IS学園編




−IS学園がナチス・ドイツ残党に襲撃されてからおよそ数ヶ月が経過した。秋の装いへ世の中が移行し、生徒の制服も長袖に衣替えしていた。すっかり平和を取り戻したに見えたIS学園であるが、依然として篠ノ之箒は帰っては来ていなかった。そんな中、学園の面々はある一行と出会う。それは仮面ライダーBLACKRX=南光太郎と穴拭智子、加東圭子であった。彼女らは戦後、箒の故郷を探すためにひと肌脱いでおり、12回めの散策で本命にぶち当たったのである。


「ここがあの子の故郷の世界か……」

「そういえば、ライドロンをどこに置いてきたんです?」

「それは秘密だよ」

南光太郎は宇宙戦艦ヤマトが暗黒星団帝国と戦闘に入った2201年時点では、クライシス帝国との戦いが激烈を極めるもの、その傍らでフェイト・T・ハラオウンと共同作業で並行時空の調査を行なっていた。元々彼の愛車「ライドロン」は怪魔界への出入り可能なほどの能力を備えており、その能力は今や応用され、今では並行時空への調査にも使われている。そして黒江の命で調査を行なっていたフェイトからの連絡でRXが箒の故郷の調査に赴くことになり、(フェイトは高校の中間試験で行けないとの事)それに休暇を取った智子と圭子の両名がついでに彼に同行(半分無理やりであるが)した形である。

「箒の話だと、この4人が幼なじみと一緒にいるようね」

「へえ……その男の子が例のアレ?」

「そう。アレよ」

「なんか楽しんでないかい、2人とも」

「いえ、別に♪」

「声が弾んでるよ」

「そうですか?」

智子は軍服のポケットから写真を取り出す。それは箒が転移時に持ち合わせていた唯一の幼なじみや旧友との写真であった。それが光太郎たちにとって唯一の手がかり。学園に出入りするべく、手段を模索するが……曲がりなりにもIS学園は一応学校、しかも女子高(織斑一夏除き)である。学園の関係者でもない上に、男である南光太郎が入るのは些か無茶(以前の風華学園の例があるので、光太郎自身は意気揚々と行こうとしたが、智子と圭子に止められた)なので、ここは女子陣の出番。念のためドラえもんがもたらした「オールマイティーパス」(ドラえもんは道具と技術を提供していたので、それからサルベージされた道具。ただしオリジナルが効用が一ヶ月程度であったのに対し、サルベージし、復元された版は三ヶ月ほどの効果がある)を携帯し、軍服姿のままでIS学園に侵入(一応見学という名目ではあるが)

(さすがに軍服はまずかったかな?)

(当たり前よ。学園の連中にとっちゃあ、旧日本陸軍の軍服なんてまず見ないんだから。それに陸軍悪玉論の影響で不快感が埋めつけられているんだから、ミリオタのKYって思われても仕方ないわよ)

そう。大日本帝国は多くの並行世界で、ナチス・ドイツと共に、無条件降伏の道を辿った。その後の日本陸軍は人々の迫害の対象となり、自衛隊設立後も、長らく正式な再軍備を阻む根拠として存在した。この時、2人は服の持ち合わせは軍服と戦闘服しかないのでしょうがないといえばしょうがないのだが、時代錯誤的な軍服は学園の生徒達にとっては奇異に見えるらしく、どことなく視線が痛い。自衛隊の制服ならいざ知らず、彼女たちにとって滅んで久しいはずの帝国陸軍の軍服であるのは、時代が時代なので、『公の場で痛いコスプレをしている人間』としか見えない。智子は努めて、この時代の人間のフリをした苦労の甲斐あり、写真の人物の一人とうまく鉢合わせすることができた。食堂で食事をとっている一人の学生がいた。金髪ショートカットの少女。名をシャルロット・デュノアという。智子が箒の戦友面々の中では、比較的、とっくみあいやすい性格のシャルを智子が選んだのは、箒からあらかじめ情報を仕入れておき、『冷静に話を聞いてくれそう』なメンバーを選んだからである。これが鈴やセシリアであったなら話が途中でこじれ、下手をすれば交戦に入ってしまう事も考えられたからだが、ラウラでは誤解を招く可能性があり、消去法でシャルに白羽の矢を立てたのである。

「……シャルロット・デュノアさんですね?」

「は、はい。そうですけど……?あなたは……?」

「私は篠ノ之箒さんの知り合いです。箒さんの事でお話があります」

「え……?どういうことですか!?彼女の事を知ってるって……本当ですか」

「ええ。私たちは嘘は言いません。第一、嘘を言う理由がない」

「その恰好は?第一、それって昔の日本軍の軍服ですよね」

「そのへんは説明すると話は長くなりますが、とりあえず、単刀直入に言います。箒さんは無事です」

智子はシャルにズバッといった。智子のストレートな物言いにシャルも嘘ではないことを悟ったのか、いつの間にかまじめな姿勢になっている。智子が長年鍛えた扶桑軍人としての眼光がここで役に立ったのだ。

――シャルは智子に対し、『箒とは違った感じの日本的な美少女』といった印象を抱いた。かつての日本軍には女性軍人など創立から滅亡までの70年間、一時も存在もしなかったが、もしもいたのなら、こんな感じであっただろう。



「彼女はいったいどこに?」

「日本にいます。ただしこことは違いますが」

「こことは違うって?」

「SFの平行時空という概念は知ってますね」

「SF映画でたまに見るアレですか?」

「はい。論より証拠、これを見てください」

智子は食堂に自分たち以外誰もいないことを確認すると、ドアをすべて閉めたうえで日本刀を取出し、使い魔の耳と尻尾、魔法陣を展開する。これは智子のとっておきの手段であるが、目の前で魔法じみたことを行われては、目を白黒させる以外の事は出来なかった。やがて、日本刀も青白い光に包まれる。シャルは智子の体に出現した、それを半信半疑で、おそるおそると触ってみる。

「ほ、本物だ……あなた達はどうしてこんなことができるんですか?」

「私は魔女です。ただし、あなた達のよく想像するやつとはちょっと違うけど」

やがて、何事もなかったように動物の尻尾と耳は消え、日本刀からも光が消える。中世に信じられていた魔法陣をまざまざと見せつけられては、シャルは半信半疑ながらも、受け入れざるをえなかった。

「ふう。これで信じてもらえたかしら?」

「は、はい。たぶん」

「それじゃすべてを話すわ。心して聞いてくれる?」

智子の口調が形にはまった軍人言葉から、友人同士で話す、フランクなそれに変わる。受け入れられた事を確認できたので、警戒を解いたのだ。この時、内心で、「鉢合わせしたのがシャルでよかった」と胸をなでおろしたのであった。圭子は外からその様子を確認するとウィッチ用の無線機で南光太郎へ報告する。

『光太郎さん、智子が接触に成功しました』

『分かった。他に何か動きがあれば教えてくれ』

『分かりました』

圭子はIS学園の各施設の様子を偵察しているので、智子とは別行動を採っていた。こういう時はアフリカ戦線で鍛えた写真の腕が発揮される。一瞬でシャッターチャンスをモノにし、目にも留まらぬスピードでカメラをポケットに仕舞う高等技術で、デジタル的な各種妨害とは無縁のアナログ式フィルムカメラに納めていく。そのスピードは剣術の達人の居合並の凄まじいものである。軍人である以上は一瞬での判断がモノを言う。万が一誰かに声をかけられた場合の言い訳も考えてある。圭子は安全を確認しながら歩を進めた。






――智子から、とりあえずの真実を知ったシャルは箒が凄い状況に置かれてしまった事に驚愕した。


「ええ!?軍人に?」

「ええ。こっちは戦時だったし、赤椿を政治家たちとかに利用されないようにするにはそれしかなかったの。アレは色々と目をつけられやすい材料だったしね」

智子は2201年現在の箒の現況をシャルに伝える。智子によれば箒は『自分と仲間の手引きで戦時任官で軍人となっており、そうすることで政府や各部署の魔手から『保護』されている。現在は終戦により予備役となっており、宇宙開発関連の研究所で仕事をしている』との事である。

(ラウラも軍人だけど、ラウラは職業軍人だし、その辺が違うんだよね?それに軍人になったら最前線に送られることが多い……よく生き残ったなぁ)

シャルは漠然と聞いているが、軍人ともなると、戦時には最前線に送られる事がままある事はわかっている。智子の話によれば箒もその例に漏れず、最前線に送られたようだ。しかしそちらでは未知の機械であるISをそのまま使わせるとは、どういうことなのか。普通なら解析でもされそうなものだが。

「なんで箒は赤椿をそのまま使えたんですか?解析でもされそうな感じが」

「修理保守のためのデータ取りは一応やったみたい。それで兵力不足とかの問題もあってそのまま実戦で使われたのよ。それにここから盗まれたっていうISの事もあったし」

「な、なんでその事を!?」

シャルは驚愕した。ISがナチス・ドイツの生き残り達にまんまと盗まれた事はIS学園の間でも箝口令がひかれているはずで、いくら箒と行動を共にしていたといっても、箒はその場にいなかったはずであるし、学園内部で起こっていた事は知る由もないはずだからだ。だが、智子はその事への回答をシャルに告げる。

「実は箒はそのナチス・ドイツ残党の大元の爆撃機と戦ってたのよ、外で」

「ええっ!?でもそんな事があればすぐにニュースになりそうですけど」

「……日本政府の隠蔽か。懲りないわね奴らも」

シャルの言葉から、智子は事の全てを悟った。箒が戦った飛行要塞グールの事は日本政府自らのメンツ的な問題で隠蔽され、ニュースにもなっていない事を。事実を公表することで自衛隊批判に漕ぎ着けようとする革新派の野党や国民の批判を受け、政権の瓦解が起るのを避けたのだろうが……。


――箒の話だと、マジンカイザーや自分が赤椿で戦闘に入るまでかなり大規模に爆撃を加えていたはずだって言ってたはず。すると爆撃を加えられた地域はどうなったの?政府が棄民したっていいレベルよこれは!

智子は内心、この世界の日本政府に憤慨した。戦争を避けるためには国民さえ犠牲にしても構わないという姿勢は軍人である智子には我慢できなかったのだ。目先の安全しか考えられない者たちは他者を平気で切り捨てる。平和に慣れきっている戦後の日本政府ではしょうがないところもあるが、これは限度を超えていた。だが、智子も軍人の端くれ。こういった怒りの感情は心の中に仕舞い、あくまでシャルの前では冷静に振る舞う。

「箒は戦っていた敵の司令官直々に「学園を制圧していたって言われてる。それで知ってるのよ。で、『ISの一つや二つは盗まれてるかも知れない』と推測してたけど、これで裏が取れたわね」

「アイツらは一体何者なんですか」

「何の変哲もないナチス・ドイツの生き残りよ。初志貫徹で生き残った、総統閣下の置き土産。それでいて、『神に愛されし者』でもある」

「で、でも、今の時点で第二次大戦から100年近いし、そっちはもう数百年単位経っているはずですよね、どうして……!?それに、神に愛されし者って?」

「ナチス・ドイツがどうしてあんな馬鹿げた戦争を始めたのか。全てはあのちょび髭伍長閣下の裏にいた黒幕に原因があったのよ」

「ヒトラーの裏?」

「ええ。だけど、あの人に戦争を唆した存在が別にいたのよ。ヒトラーはそれでオカルトオタクだった」

「そのヒトラーを唆した奴の名前は?」

「JUDO。あたし達はそう呼んでる」


それは全並行時空に共通する、第二次大戦の隠された真実。アドルフ・ヒトラーは後世では『国を破滅に追い込んだ、ゲルマン民族優越思想に染まった狂気の男』という評価が定着しているが、当時のドイツ国内では、経済を立てなおし、ドイツを再び世界に冠する国家に返り咲かせたとの評があった。それはプロイセンに範を発する第二帝政が瓦解したことへの国民の失望と巧みな演説により、カリスマ性を備えるように演出してみせたヒトラーへの期待感が第3帝国の勃興を許した。だが、その勃興の陰にある存在がいた。それは仮面ライダー達が戦うことになる歴代の暗黒組織の大首領。彼は暗黒組織を作る前、一国の軍事力での世界征服を目指し、画家崩れで第一次大戦の際に軍人であったヒトラーに目をつけ、ヒトラーをお告げのように導きながら、ドイツの科学力を1930年代当時の水準では「一歩進んでいる」ところまで向上させ、そして味方としてイタリアと日本を使うことを決意、特に日本の場合は念密に行い、政府の外務関係の役人や陸海軍の権力中枢にいた一部の軍人達を唆し、開戦を決断させた。何故、日本においてのみヒトラーに行なった以上に、『事』を念密に行ったのか?ある一つの理由があった。それは彼にとってイタリアは過去に「ローマ帝国」を作った養豚場であり、日本は全世界で最も尊い聖地であったからだ。日本は大首領、いや、JUDOが太古の昔に仲間と共に地球で最初に降り立った最初の地であり、それは現在の島根県当たりに相当する。そこで神話を作らせ、その地を「ヤマト」と名付けた。その意思を伝えていた代行者の一人が、かの「卑弥呼」であり、治めていたのが「邪馬台国」であった。日本は聖地故、邪馬台国が滅んだ後もJUDOは比較的自由に文明を発展させてきた。それでアドルフ・ヒトラーを唆し、間接的に自らの手足となるナチス・ドイツを樹立させた時に日本と組ませる事で戦争を起こし、人間の文明を発展させた。第二次大戦後は文明がある程度のレベルに達した、暗黒組織が尽く倒されたなどの理由で鳴りを潜めていたが、21世紀頃から少しづつ活動を再開。仮面ライダー達と闘いつつ、ナチス・ドイツ残党を束ね、22世紀にバダン帝国として、本格的に行動を始めたというのが経緯である。


「奴は22世紀でも健在で、この世界で開発された兵器のISに興味を示した。それで似たような目的を持つ奴らと手を組んでISを配下に盗ませたのよ。盗ませたモノを山分けしてね」

「打鉄が盗まれたのはそのためだったんだ……でもなんでラファール・リヴァイヴじゃかったんだろう」

ISは訓練用の日本製IS「打鉄」を2機ほど盗まれたが、不思議ともう片方のラファール・リヴァイヴには手がつけられていない。性能はそちらの方が高いはずだし、設計的にも完成度が高いはずだとシャルは疑問に思う。

「設計的に完成度が低いほうが色々やり易い時もあるのよ。例えばゼロ戦なんか初期の二一型の完成度が完璧すぎて、改良のつもりが三二型とかで改悪になったと言われたけど、設計的に完璧じゃないほうが色々と弄り倒せるから、その点を考えたかも」

「なるほど……」

「それじゃあたしはいくわ。今日は一応見学の名目で来てるし」

「あ、そうだ。学園祭のチケット渡しときます。これで学園祭に一般の人でも入れますよ」

「一般解放ってわけじゃないのね」

「ええ。ウチの学園祭には企業とか軍の人間もかなり来ますからその関係もあるんです」
「ややこしいわね……。ん、そうだ。箒から織斑一夏くんに一言伝えてくれるように頼まれてたんだった」

「な、何をです!?」

その言葉に反応し、狼狽するシャルだが、智子はからかうような笑顔でシャルの心配を晴らしてやる。

「なんだそう言うことか……」

安堵するシャル。これで智子は一夏に「ははーん、これは女殺しの線アリね。箒のやつ、素直じゃないんだから」との印象を持つようになる。箒の恋心に気づいているのでなおさらであった。

智子はシャルに伝言を託すと名目上の目的のため、その場を離れた。だが、その会話は凰鈴音とセシリア・オルコットに聞かれていた。

(あいつ、箒の事知ってるって言ってたわよね。何者?それになんで軍服なのよ)

(あれは自衛隊の制服じゃありませんわ。大昔の旧日本帝国陸軍のモノですわよ)

(見りゃ分かるわよ!!コスプレだが知らないけど、追いかけるわよ)

(了解ですわ!)

……と、尾行するが、プロの軍人である智子は気づいていた。

(尾行されてるわね。あれは噂の『鈴』と『セシリア』……面白いし、しばらく2人につきあってやるか)







この時、学園へ潜入した2人は万が一を考え、ストライカーユニットを持ち込んでいた。機種は扶桑軍最後にして究極のレシプロストライカーユニット「烈風」である。海軍にいる戦友らに頼み込む形で先行配備機をちょろまかしたのであるが、後期試作機が基になったので、ハ43を積んだおかげで零式を超越する速度を発揮し、紫電系統や疾風を超える総合性能を発揮する。主要武装は紫電系統で用いられている、99式20ミリの最終改良型を流用してはいるもの、紫電系統よりも余剰馬力が増大したので、ウィッチの魔力によらず、一定の防御力は確保された。無論、彼女らは陸軍軍人であるので、陸軍機を選ぶこともできたが、疾風の性能向上型の開発が遅延しているため、現有戦力では長時間の実戦運用可能なストライカーユニットの中ではその最新型である「烈風」を選んだのである。

「シャルからチケットもらっといたわ。これで学園祭に入れるわよ」

「でかした智子!これで万が一の時にも動ける」

「問題は今日の寝床よ。ライドロンで野宿はごめんだからね」

「光太郎さんが市内のホテル予約しといたって。そこで対策会議とかやりましょう」

学園を出て、ホテルへ歩きながら雑談を楽しむ2人。だが、それを監視する一つの陰があった。バダン帝国の要塞であり、それと半ば一体化した、バダンの大幹部「暗闇大使」であった。彼は過去、ZXに影武者を倒させ、安心させる一方で自らは力を蓄え続けた。そして今、大首領の命を受け、IS学園に更なる混乱を齎すべく行動を始め、2201年から彼女らを監視しているのである。

「フム、小うるさい娘どもが南光太郎と共に動いておるか……やってくれるな、三影……」

「ハッ」

暗闇大使の傍らに立つのはかつて仮面ライダーZX=村雨良に倒されたはずの三影英介=タイガーロイドであった。彼はZXに倒された後も脳髄は尚も生き続けており、新たな肉体に移し変えられ、復活を遂げていた。パーフェクトサイボーグとなった彼は新たな姿となっていたが、人間体は`まだ`比較的、以前の風貌を残している。彼は仮面ライダーという存在との再戦を望んでいる。それを勘案しての事であった。彼は要塞「サザンクロス」から外に出、いざ、IS学園のある世界へ向かった。それはバダンの本格的な再動を示す事実であった。



――こちらはIS学園。シャルロット・デュノアは智子から知らされた事は胸の奥にしまい込んでおくつもりであったが、智子達を尾行しようとするセシリア・オルコットと凰鈴音の姿を確認した。

「あれはセシリアと鈴……何やってるんだろう」

2人の視線の先には智子とその仲間らしき少女の姿があったが、智子は見かけの年齢とは不釣り合いな実年齢を明かしていたので、智子の友人もそうであると思われる。シャルは智子の『若々しさ』に憧れを抱いた。


(羨ましいなぁ。私達とほとんど同じくらいに見えるのに成人してるなんて……どうやったらあんなに若く見えるんだろう)

実際は『見かけと同じ肉体年齢にタイムふろしきで戻っている』という超がつくほどの反則技を使っているだけであるが、シャルはその事を知る由もないので純粋に憧れを抱いている。最も21世紀頃にどう見ても小学生にしか見えないのに実年齢は壮年と思われる「月詠小萌」(つくよみこもえ)(御坂美琴の想い人の上条当麻の高校の担任教師である)の事例が確認されているので、人間、要するに気の持ちようである。しかしセシリアと鈴がISを展開したのに仰天。急いでIS「ラファール・リヴァイヴ・カスタムU」を展開し、2人の後を追った。



「さて、遊びは終わり、撒くわよ圭子」
「OK」

智子と圭子はその身のこなしで2人の追跡から逃れようとするが、鈴とセシリアはこの日は政府からの呼び出しで織斑一夏の姉であり、『恐るべき』教師の「織斑千冬」がいないのを良い事に、ISを起動させ、2人を追う。これには歴戦の勇士の智子と圭子も大いに慌てた。何せ智子達はほぼ生身なのに、向こうはISを展開した上で、完全武装で追ってくるのだ。生きた心地がしないとは、正にこのことである。

「ぶ、ぶはぁっ!……ち、ちょっとぉっ!!ISの指定区域意外での展開は違反じゃないの〜!千冬先生に怒られるわよ〜!?あんたら〜!」

「つーか、こっちは生身なのよ、ISは反則よ反則!」

「っるさいわね!!正体を現しなさいよコラァ!!」

「あなたがたがどうして篠ノ之さんの事を知っているか、洗いざらい吐かせてもらいますわ!!」

セシリアや鈴は完全にやる気である。こっちの話を聞いてくれるような空気ではない。智子と圭子は『こうなれば』と『腹をくくった』。

「……いいわ。若い奴に見せてやるか。こちとら……」

「昔取った杵柄だけどね」

「っるさいわよ、圭子!茶化すんじゃないの!!」

2人はそう言って得物を取り出す。智子は日本刀、圭子は旧日本軍制式の航空機関砲の「一式十二・七粍機関砲」(一式戦などの機銃。手持ち用に改造済み。焼夷炸裂弾のマ弾装填。)である。

「圭子、それどこから出したの?」

「こんなことはあろうかと用意してたのよ」

「答えになってない!」


圭子は智子に言葉を返す代わりに、瞬時に機銃を発射。セシリアの「ブルー・ティアーズ」のエネルギーシールドを魔力による弾速強化で脅かす。超遠距離なのに関わらずも正確にピンポイントを狙撃してみせ、敢えてセシリアを挑発する。

「お嬢ちゃん、射撃が得意だって言うのなら、私を倒してからにしなさい♪」

圭子にとってそれは久々の固有魔法を併用した狙撃。扶桑海事変トップエースは伊達ではないとばかりに機銃を構え、戦闘態勢に入った。

「いいですわ。そちらがその気なら、この私、セシリア・オルコットと、ブルー・ティアーズの力、見せて差し上げますわ!!」

言い返すセシリアだが、向こうの物言いは不思議と風格を感じさせる。同年代にしか見えないはずなのに、なんとなく纏う雰囲気が少女のそれでなく、実戦をくぐり抜けた者しか持ち得ないそれである。

――どうして、ブルーティアーズを展開している私相手に先手を打てたのでしょうか……?

その点が引っかかるセシリアだが、知る由もなかった。圭子は超視力を持ち、更に多くの実戦で鍛えられた反射神経により、自分たちと比べても、何ら遜色ない反応速度を持つ事など。このようにIS学園の面々とのファーストコンタクトは決して良好とは言えないもので、鈴とセシリアにISを展開され、それから逃げるために智子たちは生身での応戦を余儀なくされていた。

「何なのよコイツら!どうしたら私たちの攻撃を避けられるわけ!?」

第一撃を生身の人間に避けられた事に不快感を露わにする鈴。この2人は自分たちの攻撃をまるで「昔から見て、知っていた」かのように避けている。どういう事か。

鈴は双天牙月(青龍刀。この時期では刀刃仕様へ仕様変更を施していた)を構えながら様子に出た。だが、智子は鈴が脅しのつもりで放った龍砲(予め威力は調整している)を避ける。龍砲には砲身がなく、攻撃の予兆を「知っていなければ」初見で避ける事は不可能であるはず。それをあの少女はすんでのところで避け切った。これには鈴も若干狼狽えてしまう。


――智子たちとて、表面的には余裕そうに取り繕ってはいるが、生身であるので内心はヒヤヒヤものであった。ネウロイの攻撃が速度の早いビーム攻撃であった都合上、モビルスーツパイロットと同等の反応速度と反射神経が備わっていたので鈴の放った攻撃を回避できたのである。

(ふぅ〜……死ぬかと思ったわ。若返ってカンを取り戻してなかったら当たってたわね……)

智子は現役当時の肉体へ戻ってなければ命中していた事、予め箒からある程度の知識を聞いておいたことが吉と出た事に心から安堵する。しかし、オールレンジ攻撃はやられると気分のいいものではない。

――先手必勝ってわけ!?まったくもう〜!

今度はファンネル(オールレンジ攻撃端末の名称は未来世界ではファンネルとビットの二通り存在するが、ファンネルのほうが有名であった)のようなオールレンジ攻撃を行う腹積もりか、智子の周りにファンネルに類似する攻撃端末が浮遊する。


(嘘っ!?ファンネルを大気圏内で動かす!?未来世界だって、Ξガンダムやペネローペーでようやく最初から対応してるってのに!?)

そう。1G下で飛行可能な小型攻撃端末は未来世界でも開発に苦戦し、当初より可能なモノは第5世代モビルスーツであり、最新鋭モビルスーツのRX-104FFとRX-105「Ξガンダム」の二体が初めて搭載したに過ぎない。この「大気圏内で運用可能」という衝撃は多大なものであった。

「これで!!」

セシリアは低出力状態でBT兵器(この世界におけるオールレンジ攻撃端末の兵器区分)を制御する。イメージを頭の中に思い描きながら獲物を追い立てる。だが、この兵器には盲点が存在した。未来世界でのファンネル(キュベレイやササビーのもの、νガンダム系列のフィン・ファンネルしかり)のようにオールレンジ攻撃の制御と並行しての機体本体による高機動戦闘が不可能という点である。これはセシリアに隙ができることを意味する。それに気がついた智子は圭子にセシリアを狙撃し、彼女の集中力を乱させるようにいう。こういう時に戦友という関係が役に立つ。以心伝心、圭子はすぐに行動を起こす。

「圭子!」

「分かってる!!」

圭子は腕に持つ「一式十二・七粍機関砲」に炸裂弾(マ弾)を装填すると、セシリアの周医りに着弾させるように狙いをつける。元より互いに倒れるまで戦おうという戦いではないし、ISを展開している分、セシリアと鈴が圧倒的に有利だ。しかし、セシリアのBT兵器は操作する者の集中力が乱れれば制御は一時的に失われ、立て直しに多少のタイムラグが生じる。その点を突いたわけである。

航空機関砲の鈍い発射音(22世紀の試作型サイレンサーをつけているので、一般住宅へ音の迷惑はかからない程度の音になっている)が響く。サイレンサーを通してはいるが、21世紀の主流であるM61に比べると時代的な音である。実弾であるが、ISには通じないのは分かっているので、集中力を乱させるための手段である。周囲に4発、セシリアのISの装甲に一発を撃つ。榴弾である都合上と、ひるませるために弾頭に魔力を通しての強化が施されていたので、炸裂時の衝撃はスペックを超えていた。

「きゃっ!?」

マ弾の炸裂は予想以上に強化され、ISのバリア越しにもその衝撃が伝わる。その衝撃波にセシリアは怯んでしまい、一瞬だが、彼女の集中力が途切れる。BT兵器は一瞬だが、動きを停止する。その隙は僅かであったが、剣術に日頃から励み、居合術も達人級の腕を持つ智子にはそれで十分であった。

(ジュドーやアムロ大尉がやったように……)

「ええいっ!」

智子は備前長船長光に光を宿させ、居合の要領で周囲を囲むように浮遊する4機のブルーティアーズを切り落とす。この戦術はアムロ・レイやジュドー・アーシタがそれぞれの乗機で見せたもので、反応速度の速さと振るう剣の速さが肝である。智子は未来世界でこの特訓を重ね、モノにしていたので出来た訳である。自衛用の2機を残して撃墜された事にセシリアは驚きを見せる。

「ブルーティアーズを一瞬で落とすなんて……やりますわね」

「悪いけど、こっちとら、こういうもんは見慣れてるんのよ」

なんとかこれで五分五分に持ち込めた智子であるが、青龍刀(ただし正確に言えば、この時の双天牙月の形状は柳葉刀であり、青龍刀は三国志で有名な関羽雲長が使った事で有名な冷艶鋸の通名で知られる青龍偃月刀を指す。ちなみに歴史的に見ると、関羽雲長は使用していないとか)

(さて……セシリアのオールレンジ攻撃は封じたけど、問題は鈴ね。アレは私たちの常識には無い剣だし)

智子は未来世界での暮らしの中で、中国という国(殷王朝〜清朝までの歴代王朝と中華民国と人民共和国含む)のことを知ったが、自分の世界では中国大陸はすでに荒涼地帯であり、もしかしたら明国以前の時代には国があったかもしれないが、1900年代には、ネウロイに滅ぼし尽くされたかもしれないという、歴史家の推測と扶桑の古文書でしか存在が無い故に、どのように戦えばいいのかのノウハウがない。そのため双天牙月を持つ鈴とぶつかり合うのには警戒していた。どう出ればいいのか。鈴も日本刀を巧みに使いこなす智子に、かつて見た織斑千冬の剣筋(鈴は一夏と小学校時代から親しい間柄故に千冬の剣術を目にする機会があった)と似た「鋭く、何者をも斬るような」達人が持つ特有の威圧感を感じ取り、様子見をする。

(コイツ……只者じゃない。千冬さんみたいな感じがする……あたしだって相当鍛えてんのに……武者震いがとまんない……!)

鈴は並外れた努力で、代表候補生という、今の地位を築き上げた。飲食店を営んでいた親が離婚し、母親が親権を取り、中国へ帰国せざるを得なかった。そのために彼女はISの勉強を猛烈にし、中学三年(中学の制度では国民中学)からの1年で世界有数に人口が多い中国の中でもエリートである代表候補生の地位を勝ち取った。そのため中国軍で訓練をある程度受けており、戦闘力は正規軍人のラウラ程ではないが、高い部位に入る。織斑一夏がISを動かし、IS学園へ入学決定が報じられると、彼を追いかける形で国家権力を動かし、編入学してきたという経緯がある。そのため戦闘力には自信があるのだが、智子の居合を目にし、安易に手を出せないことを悟った。両者の睨み合いは果てしなく続くかと思われたが……。

「待って、鈴、セシリア!!その人達は敵じゃないよ!!」

「ど、どういうことよ!?」

「順を追って説明するよ。両方共武器をしまって!セシリアたちは早くISを解除して!もうすぐ織斑先生が帰ってくるよ」

「え!?」


シャルがなんとか到着し、仲介に入ったことでその場はどうにか収まった。一行は学園近くの路地で互いの自己紹介と事情の説明を行った。セシリアと鈴は智子達が見かけよりずっと年を取っている事などに特に驚いたとか。

「篠ノ乃さんがまさかそんなことになっているなんて……」

「ええ。これで帰れるようにはなったけど、あの子は多分帰らないでしょうね」

「……!!どういう事なんです?」

「私達が来た世界じゃ異星人との戦争が続いていてね。あの子は運悪く戦いにまた巻き込まれて……自分だけ戦いを放り出すわけにはいかないって言って戦ってるのよ。心の内じゃ一夏くんに会いたいって思ってるのに」

「……!」

圭子はこの世界の所在が判明しても箒が戻れない事情を掻い摘んで説明する。ベガ星連合軍との戦いに巻き込まれたことで箒は元の世界へ帰りたいという思いを封印して戦っている事を。鈴はこれに憤慨し、思わず声を荒げてしまう。

「あの馬鹿!なんでも一人で背負い込んでる気になってんじゃないわよ!こうなったらあたしもそっちに行く!!行ってあの馬鹿に一発ぶちかまさないと気がすまないっ!」

鈴はそう息巻くが、問題があった。箒の現況が分かった以上、織斑千冬に事情を理解させる必要があるが、一筋縄ではいくまい。

「今のあたし達の外見はどう見ても14、5歳。千冬さんに信用してもらうには力不足なのよ」
「そうですわね。あなた方の言うことを織斑先生が聞いてくださるとは……」

そう。智子たちには強引さで押し切るのには外見的な問題がある。千冬に信じてもらうにはインパクトが必要なのだ。

「グレートマジンガーあたりでも敷地にデーンともってくれば信用するかしら……」

「智子、そりゃ無茶だって」

智子がここである意味間違って無いが、些か無茶な事を言う。しかし視覚的インパクトは必要だろう。どうやって織斑千冬に状況を説明すればいいのか。一行は頭を悩ませた。織斑千冬を信用させる有効な手段が見つからず、その場は解散した。鈴達は智子達とシャルの言う事を全て鵜呑みにはしていなかったが、ISを展開している自分たちと生身でありながらも、ほぼ互角に渡り合った事などから、嘘では無いことはなんとなく悟っていた。

(あの方……ブルーティアーズを見切っていましたわね……`見慣れている`とは一体……?)

(龍砲を初見で避けるなんて、いったいどんな反射神経してんのよ?アイツら見る限りかなりの使い手みたいだけど……あの道具……どっかで見たような……ってそんな事じゃなくって!一夏にどう言えばいいのよこれ……!)

自分たちがISを指定区域外で展開した事はその場に千冬がいなかった事、一般家屋に被害が及ばないように戦った事でどうにか咎められず(道路などの損傷は智子達がひみつ道具で瞬時に無かった事にしたので)に済みそうだが、訳が分からない事だらけだ。しかし……納得出来たことがある。『箒は別の世界で一人、戦っている』それだけは理解出来た。

――戦争を戦っていかざるを得なかった箒の気持ちはわかる。一夏が知ったら、たぶん箒を助けにいこうとするのは目に見えてる。こうなったらアイツの首根っこ掴んでこなくちゃ気がすまないわよ!

鈴は自分のポジションの「織斑一夏の幼なじみ」という点で箒は最大のライバルである。それ故、織斑一夏がそれを知れば話の真偽はともかく、すぐに助けに行こうとするのは他の三人以上にわかっていた。だから一夏にすぐ言うべきか迷っていた。しかし今の自分達は「キャノンボール・ファスト」(ISを使ったレース)や学園祭などの多くの学園行事を控えている。話の真偽の確認程度ならその間にできようが、箒のもとにいけるのはその後だろう。

――今の一夏の同室の人は……生徒会長だっけ?あの人には話を一応通しておくべきね。千冬さん……織斑先生も生徒会長からの話なら聞くでしょうしね。シャルにも言っておこう。

鈴は何よりも一夏の事が心配であった。それは箒と同じく、一夏への想いを幼い頃から持ち続けているからであった。箒が小学4年で一旦別れた後に、入れ違いの形で箒の持っていたポジションに落ち着いた鈴であるが、それ以来好意を抱き続けている故に一夏の思考は理解していた。ストレートに言うのを避けるには、ひとまず一夏の今のルームメイトであり、学園生徒中では最強の誉れ高き生徒会長「更識楯無」(ちなみにこの楯無という名は本名ではなく、彼女の実家の当主が代々受け継ぐ称号のようなものなので、称号とは別の名を持つ。ちなみにこの名は彼女で18代目との事)に言うべきだろうと鈴は踏んだ。








――夜、市内のホテルでも智子達も南光太郎と作戦会議を行なっていた。なんとかファーストコンタクトには成功したが、目立った成果はあげられなかったと報告する。

「まあ、それも当然だね。会っていきなり信じろというのも無理がある。じっくりと持久戦で行こう」

「何かインパクトがあれば一発で事足りるんですけど……」

「俺が目の前で変身して見せれば手っ取り早いが、そうそう変身する場がある訳じゃ無いからね」

「本郷さん達から何か連絡は?」

「バダンが動いているとの事だ。クライシスも恐らくこの世界に手を回し始めるだろうが、バダンの方が先に来たらしい」

――バダンはISに興味を示している。何故か。ミレニアムを通して情報を得た大首領「JUDO」がISに対し興味を抱き、その意志を汲んだ暗闇大使が配下を動かしたのである。そしてそれはIS学園がバダン帝国の魔手にかけられる危険が高いということを示している。

「俺はバダンの動きを探る。君たちも万が一に備えてくれ」

「わかりました」

こうして、IS学園は知らず知らずのうちに仮面ライダーとバダン帝国の策謀の舞台となっていたのである。ナチス・ドイツ残党の襲撃から立ち直りかけた矢先に今度は更に強大な組織の襲撃を受けることになろうとは、この時のIS学園の誰もが予想もしていなかった。


後日、智子達一同は学園祭をなんだかんだで楽しみ、その中でラウラ・ボーデヴィッヒらとも面識を持った。その際にはこの世界の裏世界の組織「亡国機業」が襲撃してきたが、これは織斑一夏らの奮戦により退けた。だが、南光太郎は亡国機業さえ子供の戯言に過ぎないほどの敵が迫っているのをひしひしと感じていた。そして、それは不意に訪れた。







――さらに後日。鈴とシャルは更識楯無に智子等の事を告げた。一夏には言わないでくれとの願いを聞き入れ、楯無は単独での話し合いに応じた。

「……なるほどね。おねーさん興味あるなぁ。その、『異世界から来た』って子」

更識楯無は飄々とした態度を見せる。青色のショートカットの髪と赤目という、およそ日本人離れした容姿を持つ彼女は態度からは伺う事はできないが、実は学園生徒中では唯一の現役の代表(ロシア)であり、現役生徒では最強の腕を誇る。年度は箒たちより一個上の二年生でありながら、更なる先輩達を差し置いて生徒会長を務めるのがその証である。

「その子たちの一人が生身で機関砲持ってたっていうから調べたけど、あれは旧帝国陸軍……わかりやすくいうとね。日本陸軍の航空機用機関砲よ」

「えっ!?どういうことですか!?」

楯無は予め渡されていたセシリアと交戦中の圭子の写真をシャルに返しながら説明する。圭子が使っていた得物は旧日本陸軍の航空機関砲であり、とても子供が生身で撃てるような銃火器では無い事を。

「この銃は一式十二・七粍機関砲。大戦の時の旧日本陸軍機の殆どが装備していたポピュラーな火器よ。重さは23sで、中型犬を抱いているのに相当する重さ。反動も航空機用だから、アサルトライフルは愚か、マグナム弾を使う大型拳銃よりあるんだけど、写真を見る限り、この子は殆ど反動を相殺してる。ISを使っても航空機関砲くらいの銃火器を扱おうとしたらPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)で反動を相殺しないといけないんだけど……この子はそれを生身で相殺してる。『異世界から来た』っていうのも嘘じゃないと思うわ」

今回はシリアスモードな楯無。彼女もこれには信じるに値すると踏んだのだろうか。それは今のところ態度から伺う事はできない。この頃、織斑一夏は楯無の頼みにより彼女の実の妹である「更識簪」(さらしきかんざし)と魔使い次なる学園行事「専用機限定タッグマッチ」で簪にペアになるように持ちかけ、最近は彼女の専用機の調整を「手伝っていた」。

――姉さんには勝てっこない……私なんかとは違うんだ……。

簪は実のところ家を継ぎ、ほぼすべてに於いて才能に恵まれた姉に対し引け目と負い目を感じ、姉との気まずい関係が幼少時より続いていた。そしてそれは姉が活躍し、実家の次期当主の座を約束されてから更に加速した。それ故、彼女は強さを渇望した。姉に負けないほどの。それ故か、子供時代からヒーローアニメや特撮ヒーローに憧れる傾向がある。それは成長しても変わらず「ヒーロー」という存在へ憧れていた。それ故に姉のようになろうと専用機を自身の手で完成させようとしていたところに一夏が現れ、手伝ってくれた。だが、一夏が持ち込んだ機体稼働データは実は彼女の姉の機体のものであるのだが、楯無も一夏もそれは告げずにいた。楯無曰く「妹に自分への自信をつけさせたい」という姉としての純粋な願い。「妹と和解し、もう一度、姉妹として言葉を交わしたい」。ただそれだけであった。


姉と妹、それぞれの想い、鈴やシャル達の箒や一夏への想い。南光太郎のバダンへの憂い。それぞれが交錯する中、ついにその時はやってきた……。「専用機持ちタッグマッチ」の日が訪れ、試合は白熱していたが、そこに乱入者が現れる。以前に襲撃した無人ISの改良機であった。複数確認され、鈴がそれに応戦し、空中戦となった。これは『本来』であれば箒の役目となるはずの出来事。箒が不在なので、ポジションが似ていた鈴がそれを吸収したのだろう。その最中であった。




――『それ』は不意に現れた。一夏と対峙していた一機の無人ISが突然爆発する。その爆発を縫うように現れたのは一見して30代ほどに見える、時代がかった革ジャンとサングラスを身につけた男であった。

「フン……これがISか。確かにいいオモチャだが……」

「あんた、何者だ?こいつらを送り込んできた奴ってわけじゃなさそうだが」

「俺が誰か、そんな事はどうでもいいだろう?小僧」

「ここはシールドで遮断されてるはずだ……それをどうやって」

「心配するな、すぐにその理由は分かる」

その男は三影英介であった。かつてはインターポールに属していたが、人間に侮蔑を感じ、バダン帝国に参入した。その後は改造直後のZXと親友のような関係となり、仮面ライダー1号や2号とも戦った。そして最後は記憶を取り戻したZXに敗れた……筈であった。だが、彼はタイガーロイドとして再び蘇生し、今やバダンの重鎮の一人として活動した。一夏はその男に対して精一杯の虚勢を張る。その男はどことなく威圧感を醸し出していた。例えれば猛虎のような。一夏は猛虎に食われる得物のような感覚を感じ、動けずに居た。その時だった。不意にその男の体の至る所から大砲の砲身のようなものが皮膚を突き破る形で出現し、上空で戦っているシャルと無人ISを『撃った』。その場に居た誰もがその轟音と光景に我が目を疑った。その撃ちだされた砲弾は三影英介、すわなちタイガーロイドが精製した特製のレールガン並の速度を誇るAPDSであった。それはバダン帝国の超テクノロジーを以てして、防御ごと無人ISを破壊し、さらに上空のシャルに迫る。

「くっ!」

急いで物理装甲を3枚重ねで召喚するが、それでも初速が余りの高速だった故か、弱まったとはいえ、その装甲を突き破り、シャルのラファール・リヴァイブのアーマーを破壊するほどの貫徹力を発揮した。シャルの体のアーマーが破壊され、その破片によって負傷したシャルの血があたりに撒き散る。意識が失われたシャルは糸が切れた操り人形のように落ちて行った。それを眼前で見てしまったラウラは感情のままに激昂した。

「……許さん、許さんキサマァァァァァァァァッ!!」

ラウラは激昂し、眼帯をはぎ取り、三影にISの攻撃をぶつけた。AIC(アクティブイナーセルチャンセラー)で動きを止めると、怒りのままに攻撃をぶつける。最早相手の生死などどうでもいいように。

「砕け散れぇっ!!」

ラウラの怒りのままに、何発ものレールカノンが撃ち込まれる。……だが、それも彼には無意味であった。爆炎が晴れた時、そこには人の体と虎の顔を持つ異形の化物が無傷で立っていたのだから。

「何だと……!?お前は一体……何者だ!?」

タイガーロイドは静かに言った。ただ一言だけ。

「強いて言うなら、『神に愛されし』……キサマらの子供の玩具のようなガラクタなどとはモノが違うんだよ」

タイガーロイドは『立つ』。その異形の姿を晒して。一夏も切りかかるが、あろうことか、白式の雪片弐型はタイガーロイドの腕に受け止められ、さらに刃を弾かれる。

「なっ!?」

「度胸はいいが、踏み込みが足りんな」

一夏の剣をそう評するタイガーロイド。同時に砲撃を食らわせる。一夏の白式のアーマーとバリアの2層防御を貫き、一部が砕ける。

「い、一夏っ!」

慌てて鈴が駆け寄る。倒れ伏しながらも、一夏は態勢を立て直し、なおも闘志を失ってはいない。その目をタイガーロイドも褒める。それがかつて自分と対峙した時の村雨良と同じ目を見たからかもしれない。

「フ……いい目だ。だが……それだけではな」

「……ハァ……ハァ……」

「一夏、やめて!!このままアイツと戦い続けたら……!!」

「いや、俺は戦う」

「あたしは……あたしは……あんたに死なれたくないのよ!!あんたが死んじゃったらあたしは……嫌だよ一夏ぁっ……お願いぃ……」

「言っただろ、鈴……俺はみんなを守る。戦うより逃げるほうが怖い……だから俺はっ!」

一夏に対し、泣きながら、叫びながら、秘めた思いを吐露してしまう鈴。それは一夏を心の支えとしている感が箒に次いで高く、両親の離婚を機に、家族との絆が薄れてしまった彼女にとって唯一、心から信じられ、誰よりもそばに居てほしい存在である事が垣間見れた。流血しながらもなおも戦おうとする一夏。それを制しようとする鈴。そして無人ISと戦闘する他の面々。戦況は思わしくなかった。




――タイガーロイドの姿は織斑千冬等も確認していた。

「お、織斑先生……見ましたか……?」

「ああ。信じられんが……アイツは`変身`した。しかもISによる攻撃がほとんど効いていないとは(……一夏……!)……」

さしもの千冬も動揺を隠しきれなかった。愛する弟が傷ついていく。こらえきれない感情が溢れ出そうになる。できるものならこの場をすべて投げ出しても弟を守りたい。だが、教師であるという立場が彼女をどうにか平静にさせていた。避難指示を出しながら状況を見守ることしかできない自分に歯がゆさを感じていた。誰もがこの状況が好転することを望んだ。簪は苦戦する姉を、一夏を助けたいという一心で。鈴は敵を倒せない自分の無力さ、一夏を傷つけた「虎の化物」への激情。千冬は弟を守りたい本心から。その願いは実に意外な形で叶った。


――不意に足音が響いてくる。暗闇から後光が差し込めるように誰の姿がうっすらと見えるように、先程タイガーロイドが破壊した入り口のほうから響いてくる。それがなんであるかタイガーロイドは理解していた。それが大首領が、バダンが求めし「キングストーン」を持つ者であることを。

「やはり現れたか……南光太郎」

南光太郎だった。悪の気配を感じ取り、まさにグッドタイミングで現れたのだ。

「ああ。そうだ」

静かに光太郎はタイガーロイドに向けて歩み寄る。バダンの野望を止めるために。その姿は外見からは窺い知れる事のできない勇気を、正義の心を示すかのように雄々しい。

「光太郎さん……どうしてここに……?」

「……言ったろ?俺は助けを呼ぶ声があればいつでも駆けつける、って」

光太郎を知る面々に光太郎は優しい声でそう言う。そして、その言葉を示すかのように彼は一つの行動を取る。その行動に一同は驚愕した。

「変……身ッ!!」

彼は腕を天を掲げ、そこから一定のポーズを取る。先輩であるV3のダブルタイフーンを思わせるサンライザーが回転し、キングストーンの力と太陽の力を秘めた目映い光を発する。この光こそが彼等の反撃の狼煙だった。彼は腕を天を掲げ、そこから一定のポーズを取る。先輩であるV3のダブルタイフーンを思わせるサンライザーが回転し、キングストーンの力と太陽の力を秘めた目映い光を発する。この光こそが彼等の反撃の狼煙だった。


『俺は太陽の子!!仮面ライダーBLACKRX!!』

RXは声高らかに名乗りを上げ、さらに一言言い放つ。それは彼をヒーローたらしめる高潔な精神の発露。

「三影英介……いや、タイガーロイド!!光の前に闇は無いと知れ!!来いっ!!」

そう言い放つRXの姿はまさに「正義のヒーロー」そのもの。一夏も、鈴も、簪もその勇姿に見とれてしまい、言葉もなかった。特に一夏は幼少期に家族が自分ら姉弟を捨てた事による過酷な幼少期の経験で、スーパーヒーローという存在を嫌悪するようになっていた。だが、目の前の人物は『感情がある、泣きも笑いもする普通の人間』である南光太郎が変身した存在。一夏は顔面にストレートを食らったような気分になった。


――サイボーグ故の目にも留まらぬ速さで戦闘が繰り広げられる。RXとタイガーロイドのパンチ、キックが入り混じり、火花を散らす。そのぶつかり合いで発生する衝撃波は凄まじく、衝撃波で特殊合金製の床に大穴が空くほどである。

「あれが光太郎さんの……本当の姿……」

鈴はそう呟く。目の前で異形となった南光太郎。そして自分達のためにその姿を敢えて晒し、化物と戦っている。

「そうよ。あれが光太郎さんの力よ。望んで手に入れたわけじゃないけど、彼は戦う事を選んだ」

「圭子さん、それに智子さん……?」

「久しぶりね、鈴。まさかこんな形で…また会うことになるなんてね」

圭子と智子は出来る事ならもうちょっと穏やかに行きたかったようだが、そう問屋がおろさない。RXとバダンの戦闘というイレギュラーが起こった以上は。その場にいた誰もがこのあり得ない光景に目を奪われる。

――IS学園は次元を超えた光と闇の果てしない戦いの舞台となってしまった。RXとバダンの戦いはますますヒートアップする。一夏はカルチャーショックのあまり、言葉もなかった。だが、これだけは理解できた。南光太郎は『正義』のためにその異形の姿を自分達に晒したと…。



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