艦むす奮戦記
第十話


――国軍の存続は当初、内務省から文句が出まくったが、GHQの指令で結局は認めざるを得なかった。その結果、旧内務省系省庁と軍は不仲になっていた。しかしながら流出した陸軍装備を持った共産主義者による過激なテロ事件が1947年から49年に頻発したり、悪質な海賊行為が頻発し、再編後の国防軍がそれを制圧した事から、警察より軍隊が信頼される状況が戦後においても生まれた。内務省解体後の警察庁や海上保安庁は『戦前の亡霊』と自らが揶揄する軍隊に手柄をやるものかと戦後世界を生きたが、テロ事件の制圧が不可能であったこと、現金輸送車襲撃を完全犯罪で成し遂げられた、1980年代以後に不祥事が馬鹿のように起こったなどの不手際が長い年月で起こってしまったために警察組織は概ね国民に余り信頼されない状況にあった。



――警察庁のある一室

「内務省復活計画はどうかな?」

「我々が送り込んだ議員が法案提出します。ちょうど財務省が年金でポカしてくれたことでいくつかの省庁を再統廃合する議論が俎上に載せられていますから……」

「うむ。GHQが我々の父祖の体制を崩してから100年が経過した。我々はいいかげんに復権すべきなのだ。日本のためにもな」

彼ら警察官僚は内務省復活を目論んでいた。これは日本が復興した後の時代において度々議論されたが、戦中のマイナスイメージを知る者らが潰してきた経緯がある。しかしながら、戦後に礼賛された非派閥政治の弊害が年月の経過で出てしまうと、内務省復活を望む声を容認する風潮が出始めた。そして各省庁の連携不足が数度の大震災で露呈したことでそれを統制する省庁の存在が望まれたのだ。旧内務省最後の世代の政治家や官僚の目論見は時を超えて達成されようとしていた。このように復活が目の前に迫る旧内務省とは対照的に、戦後世界で冷や飯を食わされた形になっているのが外務省である。吉田茂が総理大臣になったとは言え、杉原千畝外務官を戦後直後に冷遇し、罷免させようとしたことが天皇陛下の逆鱗に触れたからだ。彼の助けた元難民が面会し、功績が天皇陛下の耳に入ったのだ。旧憲法が存続していた時期であった故、冷遇した官僚を皇居に呼び出し、激怒して叱責。彼らを不敬罪で処刑もちらつかせた。天皇陛下の意向となれば、外務省に打つ手はなく、杉原外務官をそのまま職務に就かせざるを得なくなった。同時に彼を冷遇した同僚や上司は人員削減の名目で首を切られ、天皇陛下の圧力で恩給も払われずに彼らが困窮する羽目になった。これを杉原事件という。外務省はこの不祥事以降、GHQは愚か天皇陛下からの信頼も失い、不遇の省として戦後を生きた。彼らの左派の復讐として、日本国を意図的に全面戦争に誘い、現体制を破壊するという計画が立てられていた。しかしこれは公安警察が未然に阻止した。

――地方隊

「何々、外務省の不埒千万な思惑、公安警察によって暴かれる……外務省も不遇に扱われたからって、もう一度戦後に戻す気だったのか?あいつらはろくな仕事しないんだから」

「外務省、ですか?」

「そうだ。榛名、知ってるだろう?国際連盟脱退とかの悪手を打ちまくったのがどこか」

「ええ。まぁそれを支持した国民も悪いですけどね。ドイツびいきが度を過ぎてましたから、あの時は」

「外務省は本当、仕事しないんだから。武蔵と長門はどうだ?」

「今、空軍から連絡があって、中国海軍の船と交戦状態に入ったようです」

「そうか。だが、今の駆逐艦やフリゲート艦で武蔵と長門が止められるものか。原爆にも耐えられるからな」

そう。戦艦の重装甲は核兵器にも耐え得る。ネバタなどが轟沈する中、満身創痍の状態で二発に耐えた長門。それを更に強化した大和型は水爆にも耐え得る。事実上、核兵器が環境的都合で封印されているに等しい戦後では、ほぼ無敵といえる防御力を持つ。私はその辺も含めて安心していた。



――軍隊が存続できた要因には、GHQが将来的な戦争で日本を円滑に前線基地化させるという思惑が冷戦の芽生えで生まれた事、日本人がルールを最高で260年もの間、変えていなかった国である事を考慮したこと、太平洋戦争終結後、早々に中華民国が衰退したことなどがある。それで航空戦力は優先的に保全が成され、焼却されようとした飛行機が上級士官指令で再整備を命じられるなどの混乱も生じた。軍需産業はアメリカ製工作機械で機体の生産が早々に指令され、旧軍の末期における第一線機は生産が数ヶ月で再開された。これが国防空軍の起源である。海軍は大型艦がほぼ解体か賠償艦になったが、酒匂や隼鷹、葛城は残され、朝鮮戦争で一定の活躍を見せた。結果、日本への軍への感情は概ね良好なままであった。軍部の存続は軍への復讐を目論んでいた警察組織を狼狽えさせた。警察がほぼ改革されたのに対し、軍部は陸海軍将官級が排除された以外は、ほぼそのまま移行したのだ。警察組織はこれに嫉妬したが、戦後直後のテロリズムへの無力は彼らへの信頼を更に落とすきっかけであった。


――日本海

「敵はフリゲートだ、私が前に出る!!」

「武蔵、いいのか!?」

「どうせ奴らの兵器では私の装甲は突破できんさ!」

自信満々の武蔵。民間船をも見境なく襲う中国海軍の非道ぶりに頭に来たようで、既に46cm砲をフリゲート艦に向けている。そしておもむろに撃った。実に100年ぶりの日本戦艦の咆哮であった。

――空気を震わせる衝撃波とともに放たれる46cm砲弾。この時は持ち前の艤装だったので、一式徹甲弾を放った。信管は鋭敏にセットしてあったので、敵艦の船体に当たった瞬間に大爆発を起こした。

「お〜、敵艦炎上中や!」

「次はどこだ龍驤!」

「今のちょい横や!真上からやったれ!」

「了解だ!!」

武蔵の艤装はフリゲート艦からも確認された。重装備かつ、三連装砲を持つという艦容から、敵の艦娘は大和型である事が確認されると、中国艦隊の士気は崩壊寸前となった。大和型と言えば、日本帝国のシンボル(実際は長門で、大和型は箱入り娘だが)であった。その大和型戦艦の装甲を真っ向から抜ける兵器など、現在にはありはしない。勘違いされがちだが、現在艦はミサイルなどは威力は増したものの、徹甲弾を前提にした防御を持つWWU型艦艇に比べ、『いざ被弾した時』に脆さを見せる。矛が盾を圧倒的に上回った時代故に、現在艦は装甲をほぼ持たない。それ故、電子的介入が不可能なローテクな砲弾が命中した場合は一撃で船体が貫通される危険性を持つ。それも戦艦の砲弾は同種の相手を貫くために作られている。現在艦など薄紙のようなものだ。再度、武蔵の主砲が火を噴く。その間にミサイルが武蔵に命中するが、びくともしない。

「ふん、このようなミサイルで私は倒せん」

そう言いつつ、武蔵は第二射を放つ。武蔵の防御はトーペックス系爆薬を摘む魚雷でさえ20発は当てないと致命傷にならない。対艦魚雷が潜水艦以外に廃れたこの時代に、戦艦の重装甲を砲撃戦で抜くのは不可能に近いのだ。

「ふん。二隻沈めたら退散し始めたか」

「様子見のはずが、戦艦がいるっつー事に気づいたんやろ。それも大和型に。日本の戦艦で三連装の大口径砲塔持っとるのは大和型だけやからな」

「客船は?」

「海軍の船が曳航しに来るそうや。空軍が抑えてくれてたおかげで安全は確保された。引揚げるで」

「了解だ」

こうして、中国軍は武蔵の存在を知ったが、彼らも黙ってはいない。彼らは第二次世界大戦の戦勝国である事を根拠に、ある一人の艦娘を籠絡しようとしていた。それはたまたま中国を旅行中に艦娘としての記憶と自我に目覚めた旧米海軍戦艦であった。その名もノースカロライナ級戦艦『ワシントン』と、サウスダコタ級戦艦『サウスダコタ』、『インディアナ』である。この三者は祖国に尽くしたのに、最期はスクラップにされた記憶と、艦時代の記憶から、現在の同盟国である日本と祖国であったアメリカを憎んでおり、中国に与する事で、日本には真珠湾攻撃の復讐を、アメリカには自らの無念を思い知らせるために中国海軍に与しようとしていた。

「いいのかサウスダコタ、中国は今の祖国の敵だぞ?」

「ネームシップの私を解体しといて、何が敵だ。それに散々中華民国に肩入れしといて、役立たずと判断したらJAPに肩入れしやがった。真珠湾忘れたのか、クソッタレ」

サウスダコタは不良少女風の口調であった。艦隊の疫病神と忌み嫌われていた事や、格下であるはずの霧島にボコボコにされたという屈辱、戦後はいらない子扱いで、1962年にはスクラップとされた事への恨みから、やさぐれている。それはワシントンが呆れる程のものらしい。

「やれやれ。姉さんやアイオワ達には見せられんな、このザマは」

ワシントンは次女ながら、姉御肌なのが窺える。記念艦として余生を送る姉や下の妹達、アイオワ達が、このサウスダコタの醜態を見たら愕然とするだろう。転生後は『姉妹』として生きていた彼女ら。人間としての生活では、ワシントンが長女であった。艦娘としての自我が目覚めた以上は多少は関係は変わる(艦級が異なる)。(艦娘に覚醒すると、その艦としての自我と、人間としての自我が融合する)そのため、ワシントンは『ノースカロライナ』を姉と言ったのだ。

「いいんですが、ワシントン姉さん」

「構わん。我々はすでに一度、祖国へ尽くした。ナガトやムツ、そしてヤマトと刃を交えたいという前世の心残りもある。そのためにチャイニーズ共に与するのだ。ただし、奴らの思惑通りには動かん。我々の目的はヤマトらとの決戦だ」

「はい」

インディアナはワシントンに従った。艦としても、人間としても彼女が『姉』だからだ。彼女らは中国の国家主席自らの要請に『応える』形で、大和らへ挑もうとしていた。かつて成し得なかった『艦隊決戦』を果たすために。






――横須賀地方隊

「ユーが超大和型戦艦なのデスカ……?」

「そうだ、金剛」

金剛が応対した艦娘は大和によく似ていた。だが、相違点が多々あった。まずは声。大和が、大人びた容姿と裏腹に、どこか幼さを残した声なのに対し、その艦娘は凛々しさが前面に押し出されている声色だ。体つきは大和とは正反対に引き締まったガタイで、格闘技をしていると暗示している。その名は。

「私は超大和型一番艦『紀伊』。八八艦隊の紀伊型戦艦の衣鉢を受け継ぎ、大和の血統でもある艦娘だ」

紀伊はそう名乗った。かつて、計画された紀伊型戦艦は大きく分けて2つ存在する。一つは1910年代後期〜1920年代初頭の八八艦隊計画で立案された高速戦艦『紀伊型戦艦』。もう一つは日本海軍起死回生をかけて計画された超大和型戦艦。彼女は前者の衣鉢と、後者の姿と能力を持つ艦娘なのだ。

「紀伊、あなたに姉妹はいるのデスカ?」

「妹達はまだ軍に志願できる年齢ではないがな。学生してるよ。尾張と駿河というんだが」

紀伊の口から、『尾張』、『駿河』の存在が示された。紀伊曰く、『完成』状態に持ち込めたのは自分だけで、『尾張』と『駿河』は地下秘密基地で船体が進水したばかりの段階で終戦を迎えたと説明される。日本海軍は起死回生の秘密兵器を作る気満々であったのが窺える。というより、昭和20年以後も戦争する気だったというほうが驚きだ。

「うー……大和になんて言えばいいのか」

「大和をマジ○ガーZとするなら、私らはグレートマジ○ガーみたいなもんだ。切り札は取っておいたほうがいいだろう?」

「つまり大和には伏せろ言うのデスカ?」

「大和は後期の悪夢と、後世からの罵声や嘲笑で精神的に不安定になっている。唯一のアイデンティティである『世界最大最強』の座まで奪ってしまったらどうなるか、武蔵はわかっているはずだ」

「武蔵は知ってるんデスカ、ユーを」

「ああ、同じ高校に通っていたからな。メル友だ」

「ええ〜!?」

「赤城と加賀、榛名、それに長門と陸奥には知らせておけ。戦前の最有力艦だからな。提督には言ってあるが、私のことは最高機密になりそうだ。だが、いざ明らかになった時に反発が出るのはありそうだからな、マジ○ガーZの映画でのグレートマジ○ガーのようにな」

そう。大和という現有最高戦力よりも、更に強い力を秘匿していたとなれば内外から強い批判が生じる可能性が大きい。それを少しでもリスクを下げるために、一部の艦娘には知らせておいたほうがいいと紀伊は言う。例えがアニメオタク臭いのは思わず苦笑したものの、金剛はこの紀伊の考えを概ね汲み、赤城や榛名、長門型に後日に知らせた。反応は様々であるが、その内の榛名の場合を見てみよう。

――後日

「……という理由デス、榛名」

「まさか三杯も作っていたなんて……」

「彼女の事は最高軍事機密になるそうデス。大和の事を気遣ってましたから、坊ノ岬沖海戦に至るまでの大和の悪夢を気にしているのでしょうネ……」

「あれはもう、あの参謀の悪足掻きで、陛下への面子建てに使われたようなものですから。大和は許せないのでしょう」

「もし生き残っていれば、国防軍に奉職する機会もあったかもしれませんからネ。長門と違って新型でしたし……」

長門は終戦後、どのうちクロスロード作戦の標的になることが決定されていた。陸奥があると思われたためと、老朽艦だったからだ。大和は生き残っていれば、最新型戦艦であった故に、アメリカ軍に優先的に接収された後に国防軍の戦力になれた可能性が存在した。そのため、米軍関係者からは、マーク・ミッチャー提督の行為を非難する声がある。米軍も、坊ノ岬沖海戦を戦艦の最期の花道としたい気持ちが強かったのが窺える。大和は死に場所を戦艦同士の砲撃戦にしたかったのだろうが、それも叶わぬ夢となり、後世から『27ノットしか出ない、空母の護衛も出来ないドンガメの大飯ぐらい』、『対空戦想定していない』、『ビスマルクのほうが防御面では優秀だ』だの言われてしまっている現状を気に病んでいるのは確かだろう。

「大和はなんとしても戦果を挙げようとするはずデス。その時は守ってあげて下さいネ、榛名……。」

「ええ……あの子の悩みは私と長門がよく知っています。大日本帝国海軍への弔いのためにも、私は大和を守ります」

榛名は文字通りに、最後の金剛型戦艦として、大日本帝国海軍の終焉に立ち会った。大和は自らの死が大日本帝国の終焉であることを理解していたし、大日本帝国海軍の終焉が来るのを自覚していた。だが、レイテ沖海戦で大和が泣いていたのは(ひいては乗組員ら)、はっきり記憶している。連合艦隊を無謀な作戦で無為に死なせた、あの作戦参謀を憎んでいるのは、榛名も同じだった。金剛がレイテ沖海戦の帰投途中に仕留められたからだ。それ故に、大和の理解者と言える。金剛が榛名に大和の守護を託したのは、大和の悲しみを理解し、それを未来へ繋げられる可能性に賭けたからだ。『大日本帝国海軍の弔い』と自分自身の過去に決着をつけるために、榛名は金剛からの要請を受け入れる。『未来へ歩き出す』ために。



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