短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――1948年。バルクホルンBは、未来で従軍中の『別の自分』の代わりに、ハルトマンAの僚機を努めようとしたものの、技量差が開いているため、ハルトマンAに追従する事が困難であった。これはハルトマンAがスリーレイブンズの護衛を努める事もままあった事で、個人技能が『変態』の領域になったためだ。

「馬鹿な!この私が……ハルトマンに追従もできんのか!?」

「無理しないほうが良いよ、トゥルーデB〜。ここのあたしは扶桑の変態マニューバーできるもん」

南洋島へ向かう船が寄港地に立ち寄った際に、バルクホルンBが模擬戦を申し込んだのだが、バルクホルンBは、ハルトマンAに圧倒されっぱなしであった。智子から吸収した『燕返し』、『燕返し改』とシュトゥルムを合体させたマニューバーを使われては、スリーレイブンズの機動を『知らない』バルクホルンBでは対応が困難だった。

「マルセイユも格闘戦を得意としていたが、あの動きは宮藤や少佐と……扶桑のウィッチに似ている……!?だが、あの二人とは機動の質が違う!」

「ピーンポーン。扶桑のエースから盗んだんだもんね。それも、あたしたちから見たら大先輩の、ね」

バルクホルンBも捻り込みを知らないわけではない。芳佳と坂本を知っているからだが、自分の知るそれより遥かに旋回半径が小さい。シュトゥルムも使って、強引に扶桑のユニット並の旋回半径にしている。かなり荒いやり方だ。

「ストールターンだと!?だが、小回りが良い!?……うっ!?」

「ふふ〜ん。あたしの勝ちだね」

刀を首元に突きつけて見せるハルトマンA。Bにはない『高度な格闘戦技』の一端である。

「ここでのお前は刀を使うのか?」

「あたし、と言っても、ここの次元の話ね?……は、扶桑の戦友がかなりいるからね。実戦でも機会多いし、覚えたんだ。そっちの坂本少佐が見たら腰抜かすよ?多分」

「なぜだ?」

「扶桑に伝わる秘剣、『雲耀』がレパートリーに入ってるんだよ。坂本少佐なら、誰が使っていたか知ってるはずだよ」

ハルトマンAは黒江から習得する形で、雲耀をいつしか会得していた。そのため、連邦軍の軍刀を『斬艦刀』に強化する事を覚えている途中であった。

「扶桑にそんなエースがいるのか?」

「扶桑海の頃の人だけどね。トゥルーデは知らないかな?」

「随分と昔の出来事を持ち出して来るな?坂本少佐が駆け出しの頃の話ではないか」

「そう。その時のエースで、少佐の友達。その人から習ってね」

バルクホルンBは、Aと違い、黒江達を知らない。これは扶桑海世代の大半が現役のウィッチではなくなっている時代であり、彼女らの知名度も当時の人間が知る程度なためだ。

「ふむ……」

と、感心するバルクホルンBだった。






――その黒江Aは、南洋島の気温が高くなって来たこの日、タンクトップ姿で、ブリーフィングルームでへばっていた。

「あちぃ〜……おい宮藤、今何度だ」

「うっわ……40度近いですよ」

「嘘だろ……死ぬ〜!」

女子かしらぬ格好だが、21世紀以降であれば、ごく当たり前の若者の服装だ。で、ふと、右手で仰ぐと。

「おわ、しまった!風王結界を……!」

黒江は、エクスカリバーの練度をあげる事で『風王結界』という魔法を習得するに至った。応用の効く技で、黒江はシールドの補助、加速補助などに使っている。それを攻撃に転化すれば、グレートタイフーン級の暴風を吹き荒らす『風王鉄槌』という技にもなる。それをうっかり発動させてしまったのだ。

「室内で竜巻を起こさないでくださいよ〜!きゃああ……」

「わざとじゃねー〜!目が回る〜!」

二人はすっかり暴風に翻弄され、のびてしまう。やって来た武子が『何よこれぇ〜!!』と絶叫するほどの被害で、黒江と芳佳はお叱りを受け、罰として、一週間のトイレ掃除と、基地のランニングをする事になってしまった。黒江のうっかりで基地が損壊する率は意外に高く、黒江が懲罰でランニングをするのは、すっかり64ではお馴染みの光景となっていた。

「ふーむ。仰ぐだけで発動するたぁ、参ったな」

「私まで巻き込まれちゃったじゃないですか!」

「すまんって!今度、アイス奢ってやっから!」

ランニングで芳佳に愚痴られるのを、黒江は軽く流す。すっかり黒江との人間関係も板がついた芳佳だった。

「そういえば、別世界のバルクホルンさんを迎えに行ったハルトマンさんはあと、どのくらいで戻ります?」

「寄港地が結構多いし、スエズはまだ使えんから、喜望峰ルートだし、まだまだだな。アウドムラを使って、敵さんに警戒させるわけにもいかんしな」

「そうなんですか」

「奴用の22はオーバーホールついでに、エンジンをより強力にチューンナップしてやってる。これで27だろうと追いつけんぜ」

「あのー、どこ目指してるんです?ミーナ隊長が目回すくらい高性能なのに」

「あ?無人戦闘機をノックアウト出来るレベルだけど?」

「……」

額を抑える芳佳。ゴーストシリーズの変態機動ぶりはロマーニャ決戦や、その直後の訓練で経験しており、ウィッチの自分達をして、目で追う事も困難であった。シャーリーをして、『こんな化物、どうやって捕捉すりゃいいんだよ!?』と泣き言を言うほどの速度であった。(黒江たちは捕捉可能)そのため、VF乗りの最高峰と言える者たちの人外ぶりを認識していた。

「黒江さん、結構無茶言いますね」

「お前が言うか?」

「マクロス級の!弾幕を!単騎で突破して見せろ!って馬鹿みたいな訓練やらされてれば、言いたくなりますって!」

黒江の訓練カリキュラムは厳し目で、連邦軍に協力してもらい、対艦戦闘訓練にマクロス級相当の艦が展開する弾幕を突破してみせよという項目が設けられている。そのため、易しめの第一世代型マクロス級相当の対空弾幕を突破するのさえも、初見殺しと評判であり、服部静夏世代の若手のみならず、腕を鳴らした中堅どころでも一苦労で、初訓練に臨んだ際の芳佳や雁渕、菅野でも、所定のタイムを達成できなかった。なお、段々とレベルが上がるのは言うまでもなく、最新世代であるバトル級相当になると、隊の8割が音を上げる。

「おかげで、対空弾幕の突破の技能はついたろ?」

「あんなのやれば、嫌でも覚えますよ。大和型や瑞鶴とかの弾幕がお遊戯に見えるくらいに」

マクロス級基準の弾幕に慣れたため、自然と空戦マニューバの精度も高まっており、この時点では『バルキリーダンス』とウィッチ側が呼ぶ機動を隊の8割が習得している。そのため、この時期の64の技量は、空海軍通して最強と謳われている。244や50を皮切りに、人材交流が盛んになり、軍の平均技量が向上していた。

「『これ』を維持できればいいが、戦後は無理だろうな」

「なんでです?」

「戦が終われば、軍を離れるやつが大勢出る。その時にカリキュラムが易しめになる上に、ミサイル万能論も出てくる。私達がどう言おうが、政治屋はそれを盲信する。防ぐ事はできん流れだ」

――後のベトナム戦争時に理想化されるほどの平均技量を誇った時期が、この48年〜53年の時期である。大戦経験者がまだ若く、ウィッチの人数も多く、質がいい人材の育成にも成功していたためだ。ベトナム戦争までの時期に、大戦経験者の退役による技能継承に失敗した結果、ベトナム戦争緒戦の大量の戦死者に繋がる。江藤敏子が在任中に必死に立て直しを図るが、着任早々に訓練カリキュラムの稚拙さと飛行時間の短さに愕然とし、『なんじゃこりゃああああああ!』と絶叫した逸話が記録されている。江藤が当時の統合戦闘航空団を全く当てにしなかったのは、世界最強を謳われていたはずの扶桑空軍でさえ、この体たらくだったからだ。




――1960年代前半 扶桑空軍 小松基地

「ありゃ?連絡機のLM-1だ。こんな時間に誰が……ぶっ!?え、江藤隊長!?どうしたんすか、こんな時間に」

「黒江、お前に命令を出す。明日から64の再結成に取り掛かれ」

「な、なんすかいきなり!着任早々に何を言うかと思えば。説明してくださいよ!わけがわかりませんって!」

「黒江よ、お前だけだ!この私の悩みに気づいたのは……」

「悩み?」(歌で悩んでる時のジャイアンみてーなこと言っちゃって)

「実はな、空軍司令に着任して、今の訓練カリキュラムを見たんだが……思わず叫んじまったわよ。この有様」

「隊長、知らなかったんすね……」

「当たり前だ!前大戦からこっち、統合参謀本部詰めだったんだ!現場にタッチ出来る立場じゃなかったのが10年以上続いてたんだぞ!?ぬあああああ……、この有様はなんだ!?事変の時代だったら実戦に出してないぞ!?」

「隊長、落ち着いて!水です!」

「おお、すまん……」

黒江は当時、空軍少将になったばかりであった。この時代になっても、相変わらず江藤には頭が上がらず、かつて同様に、江藤を『隊長』と呼んでいる。

「ウチでこの有様なら、他も大抵は似たようなもんだろう。お前は大戦の生き残りで、まだ軍に残ってる連中をかき集めろ!」

「え!?で、でも、私はまだ少将になったばかりで、そこまでの権限は……」

「私の名において、隊人事の裁量権を与える。好きな連中を引っこ抜け!お国の大事にクソもヘチマもあるか!私と章香、それと総理の名前出しても構わん!」

「大戦経験者って言ったって、あの時の連中の半分も集められるかどうか」

「前の時にウチに在籍していた連中で無くても構わん。ウチの威光はまだ死んではおらんはずだ。所属希望者は多かったしな」

「良いんすか?」

「構わん!64を特殊飛行隊として、空軍司令直属部隊として仕上げろ。それでベトナムの火消しを頼む!あと、独立作戦権の絡みが有るから戦時昇進で中将勤務な!階級章は変えとけ」

「は、はあ」

というわけで、その日から黒江は数ヶ月ほどかけて、大戦経験者に声をかけた。軍に残留していた64の元隊員は全員が参加を志願。市井に引っ込んでいた者も一部が再志願してくれた。だが、それだけでは人数は足りない(旧・第一中隊は全員、第二中隊も半数が元隊員の復帰で埋まった)ので、ガンファイターと江藤も認める、自身の直属から選抜する事になったのだが。

「はい!私、いきます!!」

「ん、君は?」

「初めましてですね。司令。私は宮藤剴子であります。司令のもとで大戦を戦った宮藤芳佳は私の母です」

「そうか、君が宮藤の!」

宮藤剴子。芳佳の次女である。当時、10代半ばに差し掛かるほどの年頃で、次女でありながら、母の面影を色濃く受け継いでいた。この時が初対面であったが、黒江は一目で芳佳の子とわかった。

「母が前線に行くと話したので、もしやと思いまして。私も行きます!母から戦闘術は教わっています!私も同行させてください!」

剴子はサラブレッドであった。姉が医療の才能を受け継ぎ、家を継ぐ準備を進めているのに対し、妹の剴子は戦闘術を始めとした『戦闘者』としての芳佳を継ぐ者である。当時としては最年少級の若さで志願したので、かつての芳佳と同じようなセーラー服の服装だ。

「うーむ。宮藤の子供か。たしか、家の方を継いだと。それは君の?」

「姉です。姉は母の医療ウィッチとしての才能を受け継ぎましたから」

「と、言うことは、君は」

「ええ。戦闘面での才能は、私が継ぎました。母から飛び方を教わっていますので、軍の軟弱な飛び方はしていません」


――当時の軍にガンファイターは殆どおらず、現役世代では、黒江の直属の配下のみが『ガンファイター』であった。それを江藤が問題提起したのが、この日の昼間である。

「江藤さん、今からカリキュラムを変更するのには、時間が……」

「前大戦で前線にも出ていなかった若造共は黙っとれ!!これは由々しき事態である!ウィッチの戦闘能力はミサイルに頼りきりで、てんで役にもたたん。もし、我々が敵なら、『瞬きする間に皆殺しに出来る』くらいの体たらくである」

当時の統合参謀本部の議員は、大戦当時の尉官以下の者も多数であり、世代交代が進んでいた。ベトナムでの惨状に無為無策であるのも、世代交代による経験不足に起因する。

「カリキュラムを即刻、十数年前のモノに再改定する。現在教育中の者はカリキュラムを追加、また、前線にいるものは、手空きの部隊から順次、本土に呼び戻し、再教育!再教育のために、未来世界の過去の米軍のように『戦闘機訓練学校』を設立するものとする!」

江藤は今や、大戦経験者のリウィッチとして最長老級の世代に属する。その権威により、その場のウィッチ関係者は誰も逆らえない。三輪が在任中に築き上げたモノはこの時に完全に否定され、次々と腰巾着共も失脚。統合参謀本部の空軍部の要員も、大戦を前線で経験した者達の世代に再度若返った。現役世代からは『ロートルのおかげで、重いものを運ばなくてはならない』という愚痴も出たが、戦地帰りが狂ったように、大戦当時のような装備にしていくのを見たら、自然と消えていった。


――後日。

「フジ。お前には、64の隊長に復帰してもらうぜ」

「そう来ると思った。統合参謀本部の要職の話が来てるけど、蹴るわ。64は私がいないと始まらないでしょう」

「おっしゃ!これでお前含めて、旧第一の全員と、第二の半分は確保できた!」

「問題はその他の連中よ。どうする?現役世代から引っこ抜く?」

「何人かは私の直属から引っこぬけるが、後は木偶の坊だぜ?」

「なんとか、要職についてる子たちを引き抜きましょう。確か、元244や元50の出身の子たちが基地司令や航空軍司令に落ち着いてるはずよ」

「おし、一緒に来てくれ。説得しよう」

現役世代にガンファイターが殆どいないので、要職についている大戦経験者たちを強引に引き抜く黒江達。そのため、中核中隊の隊員の平均階級は佐官以上、中隊長は将官級という異様な構成になってしまった。大戦時に64戦隊に属していた者だけでなく、大戦当時の『精鋭部隊』の在籍経験者を集めたため、前歴が基地司令級というものがゴロゴロおり、一部から『教官級の多くを前線に持っていくつもりか!』と文句が出たほどだ。




――メンバーの内、旧編成時に属していた者が今回においても中核を担っている他、軍医として芳佳も参加しているので、実質的に旧64の再結集に等しかったが、芳佳の子『剴子』、その同期で、有望株の『岩崎貴子』(剴子の親友)を始めとする、黒江の直属であった若手も少数ながら加わっていた。軍学校からは『教官を大勢持っていかれた!』と文句が多数出たが、江藤と北郷が直接指導するという荒業で収めたという。出征式には、大戦時の元将軍・提督らも多数が参列。深く関係があった山口多聞元・海軍司令長官の姿もあり、前年に惜しくも死去した、小沢治三郎元・連合艦隊司令長官、また、黒江達を死去まで面倒を見てきた、山本五十六元海軍大臣の遺影を持っての参列だった。

「多聞丸のおっちゃん、来てくれたんすね」

「小沢さんの葬式以来だな、大佐。いや、今は少将か」

「中将勤務になりましたよ。でも、よく在郷軍人会を収めてくれましたね」

「俺が一喝してやったよ。エクスウィッチに睨みが聞くのは、井上さんや源田君、それと俺しかもうおらんからな」

この時代になると、大戦当時の将官はかなり死亡者が出ており、宇垣纏や小沢治三郎も世を去っていた。在郷軍人会のエクスウィッチ閥は黒江の独走を快く思っておらず、今も現役で影響力を持つ黒江を『64の青二才』と侮蔑している会も当然ながら多かった。山口多聞は、この時代には数少なくなった『将官OB』として殴り込み、黙らせた。この頃には70代に突入していながらも、だ。

「古村くんにも協力してもらったよ。在郷軍人会の連中の抑えは任せてくれ。こっちには岡田さんの遺言もある」

「助かりましたよ。この間、私がババアどもに喧嘩売った時に、おっちゃんが出してくれなきゃ、私はリンチもんでしたよ」

「嘘こけ。一瞬で斬れるくせに」

山口多聞は、壮年時、岡田啓介の遺言を受け取っていた。これは後輩の米内光政、山本五十六が早期に亡くなり、小沢が連合艦隊司令長官を辞任した後の大戦終結前、死期を悟った岡田が『海軍の次代を担うホープ』と目されていた山口に遺言書を渡していたのだ。

『黒江さん、いろんなところからやり過ぎとか移勤妨害みたいな事されたり、大変ですよ?』

『んな邪魔してんの誰だよ、エクスウィッチ?現役離れたババァ共の戯れ事なんて聞いてられっかよ、どうせボケてんだしよ』という会話がエクスウィッチ閥に流出。『青二才の分際で!』、『黒江斬るべし』という声が上がり、一部のエクスウィッチは実際に実行した。闇討ちや狙撃を試み、黒江はそれを尽く返り討ちにした。ある時、甥の『明弘』(長兄の子の一人で、次男坊。当時は小学2年)を誘拐し、兄一家を脅すという卑劣な手段を使ったのだ。もちろん、可愛い甥っ子(長兄の子たちは皆、黒江を好いていたが、この子は特に慕っていた)を誘拐され、長兄一家を憔悴させた者達への怒りはものすごく、一報を長兄が伝えた時は、思わず実家の壁に大穴を開けた。義姉の『警察に知らせたら殺すと……』との言葉に『私が必ず助けます!』と啖呵を切り、執念で一味を探し出し、首魁と対峙した。拘束された上でリンチを受けそうになったが、山口多聞がリムジンで現場に乗り付けて来て、岡田啓介の遺言書を見せたのだ。そして、元・海軍大将の名においてのお裁きを下し、一件落着となった。黒江としては、闘技で屠るのは容易であったが、山口多聞がわざわざ乗り付けてきてくれたので、見せ場を譲ったのだった。

「ハハ、甥っ子の前でバイオレンスは見せたくなかったんすよ。だから、助かりましたよ」

「まるで水戸黄門にでもなった気分だったよ。海軍閥は岡田の爺さんの名さえ出せば、誰もが平伏する。あの人は総理経験者でもあるんだからな」

「でも、ババア共がよく引き下がりましたね?」

「古村君が怒鳴り込んでくれたよ。在郷軍人会に根回ししておいたから、これで君に脅しをかけて来ることはない。君の家族にまで迷惑をかけたのだ。当然の報いだよ。この辺は高木君がやっておいてくれた」

山口多聞が黒江の甥誘拐事件を解決した後、元提督達が裏で動き、首謀者らを脅し、一部は司法取引で空軍に再入隊したという。

『警察に付き出されるのと黒江の批判やめて協力して空軍ウィッチ中興の祖となるのとどっちを選ぶ?警察に突き出されたく無いならコレ(タイムフロシキ)被ってリウィッチとして軍復帰な』と。

「ありがとう、おっちゃん。んじゃ行ってきます」

「飛龍と、帰りを待っちょるよ」

山口多聞は、この時期には既に親を失っていた黒江の祖父代わりとなっていた。戦後、宮藤家を引き払い、実家の母が1955年に死去した後、心にぽっかり空いた穴を埋めて欲しいかのように、休暇を取り、全国を彷徨っていた黒江だが、最終的に戦後に退官した山口多聞の家に下宿していた。飛龍がいることもあり、兄たちを気遣い、実家から出た身としては、落ち着く場所であった。山口は既婚者(再婚している)で、三人の子もいるが、50年代にはすべて成人し、家を出ていたので、妻、それと飛龍の三人ぐらしであった。そこに転がり込んで、早、6年以上。山口多聞の家での暮らしこそ、黒江が青年期に至り、ようやく手に入れた真の『安息』と言えるが、それはまた別の機会に。







――話は戻って、1948年。

連邦軍やこの世界のウィッチ達が戦うのを、歯噛みして見つめる坂本B。それと、魔力減衰が始まって久しい、スリーレイブンズB。スリーレイブンズBは、魔力減衰を起こして久しく、もはや戦う力は無くなっていた。そのため、別の自分達が英雄扱いされているのが逆に辛かったのだ。

「黒江、どうした?」

「見てくれ、坂本」

「なんだ。ここのお前が大活躍したという記事じゃないか?」

「恨めしいんだよ、自分が。同時にここの私に嫉妬してる……。ここの私は力がある。兄さんも生きてる。何もかも恵まれてるじゃないの!」

黒江Bは坂本Bに、Aへの嫉妬を吐露した。Bは長兄を浦塩空襲で失い、自分ももはや戦う力はない。境遇が違いすぎるのが堪えているらしい。黒江は双方の口調に顕著な差異があるため、あまり表立って動けず、ここ数ヶ月はホテルへの軟禁に近かった。

「落ち着け、お前らしくもない」

「違いすぎるのよ!私と!!ここの私は、どんな敵も恐れないし、豪放磊落を絵に書いたような性格で、空軍の撃墜王。この私は、昔に名を挙げただけのエクスウィッチなのよ!?」

黒江Bは、黒江Aがかつて持っていたような、『女性的』な行動原理をしている。黒江Aが『男性的』な行動原理であるのとは真逆である。現在も活躍する別の自分の華々しさが眩しいのか、自分を卑下する言動で、坂本Bを戸惑させる黒江B。

「何言ってんのよ、黒江ちゃん」

「ひ、ヒガシ……」

圭子Aだった。先程までゲッタードラゴンを動かしていたらしく、竜馬と同系のパイロットスーツ姿だ。

「あなたはあなた、あの子はあの子。同じ姿で、同じ姿でも、そこの新聞に書いてある黒江ちゃんは『あなたじゃない』。あなたはあなたの道を行けばいいじゃない」

「で、でも……後輩の宮藤だっけ?や、坂本の奴を見ると、欲求が沸いて来るんだよ!飛びたいって。確かに、『あいつ』みたいな力はないけど……、私だって、私だってウィッチだ!」

黒江は、世界が違えど、根本的なところは同じである。Bは女性心理が強いせいか、自身の夢を諦めかけていたところが大であるので、ウィッチでありたいという気持ちをここで、坂本Bと圭子Aに吐露した。

「黒江……」

「黒江ちゃんB……」

「なぁ、教えてくれ!ヒガシ!なんでここの私は、私は……!」

「あの子は、あなたよりも過酷な出来事を経験してきた。それを話しましょう」

圭子Aは、黒江Aの軌跡を話す。それは黒江Aの苦闘の歴史であった。

「あの子は、505の壊滅の時に、置いてけぼりになる形で生き残ったのよ」

『嫌だ、嫌だ!離せ、離してくれ!犬房、犬房ぁ―――ッ!』

黒江Aは、その時、教え子達の危機に無力であった自分を呪った。そこがスタートラインである。そこから強くなりたいがために、あらゆる苦行にも耐えた。『泣きたくないから、強くなりたい』という心理が、黒江Aをひたすら突き動かし、とうとう黄金聖闘士にまで至らせた事を。

「あなたと同じで、あの子は→情に篤い。だから、無力な自分が嫌だったのかも知れない。二度と仲間を死なせないっていう心と、その出来事で持ったさみしがり屋の性分が相乗効果をもたらした結果なのよ」

黒江Aは『仲間を傷つけられたり、愚弄される事』、『仲間と引き離される事』を非常に嫌う性質を持つ。この事はたとえ、別の自分に対してでも同じで、智子Bを『あまり付き合いがなかったから』という理由で、よそよそしくしているのを見るなり、頭に血が上って、思わず怒りの音速デコピンを浴びせるほどであった。

「通りで、あの時、あいつが激怒したわけね……理由が分かったわ」

『おい!穴拭はお前の仲間だろ!なんで付き合いがなかったってだけで、よくまぁそんな扱いができるもんだな!えぇ!?』

胸ぐらを掴んで、怒髪天を突く勢いの黒江A。当の智子Bが思わず止めに入る程のもので、黒江Bは泣きそうになった。Bは何がなんだかわからずに泣き顔であり、黒江Aの殺しかねないほどの勢いに、智子Bも必死に懇願するほどであった。Aにとっては、智子は大事な親友。Bがぞんざいに扱った事が許せなかったのだ。

「綾香、私は気にしてないから!!ね、ね、ね!」

必死にAを抑えて言う智子B。黒江Bは泣き顔で、『許してください……』と呟きまくり、もはや鬼を前にした老人か、蛇に飲み込まれる蛙の心境であった。Aは『もういっぺん言えコラァ!!』と、完全にどこぞのヤンキー状態。智子Bの必死の懇願で難を逃れたが、黒江Bは別の自分の激情さに恐怖し、気絶。もちろん、Aも、事情を知った智子Aに叱られたのは言うまでもない。直後、智子Aは『ごめんなさいね。あの子、私の事を家族同然に見てて、私を失う事をすごく恐れてるのね。だから、私に何かあったら、血相を変えて飛んで来るのよ』と説明。智子Bはその一言で、黒江Aの心情を理解した。同じ姿をしているからこそ、怒りのボルテージが瞬時にほぼMAXに達し、殺しかねない勢いの怒りを見せたのだと。

「でも、なんでそこまで怒るのよ?」

「あの子は、家族としての幸せにあまり恵まれてなくてね。それで、あなたを羨ましがったのよ、綾香」

「私を……?」


黒江Bは恐怖のあまり、怯えていた。ここで、智子Aは語る。二人とにある最大の違いの一つを。

「あなたは両親に愛されて育ったでしょう?それと正反対に、あの子は可哀想なことに、母親は自分の若い頃の欲求を満たすための道具』としてしか扱ってなかった。兄達もあまり構うことができなかったから、幼少期がすごく寂しかった。その時の寂しさがコンプレックスなのよ。それを戦うことで押さえ込んでたんだけど、一度若返った事で、小さい頃の深層心理が表に出てきたのよ。若返った年齢が若すぎたのもあるかも」

――黒江は一度、入隊直後の状態にまで若返っていた。まだ子供と言える年齢の肉体に戻った事で、精神も相応の状態に引きずられた事で、深層心理が行動に反映されるようになった。実質の精神年齢が智子に近くなったために、馬が合うようになり、智子とつるむようになった。そのことは、圭子がしっかりせねばならないという意味でもあり、母性を強めたのは言うまでもない。

「若返った事で、純粋になったのよ。あの子は。仲間に置いてけぼりにされた反動で、孤独をひどく怖がるようにもなってる。よっほど、置いてけぼりにされたのが悲しかったんでしょうね」


「置いてけぼり……」

「だから、今でも、寝ぼけると誰かに添い寝して来るのよね。圭子なんて、まるで子供をあやす母親みたいに接してたわよw」

「うわぁぁぁぁ〜〜!どんな羞恥プレイだよ〜ぉぉぉ……」

圭子Aが『黒江ちゃん』呼びをやめない理由もここにあった。寝ぼけていると、子供時代のような口調になり、添い寝してくる。誰かがそばにいると、安らかな寝顔になる。これは若返った際に出た影響だが、再成長しても治らなかったのに当人は気づいていないが、他の二人は気づいている。そのため、結構からかっている。迫水ハルカの一件で、誰かと寝る事にトラウマ気味であった智子が添い寝を許したのは、寝ぼけている時の黒江が可愛いからでもあった。それが知らされた黒江Bは、気恥ずかしさで先程の恐怖がすっかりぶっ飛び、転げ回る。

「その時の動画、見る?w隠し撮りなんだけどwww」

「お、おいバカ、やめてくれぇぇ……」

動画が再生される。動画の内容は、夜中の一時半に、圭子の部屋に寝ぼけて来た黒江Aが入ってくる。

「おねーちゃん、一緒にねていい?……」

「あらあら、黒江ちゃん。今日は枕持参ねwww」

「うん〜……」

声色、口調が子供時代の頃と同じようなものになっており、ドスが効きまくっていた先程と同一人物の声と思えないほどに可愛らしい声かつ、

「トイレして、歯はクチュクチュした?www」

「うん〜アヤカ、ちゃんとしたもん〜……」

「いい子ね〜www、さ、おねーさんといっしょにねむねむしましょwww」

圭子は完全に遊んでいるらしく、声が半分笑っていた。当人が知ったら、飛び降り自殺しかねないほどの恥ずかしい様子だ。Bは恥ずかしさのあまりにホテルの部屋のベットで悶え始めていた。

「なんじゃこりゃああああああ……なんだよおいぃぃぃ!!これが私なのかぁ〜〜!?」

「でしょww、あの子の意外なところその一、普段は喧嘩っ早い江戸っ子なのに、寝ぼけると子供帰りするのよねww」

「うおわあああああ、は、恥ずかしい!こ、これ、部隊の仲間には……」

「あー、残念ながら周知の事実よwwww」

「あのばっかやろぉぉぉ〜!!」

黒江Bは先程と打って変わって、絶叫せずにいられなかった。自分には無い『寝ぼけると子供帰りする』という特徴が、あまりにも恥ずかしかったのだ。だが、その代わりに、起きていれば『熱血漢な戦士』であるという二面性があるため、あまりにもギャップがありすぎてついていけない。それを知った黒江Bは『どう接したら良いか解らなかった、だから避けてた、今は反省しているから』と後に詫びを兼ねて話し、黒江Aを安堵させたという。Bは、この時から『二面性を持ちながらも、戦士として超一流であるA』に興味を持つようになる。だが、同時に戦士として戦えなくなった自分と、扶桑で指折りの戦士として名を馳せるAとのギャップに耐えられなくなり、ついに、圭子Aに吐露するに至るのだ。




「話は聞いた!」

「来てたの」

「ちょうど任務が終わってな。そんなに強くなりてーんなら、特訓だー!!」

「!?」

と、いう具合で、黒江AはBに自身が受けたのと同等の特訓を課した。

「やめてくれ!死んじまう、本当に死ぬ!やめてぇぇぇ!!」

「逃げるな!!向かってこい!!」

ジープを全速力で突進させる黒江A。それから必死の形相で逃げ惑う黒江B、それとおまけの智子B。(巻き込まれた)圭子Aは苦笑いだが、自身も仮面ライダーらから課された特訓であるので、なんとも言えない。

「うわああああああ〜!!」

特訓でホイホイ強くなったら……と、かつてティアナ・ランスターは言ったが、特訓にしても、殺す勢いであるので、まるでどこぞのウルトラ○ンである。なのはも別の自分にこの特訓を受けたことを言ったら、思い切り後ずさりされたと泣いており、仮面ライダー達の特訓が、後代の人間からすれば、70年代以前の『スポ根』的であるのが分かる。しかしながら、特訓もあながち間違いでもなく、本当に強くなっており、黒江Aが聖闘士になれた要因であったりする。


――後日。

「うーん。39度超えてますよ。やらせたんですか、滝特訓」

「うむ。南洋島は常夏だし、大丈夫と思ったんだけどなぁ」

滝に打たせたら、39度の高熱を出して寝込んでしまい、芳佳に引かれ気味の黒江A。特訓は更に続き、自分がやられたのと同じ特訓を続けた。その結果、身体能力面は以前より飛躍的に向上し、また、特訓からの自己防衛本能か、あるいはAに共鳴したか、B全員の体の中のリンカーコアが活性化しだしたのだ。魔力値も黒江B自身の最盛期の水準に到達したのを肌で感じ取り、シールド強度も戻っていた。Aには及ばないが、これで絶頂期の戦闘能力を取り戻したという事になる。

「そんな……、もう二度と無いと思ってたのに!」

「さて、ここらで自惚れないように、私の力を味わってもらうぜ!うぉおおおおおおおおっ!」

黒江Aは最後の仕上げと言わんばかりに、更な次元の力たる『小宇宙』を見せた。黄金聖闘士としてのそれを。

「ヌウン!!」

エクスカリバーではない、単なる手刀の衝撃波を放つ。咄嗟の判断でシールドを使うことが出来るか試したのだ。

「!!」

Bはシールドを咄嗟に張り、衝撃波を受け止める。エクスウィッチであったはずの彼女たちには『久しぶりの事』だった。

「できた……シールドが?あ、ははは!できた……飛べるんだ!私は!」

「ご苦労さん。その取り戻した『力』、守るために使えよ」

その一言を言い残し、黒江A自身は、小宇宙と魔力の応用で、敵ウィッチと空中戦を素で展開する。

「テメーら、こんなところにまで攻撃しに来やがって!もう許さねー!!『我が拳よ!!光の矢となり、悪を討て!!』アトミックサンダーボルト!!」

アトミックサンダーボルトを使い、編隊のウィッチたちの先頭を消し炭にする。素で音速を超える速さで飛翔出来る黒江Aを捉えられず、逆に流星拳、廬山龍飛翔で徹底的に叩きのめされ、捕虜になる有様だったという。




――太平洋戦争でほぼ蚊帳の外に置かれたオラーシャ帝国。連邦政府そのものが『統合戦争』での反統合同盟軍の盟主であったロシアに不信感を持っており、更に連邦政府中枢にいた日本人たちがソ連対日参戦の際の蛮行を徹底的に責め立てた事もあり、オラーシャは連邦政府からの信頼を得る事に躍起になった。(帝政ロシア時代は赤軍のような軍規の乱れはほぼなかったため、赤軍の罪を責められても困る)また、革命で王家が滅ぼされた歴史が多数派である事を知った時の皇帝が、人間不信になって暗殺の恐怖に怯えるようになり、政治にほぼ興味を失ったのがきっかけで、オラーシャ帝国は『立憲君主制』を完全に確立させる。また、冷戦や統合戦争の影響で、ロシア軍を強大化させる事に反対する勢力が存在した事もオラーシャ帝国の不幸だった。だが、オラーシャにとっては死活問題なため、連邦政府を時の軍司令官や政府高官が訪問し、援助を呼びかけた。オラーシャ帝国にその責がないにしろ、別の自らがシベリア抑留や対日参戦の悲劇を引き起こした事を連邦政府の主導者たる旧・日本国に『謝罪』してまで援助を求めるしかない状況だったからだ。(自らに責がない行動や、帝国が滅びた歴史においての出来事であろうが、とにかく謝罪して、連邦政府からの援助が得られれば、一時のプライドを捨てることなど安いものと考えた)その行動が功を奏し、連邦政府の援助も拡大していき、この時点では、軍備を朝鮮戦争時の装備に更新し始めていた。

「よろしかったのですか?」

「これでいいのだ。これでスターリンという男がやったような大粛清をやられてみろ。国そのものが滅びる。ならば、媚び諂ってでも、我が国は守り、取り戻さなくてはならん。今やソ連邦やロシア連邦のような、世界を二部する大国になることは、もはや我が国には無理な相談としてもだ」

オラーシャは金属資源を怪異に食われている都合上、ソ連邦やロシア連邦のような超大国に成長出来る余地は殆ど残されていない。『戦前の規模を維持できれば上々』と言われているので、連邦政府からの援助に全てをかけていた。オラーシャ軍はティターンズと戦闘する事もほとんど無く、大戦でほぼ蚊帳の外の状態であったが、戦前の領土を最低限取り戻すという目的を果たすべく戦っていた。




――そんなオラーシャも今回のパニックと無縁ではなく、サーニャBもついに南洋島に現れ、扶桑軍が保護に向かったが、ここで予想外の出来事が起こる。なんと、サーニャBがかつて、神闘士の盟主にして、オーディーンの地上代行者であった『ヒルダ』同様、海皇ポセイドンの呪いを受けたニーベルンゲン・リングをはめられ、ティターンズ側の人物と化してしまったのだ。これにより、サーニャBは聖闘士と神闘士の戦争の最前線に立つ事となり、黒江達にアテナからの討伐命令が下されるに至った。



――更に後日

『創世王の軍勢は撃退したが、今度は神闘士との事変か。君も大変だな』

『はい。サーニャを呪縛から開放しないと、エイラにどやされますからね……参った』

『せめて、星矢達が来てくれれば心強いが、星矢は廃人状態だし、他の連中もほとんど離れられんし……一輝がいればなぁ』

『ないものねだりしても始まらないさ。俺達も協力する。君は神闘士との戦いに備えろ』

『了解』

「おい、黒江。今のはどこからの……」

「……私の知り合いからだ。お前らには言っとく。サーニャがオーディーンとポセイドンの術中に嵌った。……アテナからは討伐命令が出ている」

「待て!するとお前らは……サーニャを!?」

「サーニャは操られているだけだ。正気に戻す必要があるだけだが、サーニャにオーディーンの地上代行者の素養があったとは思わんだ……」

「馬鹿な!?あれは北欧の神で、サーニャはオラーシャ人、全く関連が見いだせんぞ?!」

「バッキャロー。北欧と言っても、ロシア人とスオムスは同じ民族の出自だ。オーディーンの地上代行者になれる可能性がないってわけでもない」

「ここのエイラに、何ていうつもりなんだ?」

「まじでどうしよう。あいつの事だ。アスガルトに殴り込みしちまう。お前のとこの宮藤には言うなよ!あいつが聞いたら、『だから何なんですか!』で突っ込んじまう。如何にあいつでも、相手は神闘士だ。指先一つでダウンさせられるしな」

「ウィッチでは歯が立たないと?」

「無理だ。音速から光速の拳が飛び交う世界なんだ。聖闘士か、それに順じる実力を持ってなければ……」

次元パニックはなんと、『神々の熱き戦い』の領域に突入する。黒江Aに神闘士の討伐命令が通達され、サーニャBが傀儡にされるという予想外の事態。黒江と坂本Bの会話を盗み聞きしていた芳佳Bは、ショックのあまり転移済みの皆に言ってしまい、黒江Aのもとに坂本を除く、芳佳B、シャーリーB、ルッキーニBが詰め寄る事態となり、止める黒江にルッキーニBが飛び蹴りを入れるが、黒江Aは指一本でルッキーニの蹴りを受け止める。

「にゃ!?」

「やめろ。これはガキのお遊びじゃないんだ」

聖闘士としての黒江は、山羊座の聖闘士の歴代の就任時の年齢では比較的若輩になるが、屈指の実力を持つ。そのため、ルッキーニの蹴り程度は指一本で事足りる。襟首摘まんでポイっとぶん投げる。

「んだと!?あんた、昔のエースだそうだそうだけど、あたし達の仲間を拉致られて、黙って見てろだと!?ロートルのアンタに何ができるってんだ!サーニャは……」

「やめろといったろ、シャーリー」

「!?ば、馬鹿な!?魔力使ってんのに、力負け……」

強引に掴んだ手を払いのける黒江。地力の差が大きいため、シャーリーBは為す術がない。

「ぐっ……!」

「バカモノ!!何をしているお前らは!!今回ばかりはお前らでどうにかなるレベルを逸脱しているのだぞ!!」

坂本Bが叱責するが、芳佳Bが案の定、『だから何なんですか!!』と切れ、ホテルにあるストライカーで出ようとする。ホテルに配置されていた兵士らが捕縛用のワイヤーを巻きつけ、牽引するが、芳佳はエンジンを吹かし、持ち前の魔力で振り解く。と、そこに

「やめろ、芳佳」

「お、箒!来たか!」

黒江がベランダまで出ると、箒が射手座の聖衣姿で芳佳を止めに入ってくれた。芳佳Bは『あなたが誰なのか知りませんけど、邪魔しないでください!!』と怒鳴る。

『もし、どうしても行きたいと言うのなら私に一撃でも当てて見ろ!』

『!どうなっても知りませんよ!?』

自前の99式改13ミリを乱射するが、箒は『その場に留まってるだけ』なのに、攻撃が当たらない。

『!?』

『弾切れか?』

トリガーを引くが、弾が出ない。マガジンを撃ち尽くしたのだ。

『99式ベースのモノは、小口径化したところで、それほど弾を携行は出来ん。それを覚えておくんだな』

九九式機銃は、初期型では60発、2号型をベースにしたところで、120発程度である。いくらスケールダウンしたところで、ウィッチ用はドラムマガジンである都合、100発がせいぜい。弾切れも速いのだ。

『それにそんなおはじき程度じゃ神の戦士たる聖闘士や神闘士には通用せんよ』

と、痛烈な一言を言う。なおも諦めない芳佳はシールドを使い、突撃するが、小宇宙を高め、可視化させたオーラに弾き飛ばされる。

『ペガサス流星拳!!』

ペガサス流星拳を放つ。芳佳はシールドで受け止めるが、一発の打撃が大きく、シールドの魔法陣が乱れる。そして、徐々にシールドごと圧される。推進力が打撃の衝撃に負けているのだ。芳佳は叫び、エンジンを全開にする。だが、進まない。

「進まない!?なんで!?」

「お前の根性は認めよう。そして、その爆発力も。だが、今回ばかりは諦めろ!ムゥン!!」

流星の速度が速まり、電撃を纏い始める。芳佳のホテルを覆う勢いのシールドも流星が徐々に侵食する。

『アトミックサンダーボルト!!』

技がアトミックサンダーボルトに切り替わり、光速拳が襲う。芳佳Bの巨大なシールドもパリーンと割れるように消え、衝撃で芳佳Bは吹き飛ぶ」

「ヨシカ!」

「宮藤!!」

シャーリーBとルッキーニBの悲鳴が上がる。落ちていく芳佳Bを、すっ飛んできた芳佳Aが救う。

「箒さん、アトミックサンダーボルトはやりすぎですって。彗星拳で充分じゃ」

「彗星拳だと殺しかねんだろ。余波の電撃で落とせるしな、アトミックサンダーボルトだと」

「やれやれ」

「え!?もしかして、この世界の……私!?」

「うん。扶桑空軍中尉、宮藤芳佳。あなたの別の可能性の姿だよ」

「あ、あれがこの世界のヨシカ!?」

ルッキーニBが素っ頓狂な声を挙げ、シャーリーも唖然とする。凡そ17歳になった芳佳がそこにいた。普段のセーラー服でなく、空軍のフライトジャケット姿であるのが新鮮だ。機体は震電第三世代型の改二だ。(ジェット)

「お、空軍のフライトジャケット買ったのか?」

「いえ、源田さんに言われて、雑誌のグラビアの撮影だったんですよ」

「んじゃ、それは?」

「メーカーから着てくれって頼まれたんですよ。来年のフライトジャケット決めるコンペに応募する試作品らしくて」

「あー。あれか」

と、黒江と会話する。

「綾香さん」

「よく来てくれた」

「火消し、大変でしたよ。インベーダーでもやってる気分でした」

「まぁ、リベリオンだからな。さっ、休め。フェイトは?」

「間もなくかと」

と、聖闘士としての会話を箒とする中、芳佳Bは、Aが背中に刀を二本担いでいる事を指摘する。

「あれ、その刀は?」

「仲間との友情の証だよ」

と、AがBに言う。

「本当に刀を使うんだな、お前は。仲間と言ったが、誰だ?義子か?」

「いえ、菅野さんです」

「菅野!?もしかして、502にいるという義子の舎弟!?」

「はい、菅野さんは私の長機です」

この一言に坂本Bはフリーズした。菅野直枝。502のブレイクウィッチーズの一人にして、デストロイヤー。芳佳との繋がりがB世界には無いため、衝撃が大きかったらしい。

「おい、宮藤!先走んなよな!」

その『当人』が現れる。坂本Bは余計にフリーズする。B世界ではありえない組み合わせだった。宮藤芳佳と、菅野直枝という。



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