短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――黒江の宿命を、共に生きることを選択した月詠調。彼女は黒江が太平洋戦争に従軍すると、当然ながらそれに随行。太平洋戦争に64Fに出向という扱いで従軍した。黒江達が平行世界の自分自身と出会うことはあり得るという事を教えていたため、黒江達が『次元震パニック』で別次元の自分自身と出会っても、事態をすぐに把握出来たが、それは彼女の身にも起こっていた――


「まさか、私にも起こるなんて。困ったなぁ」

『どうした?』

「師匠。私にも起こりました。例のアレ」

『やっぱり起こったか。なのは達みたいに、その世界に飛ばされるわけじゃねぇのが救いだな。別のお前を捕まえられそうか?』

「パニック起こしてるみたいで、さっきから『百輪廻』撃ってきてます。もちろん弾いてますけど」

『彗星拳でも、ローリングクラッシュでもいいからぶち込んで、とっとと連れて来いよ〜』

「と、言われてもですね」

調は、別の自分が今の自分と比較的近いカラーリングのシュルシャガナを纏っている事から、話に聞く、『魔法少女事変』相当以降の時間軸から飛ばされてきたのだろうと目星をつける。百輪廻が弾かれた場合の行動パターンは考えなくても分かる。『非常Σ式 禁月輪』での突撃だ。

「せーの、リストリクション!」

リストリクションをかけ、『非常Σ式 禁月輪』ごと動きを封じる。強引に止めたので、円状の刃を回転させようとする力がリストリクションにより行き場を失う。そのエネルギーがバックファイアとなり、禁月輪にヒビが入り、行き場を失ったエネルギーが逆流し、体へのバックファイアとなって、調Bを襲う。

「悪いけど、そのシュルシャガナ、強引に解除させてもらうよ!」

調Aはエクスカリバーを使う。風が舞い、エクスカリバーがその姿を現す。Bの方は自分の持つ力と無関係な剣が生成された事に驚くB。

『因果を断ち切り、勝利へ結んで!約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!』

エクスカリバーを振り下ろし、放たれたエネルギーでBのギアとBの繋がりを解除させて昏倒させる。

「師匠、エクスカリバーで気絶させました。これからバイクで運びます」

『そこから何分かかる?」

「ギアは取り上げたし、拘束してるんで抵抗もないと思うんで、10分もあれば」

『分かった。急げよ』

「はい。でも、どうします?私はともかく、他のみんなが転移してたら」

『武子にパトロールしてもらっているが、切歌は少なくとも、今はいないらしいのは分かった。他の連中は来てる可能性がある。響が来てて、もし会ったらだが、なるべく誤魔化せ。無理だったら殴り合いは避けられないぞ。あいつはタフだし、食い下がるからな』

「師匠の攻撃に持ちこたえたんでしたっけ」

『あいつ、彗星拳とローリングクラッシュをビル崩壊級の破壊力で食らっても食い下がろうとしたしな。並の聖闘士よりタフだ。ああいうのは厄介だぜ』

立花響は、黒江が遭遇したフロンティア事変当時、黒江と話をしようとして拳を交えたが、驚異的なタフさを見せ、黒江も驚かせた。並の聖闘士なら気絶する攻撃に耐えきったのだ。

『前にエルフナインから聞いたが、そいつらは平行世界の存在は掴んでる可能性がある』

「え?どういうことですか?」

『私もよくは聞いていなかったんだが、ギャラルホルン、北欧神話の笛がどうも、シンフォギア装者に限ってだが、平行世界を往来できるらしい。保管されていても、実験はしていないようだが…』

「そのせいですか?師匠が二課にすんなり馴染めたの」

『わからん。一度こっきりで、帰る近くの時だったしな』

「神話だと、ラグナロクの到来を告げる笛のはずですよね」

『そうだ。オーディーンが恐れてる宝具ってのは聞いてる。ただ、宝具の位的に、それが存在する世界の支流に行けても、全く別の本流には行けないかも知れないけどな』

「つまり、シンフォギアの存在も私達も影も形もないし、歴史も全てが一致しない、根本的に別の次元には行けないと言うことですね?」

『宝具も都合のいい事ばかりじゃねぇしな』

その点では、23世紀世界は宝具を超えている事になる。もっとも、時空管理局との接触で実証された分野ではあるが。調は黒江と通信しつつ、乗ってきたバイクに、背丈が小さい別の自分を乗せ、自分が運転する形で、64Fの基地に連れていった。




――基地につくと、芳佳がベットに寝かされている(念のために手足は拘束している)調Bを診察した。身長は152cmと、Aより小柄。全体としてAより華奢な印象である。Aは困った表情である。

「身体的に異常はないね〜。シンフォギアは取り上げてあるから、どっちみち逃げるのは無理だけど」

「いや、聖闘士が何人もいるのに無理でしょ。この子、どうなるんですか?」

「綾香さん達の同位体と同じ扱いになるね。あの人達にはホテルで待機してもらってるしなー」

「芳佳さんの同位体もそこにいるんですよね?」

「まーねー。だけど、あたしは角谷杏でもあるから、厳密に言えば違うところ多いんだけど。そこが一番の違いさ」

「私以外のみんなも飛ばされてるんでしょうか?」

「可能性はあるね。綾香さんには、前の転生ん時のあのこともあるから注意してあるんだよねー。前の転生ん時、別の自分が智子さんをぞんざいに扱ってるの見てガチギレして、ホテルぶっ壊してるから」

「師匠、友達を侮辱されたりすると、すぐ頭に血が上りますからね」

「今回はやめてくれと言ってあるから、大丈夫だろ。それと、調も気をつけろよ。普通、同じ姿の人間に会ったらパニクられるから、たぶん、この子もそうだと思う」

「ですね。でも、平行世界の自分同士が会っても大丈夫なんですね?漫画だと対消滅するとかあるけど」

「遺伝子学的には『別人』と看做されるんだ。先祖の組み合わせが違う場合もあるしな」

「先祖が?」

「のび太くんの孫の孫のセワシくんを例にすると、のび太くんの結婚相手が静香ちゃんかジャイ子かで産まれてくる子供の数や名前も変わるんだ。結果だけ言うと、平行世界の自分は『生まれた基盤が同一の別人』にあたる」

「なんだかややこしいですね…」

「そうでないと、のび太が静香ちゃんと結婚しても、セワシくんが22世紀に産まれる理由にはならないさ。それまでの誰かが釣り合いとるようになってるんだろうな。さ、綾香さんに報告しに行きな。この場はあたしがなんとかする。取り上げたシンフォギアはケイさんに渡しとけ」

「分かりました」

圭子の執務室に行くと。

「ご苦労さん。シンフォギアは預かっとくぞ」

「お願いします。……ケイさん、変身していなくても、そのキャラしてるんですか?」

「アフリカでのキャラが猫かぶりだって、本土じゃ言われてるからな。説明が面倒だし、これで通してる。責任無いときはあっちの方が楽なんだけどなぁ」

「確かに。大人っぽいキャラですしね、切り替えない場合は」

圭子は今回のやり直しでは、いい子ちゃんキャラはかなぐり捨てており、レヴィのガンクレイジーな粗野なキャラで事変中を通したため、今度は圭子本来の性格のほうが猫かぶりと言われてしまう事になった。説明が面倒なのと、501で人心掌握的意味で面倒くさい事になったのもあり、本来の容姿をとっていても、レヴィの性格と口調を通すようになった。これは501で反発された後、レヴィの姿を見せたら、嘘のように若手が大人しくなったからで、若松や赤松のように、突き抜けていたほうが軍隊では慕われるのだと思い知ったからだ。

「一応、状況は弁えていたんだが、なんでかねぇ。まぁ、仕方ねぇか」

「あの時、相当に若手が反発してたんですか?」

「ま〜な。ケイとしては大人しめな『お姉さん』だし、世代交代であたしの武勇も知らねぇ、ケツの皮がまだ青いガキ共が主力になってたしな。あれが一番堪えたぜ。事変直後は凄い威光あってよ、後輩達がすぐに敬礼してきたもんだけど」

「そうなんですか?」

「あたしらの第一次現役時代の数年後くらいまでは、映画公開から日がそんなに経ってなかったしな。44年くらいには智子が憤慨するくらいに現実視されなくなっちまったが」

「映画の中の英雄にモデルが居るって気づかないんですかね?」

「Rウィッチが生まれる前のエクスウィッチなんてのは、そういうもんだった。あたしはトップエースだったが、前回のミーナは知らなかったとか言いやがった。あれ傷ついたんだぜ?ったく」

「根に持ってますね。前回の時の事でしょ?」

「坂本も、前々回んときは忘れてやがったしな。クソ、戦史の勉強くらいやれよ」

圭子はよほど傷ついたのか、そこのところは未だに根に持っている。調は圭子にも『子供っぽさ』はあるのだと関心した。

「アムロさんなんて、連邦軍のトップエースとして揺るぎない名声があるつーに……なんて思ってたよ。だから、現役に戻ったらバリバリ出てんだよ」

「武子さんに隊長を任せたのって、もしかして」

「あいつが適任だったしな。今から考えてみりゃ、『そんなこと教えるくらいなら実技教育で、前線に出しちまえ』だったんだろうが、近代戦争じゃ、まともな教育されてないウィッチは糞の役にも立たねぇのが突きつけられたから、教育カリキュラムが見直されたがよ」

「一番短いカリキュラムだった時の教育時間は?」

「一年未満だ。特攻隊の方がまだ座学身についてるぜ。聞いた時は乾いた笑い出たぜ。ロジスティクスのロの時も知らねえ。自分たちの分野以外に無関心で、他の兵隊見下すしな」

今回は日本連邦結成で、職業軍人としての教育を平時のカリキュラムで受けていた黒江達以前の世代が隊長/参謀などの責務につくようになり、現役ウィッチもRウィッチ率も上がっている。これは若手世代が抜けた穴埋めがエクスウィッチのR化だったためでもある。Rはそのために生まれた存在。存在意義を理解されるのは、有事勃発であるのも皮肉なものだ。

「Rの存在意義は今回の戦争で理解されたぜ。今の促成組にゃロジスティクスのことまで考慮してる作戦は立てられないし、他兵科との連携の考えがないしな」


501でも見られた傾向だが、『自分たちが戦場の主役であり、他兵科は自分たちの補助に過ぎないから、出しゃばるな』という思考があった。ダイ・アナザー・デイ作戦でその事の間違いが示された結果、ウィッチ達の少なからずは、作戦後に発足した日本国自衛隊の怪異退治専門部門『MAT』に移籍していき、軍に残留したウィッチ勢は、レイブンズの息がかかっていたり、何代も軍人を輩出した家柄の者、軍人としての自覚が強かった者に限られ、軍残留の人数は45年初頭当時の総人数の4割程度であった。再編後はウィッチ部隊は一部部隊のみが存続し、多くは解散している。世界各国からMATに移ったウィッチも多く、軍ウィッチはこの時点では、『これまでの慣例と温情で存続しているにすぎない』とさえ揶揄される立ち位置であった。だが、これにより、厳格に選抜された、質の高いウィッチ兵力を保全出来、それを国家間戦争に投入できる事でもある。統合戦闘航空団もこの再編で501と508以外は統廃合されたので、無駄に派遣する事も無くなり、太平洋戦争はウィッチ資源を自国のために活用できる戦であると判断された。また、扶桑に倒れられると、ウィッチ世界全体の滅亡を招く事は重々承知されており、64Fには各国のエース達、その中でも、本来は統合戦闘航空団に回されるべき人材が多く出向している。それが魔弾隊であり、人数が増えたので、増設された魔眼隊である。開戦後の1947年晩夏の状況では、64Fは実働ウィッチ部隊では最大最強の部隊となっており、扶桑主体のウィッチオールスターズの様相であった。

「結果として、残ったベテランや復帰した教官級でいくつかの部隊を作れたし、うちはメジャーリーグのオールスター級に豪華になった。前史より人員を選抜出来たから、楽できるぜ」

「もしかして、それが目的ですか?その……副業が」

「副業もしたいんだよ、こちとら。ネタ溜まってるしな。綾香なんて掛け持ちしてんだし、あたしもジャーナリストの仕事はやめてないからな。あいつが訴訟抱えてた時期、写真週刊誌にタレコミしてやった事もあるし」

圭子は戦時になっても、副業を日本で続けている。今回は自分たちの交代要員が豊富にいるのと、今回は日本側との協議で、攻勢に出るのが、全ての工程が完了する50年代とされているので、暇な時も40年代の内は多いからだ。レイブンズは中隊長だが、彼女らが出しゃばる必要がある相手はまだ出てきていない。

「要は、暇だからこのパニックに専念できるってわけですが?」

「そういうこった。あと数年はこの状態だからな。副業っつーても情報収集任務兼ねてるからな。 情報のモノによってボーナスがちょっと出る程度だけど」

「やれやれ」

「ん?今の声は?」

「ああ、医務室にいる別の私の声ですよ。パニックってるんでしょう」

「お前、綾香に似てきたなぁ」

医務室で目を覚まし、手足を拘束された上、見知らぬ診療室にいた事にパニック状態の調Bの悲鳴が聞こえてきた。色々とカルチャーショックにでも遭遇したのだろう。調Aは至って冷静だ。

「同調してますし、それにもう数年は一緒ですからね」

「とりあえずは超合金ニューZ+製の金庫の中に、これ入れとくぞ。アテナの加護受けたから、イガリマでも斬れねぇし」

「お願いします」

圭子は調Bのシンフォギアを金庫の中に入れる。イガリマでも斬れないよう、色々な加護を与えたものだ。調Bはもし、同じ世界の装者の誰かが来た場合、シュルシャガナを取り戻そうとするだろう。だが、この金庫はシンフォギアの如何なる攻撃にも無傷で耐える。素材がグレートマジンガーの超合金ニューZの更に改良型かつ、神の加護付きなのだから。無駄に豪華である。

「あっちの事、気になるか?」

「芳佳さんに任せます。それに、一応、今は地球連邦の軍服着てるんで、その辺の説明終わってからの方がいいかと」

「そうだな。自室で休んでろ。何かあったら真美を行かせて知らせる」

「分かりました」

次元震パニックの『二回目』は、調も巻き込んでの出来事となった。黒江が言っていた事が現実となった事を実感する調。黒江から濃密な影響を受けた自分は、あの『自分』とは別人なのだ。その最大の違いが、受け継いだ聖剣である。それを考えると、芳佳が言うことは当たっている。しばらく自室で休んでいると……。

「ん!?」

ドアがバァンと凄い勢いで開けられ、そこにいたのは……。

「どういう事?」

「あー、診察終わったんだ……」

「終わったんだじゃない。私のシュルシャガナはどこ?」

「然るべきところに保管してる。脱走されても困るし」

「話は聞いたよ。ここが別の平行世界で、貴方は私のあり得た可能性の一つだって。だけど、この部屋は何?」

「いやぁ……その、色々とあって」

元来、少女趣味なところがあった調だが、黒江との同調やのび太と暮らすうちに、趣味が黒江と同じようになっており、部屋はガンプラやら艦艇模型、超合金が所狭しと飾られている。そのため、調Bは不満げだ。

「ありすぎだって!模型にホビー、それに超合金!?何があってこうなったの!?」

「まぁ、とりあえず落ち着こう。こっちも貴方が大人しくしてれば、危害は加えない。コーラでも飲む?」

「なんでコーラ?」

「そこにコーラが有るから」

「……」

調Bは入院患者の着るような着衣を着ていた。着ていた私服は芳佳が洗濯に回したからだ。Aはまるで『昔の自分』を見ているような気がし、Bをあしらう。

「どういう事?貴方に何があったの?」

「話せば長くなる。それに私、実質的には『24歳』なんだ」

「!?」

「ある事がきっかけで、平行世界で10年過ごして、そこから肉体を若返らせたからと、肉体年齢が若返った先の15で固定されたから。だから職業にもついてる大人扱いなんだ」

「それじゃその服、もしかして?」

「一応、軍の士官候補生の下士官って扱い。戦時だから特務士官扱いだけど」

「えーと?つまり?」

「勤務階級が士官扱いの下士官って事。手当出るから、給料はそこそこ出るよ」

「貴方、軍隊に?いやいや、その服、ここの基地の兵隊とは」

「そりゃそうだよ。また別の世界の軍隊の軍服だもの」

「えーと、平行世界間の移動が自由に?」

「そこの人たちと、ちょっと縁ができてね。そこからの出向扱い。特務少尉扱いの曹長って感じでね」

「どうして、その軍隊に?」

「最初に飛ばされた先の世界のある国で騎士しててね。そこから帰る前に、この軍隊がある世界に立ち寄って、戸籍と軍籍を得たんだ。元々の世界には、切ちゃんやマリア以外のつながりもなかったから、未練もないし、今更、戦いのない日常には戻れないから」

Bはフロンティア事変を経て、リディアン音楽院や特異災害対策機動部二課での生活で、人との繋がりを得たが、Aは飛ばされてしまい、更に、飛ばされた先の古代ベルカ時代の戦乱で、築いてきた人間関係の崩壊や忠誠を誓った国が滅ぶという濃密かつハードな人生経験をした結果、Bが得たような平和には戻れないと自覚している。それと、同調した黒江が『戦いに身を置くことで精神が安定する』人物だった事…。


「飛ばされててた時、浮浪者同然の私を拾ってくれた人がいた。その人はある国の王だった。だけど、とても優しかった。私はその人を守り抜きたいと思った。だけど、その人は戦争で逝ってしまった……。騎士でありながら、その人を守れなかった。その後悔が心の奥底に燻ってた。元の世界に戻ったあと、その人の血を受け継ぐ子孫のような子の存在を教えられ、会った……間違いなく面影があった。それで、守れなかった誓いを果すチャンスだと思って、剣を再び取る事に決めたの」

それが調を戦いに駆り立てる最大の理由だった。オリヴィエの面影を持ち、そのクローン体であるヴィヴィオに仕える事。それが帰還後の彼女を突き動かしている原動力だ。なのはと面識を持った後、なのはに『メイドとして雇ってください!』と直談判したが、管理局が動乱でズタボロ状態でのなのはの給金は以前より余裕はなく、財政的にも余裕がない。それと、なのはの教育方針もあった。

『ウチはそんな御大尽じゃ無いんだからね!?』

『でも…』

『デモもストも有りません。 ヴィヴィオは自分の事は自分で出来るように躾ます。 おんば日傘でなにも出来ないお馬鹿さんにはしたくないでしょ?それに、変な上下関係じゃなく、ちゃんと人間同士の関係を持ってほしいしね』

この一言で敢え無く撃沈した調。そこへ更なる来客があり、話を聞いた武子がなのはを諌めた。

『なのは、いくら躾のためとは言え、ヴィヴィオを慕って来てくれた子をあっさり追い返すのはないわよ?』

『た、武子さん』

『話は聞いたわ。何だったら、連邦軍に入れたらどう?』

『連邦軍に?』

『ミッド動乱で交流は確立したし、連邦軍が貴方へメカトピア戦が終わってからの給与を弾むと言って来てるのを伝えに来たのよ、その子の事は綾香から聞いてるわ。部下にしてみたら?』


『部下に?」

『この子がヴィヴィオを慕っているのなら、理由は充分。貴方がメイドや騎士とは違った関係をヴィヴィオに持ってほしいのなら、貴方の部下として、関係を始めさせるのも選択肢の一つになるわ。それに、その子は誠実よ?綾香と精神がリンクしているもの』

『!?』

『正確には、同調というべきね。綾香がこの子に成り代わっていたから起こった現象よ』


武子は調の事を説明する。彼女が黒江と共鳴し、同調したという事の全てを。

『検討材料として考えるには充分と思うわ。貴方の師匠がどういう人物で、この子も騎士道を嗜んでいるのなら、共通するモノがあるということはわかるでしょう?』

『……』

なのはは数分ほど長考した後、武子の言を信じることにした。武子は黒江や智子も信を置く猛者。空戦での実力も自分より上。それを鑑み、武子の薦めに従った。動乱で武子の事を間近で見たため、信頼に値するという事を理解していたためだ。こうして、武子の助け舟で、調は地球連邦軍に志願。連邦軍の軍人となったのだ。配属先はもちろんロンド・ベル。ロンド・ベルではなのはの部下の扱いで、なのはとスバルの、時空を超えたややこしい関係を除けば、初の純粋な部下である。

「――ってわけ。ややこしいと思うけど、こんな感じなんだ」

「確かに、私は……、間違いなく貴方も、フィーネの器候補として、蜂起する前から戦闘訓練はそれなりに受けさせられていたけど、それを稼業にするなんて……」

「そうでないと生きていけなかったし、蜂起する事は、世界を敵に回す事でもあったんだよ?負けたら極刑間違い無し、二課に与したから、免罪されたってだけ。それを思えば、軍人として戦うのは、けして悪いことじゃないよ。何も知らされずに戦って、負ければ世界に断罪されるよりは」


調AはBと違い、完全に戦士になっている。デザリアム戦役で馭者座の聖闘士となった事、パルチザンとして戦った経験もあり、彼女は精神的に言えば、Bより割り切った『大人』になっている。また、国の滅びを経験し、敗残者としての辛酸を舐めたため、騎士(軍人)の誇りを持っていたいという気持ちが強い。それが騎士として成した彼女なのだ。Bはそれに圧倒され、言葉もなかった。



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