されたはずですよ?それもバダンの計算の内なんですか?」
「ああ。前にZX……村雨良さんが俺に話してくれたんだが、歴代のライダー達は彼のボディを生み出すための試行錯誤で創りだされたらしい」
「じゃあ歴代の仮面ライダー達は……?」
「全てZXの試作品ということになる。歴代組織が裏切られることも承知で仮面ライダー型の改造人間を造りだしていったのは全てはZXへの布石だ。V3もXもスーパー1もね」
「全部のお膳立ては整ってたわけよ。ふざけてるわね、全く」

美琴もそういった思惑で歴代仮面ライダー達が改造されていった事に憤る。彼女はそういうことにはだまっていられない性分なのだ。
なのはも美琴の気持ちはわかる。拳を握る力をわずかながらに強める。

「バダンは大首領のために動いている。人類の争いを誘発させてきた神にも等しい存在のために」
「それで、そのふざけた奴の名前は何です?大尉」

美琴の問いにアムロは答える。古代では邪馬台国、インカ帝国、近代ではアドルフ・ヒトラーすら裏で駒として操っていた一人の`神`と言える存在の名を。

「`JUDO`。少なくとも彼等はそう呼んでいる」

JUDO(ジュド)……』

アムロの言葉を部屋にいた全員が反復する。だが、それは彼が人類を恐れさせるために名乗った名であり、
古代の邪馬台国ではこう呼ばれていた。『スサノオノミコト』。彼が邪馬台国(古代日本)に造らせた日本神話ではそう呼ばれていた。ナチス・ドイツの生き残りであるはずのバダンがアジアの辺境の弧状列島に過ぎないはずの日本を『聖地』として扱う理由はここにあった。この事実は日本が人類にとって選ばれし地である事を示している。
なのは達にとって、これはこれまでの歴史観念を根底から覆しかねないほどの衝撃であった。





−地球連邦空軍内でとりわけ最新鋭かつ、優秀な装備を揃え、練度の点でも最精鋭と言われるのは本土でも数は多くなかったが、欧州戦線の空を防空の側面で支えていたのが日本系の部隊「地球連邦軍 飛行第224戦隊」と「飛行第50戦隊」であった。彼等は栄光の大日本帝国陸軍飛行戦隊の伝統を受けつぐ事を誇りとし、そう自負する男たち。装備は最新鋭機で固められ、VFは「VF−25」及び「VF−19A」、モビルスーツも汎用機は特務用の「`RGM−89S`スタークジェガン」と「`RGM−122`ジャベリン」、可変機は「ZプラスD型・C4型」を装備する文字通りの本土防空の要の一つを担っている。飛行第50戦隊はVFやウェイブライダーの垂直尾翼後端から主翼付根に至るまでに稲妻(電光)を、224戦隊は244を図案化したものを部隊マークとして描いていた。これは扶桑出身のウィッチ達に大変好評であった(扶桑にも同様の飛行戦隊があるために親近感が湧く)。

「へえ……まさか未来でこのマークを見るなんてね」

506に所属しており、現在は先輩である黒江や智子らにある意味`こき使われている`黒田那佳中尉。彼女は黒江達の連絡を受けて欧州戦線へ馳せ参じたのだ。

「おーっ、来たわね黒田」
「穴拭先輩」

連合軍の零式輸送機(連邦軍は度重なる戦乱で輸送機の数も減少しており、ミデア輸送機の数が足りないので連合軍から往年のレシプロ輸送機群を人員輸送目的で多数を借用していた)から降りて隊舎に向かう黒田を智子が出迎える。2人は現階級こそ同じだが、入隊年次の差で`先輩と後輩`になるので黒田は智子を先輩と呼んでいる。

「まさかここで陸軍飛行戦隊のマークを見るなんて思いませんでしたよ」
「まあね。あたしも驚いたわよ。陸軍の伝統って引き継がれてんのね」
「そうだ」
「戦隊長」

地球連邦軍「飛行第224戦隊」の隊長が2人に話しかけてくる。ちょうど愛機のZプラスの整備を手伝っていたらしく、軍服の袖は捲られている。彼の階級は中佐で、先祖も大日本帝国陸軍飛行第244飛行戦隊に所属していたと公言する文字通りの「大日本帝国陸軍軍人の末裔」だ。

「俺の部隊は俺の先祖達から引き継いだマークを使っている。それは全機に徹底させてあるが……どうだ、再現できてるか?」
「安心してください、バッチリですよ」
「そりゃ良かった。実物見てる貴官がいうなら間違いないな」

彼は帝国陸軍飛行戦隊の搭乗員であった先祖が残していた1944年頃の白黒写真を元にマーキングや各種ノーズアートの再現を試みていた。それは彼が白色彗星帝国との本土決戦で生き残った後に、防空戦闘で戦死した先代から隊長の座を引き継いで、佐官へ特進した後に本格的に実行した。幸い、部隊の部下たちの中にも「自らの先祖が大日本帝国陸軍飛行戦隊搭乗員、ないし海軍航空隊搭乗員であった」という出自を持つ者は多く、この戦隊長の提案を受け入れることに異議を唱える者はいなかった。だが、問題があった。当時の大日本帝国ではカラー写真はほとんどなく、白黒写真が多数を占めていた。増して22世紀末ともなると、当時のカラー写真が残っていないために、後世でのプラモデルや伝承で言い伝えられている想像図でしか塗装に使うペンキの色などを推し量れなかった。なので、その想像図を基に描いてみたもの、些かの不安は拭えなかった。だが、ウィッチ達との共同戦線は彼等にとって渡りに船。ウィッチ達に監修を頼み、より正確なモノにしてもらった。(ウィッチ達は実物を見ているため)彼等のこの行為は軍当局にも士気高揚を目的に公認され、2200年現在では旧・日本国系部隊全体の文化となっていた。

「ところで戦隊長、状況はどうですか」
「ああ。例の新型飛行ユニットが配備されてからは敵も積極的に動いている。スイス付近の部隊は敗北し、撤退を余儀なくされた。練度は高かったんだが……如何せん3世代前のモビルスーツとVFじゃな……」

彼曰く、連邦陸軍のスイス方面隊は旧式の装備が多数残存している有様であり、宇宙軍と対立する陸軍の縮図と言える構図だった。モビルスーツは比較的新式に属する物さえ、グリプス戦役時に運用された旧エゥーゴ時代の「`MSA−003`ネモ」が精々で、中には一年戦争直後の「`RGM−79C`ジム改」も運用を続けられていた。VFも第二世代機の「VF−4ライトニングV」(しかもVF-5000 スターミラージュの配備前の生産ロット機)が多かったという。敵がサンダーボルト級のスピードを手に入れた以上、敵の制空権確保が今までより遥かに楽になった反面、こちら側にとっては手ごわくなったという事実の出現と、VFの第一世代や第二世代機は近代化を徹底して行なければ伍する事は難しくなったという事の現れであった。性能云々で戦いが決するわけではないが、圧倒的物量とそこそこの質が伴う軍隊ほど恐ろしいものはない。それは一年戦争時に地球連邦軍そのものが通った道である。

「今までの敵と思うと痛い目に遭うぞ。気を引き締めてかかれ」
「分かりました」
「それじゃ俺は部隊に戻る。色々と大変なんでね」

戦隊長はそう言って2人と別れる。

「あの戦隊は部隊の出自が近衛飛行隊の飛行第224戦隊だっていうけど……連邦にもいるのね。日本の伝統を受け継ぐ部隊が」
「ええ。日本の航空隊は基本的に21世紀頃の航空自衛隊では無く、帝国陸海軍の伝統を継いでるらしいですしね。`343`とか結構ありますよ」
「へえ……一時はタブー視されてたって割にはねぇ」
「まあ時代が変われば考え方も変わりますから」

黒田の言う通り、地球連邦にとって日本は`帝都`である。そのため地球連邦時代の日本国内航空部隊では
航空自衛隊当時の気風と帝国陸海軍時代の伝統がそれぞれ混じり合う状態となっていた。(これは海上自衛隊から再編された海軍にもいえ、全面的に帝国海軍時代の伝統が復古されたため、飲酒がある程度容認された)
そのため系統的には今の地球連邦軍`帝都防空`飛行隊は帝国陸海軍航空隊の直接的な末裔であった。これは地球連邦成立に至るまでの過去の幾つかの戦争の結果であった。某国により本土が爆撃され、戦争の現実が突きつけられると、
旧・日本国内で主に左派が唱えていた「非武装を目指す」という考えの非現実さを知った日本国民は結果的にしろ、
戦後初めて戦争の現実を直視した。そして軍備縮小は他国の侵略に対し、自らを無力化させるだけという事を認識し、自衛隊の増強を認めた。
その過程で日本国内で軍備縮小、あるいは非武装を唱える平和団体や政治家一派は急激に求心力を失い、代わりに「守るためには力を持たればならない」という考えが若者中心に広がり、革新政党等によって縮小傾向にあった(当時は自分達がわざわざ武器を持たなくとも、`学園都市が日本を守ってくれるだろう`という甘い考えを持った政党が与党であったため、自衛隊は旧型装備の整理を名目に縮小されていた。学園都市から日本を守る義務はないと政府に通達され、
それを意図的に学園都市がマッチポンプとして、日本国民へ広げた。

そして「一度も憲法改正がなされていなかったことが国家の悲劇に繋がるのは大東亜戦争(太平洋戦争)で懲りているはずだ」と、
若者達の声が老人たちを押し黙らせ、日本人の異常な「軍アレルギー」は戦後100年近く経った時代にようやく解消されたわけである。

無論、その政党は戦争勃発という有事に無力であり、戦時状態に入るとすぐに、かつての与党であった保守政党が返り咲き、彼等に取って代わった)自衛隊は米軍が財政難で縮小されるのに呼応するかのように、自衛軍、次いで国防軍へ改組されていき、自衛隊が国防に必要な「最低限度」にも達していなかったという日本国民の危機感もあって、日本国をそれまでと真逆の軍拡へひた走らせた。その課程で帝国陸海軍の伝統が復古したわけである。それは地球連邦軍となった現在でも変わらないのだ。地球連邦軍の日本系部隊が帝国陸海軍の航空部隊の名を受け継いでいるのがその現れであった。



「先輩は今日は非番なんですか?」
「それが訓練なのよ、VFのね」
「VF?黒江大尉はともかくも、先輩が?」
「これでも訓練課程は受講してんのよ。今はサンダーボルトを使ってるわ」
「まっ、先輩なら上手くやれますよ」
「気楽にいってくれちゃって……。ストライカーとVFは勝手が違うのよ。黒江の奴、よく動かせるわね」

智子は後々にVF−19へ乗るもの、この時期は余りの数の多さで訓練機に転用されたケースも多いサンダーボルトで訓練を受けていた。これはこれまでの幾つかの戦争で主に訓練機として用いられていた「VF-1X-plus」が流石に老朽化してきたためと、急激にVFの高速化が進展して、新鋭のVF−25や19などへの機種転換で余剰機が多数出た「VF−11」の再活用策でもあった。(経緯は今次大戦での戦線のとある部隊が機種転換の遅れを危惧し、基地の工廠で独自にサンダーボルトを「VF-1X-plus」の製造時に準じて、アビオニクス・エンジン・機体の素材などをVF−171以降の新式への換装を施して延命措置を施したのが始まり。それが上層部の耳に入り、老朽化したVF-1X-plusの後継機として正式に採用されたというもの)非公式に`VF−11X+plus`との形式が与えられた同機は軍による新規生産が始まり、旧型から新式への繋ぎや、後方での訓練機として活用されている。智子が訓練機として使用しているのは同仕様機である。

智子は更衣室で巫女装束と小具足姿に着替えて格納庫へ向かう。黒田は基地司令へ着任の挨拶を済ませる。

「ご苦労だった。今日はゆっくりと休みたまえ」
「ありがとうございます」

着任の挨拶を済ませると、窓を見てみる。防空のために`224`のマークが描かれた飛行第224戦隊と稲妻を描く飛行第50戦隊所属のZプラスC4型とD型が出撃し、その後に訓練機達の離陸が見られたが、
一機だけやけにヨレヨレと飛ぶ機体がある。おそらく智子だろう。ストライカーユニットを装備させれば『扶桑海の巴御前』と謳われるほどの飛行センスを見せる智子もジェット戦闘機、それもVFとなると勝手が違うようだ。
今頃、教官の叱責が飛んでいるだろう。智子のウィッチとしての武勇を考えてみると可笑しくもあり、同情したくもなる。

(黒江大尉はよくあんな複雑怪奇なもの動かせるわよね。陸軍航空審査部所属でもあって、機械好きだからかね)

黒田は黒江がいくら短期間に実戦経験を積んだからといって、
いの一番にVF−19AやVF−25Fという超がつくほどのハイエンド機を乗りこなしたのはやはり生来の性分が関係しているかもしれないと結論づける。
智子のあのヨレヨレな飛行ぶりを見ているとそう思いたくなった。















−智子が訓練を行なっているのと同様に、なのはは気分転換も兼ねて、自身のパーソナルカラーとマークに塗装された「VF−19F`エクスカリバー」に乗り込んで偵察飛行に出ていた
。長機はハンナ・ルーデルのVF−25Sだ。

「ほう。貴官もコイツを動かせるとはな」
「これでも訓練受けてたんですよ。何かの役に立つと思って」

実はなのは、来てからそんなに間もない頃に連邦軍の士官学校に席を置き、授業を受講していた。その際にVFの操縦訓練を受けていたのだ。
これは`この`なのはの隠れた一面であるメカ好きな一面が作用した結果であった。








−なのはが来訪してから4週間ほどした地球連邦軍極東支部


ここでは、可変戦闘機(一般にはバルキリーの名で知られている)の飛行訓練が行われていた。
今日では連邦軍の代表的な兵器の一つに上り詰めた兵器である感が強い。編隊の多くはこの時点では機種変更途上であるが、主力機である
「VF−11 サンダーボルト」で構成されているが、その中で異彩を放つ機体が飛んでいる。前進翼が特徴的な新型`バルキリー`「VF―19F  エクスカリバー」。

主力機として配備が進められている新鋭機である。その内の白を基調とした塗装がなされた一機になのはは乗り込んでいた。彼女は連邦軍への入隊(この世界で暮らす為の大義名分だったが、軍隊である以上、実戦に駆り出されることもありえる)魔道士としての訓練に明け暮れていた。魔道士としての才能はピカイチだったせいか、地球において考えだされた空中戦闘機動を一通りこなせる(彼女は独学で磨いていたが、人型で空戦が可能な兵器が存在するこの世界ではそういう研究が進んでいた。それを身につけるために軍の訓練に参加するようになった。さらになのはは近代的空戦の感覚を養うために、たまたま地球に立ち寄っていた、ある可変戦闘機部門におけるエースパイロットに誘われる形で、可変戦闘機での空戦訓練に参加したのだ。


所属部隊の関係もあり、訓練用の機体はすぐ実戦に耐えられるようになるため(宇宙では彼女たち魔道士は戦えない。そこで軍が考えたのがこれである)にVF−11が宛がわれた。さすがに戦闘機を用いた空戦の訓練はかってが違い、過酷だったが、修理を終えたレイジングハートの間接的な補助と彼女自身の多大な努力(天性の才能があった魔法と違って、兵器を動かすにはすべてを一から学ばなくてはならない)訓練開始から3ヶ月かけてVF−11を一応は使いこなすだけの腕は身につけた。訓練で身につけた空戦センスは自身の元々の分野である`空戦魔道士`でも生かせられるためにこの訓練は有意義な物だった。
その訓練の模様は以下の通りである。

 












「全員注目ッ!!今回は模擬空中戦を行う。ガンポッドはペイント弾を使用。ファストパックは使用可である。時間は30分とするが、それまでに撃墜されれば負けと見なす。なお搭乗機体はVF−11とする…以上だ」
担当将校の説明が終わると、パイロットは一目散に愛機のもとへと向かう。戦闘機を題材とする映画などでよく見る光景である。その中に彼女は混ざっていた。
この日の訓練において、格納庫に駐機されている専用カラーリングが施された(白を基調としているが、翼に入っている線の色がBJと同じになっている)VF−11に乗り込み、エンジンを起動させ、計器類をチェックする。






―VF−11(なのは機)コックピット

「各部異常なし…熱核タービンエンジンも良好…。武装、安全装置解除」
計器やエンジンに全て異常が無い事を確認すると、滑走路へのランディングに入る。

「スターズ、発進準備よろしいか?」
管制塔からの通信が入る。管理局にいた頃とはやってる事は180度違うのだが、慣れと言うものは恐ろしい。
映画でト○・クルーズなどがやっていた事を自分がやることになるとはと、ため息をつく。ちなみに彼女は戦闘機での訓練の際のコールサインを`スターズ`としており、
このコールサインは奇しくも後々の出来事と一致していた。

「こちらスターズ、発進準備良し」
「スターズ、発進を許可する。貴機の幸運を祈る」
「了解。テイフオフ…!」

なのははスロットルレバーを最大にまで押し、最大加速をかける。轟音と共にVF−11のエンジンが唸りをあげて機体を真夏の蒼穹の空に押し上げていく。
彼女にとってはいつもとは違う形で飛ぶ青空である。体にGの重圧がかかるが、澄み切った青空が目の前に広がっていくこの状況ではむしろ心地よく感じられる。
あっという間に高度5000mにまで上昇するとひとまず水平飛行に移るが、レーダーに敵機を捕らえる。


「敵の高度は4000m……行くよレイジングハート」

`All right`

彼女はパイロットスーツは着ておらず、不足の事態に備えてバリアジャケットで訓練に望んでいた。(ただし相棒のレイジングハートは待機状態のまま、彼女を補助していた。この格好は当然、他の軍人たちは一様に難色を示したが、担当将校が防護服と説明するとどうにか収まった。)
自分はあくまで魔道士であるとの気持ちを示すため、そして……。

彼女は下方にいる標的に向けて急降下、大昔のアメリカ軍よろしく、奇襲からの一撃離脱を猛スピードでかけた。

奇襲をかけられた相手方は即座に戦闘態勢を取り、なのは達を待ち受ける。

「おっと、たぶん25歳になっても魔法少女なんて言ってるような馬鹿のお出ましだ」

…と、嫌味な事をわざと無線を開放してかけると戦闘体制に入った。無論、`19歳〜の下りは彼が考えたことだが
、事実、そうなるはずなのであながち間違ってもいない。これにはカチンと来たらしく、未来で言うはずの台詞を8年近くも早く先取りして吐いた。

「……ッ!そこのあなた、少し……頭を冷やそうか?」
「やなこったい!19歳になってもぺチャパイなのが目に見えるテメエには言われたくないな。少しはフェイトちゃんを見習えよ。ガキンチョ」
「おいコラァ!!どういう意味ぃそれ〜!」

すっかり堪忍袋の緒がぶち切れたせいか、怒りに火をついたなのはは、サンダーボルトのガンポッドを乱射しつつ、敵機とドックファイトに入る。

機体を回転させる機動で相手の射撃を回避する。決して戦闘機乗りとしてのセオリー通りには行動しないなのはは正規の軍人たちには『面白く』見えるようで、入れ替わり立ち替わりで戦っていた。しかし攻撃を当てられていない。
ミサイルのロックを外す機動などは一級のもので、軍人たちをして舌を巻くほどに鋭い。

そのドックファイトの様子を地上で見つめる一人の男がいた。「ロイ・フォッカー」。
基地を訪れていた「最高の可変戦闘機乗り」の名をほしいままにしているパイロットで、階級は少佐。史実ではゼントラーディなどとの星間戦争の際に戦死しているが、この時空では生き残り、存命している。そのため彼は次世代機に乗れたわけである。


「あのVF−11、一見するとメチャメチャだが、いい動きをしてるな。誰が乗っている?」
「ハッ、訓練生のタカマチ・ナノハです」
「フム。例の`魔法少女`か。VF−1Sをいつでも発進できるようにスタンバイさせておけ。ちょっと俺も混じりたくなった」
「し、少佐自ら?しかしVF−1では性能差がありますが…?」
「バーロー!戦争ってもんは機体の性能で決まるもんじゃねえ。パイロットの腕だ。赤い彗星だってそう吹いてたろうが。さて‘魔法少女‘さんとやらの実力を確かめてくるとするか」
フォッカーはなのはの空戦に刺激されたのか、好奇心なのか、自ら模擬戦に参加する意志を見せ、出撃した。



「スカルリーダーよりそこの機へ。こいつの相手は俺がする。お前は別の相手とやってろ」
通信を入れるフォッカー。なのはと戦っていた機はフォッカーにその場を任せ、離脱する。
「了解。気をつけな。教官が来るぜ」
との忠告の一言を残して。
なのはもこの一言の意味を悟ったようで緊張が漲る。
「き、教官って…まさか」
震えるような声を発し、背筋が凍るような感覚を覚える。

―そして。視界に一機の可変戦闘機が現れる。それはこの時点では二世代ほど前の旧式機になっているはずの「VF−1 バルキリー」だった。

「し、初代バルキリー!? でもどこの……えっ!?あのパーソナルマークはまさか……!??」

その通りだった。VF−1の垂直尾翼とファストパックに描かれている骸骨のマークこそ、かつてのアメリカ海軍より引き継がれし伝統あるマークであり、
現時点では連邦宇宙軍の‘誉‘と謳われる部隊の物である。


「その通りだ」
と、フォッカーから通信が入る。旧型に乗っているというのに余裕綽々である。
「お嬢ちゃん、俺に一発でも当てられたらこの模擬戦を合格にしてやろう」
「一発でいいんですか?」
「そうだ。ただし30分間持ちこたえたうえでだがな。さて、実力を見せてもらおうか」
「それじゃこちらから行きます!」

ファイター形態でフォッカーを潰しにかかった。魔道士として培った空戦機動を活用すれば、いかに最高のエースと言われる彼であろうと対処は難しいと踏んだのだろう。しかしここは歴戦のパイロットである、フォッカーの技量勝ちだった。翼のフラップを用いた巧みな操作で機体をガンボッドの射線からずらす。この戦法は大昔の大日本帝国の航空隊の熟練パイロットが零式艦上戦闘機(俗に言うゼロ戦)で用いた物で、一定以上の技量と自信がなければ実行できないが、それを可能としているのは彼の類まれな技術と経験による物である。

「そんな攻撃、かすりもせんぞ!」

鼻歌混ざりの声が聞こえる。一見するとふざけている様だが、これも彼一流の鼓舞でもあり、後輩想いな一面を持つ彼ならではの工夫だ。

「くううっ!!」

なのはは空戦魔導士であり、事が流れどおりに運んだのなら、そう遠くない内に‘エースオブエース‘と呼ばれるはずの逸材である。その闘争心が疼いたのか、エンジンのスロットルを全開にし、急激な加速によるGになんとか耐えて自分なりの空戦機動を持ってして‘最高のエースパイロット‘を相手取った。

(性能的にはVF−1の次々世代機のこっちに優位があるはず…。なのに旧型機であんな凄い事が出来るなんて…私もあんな風になれれば……)

フォッカーに憧れを抱きつつも、なんとか攻撃を当てようと奮闘する。時間差と高度差を利用した攻撃をかける。伊達に管理局のエースで無いというわけだ。

「ブライト艦長も一クセのある奴を拾ったな。久しぶりに面白くなってきた。後で‘アレ‘を手配してやるか」

フォッカーは口ごちつつもVF−1の性能を最大限に引き出して‘インメルマンターン、‘バレルロール‘、さらには上級の‘コブラ‘など、あらうる空戦機動を駆使して攻撃を回避する。無論反撃も忘れていない。ガンボッドを無駄なく連射して圧する。
そしてついに彼がなのはの機動を読み始め、弾道が次第になのはの機体を捕らえる。

「……行くよレイジングハート」
‘All right.‘

待機状態のレイジングハート・エクセリオンが主の声に応える。なのはの‘相棒‘として実戦を経験してきたこのデバイスは現在でもしっかりとサポートを怠ってはいない。
‘In 30-degree right, it is an enemy. ‘
「くっ…さすがに早い!!」

デバイスによるサポート付きとはいえ、経験も腕も上なフォッカーが相手では不利であった。
いや、技量差を鑑みれば、よく敢闘しているといって良いだろう。空戦機動も目を見張るものもある。

(ハァ……ハァ…)

空戦の時間はたった30分にも満たない。しかし彼女にはもう1時間以上も長く戦っているような感覚さえ感じていた。
極限状態に追い込まれると時間がゆっくりに感じるというが、彼女は正にその状況に陥った。必死にミサイルのロックアラートを示す電子音から逃れようとする。彼女は初めて戦闘機乗りとしての恐怖を味わっていた。
こうする間にも時間は流れ、残り4分にまで持ち込んだ所で彼女の命運も尽きた。

‘Attack forward, and evasion!‘

レイジングハートから警告を受けるが、とっさの判断が遅れてしまった。
「えっ……!?これじゃ回避が…っ!」

相棒からの警告にハッとなり、操縦桿を動かすも、この距離では別形態に変形して射線から逃れるほどの余裕は無かった。
瞬く間に模擬弾が命中し、ついに撃墜判定を示すペイントが機体に付く。

「……もうちょっとだったのになぁ……」

落ち付きを取り戻し、撃墜判定された事に落胆するも、なのははフォッカーから奮闘振りを称えられた。

「いや……なかなかよく頑張った。ところで、なのは……だったな?今回の戦はなかなか楽しめた。帰ったらあとでコーラでもおごってやる」
「あ、ありがとうございます!」

彼女は魔道士として培った空戦のノウハウがジェット戦闘機相手にも通用する事を喜んだ。この訓練以後はフォッカーの計らいで戦闘機での訓練の他にも空戦魔道士として参加できるようになったとか。



― 翌日 基地にて。

「高町なのは、入ります」


海軍式敬礼をして駐屯地の司令に入ると司令官の前に立つ。

「うむ。今日は君にいい知らせが来ていると言っておこう」
「何でしょうか?」
「君は本日から新鋭のVF−19F「エクスカリバー」への搭乗が許されることになった。さっそくだが機種転換訓練を受けてもらう」
「ほ、本当ですか?でも……なんでそんな急に?」
率直な疑問をぶつける。その訳は司令官が話した。

「実は先日の模擬戦での君の訓練結果を少佐が高く評価してくれてな。あの後すぐに上層部に直接掛け合ったそうだ。
それで手配が即日中になされ、今朝、新星インダストリー社から直接、機体が届いたばかりだ」
「ありがとうございます。少佐にもよろしくお伝えください」

「うむ。これからも訓練に励んでくれたまえ。それともう一つある。君とフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは魔法を使っての訓練参加が許された。
明日から君等の腕前、とくと拝見させてもらう」
「はいっ!」














…と、言う訳である。VF−19に乗り換えというのは腕がいいということを示すとして、エースへの近道とされる。飛行時間の短いなのはが乗り換えられたのは
フォッカーの計らいによるものであるが、VF乗り達にとってAVFを与えられるという事はモビルスーツで言えばZ系が与えられるのと同義である。なのははそのためか、
ちょっとだけ嬉しそうだった。



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