短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――野比家トレインに招かれた者達は原則として、生身でも一定レベルの戦闘能力を持つ者だった。その為、生身でも戦闘員と充分に戦えるレべルを皆が持つ。ハインリーケに至っては、小宇宙に覚醒し、エクスカリバーを特注の剣型デバイスを媒介に放つ事を可能としていた。『セ◯バー・リリィ』のコスプレをしていることもあり、注目度は高かった。

「うーむ。この時代、まだ元ネタのゲームは発売されておらぬとは言え、視線を感じるのぉ……」

「ハインリーケさん、軍服で行けばよかったのに」

「我が国の軍服で行ってみろ。欧州じゃ大問題じゃ。これでゆくのは問題ではあるまい」

食料品調達に向かった黒田とハインリーケ。ハインリーケはコスプレの甲冑姿で、髪型もそれに合わせてあるため、ますます似てきており、もう5年から7年ほど時代が後なら、若者中心に人だかりが出来ているだろう。最も、20世紀末の日本の水準でも、二人は素で芸能人レベルの美貌なため、注目は浴びている。

「でも、ハインリーケさん。ドイツの出なのに、アーサー王のコスプレなんかして大丈夫ですか?」

「それは言われたが、妾以上の適任者はおらぬと、大佐、いや、准将に言われての」

「先輩…」

ハインリーケと黒田は、別の世界での自分自身以上に、良好な関係となっていた。また、黒田の立ち位置も他世界と異なり、『黒江の腹心』である事により、大人になっているため、精神的に大人である節を覗かせる。これは黒江が精神的に少女に立ち戻ったのと逆に、黒田は名家である黒田家の当主として過ごしたため、精神的に大人にならなくてはならない環境だった事に由来する。そのため、他世界と比べると、性格がサバサバしていたり、戦闘で強かったりする。Gウィッチ化の影響により、戦闘能力が本来の水準よりも上の次元になっているので、『黒江に、事変から一貫して仕えてきた』という評判を強固に裏付けている。黒田は『扶桑海七勇士』という評判を、今回は武子によって与えられているため、ノーブルウィッチーズに派遣されたのは当然の流れという事になっている。(やり直し前では、あくまで稲垣真美の代打だった)今回においては黒田自身の振る舞いの努力もあり、黒田家内でも立場を確立しており、今回は風子を救えている。その事から、自発的に当主を継ぐことを明言し、そのように家を動かしている。そのためにやり直し前での人物像と差異が多く、黒江の腹心というポジションを得ているため、ノーブルウィッチーズでも一目置かれていた。『戦間期に最強を謳われし者に腹心として仕えた』経歴は、ノーブルウィッチーズでも箔として扱われた。黒江に仕えたという経歴は、ハインリーケとの関係改善にも繋がったので、彼女のGウィッチ覚醒後は真に戦友の間柄と言える関係である。また、外国では『黒江に追従し得た』という点で高く評価をされており、黒田は他国で自国より評価されている。また、軍歴も一桁からなので、扶桑海世代にあたるのもポイントだった。黒江と長年、コンビを組んでいたとされている。これが黒田の今回における立身出世の理由だった。

「お主、准将と何年組んだ?」

「前回入れると、数十年。今回は8年くらいかなぁ。先輩を諌められるの、レヴィさんや智子さんを除くと、あたしだけだし。坂本や竹井じゃ無理だし」

今回は黒江とコンビを組んだのが1937年度で、坂本の入隊より前となったので、邦佳は二人に対して『先輩』として接している。そのため、実年齢が上である坂本と竹井も邦佳のことは今回は『先輩』と呼んでいる。二人が新兵時、邦佳は一桁の年齢ながら、黒江の僚機として活躍していたからである。Gウィッチ覚醒後はお互いに笑い話にしている。前史と今回とではお互いに関係が違ったためだ。(先輩後輩関係が逆転した)その事から、真501で再会した際にはお互いの同僚から関係を驚かれている。ミーナやリーネなどは、坂本が年下の邦佳を先輩と呼び、邦佳もフランクに接した事に腰を抜かし、邦佳の同僚であるイザベルやアドリアーナは坂本が邦佳に目下な態度を見せた事に驚くあまりに顎が外れかけた。

「遊びすぎじゃったな、あれは。中佐やリーネ達が驚いておったぞ?」

「お互いにGになってるから、お遊びでやったんですけど、今回は階級も上だったから、余計にインパクトあったみたいで」

「うん?坂本少佐とお主はほぼ同等じゃろ?」

「実階級が大尉だったんですよ、坂本はあの時」

「そうか、忘れておった。実階級に差があったな?」

「あたしは先輩たちの威光で今回は立身出世したけど、坂本達は実績が先輩たちよりは劣るんで、実階級の昇進が勤務階級より遅れ気味だったんです」

ウィッチにあった特有の風習として、隊長などに抜擢された場合は、勤務階級を上げて対応することがあり、扶桑では多用されていた風習である。これは地球連邦軍との接触後はマイナスの効果となって現れた。近代的な合理性で基本的に動く地球連邦軍と、感情を優先させてしまうウィッチ兵科とでは相性が良いとは言えず、ガランドもそこで苦労を重ねた。Gウィッチ達は地球連邦軍にいた記憶を持つため、連邦軍を理解しており、彼女らの尽力で共同戦線が確定した。最も、過去のコウ・ウラキらの様な例が連邦にもあるが、ウィッチ達はコウ・ウラキらに比べても若すぎ、精神的に未熟過ぎた。そのため、Gウィッチ達が現場でてんてこ舞いしなければならぬトラブルも多かった。また、大人として振る舞い、非合法活動も行うGウィッチ達に反発したウィッチも多く、圭子は胸クソ悪いとガランドにぼやき、ガランドは『大佐、許可する。レヴィとなれ!』と指令している。その結果、突き抜けていたので、反発はあっけなく収束した。それほどレヴィとしての姿はインパクトがあったのだ。それと、ドスの利いた声もポイントとなった。

「ケイ先輩のあれは効いたかな?」

「妾の見立てでは充分過ぎるくらいじゃぞ?赤ズボン隊のフェル大尉など、視線が合っただけで怯えておったぞ」

「先輩、あの姿だと、精神のタガが外れるから、ガサツなんだよね。まぁ、子供達にはいい薬になったでしょう。黒江先輩、今度、『ロベルタ』の姿試そうとか言ってるし、智子先輩は演技力無いけどバラライカだし、地球で一番おっかない女ベスト3ですよ、あれこそ」

「うーむ。それには同意する。非合法活動をしている時の准将達の100マイル以下には近づきたくないものじゃな。他人は」

「かくいうハインリーケさんだって、もうちょっと時代が先なら、『騎士王』の渾名つきますって」

「それは分かっておるが…」

ハインリーケは本当に貴族であり、家系的にも名門の出である。違うのは出身国がドイツくらいなもので、地球連邦軍の兵や将校からは冗談めかして『騎士王』と呼ばれている。もう5年から7年ほど時代が先なら、秋葉原になど行けたものではない。色々な意味でアキバが混乱する。(二重の意味で)黒江に呼ばれ、黒江の同僚がコミケに参加し、その売り子を黒江とした(2010年前後)際には、そのサークルの同人誌の売上をアップさせた実績もある。また、ハインリーケ自身の知名度が上がった後では、二重の意味でコミケでの人気度が上がった。

「それに2012年以降はハインリーケさん自身の知名度上がるし、二重の意味で儲かります!」

「ある意味では喜んで良いのか困るが、悪くはないな…」

「でも、よかったじゃないですか、バイトが年に二回も出来て」

「妾の知名度が上がってからは、ツッコまれた事もあるぞ?『ドイツの大尉がイギリスの英雄のコスプレしていいんですか!』とか。分からんことはないがな」

「いいじゃないですか、それだけ人気ある証拠ですよ」

「トーン上げれば、大淀に似てるとも言われたが、そんなに似ておるか?」

「はい。大淀さんと似てますから、声」

「うーむ。他人の空似にしては怖いな」

ハインリーケは艦娘にも似た声質の者がいるため、割に声のそっくりさんが多い。最近、シャーリーにも、『美雲・ギンヌメール』(ワルキューレ)というそっくりさんがいることが分かったので、声質で言えば、ウィッチにそっくりさんは多い。(気づいたのは、ダイ・アナザー・デイ作戦前、ワルキューレの『破滅の純情』を聞いていた黒江で、シャーリーに歌わせたところ、彼女と同等レベルのチバソング値が叩き出された)なお、扶桑に帰化したサーニャは仮名と戸籍名を『九条しのぶ』とし、仮の姿が幼女であったりの苦労もあるが、扶桑に帰化していった。また、サーニャは素の姿でも意外と扶桑での知名度は低かった事もあり、表向き『そっくりさん』で通し、1950年を待っている。1950年に扶桑人としての軍入隊資格が得られるからで、名門であり、五摂家の『九条家』の養子となったからだ。当主がサーニャにしのぶという扶桑名を与えてからは、それを名乗っている。男爵令嬢になった(実父が九条家の分家当主に気に入られ、愛娘を幸せにするため、九条家に養子に出した)ため、扶桑華族にもなった。そのため、太平洋戦争開戦前の段階では、『九条しのぶ』という『ロシアと扶桑のハーフ』の男爵令嬢としての生活を送ってはいたが、レイブンズの手引きで、軍入隊準備も始めていた。本名を使うのは、次の仕事を始めた後となる。階級は本来、功績で到達していたであろう『少佐』になる。オラーシャ帝国には大打撃だったが、情報に踊らされた挙句の果ての大虐殺と内ゲバの行き着く先であるため、自業自得は否めない。サーシャは必死に遺留したが、サーニャダイ・アナザー・デイ作戦終了と同時に、除隊願いを出したので、ミーナとサーシャは顔面蒼白となった。だが、オラーシャに愛想が尽きていたサーニャは、新皇帝直々の勲章と国家英雄の称号も辞退し、周囲の反対を振り切る形で亡命した。その事から、サーシャとの関係は悪化している。

「サーニャちゃんの亡命、サーシャには効いたようですね」

「しばらく連絡を取っていないそうな。妾がどうにかなだめているが、強情でのぉ。いくら国軍再建を一緒にやっていこうと誘ったのを断られたとは言え、強情じゃぞ」

「裏切られた気持ちがあるんでしょう。サーニャちゃんが養子に行ったの九条家で、ウチと同格の華族の分家でして。それで男爵令嬢になって、仏門に入るとか言ってますから、サーニャちゃん。親友が殺されたのが相当にショックだったんでしょうけど、サーシャさんは、軍隊に居場所見出したクチだから、亡命するのを裏切りと考えたんでしょうねぇ」

サーシャのこの動きは、Gウィッチからすれば『子供のやること』と呆れられている。ハインリーケがサーシャを諌め、レヴィが怒ったのもわかる(レヴィは、サーニャを罵倒した事を知った途端、ニューゲットマシンから空挺降下やらかし、サーシャを銃を片手に叱った)。ウィッチ狩りという中世的な行為に走ったオラーシャ、サーシャは影響力を行使できる立場でありながら、止めようとせず、任務を建前に、静観していた事実があるため、サーニャから通報されたレヴィは激昂し、ドラゴン号でサーシャが戻った先のペテルブルクに殴り込んだ。

「大変でしたねぇ。あの時。レヴィさんが人殺しそうな勢いでペテルブルクに飛んでいって、黒江先輩が顔面蒼白でしたし」

「サーシャ大尉もショックだっただろうが、いくらなんでも罵倒はないな。レヴィ大佐がムンムンにオーラ出して、ドア蹴破って入ってきて、警備兵、気当てだけで失神したというし」

「死者は出なかったけど、サーシャ大尉の精神ダメージのほうが深刻だったってことですしね」

「数日は失語症だったらしいからな」

「なにせ、黒江先輩でもガチでビビるくらいの目で睨んだそうですから、サーシャ大尉じゃ漏らしますよ」

「大佐を怒らしたらどうなるか、身を以て知ったわけか。かわいそうに。この地球で一番おっかない女のベスト3に入る強豪に殴り込まれれば…」

「如何に大尉がウィッチでも、相手はGウィッチでも五本の指に入る強豪のケイ先輩の変身ですよ?結果は見えてます」

その騒動でサーシャは怒り心頭のレヴィにしばかれ、サーニャに気まずさと罪悪感を持ったらしく、半年は連絡をしていないことが語られた。その際には、サーシャへグリグリ攻撃を全力でやり、(クレ◯ンしんちゃん張りに)『すぐ電話しろ!とっとと詫び入れて仲直りしてこい!』と睨みつつ言い放っている。

「で、ミーナさんのほうは坂本と竹井の努力が実って、今回は全部は無理だったけど、一部イベントの回避成功。サーシャ大尉は、ミーナが踏むはずの地雷の役回りをやらされたって感じですね」

「なるほどな。妾はなんと言おうか、アルトリアやらされてる気が」

「まぁ、ハインリーケさん、似てますし。あたしだって、未来世界の桐生美影って人と天命同じっぽいし」

ヤマトの新世代クルーの名を出す黒田。黒田は意外なところに天命が同じ人物がいたのだ。オペレーターの素養があったのは、その人物との共鳴のせいだったのだ。

「うーむ。准将のせいで、妾は妙なことになったしのぉ。これであと6年はしたら、アキバに行けぬではないか!」

「そんなこと言われても…」

ハインリーケは愚痴るが、冗談めかした風でもあり、意外にこの格好を楽しんでいるようである。また、ドイツ人なのに、英国の英雄のコスプレをしていることが知れた際には、アドリアーナと喧嘩になり、エクスカリバーを放ってみせ、大いに悔しがらせているし、ロザリーからは『あなた、ドイツ人じゃ…』と突っ込まれている。

「そう言えば、来る前、アドリアーナさんと揉めてませんでした?」

「うむ。この格好のことが大尉に知られてな……」

「いくらなんでもエクスカリバーはやり過ぎですって」

「ちょっとむかっ腹が立ったので、つい……」

ハインリーケは意外に喧嘩っ早いところがあり、喧嘩で『単にコスプレで、この格好をしておるわけではないのじゃ!!ここでなら周囲を巻き込む憂いもない!!』と叫んだ後、エクスカリバーを放っている。格好も実にマッチしており、BGMも黒江のいたずらで、ムードもりあげ楽団がうってつけのBGMを流していた。それを止めに入ってきたロザリーは思わず、『何、これ……』と茫然自失となったという。ハインリーケが英国(ブリタニア)の英雄の持っていたと伝えられる伝説の聖剣を授けられていたというインパクトは、ブリタニア軍のロザリーをして、『なんかもう、エクスカリバーのバーゲンセールね』と言わしめた。黒江は聖剣保持者であり、その名を持つ戦闘機に乗っている。更に、黒江の弟子である調もその力を持つため、ハインリーケを含め、聖剣保持者は黒江に縁がある者が多い。

「でも、同時代に聖剣保持者が複数出るのも珍しいですよ?普通は同時代に一人か二人ですから」

「ガイちゃんもデュランダル持ちだからのぉ。それでZちゃんと喧嘩しておったぞ」

「Zちゃん、カイザーに安定してなれれば、カイザーブレードあるのに」

「Z神のご意思だからのぉ。Zちゃんが暴走した時のカウンターをガイちゃんに託したも同然だから、Zちゃんは邪な心に揺れてしまうのじゃろう」

「それを止めるために、ガイちゃんにデュランダルを?」

「ZEROに変貌するようなら、殺せという事じゃろう」

「先輩じゃ感情的に危ないから、ガイちゃんに託したんだろーなぁ。先輩、平行世界の事もあるから、Zちゃん嫌いだし」

「うむ。准将は平行世界の記憶も持つ。だからこそ、Zちゃんの暴走を警戒している」

「Zちゃんは怒ってるみたいですよ」

「やった事がやった事だ。信用されるはずがない。妾たちもだが、最低で三人はブレストファイヤーで塵にされておるわけだしな」

Gウィッチ達は、マジンガーZEROの癇癪の犠牲となった平行世界の自分自身の記憶も持つ。そのため、黒江はZちゃんを嫌っており、ガイちゃんと同じく、『クロガネ頭』と呼んでいる。そのため、ZちゃんはZEROとしての記憶をほぼ喪失しているため、黒江に突っかかるが、百戦錬磨の黒江には勝てず、いつも負ける。また、黒江はエクスカリバーを決め手に使っており、Zちゃんはあらゆる手でエクスカリバーを相殺せんとしたが、ダメである。また、黒江がエクスカリバーに熟練するに従い、調、ハインリーケの聖剣も共鳴し、目覚めていっているため、三人の聖剣は共鳴しあっているが、ハインリーケが最も強い力を持つ。これはハインリーケがエクスカリバーの伝説上での使い手に似ていたからだろう。

「でも、なんでハインリーケさんが一番、エクスカリバーの精度があるんだろう?先輩はエアや草薙があるから、精度が下がるのは承知してるんだけど」

「妾の前世がアーサー王だったとか……いやいやいや……」

「でも、その格好にまんざらでもない事は……」

「あー!!妾はどうすべきなのじゃ!?」

「イギリスに移住したら……」

「出来るか―!」

「でも、ミーナさんが腰抜かしてましたよ、貴方がそんな格好で聖剣打ったの」

「まぁ、緊急時だったし、その前にウルスラ中尉に見せていたしな。ミーナ中佐も、今となっては子供に思えるがな」

「覚醒してないから、あたし達から見れば、子供みたいに思えますからね。そう言えば、江藤さんも事変ん時、先輩達が初日からエクスカリバーとか打ちまくったんで、その日は赤松大先輩に泣きついたとか…」

「ああ、そう言えば、少佐が言っておったな?」

「ええ。坂本も竹井もいたと思いますよ。あの子達が赴任してきた日だったんで…」


――黒田は『今回のやり直し』においては、黒江が幼年学校から引っ張って来て、1937年7月の段階で前線勤務についていた。当時は坂本が12、竹井が11、黒田は7歳だった。だが、Gウィッチ化で精神面は大人であったので、『ロリ系上司』を地で行っていた。そのため、急成長していた前史と違い、今回は年相応の背格好であったが、当時、既に航空士官学校入学を約束されている士官候補生だったので、覚醒前の坂本と竹井は驚いていた。黒江達が二度目の転生をした初日は、今回も坂本と竹井が赴任してきた日で、今回はいきなり実戦となった。その戦闘で、黒江達は通算、『三度目』であるのを良いことに大暴れであった。特に、圭子は黒江が泣いてしまったので、査問されたムシャクシャのはけ口を戦闘にしたらしく、一番に暴れた。その際には、レヴィの片鱗と言える口調と動きを見せたので、覚醒前の武子も驚かせてしまっている。また、声も普段の優しげな雰囲気のそれでなく、レヴィのそれに変貌していた(目つきもレヴィ)のもあって、陸戦ウィッチも唖然とする無敵ぶりだった。この戦闘を引き金に、まずは坂本が覚醒した。変化は『階級呼びでなく、さんづけになっている』というものであるので、早速、戦闘終了後に黒江に呼び出されていた。その場には黒田も立ちあっていた。

――ウィッチ世界の1937年 夏――

「お前ら、また転生していたのか?前の時は苦労かけたが、今回もよろしく」

「おぉ〜!お前、今回は転生してやがったのか〜!!」

大喜びの黒江。坂本はオーバーなリアクションに苦笑いである。

「お前、転生しても変わらんな。変な気分だが、今回はお前に付き合っていられるよ。前回は途中からだし、記憶しか覚醒しなかったしな」

「これでお前もチートできるぞー!技能があるわけだし」

「私は良いんだが、醇子と徹子の奴がなぁ。お前に兆候のことまでは聞いてないから、あいつらもそうかわからん」

「コーラでも突き付ければ解るだろ?あいつら、黒田のおかげで飲むようになってたし」

「でも、ここにコーラなんてあったか?」

「ウラジオにはあるだろ?ただ、模擬戦やったら、お前、怪しまれるな」

「仕方がないさ。大空のサムライとしての私の技能はこの時点での先生らより上だからな」

「今回は面子が逆になりましたね、坂本さん」

「おお、黒田。お前もか。今回は先輩になるのか?ややこしいな」

「ええ。竹井さんは?」

「分からん。黒江はコーラ突きつけてみろと言うが…」

「醇子の奴はこの頃は泣き虫で臆病だしなぁ。お前らみたいなガンクレイジーやウォーモンガーじゃないし、元々」

「お前だって、この頃は宮藤似だったくせに―」

「昔のことはよせ……。問題は徹子だ。あいつ、喧嘩っ早いから、お前らに喧嘩売ってくるぞー?」

「あのガキ、覚醒してないとしても、喧嘩っ早いからめんどいんだよな。大人の時は大人しくなったくせに、この頃はすぐに吠えてくるかんなー」

「お前、叩きのめせんか?」

「無茶いうな。叩きのめすのは簡単だが、火に油を注ぐぞ?お前がやれ」

「えー!」

「あの手の奴には、力の差を見せればいいさ。特に徹子のような奴には効く」

「とりあえず、明日の歓迎会でコーラ渡して、反応見ましょう。コーラは智子先輩を行かせて確保してもらってます」

――その次の日の歓迎会の様子から、有力候補の武子、竹井、若本は未覚醒なのが判明し、赤松にも報告した。赤松は『お前らはとにかく暴れておけ。江藤と北郷は儂と若松で抑える』と通達し、江藤と北郷を押さえ込みにかかった。そして、赤松達や黒江達の動きが気になった江藤は調査も兼ねて、北郷部隊に模擬戦を挑ませた。今回は黒江と武子(未覚醒)、圭子が坂本、竹井、若本とぶつかった。

「――で、その模擬戦はどうなったのじゃ?」

「激戦でしたよ。坂本が目覚めてたから、食らいつけるし」

「その当時のストライカーは?」

「今回は97と96でやれました。性能は互角なんで、後は腕の差でした」

「で、江藤参謀達は?」

「ぽか〜んでしたよ。加藤隊長も当時は目覚めてなかったんで、二人に置いてけぼりにされそうになって」

「ほう」

「あの時、加藤隊長、慌ててましたよ?先輩達がアイコンタクトだけで意思の疎通ができるくらいに連携できるわ、ケイ先輩がおっそろしい目したんで」

「それで?」

「徹子の奴がケイ先輩狙ってきたんで、先輩がカウンターで銃床攻撃で、あいつは失神。で、竹井は未覚醒なんで、武子先輩の正宗が炸裂。坂本と黒江先輩が、あの当時にはないテクニックの応酬になったんで、北郷さんも目を見開いてましたよ」

「それもそうじゃろ?あの方達の空中戦はもはやその時代の常識を超えておるよ」

「目がマジでしたから、江藤さんも驚いてましたよ。ハッキリ。最終時の技能同士でやってるんだから、互角なわけだし」

ストライカーでの空戦技能は黒江と坂本は互角の域に到達しており、同性能機を動かしていた事もあり、あとは剣技の勝負だった。二人はヒートアップし、最終時の技能を存分に使いまくったので、周囲は武子を含めてほぼ置いてけぼり状態。木の葉落としやマックスマニューバー改などの空戦技能を次々と見せ、機体に負荷かけまくりの動きを短時間に行った。二人とも機体への負荷を考えない全力戦闘なので、小回りの良さは満足だが、馬力不足が随所に目立つので、不満であった。

「確か、あの時、異口同音に『パワーが足んねぇ!!(パワーが思ったより無い!)って愚痴って、隊長が驚いてたなぁ。最新鋭機に不満タラタラだったから」

「で、剣技のほうは?」

「坂本が雲耀を見せたんで、地上にいた北郷さんが腰抜かしてました。魔眼の制御どころじゃないのが、いきなり扶桑の秘奥義が一つをやったんですから」

「准将は何で応戦を?」

「え、エクスカリバー?」

「い、いきなり!?」

――その時の様子は如何の通り――

「ふふ、黒江。今回はお前の十八番をやらせてもらうぞ!はぁあっ!」

「あ、おま、人の十八番を!」

「前回、ここで私の見せ場取った礼だよ!」

「おまっ、根に持ってたのかよ!?ならっ!」

黒江は驚きつつも、雲耀をやられたため、それを上回る技で応えた。雲耀を、その上位技『烈風斬』を超える最強の剣で以て。手始めに、ライトニングボルトを放ち、動きを止める。

「ライトニングボルトを拘束に!?」

「ああ、そうだ。お前の奥義が雲耀なら、それを超える剣を見せてやる!」

黒江は風を起こす。その暴風が晴れた時、黒江の手には、西洋風の綺羅びやかな剣が握られていた。そのデザインは伝説の聖剣のようであり、黄金の輝きを放っている。エクスカリバーの媒介となる剣を空中元素固定で作り出したのだ。

「初めてだから、上手くやれてるかは保証しねーぞ、坂本ぉ!」

「綾香、あなた何を!?」

「黙って見てろ、『武子』!ここから見せ場なんだよ!」

「あ、あなた、今、私のことを名前で……?」

黒江は気づいていないが、武子を最終時の呼び方で呼んでいた。そのため、未覚醒の武子は困惑した。そして、エクスカリバーが纏う風を暴風として撃ち出す。黒江が転生を経て習得した技が一つ。

『爆ぜよ、風王結界!!』

凄まじい暴風が渦を巻いて撃ち出される。剣は振りおろされた一瞬で消えていた。暴風は坂本を飲み込む。凄まじい光景に、周囲の者は呆気にとられてしまう。一番に正気に戻った江藤は坂本を殺しかねない技に怒鳴ろうとしたが、赤松がやってきて、剣幕になりかけた江藤を止めた。

「待て、江藤」

「赤松大先輩!?」

「ボウズはあれで手加減しておるし、坂本もあれくらいで落ちるタマではない。なかなか良い奴を北郷さんは見つけた」

「ボウズ?」

「黒江のことだよ。前、あいつが怪我した事あって、同僚に毛を刈られた事があったの覚えとるだろ?その場に居合わせたからのぉ」

「は、はぁ」

「ボウズ、江藤の心臓に毛を生やすつもりかー?」

「おー、まっつぁん!来てたんすか!」

黒江は赤松に手を振る。それに応える赤松。まっつぁんと親しげに呼ぶので、これまた一同の殆どが驚く。黒江が赤松に対し、フレンドリーに話すのもそうだが、赤松が愛称で他人を呼ぶのは、親密な者に限られているので、かつて、赤松を従卒にしていた北郷でさえ、見たことがない光景であったからだ。黒江も赤松を凄く慕う素振りを見せているため、江藤と北郷はパニックだ。

「ボウズ、坂本はどした?」

「あー、あいつなら大丈夫ですって。今のは手加減して撃ったし、あれ以上強くしたら、96が空中分解するんで」

「だろうなぁ。96の設計限界はあれくらいだろう」

九六式艦上戦闘脚。第一世代の宮藤式艦上戦闘脚である。当時に同時期に試作されていた戦闘機が数年も制式化されていないのは、予算が戦闘脚に取られていたのと、事変の混乱によるものだ。戦闘脚の戦力価値が低下し始めるのは、戦闘脚が2000馬力級に達する1944年後半。ティターンズの投入するジェット戦闘機に対抗が困難だったからだ。また、未来情報でどしどし、後世のジェット戦闘機が生産開始されるに伴い、機動力以外に見るべき点も無く、戦闘ヘリコプターの登場で肝心の機動力にも疑問符がついてしまい、1946年を迎え、日本連邦が結成された時間軸では、戦闘脚の新規生産数は大幅に減っている。人員が大幅に減ったおかげで、戦闘脚でさえも、この時代の生産数では大幅に余剰になってしまう。労働基準法制で、若年ウィッチが軍務につかなくなった事、厭戦の風潮が日本から広まり、航空ウィッチの人数が数百人程度に落ち込んだのを回復させるのが困難と見積もられたからと、通常兵器の異常な速度(数年で20年分以上に進化した)の発達も要因だった。日本が21世紀基準の技術ノウハウ、常識を持ち込み、23世紀がそれを補強した事もあり、46年度にはトムキャット/スーパーホーネットが生産開始される段階にまで発達してしまった。つまり史実で言う1970年代の水準に数年で飛躍を遂げたわけで、そのノウハウを用いるのが困難な(用いる技術が細かに違う)戦闘脚は発達が通常兵器より遅れてしまうという逆転現象が起こった。いくら黒江達が未来から次世代型を取り寄せてサンプルとして送っても、この時代で影も形もない魔導理論もあるため、開発速度は鈍化した。ネウロイとの戦いは「害獣駆除」扱いで戦闘と見なされなくなる風潮の登場で、ウィッチ兵科の存在意義も薄れてしまった。そのため、通常兵科としては消滅に向かいつつあった。また、Gウィッチへの反発が事を大きくしてしまった感は否めない。そこで山本五十六は、自衛隊の活用を思いつく。自身の前史での死後に設立されていた扶桑の自衛隊を日本国自衛隊の一部として作ればいいと。要するに、怪獣映画でよく出てくるような組織を自衛隊に置けばいいのだと。ネウロイ(怪異)対策ならば、日本の世論も抵抗感は弱い。そう確信したのだ。山本五十六のこの案は、戦争前ギリギリに間に合い、通常兵科部門に残るウィッチとそうでない者とにわけられていった。黒江達は通常兵科に残留するので、必然的に若手が移籍していき、前線にいるのはベテランになった。若手でも、明確に軍人としての自分を意識した者は残留していった。また、諸外国ではブリタニアでも、リーネはブリタニアの同部門に移籍していくなどの動きがあったので、真501の面々は別々の道を歩む。自衛隊の同部門の元締め(責任者)の一人が自分は通常兵科に残留した芳佳であるのに反発する動きもある。しかしながら、ウィッチには向き不向きがあり、義務感(一族の義務や周囲の期待に答えるなど)で入隊した者には対人戦は無理難題である。それもあり、芳佳は多忙であり、黒江の誘いを断っている。同部門設立のため、自衛隊関係者と黒江のコネで接触しているからだ。

「――芳佳、自衛隊にMAT作るとかで大忙しで、今回はいないんだよね。雑用頼もうと思ったんだけど」

「お主、芳佳に押し付けようとしたじゃろ?」

「まっ、定子に頼みましたけど」

「お主……」

呆れるハインリーケ。下原も姉弟子(今回は坂本は黒江の流れを汲む事になっているので、黒江から見れば、下原と坂本は孫弟子、芳佳は曾孫弟子。弟子同士では、調と黒田、なのはとフェイトが最上位に位置する)の頼みは断れないため、引き受けている。最も、黒江の次席に当たるので、軍内でも下原は断れないが。

「あの娘、調とか言ったな?あの娘、准将のおかげでキャラに変化があったそうだな?」

「ええ。ミニ先輩になりましたから」

「えーと、つまり?」

「キャラがほぼ先輩のコピーになったって事ですよ」

「影響は大だったわけじゃな?」

「かなり。先輩に初々しさと可愛さを30%くらいつけた感じですね。思考はいつもの先輩だし」

これは黒田の分析によるものだが、元々の人格も、ベルカ戦争を経て、思考が騎士のそれに変わっていたので、そこに黒江の武士道もプラスされ、混ざった。『誇り』と矜持を第一に考え、『ここで引き下がったら、ベルカの騎士の誇りがすたる!!』と叫ぶようになるなどの熱血漢ぶりを見せるようになった調。黒江やオリヴィエが彼女を変えたのだ。そのため、フェイトから自分の別の流れがアニメとして見せられた際には、なのはに「……拷問ですか、これ…」と愚痴っている。なのはも「あたしはな、別の流れの自分に直接会っちまったんだぞ」とぼやいている。なのはは『別の自分に会う可能性は充分に考えられるから、修業と思えば?これくらい可愛いもんじゃん』と告げ、調はガクリと肩を落とした。実際、黒江も経験があるからで、三人とも差異が大きすぎ、向こう側に泣かれている。

「で、なのはにそれ愚痴ったそうですけど、先輩も別の自分にこれから会うわけだから、ややこしいですよ?まぁ、差異が大きいから先輩達はまだわかりやすいですよ。あの子はどうだろう」

「わからんのか?」

「アニメでしか資料がないですからね。ここの世界だと、先輩が変えてますから、なのはの世界からの取り寄せなんですよ。あの子、録画してたみたいで」

「う、うむ?」

「フェイトが見てたみたいで、それであの子、天羽々斬を送ってくれと」

「おい……」

「バルディッシュに組み込む気らしいですよ?で、天命が同じと思われる二人にアガートラームと天羽々斬のコピーが渡って、先輩が自由に使えるのがシュルシャガナに」

「声帯の妖精さん繋がりじゃないのか?まったく」

「それ言ったら、ハインリーケさん、デュランダルも使いこなせることに」

「そ、そうじゃった……お主もどんがらがっしゃーんなアイドルに」

「そ、それはなしで」

黒田も痛いところを突かれ、タジタジだ。他にも、ハインリーケはダンガイオーに乗れる可能性があるなどが指摘されている。そのため、ハインリーケは意外に可能性が大きいし、黒田はアイドルになれる可能性がある。なお、服部静夏はラジオのDJの才能があるのが確認されているし、はやては魔導師としての才覚が当初考えられていたより大きい事が判明し、尚且つ麻雀が強くなっていた。更に、超能力にも目覚めたなど、色々とマルチである。

「はやてなんて、なんかもうすごくなってて、単独で次元転移できるんですよ?」

「その内、アーチャーでも呼び出しそうか?」

「ありそうだから困る」

はやては動乱でインテグラを手本とした影響もあり、腹黒くなり、普段は清楚な女子を演じつつ、裏では悪どい事をするようになり、なのはからは『あかいあくまで、風紀委員?』と冗談めかして語られている。ハインリーケはすっかり乾いた笑いが出ている。

「あ、スピルバンさんからだ。何々?敵の補給船が入港してくるから、内部に侵入すると」

「あの方も無茶をする」

「そうでないと、内部の詳しい情報は得られませんからね。ギャバンさんにも伝えておきます」

「彼はなぜ、コードネームを変えたのじゃ?」

「シャリバンとしての後継者を、イガ星出身の若者から探し当てて、彼は当初、事務方へいく方向だったんですって。後進育成で」

「それがなぜ、別のコードネームで現場に?」

「彼の捜査力と行動力を腐らせるのに、宇宙刑事アランとかが猛反対したそうで、それで新たに竣工した超次元戦闘母艦『グランナスカ』が与えられて、赤射に変わる『結晶』もテスト運用を任されたんだそうで」

23世紀のデザリアム戦役が近づいた頃には、一条寺烈=宇宙刑事ギャバンは壮年を迎えて相応の地位にいた。バード星で仕事をしていたので、壮年になったのだ。そのため、よく知られる青年期の姿より風格が増している。義父のコムの後継者を目されているほどの地位になり、自身も現場からの勇退が噂されている。シャリバンは対照的に、志願時が18歳だったため、加齢は3歳前後に留まっているため、勇退が許されず、スピルバンに衣替えしたのだ。そのため、シャリバンを名乗った時期より、実はスピルバンとしての時期が長くなるのだ。普段着も、シャリバンとしての白から、スピルバンとしては赤に変え、地球名も城洋介と変えている。これはシャリバンとしての一刑事から、スピルバンとしては、かなり上位の階級になっているための彼の意思表明でもある。伊賀電としての使命を終えたという。

「なるほど。ダイ・アナザー・デイの時は壮観じゃったからのぉ。調の故郷から来た子供ら、唖然としておったな」

「ジバンもきましたし、日本の等身大ヒーロー勢揃いだったんですよ?あれで燃えないのはいませんよ」

「あれなー。リベリオンの連中が狂喜乱舞しておったな」

「スーパーヒーローが勢揃いですからね。仮面ライダー、スーパー戦隊、メタルヒーロー。下手なヒーローショー顔負けのメンツですよ」

黒田はスーパーヒーローへ、自分達への助力を懇願するため、黒江と共に奔走している。ダイ・アナザー・デイ作戦の後、その事が番場壮吉、海城剛、一条寺烈、本郷猛という錚々たるメンバーによって語られたのも、Gウィッチへの反発が収まった理由だ。ヒーロー達に頭を下げ、時には土下座や彼らへの加勢も躊躇ない姿勢も見せた事で、彼らも腰を上げたのだ。黒江は特に必死であり、その姿に心打たれ、馳せ参じた者は多い。反発者にはこれが最後のトドメとなった。信頼を勝ち得るため、火災現場にも飛び込む姿を見せたと語る一同。(実のところ、仮面ライダー達はストロンガー、アマゾン、RXがいの一番に駆けつけ、他のライダーも黒江の泣きそうな顔に免じる形で馳せ参じている。その際には、三人が美味しい場面を持っていき、一号が締めている)

「あの時の子供らの顔は忘れられんよ。特にあの時の事情を知らぬ子らの驚きようは」

「ウィッチも、事情知らない子達は唖然としてましたからね」

響達はGウィッチから見れば子供であるので、子供達と一括りで扱われていた。クリスとマリア、翼からは「子供扱いはやめてほしい」と抗議されてもいる。だが、彼女達の力では、怪人の幹部級には及ばないのは事実である。ISの力は上回れるが、『欠片』を媒介にしているため、力の限界点は存在する。たとえ、響のガンニグールでも、欠片が媒介であるため、完全であるゲイ・ボルグに及ばなかったという事実もある。また、アガートラームのエネルギーベクトル制御能力も、かけられる負荷が強すぎると、装者のほうが持たない。これはマリアの妹のセレナが証明している。(絶唱で負荷が一気にかかったのも原因だが)また、神の使徒に等しい改造魔人の前では、赤子も同然である。その為、デルザー軍団と正面切って戦える7人ライダーのポテンシャルが際立っていた。

「あの時、デルザー軍団の誰が来ていた?」

「確か、鋼鉄参謀とドクロ少佐だったはず。鋼鉄参謀はあの子達の攻撃にびくともしなくて、響が辛うじてパンチ入れても、ギアのほうが損壊するくらいに強いですからね。魔人で、ジュドの加護もあるから、普通にイガリマは防げるし。本当、本当に神の使徒になると、聖遺物の効果を打ち消すのがいますから。イガリマなんて、噛ませ犬になりそうな効果だし」

「あれは確か、シュメールの武器だったな?」

「ええ。先輩が普通に右腕で防げる程度の武器だから、調が止めたんですよ。因果律操作能力も相当に下位だし」

「だからか、あの緑の子が不満気だったのは」

「仕方がないですよ。最悪、イガリマの能力を持っていかれる可能性あったし、そうしたらエクスカリバーかデュランダルで対応しないかぎりは無理ですしね」

「で、正面切って戦える7人ライダーの戦闘力が際立って見えたわけじゃな?」

「はい。7人ライダーには経験がありますから、百戦錬磨の」

「あ、もう一つ不満気にしてたのがいた。クリスだ」

「ああ、あのミサイル乱射しまくるイチイバルの」

「箒がバスターランチャーを届けた時、射手が自分じゃないのが不満だったみたいで、終わった時、先輩に文句言ってました」

「ああ、射撃系だしのぉ、あの子は」

「バスターランチャーのドライブ方法と撃ち方知ってるのに渡すのは当たり前だけど、小宇宙に目覚めてないと、シンフォギアの全エネルギーを使ってもドライブできないですから」

エネルギーを物質化直前まで圧縮して巨大な光弾を発射するという性質上、その時点で小宇宙に目覚めている調が使うのは当然であったが、クリスは『長物なら、あたしにピタリなのに、どうしてだよ!』と事後に黒江に文句を言っている。これはセシリアも似たような事を言っていた。『長物』使いは矜持があるらしく、食ってかかったクリス。『今のお前さんじゃ全生命力ぶっ込んで四割の一発でおしまいだぜ?アレ』とかまし、収めた黒江。バスター砲は物質化寸前までのエネルギーの圧縮にエネルギーを食うため、エネルギー供給が保証されている者でなければ命の保証はない。その為、調が射手になったのだ。バスターランチャーは原理的には次元波動爆縮放射機に近いため、調も発射でかなりの体力を持っていかれている。肩で息をするほど疲労したため、切歌が心配する程だが、デルザー軍団も驚く威力であった。もっとも、それはバスターモードでの事だが。

「あれはたしか、どこぞの科学者がペンタゴナワールドから持ってきたテクノロジーじゃろ?よく追加生産できたな」

「技術そのものは波動砲作れれば簡単な部類だそうです」

「つまり、エネルギーの圧力に耐えられる合金の問題と?」

「波動エンジンのエネルギー伝導にコスモナイト系合金が必要なのと同じですよ」

エネルギーは大きくなると、かかる圧力も大きくなるため、エネルギー砲に必要な合金も強い物が求められる。バスターランチャーの場合は超合金とガンダニュウム合金という高圧力に耐えられる合金を使用している。従って、人サイズでも、オートデリンガーやギガストリーマーレベルの高価な装備である。


「お、あそこの米屋、バーゲンしてる。見てきます」

「お、お主という者は、この期に及んでバーゲンセールか!」

黒田はプチ守銭奴なのは変わらないので、そういうところはちゃっかりしている。生家が華族と名ばかりの中流階級の出なので、どこぞのスペースオペラなら皇帝に上り詰めそうな出自である。

「武士は食わねど高楊枝とか嘘ですよ、腹が減っては戦は出来ぬです!」

と、ハインリーケに告げ、群がるおばちゃん達に突入し、米をゲットしてゆく黒田。あれが旧公爵家の継承者とは誰も思うまい。黒江が2010年代初めに騎士爵になったのを知った自衛隊の同僚達も『お前が華族?ありえねー』と大笑いしている。この時代、既に華族は歴史の中での存在なのだ。それ故、ノーブルウィッチーズの再建に奔走するペリーヌを笑う声も日本連邦結成後の日本出身者にはある。ペリーヌは日本から書籍を取り寄せた事で、ノーブルウィッチーズの辿ったであろう可能性を知ってしまい、罪悪感を強くし、ダイ・アナザー・デイ作戦からは、Gに近い立場を取っている。リーネに辛い一言を言ってしまったのも、罪悪感に由来する(この世界では事実上の死産であったのも不味かった)。ペリーヌはこの事もあり、貴族の看板を人心掌握の道具に使おうとしたド・ゴールへ不信を抱いた。その為、今回はド・ゴールを大統領と呼ばず、『将軍』と呼び続ける事になる。また、黒江から『敵を作るな』とアドバイスされたのもあり、周囲からはド・ゴールの忠実な僕のように取られつつも、その実はド・ゴールのストッパーであった。その為、ド・ゴールは人心掌握のために貴族の看板を使おうとしたが、凍結解除された段階では、初代メンバーは離脱しており、ド・ゴールはなりふり構わずに懇願した。その結果、太平洋戦争を控えた段階では、書類上、レイブンズが所属している。名義貸しのようなものだ。ペリーヌが懇願するのを見かねてのものである。ペリーヌは組織を在りし日の姿に戻せないことは百も承知であり、恥を忍んで、レイブンズに懇願しに来たので、名義貸しのような形だが、在籍した。今回は数合わせで真美も在籍している事になったので、書類上は活動していた。ハインリーケが『復帰』を決めたのも、ペリーヌが不憫だったからだ。その関係で、ペリーヌは太平洋戦争参加のため、この旅行中の段階では、南洋島在住である。ガリアは鉱物資源がもはや枯渇寸前であり、更にティターンズが植民地を分断した結果、ガリアに残されたのは、軍事技術と過去の誇りだけであった。ペリーヌの階級は少佐へ特進しており、政治的意図が多分に含まれていた。これはガリアの矛盾でもある。民主制共和国を謳いながら、かつての権威にすがる。その矛盾は市民革命を起こした国なだけに表面化も早い。ド・ゴールは植民地を死守しなければ、ガリアは自滅すると考えており、アルジェリア独立を阻止せんと、現地で戦いを起こす。近い将来の事だ。しかし、日本連邦がアルジェリア独立を援助した事で、アルジェリア独立は成ったかに見えたが、現地の人々が『怪異が怖いから、大国の影響下で生きたい!』と独立勢力を駆逐してしまった。結果、アルジェリアの宗主権は日本連邦に移るだけの結果となった。結果としては不毛な戦いであったため、ガリアは国際的評価を下げ、日本連邦は戦費に泣いた。日本連邦はウィッチ世界のアルジェリア相当地域(日本連邦により、アルジェリアと改名)を統治する羽目となってしまったという。ガリアと日本連邦が休戦したのは、勃発から2年後の1958年の事だったという。宗主権の移動という結果に終わったが、日本連邦の政治的な勝利であったという。

「さて、待つかのぉ、これは時間がかかりそうだ」

ハインリーケは店の前のベンチに座り、黒田を待つ。前史で黒江達の体験した『別の自分と会うこと』が気がかりな様子を見せつつ、目を閉じ、うたた寝をすることにした。




――実際、調もその『別の自分と出会う』可能性を気にしており、自分は精神面で切歌への依存から抜け出したが、別世界では共依存関係が継続しているのは、火を見るよりも明らかである。また、自分の知る切歌がそうであったように、別の自分が半狂乱になって襲いかかる事を恐れてもいた。そうなれば、叩きのめすだけだが、切歌がそうであったように、精神に異常をきたす可能性は高い。黒江が前史でホテル事件を起こした時、別の黒江自身が恐怖に怯えていた光景を『見た』からか、警戒を見せる。ハインリーケ達がいる米屋から数キロ先のコンビニで買い物を終え、引き揚げる下原と調。

「何か考え事?」

「ええ。師匠が前史で出会った『別の自分』の事を考えてて……。それは私にもあり得ますから……」

「それは私に取っては来年辺りで起こるはずの出来事なんだ。別の自分は『もし、ああだったら』の具体的な例になるわけだよ。だから、あまり深く考えなくて良いよ。なるようになるって」

この場合、今回で初めて、黒江にまつわる運命に巻き込まれた調と違い、Gウィッチである下原は落ち着いている。下原は昭和2年生まれ。菅野より一歳上であり、調とは、本来は祖母と孫以上に離れている。それを踏まえた発言をした。

「私は昭和の2年生まれなんだ。本当なら、調ちゃんが生まれる時代で70歳近いおばあさんになる計算なんだ。だから、そういうの気にしない方がいいって。私も生きてる内にタブレットなんて便利なの見れるなんて思わなかったもの」

微笑う下原。時間と次元の移動自体、信じられなかったとも話す。実際、ウィッチ達は未来機器に驚いており、智子など、ウルスラに携帯電話を見せびらかし、危うく分解されそうになったエピソードもある。

「先輩からメールだ。今度は2005年にいるみたい」

「えぇ!?」

「先輩、16年間くらいを勤務で渡り歩いてるから、一週間位づつ、別の時代で勤務してるんだ」

「なんでそんな器用なことを?」

「あっちこっちの時代に行くから、抜けてる行事とかに参加したいんだって。2005年は先輩、カミングアウトでバッシングされて、で行事とか抜けてるの多いとか言ってたし」

「そう言えば、裁判に訴えた事あるとか」

「それそれ。基地祭の日が裁判と被って行けなかったりしたそうな」

「師匠…」

黒江は2005年と2009年が受難の年にあたる。2005年のカミングアウトでは、前段階として扶桑の勲章をジャラジャラつけて観閲式に参加しており、革新勢力が批判材料にしようとした事がある。2009年は鳩山ユキヲの総理就任で左遷させられた。(防衛省制服組の猛抗議でその後、ブルーインパルスに転出)カミングアウトの直後が最もしんどい時期で、2005年のカミングアウト直後、国会は荒れた。旧軍人である黒江の取扱いを巡り、野党が自分らの過去を調べないで追求したのだ。旧軍人というだけで追放を叫ぶ野党議員。無知ぶりが際立っていた。自衛隊の初期の人員の内、実働部隊の隊員は9割が旧軍人達だった。その事を知らなかったのだ。付け加えて、『彼の国は平行世界の別物だし、能力を持って宣誓を行って在籍している。正式な国交は事務レベルでは行われ、留学生として受け入れたものだ。 何も問題はない』と正論を突きつけた。その11年後の統合まで、黒江は自衛隊で栄達してゆくことになるが、空将になれても幕僚長になれないため、扶桑出身者のためのポストが新設される。それと山本五十六の提案に乗ったのは、黒江の幕僚長就任が無い事の埋め合わせも兼ねていた。つまり、自衛隊が部内へのMATの設立に協力的なのは、黒江の航空幕僚長と統合幕僚長就任が無いことを納得してもらうためでもあった。(黒江の信奉者の中には同位体のなし得なかった幕僚長就任を推す勢力がいたためでもある)叙爵も黒江の将への昇進の理由でもある。当人は空将になるつもりはなかったが、故郷で叙爵された事や、自衛隊内部の信奉者達の後押しで空将になってしまった。その結果として、自衛隊内でも特殊なポストに就いて自衛隊に君臨し、太平洋戦争でも、自衛隊の派遣部隊を自部隊と合同させて運用する事になる。特に空自は2016年にもなると、黒江の信奉者達が重要ポストについており、黒江の要請に従い、時の内閣を動かし、かなりの部隊が太平洋戦争で活躍することとなる。

「うーん。なんか忘れてると思ったら、先輩に抱きついてないからなぁ、最近……。あ、そうだ、後でお願いが」

「私は、だっこちゃんじゃありませ〜ん!」

下原は重大な癖がある。それは定期的にハグしないと禁断症状が出るというもので、菅野、宮藤、サーニャがその犠牲者で、調に変身中の黒江も犠牲者である。調が思わず叫ぶのも無理かしらぬ事で、ダイ・アナザー・デイ作戦の後、覚醒したての下原は、調に変身していた黒江を目撃し、抱きついた。黒江にはその時に『何しやがる!!』と蹴られている。レヴィには今回で覚醒が知られた下原だが、黒江にはもっと早い段階で知られており、黒江は菅野に『姉御、諦めてくだせぇ』と肩を叩かれている。しかも悟った顔で。

「え〜、先輩は許してくれたよ、その格好で」

「えぇ〜!?」

その時、調のタブレットに黒江からメールが入ったのだが、内容は今起こっている出来事に注意を促す物だったので、調は返信として、こう打った。『時既に遅しです、師匠……』と。切歌がいなくて良かったと思う調だった。黒江は2005年でその返信を見て、『あいつもついに、あの野郎の犠牲に……』と肩を落としたのだった。



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