――さて、マクロスフロンティアにて、勃発したバジュラとの戦い。フェイトと黒江はSMSに帯同する形で可変戦闘機乗りとしての訓練を受けつつ、自分たちの本来の職業に応用する空戦機動を模索していた。


「うぅん……勝てると思ったんだけどなぁ……」

「私もだ」


「フッ、まだまだだぞ二人とも。もっと腕を磨け」

「はい」

この日の午後、オズマはフェイトと黒江を敵に回しての模擬戦に付き合っていた。結果はオズマの勝利。性能差だけではなく、腕の差がハッキリ出たわけである。フェイトは新たに受領したVF-22のハイパワーに振り回されているというのが実情で、黒江もVF-19Aのパワーを制御しきれていない感がある。模擬戦を通してオズマが抱いた感想は“カンはいいが、戦闘機乗りとしてはまだまだ”である。もっともオズマも軍時代の先輩である撃墜王のエイジス・フォッカーからはいつまでたっても“ヒヨッコ”扱いされているのだが、それは後輩達には内緒だ。クォーターへ帰還し、着艦する。








――マクロスクォーター 格納庫



「ご苦労さん」

「お、ミシェル」

ミハエル・ブランが格納庫で休む二人へジュースを差し入れする。黒江はフロンティア船団に生活する内に身長が“成長”したらしく、160cm台前半へ伸びていた。(これは彼女が元々長身なためと、肉体が成長期に戻っているため。そのためパイロットスーツを新調したらしい)フェイトもいよいよ本格的に成長期に入ったらしく、背丈が少しであるが大きくなっていた。



「あれ?お二方、身長が伸びた?」

「成長期だかんな。もっともフェイトと違って私は二度目だが」

そう。黒江は元々、身長170cmの長身であった。1940年代でその長身と言うことは未来の食事を以てすれば更に伸ばせるのだ。その成果か、来た当初からは既に3,4cmほど伸びていた。

「本来なら大尉は23でしたね」

「そうだ。本当は実年齢と大きく離れてるんだぞ、この姿。もっともこれはこれで楽しんでるが」

そう。肉体年齢が14歳を迎えようとしているこの時期の黒江は成人基準年齢が地球本国より若いフロンティア船団の基準を当てはめた場合でも、“未成年者”に分類される。酒が飲めない以外は大人の時より得する事も多く(公共交通や映画料金が子供料金、銭湯の風呂代も安い)、当初は子供扱いに憤慨していた彼女だが、“二度目の青春”と割り切ったらしく、最大限活用する方向に舵を切ったらしい。

「いい線いったほうですよ。アルトのやつなんか最初はオズマ隊長にあしらわれてたんですから」

「これでも私はウィッチとして10年近く第一線で飛んできたからな。だけど戦闘機ってのはやはり勝手が違うよ。レシプロ機なら昔乗った経験があるが、ジェット機はなぁ」

ミシェルにウィッチとして空を飛ぶのと、戦闘機乗りとして飛ぶのでは色々と勝手が違うことを示唆する。戦闘機は戦闘機でまた空戦機動を覚えないといけない。ましてジェット機はレシプロ機と勝手が違いすぎる。可変戦闘機なら尚更だ。

「レシプロ機に乗った経験が?」

「私がウィッチとして現役の頃は一式戦闘機の隼と二式単座戦闘機の鍾馗が第一線機でな、ユニットが使えない時はそれで戦った事が数回ある。私が編隊空戦を重視するようになったのはその経験もある」

黒江は現役当時にやむ無くレシプロ戦闘機で空戦を行った経験がある。欧州では編隊空戦を覚えないと生き残れない事が多かったため、黒江は遅くとも1940年ごろには編隊空戦重視派になっていた。

「日本の軍人ってドックファイト至上主義なイメージあったけど、驚きですね」

「ドックファイト偏重だったのは海軍の話だ。ゼロ戦が第一線に出てからそれが強まったと思うんだが……そうか。後世から見るとやはりそうなのか」

黒江は陸軍飛行戦隊の人間である。勘違いされやすいが、陸軍は編隊空戦を重視していた。これは陸軍がヨーロッパ最強レベルの空軍だったドイツを手本にして戦技に取り入れたからだ。身を以て体験した損害と引き換えであったが、陸軍飛行戦隊が海軍航空隊のような大敗北の醜態を見せる事は少なかった。が、軍が崩壊した戦後から見ればどっちも同じという事にはショックなようだ。

「なるほど。歴史家はともかく、一般人は結果だけ見ますからね……ましてや負けてるとね」

ミシェルは黒江の戦後の日本の軍への一方的評価への憤りに同意を見せた。最近では再評価の動きもあるが、一般人の評価は陸軍<海軍なのだ。長年の間に確固たる評価として築かれてしまったこの評価は専門家はともかく、一般人の評価までは変わらないのがよく分かる。

「勝てば官軍負ければ賊軍ってか……」

黒江はこの世界での1945年以前の日本の評価の風潮に疑問視しているようだ。もっとも軍を擁護するわけではないが、先祖の行いを否定する風潮に嫌気が差しているのだろう。それが分かった。

























――さて、クォーターでマジンカイザーの解析を終えた兜甲児はジェフリー・ワイルダーに報告していた。


「マジンカイザーの内部構造はグレートマジンガーと同等レベルにまで進化していたと?」

「そうです。ゲッター線の作用がそこまで及んだのでしょう。ルーツもわかりました。これは10数年前におじいさん達がプロトタイプのマジンガーZを作っている時の写真がこれですが、少なくともこの内のどれかが進化したと俺は考えてます」

甲児は父から受け取っていた、祖父らがマジンガーZの開発を始めた時の写真を見せる。Z以前にプロトタイプを数機ほど作っていたらしく、幾分か旧態依然とした姿の機体と、Zの半分ほどの大きさの機体の姿が見える。


「これらのロボがZに至るまでのプロトタイプかね」

「そうです。小さいのがアイアンZ、Zにより近い姿なのがエネルガーZです。父の予測では実験で中破して放棄されていたエネルガーがゲッター線の作用でカイザーへ進化したのではないかと」

マジンカイザーのルーツ。それはプロトタイプが何者かの意志とゲッター線によってあの姿へ変貌したという予測。マジンカイザーは一見してグレートマジンガーの発展形に見える。それほどの進化をゲッター線によって行った。それも発見されるまでの長い年月の間に。これはゲッター線が機械をも進化させられる事の裏付けといえる。


「それでカイザーの性能はどのくらいかね」

「グレートマジンガーの有に10倍、ヘタすれば20倍。真ゲッターロボと同等レベルです。武器の破壊力も超合金ニューZを一撃で粉砕できます」

甲児は地球で行ったカイザーの性能テストの結果を告げる。空を飛べないのを除けばカイザーは最強のマジンガーに相応しい性能を備える。空は追加装備として、光子力研究所が建造した“カイザースクランダー”でカバーできるようになった。宇宙も同様だ。

「バジュラの甲殻でも撃ち抜けるのかね?」

「問題外です。どんな金属でも、宇宙怪獣の甲殻も一撃で貫けるんですからバジュラの甲殻なんて」

そう。マジンカイザーのターボスマッシャーパンチは宇宙怪獣の最も大型の種類の甲殻を薄紙のごとく撃ち抜けるのだ。そのためバジュラといえどマジンカイザーの前には敵ではないということだろう。

「正に魔神の中の王だな…」

ワイルダーはカイザーの秘めた恐るべき威力に感嘆する。カイザーはこれまでのスーパーロボットの常識を超越した存在であり、戦略級の威力を誇る。それは下手な核兵器やフォールド兵器以上に人類の手に負えるか不明な代物である事を暗に示している。


「ええ。Zはおろかグレートも問題にしない。だから“皇帝”なんです」

「皇帝、か……君のおじいさんはその出現を予期していたのかね?」

「ええ。亡くなる前に“いずれの時に神を超え、悪魔も倒せる魔神が現れる”と言っていたようです。これは弓教授から裏付け取ってあります」

ワイルダーに皇帝と呼ばれし最強の魔神の出現を兜十蔵博士は生前に予期したかのような発言を残した事を甲児は告げる。

「そうか……カイザーの投入はいつ頃からできるのかね」

「あと3日でスクランダーのエンジン換装が終わります。それが終われば」

「了解した」


カイザーの飛行オプションであるカイザースクランダーはZが使っていたジェットスクランダーと同じ系統のオプションだが、性能が段違いである。最大パワーでは真ゲッターと対等のスピードを叩きだす。つまりは光速。それを実戦で初使用するのだ。甲児は内心、
Zを遥かに凌ぐ力を扱うことに不安を感じつつも、バジュラという敵への戦意を新たにした。












――先程から10分後の格納庫

「これがマジンカイザーのオプション装備……悪魔の翼みたい」

フェイトはふと、格納庫からクォーターに間借りして用意してもらった部屋に戻る途中で格納庫にデーンと置かれたカイザースクランダーに目を奪われる。

「ヒーローロボにありがちな配色だな……俺達もある程度目立つ色してるが、これは……全く考えてないな」

「甲児さんの話だといくら当たってもいいそうです」

「スーパーロボだから許される事なんだろうね」

「たぶん」

ミシェルはスーパーロボの“超頑丈な装甲と火力”が羨ましい反面、敵の標的にされる側面もあるためか、自分は乗りたくないらしい。と、いうよりは自分に過ぎた力を嫌っているような節もあった。格納庫に鎮座する、モノ言わぬ魔神の翼はその絶対的な力を象徴するかのように、今はただ翼を休めていた……。









――クォーター 黒江の自室 

「さて、と。今日も一発トレーニングでもするか」

黒江はこの頃には完全に未来での生活に慣れたようで、この時代に生きる若者と同様の家財道具一式や趣味の品が所狭しと置かれていた。釣竿にオーディオ機器、TVゲーム機のセット一式など、意外に順応は速いようだ。これは彼女がウィッチとして、欧州の地で戦っていたからかもしれない。腕立て伏せなどのトレーニングを音楽と共に行う。バックミュージックはシェリル・ノームやランカ・リーのシングル、それとFIRE BOMBERのベストアルバムだ。シェリルとランカについては、彼女らと親しいためであるが、FIRE BOMBERについては完全にオズマに乗せられた感があるが、聞いてみると意外にイケるらしく、オズマのつてで今では、全ベストを買い揃えていた。

「なんかオズマ少佐に乗せられたって感じだけど……意外にしっくりくるな」

この頃から黒江は少しづつ言葉使いや気質が現在人に近くなり始めていた。その証拠にロックやポップスと言った未来の音楽に抵抗感を感じなくなり、馴染んでいる。未来に派遣されたウィッチの中には時代が数百年違う故に、文化の違いに戸惑うケースも多いのだが、黒江は元々、順応力の高い気質であったためにカルチャーショックにもめげずに頑張ってるのである。この時から口調も最初にこの世界に来た時に比べ、だんだんと現在人ナイズされ初めていく事になる。

























――同時期 地球

ハワイ攻略まであと2週間に迫ったある日、なのはは剣の修行を開始していた。これはレイジングハートに組み込まれてしまった剣形態を使いこなすためで、体づくりから始めていた。

「五一……ご、ごじゅ……」

まずは腕立て伏せである。ロンド・ベルには軍人の中でも精強な連中、そもそも“人外ってくらいおかしい”連中が複数在籍する。これは複数の戦の結果で、その結果、軍内では“わけがわからん連中はロンド・ベルに送っとけ”なる評判とか。……はさておき、なのははそんな連中らに体を鍛えられていた。彼女を今、見ているのは智子である。


「ごじゅ……に!」

なのはは汗だくである。運動神経赤点な小学生に腕立て伏せを50回以上やらせる智子も酷なようだが、剣を振るうのにも体が資本である。剣は普通、子供では持てない重さだ。ウィッチらが普通に刀を持っているのは戦闘時は魔力で、通常時は日頃の鍛錬の成果である。しかしなんだかんだでこの数ヶ月間、鍛錬した結果、腕立て伏せを30回程度はこなせるようになり、その他の訓練でかなり基礎的体力は鍛えられた。52回目でなのはは崩れ落ちた。ここが現在の限界点という事だ。

「15分の休憩の後、木刀の素振り100回よ」

「は、はい!」




子供だからと言って手加減せず、厳しい訓練を課す智子だが、休憩時間の配分もきちんとしているあたりは鍛錬の限度を小心得ている。地味なようだが、飴と鞭は結構重要な要素である。なのはが休憩の後、木刀の素振りのために別室に移動するのを見たスバルはばったりと会ったブライトと雑談に入った。

「ブライト艦長、なのはさんの特訓の事をどう思いますか?」

「中尉は厳しいようで、なのはの歳の体での鍛錬の限度をよくわきまえてる。スポーツのコーチに向いているよ」

ブライトは30代前半ながらも既に年頃の子を二人持つ父親である。一年戦争時から彼の艦には年少者が多い故か、否応なくリーダーシップを発揮せざるを得ない状況が多かった。その結果、30代前半で既に大佐の階級にいる。ブライト自身、激戦を生き抜いてきたためか実年齢より老成している節がある。そのため最も古い戦友であるアムロからはからかわれているとか。

「ブライト艦長はハンバーガーが好きなんですか?さっきから自販機で3,4個くらい買ってますけど」

「艦隊司令にもなるとゆっくり食事できないのさ。食堂にもおちおち行けないからな。トイレ行ってても戦闘開始の伝令受ける事あるからな、ウチの場合は」


ブライトは一年戦争以来、艦艇を率いる立場である。そのため多忙を極め、きちんと食事ができることは少ない。そのためいつしかバーガーを好む様になったのである。

「ハンバーガーは手っ取り早く食えるからな。個人的にはマ●クは不味いと思う。」

この時代でもアメリカの某大手ファーストフードチェーンは健在なようである。スバルは嬉しいような悲しいような微妙な気持ちであった。大飯食らいである彼女もなのはの地球に一度行った時に食べたらしく、ブライトの評価に同意した。ブライトも部下相手にこうした何気ない、砕けた会話ができるようになったという点では以前より彼も成長したと見るべきだろう。この光景を目撃したアムロは感慨深い気持ちで、そっと一部始終を見ていたとか。

























――この時期はフロンティア船団の状況が本国に通達され始めた時期である。本国はかの船団にVF-19と22、つまりAVFの製造を解禁させた。これは議員内の国防族の筆頭で、ロンド・ベルの政治的後ろ盾となっているジョン・バウアーの働きかけによるものだった。


――オーストラリア アデレード 臨時議会

「バウアー、いいのか?あの船団にAVFなど許可して」

「現地部隊の士気に関わるからな。SMSばかりに頼っていては軍の沽券に関わる。だからだよ」

ジョン・バウアー議員はAVF製造をフロンティアに解禁させた理由を同期の議員に説明する。民間軍事会社であるSMSを利用して新型機の実験を行わせているが、船団の軍の実戦部隊のVF-171の損耗率が高いという事実は兵士から“もっと強力な機体おくれ”という要望が相次ぐのは当然だった。が、本国でさえ最新型の24/25は配備が進まず、ロンド・ベルにさえ配備されていない。そこで白羽の矢が立ったのは既に実績もあり、生産設備も、機種転換訓練も比較的楽なAVFであった。

「171は確かにAVFや24系列を除けばいい機体だ。……が、バジュラは強い。だからアレが必要になったんだろう。与えてやれば、本国の移民船団に対する求心力も上がる。既にギャラクシーは本国から離反しているという未確認情報もあるからな」

「本当か?」

「私がVF-Xレイブンズを使って独自に調べさせたからな。だからイサム・ダイソン大尉のフロンティア行きを認可したし、7船団にもガムリン木崎大尉を熱気バサラの捜索とを兼ねて派遣させるように要請した。フロンティアのあの若造の思惑を逆に利用してやったのさ」

ジョン・バウアーは議員歴もそこそこ長いながら、異例なほどに行動的な議員である。旧・エゥーゴやカラバの実戦部隊をまるごとロンド・ベル隊として正規軍に帰属させた立役者も彼である。そのため何気にブライトと懇意である。そのためゴップからは国防族(軍出身、内閣の軍事官僚、国防大臣経験者らの総称)の重鎮の中で一番使えると認定されている。

「ああ、あのキノコ頭の若造か」

「そうだ。手玉に取ったつもりだろうが、その逆だ。レイブンズにやつの策をご破算にさせるように動くようにレビルを通して通達させた。これでSMSは勝つだろう」

ジョン・バウワーは「ニヤリ」と笑う。その笑いの意味は何か。それは彼のみぞ知ることである。そして彼必勝の策とは?窓際で談笑する彼らの上空を一機のVF-19Aが通過する。地球で機材受け取りのために帰還していたVF-Xレイブンズの所属機体だ。

「あれがそうか」

「そうだ。彼らに波動エンジン空母を与えた」

「戦闘空母か」

「そうだ。ここからだとウラガ級ではフロンティアに追いつけんからな。実験的に格納庫面積を二層にすることで拡大した艦だ」

なんとも用意周到である。波動エンジン艦ならすぐさまフロンティアに追いつき、バジュラ相手でも優位に戦えるからだ。これが彼がSMSに向けて用意した“餞”。そしてレイブンズのエースはオズマの先輩であるエイジス・フォッカー。事態は彼、ジョン・バウアーの策略によりさらなる動きを見せていく。ハワイ沖海戦より実に2週間前の青空の映える日、連邦の精鋭部隊の中でも高名な、VF-Xレイブンズはレビル将軍とジョン・バウワーの命を受けて、新たに彼らに配備された主力戦艦改級戦闘空母乙型第一番艦「ギリアム・アングレート」とその姉妹艦らを母艦に、発進して行った。フロンティアに先立って送り込んである偵察艦に情報収集をさせ、本隊が後から合流するという寸法だ。
























――ギアナ高地 

「レビル将軍、バウアー議員の提案を飲んで良かったのですか?」

「彼には借りがある。議員の中ではゴップ提督やドーリアン外務次官と並んで私が信頼する人だ。ギャラクシーの陰謀とフロンティアのあの、きのこの山みたいな頭の若造……名はなんと言ったかな」

「ハッ、レオン・三島首席補佐官であります」

「奴のような青二才にフロンティアを好きにはさせん。SMSを援助する手立ては?」

「既に整えつつあります」

「ご苦労」


レオン・三島の野望は既に本国に筒抜けであった。こうしてフロンティア船団は地球本国とギャラクシー船団の策謀の舞台となったのである。



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