短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――ブルートレインが北海道に近づきつつある中、ハインリーケは、智子に問う。

「穴拭大尉、だったか?どうやって、未来の兵器を持ち込んだのじゃ?お主がいくらスリーレイブンズの一人と言っても……」

「それは綾香の専門よ?まあ、一言で言うなら、あたし達は連邦宇宙軍にも籍置いてるから、そっちからの出向扱いだから、好きにできるのよ、装備の配備。ミーナ中佐の細かい裁可もいらないしね」

「だからって、可変戦闘機やモビルスーツ、ISまで好きに使えるというのか?妾達でさえ、黒田中尉のストライカーは、私の予備機だった機体を回したというのに」

「まぁ、連邦宇宙軍の後援受けてるからこそ、できる芸当よ、ハインリーケ少佐。ミーナ中佐、あたし達をどうも冷遇してるぽいし」

「どうして、そう思うのじゃ?」

「戦闘要員のブリーフィングで、私達に話を振らなかったりするもの。あたし達をロートルの戦闘要員外って見てる感じがプンプンしてるもの。まぁ、この間の模擬戦闘訓練で鼻を明かしてやったけど」


この日から数週間ほど前の模擬戦闘訓練は、坂本の提言で行われた。その際に黒江は、未来で見につけた雷撃魔法『トールハンマーブレイカー』を使用したのだが、その魔法は当然ながら、希少な電撃使いの中でも、一番にビジュアル的意味でも、威力面においても高いものだった。更に雷光斬を披露した事が、ミーナを驚愕させた。

――剣を天空に掲げると、ペリーヌのトネールが児戯に等しいほどの現象が起こる。いきなり空が曇天に渦を巻く。そこから雷槌が剣に降り注ぎ、剣にエネルギーが充填され、その雷撃をロス無しに放つ魔法など、固有魔法でもないレベルのレアスキルだ。更に雷光のエネルギーを剣に充填し、斬撃とする――

「たぶん、綾香の雷撃が効いたのと、坂本の提言ね。あの子がかけあってくれて、実現したし」

「ミーナ中佐は、何をそんなに警戒したのじゃ?そのような者が居れば、百万の……」

「あたし達は『リウィッチ』なのよ。分かるかしら?」

「妾達のもとには、噂程度だが。そうか、だから警戒したのじゃな?」

「あたし達は43年までの時期に、一度上がってるのよ。それもあって。ミーナ中佐のところには噂も届いてないみたいで、坂本も苦労したみたい」

「坂本少佐はなぜ知っていたのじゃ?」

「前に共同戦線貼った時期に、うちの部隊の子達の一部と親しくなったみたいで、そのラインで、私達が現役に戻ったのを聞いてたみたい。それで擁護してくれたみたい」

「現役時のお主らを知っておれば、必然的に擁護する。お主らは伝説のスリーレイブンズなのじゃ。まして、直接見て知っているのなら、当然のこと。ミーナ中佐の志願年度は、カールスラントが押されこまれつつあった1939年。お主らが活躍した戦は知らんのじゃ。それが坂本少佐と、ミーナ中佐の温度差なのじゃろうな」

「だろーなあ。ミーナはあたし達の絶頂期の頃は、まだ音楽に邁進してたって言うし。軍に入隊した直後の時期には、あたしはスオムスだしなぁ。綾香は航空審査部で飼い殺し、圭子は広報部のジャーナリストになってたから、ミーナが軍生活送り始めた時期は、ちょうど、あたし達のキャリアが後半もしくは終わってた時期になるからなぁ〜……」

智子はジェネレーションギャップに打ちひしがれる。坂本や竹井、黒田の同期までならば、スリーレイブンズの名を聞いただけで恐れ入るほどの威光があり、特に坂本や竹井の世代は無条件でパシリにできるほどの影響力だったが、この時代となると、三羽烏はクロウズを差すことが当たり前であり、スリーレイブンズの名は『遠い昔の伝説』とまで言われていたからだ。

「お主らは『遠い昔』のウィッチと見られているじゃろう。ましてや、活躍したのが1930年代後半の戦間期では、中佐が『敵が弱い時代』のウィッチと低く見ている事も考えられる。扶桑海の頃は、ビーム撃つ怪異はほとんどいなかったと聞いているしの」

「うそー……たった7年か8年くらいじゃないの。そんな昔の人間扱いだなんて……ジェネレーションギャップぅ……」

「先輩、今のは効きましたね……」

「当たり前よ!あたしゃ、まだ23よ、23!ピッチピッチのガールよ、ガール!!昔の人間扱いだなんて、心外よ心外!!」

「二十代ならレディじゃろ、ガール名のって良いのは十代前半までじゃぞ……」

「黙らしゃい!!肉体は10代中盤だから、十分に名乗れるわよっ!」

「どっちみち、ギリギリではないかっ!」

「るさいわねっ!!」

しかしながら、扶桑の感覚では、智子は行き遅れ、とまでは行かないものの、結婚を心配され始める時期なので、ロンド・ベルには、お見合い写真が届いている(黒江も)ので、ロンド・ベルの担当者を爆笑させている。智子の場合は、両親が溺愛している都合上、姉に習って〜という手紙が同梱されていて、一応の確認のために閲覧する担当者を爆笑させていた。智子はすっかり倫理観が23世紀に染まっているので、キャリアウーマンに生きるつもりなので、両親の手紙が恥ずかしいのだ。特に、若かりし頃の秘密の都合、恋愛に自信が持てなくなったのが大きかった。それが初恋であったのもあり、恋愛感情に自信がなかったが、RX=南光太郎の事を考えると、胸が熱くなって、自然と動悸もするようになっていた。ここまで来ると、恋をしているのは明確だが、智子は過去のこともあり、恋愛に臆病になっていた。特にレズビアン疑惑を自分でも払拭できていないため、恋愛に関しては自己嫌悪に陥っていたからだ。

「しかし、お主が噂のリウィッチ、か。そうなると、何か変わるのか?」

「ええ。別の固有魔法が得られる場合もあるわ。時間を覚醒したてまで戻す場合とかによるけど、なにかかしら、別の固有魔法が覚醒するのよ。あたしは覚醒系の究極と言える『変身』、綾香は『雷槌』だったわ。圭子は別の方向で強くなったけどね」

「ふむ。それであの『青い炎を纏った』姿になれたわけか」

「知ってるの?」

「妾の時代になると、事変の記録映像を学校で見させられるのじゃ。あとで黒田中尉から聞いて、合点がいった。お主の事だと分かったのは、ついこの間のことじゃが」

ハインリーケは、ミーナと違い、扶桑海の従軍経験ありで、スリーレイブンズと共に戦っていた黒田が僚機である事や、事変のカールスラント側視点の記録映像を覚えていた事から、青髪の陸軍ウィッチ=智子であると理解していた。それは智子には、地味に嬉しい事だった。物的証拠とばかりに変身してみせる。

「ハッ!」

―キィィィンという、バトル漫画張りの効果音が響き、智子の容姿が変化する。オーラは視覚的な力の強大さを示すものであるので、物理的な現象はない―

「どう?ハインリーケ」

「うーむ……海軍の若本中尉のそれよりも容姿が変わるとはな。これが覚醒系の究極か」

「あの子のは、単純に使い魔との親和性を上げるだけだから。私は使い魔と一体化するようなもんだから、攻撃力・防御力・速度の全てのステータスが徹子と比べても高い水準に飛躍するのよ。それでいて、最近は持続もできるようになったしね」

「でも、綾香のほうが凄いわよ。手刀でなんでも切り裂けるから。エクスカリバー宿してるし」

「え、エクスカリバーぁ!?」

ハインリーケもこれにはびっくりする。

「正確にいえば、剣の霊格やイメージを具現化して宿したのが、私の聖剣だがな」

「本当なのか?黒江少佐」

「ああ。私が手刀を振るえば、何物も斬り裂けるぜ。怪異なんざ物の数じゃねー、こちとらオリンポス十二神に仕えてる身なもんでな」

黒江は時たま、遥か未来の時間軸の人格が遊び半分で顔を出すが、言うことは嘘ではない。仕えるようになるのは、ここから『そう後の話ではない』からだ。

(お、おい!また来たのかよ、バーさん!)

(ハハハ、同じ自分なんだ、バーさんはないだろ。確かに200歳以上生きたけどな。悪いが、今後に備えて、お前にレクチャーするから、体を『借りとくぜ』)

(お、おいっ!こっちの都合聞けよ!?うわあ〜……)

深層で人格がバトンタッチされ、この瞬間からの人格は完全に、『未来の黒江』となる。そのため、目つきが鋭くなっている。

「オリンポス十二神じゃと!?実在するのか!?」

「仕えているって言ったろ?私はそのうちのアテナに仕える『聖闘士』、その最高位に属しているのさ。その気になれば、光速で動けるぜ」

「あんたが本気出したら、仮面ライダーとか、ガンダムファイターくらいなもんだしね、人間で太刀打ちできるの」

「ああ。それに、今ごろはフェイトの奴が宮藤や坂本の奴を護ってるはずだ。あいつも聖闘士だしな」

「なんじゃと!?(妾、先程から驚き役じゃな……)どういう事じゃ!?」

「あいつも同じ聖闘士でな。獅子座の守護星座なんだよ。だから、二つ名は『雷刃の獅子』なんだ」

――実際、フェイトは宮藤の危機を、黄金聖闘士としての力で以て救っていた。同じ師を持つ兄弟弟子なため、何かと話す機会も多く、バルクホルンがやきもちを焼いていたりする。この日の芳佳はエイラとサーニャとケッテを組んで飛んでいたのだが、怪異の大規模増援により、全員の武器が弾切れになり、更には消耗も激しく、サーニャを守るだけで精一杯となっていた。

「このまま黙って見ていろというのか!?私は行くぞ!!」

「落ち着いてください!少佐の足じゃ間に合いませんよ!?それに、あなたのISはテストがまだ終わってもいないんですよ!?」

「離せ、離せ!!テスタロッサ!!このままでは、宮藤が、サーニャが……!」

芳佳の事になると、前後の見境が無くなるのがバルクホルンである。そのため、フェイトは押さえつけるため、僅かながら、小宇宙を使っている。魔力を発動状態のバルクホルンを押さえつけるには必須だからで、バルクホルンが魔力を使っている状態であるのを羽交い締めにして押さえつけるフェイトの非凡さが際立っている。

「しょうがない、私が行きます」

「何!?お前が時空管理局でも優秀な魔導師とは聞いているが、それでも間に合うのか!?」

「いえ、今回は別口でいきます」

「別口だと……!?」

「ええ。少佐、とりあえず落ち着いて」

「あ、ああ。すまない」

「さて、私もやるか!!『レオ―――ッ!!』」

と、バルクホルンを開放してすぐに、某ウルトラマンを思わせる叫びと共に、黄金聖衣を召喚する。突き上げた拳の甲に光るバルディッシュがそれを発動させる。立体魔方陣がフェイトを包み、魔方陣から伸びる文字列をたどり分離した獅子像のパーツが甲冑として纏われて行く。

――この頃になると、人格の同化が終わっていたので、バルディッシュも黄金聖衣を受け入れている。そのため、黄金聖衣の意思の補助に専念する。そういう側面は主を尊重していた。召喚された黄金のライオンの像が分解し、各部が甲冑となりフェイトの身を包む。黄金のオーラと共に。黄金聖衣を身に纏い終えたフェイトは、黄金のオーラに包まれており、どこか神々しさすら感じさせる。

「何!?下原の報告にあった、黒江少佐と同じ……!テスタロッサ、お前はいったい!?」

「私も、綾香さんと同じです」

「同じだと!?」

「オリンポス十二神が一人、戦女神『アテナ』に仕えし戦士、聖闘士。その最高位『黄金聖闘士』が一人、『獅子座のフェイト』!!』

「獅子座……だと!?」

「さて、芳佳たちを助けに行ってきます。事後報告、よろしくお願いしますよ」

ニコッと笑うと、光とともにその場から姿を消す。バルクホルンは茫然としつつも、ミーナに報告しにいった。ミーナは報告を聞いた瞬間、あまりの衝撃で卒倒したとか。


――戦場

『芳佳、下がれ!』

「ふ、フェイトさん!」

『ライトニングファング(電光電牙)!!』

フェイトはいきなりライトニングファングを放ち、電撃を敵味方の識別つけて当てる。威力はもちろん、魔導師としての雷撃魔法の高位のものよりも上である。(サンダーフォールよりも単位辺りの破壊力は上)

「エイラにサーニャ!お前達は芳佳と一緒に基地へ戻れ!ここは私でどうにかなる!」

「はぁ!?私達はまだ戦えるぞ!?」

「お前は、私のように拳で以て戦えるわけじゃないだろう?」

「うっ……!」

「特に、サーニャを守りながらは、お前でも無理がある。芳佳、二人の護衛は任せる」

「分かりました!」

「よし……、怪異よ、聞け!!獅子の咆哮を!!ライトニングプラズマ(電光放電)!」

エイラにはその瞬間、フェイトの拳が光ったようにしか見えなかった。だが、小型怪異を光の軌跡が撃ち抜き、次々と消滅させてゆくのは未来予知もあり、判別できた。ミーナからの通信に、『分からない……フェイトが拳を突き出しただけで、怪異が次々に落ちていくんだ……』としか報告できなかった。近頃、胃の負担が尋常ではないミーナはこれで緊張の糸が完全に断ち切られ、『お腹の風邪』に罹患してしまい、寝込むはめになったとか。そして、ライトニングボルトに光子を乗せ、敵を完全消滅させる『フォトンドライブ(光子疾走)』を使い、超大型怪異を一撃で仕留める。それを見た芳佳は、顔面蒼白になる。

「エイラさん、サーニャちゃん、すぐにエンジンを全開にして!それと私の手を離さないで!!」

「どうしたの!?芳佳ちゃん」

「フォトンドライブをフェイトさんが使ったんです!あれ使うと、危害半径がバカ広いのにぃ〜!あ〜もう!」

芳佳は愚痴る。フェイトは大技を危害半径考えないで撃つ事が多いからで、その辺はなのはの影響大だった。フォトンバーストでなく、ドライブなだけまだ良心的と言える。少なくとも、敵編隊をまとめて破壊するだけですむのだから。


――ズウウウウウン!!という轟音と、怪異を消滅させる、黄金の閃光が光ったと思えば、ものすごい風が巻き起こる。揺り返しと含めて二回。フェイトの現在の奥義が一つ『フォトンドライブ』の威力だ。最も、アイオリアのそれは『フォトンバースト』の一過程であったので、フェイト独自の要素が大分入っていた。それでも、光子を制御し、攻撃に使えるのは、肩書だけでない黄金聖闘士に恥じない実力を備えた証である。芳佳は揺り返しが終わると、ホッと一息つき、フェイトに愚痴る。

『フェイトさん、フォトンドライブ撃つなら、一言言ってください!!死ぬかと思いました〜!天変地異起こしたから、ロマーニャ軍の無線がうるさい事に……」

『あー、それはすまん』

そう。フォトンドライブは天変地異を範囲限定で起こしたようなものなので、廃墟の街一つがまるごとガラス化している。まるでどこかの都市伝説である。

『見てください!廃墟の街がまるごとガラス化してますよ!!』

『超新星爆発のエネルギーをぶつけたからな〜こりゃ帰ったら始末書だな」

『でしょうね……ロマーニャ軍の皆さん、大混乱ですから』


――という事が起こったとか。


「――しかし、お主らはどうやって、オリンポス十二神と」

「私が敵にコテンパンにのされて、傷が言えた後に、ここともまた違う世界に行って、人間として転生してるアテナに会いに行って、懇願したんだよ。土下座までして。それで特例で認められたわけだ。生え抜きの聖闘士が当たり前だったからな。聖闘士は内輪もめする事が多くて、外部からの人材を必要としていたしな」

「戦死率が高いのか?」

「ああ。前聖戦は、黄金聖闘士の全員が戦死、聖闘士の過半数が死亡なくらいだった。そのうち、最下層の青銅の一軍の昇格の内定が出てるところに滑り込んだ。フェイトはつなぎで黄金聖闘士に任じられたから、星座コンバートの予定だ」


「コンバート?野球であるまいし」

「星座は固定でないからな。昇格で変わるし。ただし、他になり手がない場合は兼任だ」

そう。鳳凰星座のように、他になり手がいない場合は兼任をする事がある。一輝のケースだ。フェイトはあくまで、アイオリアへの恩返しと、一輝の昇格までのつなぎである。そのため、若年で、弟子がいなかったミロの後釜を取り沙汰されている。

「なるほど。お主は固定か?」

「まあ、聖剣持ったしな。将来的には甥っ子か姪っ子、またはその次の世代に継がせるさ。聖闘士になると、人生が200年だしな」

「なぁ!?」

「人を超えた存在になる分、肉体の老いが遅くなるんだよ。最も長く生きた人で、500年くらいだったそうだ」

――過去、最も長く生きた聖闘士は、1100年代から1600年代まで生きた、はるか以前の水瓶座の黄金聖闘士『クレスト』である。戦闘で死なない限り、その気になれば『500年は生きられる』証明であった。そのため、人の医学的常識は通用しない。そのため、聖闘士としての黒江は性格面で落ち着きが強まっている。年の功である――

「少佐、何故そんなに落ち着いておるのじゃ?」

「ジタバタしたって、聖闘士になった以上は必然的に長生きになるからな。心構えはしてるぜ」

と、落ち着いた台詞を言う。態度が老成しているので、若さ度数は下がっている。そのため、周囲には『大物扱い』されるが、若き黒江自身は深層で、『お、おいバーさん!何してんだよ、そんなこと言って大丈夫なのかよ!?』と大慌てだ。

「と、いうわけで、あたし達はその気になれば、陸軍の平均的な一個師団を叩きのめすの簡単なのよ。神に喧嘩売れるし」

「ああ。穴拭のこの姿なら、ひとっ走りで時速200キロは出せるしな。こいつ、キックで130ミリの鉄板ぶち抜いたぜ、この間」

「130ミリぃ!?」

「ティーガーTの前面装甲くらいなら楽勝って事。ケーニッヒは無理だけどね」

「それ、我が国の陸戦ウィッチ隊と装甲部隊が聞いたら泣くぞ……」

「細かいことはいいの!さて、暇だし、ボートゲームでもやんない?」

「確か、ドンジャラがあるはずだぞ」

「ああ、あったあった。あの子達自身の絵だから、すぐに分かる」

ドンジャラを棚から容易する。基本ルールは麻雀の派生だ。智子と黒江は、のび助に付き合い、麻雀の相手になって、やったことがあるので、ルールは知っている。ドンジャラ自体はなのはの家から引き取ったもので、そこそこ使い込まれている。(なのはの姉と兄が子供時代に使っていたらしい)ルール説明の紙を皆に回して、プレイを開始した。次第に麻雀に似た雰囲気になっていき、智子が変身している姿でドヤ顔を浮かべながら、リーチと言い放つ。

「なぬ!?(野郎、あのパイだとなんだ……しずかか!?)」

黒江は、青髪と銀の瞳になっている智子のドヤ顔を警戒する。智子は最近、心の声が顔に出やすくなっているからだ。

(しずかが役に入ってるのは、ドラえもんとのび太とセットのはず。しずかのパイが縦ということは、のび太かドラえもんを待ってやがる。クソ、こちとら先生とかパパさんとかしかこねーってのに)

と、心の中で愚痴る。実際、ゲームに参加している、黒田、智子、黒江、ハインリーケの内、最もドンジャラ(あがり)に近いのが智子である。黒江は役にかすりもしないパイしか来ず、黒田もさっぱりである。と、なると、ハインリーケと智子のどっちが早く役を完成させるか、数字か背景を揃えるか。それ如何で勝敗が決する。そうした内に、ハインリーケがニヤリと笑い、リーチを宣言する。

「フフフ……、リーチじゃ!」

「おわぁ〜!」

智子が悲鳴を挙げる。と、なると、智子よりもハインリーケのほうが早く揃う率が高い事になる。

(え〜、何、この子、のび太の先生を縦にしてる!って事は……のび太の母さんかのび太の父さんが来たら上がれるじゃないの!!くぅ〜、こっちはドラえもん待ちだっつーのに……)

――ドラえもん当人がいる場所で、ドラえもん達を題材に取ったドンジャラを行う(しかも、一人は戦闘モード)という、なんともシュールな光景が繰り広げられる。しかも美少女達が本気になって行うというのが、そのシュールさを強調している。そして……――

「ドンジャラ!!」

「おわああああっ!!やられた!!」

悔しがる智子。望むパイが来る前に、ハインリーケのほうのパイが揃ったのだ。智子の悔しささるもの、ムキになって第二ゲームに挑むほどだ。それを廊下から目撃したドミニカはドンジャラには興味がなく、野球ゲームをPS2に入れて、起動。一人でペナントレースを体験していたりする。食堂では、ドラえもんのグルメテーブルかけを使い、ジェーンが夕食の用意をしていたりする。



――日本と国交を結んだ後の時間軸の扶桑皇国

日本と国交を結んだ扶桑皇国だが、軍事面では一般人からの批判に耐えなくてはならない事も多かった。それは信濃が戦艦としてあるので、『何故、装甲を削減したのか』という史実の計画に基づいた批判が出たからだ。もっとも、扶桑皇国の戦艦信濃は地球連邦の介入で、集中防御ではなく、宇宙戦艦流の全体防御で完成している上に、装甲材も史実の甲鉄とは根本的に違うので、的外れもいいところだ。

――艦政本部

「いいのですか、西島さん。日本のマスコミ、奴さんの記録でこっちを批判してますよ?

「言わせておけ。23世紀の技術を当初から入れて作った信濃以降の戦艦は、海を走る宇宙戦艦も同じだ。トーペックス系の魚雷など、ただの爆竹だ」

「爆竹というのも、オーバーですが」

「だな」

西島亮二造船中将。大和型の建造に携わっていた造船技術者の中でも大物で、史実の戦後における日本の造船の復活に寄与したことでも有名な人物である。扶桑皇国の世界では、軍が1946年以後も存続しているので、軍部に在籍したままである。そのため、日本側からは彼が軍在籍のままであるのを惜しむ声が大きく、また、彼一流の工法を秘匿する艦政本部への批判が大きく、仕方がないので、彼独自の工法を一般へ公開したという。これに苦々しい思いの扶桑海軍だが、日本と交わった事による扶桑の軍事的利点も大きかった。


――第一に、対潜戦闘の飛躍であったり、海上警備のノウハウが海上保安庁から伝えられた事による海上警備の向上などは大いに歓迎され、特に早期にヘッジホッグどころかアスロックを投入したことにより、史実でシーレーンを機能不全に陥れた仇敵『ガトー級潜水艦』を、猛獣に狩られる家畜も同然の立場に落とすことにも成功していた。

「23世紀や日本のおかげで、我が海軍は対潜戦闘のイロハを得たし、シーレーン防衛も形となった。おかげで、向こうの悲劇を大分防げてるし、リベリオン潜水艦隊に煮え湯を飲ませる事に成功している。ミッド動乱で鍛えたおかげだな」

「相手がこの時代最高と言えるXXT級ですからな。それよりノイズの大きいガトー級潜水艦など、赤子同然ですよ」


そう。ミッド動乱で鍛えあげられた扶桑海軍ハンターキラー部隊は、ガトー級潜水艦をカモにする事に成功しており、この頃、開戦時の保有数の4分の3ほどを海の藻屑としていた。ガトー級潜水艦は、ウィッチ世界では、ウィッチ閥に『人員の隠密輸送艦としての存在意義しかない』と揶揄されていた事もあり、史実の数分の一程度の保有数でしか無く、ティターンズをして、『阿呆が!!』と嘆いたほどだ。そのため、ティターンズが強引にその改善型の『バラオ級潜水艦』、『テンテ級潜水艦』を急ぎ大量造船させたが、ウィッチ閥から猛反対が生じている。軍事思想が違うからだ。だが、扶桑が日本と連邦から技術援助を受けて造り出した『おやしお型潜水艦』が1947年に現れて、一気に活躍しだすと、ウィッチ閥も押し黙り、双方で潜水艦が本来の意義で運用されだした。扶桑では、連邦海軍から巡航ミサイルなどの搭載が当たり前の原子力潜水艦を借用し、運用できるため、時代相応の旧世代の技術で作られている伊400潜を敢えてウィッチ輸送船として運用する意義も薄れ、1948年度には退役予定である。

「ウィッチ閥の中には、あれをウィッチ輸送船としてではなく、巡航ミサイル搭載型に改装するのに反対の声があるようですね」

「彼女たちに取っては、潜水艦を無差別通商破壊に用いるなど信じられんのだろう。だが、潜水艦はそもそも『隠密に敵艦を攻撃する』ために考えられた兵器だ。それに、向こうで無差別通商破壊をしたのは、向こう側の米軍だ。ならば、今度はこちらが借りを返そうじゃないか、牧野くん。『大日本帝国海軍』の弔い合戦だよ、これは」

「そうですな。向こう側の歴史で敗者になったのが我々なら、今度はせめて、イーブンになるくらいの戦に持っていける船を作りましょう」

「それと、トーペックス一発では沈まない貨客船や輸送船もだよ、牧野くん」

「ええ。彼らの知る大日本帝国海軍は我々の鏡のような存在ですからな。彼らは1945年8月15日に滅んだが、我々はけして滅びはしないというのを、日本に教えてやりましょう。」

扶桑皇国は、日本と交わった時から、日本の過去の姿である『大日本帝国』と比較される運命にあった。そのため、各方面でダメ出しされる事が多かった。日本のマスコミからは本土防空部隊の機材にケチをつけられたり、(本土に烈風以前のレシプロ機が配備されていたり)陸軍の機械化の遅れを糾弾した。扶桑には、太平洋戦争緒戦期の日本同様、新鋭機は前線に優先して配備する傾向が残っていた。(怪異対策という、ウィッチへのご機嫌取りもあった)だが、日本側のマスメディアが戦略爆撃の猛威を、B-29の史実の映像で煽ったものだから、扶桑皇国国民は煽られ、参謀本部の電話は鳴りっぱなしになり、統合参謀本部議長が声明を出す羽目となった。もちろん、本土にも飛行244Fなどを母体にする精鋭航空軍がいたし、設立間もない空軍の命題が対弾道弾防御網の構築中であった事もあり、通常戦力の整備は前線が優先されていた。弾道弾攻撃さえ防げれば、本土にB29は届かない。これはB36、B47であっても同じだ。なので、扶桑軍は前線整備に注力したのだ。しかしながら日本のマスメディアはその点を考慮せずに叩いたため、扶桑皇国軍を却って混乱に陥れてしまった。それを踏まえての発言だった。

――1948年 日本向けの合同記者会見

合同記者会見は、主に日本向けに行われるもので、主に日本マスコミを沈静化させ、ひいては扶桑国内の混乱を収める目的で行われた。

「まず、最初に申し上げたいのは、貴殿方(日本マスコミ)は我々を混乱させて破滅させたいのか?という事であります」

と、扶桑皇国政府広報官は切り出す。次に、軍の高官(二代国防大臣の井上成美、統合参謀本部議長の小沢治三郎、副議長の山下奉文、ウィッチ部統括担当武官の北郷章香)らがそれぞれ切り出す。

「我々皇国軍は、現在、敵弾道ミサイルへの防空網構築を第一にしております。これは敵戦略爆撃機にも有効となり得るものであり、本土防空軽視には当たらないと考えております」

「我が空軍は、本土に精鋭航空軍を配置しており、使用機材も『サーブ35』、『F-8クルセイダー』、『F-4Eファントム』という、我々が製造し得る戦闘機では最高峰の逸品であります。たとえ敵戦略爆撃機が飛来しようとも、万全を期して迎撃可能であります」

そう。それらは戦後世界で用いられている、名機と言われし機体群。しかも、中には自衛隊で現役中の機材もあったのだ。この会見を日本で聞いていた空自関係者はヨダレタラタラだった。そう。軍事予算が空自よりも遥かにあるので、三種以上のジェット戦闘機を大規模に前線で同時運用できる財力が扶桑にはある。前線で使い潰している『F-104J』を含めれば、四種だ。

「良いなあ、マルヨン世代はセイバーとファントムでイッパイイッパイだったんだよなあ、羨ましい」

と、とある幹部は扶桑を羨望したという。これに大混乱なのは、スウェーデン軍と米軍である。


――スウェーデン

「!?お、おい、向こうに送ったっけ!?」

「いや、ライセンス交渉の話などなかったぞ!?どういうことだ!?」

「おい!シリアルリストと廃棄証明持ってこい!チェックだ!!」

と、当時には退役していたドラケンの管理リストを引っ張り出し、スウェーデン軍は慌ててドラケンの管理リストを調べる。だが、全て該当個体はない。スウェーデンは返還された機体、博物館行きの機体含めての厳密な調査をしたが、該当機体無し。そのため、スウェーデンは即刻、扶桑に問い合わせた。会見中にもかかわらず、扶桑から回答が届く。

『平行時空のサーブ社からのライセンスであります。ライセンス証明書のコピーを送りましょう』と。届いた日付は扶桑での1946年冬の日付、未来世界の2201年初春頃の日付であり、サーブ社社長とスウェーデン軍高官は目を回したという。だが、サーブ社としては思わぬ商機であり、扶桑でドラケンの製造を割り振られた『長島飛行機』の工場を急遽、サーブ社幹部が視察に訪れ、同社にアドバイスを送り、製造機械の最適化を資金援助したという。扶桑側も、長島飛行機がサーブ社にヒストリカルフライト用に35のパーツを供給するなどの良好な関係となり、戦争後期に『ビゲン』、ベトナム戦争中には『グリペン』が採用される契機となり、サーブ社製戦闘機を『要撃機』として運用する事が続くのだった。


――一方のアメリカも、似たような問い合わせと回答があり、米海軍は『ファントムE型を艦載機にするだと!?日本人のやることは分からん!』と唸り、空軍は『そのうち、15の交渉来るかな?』と嬉しがった。更に後日、海軍に『F-14』と『F/A-18』の見学の話が来たのだが、これには軍部よりもメーカーが乗り気であった。2006年度に退役予定であった『F-14』だが、その前に扶桑のパイロット達が試乗しにやって来たのである。当時、F-14は第一線から下げられつつあり、2005年の段階では大西洋艦隊に残置している部隊のみが運用しており、そこに試乗パイロット達を招く事になった。その中には、飛行64戦隊所属者も多く、空自にいる黒江達を除けば、最も大物パイロットと言えた圭子も含まれていた。

「さて、トム猫を扱ってみるか」

圭子は2006年度の米海軍との交流に、扶桑皇国空軍大佐として参加した。当時の米軍はイラク戦争を経た後であったが、圭子が白人から見れば、余計に若年に見えるため、侮る米軍パイロットも多かった。だが、圭子が魔女(ウィッチ)であり、その分野でも高い実力を誇る事が伝えられると、様相が変わった。瞬く間に、『Hoooow!!Coooool!!!』という歓声に変わった。圭子はバイリンガルなので、米兵との会話に支障はなく、綺麗な英語を話す。キングス・イングリッシュだ。

「大佐の英語のアクセント、訛りがないな。英国に滞在経歴があるのかね?」

「職務上の必須技能なので、嫌でも覚えますよ。我々はブリタニアと同盟国なので、必然的にキングス・イングリッシュになりますね」

米軍の代表者と流暢な英会話を交わす。ウィッチは共同戦線の都合、英会話は必須であり、宮藤芳佳でさえ、なんら支障なく会話できる語学力を持っているため、ウィッチは語学力に関しては『完璧』と言える水準にある。そのため、圭子はある日、のび助がアメリカ人に道を聞かれ、アタフタしているのを助けた事や、彼の会社がアメリカの大手商社との商談を纏める際に、通訳を買って出た事もあるという。

――のび助は出世コースには乗っているのだが、語学は全くダメで、ドラえもんの道具を使ったり、偶々、家にいる黒江達に通訳を頼む事も多かった。これは自分をシゴく部長を見返したい一心であった。彼に協力したウィッチは黒江、圭子、シャーリー、ハルトマン、菅野の五人であった。菅野が選ばれた理由は、『ガリア語に堪能』という点であった。意外にもフランスの商社との取引の通訳や、資料作成に活躍し、意外に頭脳派な面を見せた。また、菅野はその小柄な体躯(1946年度で150cm台)から、野比家でのび太の妹分扱いで可愛がられ、のび太達と同様にお年玉を貰えたとか。(ただし、のび太と出会ってから、のび太の姉貴分を自称しているので、そこは不満だったとの事)



――圭子は、厚木基地でF-14に試乗した。厚木にあったのが初期型のマイナーチェンジであるA+型なので、性能面での不満はあるものの、ノースロップ・グラマン社からは『採用の暁には、より高性能化したD型相当以上で売る』という連絡も扶桑皇国軍へ通達があった。圭子は既に未来世界で単座型として運用可能な近代化改修機『F-14++』に搭乗経験があるため、F-4Eよりは小回りが効くトムキャットは悪い機体ではなく、扶桑の技術力と前線整備力との兼ね合い上、B+型を作り、それを採用すると、ノースロップ・グラマンに通達。扶桑がちょうど八八艦隊の戦艦に使用予定であった竜骨を流用・改造しての空母建造を行いつつ、いずれ雲龍型と翔鶴型の代替となるであろう、『国産超大型空母』の建造計画に入っていた事もあり、その艦級の搭載機としての需要があったため、1948年の時点で海軍はB+型のライセンスを取得。ノースロップグラマンの監督の下、1950年に生産開始したのだった。空軍は旧型レシプロ機で行っている『戦闘爆撃機』の任を継ぐ機体として採用を通達。飛行64戦隊に残置していた『紫電改』、『疾風』、『烈風』を全面的に、F-4Eを一部代替する機体として、こちらは1949年度に第一次生産ロットが配備され、太平洋戦争中は主に、隊長級とその護衛編隊の専用機とされたという。(空海軍共に、戦後の軍縮の都合もあり、軍への本格配備はベトナム戦争中期以降にずれ込むが、太平洋戦争中にもわずかな数が使用されたのだ)



――話は戻って、2000年 野比家トレイン


「親父さんからだ……はい、こちらケイです…え?親父さん、気が早くないですか?トム猫とイーグルを採用なんて……」

「そうだ。近々起こるであろう『太平洋戦線』に備えて、『次の次の次』まで決めていこうとの結論が出たのだ。大日本帝国では、陸海軍は航空機の機種転換に失敗しているも同然だしな」

そう。この時間軸(1945年当時)では、主に未来世界から、後に日本の専門家・一般人も加わって批判される事になる扶桑軍の『航空機整備計画』。扶桑に取って、戦闘機が二年ごとに変わった『第二次世界大戦』の記録は信じがたい事であった。未来世界からの批判が堪えた扶桑軍が『ドラケン』や『クルセイダー』を無理してノックダウン生産、後にライセンス生産したのは、部外からの批判を黙らすためもあったのだ。

「一般人は、そっちの常識で批判して来ますから、気にしなくていいのに」

「いや、既に何人かはショックで鬱病になったり、自殺未遂起こしてしまっているのでな。その奥方達から、かなり文句が出ているのだ。〜はお国のことを思ってしたのに〜とか……」

「その対策ですか?」

「そうだ。我々のそちらでの失敗は、確かに猛省すべき事だが、こちらでは起こっていない。それで村八分にされても、分けがわからないだけだ。このオレにも批判はあるからな。今の時点でも問題になったのに、これで21世紀辺りの日本と本格的に国交結んでみろ。インターネットの掲示板みたら、精神病院が儲かるやもしれん」

「でしょうね。そだ、親父さん、こっちに来た時に、掲示板書き込んだでしょ」

「ああ、暇だったしな。結構楽しめたぞ、21世紀での俺の評価をしれたしな」

「ネットサーフィン?先取りしすぎです」

「いいじゃないか。そっちの俺は、パシコン通信の黎明期になるかならないかの時代に死の床についたのだ。インターネットは新鮮な気持ちでやれたよ」

源田実は、2000年ごろから極秘に日本を視察しに来ており、その時にネットサーフィンを覚えたらしい。インターネット掲示板の住人たちが2005年に、扶桑をすんなり受け入れたのは、それ以前から扶桑軍高官たちが、ユーモラスなハンドルネームで書き込みをしていたからだった。特に源田実は空自の育ての親であったため、特定が早くにされ、元空自の者からは『空幕長!』と書き込みがされる事もあり、『大佐』、『空幕長』、『空将』と呼ばれたとの事。

「色々突っ込まれたでしょ?」

「うむ。南雲さんが翔鶴を旗艦にしなかった理由まで聞かれたよ。あれは単にアイランド付近の飛行甲板が狭かったしそこでの艦載機運用が不便だったからなんだが、分からんのかね?」

「赤城たちが沈んだ後に機動部隊支えたから、そこからの指摘じゃ?」

「だろうな。まぁ、そのおかげで、ミッド動乱の時に改装できたんだが。神参謀辺りにはいい薬だと思うぞ、ネット。まぁ、煽り耐性低い性格だから、半年ROMむ必要あるだろうが」」

「あの参謀、病床で大和に嫌味言われて、落ち込んでるとか聞きましたよ?」

「大和にしてみれば、海軍のつまらぬ意地のせいで負け戦に二度も突っ込まれ、武蔵と自分自身の命を失ってるのだ。当然だろう。大和にしては露骨だから、あとで伊藤さんにお叱り受けてたな……」

「珍しいですね、大和が露骨に嫌味言うなんて。」

「神参謀を毛嫌いしているんだろう。天一号作戦で突っ込む事になったり、捷一号作戦でやる事になった原因は彼だ。大和が嫌うのは無理はない」

「どんな感じだったんです?」

「ああ、見舞いに同席した有賀さんの話では、『あなた、まだ生きておられたのですね?』とか、『参謀とは名ばかりの突っ込ませるしか能がない馬鹿だと思ってました』とかのド直球ストレートでぶち込んだらしいのだ。流石に伊藤さんが叱ったそうだ。彼は大和の隠れファンだったらしく、大和が露骨な態度取ったのがショックだったそうな」

「気の毒と言おうか、自業自得と言おうか……」

大和にとっては、神参謀は不倶戴天の敵レベルの嫌いな人物あり、『汚いものを見るような目』で彼を見たため、流石に伊藤整一中将から叱責を受けた。圭子は大和の心情、神参謀の心情も理解できるため、双方に納得という声を出した。

「大和はまだ精神的に幼いからな。金剛や長門のように『大人』になれていない。伊藤さんもその点から叱ったそうだ」

「艦としても5年未満の寿命でしたしねぇ、あの子。それだから、精神的に幼いところが残ったんでしょう」

「たぶんな。外見が大人びている分、見かけと釣り合わない幼さには驚くよ。武蔵は相応に大人だが」

大和はこのように、ちょっと幼い面が見られるが、その姉妹艦の武蔵はサバサバしている。連合艦隊で、戦艦としては最後の旗艦だったおかげもあるのか、姉に全く似ていない。艦としては装備違いであったのにもかかわらず、ここまでパーソナリティに差があるのも珍しかった。

「まぁ、名は体を表すとはよくいいますし」

「うーむ。それと、当面はジャーナリストとして動くように。然るべき時に交流が始まった場合に軍人としての任務を言い渡す」

「了解」


――この後、圭子は五年ほど、『ジャーナリスト』として活動、日本で一定の地位を得るが、五年後は軍人としての任務を開始、扶桑皇国空軍大佐としても活動を行う。黒江は任官後の2003年。終戦記念日に靖国神社へ参拝した事から、公安警察にマークされたが、黒江自身は意に介さず、二年後に身分を公にした事で、正式に公安警察の監視対象から外される。この事は公安警察内部で処理され、『ばれたら外交問題になりかねない事なので、無かったことにする』という判断が下されたが、それに納得しない、ある公安警察官がのび太の家に向かう途中の黒江を逮捕しようとするが、プロの軍人で、黄金聖闘士の黒江に敵うはずはなく、ボコボコにされた挙句、警視庁に『暴漢』として逮捕されたという。この事件により、公安警察は赤っ恥をかく羽目になり、懲罰的に2004年から2007年までの予算が減らされたという。扶桑皇国軍人がかなり空自に入り込んでいる事が政府に通達されたのは2004年だが、その時点で自分達が看板に活用していた自衛官が『実質的に別国の軍人でした』と言われ、愕然とした。2005年に国交成立が公表された際には、左派政党から『戦前のような軍事国家とは双子国と言えども縁を切るべし』、『大日本帝国と日本国は相容れない!!』というトンチンカンな主張まで野党から生し、日本の左派的主張の者たちによる訴訟が2年間も立て続けに起きた。が、『大日本帝国が有っての日本国だろうがよ?自分達の歴史を否定とはこれまた滑稽な話だと思わんか?』という、当時に重鎮となっていた、吉田茂の孫『タロー』氏が記者の前でぶっ放した事を期に、一気に沈静化へ向かった。これは『大日本帝国と日本国は同一国である』という事が日本国の戦後賠償の前提なので、それを否定する論調の登場を、左派が恐れた事、同様に日本国憲法を大日本帝国憲法に回帰させようとする『憲法無効論』が勢いづく事に気づき、潮を引くように上告を諦めていった。結果として、扶桑との交流が、日本がその後の覇道への道へ舵を切るきっかけとなり、歴史的に多大な影響を残したのだった――




――源田との電話を終えた圭子は、車窓の景色を楽しみながら、回想録の執筆を再開する。

「さて、どの辺まで書いたっけ……」

回想録という形で書いている原稿。マルセイユ達との出会いや、ロンド・ベルにおけるスリーレイブンズ再結成までを書き終えており、その中には、黒江の変化についても書かれており、『久しぶりに会ったら、江戸っ子になってた』と書かれていた。扶桑海後半時の記憶が封印されている状態での『再会』は圭子の驚きから始まった事が記述されており、現在の荒っぽい口調で声をかけられた時に、一瞬、固まってしまった。その時に、扶桑海後半の記憶の鎖が一つ弾け飛び、『その口調、あなたって、相変わらず柄悪いわねぇ』と口をついて出た。それは圭子も自覚なく言った一言だが、黒江の柄が悪い事を『以前から知っていた』ような一言なので、その時は双方が固まった。だが、後になって考えてみると、扶桑海後半の歴史改変の帳尻合わせによる『記憶の枷を外し始めるトリガー』の役目を、黒江の何気ない一言が果たしたと考えるようになった。その後は徐々にその記憶が蘇り、その帳尻合わせのような出会いが待っていた。歴代仮面ライダーやスーパー戦隊の皆との出会いだ。

(リウィッチになって間もなかった頃の黒江ちゃん、精神的にやっぱり若返ったところあったから、茂さんの風来坊なところが感染ったのよねwあの時、背丈も小さくなってたから、相当ぶーたれてて、危ういところで来たんだよなあ、茂さん)

黒江は、リウィッチになった直後の時期は、やはり精神が肉体に引っ張られ、子供のような純粋さを持つ面が強かった。城茂=仮面ライダーストロンガーの勇姿は、黒江に童心を取り戻させるのに十分で、『天が呼ぶ〜』の前口上、『チャージアップ』による絶対的強さに黒江は惹かれ、更に去り際にストロンガーに頭を撫でてもらった事から、彼を強く慕うようになった。また、彼に習い、『姉貴分』として周囲に接するようになり、のび太達の面倒を見るようになった。それからは仮面ライダー達の生き方を目標に生きており、体が再成長した現在でも、『仮面ライダーの妹分』を自負するほど、仮面ライダーを、その中でも特に、『栄光の7人ライダー』を慕っている。

(で、その後くらいにエレクトロファイヤーの余波を事故で浴びて、結果としてリンカーコアが活性化したのよね、あの子。智子の場合は光太郎さんに助けられて、RX語録に胸キュンしたのがきっかけだったな。似た者同士ね、あの二人。扶桑で出会った当初は『バディ』って感じでも無かったんだけど、面白いわね、年月って)

過去、第一戦隊への着任当時、黒江と智子には共通点はなく、別フライトであった都合もあり、接点は無かった。だが、今では、ロンド・ベルでバディとなって、アムロの叱責を経て、黒江が智子を真に相棒と受け入れ、共に飛ぶようになってからは、部屋も同室になり、今では、智子とつるむのが当たり前になった。

(智子の相棒、黒江ちゃんが担ってるって武子に初めて連絡入れたら、すごくぶーたれてたっけ……。あの子、智子と同期だし、明野時代から組んでたから)


――以下のような会話があった――

「武子?私よ、圭子。久しぶり。呉の事は聞いたわ。大丈夫だった?」

「私は大丈夫だったけど、教え子達が……あの子達のご両親になんて申し開きすれば……」

「あなたの責任じゃないわ。如何にあなたでも、奴らは止められなかった。彼らが遺族の前で証言してくれたでしょう?」

呉襲撃直後、武子は風翔を守れなかった責任を遺族から問われ、それに抗しきれなくなった上層部から教官を辞するように催促され、教官を辞した後は竹井の実家で療養生活を送っていた。武子の擁護は多方面からなされたが、上がりを迎えていたのにもかかわらず、往時の姿を求められていた事に愕然とした武子は、罵倒に耐えかね、療養生活に入っていた。

「でも、私に……あの時の力さえあれば……あの時の……」

武子は往時が華々しかったため、呉襲撃で『自らが微力である』事がショックであり、更に呉の地獄絵図を目の当たりにしたため、往時からは見る影もないほどにやつれ、憔悴していた。うわ言のように、『往時の自分』の力を渇望しているらしき台詞まで吐く武子に、圭子は思わず叱責した。

「あなたらしくもない!!昔の『扶桑海の隼』って言われた時の覇気はどうしたのよ!?そんな事を言うなんて……智子が聞いたらなんていうか!」

「私は何も守れなかったのよ!?教え子も、これも、船も!!そんなあがったウィッチのどこが『隼』なのよ!!?教えてよ!!」

武子はヒステリックに返す。武子がここまでヒステリックに怒鳴るのを、圭子は知らなかった。智子でも知らないだろう。

「昔は、上がったら教官でもして、余生を過ごそうと考えてた。現にそうしてきたわ……だけど、教え子を亡くす事がこんなに辛くて、悲しい事だなんて……」

武子の声のトーンは暗かった。言うこともネガティブであり、智子が聞いたら号泣ものだ。如何に心の傷が深いかが伺える。

(この後だっけ。私が武子に未来世界での精神科受診と療養薦めたのは。その直前にライブマンの皆さんと会ったとか言ってたな)

超獣戦隊ライブマンと出会い、彼らに叱咤激励された事をきっかけに、武子は未来世界で療養を選び、療養が終わったメカトピア戦後にリウィッチ化を受けた。リウィッチ化で往時の力を取り戻したのを期に、その後は戦線へ復帰の準備を進め、ミッドチルダ動乱の際に、黒江の推薦で64F隊長就任と大尉昇進が通達されるのであった。未来世界での療養と、ライブマンの存在が武子に勇気を与え、『隼は蘇った』のだ。

――その後の武子は往年以上の闘気を以て、連邦の戦乱期、ミッド動乱を戦いぬき、70年代に空軍総司令を努めた後に退役。その後は静かな余生を送り、ウィッチ世界の1999年にその生涯の幕を閉じる。享年、77歳。三羽烏にとって、最も親しいウィッチの死は唐突に訪れたため、智子は卒倒してしまい、黒江も遺体を見るまでは信じられず、思わず知らせてきた後輩の胸ぐらを掴んで、詰め寄ったという。武子の後継者となった孫娘の美奈子はそのプレッシャーに耐えなくてはならないという命題をウィッチ覚醒時から背負っており、母からは自衛隊行きを勧められたが、彼女は祖母の衣鉢を継ぐのは自分だと決めており、軍人となる。成長後の彼女は容姿・能力共に祖母に生き写しであり、祖母に間違えられた事も多い。特に髪型の違いが祖母と比べて、わずかしかないため、智子が昔年から容姿の変化がないのもあって、並んでいると往年の再現だった。その縁もあり、2010年代に入る頃に撮られた『扶桑海の閃光』のリメイクでは、祖母の役を引き受けたという。自衛隊幹部となった母があまり武子に似ていないのとは対照的だが、美奈子には祖母と違う点が一つだけあった。それはアホ毛があるかないかであり、祖母と区別をつけるアイデンティティであったという――



「ん?もう東北最北端につくのか。早いな」

書いている内に、青函トンネルへ繋がる線路にトレインが乗ったようだ。ドアの向こうからは、黒江の『ドンジャラ!!』という、ドンジャラで上がって大喜びの歓声があがっている。若返る以前であれば、まず無かった光景だ。そんな、『以前と変わった自分達』がなんだか可笑しくなり、微笑う。

「うおおおおお!うまい棒とラムネ、もらうぜ!」

と、大喜びの声が響く。

(私達は、真っ当な老いを捨てる運命にあるのかもしれない。だけど、例え肉体が朽ちても、守りたいものがある。それは『未来へ駆け出す』ため。信じてるわよ、あなた達を、いつも……――)

――圭子は作業用BGMとして、80年代のロボットアニメの主題歌として使われた『そのままの君でいて』をかける。時代的都合で、ラジカセにCDを入れてかけている。圭子の今の心情にとてもよく合っていたため、最近はよく聞いている。一蓮托生で、あの二人を信じる事。それが自分のすべきことであり、生涯貫く流儀であると悟った自分に―



――たとえ、真っ当な『老い』を捨ててでも、『貫き通したい思い』、『大事なモノを守るために、一歩を踏み出す勇気』が自分達にある事。仮面ライダーたちや、ドラえもん達が彼女らに教えた『勇気と友情と愛』は彼女達の行動規範となり、その後の彼女達を支える原動力となっていくのだった――



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