短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――逆行した陸軍三羽烏。彼女達は1930年代末時点の扶桑軍に取って、言わば『異端視』的存在であった。命令には従順ではないが、仕事ぶりは一流。彼女達を上手く利用して戦意高揚に使うためのプロパガンダを行うようになっていた。一方の三羽烏側もここぞとばかりに物資の調達などを行い、自軍の強化を怠らなかった。

――隊舎

「綾香!」

「あん?どーしたフジ」

「いいの?こんなに調達して」

「この戦は大戦の前哨戦だ。前哨戦に勝てば、次の戦も楽になる。別の歴史の台湾沖航空戦がそれを証明している。ただし相手の戦力がデカすぎても駄目だけどな」

黒江はこの扶桑海事変は第二次ネウロイ大戦の前哨戦に過ぎないことをよく認識している。そして未来で自分たちが苦労することも。未来情報をマスコミにリークし、保守派が失脚するように仕向ける事もする予定だという。

「あなた、どうしてそこまで政治的に動くの?」

「前の歴史で色々後悔した事があるったろう?それを達成するためさ」

「でも未来のあなたが如何に佐官でも、この時代じゃ中尉にすぎないのよ?」

「階級が尉官ってだけでブルってちゃ何も変えられない。守りたいモノのためにはどんな辛苦だろうがぶつかっていく。それが『7年後』の私のモットーだ」

それは『1945年』における彼女のモットーになった考えである。1944年に505での教え子を失い、その後の戦乱で縁のあった者達の死に直面した事、歴代ヒーロー達の生き方を見、彼らに憧れたなどの様々な要因で定まった。



――教え子の敵を討ちたいという気持ちはあるし、また、ここで流れを変えても未来の大まかな流れまでは変えられないだろうが、少しなら良くすることは可能なはずだ……!

黒江は1945年時点までの流れを良い方向に変えるという信念のもとに行動していた。そのためには高官の一人や二人は『消しても構わない』。非合法的な手段を『前回』の際にやられたその『報復』なのだ。

「羨ましいわ、あなたが。上層部に反抗する気概があるなんて」

「成果をあげて勝ちゃ何事も許されるのが戦争さ。街の一個を新型爆弾でぶっ飛ばそうが、大量虐殺しようが許されるのさ。別の世界じゃ、隕石落とすとか地形変えるなんて日常茶飯事さ……上の考えることなんて、いつも前線と剥離してるんだからよ」

武子はこの言葉に内心で恐怖に打ち震えた。黒江は非合法的手段を躊躇いなく実行するだろう。だが、今の自分にはそれを止めるだけの手段もコネもない。圭子も智子も同様の動きを見せている。あと一年後に起こるという最終決戦で上層部がどれだけ理不尽な命令を下すのかを知っている故の行動であろうが、友人らが血でその手を汚すのを止めたいのが本心だった。


――あの三人をここまで突き進めるほどなんて、堀井大将はいったい何をやったの……!?でも……智子、圭子、綾香……そんなことやめて、やめてぇ!

武子は心の中で叫んだ。友人らが高官らを非合法的手段で『消そう』としているのは認められないのだ。他の三人が未来世界で起こった第二次ネオ・ジオン戦争までの歴代の戦争での連邦軍内の派閥抗争を知っている故に、非合法的手段を取る必要性を痛感しているのとは対照的である。正真正銘、『10代の若者』である武子と、精神が『20代』である他の三人との差はここにあった。未来世界で『陸軍三羽烏』と呼ばれし三人の精神は既に『汚いこと』も知っているし、実際に行ってきた年齢のそれである。部隊維持のために非合法的手段で弾薬や機材を調達した事も一度や二度ではない。良くも悪くもそのような行為に躊躇いがあるかないかが、『年齢の差』なのだ。



――武子は顔はいつも通りに笑っているように見える黒江の心が怒りに燃え上がっている事に始めて気づいた。大らかな黒江をすら激昂させるほどの行為をこれから上層部が働くのだろうか?と考える。

(綾香は釣りが頭の40%を占めていて、だいたいの事に大らかなはず……それを激昂させるほどの事なの、堀井大将が最終決戦で行おうとすることは)

その推測は的中していると言っていいだろう。三羽烏が体験した記憶では、堀井海軍大将は紀伊型戦艦を使って挺身隊の成否に関係無くウィッチごとネウロイを『艦砲射撃』で以って始末しようとしたのだ。黒江達はそれをあらゆる手段で断罪せんとしているのだ。

(既に『外堀』は埋めた。あとは中だ……堀井め、目に物見せてくれる!)

この事実は既に元老最後の生き残り『西園寺公望』や海軍最長老『岡田啓介』の知る所となり、更には『陛下』にも間接的に伝えた。陛下のお墨付きも得た以上、『粛清』の大義名分は立った。黒江達は武子の思いをよそに、保守派の将官を粛清せんとする海軍良識派の策謀を実行させ、その片棒を担いだのだ……。








――後日

戦線は風雲急を告げた。春の大攻勢で大陸中央部の領土を制圧され、奮戦していた64戦隊も補給線の維持が不能になったという理由で基地を放棄せざるを得なくなり、沿岸部へ撤退命令が下された。江藤のもとへ陸戦型が進撃中であるのが伝えられたのは、撤退準備の最中であった。

「何!?敵がこの基地に迫っている!?何故気づかなかった!?」

「敵はアホウドリに寄生する空挺型の新型だそうです。付近の戦車連隊及び、歩兵師団は全滅したと……」

「クソっ……」


江藤は頭を抱えた。予想外の新型の出現。最近の戦線の崩壊ぶりはおそらく、それだろう。戦車連隊には最新鋭の97式中戦車が配備されていたはずだが、黒江達曰く「ハリボテ」な性能だとの事なので、全滅はあり得ないことでないだろう。

(90ミリ砲や120ミリ砲搭載の重戦車があればな……カールスラントではもう開発検討に入っているらしいが……東條一派の悪しき遺産だな……)

それはティーガー重戦車及び重装甲脚である。扶桑では大口径砲搭載のそれらの開発は港湾施設の一新の必要がある事から、避けられる傾向にあった。国内インフラもまだ更新途上なのに、軍事的インフラまで変える余裕がないとしてきた。が、いざ有事になってみると大陸領土の喪失が叫ばれるようになり、最新鋭戦車が『役立たず』のハリボテの烙印を押されたり、重爆の搭載量不足が明らかになったりと、扶桑軍は踏んだり蹴ったりである。

『隊長!』

「お前らか。話は聞いているな?この基地を放棄し、沿岸部まで転進せよと命令が下った。転進と言っても、撤退を体の良い言葉で誤魔化しているだけなのは、未来の記憶があるお前らなら知っているだろう。章香とも協議したが、若い奴らを先に飛ばせる。お前らは殿を努めろ。私や章香の護衛だ。奴らに目にもの見せてやれ。試作機と試作武装も使って構わん!」

「了解!ちょうど退屈してたんスよ。いい運動になります」

「ちょうど試したいことあったんで、ひと暴れしてみせます」

江藤は今や、様になった智子と黒江のコンビに不思議な感覚を覚えた。これに圭子を加えて『64戦隊三羽烏』と評判である。三人が一度体験した歴史では、黒江ではなく、武子が三羽烏のメンバーであったとの事なので、歴史が細かく変化しつつある事を実感した。

――不思議なもんだ。まさか真面目だと思ってた黒江にフランクな面があって、穴拭を引っ張る側になるとはなぁ。加藤が羨ましがるはずだ。だが、こいつらの知識を以っても歴史の大まかな流れは変えられんらしいな。


江藤は『未来から逆行した』三人が結果的に戦線の崩壊を食い止めてくれていたものの、歴史の帳尻合わせという大河には抗えない事を嘆く。黒江と智子もそれは理解していた。だが、『最悪の中でも、最善を見出す』と言わんばかりのポジティブ思考を歴代ヒーローらから教わっているためか、不敵な面構えを見せ、闘志の旺盛さを垣間見せる。


――外では陸海軍問わず、撤退戦に耐えうる練度を持たない若年兵達が九七式戦闘脚なり、九六式艦上戦闘脚で逃避行に移っている。ようやくこれら機種が全軍に行き渡った矢先に『能力不足』を突きつけられる開発者達は溜まったものではないだろう。だが、20年ぶりの大戦になれば半年で新機種が現れるようになるのだ。このくらいのほうが軍部に危機感も湧くだろう。そう江藤は割り切った。








――格納庫

「最後まで残るのは俺たちと陸さんのあの人達か……ケッ、つくづく縁があるようだな」

「でも私達が海軍で一番強い小隊……なんでなんです、先生!」

「結果的にしろ、実戦経験を一番多く積んでいるのが私達だ。他の部隊は混戦でも生き残れる練度を持たないというのが上の判断さ」

「体の良い囮、というわけですか?」

「そう落ち込むな、坂本。陸さんのあの子達もいる。そう安々とやられんさ」


海軍の北郷章香とその配下の三人も結果的に殿を務める事になったが、若本徹子は上層部に捨て駒同然にされるのに憤りを露わにし、竹井醇子は怯え、坂本美緒はこの時初めて、上層部への疑念を口にする。後の501の時代に竹井に『この時から上に疑念を持つようになった』と語ったという記録が残されているので、この時の決定が幼き頃の坂本に軍組織への疑念を芽生えさせたのは間違いないだろう

「安心しろ、オメーらは私らが守ってやるさ」

「そうそう。そういう事は先輩のあたし達の役目だし、大船に乗ったつもりでいなさい」

黒江と智子の言葉はこの時ばかりは取り繕った偽りのモノでなく、本心から発したものだった。北郷はこの時には江藤から『事情』を知らされていたので、申し訳無さそうな顔を見せ、頭を下げる。

「すまない。『君たち』に苦労をかける事になってしまって……。本来ならこれはロートルである私の……」

「いいって事っスよ。私達も似たような立場なのは一緒ですから……」

「この子達や『次の世代』の子供達のためにも、ここを切り抜けて、勝ってみせましょうよ北郷さん」


「……そうだね。その子達に誇れる世界を作るのが私達の役割だ。敵に目に物見せてくれよう」





――『次の世代』。それはこの時代では幼子に過ぎない宮藤芳佳や管野直枝、ゲルトルート・バルクホルン、エーリカ・ハルトマンなどの世代を指す。本来の運命なら智子や黒江も1940年代前半にその世代にバトンを託し、隠居生活で余生を送るはずだった。が、運命の悪戯は交わるはずのない世界を交わせ、彼女たちに時限付きではない力を与えた。そして、それを持った状態でこの場にいる。三人は悔いの残るこの戦いを変えようし、その最初の試練がやって来た。

『黒江ちゃん、智子!ネウロイが降下を始めたわ!海軍さんの発進を急がせて!」

『分かった!……北郷さん!』

「分かった!」

ストライカーの真下に魔法陣が現れ、寿発動機(離昇出力600馬力。陸軍名はマ1乙)が唸りを上げる。後の栄エンジンよりも更に非力なエンジンで、エンジン音音も相応の大きさだ。だが、これでもこの時代の扶桑皇国実用機としては最新鋭のものだ。北郷達が離陸するのを海軍式の『帽振れ』で見送る。未来では事実上、『海軍軍人』(未来世界では宇宙軍が事実上の海軍である)である二人の動作はサマになっており、若本を感心させた。

「あの人達、帽振れうめーじゃん。どこで覚えたんだ?まっいいか」






――こうして、坂本達が先に飛び立つのを見送った二人は地上戦に打って出た。武器は威力が比較的高い99式20ミリ機銃と、日本刀が数本。(扶桑刀だが、二人は日本刀に慣れてしまっているので、そうしている)である。これは基本装備。日本刀は元来、数人斬れば使い物にならなくなるサブウェポンである。ウィッチが魔法で刃渡りを保護し、切れ味を増すと言っても限界はある。その場合は未来兵器で応戦する手筈である。それと……

(人間、魔力が使えなくても気力やらオーラパワー……ん?あれって原理一緒のような気が。まっ、いいか。本郷さんも気にしたら負けだってったし)

智子は未来世界で歴代スーパー戦隊が持つ力をいくつか思い浮かべる。素人目に見ると、似たような原理のものがいくつかある。ダイレンジャーの気力とマスクマンのオーラパワーなどがそれだ。どこがどう違うのか、智子にはわからない。が、いざ発動させればどっちも絶大な力を発揮するのは共通している。

「さて、行くか!」

「ええ!」

二人はベルカ式の身体強化魔法を会得しているため、対ネウロイ戦において、ストライカー無しでも高い戦闘能力を発揮可能である。そのため、ある程度の陸戦の遂行が可能である。飛天御剣流の心得と、メカトピア戦争直後の時期にロンド・ベルが数度ほど行った歴代ヒーローらとの模擬戦のおかげである。そのため、ひとまず陸戦では九九式でダメージを与え、刀で斬るという一応のセオリーは守っての戦闘となった。




「ふっ!」

上段から光を宿す刃を振り下ろし、怪異を両断する智子。その動きは飛天御剣流の心得が多少なりともあるおかげで俊足だ。そこに江藤からのお叱りが無線で入る。

「くぉらぁ!穴拭、黒江!お前ら何をしとる!!空戦装備で陸戦するんじゃない〜!」

「いや、大丈夫ですって隊長。この時期の敵は割りと装甲薄いんで」

「そういう問題じゃなくってだな……せめて装甲脚履け!死ぬぞ!」

「そもそもあたし達航空兵ですし、慣れないことすると縁起悪いんで」


と、言いつつも敵を両断しまくる二人。モーションを見ると、それそれが元々習得していた流派のそれと、歴代スーパー戦隊のレッドたちのそれを借り、時々それを組み合わせているのがわかる。例えば……。

「でぃりゃ!!」

智子は砲弾の爆風を利用して飛び上がり、その勢いでバク転しながら急降下してたたっ斬る。これは太陽戦隊サンバルカンは、二代目バルイーグルの『イーグル回転斬り』そのままである。


「もらったぁ!」

黒江は突撃しながら20ミリ砲で外殻を削り、そこから縦一文字斬りでコア部を露出させ、横合いから薙ぎ払うようにコアを切り裂く。この攻撃は超獣戦隊ライブマンは、レッドファルコンのファルコンブレイクである。未来世界で彼らの剣技を目撃し、真似をしたり、本人たちに極意を聞いたり、実演してもらったりして協力してもらい、死ぬような修行の末に体得した。





――『特訓でホイホイ強くなれれば苦労ない』とティアナ・ランスターが未来世界への転移後間もない時期に特訓に励む歴代ライダーに苦言を呈したと、スカイライダーが言っていたが、実際に特訓で強くなった例がスカイライダー自身を始めとして、仮面ライダーやスーパー戦隊に複数存在するので、ティアナの言は必ずしも当てはまらないのが実情である。それにティアナの過剰な特訓を諌めたはずのなのはが逆に特訓を肯定する側になったのをスバルが手紙で告げると、ティアナは呆然としつつも、苦笑いしたとの事。子供なのはからの詫びもその手紙に添えられていたからで、歴史の変化を実感したらしい。


――『努力は実を結ぶとは限らないが、どこかできっと報われる』。三羽烏もそれを実感したからこそ、この一見、無謀な賭けに出たのだ。

『空は私と加東達で持たせる。お前らはとにかく退路を確保しろ! 武器は格納庫に置いてあるから好きに使え!」

「ありがとうございます!あとで何か奢ってくださいよ!」

『ウラルの喫茶店で奢ってやる!だから死ぬなよ……!』

「わかってますって。コレでも『陸軍新三羽烏』ですからね」

「『新』か……しかしそれは今となっちゃ訂正すべきだぞ、お前ら」

「ですね」

クスっとする智子と黒江。おそらく、ここで戦果を上げようとも上が正しく評価するとは限らない。だが、この場を生き残るには勝たねばならない。歴史の変化を実感した彼女らは空で、陸で、明日の勝利のための転進を敢行した。




――坂本達は空で二人の支援に当たった。後の記録によれば、この時の二人の剣技に北郷も舌を巻き、若本は羨望の眼差しを浮かべ、坂本と竹井は強くなりたいと願うようになったという。この時の二人の剣技が坂本のその後のウィッチ人生を大きく左右するようになる。そして『ウィッチに不可能などない』との座右の銘を定めさせるきっかけになるのである。ただ、本来の流れよりは好転した事がある。それは……。

「私が何を目指すべきなのか……それはこの時にあいつらが示してくれたのかも知れない」

坂本が指揮官として優秀さを増すのである。的確に指示を飛ばす圭子や武子の姿に憧れたからかもしれない。その辺は一安心と言えた。



「いいかい、坂本。あの子達をよく見るんだ。戦場では闇雲に突撃すれば勝てるというものじゃない。昔にこの大陸で栄えた国の言葉に『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』という物がある。敵を知り、己の力を知れば準備もできるし、戦に負けないという事さ」

「先生…」

的確に大局を把握し、指示を飛ばす江藤と武子。それをよく補佐する圭子、指示を確実に実行し、時に自己の判断で最善な方法で敵に立ち向かう黒江と智子の地上組と第二中隊の空中組。坂本は彼女らの姿をまじまじと見ることで、後に指揮官としての才覚を開花させていくのである……。




「お二人さん!面白えことしてるじゃねーか。オレも混ぜてくれ」

若本が自信満々に降りてくる。既に20ミリ機銃は弾切れで投棄し、ストライカーには被弾の後が見られる。後々の『最強のウィッチ』との異名を誇るようになる彼女はストライカーの稼働時間限界にもめげないようだ。

「徹子。これは遊びじゃないのよ?」

「お、オレの名前……覚えてくれてたのか?」

「当然よ」

「こりゃ光栄な……んんっ!?あんたら陸戦用歩兵脚無しで大丈夫なのかよ!?それとふ、服、服!」

ショートヘアの髪をなびかせながら降り立った徹子は驚愕する。なんと二人は陸戦用装甲脚すらつけていない状態で大暴れしているのだ。地面にいくつも突き刺さった、ボロボロの扶桑刀が激戦を物語っている。二人の服装は爆風で所々が破れており、小具足も破損しているために、裸体が一部露わになっているなど、徹子から見ても『ズタボロ』なのは一目瞭然であった。

「あ〜子供にゃ刺激強かったかな?」

智子はおどけて見せる。未来世界ではビキニなどの『この時代の常識では破廉恥である』格好をしていて、それが日常茶飯事な常識の世界に身を置いている時の状態である故、戦闘で裸体が一部露わになろうが、どうという事はない。

「い、いや……そういうことじゃ……それにオレを子供扱いすんなぁ〜〜!」

「おめー、まだ12だろ。十分にガキだって。小学校でて間もないだろ」

「うっ!そりゃそーだけど」

そう。坂本美緒達の世代は小学校からそのまま後に海軍兵学校に入学したり、現場で叩き上げた後に教育を施された。大戦以後になると兵器の高度化が急激に進み、様相がだんだんと変化していくので、結果的に坂本達は大戦前の常識で教育された最後の世代となった。それ故に後の世代と対立してしまう者も多く出るのだ。

(確か徹子はリバウで三号爆弾の名手として名を馳せるのよね……末期のリバウ航空戦は厳しかったって言うし、この子が若手の羨望集めるはず……)

若本徹子は1945年時には『この時代最強の扶桑ウィッチ』の異名を誇り、後輩たちの羨望を集める身となった。それは零式の旧式化の兆候が表れだし、敵の大攻勢で撤退を余儀なくされる時勢を編隊空戦で闘いぬいた戦歴が1944年以後に一線を担う世代の憧れとなったからでもある。クラスター爆弾を使い、敵をまとめて倒すのを得意とするなどの武功も大きく、若手の間で『坂本美緒なんかより、よほどためになる話をしてくれる』と評判との事。どこで差がついたのかと思わず考えてしまう。

(多分、負け戦を肌で経験しているか否かかしら……リバウ三羽烏が無双を誇ってた時期はまさか僅か何年後かに撤退するなんて夢にも思わなかったし。でも義子は後期の戦に適応したから……坂本の性質かも)

そう。リバウ三羽烏と呼ばれた三人の中で、坂本は唯一、『戯言しか言わぬ老害』との悪評が1945年時に存在するようになってしまった。坂本が巴戦(英語で言うドックファイト)至上主義的発言をし、結果的とは言え、烈風の開発に悪影響を及ぼし、紫電改の生産立ち上げを遅延させてしまった事から、上層部から不興を買ってしまう。皮肉にも坂本自身の発言が、自分自身が欲したストライカーのはずの『烈風』が主力機となることを出来なくし、(他の原因は東南海大地震で主力生産工場が壊滅的被害を被り、生産が遅れている間に紫電改が大量配備されていた事、ある機体工場で低賃金労働を強いるあまり、耐えかねた労働者が暴動を起こし、烈風の生産ができない状態になって、暴動をマスコミにしょぴかれ、間接的に軍部の評判が下がった事に腹を立てた軍部の政治的懲罰を宮菱が受けたなどがある。)嫌っていた紫電改の補助的地位に甘んじる結果を生むのだ。そのために坂本の評判は1945年時には悪く、同期の多くにさえ「お前が変な発言したから烈風が遅れたんだ!」と罵倒されてしまうほどである。

――どこがどうしてああなるの?この時代は素直だってっつーに……やっぱりリバウ時代が原因?まぁ、あとで考えてみよう。

そこが彼女としてはどうしても気になるらしい。これを機会に徹子と親交を結んでみようと思う智子であった。








――圭子は智子や黒江のような『華々しい接近戦闘は苦手である』というのが、前の歴史での評判であり、本人の意識であった。未来世界での訓練でも、接近戦は『やや難あり』の判定を受けた事もある。しかしロンド・ベルのように激戦区に送られる部隊では、生身でも高い戦闘能力を求められる。最近は相手が人外な事も多く、サバイバル能力の高さを求められている。アカレンジャー=海城剛に相談すると、タケル=レッドマスクや天火星・亮=リュウレンジャーなどを紹介され、彼らの表向きの仕事(タケル=レッドマスクはメンバー共々、表向きはカーレーシングのチームを営んでいる。マシンの整備などを手伝った。リュウレンジャー=天火星・亮は中華料理屋で働いたり、屋台を出したりして生計を立てているので、主に経理面を手伝った)を手伝いつつ、合間に彼らから手ほどきを受ける日々をメカトピア戦争終結直後から数年ほど過ごした。結果、オーラパワーを引き出す事に成功し、開眼。どちらかと言うと光戦隊マスクマン寄りの戦闘法となった。その一端がこれ。

「圭子、あなた!何を!?」

「よ〜くみておきなさい武子。人間、やる気になればどんな事もできるってね!」

稼働時間限界を迎えた97式戦闘脚を緊急排除装置で排除した圭子はそのまま宙返りし、下方に入ってきた爆撃機型ネウロイめがけ、急降下する。そして、魔力の発動をやめ、(オーラパワーや気力などと魔力の同時発動は互いの力が相反する性質なために、控えられる傾向がある)その代わりに、印を結ぶ。動きを見てみると、それはレッドマスク=タケルのそれと同様の印を結んでいるのが分かる。


「鉄拳オーラギャラクシー!!」

発動したオーラパワーが右腕に一点集中し、そこから乾坤一擲。オーラに包まれた手刀で外殻ものともにコアを一刀両断する。これは光戦隊マスクマンの誇るスーパーロボットの一体『ギャラクシーロボ』の必殺技である。細かい動きは異なるものの、だいたいは同じなので、分かる者には分かる。武子はこのトンデモ光景に『!?!?!?★※〜』と目が飛び出んばかりに目を見開き、口をパクパクさせて呆然とする。江藤や北郷もこれには大いに狼狽える。何せ『魔力と明らかに違うパワー』で敵を両断したのだから当然である。最も、圭子自身もこの技は『1945年及び2201年時』の精神が宿っている状態だからこそ発動及び使用可能な技であるのはよく理解しているので、これまで使用を控えてきた。これには黒江と智子も苦笑いを浮かべる。

「おいヒガシ、鉄拳オーラギャラクシーなんか使っちまってどうすんだ?隊長達に聞かれても、私じゃ説明のつけようがないぜ。確かオーラパワーって気功の一種だろ?」

「ここだと中国はどのへんで滅んだっけ」

「かなりの文化が入ってるしなぁ……清や中華民国以降が無いから、多分明代じゃね?そうでないとかなりの扶桑文化の原型の説明が出来ねえし」

「中華文明が滅んじゃってるから、隊長たち、東洋医学とか理解できるかしら」

「戦国期の記録には明国という単語が記されてるから、歴史に興味さえあれば『大昔に滅んだ文明の一つ』としては中国を知ってるだろ。鈴が聞いたら怒るぞこれ」

「たぶんね」

そう。ウィッチ世界においては栄華を誇った中華文明圏は間接的影響があった扶桑を残して滅亡している。それがいつなのかは扶桑皇国の記録に残されていないので、不明である。ただ、扶桑文化にその残滓が多数確認できるために、黒江は明が栄えた頃までは他の世界同様の歴史を辿っていたのだろうと目星をつける。

「明が滅んだのは『史実』だと、どの辺だっけ」

「前に鈴から聞いておいたけど、確か1644年に統一王朝として滅亡して、残党が1661年辺りに掃討されてるのよ。だからそれほど昔でもない」


「滅ぼしたのが満州族か、ネウロイかの違いか……ったく、その辺面倒だぜ。李氏朝鮮も滅んだし」

明朝滅亡後に李氏朝鮮も運命共同体の如く滅亡したのは容易に想像できる。扶桑が滅亡しなかったのは、地理的に島国であったこと、もはや衰退しつつあった明朝に代わる、アジア最強の軍備を戦国期が終わる頃には持ち得ていたからだろう。おそらく辛うじて生き延びた両国の科学者達などが扶桑に亡命し、文明の発達に寄与した結果、今日の扶桑の繁栄があるのだろう。しかし中華文明そのものが消滅するなど、未来世界の中国人には信じがたいだろう。新生シャッフル同盟のサイ・サイシーや凰鈴音、はたまた張五飛が聞いたらどのような顔をするのだろうと考えると、面倒だと頭を抱える黒江であった。



――しかし、今はそれは置いといて、黒江、智子、徹子は刀を片手に突撃を敢行する。徹子にとっては陸戦は始めてなのと、黒江たちのように身体強化に不安があるため、普段は用いない覚醒を発動させた。

「あんたらに見せるのは始めてだっけ……これでどうだい?」

「出たぁー厨二病モード」

「……」

「お、おい!なんだよ二人共!そ、その痛い奴を見る目は!た、頼むから肩たたくなよぉ〜……」

徹子の切り札である固有魔法「覚醒」。ショートヘアの髪の毛が一瞬でロングヘアーとなり、一瞬であるが、オーラを纏う。発動した場合は扱える魔力量もリンカーコアを得た状態の黒江達に引けをとらないほどに増大し、打撃力も後々の宮藤芳佳をも凌ぐほどになる。この魔法で彼女は『扶桑皇国最強』の称号を得るのだ。発動時の外見は21世紀以後の基準で考えると『厨二病』的なものなため、智子が思わず厨二病と言ってしまうのも無理かしらぬことだ。徹子は思わぬ反応に震え声になり、半分涙目になってしまった。ただしデメリットもあり、力の増大に伴う負荷の拡大に長時間耐えられないという弱点がある。

――未来世界での漫画に例えると、『ドラ○ンボール』の『超サ○ヤ人3』みたいに外見が変化するんだよなぁ…あたしは2のほうが好みなんだけど



智子はこの覚醒発動状態の徹子を未来世界で買い集めている古典的バトル漫画に登場する超サ○ヤ人に例える。長時間維持できない点はその第三段階変身と同じなのも大きいのだろう。

「綾香、徹子のカバーお願い」

「OK!」

「あれをやってみるか……」

智子が愛刀である備前長船を天に掲げる。すると刀身部にエネルギーが充填されていき、それを円月殺法の要領で弧を描きながら回転させていく。そして突撃し、刀を構え、叫ぶ。その名も。

『電光剣・唐竹割りぃ!』



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.