短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――扶桑海事変は最終局面を迎えていた。『改変前の因縁』から、自分たちが引導を渡すべきだとした圭子と黒江は、皇道派クーデター軍の首魁『堀井』大将の逃げ込んだ帝都郊外の彼の邸宅に、近衛師団、憲兵と共に殴りこんだ。江藤や北郷もその場に同席した。

「閣下、この銃が目に入りますか?」

「う、うむ……」

デザートイーグルを構える圭子。見るからに大口径と分かる、そのオートマチック拳銃は、後にその名を知られる『44マグナム』の更に数倍の威力を誇るのだ。しかもウィッチが銃火器を持てば、魔力で威力面が平均で1.5倍以上に強化される為、フル規格のライフル弾と同等以上の威力を叩き出す事も容易なのだ。

「357マグナム弾をご存知で?」

「リベリオンの作った、熊からの護身用の弾丸だろう?……ハッ!?」

「リベリオンでは、銃器店の店主が試し撃ちでスイカとかを撃つんですが、コイツは二個をいっぺんに粉微塵にぶっ飛ばせるんです。つまり、素でフル規格の小銃弾並の威力があるんですよ♪コイツは357マグナム弾の更に2倍の貫通力を持つ試作品で、それをウィッチである私が撃てばどうなるか、あとは分かりますね♪?」

圭子は脅しをかける。デザートイーグルの最高威力モデルである『50AE』モデルを撃てば、軍用規格のボディアーマーを着込んでいようとも、貫通しなくとも内蔵を傷つけるのは間違いなしの威力なのだ。それをウィッチが撃てば、威力がフル規格の小銃弾を超える威力になっても不思議ではない。愉悦感と、闘争心たっぷりの声、それらしい『素晴らしい表情』(半分はハッタリの演技だが)は、堀井の心胆を寒からしめ、周囲の味方も殆ど引いているほどの効果を挙げた。

「コイツの直撃を受けて、奥様やお子さん方の目の前で『ハラワタをぶちまけて』死ぬか、投降して、軍法会議で真っ当に裁かれるか。あなたはどっちを選ぶ?私はどのみち、『見敵必殺』がモットーだから、本当だったら『眉間をぶちぬいて』ますが」

圭子のハッタリも入った脅しは思い切り効き、堀井は体面と、愛娘達に残酷シーンは見せたくなかったため、あっさりと近衛師団に投降した。抵抗を続けていた部隊も各地で殲滅され、ここに扶桑近代史上初のクーデター事件はあっけなく幕切れとなった。


――その帰り道

「加東、その銃……どうやって手に入れた?」

「未来から持ち込んだ品です。本当だったらコイツ、1979年以後で無いと作られないオートなんで、弾使いたくなかったんですよ」

「おい、章香。今年は何年だ?」

「1938年だ」

「となると、40年先の未来でないと手に入らないって事になる拳銃か、これは」

ガンブルーフィニッシュがなされたデザートイーグルを手に持ってみる江藤。持ってみると、普通の拳銃より重く、銃口などの大きさから、大口径である事が分かる。

「凄いな。こんなの、人間相手には撃てないだろう?」

「本来はターゲットシューティングや熊からの護身で使う為の銃ですから。軍隊でも私物で持ってる奴が少数いるくらいです」

「だろうな。軍事目的に持つにも、357の二倍なんて、『大袈裟』すぎるからな。帰ったら試射していいか?」

「撃つ時の姿勢教えますよ。マグナム使う銃は姿勢覚えないと、大変な事になるんで」

「分かった。しかし、八九式の装甲なら貫通するんじゃないか?これ」

「言い過ぎですよ。そこまで脆くはないと思いますよ…たぶん」

デザートイーグルは当時の常識からは考えられないほどの大型自動拳銃だが、ウィッチであれば、片手でも発砲可能である。拳銃の両手打ちは室内戦闘などを発端にして発達したものの、より発達したCQB(閉所近接戦闘)の概念が現れた20世紀後半以後は両手撃ちと片手撃ちが、両方共に、利き手以外でもできることが推奨されている。基地に帰ったら、講義ができる水準の訓練を受けた圭子と黒江がCQBの講義を行う事になった。戦う相手が怪異であるウィッチには不要であるように思えるが、兵士である以上、ある程度の戦闘訓練は必要だと(後に、亡命リベリオン軍のウィッチ達の一部に『ウィッチは人殺しのための道具じゃない!』という反対論が噴出したりしたし、この時も反対意見が多く出た)圭子と黒江は『地形を利用した戦術の学習として、護身術を兼ねての訓練だ』との題目を使用した。その中で、若本と黒江が手合わせしたのだが……。

「おっ、さすがは若本。いい剣筋をしてる」

「あんたもやるじゃねーか。俺の剣とやり合えたのは、他に美緒だけだぜ?」

「伊達におめーより年食っちゃいない。だからって言って、小坊のガキに遅れを取る真似をするほど、耄碌してねぇよ」

若本と黒江は剣での近接戦闘では互角であった。これは若本が講道館で鍛えられていたという経験と、坂本と竹井よりも実戦経験が長い事も関係していた。

「言ったな!」

若本は攻勢をかけるが、黒江は既に御庭番衆式小太刀二刀流、飛天御剣流などの動きを体得した後の状態である上に、後に会得する小宇宙の片鱗も垣間見える見切りで、若本の刀を受け流す。

「嘘だろ……この俺の攻撃が通らねーだと!?」

「通らないんじゃない、受け流してんだ」

黒江は余裕だった。流水の動きと、小太刀を活用し、若本の太刀筋を完全に受け流す。


「ほら!相手に受けさせないと威力は通らないぞ!」

ヒントを与えつつ、若本を圧倒すると同時に、流れを攻勢に切り替える。この時の太刀筋は磁雷矢に影響を受けてのそれであるので、戸隠流のそれになっている。ヒントを与えつつ受け、流し、避ける。 こうした流れがしばらく続いた後。

「く、くそぉぉぉ!」

若本は起死回生を図り、大上段からの打ちを狙う。

「相手に受けさせるってのはこうするんだ!」

黒江は数秒のうちにに、戸隠流の見得を決めつつ、突っ込んできた若本の手元を払い上げ、そこから必殺技を見舞った。

「秘伝・横一閃!」

未来で磁雷矢=山地闘破から教わった技を使って、若本のがら空きの胴に綺麗に一本入る。若本は一瞬、何が起きたか理解できず、困惑する。

「なんだ……俺は今、何を……!」

この模擬戦で、黒江はこのところの修行を取り入れた戸隠流忍術の太刀筋をもって敵の行動の方向付けを決め、的確な攻撃を行うやり方を実演してみせた。相方の智子の場合は最後に真っ向両断をする事が多いので、そこが二人の微妙な違いとも言えた。

「若本、お前は勢いに身を任せすぎだ。頭で考える前に、体で相手の攻撃を『感じ』、『受け流す』事を覚えろ。そうでないと生き残れんぞ。それと、お前。最後あせって大技入れようとしたろ?」

「お、おう」

「振りかぶれば、降り下ろしの一撃は予想がつく。肩を入れる方向を工夫すれば横薙ぎにも切り換えられる。だが、降り下ろして来たから、下からカウンターでカチ上げて体が伸びきったところに横一閃入れられる。実戦なら、お前は真っ二つ、って訳だ」

「う、うぅ……くそぉ、負けたぁ!」

「必殺技ってのは下ごしらえが大切って事だ。分かったな?」

小太刀を鞘に収め、最後にアドバイスをする。この時の黒江の言葉は若本の心に強く残り、後に彼女が『扶桑最強』の称号を手にするきっかけになったと、後に強襲揚陸艦の所属になる際に述懐するのであった。



――この時に64戦隊が独自に行なったCQB(閉所近接戦闘)訓練が真の意味で功を奏するのは、ここから9年後の太平洋戦争開戦後。扶桑海事変時に64戦隊に属した経験がある『ベテラン』とされるウィッチ達の生存率が特に高いという報告により、CQB(閉所近接戦闘)の訓練の必要性を悟った扶桑全軍は、ウィッチ訓練カリキュラムを改訂するのである。




――決戦は間近である事を示すかのように、怪異の動きが活発化し、ウラジオストクをにわかに戦争の空気が包み込む。江藤敏子と北郷章香は、自身らの政治的後ろ盾になっている『竹井』退役少将、山本五十六大将、米内光政大将などから『新型戦艦のスペック』を知らされ、改めて黒江の言葉が真実であると実感した。

「見ろ、章香。アイツが言っていた『次期主力艦』の正式な予定性能諸元だ。全長、263m。全幅38.9m、速力27ノット、ないしは29ノット、46サンチ砲九門、15.5cm3連装副砲一二門、ないしは六門。ぴたり合っている」

「前々から、あの子が言った事の裏を取っていたのか、敏子?」

「そうだ。部下の報告を鵜呑みにするほど、この商売は甘くはない。それに、黒江の奴は昔からハッタリが上手いから、念のために探りを入れたんだよ。そうしたら、不気味なくらいに合っていた……性能諸元、予定された艦名が『大和』と『武蔵』である事、呉と宮菱長崎で建艦が始まった事も。オカルトにでもハマってるのかと思うくらいの正確さだった。艦政本部なんて、高官が口から泡吹いてたぞ」

「軍機が漏れたのかと思ったんだろう?しかし、これであの子の言うことはハッタリでない事が証明された事になるぞ」

「しかも、あいつはその性能諸元の変遷まで当ててやがる。副砲を減らして、高射砲を増やす案の詳細、その新型……大和型に対抗して建造される他国軍の艦までピタリ当たっている……しかもあいつは艦政本部に提言したらしいんだよ」

「本当か?」

「ああ。牧野茂造船少佐に裏を取ったら、航空攻撃の危険性をばっちり講釈垂れて、それに押されたと話してた。あいつ、未来で何があったんだ……?」

「艦政本部に殴りこんで、造船のプロを説得するなんて、私でも出来ないぞ。敏子、あの子はいったい……?」

「分からん。あいつは陛下の威光を存分に使って、中央の連中を黙らせている。だが、それは越権行為だ。戦争が終われば疎まれるって事を考えているのか……?」

江藤と北郷は黒江の行動力を推し量りかね、唸る。バイタリティが自分たちの倍以上あるのを悟ったからでもある。江藤は度々、『所用』で部隊を留守にする黒江の行き先を従卒に探らせたら、陸軍航空本部、陸軍航空総監部、海軍航空本部、陸軍機甲本部、海軍艦政本部、軍令部、参謀本部、皇居などの中央に乗り込んで、武子が憂いていた事の解決のため、陛下の威光も用いて、中央とやり合っていたのだ。しかし、それは参謀本部から『越権行為』との反発が強く、戦争が終われば、閑職に回される事は目に見えている。江藤はそれを憂いていた。




――この時、ノース・カロライナ級、キングジョージV級と言ったライバル艦までもが的中しているため、逆に『気味が悪い』とさえ思ってしまう江藤。しかも、黒江は艦政本部にいた牧野茂に『舵面積を増加させたほうがいい』と提言し、『万が一にも、航空攻撃で沈められる可能性を考慮すべきであり、艦の追従性能の強化は必要である』と絵付きで説明され、それに押されて設計を変更したと牧野茂造船少佐は話した。牧野少佐は『我々はできるだけコンパクトにするために、263mというサイズに収めましたが、航空攻撃が常用されるようになれば、このサイズでは万全ではないかも知れません』と話し、言いようのない不安に襲われれていた。実際に坊ノ岬沖、シブヤン海にそれぞれが敢え無く散った世界線を知る黒江の提言に、彼は動かされたのだ。後年、大和型の近代化改修の一環で、連邦軍が『航空攻撃対策』と称し、船体の全長と全幅を延長した事を聞かされると、その時の言葉の意味を悟ったという。



「山が…動いた」

陸戦ウィッチ隊のある兵士がそう漏らした『怪異の親玉』というべき、ルービックキューブ型の超大型ネウロイが地上から飛び出し、爆撃機型を複数従え、移動を開始する。前線は攻勢の前に総崩れとなり、ウラル山脈を超えられ、防空体制が整えられたウラジオストクを迂回し、扶桑海に迫る。それに焦った扶桑軍は、紀伊型戦艦二番艦『尾張』を旗艦とした連合艦隊を急遽出動させ、当時稼働状況にあった大型正規空母の『天城』、『赤城』、『蒼龍』、『飛龍』に陸海軍の精鋭ウィッチを結集させる指令を出す。64戦隊は天城の乗艦となり、ウラジオストク港から乗り込んだ。

――ウラジオストク港

「敵はウラジオストクを迂回してきたか。やっぱり私達の介入で、歴史が変化したな」

「まぁ、あたしは何がどうなっても、奴らをぶちのめすだけよ」

「私もだ。こんな事でへこたれたら、『あの人』達に会わす顔がないぜ。ロンド・ベルの誇りって奴を見せてやろうぜ」

「ええ」

智子と黒江は未来でロンド・ベルに属する内に、同隊所属であることへの誇りを持つようになっていた。同時に、歴代のヒーローたちの背中に憧れ、彼らを追いかけている事も自覚している会話だった。

「宮藤や菅野達のためにも」

「マルセイユや真美達のためにも、ね」

「おわっ、なんだよヒガシ、いたのかよ」

「今さっきよ。武子がコンタックスのカメラ一式持って行くって聞かなくて」

「あー……。『戻った』ら買う事になるなあ」

「ああ、あれねぇ。災難だったわね」

「コンタックスって書いてあるから、買ったのにぃ〜!!あいつめ、私にカメラのお使いなんて期待すんなよ〜〜!!」

それはこの『逆行』という事態が起きる数日前のこと。


「コンタックスよ!」

「いーや、ライカだ!!」

「そりゃ両方共良いカメラだけど、なんでそこまでこだわるんだよ!意味わかんねー!」

「カメラと言えば、カールスラントよ、カールスラント!シャーリーはすっこんでなさい!」

「んだとぉ!……ン、ん!?お、おい、それ……よく見たらヤシカのコンタックスで、1970年代以後の日本製じゃねーか!」

「なぁ!?」

武子はハッとなって、ロゴを見てみる。するとと……1961年以前の頭文字だけが大文字のそれでなく、70年代以後の日本製で、文字が全て大文字のものであり、黒江が買ってきた土産の未来製品だったのだ。武子はこの世の終わりのような表情に見る見るうちに変わり、半泣きになる。

「武子、お、お前……」

「か、……か…か、カメラのれ、レンズはカールスラント製よっ!」

「レンズだけかい!!」

……このように、ミッドで、シャーリー、圭子、武子の三者の喧嘩があり、黒江はとばっちりを受け、こっひどく怒られ、『いいから、1961年以前のモデル買って来なさい!いいわね!?』と誓約させられ、新しい釣り用具が買えなくなった。『そりゃね〜よぉ〜!』とハルトマンに泣きついたのだ。その為、黒江は逆行後、武子のカメラを見ると、欲しかった釣り用具を思い出し、『ガクリ』と落ち込むのである。

「フジの奴はこだわりすぎなんだよ、コンタックスがどうとかって。カメラなんて、写りゃいいのに……」

「……黒江ちゃん、黒江ちゃん……後ろ後ろ」

「何だよ、70年代に流行ったギャグみたいな事言いやがって。その手には……って、おわぁ!?」

振り返ると、ドス黒いオーラムンムンの武子がいた。顔は笑ってるが。目が笑ってないため、黒江は逃げようとするが、そうは問屋がおろさない。武子は黒江をあっという間に連行していった。

「ヒガシぃ〜、た、助けてくれぇ〜〜!」

「いってらっしゃ〜い」

「は、薄情者ぉぉ〜〜〜!!」

と、後に智子が同じように、城茂によって連行されていくので、二人はなんだかんだで似た者同士であると言える。天城はこの時と、1945年のロマーニャ最終決戦と、ウィッチ隊と縁が深く、後にジェット機の普及で、ウィッチ隊が強襲揚陸艦付けに移る前の最後の母艦も退役前の同艦であり、天城はウィッチ隊が空母機動部隊所属と扱われた時代の勃興と終焉を見届ける事になる。





智子は艦内で不思議なものを見つけていた。それはこの世界には存在するはずがない鉱石の欠片だった。

「これは……ジャパニウム鉱石?超合金の精錬に使われるあれだよね……なんで天城に……」

飛行甲板に出て、太陽に透かして見る。正しくそれはこの世界には存在しないはずのジャパニウム鉱石であった。

「お守り代わりに入れとこ。何かのご利益あるだろうし」

智子は艦内で拾った、その欠片を懐に忍ばせる。それはマジンカイザーの意志が『彼女に力を与えんがために仕組んだ』事であった。マジンカイザーの意志。それは死後にマジンカイザーと一体化した未来の時間軸の兜甲児の意志でもあった。彼は智子の心残りを知っており、実は今回の出来事の『黒幕』の一角を担っていた。

『これでいいかい、竜馬さん』

『ああ。あいつらの心残りを解消してやるにはちょうどいい。あいつらはこの時間軸を『心残り』だと言っていた。なら、それを解消してやるのがダチ公の努めだろう』

艦内のどこかに浮かび上がる、マジンカイザーと真ゲッターロボの幻影。未来の甲児と竜馬は三羽烏に陰ながら力を貸すことで、助力していた。それは甲児と竜馬が三羽烏と生涯の友情を貫いた証明でもあった。天城の艦内で、幽霊騒動が話題になるのはこの時だったりする。神をも超える二大スーパーロボットの加護がある事など知る由もないウィッチ達。人々のの嘆きの声が、遙かなる未来の機械仕掛けの神々に届き、救いの手を差し伸べている現状をウィッチ達はまだ知らない。



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