短編『ジェノサイド・ソウ・ヘブン』
(ドラえもん×多重クロス)



――戦争勃発はメタ情報で確定しているため、日本に戦争当事国である事を自覚してもらうため、合同安全保障会議という形で、会議が開会され、日本の2016年に第一回が行われた。日本の『国家安全保障会議』が発展的に解消した形だが、扶桑側のメンバー選考が手間取った。メンバー選考の過程で、日本の一部メンバーから『旧軍の恩賜組は思考がガチガチすぎてダメだ!』とケチがつけられたのだ。ケチがつけられたのは、『晴気誠』少佐(恩賜組。史実ではサイパン陥落の時のサイパン方面主席参謀)、海軍の草鹿龍之介中将(ミッドウェー海戦の第一航空艦隊参謀長)などがそれだ。有名所では、黒島亀人元連合艦隊主席参謀(戦前、山本五十六の寵愛を受けていた)、福留繁(元・連合艦隊参謀長)も当てはまる。更に宇垣纏(元連合艦隊参謀長の前任者の一人)もブラックリストに当てはまると説明され、扶桑は混乱した。日本側が希望として提出した参謀クラスのリストは、扶桑で言えば、殆どが無名と言える者達だった。千早正隆海軍中佐、大井篤海軍大佐、八原博通陸軍中佐、矢野志加三少将、大物では宮崎繁三郎中将、樋口季一郎中将などであった。彼らは扶桑では、ミッド動乱で初めて名を挙げたばかりの者で、当時の軍部は喧々諤々となった。情報参謀として、当時は無名の情報参謀の堀栄三大佐の名も入っていた。日本側としては『旧軍のベストに近いメンバーはこの人選だ』という意気込みだった。史実の功績で言えば、確かにベストメンバーに近いが、扶桑内部の事情を考慮しない人選であったため、当時は非公式の集まりであるY委員会が極秘裏に動き、沖縄戦を指揮した全ての者達、硫黄島指揮組、ペリリュー島指揮組の追加参集を、吉田茂からの通告という形で通告した。史実で勇戦した戦の当事者というセールストークを使ったわけだが、沖縄戦の指揮をした者の参加は沖縄県の反発を招くという懸念が日本にはあった。特に、長勇中将は沖縄戦で失敗をやらかして自決しているため、問題視された。更に、史実の沖縄県知事への態度がマイナス点となり、Y委員会も扱いに苦慮しているのが実情だった。会議が開かれた頃には、陸軍は大幅な粛清人事を経ており、会議に呼べるほど日程の開いている者は殆どいなくなっていた。粛清人事を免れた者達は殆どが過密スケジュールの要職にあり、長勇中将は粛清人事を免れた数少ない主流派参謀の一人であり、自省の動きを見せている参謀の一人でもあるためにY委員会も選定したのだが、彼は『私は現場や攻勢向きな軍人だから大戦略を練る場には相応しくないよ』と辞退し、その代わりに、スケジュールが空いた『辰巳栄一』中将(吉田茂の軍事ブレーン)が選ばれたという。






――のび太は6月のある日、幸いにもテストは0点ではなかった(30点であるが)。先生には別の理由で怒られており、廊下に例によって立たされており、授業は終わっているはずなので、様子を見に来た箒と鉢合わせした――

「のび太、またなにかやったのか?」

「授業中の居眠りでして」

「お前と言うやつは。クラブ活動で疲れる歳でもないだろう?」

「それがつい…」

「はぁ……。それでよく高校に行ける事になってるな、お前」

「モノの弾みですよ」

「全く」

箒はIS学園の制服を普段着代わりにする形で、活動している。黒江がちょくちょく借り受ける『アガートラーム』(コピー)は箒に本来は所有権があるため、この時点では箒が保有しており、IS学園へ報告に帰還していた際に使用してみせたばかりである。当時、赤椿はセブンセンシズで叩きのめした束に進化後の構造調査を頼んでいた(脅した)ので持っておらず、黒江から送られたアガートラームで戦闘に対応しており、セブンセンシズに目覚めているため、ギアの展開時間の制限時間がないので、戦力としての安定度数はオリジナルのアガートラームの装者である『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』を総じて上回る。(直接的戦闘力の観点からすれば、経験の問題で劣る面もあるが)解析中のISと入れ替わる形で、シンフォギアの待機状態のペンダントを首から下げているのが、これまでとの外見上の違いであろう。

「どうです?アガートラームは」

「もしかしたら、私と同じ魂を持つかもしれないという『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』ほどには扱えていないかも知れんが、なんとかコツは掴んだ。私は右腕が重装備になっているので、マリアとは異なるが」

「むしろそれが伝説通りじゃ?」

「そうだな。立花響と対になるような性質を、マリアが用いる時は持っていると言うからな。個人差があるのだろう」

箒と黒江がアガートラームを起動させた場合、武装の配置はマリアが用いる場合とは逆になっている。変身した状態で纏っても同じなので、調は容易に見分けられる。これは個人差だろうと推測している。また、二人が限定解除した場合は、マリアと明確に異なる姿になる(それぞれの守護星座を象った意匠が出現するようになったため)。

「私達は、彼女らの言う正規適合者ではなく、聖闘士という異種の力で、聖遺物を『ねじ伏せて』起動させたイレギュラーの第四種適合者(シンフォギア世界での、黒江や箒などの『通常の適合者の概念を全て超えた存在』の便宜上の分類)らしい。フロンティア事変では綾香さんが大いに向こう側を怯えさせたというし、魔法少女事変では、Gカイザーが錬金術の壁を打ち砕いている。神の力を得る事は本来、人の夢であるからな」

箒が言うのは、黒江がシンフォギアの常識を覆し、Gマジンカイザーが『錬金術は現在兵器に無敵』の通念を打ち砕いた二例の事だ。その力が『神の領域』に届けば、機械であろうと、その存在は神になる。それはマジンガーZEROが証明している。箒はセブンセンシズ以降のセンシズが神の力であり、それに到達できる可能性を持つ者が聖遺物を超え、それを純粋に道具として扱えるのだと推測する。

「そう言えば、シンフォギアは人と聖遺物の隔てりを仲介するための道具でもあるとか聞いたような」

「本来はな。だが、聖闘士になれば、神の尖兵になるから、人を超える。そうなれば聖遺物との存在の隔てりは意味をなさなくなる。だから、調はギアの常時展開ができるようになったのだろう」

「なるほど。よし、先生に一昨日の宿題出してくるんで、待ってて下さい」

「分かった」

のび太が宿題を提出しに行き、暇になった箒は、小学校という場所の空気を久しぶりに感じていた。ただ、姉のせいで一夏と離れ離れになったという嫌な記憶もあるため、姉のことは完全には許していないが。


――マリアと箒は互いに同じ魂を持つ存在かもしれないという指摘は、最初に話を聞いた調によってなされた。いくら黄金聖闘士とは言え、とっさに『Seilien coffin airget-lamh tron』の聖詠で、マリアと同等以上の出力と同形状のギアをいきなり纏えたという疑問があったからだ。箒とマリアは声色もよく似ているが、とっさに取る行動も似ていた上、ギアでの初陣での歌がマリアのそれと同じものであった事からの推測であるが、箒も考え込むほど、マリアとは共通点があった。ファイトスタイルは違うが、調はアガートラームを纏った箒の背中に、マリアの姿を重ねた。家族同然であった調でも戸惑うほどに、アガートラームを纏った箒の背中はマリア・カデンツァヴナ・イヴに似ていたからだろう。それは調が最も感じていた。

――学校の裏山――

(箒さんの背中、あれは絶対、錯覚じゃない。ギアは違うけど、マリアと同じ……)

箒がのび太を待つ頃、調はのび太が心を休める時に訪れ、アニマル惑星の冒険の際には、玉子が保護運動に乗り出していた『学校の裏山』(実際は小高い丘程度だが)に居た。草を枕にして寝てみると、心が洗われるような感覚を覚える。ふと、箒に対して持つ、一つの考えを思う。箒とマリアは世界を隔てた『同一の魂の転生体』ではないかという推測だ。芳佳と杏という先例がある以上、箒とマリアもありえない話ではない。ただ、マリアの転生体が箒なのか、箒の転生体がマリアなのかという疑問と、アガートラームの装備がマリアと逆に変貌しているという疑問もある。

(芳佳さんの事もあるし、あながち間違いじゃないかも。転生って不思議…)

裏山は里山である。しかし、練馬区の再開発事業が地主の世代交代などで遂に行われる2010年代後半に姿を消す事になっている。この際に、土地を売った地主の息子は町内でおば様方に村八分にされそうなほどに睨まれ、私財を投じて、千年杉の慰霊碑を立てている。(裏山はその後、戦乱を経た23世紀にはコスモリバースの影響で復活した。これは裏山のあるべき姿がこの時点でのものだったからだろう)

(うーん。考えても分からないから、出木杉君に聞いてみよう)

ここで、出木杉に聞いてみようという思考が浮かぶという点で、黒江の影響がかなり出ていると言えよう。さっそく山を下り、出木杉の家に行くと、出木杉は快く迎えてくれ、話を始めた。


「もしかして、その性質は『反転体』じゃ無いかな?」

「反転体?」

「うん。十字教で錬金術が盛んだった時代に体の複製を試みた錬金術師がいたらしいんだ」

「人間の体を?」

「科学の世の中で言えば、クローンの製造みたいなものさ。問題は入れる魂だった」

「魂?」

「そうさ。魂がなければ、肉体は単なる肉の塊にすぎない。そこで自分の魂をコピーして入れたら、自分と正反対の人間が生まれた。そういう伝説さ」

「錬金術……。自分の世界のことがあるから、嘘じゃないのは知ってるけど、人間を造れるなんて」

「君の世界にいるホムンクルスの『エルフナイン』ちゃんがそうだと言える。元のキャロルと性質がまったく逆だろう?写真の裏焼きや版画みたいな物だよ」

「裏焼き?」

「一眼レフカメラとかの現像の時によくあるテクニックさ。ネガを反転させて焼けば、反転した構図の写真ができる。昔の刑事コ○ンボでも出てる手さ」

出木杉は、裏焼きという写真のテクニックについて説明する。刑事コ○ンボのとある話にそのようなトリックが使われた話があり、ファンの間でも名作の誉れ高い評判の話を引き合いにだす。その話をするあたり、かなりコ○ンボを見ている事が分かる。

「えっと……『逆転の構図』だっけ?」

「そうそう。たぶんそのタイトル。それみたいなものさ。たぶん君の言う二人は、同一の魂から分かれた魂を持って生まれたんだろうね。シンフォギアの武器が左右逆なのも、魂の状態の反映だから、個人差の範囲内と思うよ」

「流石……。小学生なのに、何年もアメリカに居た私でも目回しそうな十字教の本読めるなんて」

「親が『探究心を持つ事に、年齢は関係ない』って教育方針でね。親戚に十字教の関係者がいるからって、もらってきてくれたんだ」

出木杉が錬金術の説明をするのに、本棚から下ろした本は、日本の小学生の学習の度合では読めないような難しい英語の羅列であった。それは、以前、のび太に魔法の説明をする際にも用いた本だが、魔女狩りの項目もあり、十字教の暗部に踏み込んだ内容の本だった。文章は全て英語で、アメリカ暮らしだった経験がある調でも目を回しそうなほどに難しい単語の羅列だった。それをネイティブと同等の理解力で解説する出木杉は、正に天才としか言いようがない(彼を上回る頭脳は、この時点でスポーツ以外の能力で上位互換と言える高畑和夫がいる程度)。将来的に、彼は火星のテラフォーミングと移民計画のごく初期段階に携わる事になるのも頷ける。また、箒とマリアの魂が分かれた魂なら、分かれる以前の一つの魂を持って生まれ、死んだ人物が何処かにいるとも取れる。だが、それは仮説の域を出ない。

「仮説になるけど、何処かの平行世界で、ある人物が箒さんとマリアさんになる魂の持ち主で、その人が生まれて死んで、その人物の魂が平行世界を跨がって分かれ、その魂を持って生誕したのが篠ノ之箒さんとマリア・カデンツァヴナ・イヴさんになるんだろう。全く同じ魂なら、武器の配置も同一になるはずだよ」

箒とマリアの魂の起源となる人物が何処かの平行世界にいて、その人物が死した後、その人物の魂が二つに分かれ、別個の世界において転生した姿が二人であるとする仮説は、箒が難なくアガートラームを纏い、即座に戦闘できた理由の説明としてはしっくり来る。

「二人の起源になった人?」

「正確に言えば、お互いの過去生になる人物だね。同じ魂から派生、転生した人物なら、同じ過去生を持つはずだよ」

転生は通常、別の人物として生まれ変わる事を指す。この場合は元になった魂の元の持ち主が死後に箒とマリアにそれぞれ転生した事に当てはまる。その人物は二人の特徴を併せ持っていたか、あるいはその人物の持っていた一面が強まって現れた性格を二人が持っているのではないかと推測する。

「ドラえもんが帰ったら、聞いてみるといいよ。その手の専門家だし。さっきの続きだけど、魔法がこの世界で表向き廃れた原因は、十字教、いや中世の欧州の人々が自分と毛色の違う人間を恐れたっていう、ごく単純な理由さ。この時に魔女狩りが行われたせいで、ウィッチの人口は消滅はしないにしても、かなり減ったんだ。やがて、世界史に日本が台頭してくるに従って、その力を組織だって保持していた日本を恐れた。で、太平洋戦争の敗戦で緋々色金のノウハウも失われそうになったけど、神器の維持を理由に、吉田公と幣原公がかなり揉めたらしいって非公式の記録もある。未来で、日本が世界の主導権を握るのは、人類創生の地が日本列島だった事実も関係してるのかも」

アマテラス、スサノオ、ツクヨミの三人が地球人類の創生を促すため、プロトカルチャーにお膳立てさせていた『遺伝子操作済みの猿』を日本で進化させ始めたという重大な事実は、仮面ライダーらが垣間見たジュドの記憶から判明した事で、出木杉はのび太とドラえもんからそれを聞かされていて、知っていた。この時代の定説である『アフリカで人類創生が起きた』というものを根底から覆す新説だが、この時代で発表しても、一笑に付されるのがオチなので、それを知る誰もがそれを秘匿している。それを手引きした張本人のバダンに連なる一連の暗黒組織の元になったのがナチス・ドイツで、それを操っている元凶がスサノオであるなど、仮面ライダーなどのヒーローたち以外では、ドラえもん達しか知らない。

「プロトカルチャーがアフリカで遺伝子操作の猿を発生させて、ある程度根付いたところで、バダン大首領が仲間と日本に降り立って、自分達の都合に合うように、人類の数をトバ・カタストロフで絞って改造したのかもしれないな」

「トバ・カタストロフ?」


「インドネシア、スマトラ島のトバ火山の噴火による寒冷化、トバ事変による人類の大規模死滅による遺伝的ボトルネック。 人類の個体数に対する均質性の理由と考えられている事件さ。この時代だと、あまり有名でない学説だけど、7万5千万年くらい前、その火山が超弩級の噴火を起こしたんだ。推測されるエネルギーはTNT火薬で1ギガトン。原爆がかんしゃく玉みたいな感覚の超エネルギーだよ」

「えーと……ギガ?」

「メガの上だよ。広島に落とされたリトルボーイがかんしゃく玉、二度の世界大戦の全部で使われた全火薬、原爆入れてようやくダイナマイトになるかな?それくらいの超エネルギーだよ」

「……桁が大きすぎて、ピンと来ない」

「それもそうさ。ギガトン級の反応兵器なんてのはそうそうないよ。23世紀のガルマン・ガミラスとボラー連邦にしかないと思う。いや、護衛艦の小口径波動砲のエネルギー量くらいかも」

「それくらいのエネルギーを自然が?」

「ああ。原始時代のシャーマニズムっていう信仰が生まれたのもそれさ。その超エネルギーが凄まじい。噴出物の容量は1000立方キロメートルを超えたって話。ビクトリア湖が一個埋まるくらいの量だよ」

「すごい……」

自然の超パワーで引き起こされた寒冷化は、最終氷期の引き金を引くほどで、人類の遺伝子の多様性の淘汰の理由付けになる。この時代(2000年代初め)ではマイナーな理論になるが、出木杉はそれを知っている。それを年上の調に、のび太でもわかるほど、わかりやすく説明できるほどに説を熟知しているあたり、後の人生の成功の片鱗であろう。

「そうして生き残って、大首領が改造した一族と、ドラえもんたちが中国から連れてきたヒカリ族、更に各所から移民してきた人類との混血が日本人の原型になるかもね」

「どうして、政府はその、バダンの存在や、ヒトの進化の縮図が日本にあるって事を秘匿しているの?」

「仮面ライダー達がショッカーからデルザー軍団と戦ってた70年代、当時の政府はそれを知ったけど、政府は『大日本帝国の言っていた事を肯定しかねない不都合な事実』として封印したのさ。2016年の『日本連邦』結成は、バダンの表立った活動の防衛と、当時に絶頂を迎えていた学園都市を政府が押さえ込むために必要になったからの選択なのさ」

「バダンの元になったのはドイツ軍だよ?どうして、日本と関係が?」


「大ありさ。バダンには、戦後直後、職にあぶれた元日本陸海軍の軍人がまとまった数で加わってる。1000万近い人間をクビにしたんだから、治安は必然的に悪化するよ。生え抜きの職業軍人は戦後の世界には邪魔者でしかなかったしね。それに気づいた吉田公は思想的に問題の無い軍人の受け皿として自衛隊を作ったんだ。慌ててね」

誰かがが誰かによって、自衛隊の設立理由を説明される事は、バダンにまつわる説明には必須だった。ショッカーからデルザー軍団までの時代の暗黒組織の日本での協力者は、多くが戦後、自分の属した組織の存在意義すらも否定され、恩給復活まで極貧に喘いでいた経験を持つ、元・日本陸海軍の少尉以上の職業軍人であった。吉田茂が逆コースを容認し、再軍備を急ぎだした真の理由の一つはここにある。

「これは1972年頃のアメリカの新聞記事の切り抜き。僕の父の従兄弟がその筋にいて、その関係で調べてたとか、前に父が言ってたんだ」

「『ナチ残党組織の協力者、逮捕される。被疑者は元日本帝国陸軍少尉』……?」

「ショッカーがナチ残党な事はその筋には有名でね。イスラエルは特に壊滅に血眼だったそうだけど、手を出せなかったようでね。吉田茂公に仕えてた大叔父(出木杉の祖父は太平洋戦争の激戦となったペリリュー島で戦死した陸軍将校で、その弟は文官だった)の遺した手記でも、吉田公は早い内から旧軍人の再雇用を考えてたとあるから、イスラエルからもせっつかれてたんだろうね」

軍人達を再雇用する事は、吉田茂は警察予備隊設立前の段階で決定していたが、旧軍人の思想の問題から、マッカーサーの要請に従う形で、元軍人を避けた。これが自衛隊の内務閥の傲慢の起源である。内務閥の有力者達は『此度の再軍備に旧軍参謀たちは出てこないでほしい。彼らはプロとして負けたのだから、おとなしくすっこんで、田舎で芋でも作ってろ』と言わんばかりの傲慢だった記録も残されている。しかし、米軍がその体たらくに怒り、吉田茂の真の思惑は『バダンに加入する元軍人の供給阻止』にあるためもあり、旧軍人の復権は結局行われた。日本政府にイスラエルから『旧軍人のショッカー加入はどういうことか?』という文書が送られ、日本政府はその回答に苦慮したともあるので、旧軍軍人の取り扱いが急激に改善されたのは、ショッカーの存在が大きいとも言える。

「師匠も言っていたけど、そこを突かれた吉田首相がマスコミをあしらったとか。16年後の話だけど」

「そりゃそうさ。その吉田公にとって、史実の自分の行いは『起こってない出来事』だし、本当は現実主義者だよ。陸軍嫌いは本当だけど」

「どうして、マスコミは同位体の事を混同するの?元軍人の人達もそうだけど」

「一言で言えば、元軍人の人達や吉田公は、16年後の人達にとって、『歴史の中の登場人物』さ。吉田公は現実主義者だけど、そこは語られずに『反戦主義者』、『反軍主義者』って言われてるからね、今の時点で。元軍人の人達も、『日本を荒廃に導いた元凶』と見られてる人は多いんだ。特に関東軍とかの陸軍出身者はね」

「師匠も、記者会見で旧軍出身者ってバラしたら、市民団体から誹謗中傷されたとか……。それだけの理由で?」

「陸軍は山姥とか、狂人の集まりとか言ってる人がいるんだよ。死んだおじいさんが聞いたら嘆くよ、たぶん」

調が参照できる記憶に、それはあった。黒江は自衛官としても、マスコミは嫌っていた。これは坂本の名誉毀損事件と、自分自身に降り掛かった事件が影響していた。日本で身分を公表した直後あたりの2000年代後半、黒江は不幸にも陸軍出身である事から、市民団体から『人殺し』、『中国や朝鮮で人殺してもらった勲章なんだろ?』と的外れな誹謗中傷を浴びた事がある。防衛庁が『彼女は空軍の軍人で、そもそも日中戦争が起きえない世界の人間である』と広報や記者会見を行い、鎮静に努めた。2007年、黒江は個人でも市民団体を提訴した。結果、市民団体に明らかな非があった事、黒江が高潔な空軍軍人であることは既に知られており、裁判員裁判の裁判員達が好感を抱いていたのが助けとなった。せしめた賠償金はかなりの金額であり、扶桑軍人出身者からの提訴の連鎖を恐れた市民団体は、扶桑軍人出身自衛官にケチをつける事は無くなった。更に、防衛庁から史実の旧軍関係者の自衛隊での働きが周知された事で批判は止んだが、黒江はかなり怒っており、自衛隊で栄達しても、マスコミのインタビューに容易に応じないようになっている。坂本の事件の教訓から、元自幹部、現場取材をきっちり行うライターの取材には応じるので、かなりマスコミ関係を嫌っているのが分かる。

「君の師匠である、黒江綾香大佐がその美貌で名を馳せながらもマスコミ嫌いなのも分かるよ。旧軍出身だと言うだけで誹謗中傷だと言うしね」

「師匠が言ってた。『会見に出てこいとは何様だっつーの。よく遊び(取材)にくる歯並びの悪いにーちゃんが聞きに来るなら、喜んで言える話はしてやんよ』って。たぶん、元の世界での事件が原因だと思うけど、自分自身にも災難が降り掛かったから」

「だろうね。日本のマスメディアのリテラシーは低いほうなのは、95年のテロ事件で知れ渡ってるし、偉そうだしね」

黒江は2000年代後半の日本でとんだ事件に巻き込まれ、精神的苦痛を味わう。市民団体の無知ぶりが国民に知れ渡るのもその時で、黒江が陸軍航空部隊のパイロットである事も周知の事実となった。彼らは知らなかったのだ。日本は陸軍に航空部隊部門があると。黒江が航空部隊のパイロット(航空科)であり、歩兵科ではない事がわかると、市民団体は示談に持ち込むように動き始めた。彼らは陸軍=歩兵の認識程度であったが、黒江は自衛隊入隊時点では陸軍航空部隊所属というだけで、実質的は空軍軍人だ。賠償金をたんまりせしめないと気が済まない黒江は示談の提案で1000万円を要求した。精神的苦痛の賠償代わりと言って吹っかけたのだ。彼らにはそんな大金は払えないため、1000万から少しづつ減額してゆく形で数度の交渉を行った。彼らは意外に金周りはよく、黒江は彼らが払えそうな金額に次第に近づけ、示談成立をさせたいと彼らにちらつかせて、交渉を何度か行った。結果、彼らの年収で払えるギリギリセーフな金額を提示し、示談を成立させた。その記憶を話し、師である黒江に同情する調であった。



――出木杉宅からの帰り、ドラえもんに、通信用タブレット(タイム電話)でマリアと箒の起源になった過去生の人物が平行世界にいるという仮説について意見を聞こうと考えつつ、昭和的な風景のススキヶ原に居心地の良さを感じる。そして。

(私……。のび太君の手を知らないうちに握ってた……。こんな事初めて……。……いやいやいや!?何考えてるんだろう、私……!?)

今朝の衝撃的な光景がよっぽど効いたらしく、顔が一瞬で茹でダコになる。彼女はのび太の優しさにときめいていたのだろうか。それは分からない。だが、のび太の手の温もりが安心感を与えたのは事実だろう。これを切歌が聞いたら憤怒の形相となり、イガリマで追いかけ回すだろう。(後にそうなった)だが、結果として、寂しい思いを抱いていた調の心を慰め、シュルシャガナの完全掌握に成功させたのは事実である。小宇宙に目覚めなかったら、ギアの展開に負荷がかからないようになる事もなかった。

(私、決めたよ。切ちゃん、マリア。私は強くなる。強くなってどんな事があっても生き抜く。それが本当なら塗りつぶされるはずだった私なりの……)

調は、黒江が成り代わる時点でフィーネの魂の器になっており、本来の歴史においては、立場の違いから対峙し、切歌が絶唱で攻撃した際に事実が発覚した後、切歌の自害を身を挺して庇い、フィーネの最後の力で命を救われている。これがなのはやフェイトから当人に伝えられた『本来辿るべき流れ』だった。だが、実際には黒江の成り代わりにより一変し、切歌の思い込みからの暴走が最悪の事態を招きかけ、黒江はフロンティア事変が終結した直後、切歌を叱っている。

『殺しに行っても殺せない相手で良かったな。これが当人だったら、取り返しがつかない事になってたところだぞ?』

黒江は『成り代わっている』事を示すため、サジタリアスの黄金聖衣姿で叱った。切歌は大泣きしており、この世界から『本当に調がいなくなっている』事が大ショックで、生気を失くしたような様相だった。

『生きて、どこかにいるのは確かだ。この姿で私がいることは、世界が求めてるんだろう。その子の役目を私が代行しろと』

黒江は成り代わった理由に気づいており、フロンティア事変後は調が本来辿る役目を代行し、魔法少女事変を戦い抜いた。その事があ切歌の負い目となっている。彼女も聖闘士志願だが、まだ訓練途上であり、内定状態の調とは差がある。その切歌はこの時点では聖域におり、智子からの頼みで、魔鈴が稽古をつけていた。小宇宙に目覚めるための体づくりの段階で、初歩の段階であった。修行地はギリシア(切歌)、中国(調)と違いが出ている。

――互いに行く道は違えど、いつか道は交わる。そう信じ、調はススキヶ原で『修行』を兼ねて、シンフォギアを纏う生活を続けてしていく。いつか、同じ空の下で出会う時に恥ずかしくないように――



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