「シンフォギア世界の一つのIF」編 3
(ドラえもん×多重クロス)



――――シンフォギア世界――

別のホテルに移動した後、黒江は能力の一端を披露した。それで取り出した拳銃は『ゲッタードラグーン』である。

「え、どこから拳銃を取り出したんですか?」

「元素の段階まで分解していたものを再構築した。この姿の上からガンベルトして、弾切れに備えるって手もある」

「クリスみたいですね」

「ああ、あのガトリング好きのガキか。あれは弾幕張るってやつだろ?俺のダチが見たら嘆くぜ」

黒江は小日向未来にそう明言した。雪音クリスは弾幕で圧倒する戦い方だが、圭子とのび太が見れば『ガンダムヘビーアームズじゃあるまいし…』というのは目に見えている。

「その銃、えらく古めかしい見かけね?」

「製作者が物好きでな。コルトM1848を基本ベースにしてんだ。だから、シリンダーごと交換だ」

マリア・カデンツァヴナ・イヴもその銃の古めかしい外見が気になったようだ。のび太がSAAの外見を好んでいるのに対し、敷島博士はもっと前の世代の銃を選ぶ逆張りを図っている。黒江はシリンダーを交換しまくる戦法を取れるため、見かけが古かろうが、別に構わない。要はストッピングパワーの問題だ。

「見かけが古かろうが、俺は構わん。要はストッピングパワーの問題だ。シンフォギアだろうと、胸のペンダントの部分を破損させれば解ける」

「でも、普通の弾丸では無理よ?」

「こいつの弾丸は戦闘用サイボーグもぶち抜ける特殊弾だ。貫通力は普通の銃の比じゃねぇよ」

敷島博士のレシピで作られる弾丸は通常の弾丸より威力が遥かに高い。爬虫人類の強固な鱗などを撃ち抜くための加工が施されているからだ。黒江、のび太、ゴルゴなどはそのレシピに基づく弾丸でダイ・アナザー・デイを戦っている。また、組織の技術で作られ、超合金Zくらいまでを一瞬で腐食させる『コローション弾』も用意しており、黒江は今後、シンフォギア装者の篭手や武装を溶かすのに用いる。この特殊弾は元は改造人間の失敗作の始末と粛清用にショッカーなどが支給していたもので、かのアポロガイストもゴッド機関で使用していたという。

「なるべくは使いたくないものがある」

「なんですか?」

「対改造人間用の腐食弾頭だ。改造人間の特殊合金をも一瞬で溶かす恐るべき代物だ。シンフォギアでも溶かせると思うぜ。ま、普段は振動弾とかでどうにかする。俺の闘技は動画で見たと思うが、多分、この世界には過ぎたる代物だしな」

「あの技、シンフォギアのできることも超えてますしね…」

「貴方、あんな完全聖遺物をどこで!?」

「俺のは霊格だ。実物は同僚が持ってる。そいつ、アーサー王の生まれ変わりだ」

「!?」

「色々とややこしいのよな、俺の周り。(そのうち、プリキュアも来そうだしな)」

「どういうわけぇ!?」

「俺が知るか!」

黒江もなんとなく、プリキュアの登場は予感していたが、部下がそれになることまではあまり考えていなかったのがわかる。

「俺の聖剣の顕現させる方法は霊格を設計図に手持ちのエネルギーを物質化させる事で器を作って霊格を憑依させてるんだ。だから、それそのものじゃないし、魔法でもない、ましてや錬金術でもないわけだ。多分、この世界のどんな解析でもわからんだろう」

黒江のそれを解析するには、最低でも23世紀世界の技術である空中元素固定理論が必要である。それが黒江たちの力を説明できる唯一無二の理論だからだ。

「この世界の技術では、どんな方法でも無理というのは…?」

「錬金術でも、モノを一から作れないだろう?」

「……確かに」

「たとえ、この世界に錬金術師がいようと、俺の力は解析もできないぜ」

この一言は後に、「エルフナイン」の登場で現実となる。黒江が持つ力は錬金術からでも解析もままならなかったからだ。それ以前の時間軸であるこの時点では、二課がどう頑張っても解析もできない有様である。辛うじて、いくつかの技の基本原理が分かった程度である。

「それ以前に、俺が恒常的にギアを使ってられる理由を考えるはずだ。あいつらは理論上は展開時間に制限が無くても、ギアの整備が必要なはずだからな」

黒江はギアの整備をしていないが、ギアの最高ポテンシャルを維持できている。これは小宇宙でベースになった聖遺物の力を自然に勃起させているためで、黒江(後に調も)にとっては純粋に身体保護の目的で使っている代物に過ぎない。

「貴方の力はそこまでというの?」

「言ったろ?オリンポス十二神の闘士だと」

「この世界の聖遺物は先史文明の遺産だということも分かったんですよね?」

「商売柄、本物の宝具を使いまくるとか普通なんでな。俺の守護星座の山羊座は剣士属性だから、手刀で普通に米国の原子力空母は斬り裂ける」

「……あ、アハハ……バケモノじゃない」

マリアはへたり込む。力の差があまりにもあるからだ。

「要は第六感を超えたか否か、だ。この世界のどんな奴が来たところで、俺なら倒せるだろう」

黒江が苦戦する相手はこの時点では、世紀王であるシャドームーンや聖闘士級、ガンダムファイター級の実力者に限られる。ゴルゴ13もそのクラスに加え、異能生存体という最強の属性があるため、もし戦っても殺せないのである。

「大体、本業の衣装(聖衣のこと)が宝具レベルのアーティファクトだし、スーパーロボットやワープ機関なんてのは『科学の結晶』だけど、能力がアーティファクト級って物がゴロゴロ有るから。有難み薄れるんだよな。こいつはそれらに比べりゃ、かわいいおもちゃに見えるよ」

「……響が聞いたら、ムキになって怒りそうですよ?」

「そもそもの基礎が違うんだから、そこは文を言われてもな」

黒江が何故、シンフォギアを普通に起動できたのか?ミレーヌ・フレア・ジーナスと同等レベルのチバソング値を出せるからである。(ミレーヌより多少上らしい)後々に調と箒が測定を受けた結果、サウンドブースターを起動できるレベルの数値になっていたとのことである。この『チバソング』は未来世界での歌エネルギーの基準単位であり、シンフォギア世界でのフォニックゲインに相当する。

「貴方、軍人なのに、何故、歌唱力がプロ級なの?」

「おふくろが俺を有名な歌劇団に入れたかったんだよ。それで英才教育されたクチだ」

黒江は自嘲気味だが、黒江の母は娘を歌劇団に入れること以外に興味がなかったため、二回も転生しても関係は悪いままだ。黒江の幼少期は1920年代であるため、そこも黒江と厳格な母との折り合いがずっと悪い理由でもある。

「その結果がこれだよ。歌うことは嫌いじゃないが、おふくろとはそれで折り合い悪いままだ。ガキの頃、俺を道具扱いしたしな」

「えーと、貴方の子供の時って」

「大正後期から昭和の戦前期までだ。お前らからすりゃ、立派なバー様だろ?」

「その時代の日本人の割に、垢抜けてるわね」

「お前らなぁ。なんだと思ってたんだよ、戦前期の日本。敵性語だのうるさいのはだな、戦中の一時期だけだ。それも追い詰められてきた時期だ」


黒江の本来いる時間軸は、この時点では1945年。直に24歳を迎える年頃である。21世紀基準では、まだまだやんちゃ盛りだが、1945年では『大人』になることを強いられる年頃である。なので、扶桑基準だと圭子のぶっ飛びようが異端視されるのだ。

「貴方、いつの生まれなの」

「1921年。関東大震災より前の大正後期だよ」

「えぇ!?」

黒江は1921年生まれ。太平洋戦争の時代に『青年将校』であった世代である。ちなみに、友人の加東圭子も1919年生まれ。普通の常識ならば、1945年でも若者でまだ通る年頃である。

「本当に大正生まれなんですね……」

「仕事で異世界行ってるから、生年月日は気にしてないがな」

「あなた、魔女だと言ったわね。その力を使えないの?」

「漫画みたいに便利な力でもないぜ。多くが10代のうちしか使えないから、平均よりちょっと上程度の俺なんか、見下されたことも多いぜ。そうだな、箒で浮くくらいなら、ここで出来ると思うが、やって見るか?」

「お願いします!」

未来は興奮気味だ。黒江はサービスで、ネット喫茶の室内に何故か置いてあった箒で浮く。シンフォギア姿だが、きちんと使い魔の耳と尻尾は出現していた。

「使い魔の耳と尻尾が出るけど、これでどうだ?」

「わー!すごぉ〜い!」

大喜びの未来。マリアは呆然としてしまい、言葉もない。黒江の使い魔は薩摩犬。調は後に、その先祖にあたる甑山犬の使い魔と契約しているため、その意味でも師弟と言える間柄となるのである。

「俺、薩摩犬が使い魔なんだよ。俺と入れ違いで転移した調ってやつも似た使い魔を得るだろう。もし、ウィッチになってればな」

「ウィッチ……。10代のみってどういう事?」

「シールド強度が実用に耐える期間が10代後半までなんだよ、たいてい。俺は今は減衰がない体質だが、仕事場で疎まれててな」

「大変ですね…」

「よく魔女の箒って言うけど帽子掛けなんかで飛ぶ魔女も居るな、デッキブラシも有名か。俺の世界じゃ機械で補助して効率上げたの使ってるが、箒とは言うものの魔術具としては杖を兼ねる代物だな」

「そんなのあるんだ…」

「魔法だけが発達するわけでもないしな」

感心する未来。あっけらかんとしてしまうマリアだった。


黒江は転移寸前には、まさにその通りに疎まれ気味の状況だった。黒江は扶桑基準の魔力測定でも『平均よりちょっと上程度』の魔力でしか無く、転生前は魔力の運用技能だけでエースにのし上がった。転生後は魔力値には執着しないものの、『年齢』を理由に、ミーナから軽んじられているという空気は感じている。自分でそれなので、更に年が上の圭子などもっとされているだろうというのが転移直前の状況だった。転移前のミーナは坂本への好意もあり、あまり自分を頼らなくなった事、黒江たちが司令部からの派遣ということで、一方的に敵視していた。後に判明するように、ミーナは黒江たちの武功にあまりにも無知だった。彼女の志願年度と促成教育の関係もあるが、予定された統合部隊の指揮官としては大いに問題視された。(ロンメルも『ミーナ中佐の速成教育はオストマルク陥落の直後の時期にあたるが、本当に知らんのか??』とうろたえている頃である)また、ウォーロック事件以降、ミーナはガランドしか、軍の将官を信用していない節があり、そこも後で大問題になるのだ。当時は武子が覚醒したばかりの頃であったが、ロンメルは武子に白羽の矢を立てるわけだ。64Fの編成は正式には黒江の帰還後のことだが、ミーナの無知がカールスラントの顔に泥を塗ったのは確実である。(隊内の不和を煽った形になるので、第一の査問の期日は黒江がいなくなった日に内示されている)

「たぶん、今頃はダチが頭抱えてるはずだ」

と、黒江は漏らすが、まさにその通りだったのだ。







――その頃のウィッチ世界――

「すまん、ケイ。お前の部下への非礼をあいつに代わって詫びる。今度、飛んだら本気を見せろ。お前の本気を」

「いいのか?」

「赤松大先輩のお手を煩わせる事になった以上、お前に猫をかぶらせ続ける意味は消えたよ」

坂本は胃潰瘍になったらしく、胃薬を服用している。山本五十六が『赤松を送り込むぞ!!』と怒りの電話をかけてきたからだ。

「姉御も来るか。おっちゃんにえらい心配かけたな」

「お前、よく我慢したな、昨日」

「ガキじゃあるまいし、あれくらいで怒ってられっか。ま、猫をかぶるのやめられっから、姉御には感謝だな」

圭子は猫をかぶれば、転生前の温厚な人柄を演じられるが、却って肩がこるという。圭子はその猫かぶりと素の落差が大きすぎる事で、今回は『戦場で理性が吹っ飛んだ』という扱いを上層部にはされているが、実際は粗野な振る舞いが素である。

「姉御、綾香のことは知ってんのか?」

「沙織さんから知らされたって。それで、フェイトに行方を探させてるそうだ」

「あいつも大変だな。映画撮影に入るって時に」

「それで子供の姿に戻ってるそうだ。日本だと、そっちのほうが受けいいんだと」

「大人のあいつ、アニメだと評判いいとはいえねぇとこあるからな。なのはのイエスマンっぽく描かれてるようだし」

「それ、気にしてるようだぞ」

「まぁ、なのはは今回も『やらかす』予感するからな。ありゃ因果だなぁ」

「どうにかできんのか?」

「無理だ。前回であれこれしたが、あのガキは『一回はどこかでやらかす』って因果を持つらしくてな。事後の影響を抑える方法を探したほうが早い」

圭子も、なのはが後で『やらかす』ことは因果律の問題だと述べ、それを聞いた坂本も嘆息する。シェルブリットへの覚醒はその後のことなので、なのはは何かかしらの失点をやらかす因果があると言える。それが予想以上に問題になり、人事的に失点がついたことで気が楽になったのも、シェルブリット覚醒後の素行の変化の理由だろう。また、なのは自身はプリキュア志望だが、シェルブリットに目覚めてしまう。口調もその影響で粗野になり、更に後にはラグナメイルにも乗るので、圭子曰く『赤いラグナメイル与えてよかったぜ』とのこと。

「どうする?」

「こればかりはどうしようもねぇさ。あたしらにも因果があるように、あいつにもあるからな。事のなりゆきを見守るしかないぜ」

「やれやれ。黒江はどこに飛ばされたんだ?」

「それを探させてるところだが、そう簡単には見つからねぇだろうな」

「あいつ、やらかすだろうな」

「いつものことだ。ネットギーク共に嫌われてるが、あたしらは基本的にはいいことをしてるんだ。もっと自信を持て」

圭子はそう言って、坂本を励ます。坂本は21世紀の誹謗中傷への耐性があまりないからだ。坂本は前世では2000年に亡くなっているのもあるだろう。もっとも、坂本はネットを気にしない質だが、取材には怒ることが多いことで、後年にインタビュー担当の記者からは『気難しい』とされるのである。

「奴のことだ。今頃はどこかで迎えを待ってるはずだが、何かと戦ってるだろうよ」

まさにその通り。黒江は未来とマリアを連れ、街中のネット喫茶を転々としつつ、二人を連れて、情報収集を行う。コスプレ喫茶の勤務だけは忘れないが。黒江と未来は盲点を突く形でコスプレ喫茶のバイトを行い、その間にマリアが情報を収集するという生活を確立させる。切歌の愛が憎しみに転化し始めたのを三人はまだ知らない。『愛は超越すれば、それは憎しみになる』。どこかの世界のエースパイロットが言ったという言葉だが、切歌はその心境であった。そして、二課の装者との再度のエンカウントは唐突にやってきた――


――別のある日――

「お前らに手を貸してやる」

黒江は理性のタガが外れた切歌に苦戦する二課の装者に加勢する。その際のいで立ちはシンフォギアにガンベルトを巻き、ゲッタードラグーンを二丁拳銃で持つもので、調と共通するところはギアの基本形態だけだ。

「調を止めるdeath!!」

「やれやれ。イタズラのすぎるガキだ。躾をしねぇとな」

黒江はまずは指弾をマッハ3ほどで飛ばす。切歌は鎌を奮う暇もなく、衝撃でクラクラに追い込まれる。そして、その隙を突く形でツインテールの可動部が黒江独自のギミックとなり、切歌を捕縛する。

『パァァラァイザー!!』

ゼロ距離での電撃。威力は『大空魔竜ガイキング』のそれと遜色ないもので、切歌は持ち味を発揮する以前の段階でいきなり痛撃を与えられる。そして。

『カウンターパーンチ!』

黒江は更に篭手をカウンターパンチとして撃ち、切歌はロケットパンチを食らう形になり、更に吹き飛ばされる。そして。

『ゲッタートマホォォク!!』

真ゲッター以降のハルバードタイプのトマホークを召喚する。ギアのスペックを殆ど用いていないが、ご愛嬌である。切歌と斬り結ぶが、切歌の攻撃は尽くが空を切り、黒江は肩口からトマホークを食らわせる。振り下ろされるトマホークの刃は容易くシンフォギアの装甲をアンダースーツごと斬り裂き、鮮血を吹き出させる。

「なんで、なん……!?」

「当たり前だが、命までは取らん。さぁ、お前らのことを話してもらおうか?」

トマホークランサーで切歌のギアを貫き、地面に縫い付けるかのように突き立てる。余りに一瞬の出来事だった。肩の高機動バーニアも意味をなさない。突き刺さったランサーはてこでも動かない。

「待って、調ちゃん!どうしてここまでするの!?」

「話せば長くなる。そもそも、俺はそいつじゃない」

余りに衝撃の光景なためか、敵対しているはずの響も止めさせようとする。急所は外してあるが、ランサーを突き刺している調と、それに必死に抵抗しようと、肩の高機動バーニアを吹かしまくり、ランサーを抜こうとする切歌の構図は残酷であった。

「で、でも、これじゃ!」

「黙れ、手を出すなら、手加減なしで相手するぞ?」

黒江はそう言い、響たちを威圧する。響も思わず後ずさりするほどの迫力と圧力があった。翼とクリスも手出しができないのか、冷や汗タラタラで見つめることしかできない。切歌は痛みで顔をしかめつつも、『私がわからないのデスカ……?』と泣いているようだった。

「人違い、いや、代役だな、この場に居る俺は。本人であって本人じゃない、多分、互いの姿を交換して立場も入れ替わってるんだろうな」

と返すものの、傍からみた黒江の冷酷さと切歌の涙に、響は黙っていられなくなったのか、止めようとするが……。

「もうやめて!!」

「そうか。お前が…。」

「…え?」

「手を出すなと言ったろ?お嬢ちゃん」

黒江は響のバーニア込みの突撃からの拳を掌で受け止める。響はガングニールのバーニアを更に吹かすが、逆にそのまま持ち上げられてしまう。バーニアの噴射の推進力も意味をなさない。

「う、嘘……全力なのに……抵っ抗でき…!?」

「ガングニールのお嬢ちゃんよ、怪我しない内に家へ帰んな。頭に血が登ってる状況で相手と話はしないほうがいいぜ?」

黒江は忠告する。そして……。

「それに、拳を握るって事はだな、こうなる事も覚悟の上なんだろう?」

受けた拳を捻って地面に受け流しで響を叩きつける。元の調にはできないはずの高等格闘術である。

「どういう事なの……!?ねぇ、教えてよ!」

「この場は遠慮させてもらう。それに、頭に血が戻ってる時に言ってもな」


黒江は響を取り押さえつつ、ゲッタードラグーンでクリスのアームドギアの一つである拳銃を弾き飛ばし、翼の天羽々斬は手刀で弾く。その間、わずか十数秒だった。響は顔から地面に叩きつけられ、動けず。クリスは早打ちで自分が遅れを取った衝撃で固まり、翼は刀を手刀で弾かれた事に唖然としている。

「ば、馬鹿な……我らが束になって……こうも太刀打ちできんだとッ!?」

「うーん、その声で言われると、どうにも赤の他人の気がしねぇ…」

「なっ…!?」

「うーむ…」

黒江はこの時に初めて、風鳴翼の声色が青年期のフェイトに似ている事に気がついたようで、思わず苦笑した。

「と、まぁ。訳も解らん内は誰にも与せんよ、突っかかって来る敵は打ち払うがな……」

「ま、待って!!」

「あばよ、お嬢ちゃんたち」

黒江はそこでアナザーディメンションを使い、姿を消す。響が手を伸ばした瞬間には残響のような声が響くのみだった。二課はすぐに考えられるだけの手段で足跡を追おうとするも、完全に反応が消えていた。

「馬鹿な……テレポーテーションだとッ…!?」

「嘘だろ!?フィーネでもできなかった事だぞ!?」

「どういうことなの、調ちゃん……」

疑問に思う三人だが、と、そこで切歌がランサーをなんとか引き抜く。引き抜いたが、完全に戦闘続行不能であった。

「お前達、お前達のせいで……調がおかしくなったんだ……」

切歌の目は完全に憎悪に染まっていた。愛が憎しみに転化したらしく、言うことも支離滅裂であった。

「次はお前達を殺すDEATH……!そのためには……」

「き、切歌ちゃん!」

「私を……気安く呼ぶなぁ!!」

切歌は完全に狂い始め、声色も完全に普段と全く違うものに変わった。ドスが効き、トーンも低くなっている。

「手に入らないのなら壊せばいい……世界が壊れても……あ、ははは、ハハハ……!!」

切歌は哀しく笑う。だが、顔は笑っており、完全に『おかしくなってしまった』のが素人目にもわかる。

「あいつ……イッちまいやがった…!」

クリスもその狂気にそう漏らした。切歌のギアが禍々しく変貌し、完全にその狂気に身を委ねた心象が反映された姿となる。

「みんな壊れちゃえば良い!信じた愛が幻想だったのなら、全部、全部!!」

切歌はこの時に精神の均衡を崩してしまった。化人間にでもなったのかと言うような支離滅裂な言動は切歌の憎しみの強さそのものだった。それも調への愛の強さが為せる業であり、もはや誰も止める者はいないというべき暴走のままに切歌はそのまま姿を消す。

「……切歌ちゃん……」

この時に切歌の狂いようを見てしまっていた事が響の黒江への反発の遠因だったと言える。皆の手前、感情をしまっていたが、切歌の狂いように同情していくにつれ、どうにかしてやりたいと思うようになるのだ。









――黒江のこうした行為は日本政府が調の存在を利用し、米国への抑止力として利用せんとすることに繋がった。黒江が時たま『風来坊』のような振る舞いをしていた事もあって『破天荒な装者』であると、アメリカ側に(主に外交筋で)喧伝されることになる。だが、調は本来、レセプターチルドレンとして、幼少期に日本から米国が拉致したはずの人間であるので、米国政府は日本のプロパガンダに困惑。シンフォギア世界では既に、超大国としての威光を失って久しい米国にとって、レセプターチルドレンらは不祥事があることを示す『危険な存在』であるため、直ちに抹殺が図られた。(米国の違法行為の証人そのものであるため。また、調の本来の出自は後に、調本人が帰還後に調査し、自分の両親のうち、どちらかの名字が『南條』であったらしいという情報を掴むに至る)ただし、シンフォギア世界の米国は世界の覇者たり得なくなっていくことに我慢ならず、非合法的的行為をここ数代の大統領が推進していた事実を闇に葬るために、マリア達に全責任をなすりつけようとしていくのである――

――数日後――

「この世界は珍しい世界だな。シュメール人が宇宙人か」

「あなたはそう見るの?」

「俺が仕事で行ってる世界じゃ、シュメール人が最初の地球文明だった。だが、地球に天変地異を定期的にもたらす回遊惑星『アクエリアス』がその文明を洗い流した。奴らはその時に助けた宇宙人を移住先で駆逐し、やがて母星が滅ぶから、先祖の星に戻ろうとした。そこにいる現在の地球人を駆逐してな」

ディンギル帝国。シュメール文明人を祖とする元・地球人だが、極端に弱肉強食とエゴイズムに染まっており、現在の地球人からすれば卑劣な手段を躊躇なく講じる傲慢な種族である。黒江もこれまでの二度の生で戦っている。

「ディンギル帝国って名前だ。地球連邦とそいつらは戦争状態に入って、地球が勝つが、宇宙戦艦ヤマトを失う。それを覆そうとする試みがされているところだ。その前にも星間戦争は何度も控えてるから、その世界は戦国時代みたいになってる」

地球連邦と星間国家の衝突は短時間に何度も起こる。この頃(M動乱後、ダイ・アナザー・デイ前)にジオンが自滅とも取れる蜂起を急ぐ理由も『地球連邦が星間国家として完成されてしまうことで、ジオンの名が埋没する』事を恐れての事であった。地球が星間国家としての道を歩むきっかけは『宇宙戦艦ヤマト』の存在であり、ジオン残党も撃沈を幾度となく試したが、恒星間航行を前提にした宇宙戦艦に『内惑星間航行』がせいぜいのジオン軍が立ち向かえるはずはなく、性能差を例えるなら、赤子と大人ほどの差があり、艦載機戦に持ち込むことすら不可能であったという。単艦でアンドロメダ銀河を制覇した大帝国の主力を翻弄した戦歴は伊達ではないことを証明したが、ジオンにとっては不倶戴天の敵であり、ヤマトの不在を狙うわけだが、彼等はヤマトにも同型艦はいることを知らなかったのである。

「戦国時代……」

「内憂外患って奴だ。地球連邦自体も足場堅めが出来きってないのに、内戦と対外戦争の両方が控えてるからな。お前達が関係するとはわからんが、そういう世界はある。覚えておけ。その世界の戦争をやってきたから、俺は肝が座ってんだ。だから、よほどの事がない限り、俺にまともに対抗できる者はこの世界にはおるまい」

シンフォギア世界で唯一、黒江に対抗可能な力を持つのが風鳴弦十郎であると思われるので、この時点のシンフォギア装者は敵ではないことを明言する。

「あなたのあの力……抵抗するのが馬鹿らしいくらいよ」

「多分、どいつとやってもワンパンだろう。こいつのギミックや、ベースとなってるものの力に頼ってるんじゃ、俺には勝てん」

黒江は自己を極限まで鍛えた上で聖闘士になったので、基礎能力は相当に高い。理性が吹き飛んだ暴走形態になったところで、どうにかできるわけでもない。

「でも、姿は調そのものなのに、背丈が10cm以上も違うのは何故なの?」

「俺は元々、170以上あったからな。その中間をとったんだろう」

調は21世紀基準では小柄である150cm台前半の背丈だったが、黒江が入れ替わった時点では160cm台の半ばほどと、かなり高くなっている。やっていることも違う(ガサツである)が、この当時の立花響達は知る由もない。(本人もその後、この時の黒江と同程度の背丈に成長する)

「それに、連中は対人は経験則でやるだろうが、その手の経験となると、俺とは比較にならんよ。それに、引き出しも多いからな。年の功だな」

「……歳の割に若いわね、口調」

「肉体が若けりゃ、精神も引っ張られるもんだ」

黒江はどこからか調達したタバコ型の喉の薬を咥えていた。この頃から『自分は本来は成人済みである』という記号、『調本人ではない』ことを示すため、バイトの時以外は咥えている事が多くなる。

「タバコですか?」

「いや、タバコ型の喉の薬だ。欧州だと、日本人は童顔だから、欧州だと子供に見られるからな。欧州行った同期はみんな、こういうことをしてるよ。俺の時代じゃなおさらだ」

「そういうことはないと思うけど……?」

「俺の世界じゃ、海外勤務での常識だった。昭和前期くらいはそうしてたと思うぜ、日本人は」

未来とマリアも疑問に思うが、昭和以前の風習は後世には奇異に映ることの証明である。昭和ライダーが『改造された身体で生きてきた』理由もそれだ。機械式の改造人間である場合は元に戻れる可能性もあったが、人々は『英雄』の不滅を願った。平成や令和の時代の人間からすれば『バカバカしい』だろうが、彼らは『英雄』として生きていく事を選んだ。歴代のプリキュアが戦士である事を続けているようなものだ。

「平成やその次の年号(令和)の頃の人間達は、その時代の価値観で過去を批評した気になってるが、当時の価値観を知れよといいたいぜ」

黒江は史実での戦中期のに若者の世代であるためか、自衛隊で苦労をしてきたためか、後世の素人がネットで批評家気取りの事をしていることに苦言を呈する。昭和ライダーが元の身体を取り戻す事をせずに、さらなる未来で戦っている事は暗黙の了解的に、21世紀の世界でも裏で知れ渡っており、その事を『10人の戦鬼』だのと揶揄する声があるのを知っていたため、そのことへの怒りも入っていた。10人ライダーとて、『自分たちが必要とされない世界』を願っていた。故に冷凍睡眠の選択をとった。だが、時代が移り変わり、仮面ライダーBLACKが現れ、彼がゴルゴムに敗れ去ると、古の英雄である10人ライダーの復活を望んだ。それが23世紀に蘇った10人ライダーの真相だ。そのことへの思いも込めていた。


「第二次世界大戦が終わっても、朝鮮戦争が起こったし、第二次世界大戦そのものも、第一次世界大戦から20年で起こった。人間はそんなもんだ。俺の知る世界はそれを過去の一ページとして知ってるのに、大陸の地殻すら抉る行為を働いても、平気で戦争が続いて、遂には『宇宙戦争に慈悲はない』って気づいていった。これは残酷なようだが、一つの結果だ。ある世界のな」

黒江はそう〆た。その経緯は一つの世界が辿る道だからだった。息を呑むマリアと未来であった。




※あとがき 今回の話は私がハーメルンに掲載中の『ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版』にて掲載中の『回想〜シンフォギア世界改変編』をシルフェニア向けに校正したものとなります。



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