短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――次元震パニックに至るまでの過程で、Gウィッチ達は別の自分と出会うことは覚悟しており、それは太平洋戦争中のパニックで実際に起こったわけだ。今回の歴史では、圭子がBを前史で取り込んだ名残りで、代替存在として、黒江の経歴を担う『桂子』が生み出されており、圭子のみ、ほぼ別人という体裁であった。代わりに、圭子の役割の一部は黒江が担っており、その事もGウィッチの黒江達に事件を実感させていた。パニック当時だと、64Fは宇宙戦艦運用部署としての役割も担っており、後方人員はもはや飛行軍団級に膨れ上がっている。地球連邦軍から宇宙戦艦を複数借用して、それをまともに運用できるのも、64Fの強みであった――


――転移してきた501基地――


「一ついいか?お前ら強すぎだぞ!?ハルトマンとバルクホルンが本気で怯えてたぞ!?」

「あれで加減してたんだぜ?私らが本気だしゃ、いくら二人でも相手にならねーって」

「う、うむ……で、やはり震電は?」

「こっちにいる限りは液冷仕様で我慢してくれ。マ43ル特はこっちじゃ不採用な上、図面が燃やされてるんだ」

「そ、そうか…。通常のマ43もないのか…」

「こっちはもうジェットの時代だ。レシプロは練習機と、残置してる古い機材が少数あるだけだ。力になれなくてすまねぇ」

「しかし……環境でこうも変わるとは」」

「審査部追い出されてから、前線をたらい回しにされて、47や505に行ってたからな。バリバリの戦闘屋って、従兄弟から言われてる」

Bが一貫してテストウィッチに落ち着き、圭子の役割を担ったのと対象的に、GウィッチのAは審査部を追い出されてからは、『名誉の戦死をさせる』目的でたらい回しにされ、505の教官の経験を経て、前線に戻っている。経歴は全く違うし、目つきもAのほうが圧倒的に鋭い。経験上、Aは戦闘で血が騒ぐタイプになっており、テストウィッチとしては、若造と罵られ、鬱病になりかけたからか、いい思い出が殆ど無い。それもテストウィッチを兼任でしかやらなくなった理由だ。Bは完全に実戦から退いていたため、Aの影武者は今回も無理と判定されている。強さに前史以上に並び立てない差があったからでもある。Aは百戦錬磨、近代戦術を貪欲に吸収し、なおかつパイロット兼任のスーパーウーマン。その威力に、扶桑でホテル詰めのBは呆れつつも称賛している。なおかつ、Bが極めていない示現流を極め、他流派も極め、聖剣も持つという点で、黒江Bは『ヒガシの代わりにはなれそうだけど、自分自身の影武者はむりだわ、こりゃ』と、乾いた笑いを智子Bにしている。Aの戦闘力がもはや、ウィッチの枠を飛び越えた超人だからである。

「お前、バルクホルンとハルトマンの機動をよく初見で見きったな?」

「うんにゃ、こっちだと同僚だし、メッサーで取れる機動は限られてる。メッサーの事はもう頭に入れてるし、性能限界も把握してる。それにクセを知ってるからな」

「さすが、性格が変わっても、理論派なのは同じだな」

「オツム使わねーと近代空戦はやれないしな」

「お前、ここだと誰と組んでた」

「智子や黒田。ここじゃ、黒田はお前の先輩だから、敬意払っとけよ」

「妙な気分だなぁ、それは」

B世界では後輩だが、A世界ではクロウズの先輩になる黒田。A世界では坂本は黒田に顎で使われる関係であり、接点がないB世界では考えられない関係である。そのため、見かけが芳佳達と同年代の黒田が坂本より目上である関係は、ミーナBも信じられないと漏らしている。

「こっちは人間関係が根本的に違うんだ。ケイのやつなんて、事変からアウトローでヤサグレねーちゃん。智子は私とつるんでバカやる。黒田は私の僚機であって、パトロンだ」

「信じられんな。加東のその任侠の用心棒でもしてそうな荒くれ者ぶりは」

「あいつ、ずっと母性キャラ押し付けられてたから、タガが外れたんだよ」

坂本Bは圭子のアウトローぶりに驚いているようだ。実際、桂子も自信家の面はあったが、圭子のアウトローぶりはネジが外れていると形容するに相応しい。智子は乙女度が高まってはいるが、黒江のツッコミ役を自認するくらいの粗さはあり、ツッコミ用ハンマーを用意しているなどのギャグキャラになっている。また、軍用コートを羽織った場合、煙草を吸い、冷徹な軍人の振る舞いをするなど、オン・オフの差が大きくなっている。黒田は基本的に変化はないが、立場相応の責任感を持つようになっており、後輩たちに毅然とした態度で指示を飛ばすなど、仮面ライダーで言うなら、風見志郎のような立ち位置になっている。洞察力が上がっている他、口八丁で華族の世界で渡り合うなどの大胆不敵さも備え、B世界での黒田自身と別人になっている。

「ハルトマンと話したが、そちらのハルトマン、バルクホルンのように鬼教官になってるぞ?何があった」

「あいつ、ジェットストライカーの教官をしてる時期があってな。そうしたら、バルクホルンもビックリのスパルタ。昔と立場が入れ替わってた」

ハルトマンAは、F-104の教習の経験から、スパルタ教育を施すようになっており、事情を知る由もない、かつての同僚『ヨハンナ・ウィーゼ』は病気かと思ったほどだ。対象的に、バルクホルンは晩年の穏やかな人格者としての面が表に出、かつてと真逆の『アメ』の役目を担っている。マルセイユもG化とアフリカ陥落後は、かつての傲慢不遜さは鳴りを潜め、気配り上手になっており、バルクホルンの妹、クリスに直接会ってやるなどの優しい対応をするようになっていた。また、上官二人がイケドンなため、そのストッパーを担わされたのもあり、バルクホルンと同様に人格者となっているが、自虐的発言も多い。これはアフリカ陥落が暗い影を落としているためで、その経験が周囲に優しくなるきっかけになったという皮肉もある。その経験がニュータイプへの目覚めとガンダムパイロットを任ぜられるきっかけになったので、マルセイユはどこか自虐的であった。酒浸りになった時期もあるように、マルセイユはネガティブな出来事が続いた(アフリカ陥落、敬愛するノイマン大佐の更迭と降格による中枢部からの排除と入院など)ことで能力に目覚める、典型的ニュータイプだった。ノイマン大佐の事は敬愛していたので、UNESCOとギリシャの猛抗議は理不尽だとハルトマンに頼み込んでまで署名活動をするなど、奔走した。ノイマン大佐は三階級の降格(大尉)が一時は確実視され、軍籍剥奪もドイツ連邦から提言されるなど、自己弁護すら許されない立場に追い込まれ、それが鬱病に罹患してしまった原因だ。マルセイユは皇帝に直訴してまでノイマン大佐の弁護に力を尽くし、ドイツ連邦議会の招集にも応じるとさえ声明を出した。ロンメルに演説も頼み込むなど、あらゆる手を打った。怪異は黒江たちが闘技でちゃっちゃと駆逐したこともあり、マルセイユの必死の弁護が実り、一階級降格と半年の飛行禁止、給料数ヶ月分の返納の処分で住んだが、ノイマンはノイローゼに陥り、未だに療養中。これが空軍総監レースの舞台にラルを引きずり込んだ一番の理由だ。そのため、ラルは本意ではない旨の発言が多く、ガランドよりも現場主義である。そんな地位でありながら、太平洋戦争に自分が参戦していて、相変わらずルーデルに顎で使われているので、実情は中間管理職なのだが。そのため、カールスラントは公的に参戦していないという言い訳を活用しており、リベリオンで言う『フライングタイガース』のような様相で義勇兵として参戦している。書類上はラルはその責任者である。そのため、帰国困難と義勇兵の名目を活用し、カールスラントは64Fに義勇兵枠を設けさせることで貸しを作る。そこはガランドの政治力の賜物であった。その義勇兵が最精鋭であるおまけつきであり、ガランドの発言力、それを黙認するケッセルリンクの胆力でもある。魔弾隊はそうした国家間の貸し借りで設けられし枠であり、カールスラントの戦争準備の時間稼ぎかつ、カールスラントの存在感の誇示に大いに役立ったと言える。また、ハルトマン、バルクホルン、マルセイユ、伯爵、ロスマン、フーベルタ、ルーデルなどは既に軍を予備役になり、表向きはNGOに再就職したと偽装されており、太平洋戦争に参戦するための大義名分は得ている。なんとも手が込んだ偽装である。ロスマンは元の容姿に戻っても、矢島風子としてのスケバンの口調や態度はとうとう抜けず、現在ではスケバン先生とも渾名されている。学ランを羽織って、バンカラファッションをしていることから、この時期にはカールスラントの風神を自称する自信家の面も持つようになっている。川内とのコンビは続けており、風神雷神コンビは未だ健在で、いずれ石神女子を卒業したいらしい。そのため、ダイ・アナザー・デイ以降、ロスマンは常に、軍服の上に学ランを羽織るスケバンファッションを通し、スケバン口調で教え子をまとめている。作戦中についた渾名が『スケバン先生』である。

「色々違うところがある。お前は私らの後追いってんで、永遠の二番手って事になってる」

「何?」

「お前自身も引退したし、スコアに興味があるのが若本だけになったこともあって、お前らリバウ三羽烏は二番手ポジが板についたんだよ。竹井は空軍で、ウチに引っ張ったしな」

「そうか、お前らが現役でいることで、私達の戦歴は色褪せて見えるんだな?」

「いや、公的に復帰したのは45年だ。私自身にも驚かれたしな。それと、事変中のスコアが江藤隊長に思いっきり差っ引かれてたから、復帰の時に一悶着あった。可哀想に、隊長、若さん……ほら、若松さん――にシメられて、当時のスコアを正確に記したノートを提出したそうな」

「ご愁傷様だな」

「だろ?おかげで、ここの501の若い連中がいっぺんでひれ伏したよ。250を有に超えてたしな。確認されてるだけで」

「250をあの時に挙げているんなら、当然だろう?あの時は宮藤理論そのものが黎明期だった。それを考えれば、皆がひれ伏すだろう」

「それが分からない連中もいたから、実力で叩きのめした。こっちはバリバリの現役だ。お前が知ってるご隠居さんと違ってな」

黒江はA世界では、現役で戦闘任務をこなす戦闘者である。B世界の衰えた自分自身を一撃で倒せる実力を既に備え、後輩達も霞む強さとなっている。それ故に、後輩達の中には、世代交代の観点から敵視する者も数多い。だが、ウィッチ達の後輩らの多くは簡略化された教育を前提に入隊してきているため、黒江達に総合的に追いつくことが期待されたのは、1948年度までのウィッチでは、クロウズだけであった。この事が海軍ウィッチのクーデターに繋がり、海軍航空を解体寸前に追い詰めてしまった。それが現在の『張子の虎』と揶揄される空母機動部隊の状況に繋がった。実際、機材は近代化されたが、パイロットが育っていないのが痛恨の極みである。そのため、制空戦闘の多くは空軍が担っている。また、ドラケンは主に南洋の防空に使用され、本土ではあまり使用されず、離島や主要都市防衛が主である。

「ご隠居さんねぇ」

「指先一つで、ほとんどの平行時空の私自身は倒せるだろうなー。多分、全部の私の中での最強だろう」

黒江Aは黄金聖闘士であるので、全平行時空の自分の中で戦闘力は最強と自負しているようだ。実際、引退したBは剣筋も現役時より訛っており、絶頂期のポテンシャルに更に上乗せがされたAとは大人と子供ほどの差がある。

「お前の力は絶頂期の頃のそれのままだ。それに上乗せがなされている。とは言え、慢心は禁物だぞ?」

「それは智子に言えよ。あいつこそ慢心して、最近、宮藤に一本取られてた。まぁ、最近のあいつはオツムが回るしな」

「しかし、お前自身のポテンシャルはどの程度、落ちていると言った感じだ?」

ウィッチは基本、引退後は戦闘のカンを維持するのが難しい面もあり、黒江BはAの見立てで、おおよそ三割ほどポテンシャルが落ちている。体が覚えた技能が意識しないと出せなくなったからだろう。


「うーん。見立てでいいなら、三割ほど落ちたか?年齢で言うなら、事変の初期頃と同じくらい。今のお前なら勝てるんじゃね?」

「どうしてそう見立てた?」

「動きが訛ってたしな。会った時の感覚で。まぁ、こっちはバリバリ現役だから、比べても可哀想だけどよ」

「お前が現役復帰して、現役世代を抑えて、未だにエース張ってるほうが不思議だよ。それに、その異常な戦果はなんだ?ミーナ達でも、数年間の累積だぞ?」

「まー、色々鍛えてたしな。こっちだと」

「私は今までで28機くらいだが、お前はたしか、30くらいだな。引退までに」

「30か。まー、普通だな」

「これでも、扶桑では上のほうだぞ?」

「わかってるよ。こっちは最前線で酷使されたから、撃墜数が事変中に200行ったんだよ。江藤隊長がほとんど未確認にしやがったが」

「江藤さんの気持ちをわかってやれ。お前らの慢心や、つけあがりを防止するためだと思うし、スコアは後から修正が効くからな」

坂本Bは不満を漏らす黒江Aに、江藤の気持ちを汲むように諭す。その点、坂本Bは武子寄りの気質のようだ。実際は人間戦略兵器が三人というのは現実味がなく、エクスカリバーもウィッチの力と思えないので、特秘指定がなされた兼ね合いと、つけあがりの防止を兼ねた江藤の意向だったのだが、黒江がいじめられた事、その後に100機撃墜の撃墜王がポンポン出ることが予想外であり、赤松はヒートアップした若松をその理屈で宥めている。そのため、江藤はとにかく、『私はあの後、すぐに辞めたし、まさか黒江が、ああもいじめられるとは…』と弁解している。いじめが同期の坂川大佐に告げられた時に影響力を行使したのは、軍に残っていた坂川を通してで、問題の概要を知ったのは、復帰してからだとも弁解している。烈火の如き怒りの若松は江藤を本気で怯えさせ、赤松が制止しなければ、間違いなく半殺しにしていただろう。黒江達の45年時点の事情を聞き、時代が『撃墜数の多さを正義にするなら……』と、赤松にノートを提出している。よほど怖かったらしく、ノートは赤松に渡している。怒り狂うと加減が効かないのも、若松が恐れられる理由であった。若松が黒江にいまいちなつかれていないのは、『怒ると怖いから』だろう。

「まっつぁんが公表した途端に、野郎どもが青くなったのは痛快だったけどなー。赤ズボン隊とか、ノーブルBの連中とか、中島家のあいつに、諏訪家の末の妹とか」

「ああ、中島錦か。お前が引退した後、キ44の最終改良に関わった若手だよ。お前にしてみれば、小僧だろうがな」

「まったく、キ44は私と智子の専売特許だぞ?」

「錦にしてみれば、時代が違うんだよーとかだろう。子供の背伸びだよ」

黒江と智子は絶頂期の末期から一度目の引退までの期間、キ44を愛用していたので、そこが錦が対抗意識を持った点だろうが、二人は復帰後、その後継機である84を使用せず、キ100に『浮気』したので、喧嘩になったこともある。

「プロトタイプが作られた当初から乗ってるこっちは、クセからセッティングをどう変えたらどう挙動が変わるのか完全に把握してる機体だから、たとえエンジンを変えてあっても、同じ機種で有る限り簡単には攻めに回らせる訳ねーよ」

「なんで喧嘩になった?」

「84はエンジンが不安定で、使わなかったんだ。その愚痴をあいつに聞かれて、そのまま喧嘩だよ」

A世界でのキ84は前型機のエースの黒江と智子の未来行き当初の際に優先配備されたが、『外れの機体』だったのもあり、代替に使用したキ100を気に入り、旭光の受領まで使用し続けていた。錦とはその際に揉め、菅野を巻き込んで、『パワーより止まらねぇエンジンだよなー、なぁ?菅野!』ととばっちりを振りまき、模擬戦に参加し、ぶちのめした。剣術でも負けたので、『姐さん!』と従うようになったので、扶桑の剣術ウィッチは大昔の剣客を思わせる思考回路であるのが周囲に示されたとか。

「もちろん、喧嘩には勝ったよ」

「だろうな。お前、ここでは穴拭寄りだものな」

「ご隠居さんは剣客被れって感じのキャラやんー!こう見えても、私はアイドルみたいなこともしてるんだぞ―」

黒江Aは自衛隊で広報活動等にも精を出すため、全体的にノリが良く、子供っぽい面がある。

「いいもーん。ここで一曲歌っちゃうもんねー!」

「お、おい…」

「あたしの歌を聞けーー!」

これである。黒江Aは『PLANET DANCE』からのメドレーを歌い出す。これがまた上手いので、いつの間にか基地の整備兵などが集まっている。B世界の面々には聞き慣れないサウンドだが、黒江の歌で次第に全員がノリノリになる。

『ほんじゃ、盛り上げてくぜー!DYNAMITE EXPLOSION!!』

『DYNAMITE EXPLOSION』で盛り上げる。いつの間にかエレキギターを持って演奏しており、ロックフェスの様相を呈する。更に、『HOLLY LONELY LIGHT』で盛り上がりが最高潮になる。通りかかったサーニャBとエイラBはちょうど、その2番サビを聞く事となった。

「うおおお!?なんだよ、この盛り上がりは!?」

「この歌、聞いたこともないような激しい歌……だけど、心に火がつくような…」

「なんなら、サーニャの火をあたしが灯そうか」

「うわ、向こうのシャーリーか!?なんだよその衣装!」

シャーリーは歌う時には、『美雲・ギンヌメール』と同じ衣装に身を包む。トレーニングの成果で歌唱力も同レベルになったためでもあるが、気分の切り替えにちょうどいいらしい。ミーナへの対抗意識も絡んでいるのか、キメ台詞は美雲と同じ『歌は神秘!』を使う。

「にしし、これがあたしの勝負衣装さ。見てろー」

「綾香さーん、交代してくれー。次はあたしだよー」

「お、シャーリー。いいぜー」

交代する二人。そして、シャーリーもキメ台詞から入る。

『歌は神秘!』

シャーリーは、AとBの違いが意外なところに生じた例だ。メドレーで『NEO STREAM』、ソロで『僕らの戦場』、『破滅の純情』を披露する。そして、歌の途中で通りかかった黒田、菅野、芳佳(A)を巻き込んでの『ワルキューレはとまらない』を披露する。このタイミングでA世界に世話になるにあたる当面の事務作業を終えたミーナBが通りかかった。

「!?な、何これぇ――!?」

基地がいきなりコンサート会場と化している事に驚くミーナB。しかも、シャーリーAがしっかり衣装を着込んでリードボーカルをこなしているので、開いた口が塞がらなかった。元々、音楽家志望だった彼女には驚きの光景だろう。しかも、歓声で基地が揺れるほど盛り上がっている。

「みんな、ありがとー!愛してるー!」

シャーリーと黒田はMCも決める。21世紀以降のコンサート会場そのままの光景が軍事基地で起こっていた。

「み、美緒……、これはいったい」

「私にもわからん…。まるでコンサート会場だぞ、これは」

「でも、皆さんの歌はとても上手で、心を温めますよ」

「驚いたのは、向こうのシャーリーだ。まさかあそこまで上手いとは思わんだ」

「ええ。まさかシャーリーさんが…」

「しかも、あんなフッリフリの衣装着てさー!くっそ、サーニャだって…」

「ミーナ、お前。整備兵に不満がられていたし、歌って来たらどうだ?」

「!?ま、まだ勤務中なのよ、美緒!」

「向こうの黒江は中将だそうだし、異世界に飛ばされた以上は慰問と士気高揚は必要だ……」

「その役目は私がしよう」

「お前は向こうのミーナか?なんでパンツァージャケットなんだ」

「後で説明する。色々とややこしいし、留学先からぶっ飛んで来たからな」

ミーナAは黒森峰女学園のパンツァージャケットに身を包んでいた。私服代わりにしているらしい。恐らく、芳佳のツテで手に入れたのだろう。元々、旧ドイツ陸軍戦車兵の軍服に酷似したデザインの制服であるので、Gとしてのミーナが着ると、しっくり来る。空軍軍服のBとは全く異なる雰囲気を身にまとっていた。留学先から一時帰国したらしく、階級章などは現地での大尉のままだ。

「あ、あの、その……留学って…」

「後でまとめて話す。お前には驚きの連続だろうな」

微笑うA。Bが少女らしさを売りにしているのに対し、Aは質実剛健の女傑といった様相だ。それでいて、歌うのがラクス・クラインの『静かな夜に』や、20世紀終わり頃のアニメソング『 Let Me Be With You』であるのも何かの縁だろう。キーはミーナ本来のキーより高めである。話している時のドスが効いた低めのキーとは異なる可愛らしい声であり、その点もAが前史で鍛えた才能である。歌い終えると、歓声が挙がる。ミーナAは前史で退役後は遂に夢を叶え、60代までは生きた。その努力がG化で引き継がれたのである。そのため、この前史での経歴に目をつけたロンメルが、49年に軍内の音楽プロデュースを何故か初めてしまうというギャグのような展開が待ち受けていたりする。(日本連邦のネット記事はこの事を『エルヴィン・ロンメル元帥、Pデビュー!』と書き、ネットの大盛り上がりを起こすのである)

「これが向こうのミーナの力か……!」

「関心しないで〜!っていうか、なんでパンツァージャケットなのよ〜!陸軍じゃないはずよね!?」

「うーん。なんともミステリーゾーンでな」

黒江が説明を始めるが、その横で芳佳がいたずらで、そのドラマのアバンテーマを演奏している。なんともシュールさを誘う演出だ。シャーリーは大笑いである。実際、扶桑のホテルでは、黒江Bが『現役バリバリ、子供っぽいが、戦闘では苛烈な『電撃使い』とプロパガンダされているニュース映像を目玉が飛び出ん勢いで凝視していたりする。子供っぽく、なおかつドヤ顔でサンダーブレークを撃つ写真で紹介されると、『う、うわあああああ…は、恥ずかしぃぃ〜〜!止めてくれー!』と正視できないほど羞恥心を刺激されている。智子Bは逆に興奮気味だ。ビジュアル的にカッコいいからだろうが、実に子供っぽくもあるので、黒江Bは正視できない。だが、黒江Aがその力の全力である『乖離剣エア』を構えるスナップには強く惹きつけられた。

「これが中将の持つ『乖離剣エア』。その全力は世界をも切り裂き――」

黒江Aは子供っぽい一方、乖離剣エアを使いこなし英雄の強さを持つ側面があるなど、二面性が第三者からは度々指摘される。その純真さもあり、慕う者は多い。坂本Aはそのことを知った後は一貫して親友として振る舞い、時として保護者のような振る舞いを行うほどだ。乖離剣エアの使用が、さる英霊に許されるほどの英雄。しかしその一方で実に子供っぽいなど、前史で多重人格になった名残りを残す。そこを理解できれば、一気に友人になれる。それが黒江Aだ。人間としての強さと弱さを持って神になった故に、神としては青臭いが、人の心を理解できる。それがゼウスが期待した点である。そして、心から慕うヒーロー達の前で見せる少女の頃と変わらぬ、無垢な笑顔。これが城茂や南光太郎が妹分と見なし、本郷猛が娘代わりと見る理由でもある。ダイ・アナザー・デイでの、軍広報用のスナップでは、広報が用意した露出多めの試作戦闘服姿で、ライダー一号、V3、ライダーストロンガー、ZX、ライダーRXの面々の真ん中で素の子供っぽさ全開でピースサインし、ストロンガーに呆れられる一幕のスナップが映された瞬間、黒江Bは一気に茹でダコになって気絶したという。また、Aの子供のような笑顔はクールビューティーで売るBとの対極であり、Bの精神的ダメージは甚大だったとか。



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