――地球連邦がハワイ攻略準備を始めていた頃、フロンティア船団 黒江が新型を受領した日から3週間後――



「おー穴拭。そうか、アイツの友達の師匠ってお前の事だったのか」

「なんだアンタだったのね、黒江」

黒江は仕事の合間にかかって来た地球からの長距離通信の相手がかつての戦友であった智子であることに多少の驚きと感激を持った。どこで縁があるかは分らないが、フェイトの友達の師匠がまさか自身の戦友である智子だったとは。


「お前、まだ中尉なんだって?507を指揮してた割りには出世してないんだな」

「42年頃を境に戦局が落ち着いたから中々手柄立てる機会が無くって。それにあたし自身、デスクワークが多くなって晩年はんなに戦ってなかったのよ」

「なるほどな。お前も“戻った”っー事はヒガシのやつにも声が?」

「ええ。こっちの世界に向かってるって連絡が入ったからたぶん」

「フジはどうだ?」

「武子は当面はパスするって。教え子をしごくのに忙しいんだって」

「そーいや教官になってたっけ、アイツ。ヒガシはアフリカから離れて大丈夫かよ?あいつ、確か統合戦闘飛行隊の指揮官だろ?」

「連邦軍の援軍がアフリカにも派遣されて来たから余裕ができたみたい。だからしばらくはこっちに居られるみたい」

と、戦友らしい会話をする二人。実はこの時がお互いに面と向かって話した初めての例だった。若き日に同じ部隊にいた時は意外にもあまり話した事は無かったが、この時には互いに弟子を持った事、指揮官を経験したなどの共通事項ができたために共感する何かが二人の間に生まれた。この会話以後、二人は親友となり、黒江が地球に戻った後は私生活でも行動を共にするようになる。

「そんじゃ仕事だから切るぞ?」

「あ、待って。そっちで何してんのよ」

「ん、ああ。戦闘機乗りだよ。可変戦闘機の訓練を受けて実戦も経験してきた]

「よく動かせるわね、あんな複雑怪奇なの」

「伊達に陸軍航空総監部でテストウィッチしてねーよ。もしかしたらお前も動かすことになるかもよ?」

「まさか」

「そのまさかかもよ。じゃーな」

この時、智子はそう言ったもの、本当に動かすことになるとは当人は全く予想だにもしていなかったとか。黒江は通信を終えると、格納庫で駐機されている、新品のVF-19Aのもとに向かう。真新しい機体なので不具合があるかもしれないのでそのチェックも兼ねている。


「ええぇと……」

コックピットに座って、機体の各機能を確認してみる。オールグリーンだ。

「ぬっ、機体の整備か大尉」

「そのめちゃロリ声はクラン大尉か。お互い大変だなぁ」

「ああ」

機体のコックピットの窓からSMSのエースの一人のクラン・クランの姿が見えた。彼女は本来、グラマラスな19歳の女性なのだが、ゼントラーディを造ったプロトカルチャーの遺産であるマイクローン装置でマイクローン化すると子供になってしまう遺伝子異常を持っているため、地球人サイズだとこのようにロリ声・子供なプロポーションになってしまう。余談であるが、後に誰かが語った事によればクランが大人の状態での声色は織斑千冬に酷似しているとの事。この時の黒江も外見・声が13歳当時の幼いものなので、クランと同じような境遇であった。そのため、一種のシンパシーを感じたのか、二人は意気投合し、友人となった。

「“19か”。じゃじゃ馬をもらったな」

「なぁに、じゃじゃ馬には慣れてる。これでもテストウィッチの時は日本機有数のじゃじゃ馬のキ44とかをテストしたしな」

「フム。“ショウキ”か。あれはどーだったんだんだ実際」

「戦闘機の方も動かしてみた感想としては扱いに慣れれば隼より頑丈だからズーム&ダイブがやりやすかった。軽戦に慣れた連中の声がでかくなけりゃ大量配備も夢じゃ無かったんだがな」

黒江は智子や圭子共々、扶桑海異変経験者の中では一撃離脱戦法にいち早く適応したクチである。しかし一撃離脱戦法はキ44こと、二式が第一線機として扱われた期間内にはとうとう普及せずじまいだった。戦訓は軍部には中々浸透しない事への落胆を感じさせる。

「まぁ日本の連中はドックファイトにこだわっていたというからな。そちらでも同じだということか。却って不気味だな……。レシプロからジェットへの過渡期の時代の人間なのだろう?お前は。そんな人間がいきなり高性能可変戦闘機に乗って大丈夫か?」

「17で体は慣らしてある。なぁに為せば成るさ」

黒江はそう言って笑って見せる。精神的には歴戦を経た大人である。それを暗に示すかのように、この時の笑みは外見の年齢ではなく、実年齢相応の歴戦の勇士らしい笑みだった。黒江の新たなる愛機となるVF‐19A―地球本星仕様――はそんな彼女のその後の運命を暗示するかのように鎮座していた……。

















――この時期、フロンティア船団は戦時体制への移行を急いでいた。平時に運用していたVF-171では性能不足が実戦で露呈し、更なる高性能機が求められた。

「例のあの機体はどうかね」

「……YF-29の事ですか、閣下」

「ウム」

「開発そのものは数年遅れですが、順調です。試作機は完成したと連絡は入っていますが……」

「テストがまだだと?」

「ハイ」

「そうか。何としてもアレは使いたかったのだがな」

ハワード・グラスフロンティア船団行政府大統領――フロンティア船団では行政府は“市”でなく、事実上の“国”のようなものである事を示すためか、大統領制である――は軍部や軍需産業の肝いりで新型戦闘機の開発を急がせた。だが、資源的な問題で新型の開発が難航し、予定より数年遅れとなってしまった。性能はVF-25よりも数段上の次元に到達したと情報は伝わった。だが、現状ではたった一機しか完成せず、アビオニクスその他のテストも未了状態なので、とても投入できないと首席補佐官のレオン・三島から報告を受け、落胆の表情を浮かべた。YF-29さえあればバジュラとの対話さえ可能にできるやも知れぬが、いかんせん一機だけしか無く、テストが終わらない状態での投入は無謀だというのは素人目から見てもわかるからだ。


「従来型の19シリーズや22シリーズでどこまで凌げるか……と言ったところですよ、閣下。既に生産ラインの改変は手配しております」

「早いな」

「ええ。こんな事もあろうかと、ですよ」

――パイロットの練度が伴えば、だがね。フフフッ

それは彼が大統領を信用させるために軍需産業に手を回して用意させた“手段”であった。VF-25を除けば、旧来型の可変戦闘機では今でも最高レベルの性能を誇っているこの両機種をYF-29の代換品として大統領に提示してやる事で、三島はグラス大統領の信頼を勝ち得、自身の野望の準備を進めていく……。








――そんな策謀とは無関係に、一人の男がフロンティア船団を闊歩していた。連邦軍きっての撃墜王の一人にして、FIRE BOMBERの熱気バサラの最大の理解者であるガムリン木崎である。彼はバサラの捜索のためにフロンティアへ入国したのだが、手がかりは今のところは掴めていない。ダイヤモンドフォースの隊長である彼も、今は休暇中だ。ふと、流れてきた歌と町中に貼られているポスターに視線がいく。シェリル・ノームのポスターだ。シェリルはバサラを尊敬しているらしく、キメ台詞はバサラのそれのオマージュだとよく耳にする。

「そうか。もうバサラやミレーヌさん達の後の世代が出てきているのか……不思議なものだ。年取った証拠か?」


――……シェリル・ノームか。確か……マヤン島事件での当事者だったマオ・ノームの“孫”だとか……これも宇宙移民時代の不思議なところだな。


――シェリル・ノームがこの時代より10年以上前に於いて起こったマヤン島での一連の事件の当事者であり、生き証人であったマオ・ノームの“孫”である事は地球連邦政府のある一定以上の権限がある者なら知ることのできる事である。ガムリン木崎は大尉であるが、功績により実質的には佐官級の権限が与えられたので知っていた。シェリル自身も公言はしていないもの、自分がマオの孫であることは認識している。これは航行中の移民船団ではそれぞれの速度などの違いにより時間の経ち方は地球本星と異なるため――光よりも早く航行し、タキオン粒子を用いたワープも可能なヤマトなどの波動エンジン艦でもない限りは程度の差はあれど、ウラシマ効果が生まれてしまう――に生じた現象でもある。移民船団ではもう宇宙人と地球人、さらにその混血の三世が生まれ、学齢期を迎えているが、地球ではまだ二世世代が若手〜中堅に差し掛かる年齢であるなどの青年人口構成をなしている事からも分かる。


「ん?何々……“ランカ・リーは現在のリン・ミンメイとなるのか”…か」

本屋に差し掛かったところでふとドアに貼られた芸能関連雑誌の煽り文句が見える。新進気鋭のアイドルとして、地球連邦で脚光を浴びているランカ・リーについてのものである。


「何でも数日前に惑星ガリア4で起こったゼントラーディ系海兵部隊の反乱を歌で鎮めってから軍部を含めた各界から注目を浴びているという……サウンドフォースみたいな話だが……アイツはなんというだろうな」

ガムリンはかつて、バサラが歌を軍事利用する事に嫌気が差し、一時放浪した事を思い出す。軍事的には仕方がない事でも、歌に対しての想いが強いバサラには許容できなかったのだ。ガムリンはそんなバサラらの後代の歌姫達に対し、複雑な気持ちを浮かべるのであった。しかし、同時に自身のヘアースタイルが特徴的である故なのか、周囲の若者に、と言っても彼もまだ20代前半なのだが……奇異の視線で見られてしまい、ちょっとした挫折感を感じたとか。

――くぅ……やはりこのヘアースタイルか!?












――フェイトはというと、この日はSMSのスカル小隊に帯同し、自らもVF-17からAVFの片割れたる、VF-22への機種転換訓練を受けていた。


「グッ……反応が余計に敏感だ……これがAVF……ッ!」

この時は通常のバリアジャケットで運転していたが、流石に宇宙空間でマッハ20以上の高速で飛び回る超高速の高性能戦闘機のパワーを制御するのには骨が折れるようで、機体に振り回されていると言った様相であった。

「落ち着け!基本は従来機と変わらん。パワーが上がっただけだ」

「は、はい!」

より次世代機のVF-25Sに乗るオズマが通信でレクチャーする。アルトやミシェル、ルカのように元々素養があり、きちんと教育も美星学園で受けていた訳ではない。魔法で飛んでいたためにこの事件以前、飛行機械を使って飛んだ事がなかった――乗った事ならいくらでもあるが――フェイトは戦闘機に乗ってまだ日が浅く、実質的には新兵に毛が生えた程度の能力でしかない。それでも実戦を生き残った分、今のフロンティア軍の若年正規兵よりはよほど使える人材である。魔法での飛行経験が長いというのも大きかった。戦闘機と人との違いはあるが、ある程度の空中戦闘のノウハウがあるのはフェイトの自信に繋がっていた。アルト達には及ばないもの、軍の若年兵よりは遥かに“いっぱし”の飛行をこなせていた。


「ターゲットロック……行けっ!」

標的機である、フロンティア船団からSMSに放出されたVF‐11にミサイルの照準を合わせる。火器管制装置がロックオンの音を立てると同時に操縦桿のトリガーを押す。ミサイルが心地よい軌道を描きながら標的機を追尾していく。数秒後には撃墜が確認できた。

「ふう。ミサイルってどうも信用出来ないなぁ……自分で倒したって実感が……」

「それはすべてのパイロットが通った道だ。ヒョッコの頃の俺もだ。だが、自分が人殺しをしている実感も湧きにくい。だから一時期、政治家の間でミサイル万能論なんていう馬鹿げた考えも出た位だ。だが、1960年代のベトナム戦争やその後の戦争で全否定されて今まで来てる。最後には自分の腕と銃の撃ち合いがモノを言うんだよ」

「少佐……」

それは無人機が台頭してきた時代を生きている故に肩身の狭い思いを味わってきたパイロットの気持ちの吐露であった。オズマにとっては過去にバジュラに所属船団を蹂躙され、当時の愛機であったVF‐171の性能不足を嘆いたものである。その時の悔しさを今でも覚えているのだ。その船団にはランカが、その家族が乗っていたのだから……。



そして、フェイトの技量が一定の水準にあるのを確認したオズマは訓練を次の段階に訓練を移行させる。アグレッサー役となったオズマをアルトやミシェル、ルカと共に追う。

「アルトとフェイトちゃんは突撃して、隊長を追い込め、ルカは援護!俺は狙撃の態勢に入る!」

「了解」

「フッ。ヒョッコ共に遅れを取るほど俺は年くっちゃいないぞ?」



オズマのVF‐25Sに向けてそれ以外の機体が攻撃に入る。空戦技量を磨く訓練の一環であるが、オズマは連邦軍時代、エリート部隊に籍を置いていた経歴の持ち主。三対一でも若い連中には遅れを取らないとばかりに愛機ととともに空間を駆ける。


「うおおおおおおっ!!」


雄叫びをあげながら突撃をかますアルト。その攻撃を読んでいたかのように華麗に回避するオズマ。そして横合いから突撃を敢行するフェイトだが、オズマはそんなフェイトの考えを読み切っていた……。















――フロンティア軍は主力戦闘機の製造ラインを地球本星からの許可に則って、AVF世代の戦闘機に切り替えを始めていた。AVFとは、本来、次期主力可変戦闘機を指す単語だが、イサム・ダイソンが行った行為などが強く軍部に“強力すぎる戦闘機”と印象付けたため、この単語はVF‐19とVF‐22の両機種を指す意味で定着化した。そのためにこの両機種を使える事は、地球本星に“危険度高し”と認定されると同時に、これまでより高スペックの兵器が兵たちに与えられる事の2つを意味していた。


「おい聞いたか。19と22が解禁されたらしいぜ。それも一部部隊で使ってるモンキーモデルじゃねーぞ。本国仕様だ!」

「これでSMSの連中にでかい面されなくてすむぜ。何のために軍に入ったのか分らなからな」

「でも奴らはもっと新型を常用してるっていうぜ」

「フン。新型がモノになんのかね。カタログスペックが全てじゃないんだぜ」

それはVF‐25の事である。SMSの使う最新鋭機という事は知れ渡っているが、まだ正規軍では評価試験段階に留まっていた。そのためこのようにSMSに嫉妬する軍人も多かった。だが、いくら機体がハイスペックになろうが、それを使いこなせるかは人間次第なのだ。有頂天になるあまりに彼らはそんな当たり前の事を見失ってしまった。バトルフロンティアや護衛船団の空母機動部隊の搭乗員らはハイスペックモデルが与えられる嬉しさと、それでも装備面でSMSに追いつけない悔しさが入り混じった“嫉妬”をあちらこちらで見せていた。そんな彼らに与えられる翼であるVF‐19と22は物言わずに鎮座していた。その前途は明るいのか?それとも……。











――イサム・ダイソンは別任務である惑星に来ていたのだが、そこで自身がかつて出会い、友人になった人間の子がパイロットになった事を正式に知り、任務を早々と単機突入で終わらせ、フロンティア船団へ単独で向かった。


「へへ、アイツの息子がパイロットにねぇ。気になるし、いっちょ顔をみてやるとしますか。行くぜ、カワイイ子ちゃん!」

最新型のフォールドブースターを使って愛機でフロンティアへフォールドするイサム・ダイソン。相変わらずVF‐19系列を愛用するあたり、愛着が伺える。


――この時のイサム・ダイソンの愛機はVF‐19Aを更にカスタマイズした仕様。任務上の必要性から新星インダストリー社に怒鳴り込んで用意させた機体で、VF‐25Fの性能に近づけ、AIをかつてのYF‐19から流用させるなどして改造しまくっていた。イサムらしい改造なので、同僚に「お、おう」と引かれてしまったとの事。ガムリン木崎、イサム・ダイソンという連邦軍の二大エースがフロンティアを訪れるという、本来であればありえない光景がもうすぐ実現しようとしていた……それはバジュラを利用しているある船団の幹部らをも困惑させるほどだった。






――とある空域 

「何!?ダイヤモンドフォースのガムリン木崎だけでなく、あのイサム・ダイソンまでもがフロンティアに向かった?」

「ハッ」

「ううむ……奴らは片やバロータ戦役を生き残ったダイヤモンドフォースのトップエ―スであり、片やシャロン・アップル事件の時に試作機でマクロスの防空網をくぐり抜けたバケモノ……何か手立てはあるんだろうな、大佐」

「お任せください」

シェリル・ノームのマネージャーであるはずのグレイス・オコナーであった。彼女はある巨大な陰謀に一枚噛んでいた。通信しているのはその相手だった。しかしその彼らをも焦らせるほどのエースパイロットが二人もフロンティアに向かっており、一人は既に滞在中である。これは彼らとしても“ありえない最大級のイレギュラー”であったらしく、声に焦りが見受けられた。グレイスもお任せくださいとは答えるもの、空戦に持ち込んだら最新最強のゴーストV9を鎧袖一触で撃墜できるほどの技量を持つとされる、宇宙軍内で10指に入るエースパイロットに対してどう対応すればいいのか。彼女とて中々対応策を見いだせそうに無かった。特にイサム・ダイソンの技量は可変戦闘機乗りの間の最高の名誉“ロイ・フォッカー勲章”を何度もさらっていったとして、ロイ・フォッカーなどの古参の名パイロットらから高い評価を受けているのだから、尚更であった。

――こちらのVF‐27を使おうともその二人の前にはまとめて落とされかねない。“ブレラ”でも勝てる保証は無いだろう。ゴーストをユダシステム起動状態で差し向けるか……?

グレイス・オコナーが大佐と呼ばれた訳、そして軍人のような思考をするのは彼女の出身船団と関係あるのかも知れない。が、それが明らかになるのはまだまだ先の事だった。



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