短編『とある学園都市の超電磁砲と正義の男』
(ドラえもん×多重クロス)

パート1


――御坂美琴は帰還後、自らのエゴかもしれないが、自分と腐れ縁の上条当麻の未来を変える事が行動指針となり、`上条当麻`や自らの運命を変えるために奔走していた。それは未来世界で戦って味わった出来事や見てきた事が美琴に影響を与えていた。学園都市の体育祭である、大覇星祭を経て、より大きくなり「恋心」へ昇華していた。

――未来は変えられる……どんなに相手がでかくても人は運命に抗って、未来を勝ちとって来たんだから……あたしだって運命を変えて見せる……!

これは未来世界で素人目に見ても敗北は必至であるように思えてしまうような戦争に打ち勝って人類が未来を掴みとるということがこれから150年以内に起こる確固たる歴史として存在――美琴の時代からは一年戦争などは150年以内の未来に当たる――するのを知った上での美琴の独白である。

「……」

ある日を境に、どことなく物憂いな雰囲気を見せるようになった御坂美琴の様子は常盤台中学でももっぱらの噂であった。色々な噂が飛び交っていたもの、実際のところは先程の通りである。

「どうしたんです、御坂さん。この前、ちょっといなくなってからずっとあんな調子なんですか?」
「ええ。まあそうなんですの」

白井黒子は友人の一人の佐天涙子(さてんるいこ)からの問いをはぐらかして答えた。黒子もまた未来世界で自らの遠い子孫の代の人間たちが戦いの中で掴みとってきたモノや`起こしてきた奇跡`の一端を垣間見てきた。特に黒子が印象に残ったのは第二次ネオ・ジオン戦争の最後にアムロ・レイがνガンダムに組み込まれたサイコフレームで起こした隕石の押し返し。

『分かってるよ……だから世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!!』

――彼は無茶としか言いようの無いことをやってのけた。たった一機のモビルスーツであんな隕石を押し返した。お姉さまがあの方に対して尊敬の念を抱いているのはあの類人猿―上条さん―を思わせるからでしょうか?

美琴達は何ヶ月も未来世界で過ごしたが、タイムマシンによって`3時間`しか出かけていない事になっていた。なので周りには美琴の急激な変化に驚き、戸惑う人間も多かった。佐天涙子はその最たる例だ。そんな中でも白井黒子は未来世界でも行動を共にしたので、美琴の変化をうすうすと感づいていたが、敢えて言わないでいた。相棒としては不本意ではあるが、こういうのは上条当麻の役目であるのは分かっていたからだ。なので黒子の上条への接し方にも多少の変化が生じたとか。
黒子はそんなことを思いながら佐天涙子との会話に久しぶりの平穏を見出したのか、美琴の代わりに佐天との雑談に興じた。






――あたしは学園都市の闇と`アイツ`にまつわるこれからの運命を何もかも知ってしまった。何もかも。仮面ライダーV3が教えた事が事実なら、今年の秋にはロシアが学園都市に戦争を挑む。そこでアイツは重要な立ち位置にいる。そしてあのシスターっ子はあたしたちの知る世界とは別の裏の世界―信じがたいが魔術師というのが存在しているらしい―で重要な役割か何かを背負わされているらしい。

――あいつはあの子を守るために今でも体を張ってるはず……記憶が正しければ神の右席とかいう化物みたいな奴の第一陣が近いうちに来る……そんなに時間無いはず。急がないと!!


「黒子、ちょっとでかけてくるわよ」

「いってらっしゃいまし」

美琴は上条の事が気ががりでしょうがなかった。大覇星祭も終わり、そろそろイタリアからは返ってきている。明日なら会えるはずで、罰ゲームも実行出来るだろうが、それは置いといて。これから大きいことが起こるなど、彼も思ってはいまい。それを教えたい衝動に狩られるが、上条のことだから敢えて渦中に飛び込むような無茶をするのは目に見えている。なまじっか、ああしてこれから起こるはずの未来を知ってしまうと、いざどうしたらいいのか分からなくなる。しかし確かなことがある。運命に抗えるのなら神に喧嘩売ってでも抗う。人間はそうやることで、未来を切り開いていった。過去も、今も、これからの未来も。



「あたしはアイツの行動を放っておけない。行く前の歴史みたいに実はアイツに守られてたなんてのは嫌だ。あたしだってアイツの力になってみせるっ!」



彼女は歩き出す。単なる守られる側から`共に戦う`立場へ。そして何よりも大事な人のために。未来で`人の革新`と言われた者たちが信じ、体現した奇跡を、自らの手で起こすために。たとえ学園都市や世界の闇がなんであろうが、それを受け止めて屈せずに抗えるだけの精神力を身につけた美琴にはもはや絶対能力進化の実権時に見せた心の弱さは無かった。――運命だろうが、宿命だろうが、変えられない物はない。自らの力で抗うだけ抗うという確固たる意志がいつの間にか彼と共に心に根づいていたのに美琴が気づくのはここからまだ後のことである。実際、御坂美琴が未来を変えおうとするきっかけとなったのは2199年のハワイで仮面ライダーV3達から聞かされた事実である。




『じ、じゃあ私のDNAマップを採集した理由は`将来的にレベル5になれる可能性があったから`……?』
『そういう事だ』

――V3やXライダー曰く、学園都市は何のために存在しているのかは2199年時点でも分からないが、歴史では能力開発を行う前からその生徒の素養が事前に分かっていながら大義名分を振るって能力者を作り続けたが故に学園都市は`天罰`を受けたようにOTM(オーバーテクノロジーマクロス)の台頭で地位を失墜したとか……。

美琴は学園都市が未来で衰退した理由や仮面ライダーXから聞かされた『素養格付け』の事を思い出す。彼によれば表沙汰にならなかったのは学園都市の存在意義、超能力を作る意味そのモノが根底から覆されてしまうからで、一部の権力者のみしかその存在を知らなかったというが……。

「暗部の連中も抗争とか色々合って組織の統廃合も進んだはず。問題は……そういう連中がいるっつう事ね」

これはスクールやアイテムなどと呼称がある複数の暗部に潜む組織の事を指す。`帰還直前`に彼女は暗部と関わった仮面ライダー達からあらかたの詳細は教えられている

――あの`実験`の際に交戦した高校生くらいの女は組織の一つのリーダー格で、`超能力者の第4位`麦野沈利`。その気になれば第3位の自分も倒せる――第〜位というのは能力の強さの序列とは限らない――ってのが研究者の談で、だけどそれほどのパワーを出せば能力を使う人間の肉体が持たない……か。

「だからあの時、あたしにスゴイ敵愾心を抱いてたわけか……。恐ろしい話ね」

美琴は以前交戦した能力者達が暗部の一角を担っていた組織の面々である事は`あの時`に知った。未来では学園都市関連の資料も大分失われたが、ドラえもんのひみつ道具「タイムテレビ」という便利なモノが残っていた。ドラえもんが持っていたモノもあるのでのび太やドラえもんに頼み込んで使わせてもらった。その時に見たのだ。自分や上条にこの先、何が起こるのか、を。


「……未来を知ったのは幸運だったのか不運だったかは分からないけど……とにかくやるしかないわね」

運命を好転させられるかという事態は自分に全てが掛かっていることを考えると胃が痛くなりそうなので今は単純にいかなければ。一番驚いたのは第一位の一方通行(アクセラレータ)が自分の`妹達`の最後の個体「打ち止め」の面倒をみている事だ。あの時は冷酷にも思えた一方通行にもどこかに人間としての情が残っていたと思うべきだろうか?それとも当麻がぶん殴ってくれたおかげで正気に戻った`のだろうか?それは分からない。
彼もまた学園都市に人生を翻弄された一人であることには変わらない。全てを変えられるほど自分は強くないが、アイツ、上条当麻−が願う幸せ位は守ってやりたい。あの時―絶対能力進化実験の時に上条がそうやったように。拳を握りしめて決意を新たにし、とりあえずコンビニに入って気分を落ち着かせようとコンビニに立ち寄る。


――コンビニに入ると見覚えのある人物がいた。両手に手袋をして大きくSのマークが入っている、70年代だか60年代的な、とんでもなくダサいシャツを着ている人物は。

「おっ、来たな。ビリビリ娘」

「って!何でアンタがここにいんの!?つーかこの時期は寝てるはずでしょーが!」

そう。その人物は仮面ライダーストロンガーこと、城茂であった。この時期は確かに活動していたが、学園都市には来ていないはずだが……彼女のことを知っているとすると、あの時間の彼だろうか。

「タイムマシンで来たんだよ。俺も色々と調べもんがあってな」

「でも同じ時間に2人いるって事にならない?SFとかで見るじゃない」

「その辺は気にしない」

「で、調べもんって?」

「ああ、この時代の学園都市からバダンの奴らに流れた技術もあんから、その出所を調べに来たんだよ」

彼が来た理由は学園都市をも己の目的のために利用したと思われるバダンの痕跡を調べるためという。有史以来人類を裏で操ってきたバダン大首領は学園都市さえも己の目的に利用したという。それで得られた技術が自分達仮面ライダーを始めとする「サイボーク」に使われた可能性があるとの事なので、ストロンガーが急遽来訪したのだ。

「ボディーチェックとかよく大丈夫だったわね?」

「大丈夫じゃねえよ。俺は手がコイルだから金属探知機に引っかかるんだよ……言い訳とか大変なんだぞ」

「そりゃあ大変」

ストロンガーは改造電気人間なので手が発電のためにコイル状である。飛行機などににのる際には他のライダー達と違って、手で金属探知機に引っかかる事が多い。(改造人間は皮膚などをナノマシンで生成しているので通常は引っかる事はないが、ストロンガーの場合は手がコイルなので引っかかる公算が強い。)

「まあ、どうにか言い訳をどうにか通して来たっうわけ。お前も頑張れよ」

「な、何で知ってんのよ」

「一文字さんからの事付だよ。結構心配性なんだよあの人」

美琴の事情は歴代の仮面ライダーに知られていたようだ。“一文字さん”とは、仮面ライダー二号=一文字隼人の事。一応、彼には帰った後のことを言っておいたのだが、そこから仮面ライダー達に広まったらしい。そうなると既にBLACKRXの南光太郎にまで伝わっていると考えたほうが自然だろう。2人はほしい物をとりあえず買って外に出る。

「んじゃまたな。また連絡するから」

「風紀委員とかに捕まらないでよ?」

「あ〜いよ」

城茂は駐車場にとめてある愛車のカブトローを吹かして走り去る。一見すると一昔前の暴走族の改造バイクにも見える風体。さらに物凄いスピードでかっ飛ばしていったので警備員や風紀委員に何か言われないだろうかと美琴にいらぬ心配を抱かせる。しかしこの間にも彼女にとっての運命の刻は刻々と近づいていた。




――でも、いざ、歴史変えようとしても、何かの要因で上手くいかないって何かの映画か、SF小説とかで見たわね……。どうしよう。

美琴は帰還に至る過程で上条当麻にまつわる全てを知った。そして彼に待ち構えている未来も。それを阻止、あるいは良い方向にねじ曲げるには当麻の行動を全て把握していなければならないが、不孝にも美琴は当麻の全ては知らない。偶然出会って、これまた偶然事件を解決してくれた。それだけだが、当麻の人間性は美琴はよく理解していた。そして自覚していた。――自分は上条当麻を心の支えにしている事を。


「あの馬鹿……今、どこで何してんのよ!!アタシにこんな事考えさせて〜〜!!覚えてなさいよ〜!!」

美琴は思わず絶叫するが、美琴とは別に、神裂火織も日本に来ていた。彼女も未来での戦いの折にヴァチカンの“人外”共の超絶的戦闘力を目の当たりにし、更には異世界の魔導師の存在を知った。そのため、自らの自信や戦闘力に対して不安も持った。そして表向きは「神の右席」に対する偵察だが、それは半分は本当だが、半分は方便。上条当麻への“借り”を返すために日本に来たと、いうよりは帰ってきた、というほうが正しいだろう。彼女も美琴同様に、上条当麻に振りかかる運命を変えたいという思いを抱いており、奇しくも美琴とは思惑が一致した形となった。

「上条当麻に振りかかるはずの未来を私は変えたい。誰に誰と言われろうが……。しかしここに既に地球連邦軍が潜り込んでいるとは思いもしなかった……」

――そう。この時期の学園都市にはテクノロジーの未来における復興や財産の回収を目的に、地球連邦宇宙軍や空軍の部隊がかなり送り込まれていたのだ。政府筋とコネクションがある神裂火織には同士討ちを避けるために、情報が伝達されていたのだ。しかも学園都市の、この時代の技術水準からはオーパーツにも相当する性能を持つ兵器に対抗するために、OTMてんこ盛りな超兵器がこれまた送り込まれているという。

――確か持ってきた最古の機体でもVF-4“ライトニングV”だとか。確かに学園都市の戦闘機は未来世界の技術水準から見ても一部は通用するスペックですからね。


神裂は学園都市がこの時代に運用していた戦闘機であるHsF-00の飛行性能などのスペックは22世紀終盤にOTMを導入して造られたVF-1をすら凌駕する面があることに若干の驚きを見せた。これはこの時代の学園都市の技術水準の高さを物語るが、その性能は非人道的な措置を行なった上で発揮されていることは判明している。そういった行き過ぎた面が将来の凋落の一因なのだろう。

「確か私と同時に科学側の……確か御坂美琴という子があの世界に来ていたとか。接触する必要がありそうですね……」

神裂火織は美琴の事を人から伝わり聞く形で
知った。科学側の能力者の中での発電系能力では最強の力を有する、と。それで上条当麻と関係を持っているという事を。既に美琴の顔は写真で見ている。前に何度か学園都市に潜入した時にも町中で見かけた事がある少女だ。何と言おうか意外な繋がりである。しかも上条当麻にまつわる繋がりというのは何かの縁なのか。神裂は美琴と接触しようとしたが、それより先に上条当麻と出会った。


「ん、神裂……?いつ日本に来たんだよ?」

「お久しぶりです。実はあなたに伝えなくてはならない事がありまして、それで日本に帰ってきたのです」

神裂火織は現在は英国在住であるが、元々は日本人なので、“帰ってきた”という表現を使った。続いて単刀直入に用件を伝える。聖人である自分でも勝てるかは分らないほどの力を持った集団が学園都市や“インデックス”、そして当麻を狙っている事を。

「……神の右席ぃ?」

「はい。神と対等……いえ、神を超えることを目的にしているローマ正教の集団です。正直なところ、私でも勝てるかは……」

――第13課の方がどう見ても強そうなのは気のせいだと思いますが……。

神の右席は魔術的、宗教的には神の右席は神や天使にも相当する強さを持つ。しかし第13課の面々はもはや“人の身でありながら吸血鬼と対等に渡り合える”などの人外へ到達している者が多い。ある意味では彼らのほうが肉体的には強いかもしれない。そのため、神裂自身も言っていてなんだが、どうにも心の中で彼らと比べてしまうためか、以前よりは神の右席に対する畏怖は薄れていた。


「ありがとうな。教えてくれて」

当麻は普段と何ら変わらぬ態度で笑ってみせた。それは神裂には却って心配であった。そう言っていつもボロボロになってくる。病院送りになったのも一度や二度ではないからだ。

――これでは“以前”の借りを返すどころか……。
去っていく当麻の後ろ姿を、神裂はただただ、見送る事しかできなかった上、本来の目的は達成できずじまいであった事に気づき、しばらくその場で「ど、どうする……!?」と呆然としたとか。













――さて、美琴と別れた仮面ライダーストロンガーこと、城茂は学園都市を疾駆していた。東京都の残り半分の地区を開発する形で生み出されたこの摩天楼を愛車のカブトローでひた走っていた。


「学園都市、か。確かこの時代が最盛期だったはずだ23世紀には権限も能力者の数も減っちまってるからな」

――23世紀在住である彼から見れば、この時期は栄華を極めている学園都市も未来には暗部の外部への露呈や、宇宙規模の戦乱の被害からか、この時期の影響力は失われている。それはどういうことなのか。21世紀のここからの10年後から22世紀の終盤までの100年以上の年月を冷凍睡眠で過ごしていた彼はその直接の経緯を知らない。22世紀、いや、23世紀初頭の時点の状況から間の状況を推測するしかない。

「ナチ公……いや、バダンの野郎どもはここに技術の一部を置き土産として置いていったと、ある。学園都市のサイボーグやパワードスーツとかの技術は奴らに出自があるかもな」

――如何に学園都市が20世紀末期から21世紀のこの時期まで「外界と20年の技術格差がある」とはいえ、公式な技術確立以前に1980年代以降の水準のコンピュータ技術を6、70年代という、比較的早期に実用可能な組織は今のところバダン以外に見当たらない。バダンの母体たる、国家社会主義ドイツ労働者党――つまり、ナチス――は画家崩れであった、ドイツ第二帝政時代の軍人でもあったアドルフ・ヒトラーを大首領JUDOが傀儡と仕立てあげ、造らせた組織。それが政権を掌握してできたのがナチス・ドイツである。そしてナチス・ドイツの軍隊は終戦直前〜戦後までに残存戦力と彼らに魅入られた25万の国民と共に、各地に散らばっていった。そしてその範囲は並行世界にも及んでいる。これがアドルフ・ヒトラーが二次大戦のドイツ敗北前にJUDOの命を受け、ヒトラーの自殺と同時に実行された「ラストバタリオン」計画である。それらはナチス・ドイツの再興などを目的に各地で暗躍。その過程で生み出されたのがショッカーなどの歴代暗黒組織である。それらをこれまた、ストロンガーを初めとする歴代の仮面ライダー達が倒していった過程で学園都市に流れたモノも複数あると思われる。その調査が今回の彼、城茂の目的だ。

「さぁてっと。暗部の奴らと出会わないのを祈ろう。この時代のレベル5の連中、人格破綻者が多かったつー話だしな」

彼は改造超電子人間なので、その気になればレベル5の超能力者達の大抵は倒せる。この時代の最強を誇る「一方通行」にも能力の限界点はある故、倒せない事はない。だが、彼は歴史的にそれなりの影響が生じるほどの足跡を残したと思われるので、手出しはするなと1号ライダーから厳命を受けている。ただし自衛目的に能力者、魔術師、学園都市の非公式の実力者部隊との交戦は認められているので、美琴の手助けであれば可能だ。しかしこの時代の超能力者の面々とは会いたくないと漏らした。一番まともな部類なのが美琴だというし、23世紀の記録にかろうじて残っている、この時代のレベル5の“第4位”「麦野沈利(むぎのしずり)」は暗部のリーダーを張っていたという割には人格がキレていたとあるし、第一位の「一方通行」に至っては……。

「しっかし、第4位の奴なんて思いもしないだろーな。後世の人間たちに“むぎのん”なんてあだ名がつけられてるなんてよ」

茂はそう呟いた。麦野沈利が後世の人間に勝手にあだ名をつけられてしまった事を本人が聞いたら間違いなく血祭りにあげてくるだろう。考えると笑える。しかし当の麦野はというと、盛大にクシャミしていたとか。













――さて、美琴はどうにか上条当麻と接触に成功していた。ちょうど未来でドラえもんのタイムテレビを拝借して見た自分の足跡同様の切り出し方を行った。

「あ〜!!いたいた!いやがったわねアンタぁ!!」

本来の歴史より多少テンションが高いためか、声が若干上ずっていたが、当麻はそんな事には気づかない。と、いうよりはわざと気づかないふりをしているのか、はわからない。この微妙な点が篠ノ之箒にとっての織斑一夏と異なる点だ。

「うん。まぁ、アレだ。不孝だー。」

「人の顔見るなりその反応は何なのよ〜!!この馬鹿と……っ」

美琴はここで思わず「当麻」と言いかけてしまい、なんとか寸止めする。彼への想いが大きくなっていたがために自然と言いかけてしまったのだ。それに当麻は怪訝そうにするが、美琴は「な、なんでもない、なんでもないわよ!」と慌てつつも誤魔化す。そしてこの一言を発する。

「罰ゲームよん」

これは大覇星祭という祭りで美琴の常盤台中学に当麻の高校が順位で負けた事や、当麻と美琴の間で取り決めていた賭けによるもので、
当麻は従うを得ない。で、そんなこんなで美琴は罰ゲームを実行。この日の午後までは概ね史実通りの経緯を辿った。ただし、黒子の邪魔が不思議と入らなかった。これ幸いとばかりに美琴はペアの写真をとって、携帯電話のサービスに登録し、ペア登録したおまけといおうか、彼女にとってはご執心のマスコットキャラ「ゲコ太」のストラップをゲットし、ご満悦な笑顔を見せた。

「いよっしゃあ〜〜!!」

その姿は普段、勝ち気な美琴からは想像のしにくい少女らしい一面だ。大覇星祭の際には、当麻の前では恥ずかしくて母親のことを「ママ」と呼べなかったりしているので、そういう点は恋する乙女の特権だろう。しかし美琴にはやらなければならない事がある。それはその日の夜のこと。美琴は浮かれつつも、昼間のうちに起こる出来事を順に処理していった。途中で「妹たち」――美琴のクローンの一体で、御坂妹と当麻から呼ばれている――と出くわし、未来で全てを知った故、思わず「打ち止め(ラストオーダー)にでもゴーグル取られたの、アンタ」と言ってしまい、御坂妹に「お姉様はいつの間に検体20001号と出くわしていたのです?」と当然ながら突っ込まれ、答えに窮したもの、これを切り抜けた。史実ではこの時点では美琴は自身のクローンの「打ち止め」の事は知らないはずなので、誤魔化すのに苦労した。そして当麻と別れて歩いていると、携帯が鳴る。見てみると、意外なことに城茂からだ。


「どうだそっちは」

「ボチボチっってところ。で、なんか収穫あったのそっちは」

「学園都市の暗部の部隊が動いた。今しがた数人返り討ちにしてきたが、どうやら例の奴を排除するつもりらしかった。」

「一方通行を?」

「事がお前が知った流れに沿えばそうなる。次は上条当麻と打ち止めを神の右席が襲うと思う。俺の方はというと、どーやらやっこさん俺の事に感づいたらしくてな。そっちの応援には行けなさそうだ」

城茂は気楽そうな声でそういう。学園都市にとって、城茂、すなわち仮面ライダーはイレギュラーである。特にストロンガーは腕がコイルになっているなど、わかりやすい特徴がある。上から極秘に捕獲せよなどの指令が降ったのは容易に想像がつく。案の定といったところか。

「大丈夫なの!?」

「なあに、今からバリバリに勝ってくんから。安心しろって、俺が負けるはずねーだろう?」

「そ、そりゃそうだけど……!」

「そんじゃ、じゃあな」

城茂は改造時の年齢は22歳の大学生。その時点の姿を改造後は半永久的に留めている。そのため、眠りについた時点では「老人」といっても差し支えない年齢に戸籍上は達していたのだが、肉体が青年時のままである故か、青年の言葉使いを未だ保っていた。現役の仮面ライダーである、RXを除く歴代の10人ライダーの言葉使いは青年のそれのままである。外見相応と言えばそうなのだが、冷静になって考えてみると変であった。電話は最後に茂がコイルを擦りあわせ、ストロンガーへ変身する時のベルトの作動音が聞こえ、切れた。どうやら電話をかけながら器用に変身したらしい。

――なんつーヒーローだ……。

呆れつつも、美琴は駆け出す。当麻の手助けをするという明確な目的を持って。“カチコチの科学脳”と史実で称された頭は既に承知している。ならばそれなりに魔術を理解すればいい。未来で知ってしまった運命。ならばそれを変えればいい。運命は決められたものではないのだから。町中を走っていると未来での写真で見た顔を見かけた。それは美琴が本来、決して出会うはずの無い人物であった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.