短編『魔法少女達の奇妙な物語』
(ドラえもん×多重クロス)



――フェイトBはフェイトAと別ルートでゆりかごへ侵入。そこでジェイル・スカリエッティと対面を果たした。

「君はフェイト・テスタロッサか。……フッ、面白い。私を捕まえに来たのかね?」

「黙れ!次元世界を混乱させた重犯罪者がっ!」

「これは実に面白いジョークだ。それなら君とてその一人ではないのかね?いくらプレシアのためとはいえ、アリシアの『紛い物』でしかない君がした事は管理局入りしただけで免責できるものではないのだよ」

スカリエッティは巧みにフェイトBの心を抉る。フェイトは所詮、『アリシア・テスタロッサ』の紛い物、保存されていた体細胞を基に造られたクローンでしかない。プレシアがフェイトを嫌ったのは、アリシア・テスタロッサには受け継がれていないはずの自身の魔導師としての才覚を色濃く持っていた事、利き腕が生前のアリシアと逆である事、魔力光が自身から愛娘を奪った魔力炉の光と同じ色である事などの『個体差』が生じたからだ。

「……!」

「あの女史は哀れなものだ。アリシアの父親と離婚し、心の拠り所にしていた家族をいっぺんに失ったのだから。それ故に私が確立させていたあの技術に賭けたのだろうが、いくらクローンに生前の記憶を与えたところで、生前の人物そのものにはなりえないのだがね」

スカリエッティはそれをよく理解していた。いくらクローンに、ある人物の生前の記憶を与えたところで、『その人であって、その人でははない』何かが生まれるだけだと。それは別次元の自分(なのはAのいる次元)から得た『ネオ・ジオンがシャア帰還までに生み出そうとしたシャア・アズナブルのクローンら。名をアフランシ・シャア、そしてフル・フロンタル』の情報からも分かる。だからこそ、フェイトは『アリシアの似姿』でしかなかったのだとスカリエッティは解釈し、憐れむような言葉を出したのだ。

「それを分かっていて、敢えて技術を残したと!?」

「そうだ。私の理論を実証するのに、君やエリオ・モンディアルは良いサンプルだったよ。所詮、死者蘇生などは今のミッドチルダでは夢物語なのだよ。よほどの超医療技術か、ロストロギアを使わん限りね」




――死者蘇生など、現時点では白色彗星帝国やバダンの医療技術でなければ不可能な事である。地球連邦ではその研究は行われているが、倫理的、宗教的問題が絡むこともあり、あまり活発ではない。ミッドチルダは概ね医療技術ならば21世紀終盤時の日本とほぼ同水準と高い水準だが、死者蘇生などは不可能である。それ故にプロジェクトFに縋ったプレシアやエリオ・モンディアル(真)の両親の気持ちも分からなくはない。だが、母親の精神を崩壊させたのが『自分がアリシアの紛い物』でしかない事であると知った今、フェイトBに憎悪の感情が煮えたぎっていた。

「君の母親には可哀想な事をしたが、これは自然の摂理なのだよ。夢物語に縋った故の罰と言える」

「貴様ぁああああああああ!!」

フェイトBは叫ぶ。淡々と母親を『死者蘇生に拘った挙句に破滅した女』と断じられれば当然であった。だが、この世界のスカリエッティは予想外の戦闘力を見せた。

「その怒りは純粋だ。だが、私にとって、君のそれは退屈な怒りでしかない」

極細の鋼線を模したデバイスにより、フェイトBの体をBJごと切り裂いたのだ。さながらヘルシング機関のウォルター・C・ドルネーズのように。威力をある程度加減したのか、五体を切り刻みながらも、急所は外されていた。瞬間的な攻撃であったため、フェイトBは反応さえ出来なかった。

「そ……んな……反応さ……」

フェイトBは瞬間的な出血が多量だったショックで昏倒した。それを映像で確認したフェイトAは壁を蹴りで破壊し、なのはBに連絡を入れる。

「なのは、今、こちらの私が倒された」

「え!?」

「どうやら、この世界のスカリエッティはある程度の戦闘力を持っているようだ。魔力による鋼線を使っている。あれは正直言って、私でも見切れん」

「……!」

鋼線による攻撃はフェイトAの動体視力を持ってしても見切れないことが本人によって示唆された。高練度の鋼線による攻撃はコンクリート製のビルさえも薙ぎ倒せる事は判明しているからだ。

「負傷は覚悟の上で突っ込むしかない。最悪、腕の一本は犠牲にしても、な」

「そ、そんな……」

「なぁに、こちらのミッドチルダでは再生医療が発達している。腕の一本程度はどうにでもできるから、安心しろ」

仮面ライダーやスーパー戦隊が各国に齎した超技術は戦闘面だけではない。医療分野もそれに当たる。細胞培養により、ある人物の腕だけを作り、それを切断された部位にくっつける事も可能となった。ミッドチルダがそれをモノにした。少ない人材を回すためという、身も蓋もない事情からの技術実用化であったが、動乱の時勢故に容認された。

「そ、そういう問題じゃ……」

「傷つくことを恐れていたら、何も守れんぞ。なのは。時には無茶も必要だ」

「でも、私は誰かが傷つくのはもう嫌なの……11歳の時の、もうあんな思いは誰にもさせたくないの!」

――フェイトAは少女期から無茶をし、多くの修羅場をくぐり抜けてきた。その分、多少の無茶はお構いなしだ。なのはBは11歳時の事件に起因するトラウマからか、自分以外の誰かが傷ついたり、無茶をする事を異常までに制止しようとする癖がついており、制裁も辞さないほどだ。フェイトAはなのはBの想いは理解しつつも、敢えて死地へ突っ込むことを伝える。

「お前の気持ちはよく分かる。だが、戦場(いくさば)では無茶しなければ、何も守れない。昔から『死ぬとわかっていても突っ込んでいった』例は枚挙に暇がないからな。スカリエッティだけは……この手で斬り捨てんと腹が収まらん」

フェイトAは吐き気をもよおすほどの邪悪な者には無慈悲である。特に母親を始めとした者達に中途半端な『死者蘇生の希望』を与え、生み出された者は『死者の代わりの何か』でしかなかったプロジェクトFの技術的基礎を確立させたスカリエッティを肉片まで細切れに斬り捨てなければ腹が収まらないのだ。たとえ別世界のスカリエッティであろうと、だ。

「綾香さん、『FLIGHT FEATHERS』を頼みます」

「OKだ」

フェイトAは本気の態勢に入ったらしく、ある曲をリクエストする。それはフェイトAが好きでよく聞く、自分達の時代の地球に置けるアニソンだった。カラオケでも歌っており、アリサ・バニングスからは『似てる似てる♪』と好評であるという。それはさておき、フェイトAは天羽々斬モードにBJを切り替え、青と白を基調にしたヒロイックな姿を見せる。同時にバルディッシュもザンバーモードから複雑な変形をし、日本刀形態になる。

「スカリエッティは私が始末する。お前はヴィヴィオのところへ行け!」

「う、うん!」

フェイトAは飛行ではなく、走ってスカリエッティのところへ向かっていった。飛天御剣流の心得を持つ故、オリンピック選手以上の速さで艦内の奥へ消えていった。歌いながら。なのはBはフェイトAの一見して別人な態度の中にも、フェイト・テスタロッサとしての共通点を見出したのか、どこか安心した表情だった。




――こちらはスバル。RXがバイオライダーで加勢した事もあり、戦闘は終始有利に運んだ。ノーヴェの拳はスバルAには通じず、逆に圧倒する。

「はあああっ!」

赤心少林拳の心得を得た事もあり、スバルAの拳は鋭く、速かった。姿こそ、Bとほぼ同様だが、改造人間化(肉体が再改造されたため)しているために反応速度・攻撃力・素の防御力はもはやノーヴェを大きく凌いでいた。ノーヴェは自分の拳が通用しない事に大きく動揺し、涙さえ浮かべる。片腕にされたとは言え、後発である分、スバルよりも動作速度などのスペックは上回るはずであった。だが……。

「はあああっ!肘鉄!裏拳!正拳!膝蹴りぃ!!」

スバルの一連の攻撃でノーヴェは大きくダメージを負い、血を吐いて片膝を突く。意識が飛びそうになり、立ちたくても立てなくなる。だが、それでも闘志を失わない。スバルは手向けとして、ある技を使った。それは地球のとあるゲームをプレイして、『これなら再現可能じゃないかなぁ?』という事で、使用した。


「ノーヴェ、これはおねーちゃんの私からの手向けだよ……!受け取って!!」

「何…だとぉ…!?」

『行くよ!!咲ぉぉ桜ぉぉけぇぇぇん!』

これは既にスバルAがノーヴェを『自分の義母と同一の遺伝子から造られたナンバーズである』と知っている故のメタ発言であったが、説得力はあった。マッハキャリバーで突進し、胸へ一撃入れ、そのまま全力のジャンプアッパーを放つ。魔力を上乗せして威力を強化したので、ノーヴェはこれでノックアウトし、数十mは吹き飛んで倒れ伏した。この一連の攻撃の鮮やかさに、思わずティアナ達は拍手してしまう。残るメンバーの内、セインは……。

『バイオブレード!!』

バイオライダーにバイオブレードで瞬く間に峰打ちを喰らい、反撃の間無く気絶させられる。バイオライダーの剣戟の腕が超一流の逸品であるのを否応なしに分からせる。残るウェンディが半狂乱になりつつもライディングボードを砲にして、バイオライダーに撃ちこむが、バイオライダーにはそのような攻撃は通じない。砲撃は全てバイオライダーをすり抜けていくからだ。

「え!?た、弾が全部突き抜けちゃうッス〜!こんなのありっスかぁ〜!!」

ウェンディの悲鳴と同時にゲル化したバイオライダーがそのまま体当たりを行う。バイオアタックである。液化したバイオライダーは更にウェンディを包み込み、溺れさせる事で無力化させるなどのいささか反則な力を見せつけた。これに対し、自分の見せ場をほぼ取られた格好のティアナやエリオは思わず苦笑いした。

「ええと……その姿だと、バイオライダーさんでいいんですよね?今の能力って……その、すごく反則ですよ?」

「この姿でなら、別の人間と融合する事さえ可能だからね。仲間からもよく言われるよ」

「でしょうね」

ティアナはバイオライダーに頷く。ゲル化に物理攻撃無効化……どれを取っても反則そのものの能力だからだ。この時、バイオライダーはティアナの『別の可能性』を思い出し、感慨ひとしおであった。そう。彼の知るティアナ・ランスターはウィッチへ転向し、ある意味では夢を叶えているのだから。

「さて……これで残ってるナンバーズは数える程度だ。あとは……」

バイオライダー達を見下ろすかのように、ある一人の少女が現れる。ナンバーズとして洗脳・強化されたギンガ・ナカジマである。高速道路に陣取って仁王立ちする。その瞳からは精気が消えており、洗脳で感情を消したことを暗示していた。その姿はナンバーズのスーツと同様の物を纏っており、否応なしにギンガの洗脳ぶりを示していた。

「ギンガさん……!」

「やっぱりそうだと踏んでたよ……ギン姉」

――この場に『この次元』のスバル自身はいない。それはなのはAが白熱する余りに爆熱ゴッドフィンガーを使い、病院送りにしてしまったからだ。それを鑑みて、この次元の姉との戦いを『代行』することは多少ながらも気が引けるスバルA。だが、姉を正気に戻せるのは姉妹である自分のみ。そう気を引き締めて、ギンガとの戦いに臨んだ。







――三人の元の次元の機動六課 臨時駐屯地

「平行世界の時空管理局か……まっ、ありえへんわけではないし、私はあるやろって思ってたで」

「まさか時空管理局そのものがいくつもあるなんて……」

「別に不思議でもないで。平行時空というのは、ある人間の選択を例に取っても、無数にあるんや。地球がある以上、ミッドチルダがあってもおかしくない」

「そうですよ。地球が無数にあるんなら、ミッドチルダもまたあって然るべきですよ」

はやては動乱を経験する事で度胸がついたらしく、以前とは打って変わっての落ち着きを見せている。黒江の言いつけで、はやての補佐に就いている黒田那佳がグリフィスに言う。ウィッチとしては長い戦歴を持つ彼女だが、意外にも秘書としての能力(彼女の原隊の506統合戦闘航空団『ノーブルウィッチ―ズ』は貴族と華族出身のウィッチが主体で設立された経緯がある。そのためにある程度の折衝能力が求められていた。黒田はその能力に優れていた事で、飛行64戦隊に呼び寄せられた)もあったので、メカトピア戦争後は黒江の秘書を努めていた。その流れでミッドチルダ動乱にも参加していたのだ。

「そういう事か……」

「三人がいなくても、動乱は動いてる。ロンド・ベルが参戦するし、海戦は今のところは互角や。さすがに大和型や。頑丈にできとる」

「大和……」

「そう、日本の別名を持つ日本最新最高の大戦艦。今やあれはミッドチルダの海上の守護神や」

はやては執務室にデーンと飾っている、史実最終時の戦艦大和の模型(タ○ヤ製。何気にエッチングパーツを使っており、作りこんでいるのが分かる姿だ。なのはが暇な時に作ったもの)に視線をやりながらグリフィスに言う。反攻作戦の第一陣は今のところ互角であり、空母戦は優位、砲撃戦と水雷戦では、扶桑の砲撃戦優位をドイツ軍のお家芸の潜水艦戦が帳消しにし、互角の様相を呈していると、ロンド・ベル旗艦「シナノ」を通した観測映像で示されている。

「黒田中尉、連邦軍より通達です」

「ん?こっちに回線を回して」

扶桑海軍兵士からの伝令に、黒田は執務室にある内線電話を取る。

「あ、はい。こちら……はい。彼女が到着した?丁重にお迎えして」

黒田の表情が一気にシリアスになる。ある人物が到着した事が判明したからだ。その人物の名は『インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング』。大英帝国国教騎士団長であり、栄えある旧・大英帝国の貴族の家柄である。名が示すように、かのヴァン・ヘルシング教授の末裔である。

「……まさかヘルシング教授の末裔が貴族になってて、国家機関を統治しとるなんて思わなかった」

「それは私もですよ。ドラキュラを退治した功績で貴族になったんでしょうかねぇ?」

インテグラの祖先であるヴァン・ヘルシング教授は大学教授ではあったが、身分的には平民であったはずだと、はやてと黒田は記憶を辿る。ドラキュラ伯爵(アーカード)を退治した功績でヘルシング教授が何かかしらの爵位に叙任され、その地位をヘルシング家の子孫らが世襲してきたと考えれば説明はつく。インテグラが『ヘルシング卿』との敬称で呼ばれていた事から、世襲可能な男爵以上の爵位にヘルシング教授が叙任されたというのが正確なところだろう。

「確かアリサちゃんに聞いた話やと、イギリスの爵位で、世襲可能なんは准男爵以上やったはず。ヘルシング卿は円卓会議の一員やから、男爵か伯爵かな?」

――ちなみに、よく功績があった人物が叙任される『騎士』は中世・近世以前から意味合いは変わり、旧・大英帝国では貴族階級としての意味合いも持っていた。だが、それは20世紀後半以後は、たいていは一代貴族の爵位としてである。インテグラは『卿』の敬称で呼ばれており、しかも爵位を世襲しているので、男爵以上であろうとは、はやての推測である。そんな雑談を15分ほどしていると……。

「中尉、二佐。卿がご到着なされました」

「来たか……!」

車が止まる音が響く。ドア越しだが、とんでもなくドスの聞いた『おっかない』声がかすがに聞こえてくる。

(うわぉ……ハマーン・カーンにそっくりなこのドス効いてる声!背筋がピーンとなるわ)

(もし、マシュマー・セロがこの場にいたら、『ハマーン様バンザ――イ!!』なんて絶叫しそうですね)

(やな)

はやてと黒田は、かすかに聞こえるインテグラの声色が、未来世界で過去に倒されたネオ・ジオンの女傑『ハマーン・カーン』に酷似していることを心の中でツッコミ合う。そして、ドアノブが回された瞬間、二人は反射的に敬礼の姿勢を取ってしまう。そして……。



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