宇宙戦艦ヤマト編その2『新たなる旅立ち編』

 

−旧・ガミラス帝国総統「デスラー」から入った通信は地球連邦にとって大恩ある「イスカンダル」が本来の軌道を外れ、暴走を始めたという内容。
レビル将軍は直ちに宇宙戦艦ヤマトとその友軍部隊に救援部隊として出立を指令。
ヤマトに乗り組んでいた菅野直枝は降りられなくなったのでそのままヤマトに同行することになり、古代進の管轄の戦闘班預かりの身となっていた。

「戦闘班か。佐渡大先生も粋なことをしてくれるぜ。コスモタイガーの訓練でも受けておくかな……」

と、自室でのんびりと漫画を読みながらくつろぐ菅野。本来の所属部隊の502への復帰は代理人員の関係上まだ無理なので、こうしてヤマトにいるわけだが……。
そこに驚くべき人物がやってくる。部屋のドアが開き……

「ナ〜オ♪」
「むっ、その声はニパ、ニパか!ひさしぶりだな……ん?待て!お前、どうしてヤマトにいんだぁ!?」
「私だけじゃないぞ」
「何?」
「私もいますよ」
「ぶはぁ、宮藤!!てめえもか!?」

菅野が驚くのは無理はなかった。そこにいたのは502での同僚のニッカ・エドワーディン・カタヤイネン(ニパ)と501で共に戦った宮藤芳佳だった。
ちなみにニパの容姿はショートカットと金髪で、少年のように見えるのが特徴である。

前線任務についているニパはともかくも、宮藤はガリア解放後は軍の命令違反や規律違反が陸軍や海軍の一部で問題視され、予備役へ編入されたはずであるが……。

「宮藤、なんでお前がヤマトに?」
「は、はい。ニパさんが菅野さんの様子を見に来たんですけど、ちょうど学校の冬休みの観光旅行で私もいたんで、北郷さんが取り計らってくれたんです」
「北郷さんが?へぇ、さすが坂本さんのお師匠様だぜ」

宮藤曰く、自分は復学した学校が冬の長期休みに入ったので観光で未来へ来ていたのだが、
そこでニパとばったり会った(ニパは菅野とエイラの様子を見に、501を訪ねたことがあるので、宮藤らと面識あり)。
そこに更に訓練中の北郷章香とも再会し、彼女が菅野を追いかけるのにいいだろうと、訓練航海に出た巡洋艦に乗せてくれ、それから更にヤマトに移乗してきたとの事。
艦隊には巡洋艦が何隻かいたのでその内のどれかからの移乗だろうと菅野は踏んだ。

「うぅ〜む……まさかお前らが来るたぁ……考えてなかった」
「それはそうだけど、せっかくだから案内してくれよ〜宇宙戦艦、それも噂のヤマトに乗れたんだから」
「そういやそうだな。よし行くぞ」

菅野達は3人でヤマト観光ツアーを行なった。元々移民船として造られ始めた経緯があるヤマトは連邦の歴代艦船でも随一の居住性を誇る。
それを楽しまないといけない。自分たちは臨時乗組なので、正規の配置にはついていない。その点は楽である。ヤマトの自動通路を使い、各所をみて回った。
まずは居住区の娯楽の一つ「映画館」。丁度往年の名画……と言っても菅野たちにとっては「30年後」の映画だが……の「オリエント急行殺人事件」が上映される。3人で見ることにした。

内容としては、かの有名なアガサ・クリ◯ティーの生んだベルギー人探偵「エルキュール・ポアロ」がオリエント急行で遭遇した事件とその顛末を描いている。
豪華キャスト陣演じる登場人物たちの人間模様など……映画ファンとしては見ておきたい作品。こういったものはあまり見たことのない宮藤も圧倒された。

その後は工作室、艦載機格納庫、生活班の炊事室などを見て回った。工作室では扶桑などの各国の依頼で宇宙用ストライカーユニットの開発に勤しむ真田志郎の姿があった。

「真田さん、何してんスか?」
「ああ、君たちの世界の国々からの依頼でストライカーユニットの開発に協力していてね。その設計中なんだ」
「ふぇ、凄いですね」
「これは俺としても初めてのものだったが、一週間でおおよその理論は分かった」
「一週間!?」

驚く宮藤とニパを尻目に菅野は言う。

「真田さんだからなぁ」と。彼は宇宙一の天才じゃなかろうかという声もちらほら聞かれる。彼ならどんな異星人の超兵器も一発で理解できるとの評判も高く、
『真田さんがあと5人いれば宇宙征服も可能』と囁かれている。

「君たちになるべく早く宇宙で戦える力となるこいつを完成させたいが、エンジンの燃費改善が手間取っていてね……」
「大変ですね」
「何、装甲板用の宇宙合金の生成などに比べれば楽しめるよ」

真田は試作段階のロケットストライカーユニットを3人に見せる。それはロケットストライカー「秋水」の試作機。エンジンが大きい割に、
`燃費`が悪く、魔力消費量に見合わぬ稼働時間が課題であった。彼を以てしてもその解決に至るのはここからさらに半年の月日を要し、実戦機の配備には一年を要する事になる。

真田と別れると、次は艦載機格納庫に向かった。そこでは艦載機が整備を受けていた。
格納庫には元々戦闘機用に設計されていた都合上、モビルスーツは可変モビルスーツ(外宇宙航行用に改修済み)の航空機形態、VFもファイター形態で積まれていた。
今回の航海以後はこの混成編成だそうである。艦載機の内訳は新コスモタイガー(古代機含め)が20機、Z系可変モビルスーツが10機、VF(AVF以後の高性能機)が15機と、
軽空母と同様の数を積んでいる。以前は全て戦闘機で固められていたが、白色彗星帝国戦で地球の工廠能力が低下。
戦闘機は空母に優先配備されるとなったので、さしもの「英雄」のヤマトもすべては受領できない。そこで真田が発案した編成がこれであったとか。

「わぁ……凄いですねこのコスモタイガー……前よりシャープになってますね」
「何でも最新のタイプで、武装強化型らしいぞ」
「へえ、これがこの時代の戦闘機……中々かっこいいじゃないか。痺れるな」

宮藤は501在籍時に見たコスモタイガーよりも更にシャープになった姿に見とれる。機体塗装は塗り替えが進んでいる新制式塗装の機体上面を濃緑色、下面を明灰白色とするカラーリング。

実はというと、このコスモタイガーは2199年当時よりも更に設計に改良が加えられたタイプで、
連邦軍内での書類分類は白色彗星帝国戦時を`A型`とし、2200年製造分を`B型`、生産第3000番代以降の2201年以後製造機体を戦闘機としての決定版の`C型`
(これが新コスモタイガーの正式量産型にあたる)としている。
ヤマトにはそのタイプを装備する将来有望な部隊が配置されたわけである。

「おっ、来てるな」
「古代さん」

菅野達は古代進に敬礼し、古代も応える。古代曰く、自身の愛機のコスモタイガーを整備に来たとのことである。古代は元々、戦闘班畑の出身。
初代艦長「沖田十三」の死後はなし崩しに指揮権を受け継いだが、元来は戦闘機乗りでもあるので度々空戦を行なっている。

「菅野、君は戦闘班預かりとなったのは知っているね」
「はい、佐渡大先生から聞いてます」
「暇があればコスモタイガーなどの訓練を行っておいてくれ。いつ敵との交戦があるかわからんからな」
「了解ッス」
「宮藤くん、ニパくん、君たちの処遇も追って決める。数日以内に通達するからそのつもりで」
「了解です」

ヤマトは結構な大所帯であるが、班によっては兼任するケースもある。そのためある意味では人手不足と言えるので実のところは猫の手も借りたいのだ。それを表す一コマであった。

−ヤマトは太陽系を抜けようとしていた。目的は大恩あるイスカンダルの救援。そしてデスラーが交戦したという未知の敵の撃滅。
だが、このヤマトの行為が一年後に地球圏に三度の危機をもたらすことになってしまう。それは正に運命の皮肉であった。

 

 

 

 

と、いうわけで宮藤芳佳は数日後、古代進により「基本的に生活班・炊事科預かり。
ただし緊急事態には医療班・戦闘に加える場合もある」との通達により、
古代の婚約者で、生活班長、レーダー手などを兼任(最近は指揮訓練も受けているとの事)している「森雪」の配下となった。
ニパは菅野同様に「戦闘班預かり」となり、熱くなりがちな菅野のお目付け役のような役割を担わされる事になった。
そのためなし崩し的にコスモタイガーUなどの機動兵器の訓練を受けることになった(予備機は真田が多めに用意してくれるとの事)。
菅野とニパはまずコスモタイガーとVFの訓練を毎日数時間ずつ受ける傍ら、一日も早く戦闘機乗りとして促成させるため、数時間の空戦訓練の後に、偵察のローテーションを受け持たされた。
と言っても偵察機の護衛機としての役割ではあるが。古代の課す訓練は過酷といっても過言ではなかったが、
最前線に身をおくことが多いヤマトにあっては音を上げるわけにはいかないのはわかっていた。
帰還すると、2人は真っ先に宮藤のところに行き、宮藤に指圧マッサージ(宮藤は実家が診療所である都合上、その方面の知識も持ち合わせている)をしてもらっていた。

「ふぅ……楽になったぜサンキュー」
「大変ですね」
「そりゃ訓練だけでなく、偵察機(VEF-19D ウォーニングカリバー。偵察用に改修された幾つかのVF−19を真田が貰い受け、ヤマト艦内工廠で更に早期警戒機として仕上げたもの。
軍もヤマトでの運用結果しだいで制式採用を決定するとの通達を出している。形式番号・愛称は暫定的なもの)の護衛もやらされるからな……キツイぜ」
「宇宙じゃストライカーユニット使えませんしね。戦闘機ってキツイんですよね?」
「ああ。特にヤマトに積んであるVFは高性能と引き換えに操縦性は犠牲にしてるエース用の機体だからな……しかも特にじゃじゃ馬の特務用のA型だし……正直、死ぬぜ」

ヤマトは最前線に赴く都合上、必然的に激戦を生き残れるだけの技量と高性能な機体が必要となってくる。
そこで各飛行隊や訓練校から優秀な人材を選んだ上で配属させ、任務に見合う機材を决定していた。
今回積んでいるのは主にVF−19A。工廠ではそれをベースにした攻撃型の研究も進んでおり、真田が何機かを改造を行なっているという。

「Z系もΖプラスC4型が6機と新型のP型が4機積んでるし……あれを乗りこなすのは根気いるよ」

同じく、苦労しているニパも同意する。ヤマトに配属された人員は各部隊から選抜されたエースであったり、腕っこきを自認する新人達。
特にVF乗り達には地球人だけでなく、メルトランディ系のエースも多くいる。
今回のヤマト艦載機要員は女性比率が6対4であり、宇宙の他民族との共生が進んでいる時勢を感じさせる。
そこに全くド素人の自分たちが混じっていいのかと思うときもあるが、彼らは笑って自分たちを受け入れてくれ、鍛えてくれている。そんな彼らの想いに応えたいのだろう。

「よっ、お疲れさん」
「坂本さん」
「お疲れさま。どうですか?」
「俺の番の時も今んとこは異常なし。平和そのものだ。」

ヤマトの艦載機部隊の暫定的なチーフである坂本茂が休憩室に入ってくる。ニパの挨拶に軽く答えると飲み物を一杯飲む。
彼は古代が課す訓練を難なくこなしてみせる腕の持ち主で、上層部からはかつてのコスモタイガーでのトップエース「加藤三郎」の後継を期待されているが、
当人は「ヤマトの艦載機隊長は士官学校の後輩の加藤さんの弟に継がせたい」との意志を持っており、近いうちに異動を申し出る可能性を示唆している。

「芳佳ちゃん、ヤマト亭の今日の献立はなんだったかな」
「今日は確かカツ丼です」
「おお!あれ旨いんだよな……芳佳ちゃんも手伝ったのか?」
「は、はい。カツの味付けとかチーフに見てもらいました。おいしいですよ〜」
「そりゃ楽しみだ。先に食堂に行ってるぜ。土星空域を通り過ぎたらワープするから早めに食っておけよ」

坂本茂は舌を鳴らし、食事が何よりの楽しみのようで、勇み足で食堂に向かっていった。ヤマトの食堂「ヤマト亭」の味は連邦軍の中でも旨い部位に入ると評判であり、
ヤマト配属後の楽しみの一つでもあるからだ。加えて今日からは501では炊事担当が多かった芳佳が手伝っているとあっては当然であった。
(坂本は以前、芳佳の料理を食べた経験があるので余計である)。

「ワープか。その前に飯を食っておかねえと……ヤマトは速いから土星なんてすぐに通り過ぎちまうぜ!」
「そりゃ大変!芳佳、行くぞ!!」
「はいっ!」

3人はヤマトが空間跳躍(ワープ)に入る前に食事を済ますべく、駆け足でヤマト亭へ向かった。その様子を見ていた他のヤマト乗組員たちもワープ前に空腹を満たしておくべく、彼女たちに続いた。ヤマト亭は今日も大忙しであった。

 

 

−工作室  

「技師長、VF−19の改造、終わりましたね」
「ああ。2門のレーザー砲塔を下部に追加し、攻撃型に仕上げた。まだ風洞試験は行なっていないが、さほど空力特性は変わらんだろう」
「名前はどうします」
「そうだな……さしずめ`アサルトカリバー`だな」
「他の機体の改修はどうします」
「あと一機の改修が済み次第、配備し、それで試験運用を行なってからだな。今回はエクスカリバーの改良を探る目的もあるしな」

真田は艦に積み込まれたVF−19「エクスカリバー」を改造し、同機の持つ可能性を探るべく様々な改造を試験的に行なっていた。
攻撃型・早期警戒型などのバリエーションが新星インダストリーから提案されているが、
今年の連邦軍は議会により`戦後`とされた都合上、予算は前年ほど多く配分はされていないので、
大規模な機体の新造は難しい。そこで連邦軍は真田志郎に同社からの依頼を受けさせ、ヤマト艦内工廠で既存機からの改造という形で完成させて、そこで試験運用を行う事になった。
ヤマトに初めてVFが配備された背景には、実はこういった政治的事情も絡んでいた。

−この時、ヤマトの現在位置は土星に達しつつあった。そこから空間跳躍(ワープ)に入る予定である。
友軍艦隊と併せてのヤマトの艦隊行動はこれで2度目(最初は白色彗星帝国戦時のフェーベ航空決戦で空母艦隊を率いた時)となる。
ヤマトは単艦行動も多かったが、艦隊行動も出来る。元が連合艦隊の旗艦であった大和型戦艦であったが故の能力。
使われる機会は実戦では一度きりで、使用機会が平時くらいであったヤマトの艦隊指揮プログラムは今回、その真価を発揮していた。

 

 

−宇宙戦艦ヤマトに乗り込んだ3人のウィッチたち。それを追いかける一隻の宇宙空母があった。その名は「伊吹(いふき)」。
主力戦艦改級戦闘空母第17番艦に当たり、波動砲を拡散波動砲に次ぐ新型波動砲「拡大波動砲」の試作タイプに換装された、戦中であった前年度の予算で造られた最後の空母である。
その艦に乗り込んでいたのは……。

「バルクホルンの奴……宮藤の様子が気になるからってあたしに頼むなよな」

シャーロット・E・イェーガーであった。ガリアが解放された事で501が解散された後、
相棒のフランチェスカ・ルッキーニと共にアフリカに派遣されていたが、
ひょんな事から2人は第31統合戦闘飛行隊「ストームウィッチーズ」に在地していた。
その原因を作ったのはルッキーニで、助けられた夜に、あろうことか、部隊員達全員の乳を揉んでしまった。
それで同隊に在籍していたティアナ・ランスター(元・時空管理局局員)にお仕置きとばかりにスターライトブレイカーの試し打ちの標的にされ、
さらにマルセイユによって雑用係にされてしまった。
シャーリーは本国の最終型レシプロストライカーユニット「P−51H`マスタング`」(501で使用していたものの最終生産型)と、
第二世代(正確には戦後第一世代)ジェットストライカーユニット「F−86 セイバー」(1944年冬を持って、陸軍航空隊は空軍として分離独立したので、
シャーリーは空軍に横滑りで移籍。空軍初の後退翼主力ジェットストライカーユニットでもあった)の受領を名目に(ルッキーニは抜け出せる口実が無かった)、
未来艦隊から貰い受けたVF−9「カットラス」でリベリオンに帰国。ストライカーユニットを受け取ったのだが……その日の晩のことである。

「なんだよバルクホルン。わざわざ国際電話なんてかけて……なんか用か?」
「その、なんだ……リベリアン、お前に頼みがある」
「ん?珍しいな。頼みって?」
「実は宮藤の様子を見に行って欲しい」
「うふ、フフフ。なんだそんなことか……」
「`そんなこと`とはなんだ!!宮藤が未来に行ったのだぞ、私は心配で夜も眠れんのだぞ!!」
「はいはい、分かってますよ♪。見に行ってやるから今日はもう寝ろよ」

バルクホルンは本国奪還戦に従事する傍ら、先の戦いから妹のように思っている宮藤のことが気になって仕方が無いのである。
特に一人で未来へ観光に行ったということが手紙で知らされると柄にも無く取り乱す有様であった。そこでバルクホルンを心配したシャーリーはこの話を引き受けたわけである。未来へ行くと北郷章香から宮藤が宇宙戦艦ヤマトを追いかけていった事を知らされた。事情を話し、北郷と共にヤマト艦隊への増援として派遣される伊吹に乗艦したわけである。

「ヤマトは土星からワープしていった。ワープ先の座標は通達されているから、そこで合流するという事だ」
「へえ……ワープねぇ……SFの世界のものが実現してるってのも変な話ですね」
「何せここは数百年後だ。何があっても不思議じゃない。乗るVFは決まったのか?」
「いえ」
「いっておくが、AVFはじゃじゃ馬だからやめておけ。マジで死ねる」
「ええ……。前にシミュレーターで一回動かしてみたんですけど、扱いきれませんでした」
「だろ?私もそのクチだ。高性能求めるならメサイアだ。あれならEXギアで何とか使えるからな」
「分かってます。今朝、確保しときました」
「速いな」
「乗るんなら速い機体のほうが良いんで」

シャーリーはVFの基本はカットラスで理解したのだが、AVFはその飛行特性から扱いきれないと判断。
その後継ながら堅実な作りと、EXギアで操縦性が改善された「VF−25メサイア」を選んだようである。
スピードを追い求める彼女にとってAVFと同等以上の速力を持った同機は最高の一品。さっそく前衛型のF型を確保し、パーソナルマークを書きこんでもらったわけである。
北郷はまだ決めていないが、指揮官仕様機に乗るのは確実であろう。

「そう言えば手紙受け取ってましたけど、誰からのです?」
「ああ、陸軍の昔の戦友だよ。隠居してるところを無理やり上に引っ張り出されたからぶーたれてるよ」

北郷はそう言って笑う。彼女の戦友といえば、所属軍は違えど同期であり、穴拭智子達のかつての上官であった「江藤敏子」大佐(1937年時中佐)である。
彼女の場合は事変中の軍同士の確執に嫌気が差し、退役。実家で隠居中であった。
そこを、陸軍参謀総長「梅津美治郎」大将が直々に訪問。天皇陛下や皇女殿下の書状も渡すなどの手段を用いた懇願に押される形で復帰したという経緯を、
北郷への手紙に書いていた。
復帰後はミドルティーンに若返った体にまんざらでもないようで、
元部下の黒江がVF乗りとして名を上げている事に、ライバル心を芽生えさせたのか、意気揚々とVFの訓練を始めたようである。

「さて、行くぞ大尉。訓練だ。菅野やニパの奴らには負けていられん」
「VFはどうするんです?」
「格納庫にあるのを適当に拝借させてもらう」
「いいんですか、それ」
「いいんだよ。隊長たちには後で説明しとくから」
「……」
「どうした大尉」
「いえ、なんでもないっす」

シャーリーは思わず閉口した。こうして物事を事後承諾させることはどことなく坂本美緒にそっくりである。いや、美緒が北郷に似たというのが正しいだろう。
扶桑かどこかに「あの親あって、この子あり」とかいう諺か何かがあるが、この場合は「この師あって、あの弟子あり」というのが正しいだろう。シャーリーはつくづくそう思った。

 

 

−ガミラス星跡 宙域

ここ、ガミラス星が`あった`空域ではその原因を作った張本人達がいた。その正体は遙かなる二重銀河を本拠とする星間帝国「暗黒星団帝国」。その派遣軍であった。

−暗黒星団帝国マゼラン方面第一艦隊旗艦「プレアデス」艦橋

「報告いたします。元ガミラスの艦隊がどこかへ通信を行なった模様」
「うむ。通信は傍受できたのか?」
「はい。それによると銀河系の辺境の太陽系のようです」
「ああ、あのガトランティスが国家中枢を葬られたという場所か……侮れん敵だ」
「どういう事です、司令」
「君は知らんのか、あの白色彗星帝国の崩壊を」
「はっ……」

彼らはそれぞれ暗黒星団帝国軍のマゼラン方面第一艦隊司令官の「デーダー」中将とその上司のマゼラン方面総司令官の「メルダーズ」大将。
彼らはガミラス残党が太陽系に通信を送った事に危機感を募らせる。太陽系はかのイスカンダルがその技術力を授けたとの噂がある星の所在地。
彼らが恐れるタキオン粒子文明をイスカンダルから受け継いだ可能性が高い。暗黒星団帝国が恐れおののいていた白色彗星帝国を崩壊への旅路に追いやったほどの力。
かつての一大星間文明の遺産である戦闘種族をも手懐け、共存している恐るべき敵。彼らの危惧と、過剰な機械文明の発達で種としての生命力が衰え、
生命体としては末期的な状況を打開しようとする、兼ねてからの民族的希求はこの一年後、この時の国家元首「グレートエンペラー」の後継者で、
翌年に即位する「スカルダート」聖総統によって実行されるであろう、地球侵攻の電撃作戦として現実となる……。

「本星は直ちに地球遠征準備を進める。一年後には地球への攻撃ができよう」

グレートエンペラーはこの頃には退位を考えていた。彼は次代の後継者への遺訓として、地球侵攻を残す。そしてそれが、
「スカルダート」聖総統により実行される。地球制圧作戦として。

 

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