短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――扶桑海事変も最終局面を迎えていた。1938年の扶桑海に展開した扶桑海軍連合艦隊・第二艦隊。彼らのもとには、その使命が軍令部総長(前)の独断であり、連合艦隊司令部は承知していない事、また、お上(天皇陛下)も立腹している事が無電で伝えられた。同時に第二艦隊司令長官『嶋田繁太郎』中将は陛下の名のもとに罷免される事、帰投命令が通達されたが、彼らはそれを無視した。艦隊の大半の人員が堀井に与していたからだ。『命令』を死闘を展開するウィッチ隊ごと艦砲射撃を実行した。その狂気はすぐにウィッチ隊へ通達された。

「聞こえるか、中佐……じゃなくて、この時代だと中尉か!」

「長門、どうした?何があった?」

「第二艦隊がそちらめがけて、砲撃を始めた!」

「何ぃ!?どういうことだ!?」

「奴らは本国からの指令も無視して、お前らごと怪異を撃滅するつもりだ!」

「あんの嶋田のハゲチョビンヤローが!!私が第二艦隊をどうにかする!お前らは引き続きのサポート頼む!」

黒江は当時に第二艦隊司令長官であった嶋田繁太郎中将を『ハゲチョビン』と罵倒せずにはいられなかった。思わずそう宣言し、第二艦隊のもとへ向かう。得物は雷切を仕舞い、その代わりに『断空剣』にした。これはダンクーガの改良過程でのスピンオフで造られたもので、この時に偶然にも搭載されていたのだ。ただし、やはり完全な発動(断空光牙剣のような攻撃が出来る状態)には闘争心を必要とするため、闘争心と冷静さの同居が必要なため、極度に集中力が高い者専用であるという欠点を持つ。

「こうなれば、あいつらのように、獣の怒りを超え、人の憎しみを超え、神の領域に達するしか、方法はねー……」

第二艦隊の上空に陣取り、前の歴史で北郷がしたように、黒江は旗艦である近江の司令部へ呼びかける。

「第二艦隊司令部へ。こちら、飛行64F所属、黒江綾香中尉。貴艦らの目的はこちらも把握している。繰り返す。『貴艦らの目的はこちらも把握している』!山本次官らからの無電を承知なら、即刻、母港へ帰投されたし。このまま航行を続け、味方を無視しての砲撃を続行するなら、艦隊ごと『国家への叛逆者』と見なす!これはお上の意志でもあります。繰り返す、お上のご意思であります!」

第二艦隊司令部はさすがに狼狽えた。お上の意志に逆らうのは悪だと、嫌というほどに叩きこまれた扶桑軍人として、流石に陛下に逆らってまで、事を続ける勇気は無いからだが、もはや半ばやけくそになった彼らは自暴自棄とも取れる動きで返答した。全火器を黒江へ向けたのだ。隻数にして数十の艦艇の全火器を一人のウィッチへ発砲した。

「……狂ったか!仕方がない!こんな時に使いたくなかったが……!」

集中放火を潜り抜けるには、ISの使用しか道はないと判断し、ストライカーの緊急射出レバーを自分で引き、ストライカーを破棄し、落下していく。

「奴は自殺志願か?」

そう嶋田中将が言った瞬間、黒江は未来から直接持ち込めた秘密兵器を使った。地球連邦軍第一世代にして、ISの区分で言えば『第3.5世代』インフィニット・ストラトスを。

『来い、旋風(つむじかぜ)!!』

この時、旋風は第二改装直後であり、アーマー部が小型化され始めた『中間形態』であった。後の第三形態が『パワードスーツ』の体裁が強いサイズとなるのに対し、この時はまだ原型とコンバットスーツの中間点ほどのサイズだった。だが、個人戦闘装備の運用歴の長い連邦軍の熟練された設計陣の妙技か、装備の基本レイアウトはこの時には完成の域に達していた。他のISと違うのは、MSほどではないが、一定の固定装備の存在で、F9系MSでよく見られる『腰部にフレームのアームを介し、左右一門ずつのヴェスバーを携行している』のが外見上の特徴である。その威力はF91と同程度で、一年戦争の際のジオン系MSであれば、どんな機体も一撃で三体をぶちぬく事が可能である。

「23世紀で最強クラスの可変速ビームだ!特と味わえ!ヴェスバー、高速モード!!いっけえ!」

ヴェスバーを貫通力がある高速モードで放つ。それは最上型軽巡に命中した。哀れな事に、実験台になったのは鈴谷であった。鈴谷の後部船体に小さい穴が空く。超高温に熱せられた内部で塗料が燃え、火災を起こす。これが非公式であるが、史上初の『ビームによる艦艇の損害』となった。

「鈴谷、炎上!!」

「ば、馬鹿な……あの、あの小娘は何をしたのだ!?鋼鉄で身を固めた軍艦をこうもあっさりと!?」

嶋田中将はみっともないほどに狼狽える。黒江の怒りの攻撃は続いた。

『飛天御剣流・龍巣閃!!』

刀を乱舞させるこの技、飛行しながら、断空剣で放ったので、最上型の15.5センチ砲(まだ換装前だった)の全ての主砲塔の砲身を順番にまっ二つにして切り裂く。これにより、艦隊の砲火力は目に見えて減る。戦艦の主砲、まてやミッドチルダ動乱の際、未来世界の技術で自動装填装置が備えられるより遥か前の人力での装填速度は、ジェット/ロケットで飛行するISからすれば、隙だらけと言えるので、殆ど意に介さない。ましてや、数少ない有効手段である対空榴散弾は、大和らのみの装備で、扶桑軍では考案中の段階なのだ。

「お次はこれだ。ミサイルの雨で派手に燃えやがれぃ!」

ウェポンセレクトを瞬時に行い、両足に展開したマイクロミサイルポッドの全弾を駆逐艦に向けて発射する。この当時では迎撃は愚か(偶然でもない限り)、回避も不可能なロケット兵器、しかも速度はM.4を超えるのだ。この世界で後に現れるフリーガーハマーでも、せいぜい650キロ前後なので、この時代では『超高速』と言える。扶桑軍が後年、ミサイル兵装の研究に熱心となるのは、この時が原因の一つなのだ。


「なんなのだ……なんなのだ……小娘ぇええええ!?」

あまりの惨劇に、声が裏返る嶋田中将。初春型駆逐艦、吹雪型駆逐艦の複数が、マッハ4を超える直線速度のミサイルを喰らい、武装の多くを失って無力化し、中にはダメージコントロールに失敗して、魚雷が誘爆して轟沈するモノも多数生じる。第二艦隊は黒江は一人のために、半身不随となったのだ。

『おい!!嶋田のハゲチョビン親父!耳の穴かっぽっじて、よーく聞きやがれ!!どうせこの任務終わったら、どっかの芸者で遊ぼうと思ってるだろうけどな。そうは問屋が卸さねーぜ!!』

ここまで来ると、完全に江戸っ子の啖呵である。兜甲児や藤原忍の影響がモロに出ていると言えた。無電で言っているため、当然、皆にも聞こえており、江藤は『あいつ…江戸っ子だったっけ?鹿児島のはずだが……』と困惑し、武子に至っては事情を聞かされているのだが、それでも驚きのあまり、一瞬固まってしまった。

「智子?綾香って、こんな性格だったかしら……?」

「あー。向こうでの同僚に江戸っ子気質の奴がいてね。それで移っちゃったのよ」

「あー、なるほど〜……って!おかしいでしょ!?ここまで普通は変わんないでしょ!?」

黒江の元来の喋り方からは大きくかけ離れた、江戸弁を連想させる、小気味良い啖呵ぶりに全力で突っ込む武子。智子が華麗にスルーする様子から、どうしても言いたかったらしい。無線で啖呵を切って、嶋田繁太郎を恫喝する黒江の声に思わず苦笑いの武子。


――一方、深層でこの様子を『見ている』この時代の黒江当人は号泣ものだった。

(ち、ちょっとぉ――!?なんで江戸弁なのよ!?つーか、相手は海軍のお偉いさんなんだぞ!?あ――やめてぇぇ〜!)

体の主導権を取られている『彼女』には、肉体を動かす、未来の自分を止める手段はない。まさに『未来の自分』の為すがままであった。

(うん。騒いでも止められないし、諦めよう……ばあちゃん曰く、『諦めが肝心ぢゃ』……)

と、錯乱しつつも半ば悟ってしまったらしい。彼女が聞く、『未来の自分』の『ざけんじゃねーぜ!』、『ハゲチョビン親父!』などのボキャブラリー。過去の黒江自身、何かを悟ってしまったらしく、この頃には健在だった祖母の言葉を思い出すのだった。

(ああ、あの私、少女倶楽部、買ってるわよね?今月の特集は気になってるのにぃ……)

同時に、当時、ウィッチの間でも読まれていた人気雑誌『少女倶楽部』の事が気になる辺り、歳相応の少女らしい面があるのが窺える。(ちなみに、未来の当人はロンド・ベル隊の同僚らの影響で『宇宙の艦艇』、『移民惑星での釣り講座』、『釣り師・地球版/銀河版』、『航宙ジャーナル』、『アナハイム・エレクトロニクスMS事業部編・MSアーカイブ』などの大判雑誌、仮面ライダーらの影響でモータースポーツ関連の雑誌、甲児や竜馬らの影響で、23世紀でも存在する日本の人気少年・青年漫画雑誌を愛読しており、大きく趣向が変わっているのが分かる。)

(あーあれか。すまん、今月は忙しかったから忘れてた)

(嘘でしょ〜!?欲しかったのにぃ〜!!)

(待てよ?穴拭のやつが定期購読してるから、それを見ればいいじゃん)

(本当!?良かったぁ!)

(……本当、この頃の私って、こんなんだったんだなぁ。神保先輩には知られたくないな、こりゃ。絶対ネタにされそう。あーーー、先輩に会わないようにぃ〜!)

未来の方の黒江は、姉のように慕う47F時代の長機である『神保』大尉(後、飛行47F所属)にこの頃の言動を知られたくないらしい。このように、黒江の深層心理では、『二人の黒江綾香』がそれぞれ別々に物事を考えているのが分かる。


――なお、神保大尉は黒江の編隊空戦、一撃離脱戦法の師でもあり、彼女の引退時、黒江が人目を憚ずに、『せぇんぱぁあい〜!』と号泣したという逸話が伝えられており、空軍の設立時には統合参謀本部付けの幕僚(当時には大佐)に抜擢されていた。その後、実戦へのリハビリを兼ねたデザリウム戦役で『黒江が姉のように慕う』点で地球連邦軍の注目を浴び、パルチザン合流後は、パルチザンでの三羽烏、特に血気盛んな黒江と智子のお目付け役として活動するようになるが、(圭子が武子の補助と、各勢力との折衝で留守にすることが多くなったため、黒江を制御できる人材をパルチザン側が必要とした)それは未来の話。





――そんなこんなで黒江は、過去と未来の自我を併せ持つ(主導権は精神力が遥かにあるのもあり、未来の自我が握っている)状態で第二艦隊を完封する。ヴェスバーの絶大な火力もあり、その全てを見せるまでもなく、第二艦隊の過半数は戦闘不能に陥っていた。沈没艦の全ては駆逐艦で、ダメージコントロール術理論の未熟さも露呈する格好となった。

「ち、長官!我が艦隊の過半数はもはや戦闘不能であります……」

「戦艦は!」

「ハッ、本艦を始めとして、全て無傷です。しかし対空に戦艦の主砲は……」

「あるだろう。試製の対空榴散弾が」

「まさかアレを!?」

「あ奴を落とせるのはこれしかない!急げ!!」

それは当時に試作段階に漕ぎ着けていた零式通常弾のプロトタイプであった。VT信管が現れる前の各国はこうした取り組みを独自に行っており、零式通常弾や三式弾はその過程の産物だった。だが、より優れたVT信管が備わり、更なる強力な対空手段の対空ミサイルやCIWSが加わったため、次第に戦艦の主砲で対空射撃を行う必要性は減っていくが、扶桑軍は戦艦の対空射撃の有効性を重視し、後年に至ってもその子孫らが積まれていくのであった。

「何ぃ!?戦艦で射撃をするだと!?零式通常弾か!?」

黒江が連想したのが零式通常弾な辺り、ミッドチルダ動乱以後、三式弾の対空砲弾としての地位が低下しているかが分かる。

「弾頭を撃ち落とすしかねー!えーと、こういう時はハイメガランチャーだ!」

咄嗟にZガンダムと同じ型(サイズは相応だが)のハイメガランチャーを召喚して、弾頭を撃ち落とす準備をする。慌てていたので、射程と威力の事は頭からスッポ抜けていた。

「なんだあれは!!」

艦隊首脳部が第一砲塔を斉射した瞬間、参謀の一人がハイメガランチャーを構える黒江を双眼鏡越しに凝視した。この参謀、後に源田実の誘いで空軍へ移籍し、連邦軍からのZ系の購入の必要性を説き、自ら音頭を取って推進するのだが、それはこの時の体験から来ていた。

「当たってくれよ!ハイメガランチャー、いっけえ!」

ハイメガランチャーのビームはプロトタイプ零式通常弾を蒸発、あるいは爆発させ、その勢いで紀伊の第一砲塔を吹き飛ばす。紀伊はそのショックで爆発・火災を起こす。と、そこへ、山本五十六が潜り込ませていた人員が操艦する初春型駆逐艦の一隻が近づき、盛大に自爆を敢行する。この余波で紀伊は甚大な被害を被る。と、そこへ高空からの更なるビームが放たれ、紀伊の上部構造物の殆どが焼かれる。黒江もこれには驚いたが、反応と映像で確認し、納得した。

「なんだ、穴拭かよ。脅かしやがって。ディバインバスターかエクセリオンバスターでも撃ったか?」

「貴方に注目してたおかげで、私に気づいてなかったから、楽だったわ。電探もない時代だし。山本さんの差し金の駆逐艦の自爆と同時に撃ったのよ。怪異の仕業に偽装するために、限度いっぱいまで上がってね。これで紀伊は曳航できても、修理に年単位。その間にモンタナができるから…」

「純粋な戦艦としては陳腐化してるのを身を以て思い知らされる訳か。可哀想に」

「さて、戻るわよ。私のユニットは相当に無理させたから、別の個体に替えないと」

キ27は荒い扱いができる反面、限度いっぱいの高高度飛行はエンジンに負担をかける。そのため、この個体はオーバーホールが必要になったらしい。。

「よし、そうしよう。だけど、どうする?IS展開しちまったし」

「空母が近づいたら解除して。なんとでも誤魔化すから。第二艦隊の連中が言ったところで、官僚が握りつぶすでしょうし」

「わかった。でも、初春型を相当に破壊したから、駆逐艦足んなくなるぞ?」

「山本さんなら想定内でしょ。『雑木林』の情報は流しておいたから、数年は早まると思うわ」

――雑木林とは、松型駆逐艦の事だ。戦時量産された駆逐艦で、ミッドチルダ動乱では、夕雲型駆逐艦などの大量喪失に対応するため、多数が補充に送られる予定の艦でもある。智子の策で登場が数年早まり、1940年末には『松』、『竹』、『梅』が竣工するに至る。後の太平洋戦争においては、改良型として設計された第二期生産型『橘型』が主要され、史実海自護衛艦タイプの登場まで、改秋月、有明型(ギアリング級タイプシップ)戦線を支えるワークホースとして名を馳せるが、それも未来の話。



――紀伊は修理完了からそれほど時間が経過しない内に、最新鋭のモンタナ級に圧倒され、呉沖の海底にその身を横たえ、艦歴にして10年未満の短命に終わる未来が待っており、近江も艦齢にケチがついたためか、後にスクラップ扱いで連邦軍へ売却される結末を迎える。それを思い、同情するのであった。




――数十分後、ISを解除した黒江は、後方に控えていた空母『風翔』で補給を受けた。そこには江藤も補給を受けており、早速ながら、先ほどの啖呵に質問が飛んだ。

「聞いていたが、さっきのアレは聞いていて、スカッとしたぞ。ハゲチョビンなんて。大笑いだぞ」

「隊長」

「武子から事情は聞いた。次の時は思い切りやれ。国の大事に派閥抗争を持ち出すような奴らのことなんて気にするな。全責任は私が負う。話じゃ、私は本当なら『章香と、艦隊の砲撃を阻止』して、軍を去るんだろう?どの内、派閥抗争には嫌気差してたから、いい大義名分になる。次の戦争でどの内駆りだされるなら、その間にいい次の稼業の練習期間になる」

「喫茶店の練習ですか?」

「そうだ。幸い、もう土地は買ってあるしな」

江藤は軍を去った後に喫茶店を開業する。これは歴史の必然と言えたが、違うのは、次の戦争の時には復帰する決意を固めた事だった。梅津美治郎参謀総長直々の直談判に応じた背景に、この事が加わったのだ。この時、黒江らが『自分から受けた恩に報いる』ための行動を知り、江藤もそれへのお返しの行動を取った。その内の一つが、黒江に『全力を出す』事の許可であり、次の『戦争』でのカムバックなのだろう。

「早いっすね」

「後はコーヒーの入れ方を教わるだけだ。アイツ、豆にもこだわるから、勉強になる。もちろん、お前はコーラの方がいいんだろう?」


「な、なんでそれを」

「帳簿に書かれてりゃ、小学生でも分かるぞ、お前。リベリオンからどさくさ紛れに輸入しおってからに……。あの黒田の分家のお嬢の影響だろ?まったく……」

江藤が言うことは、黒田がコーラ好きなため、その布教にハマった事の表れで、二大メーカーのをしっかりと半々で輸入するあたり、黒田の影響が大であると理解した事だ。江藤は何故、部隊の倉庫にコーラが置かれているのかと疑問に思っていたが、黒田の来訪で、謎が解けたのだ。

「しかし、驚いたぞ。お前が分家とは言え、黒田の息女と関係があるなんて」

「ひょんな事から知り合いまして」

――黒田が江藤に喋ったのと、武子からも事情を聞いたため、黒田と三羽烏の関係を知った江藤は、当然ながら腰を抜かした。そこから統合戦闘航空団の結成と、そこを舞台にした政争も知り、ますます軍内部の派閥抗争を嫌うようになった江藤。そのため、ベトナム戦争で黒江らを前線に呼び戻したのは、それらを宛にしていなかった故で、彼女の考えはそこにあった。、


「さて、行くぞ。あー、黒江。今度の出撃の時は持ってきた奴で出ろ」

「あー、隊長。風翔だと、甲板がジェットの高熱に耐えられませんから、アレはいきなり使えません。ストライカーで出て、途中で切り替えたりしないと無理です」

「本当か?」

「ええ。ジェット噴射させたら、風翔の木製飛行甲板なんて燃えちゃいますから。せめて大鳳ならなぁ」

「いや、重力制御入ってるし、浮かんでGOとかできません?」

「黒田か。出来ないことはないが、うーん……」

「んじゃ、アームド級空母みたいに、母艦舷側から出るってのは?」

ここで黒江はピコーンと頭の上に電球が点った。同時に走りだす。

「あ、先輩。どこ行くんですか?」

「閃いたんだよ!ISで風翔から出る方法が!」

「えぇ〜!もう〜、いつもこれなんだから!」

と、愚痴りつつもついていく黒田。

――そうか。こんな風になるのか、黒江の奴。確かに武子の言う通り、相当に押しが強くなってるな。あれじゃ武子も相当に振り回されてると見える。フフ、神様に感謝だな。本当なら、軍服を着てるうちには見ることなかったというからな。



――甲板に出た黒江は右舷側から飛び降り、その瞬間に旋風を展開するという方法で発艦に成功する。

(なんか、アームド級の発艦みたいだな。まっいいか)

超音速で向かった黒江。武子達の戦場では、更なる援軍も参戦した。

「ん?墜落…してない……?」

坂本はエンジントラブルにより、片方のストライカーが爆発、海面へ落下したに思われたが、気が付くと、誰かに抱かれていた。助けられたのかと、坂本が顔を上げると……。

「危ないところでしたね」

「あ、あの……貴方は……?」

坂本を抱きかかえていたのは、新たに参戦した艦娘『加賀』だった。彼女のどことなくクールな印象の佇まいと、弓道着を着込んだ格好……。坂本には大人っぽく思えた。

「航空母艦、加賀です。よろしく」

「加賀……」

「おい、ちょっと待て!加賀って言ったら戦艦だぞ!空母じゃ……」

降りてきた若本が、至極当然のセリフを言う。

「ええ。私は改装空母ですので」

坂本を若本に渡すと、加賀は矢を取り出し、番える。その色は緑だ。

『……鎧袖一触よ。心配いらないわ。』

その言葉と同時に射る。矢は途中で光とともに戦闘機となる。ただの戦闘機ではない。コスモタイガー、それも新コスモタイガーである。加賀は宇宙艦として生まれたあと、戦闘空母化されたので、使役できるのだ。もちろん、実機の性能そのまま(サイズは小ぶりだが)なので、怪異を圧倒する。

「すげえ……あんな数を圧倒できるなんて」

「仮にも、私は栄光の一航戦を担った空母ですから。あの程度は物の数ではありません」

加賀は何気に、扶桑でも有力な航空戦隊の一航戦を担った事をアピールする。若本は加賀の強さに惚れ、坂本は言葉もなく見とれている。これが坂本、若本と加賀の出会いだった。

「さて、とどめといきます」

加賀は左腕に、手持ち型の三連装ショックカノン(砲塔が篭手のように現れ、トリガーは砲塔の横についている)を召喚し、なんと艦砲射撃を見せた。これは彼女の出自のうち、戦艦としての側面の具現化と言えた。それで大型怪異を倒す。

「私は空母であり、戦艦でもあるのです。言わば『戦闘空母』とだけ申しましょう」

「戦闘空母……」

「で、でも……主砲で対空射撃なんてできるのかよ?」

「近いうちに、長門と大和が撃った砲弾が実用化されますし、やろうと思えば可能です。それに宇宙では、対空も対艦も目標の大小以外変わりませんし」

「お、おい。宇宙ってなんだよ、宇宙って〜!」

加賀は自身を戦闘空母と称した。そして、チラッと宇宙艦時代の事も示唆するあたりは『ちゃっかりしていた』。そして、武子のもとには。

『そこの陸軍さん、退避して!ここは引き受けるわ!』

「え、ちょっと待って。あなた何者?」

『ふふん、教えてあげるわ。私は五航戦!次期主力空母『翔鶴型航空母艦』二番艦の瑞鶴よ!』

歴代航空母艦の中でも快速を誇る翔鶴型航空母艦。その二番艦『瑞鶴』。ツインテールの髪形で、元気っ子的な性格の彼女もまた、加賀同様に戦闘空母であり、コスモタイガーを矢を射て発進させる。



――ちなみに後に判明するが、翔鶴と瑞鶴は声がロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ(506名誉隊長)に酷似しているため、一計を案じた山本五十六の命で、同隊再編の許可を引き出すという、アカデミー賞ものの演技を見せたという。この事をペリーヌが知るのは、1948年だったという。


――空母艦娘の参戦もあり、制空権は次第に連合軍側へ傾くが、遂に怪異のボスとも言える超大型が現れ、上空のウィッチらをビームで薙ぎ払う。怪異が高出力ビームで狙い撃ったため、高齢ウィッチを中心に死傷者が生じる。更にその護衛が、この時間軸ではありえない怪異だった。

「嘘でしょ!?そんな、あの怪異は……!?」

「馬鹿な!?アイツが出現するのは『39年』のはずだ!?」

智子と圭子が驚愕し、愕然となる。その怪異は人型の怪異だった。本当なら出現は1939年以後のはずである。これには流石の智子も開いた口が塞がらない。

(なんで、なんで……こいつが!?こいつは『あの時』に皆で頑張って、ようやく……!)

人型怪異。それは本来の時系列では1939年以後に散発的に出現し、芳佳も接触するはずのものだ。だが、智子や圭子の記憶と違うのは、『それが明確な敵意を持って、この時代の常識を超える機動で襲いかかった』のだ。

「ぎゃあぁあああ―――!」

ウィッチの誰かが怪異に胸を貫かれ、そこから一気に真っ二つに引き裂かれる。残虐性と容赦の無さは史実の個体の比ではない。しかも、最初から『エース級の機動』と『柔軟な思考を持ちあわせて』おり、ありえないほどに強力な力を持っていたのだ。またある者は。

「い、いやあああああああ!!」

なんと。魔力の全てを吸収され、『自らのダメージコントロールのエネルギー』に変えられてしまい、ウィッチとして戦えなくされる。これにウィッチ達は怯え、攻撃を躊躇ってしまう。それに対抗できる力を持つのは、魔力に加え、気も操れる智子と圭子。それと――。

『心にて、邪(よこしま)を断つ!!名付けて断空剣!!(忍さん達、技、借りるぜ!!)』

人型怪異の一体が光と共に斬り裂かれ、消滅する。一同は怪異を倒した者に、瞠目する。それは。

『怪異共!この私が来たからには、テメーらの勝手にはさせねえ!やぁあってやるぜ!』

断空剣を持っているためか、お約束の藤原忍(獣戦機隊)の口癖を真似るお茶目さを見せる黒江。だが、お茶目さを垣間見せつつも、生来の剣技を以て、怪異を倒す。

『飛天御剣流・龍巣閃!!』

飛天御剣流の技を断空剣で放つ。これは全身を高速で連続攻撃する乱撃術で、智子はまだ習得していない技である。断空剣の鋭い切れ味と、飛天御剣流の高速と、それを再現できるISの高性能とが合わさって初めて可能な芸当だった。人型怪異の一体はコア含めた全身を細切れに破砕され、消滅する。

「なんだ、あの機体は……?」

「新型なのか……」

ここで始めて、ウィッチ達から黒江が使っているモノが未知の何かである事に気づき、声を出し始める。その間にも、黒江は飛天御剣流の技を使う。

『飛天御剣流・龍巻閃!』

相手の手刀を躱し、背後に回り込んで、回転しながらの遠心力を加えた一撃を背部に食らわせ、コアを斬り裂く。黒江は未来兵器を使っているので、このような芸当が可能だが、他のウィッチは刃を折られたり、刃毀れが起きるなどして、不可能であった。それは断空剣の原理が、獣戦機隊の母艦であったガンドールのガンドール砲の理論を応用した、実質的には実体剣に見える『レーザーソード』だからで、エネルギーで分子構造を断ち切るので、怪異の装甲も薄紙のように切り裂けるのだ。見かけは刀身が長めの西洋剣なので、剣の専門家である北郷は首を傾げる。

「馬鹿な!扶桑刀で歯が立たないものを、ああも簡単に斬り裂くソードだと!?あり得ない、あり得ないぞ……」

彼女は講道館剣術の師範代であり、古今東西の剣の専門家を自負していた。そのため、滅亡した中国歴代王朝にあった青竜刀などの知識もあった。その彼女が切れ味の面で世界有数と評価した扶桑刀で切れないものを、軽く断ち切る黒江のソードは謎の存在なのだ。その時だった。武子が被弾したのは。、

「武子ぉぉ――っ!?」

「武子ぉ!?」

『フジ!?』

智子、圭子の悲鳴と黒江の驚愕が同時に響く。医療ウィッチが回収し、懸命に初期治療を行う。

「わ、私は大丈夫……よ」

武子のこの痛みを堪えながらの声で堪忍袋の尾が切れたウィッチがいた。それは意外にも圭子だった

「よくも、よくも………武子を……!!うあぁあああ――ッ!!」

圭子の仲間を傷つけられたことへの灼熱の怒りは魔力を極限にまで高ぶらせる。同時に彼女の持つ将来的因果を呼び覚ました。圭子の叫びとともに、彼女を中心に緑色の光と竜巻が巻き起こり、彼女をなんと高度20000mにまで巻き上げた。そのエネルギーの正体を知る、智子と黒江はこう零す。『ゲッター線……!!』と。




――光に包まれ、高度20000まで巻き上げられた圭子はここで、彼女自身の最終的な因果を担う存在を目撃する。

『真……ゲッターロボ……、竜馬さん……!?』

この世界には存在しないはずのスーパーロボット『真ゲッターロボ』がゲッターバトルウイングを展開し、ゲッタートマホークを持ったポーズで仁王立ちしていた。その肩には、流竜馬がヘルメットを被ってない防護服の姿で立っている。

『約束通り、来てやったぜ!ダチ公!』

――竜馬と圭子とが交わした約束。それが何なのか。それはここで語るべきではないだろう。圭子は全てを悟ったような安心した表情となっており、竜馬も微笑んでいた。

『竜馬さん、お願い!私達には守りたい大切な時間が、場所が、仲間があるの。だけど、私達の力だけじゃ守れない……!竜馬さん、貴方の力を貸して!!』

懇願する圭子。人生で最大限と言えるほどに、必死に竜馬へ訴えかける。竜馬は答える。

『ああ、いいぜ。元よりそのつもりで来た』

『竜馬さん……!』

『守りたいものがあるなら、命を燃やせ!!全てを賭けて戦うのなら、今がその時だ!!』

竜馬の叫びと共に、真ゲッターはストナーサンシャインを圭子に浴びせる。圭子はそのゲッターエネルギーを吸収し、自家薬籠のモノにする。その余波で、高高度で稼働を停止していたストライカーは抜け落ちる。足元に正方形二つ重ねた八芒星の魔方陣が足場に展開される。同時に、圭子が巻いていたマフラーがゲッター線の作用で竜馬のそれと同じ状態になり、顔にはゲッターの模様が浮かび上がる。

『うぉおおおおおおおああああ――ッ!』

ゲッターエネルギーが体中から迸る、『ゲッターエネルギーとシンクロした』状態になった圭子。巻き起こる生存欲からの闘争心を、持ち前の精神力で押さえつけ、正気を保つ。

『これが……これがゲッターの力……。ありがとう……竜馬さん』

『この時間で、俺ができるのはここまでだ。後はお前達の力で切り拓け、望んだ未来を!!』

竜馬の言葉に頷き、圭子は戦場へ舞い戻る。望んだ未来を切り開くために。





――智子も、ほぼ同時に胸にしまってあったジャパニウム鉱石の光に包まれた。同時に彼女も目撃した。鋼の魔神を、戦友を……。

『マジンカイザー……、甲児!?あんた、どうして……!?」

『智ちゃん、前に言ったろう?ピンチになったら力を貸すって。ダチが困ってるのに、時間も次元も関係ねーよ』

『甲児ぃ……』

智子は感極まったか、感動のあまり泣き始める。そこが圭子との違いであった。

『俺はいつでも、人々の嘆きの声に手を差し出してきた。どんな小さい声も見捨てずに。今度は智ちゃんを助けるために、手を差し出そう。それが君と交わした『約束』だからな』

『それじゃ……!』

『ああ。君に与えよう。皇帝の力の証を!穴拭智子!その身に宿りし、皇帝(カイザー)の力をかざせ!!』

甲児も智子に力を与える。智子は叫ぶ。甲児の友情に報いるために。

『ぬぅうううううん……はぁああああああっ……たあああああああっ!』

胸の中央部から漏れる光が剣の柄の形になる。それを一気に引き抜く。

『カイザー――ブレェ―――ドッ!』

同時に智子の熱くなった心が、未来で得た新たな固有魔法を発動させる。黒い頭髪の色が青となり、瞳は銀となり、オーラのように、青白い炎が包み込む。同時にストライカーは抜け落ち、ミッドチルダ式飛行魔法を発動させる。光が晴れ、周囲が智子の現状を認識できるようになると、驚愕に包まれる。

「なっ!?あれはオレと同じ『覚醒』!?」

「いや、お前のものとは何かが違う……なんとなくだけど、そう思うんだ……」

智子を最初に視認した若本と坂本はその一言を言うので精一杯、江藤は更なる衝撃に顎が外れかけた。

「お、おい、黒江!説明しろ!!こ、これは一体どういう事だ!?穴拭は覚醒系の固有魔法じゃないはずだぞ!?」

「いや、アイツは『手に入れた』んですよ。新しい力を!私が魔力を電気に変換、あるいは属性付加ができるようになったように、アイツは覚醒系の最高位とも言える『変身』を!』

「何ぃ!?」

カイザーブレードに炎を纏わせ、天にかざす智子。それは智子の願いと、甲児と皇帝の友情が実現させた奇跡。ゲッター線を迸せながら、戦場へ舞い戻る圭子。断空剣をかざし、智子の隣に並び立つ黒江。真ゲッターロボとマジンカイザー。二大スーパーロボットの助力を得た智子、黒江、圭子の三人は『未来を切り開く』ための最後の決戦に挑む…。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.