宇宙戦艦ヤマト編その4『新たなる旅立ち編』

 

「司令、ガミラス艦隊が我がゴルバに向けて突撃をしてきますが」
「フン。放っておけ。あのような雑多な艦隊で何ができるのか」

メルダーズは敢えて攻撃を行わせなかった。ガミラスは確かにかつては近隣銀河に覇を唱えるほどの勢力を誇ったが、
今はその威厳も地球というオリオン腕の端っこの出来立てホヤホヤの星間国家に敗れた事で失墜。国家も国土も亡き亡国の艦隊ほど哀れなモノは無い。それは武人としての情けでもあった。

「全艦、あの要塞に向けて一斉攻撃!!兵器を惜しむな!我が母星の仇を討て!!」

デスラーの号令と共に、ガミラス艦隊がありとあらゆる兵器で攻撃を仕掛けるが、ゴルバの堅牢な装甲やバリアにビーム、レーザーなどのエネルギー兵器も、
機雷やミサイルを含めた実弾兵器も尽く弾かれてしまう。

「ダメです!デスラー機雷の一斉爆破でもびくともしません!」

デスラー戦闘空母の艦橋で兵士が悲鳴を上げる。強大な破壊力を誇るはずのデスラー機雷が相当数ばら撒かれ、
一斉爆破されたのにも関わらずゴルバの正面には焦げ目一つもつかない。
ガミラス艦隊の面々が軽く絶望すら感じ始めたが、デスラーはそれを叱咤激励。伝家の宝刀たる「デスラー砲」の使用を決断する。

「タラン、全艦と地球の艦載機隊を空域から離脱させろ!デスラー砲、発射用意……!」
「ハ、ハッ!」

この時、ガミラス艦隊はゴルバに向けて遮二無二に兵器を撃ちまくったせいで、
少なからず戦闘継続能力に問題を生じており、戦艦の砲塔はそれに準じる冷却時間の間を殆ど置かずに連射を行った影響で砲塔の機構に問題が生じ、
発射不能に陥り、ミサイル艦は例外なく弾切れを起こしていた。そこで一気に伝家の宝刀たる「デスラー砲」を撃つ事で一気に形勢逆転を狙ったのである。
しかし、その望みもゴルバの前に儚くも崩れ去る。デスラー戦闘空母の甲板が一回転し、デスラー砲の砲塔がせり出す。
これは艦首内蔵型とは異なる方式であるが、チャージはヤマトの波動砲より速い。
そのため、コスモタイガーを初めとする地球連邦軍の艦載機には早期離脱を打電。古代はこれに応じ、艦載機隊を離脱させる。

「なんだあの砲台は!でかいぞ!?」

デスラー砲を始めてみるニパが驚きの声を出す。彼女は501の面々や出向経験のある北郷、菅野と違い、
未来世界の兵器、それも異星人のものを見るのは初めてであるので当然の驚きである。菅野はニパにそれが何であるかを教える。その兵器が登場した事はどういう意味であるのかを。

「アレがデスラーの……ガミラスの最後の切り札、`デスラー砲`だ!」
「デスラー砲!?なんだよその安直なセンスは!」
「ネーミングセンスは総統閣下にでも聞け!とにかくあれはうちらの波動砲と同じ原理のやつで、最終兵器なんだよ」
「最終兵器!?」

バルキリーを操縦しながら2人は古代についていく形で空域を離れる。
ほぼ全速なのはデスラー砲のチャージタイムは技術力の差で地球連邦軍の収束波動砲や拡散波動砲以上に速い。それを勘案した上での事である。
威力はこれまでまともに地球側が体験していないため(ヤマトが初航海の帰路で被弾したもの、弾かれているため)不明ではあるもの、
波動砲と同じ原理の兵器なので、威力は波動砲と同じと思われる。デスラー砲のエネルギーはエネルギーバイパスやエネルギーの温度の違いからか、
地球連邦軍の保有するものとはエネルギーの色が違うが、基本的には一緒である。デスラー砲の砲門に眩いばかりに光を持つエネルギーが充填され、それが臨界に達する。

「デスラー砲、発射!!」

デスラーは乾坤一擲の一撃をゴルバに加えるべく、デスラー砲のトリガーを引く。それと同時にデスラー砲が発射される。
一方のゴルバはそれを『何もせずに』悠然としている。デスラー砲が炸裂する瞬間、
ゴルバの周りの空間がまるで「Iフィールド」のように作用し、デスラー砲の小宇宙一個分のエネルギーをも拡散させ、何事もないように無力化させる。
それはウィッチのシールドのようにも見える光景であった。メルダーズはゴルバの力を誇示するかのように全通信で高笑いを放送する。

『フフフ、ハハハハハ……ハハハ!!そのような石ころのようなエネルギー砲が通じると思っているのか!!』

声高くデスラー砲を嘲笑するメルダーズ。それはゴルバの力をガミラス艦隊に示す言葉でもあった。

 

「なんだ!?アレをシールドで弾きやがった!?」

菅野が驚きの声を上げる。何せ如何なネウロイでも耐えられず、
白色彗星帝国の防御帯をも一撃でひっぺ剥がした波動砲と同じエネルギー総量をもつデスラー砲がけんもほろろに防がれたのだ。
誰もがこの結果に驚愕した。古代も、北郷も、ヤマトにいる宮藤もである。

「なんじゃと、アレを弾きおったのか!?」
「さ、佐渡先生。あれってシールドですよ!?」
「間違いなくそうじゃ。……芳佳ちゃん、工作室に伝令してしてくれんか、さっきの被弾で艦内の通信回路がどっかいかれたらしくてな。艦内電話がうんともすんともいわんのじゃ」
「分かりました!」

芳佳は医療室から艦内通路を走り、工作室に急ぐ。元々が連合艦隊旗艦として造られた大和型戦艦をベースに大改造と移民船としての大型化が施されていたのを、
ベース艦同様の軍艦に変更された経緯がある。そのために艦内施設の多くは概ね大和型戦艦の配置が引き継がれている。
ただし大和型戦艦で水上偵察機格納庫とスクリューシャフトがあった箇所の階層はコスモタイガーUなどの本格的艦載機の格納庫と弾薬庫となっている、
バイタルパート部に食料生産施設が配置されているという違いがあるが、そこを通過し、真田志郎のいる工作室に芳佳は伝令を伝えた。

−工作室

「伝令!デスラー総統のデスラー砲があの要塞に弾かれました。敵はエネルギーシールドみたいなモノを貼っています!」

芳佳の伝令に真田は額の汗を拭いながら吉報を告げる。

「ご苦労だった。こちらも今、作業が終わったところだ」
「これは……実弾の徹甲弾ですか?」
「そうだ。コイツは徹甲弾だが、成形炸薬弾も作ってある。徹甲弾の形状は君たちの時代の一式徹甲弾を模してある。
違うのは弾頭部にタキオン粒子……波動エネルギーを仕込んであることだ。これで超電磁砲の要領で放ち、
その運動エネルギーや波動エネルギーで破壊する。これならあの堅牢な装甲も敗れるはずだ」
「でもこれどうやって砲塔まで運ぶんですか?」
「アナライザーに手伝ってもらう。アイツなら何十人分の荷物も運べるからな。待機中の艦載機隊の要員たちにも普通になる直前に伝えてある。まもなくつくはずだ」

「真田さん、お待たせ!艦載機隊待機班、只今到着!!」
「来たか、ん?アナライザーはどうした」
「いるにはいますが……」
「どうした?」
「……酒に酔ってます」
「何、こんな大事な時にか!?」
「ここのところ女性乗組員や芳佳ちゃんの尻を触れていないのがストレスだそうで、呼んでみたらこっそりヤケ酒してましたよ」
「あのばか……」

思わず全員が「アチャー」のリアクションをする。アナライザーが酒を呑むのはいつものことだが、今回ばかりは頭痛の種になったのだから。

「ウ〜イ、サナダサン、オマタセシマシタ。ヒック!」

頭部が時々泥酔のため、宙に浮くアナライザー。ロボットが泥酔するというのはドラえもんの時代では当たり前であったが、
この時代では過去から来たドラえもんやドラえもんズの一部メンバー、アナライザー以外にはまず見られない光景。芳佳は「ロボットも酔うんだ」と感心したりな顔をしている。

「取り敢えずコイツを手分けして運ぼう。アナライザー、お前の出番だぞ」
「リョーカイシマシタ…ヒック」

ロボットであるので、泥酔していても仕事はこなすアナライザー。アナライザーは酔いながら、
波動カートリッジ弾の運搬をこなしていく。時々の爆発の揺れや火災による通路の遮断にもめげず、彼らは波動カートリッジ弾を各砲塔に運んでいった。

 

 

 

−連邦軍が自動惑星ゴルバに対する対抗する手段を波動カートリッジ弾に委ねる中、
デスラー砲を弾かれたデスラーは「かくなる上は」とばかりにゴルバの主砲の一つが発射のために開口部が開かれるのを見払うように乗艦に突撃命令を発し、遮二無二に突っ込む。

『デスラー、何をする気だ!?』
『ゴルバを倒すには最早この方法しかない。いくらそちらが新兵器を用意したとしても、あの強靭な装甲を正面から貫けるかは五分五分であろう?』
『しかし……!』
『按ずるな古代。私はイスカンダルを守るためならどのようなことがあろうともやり遂げる』
『デスラー、何故お前はそこまで……』
『……私はスターシャを愛しているのだ』

ここでデスラーは若き日から持ち続けていた、一つの想いを発露した。彼はガミラス帝国の総統の地位につき、

国家元首として互いに初対面した時から、スターシャへの思慕を持ち続けた。だが、デスラーは古代やスターシャ達にも語っていない『秘密』を持っている。
それは自らがこの時期、既に妻子を設けていたという事実。
それを知るのは、ガミラス帝国健在時の副総統たる「ヒス」のみであったが、彼の死でデスラーの詳細な過去を知る人間は誰もいなくなった。
デスラーは妻は嫌いであったもの、娘の「ジュラ」に対してだけは親娘として、それなりに愛情を注ぎ、ヤマトが反攻を始める以前に別の星へ避難させていた。
しかし子を持ってもほぼ別居状態であったのは、妻が「心を読める」能力を持っていた事が、デスラーが妻を嫌った一番の原因である。

(デスラー……お前は……そこまで……)

ここで古代は幾度と無くヤマトに挑戦し続けたデスラーの本心を知った。
イスカンダルに手を出さなかったのはスターシャを片思いし続けたという人間的な理由であり、冷酷非道の独裁者と思われたデスラーにも一人の人間としての心があった。
これで古代とデスラーの氷解し始めていた関係は一気に完全なる友情へ進む事になる。

『でも、どうするんですか古代さん。アレに動かれたらイスカンダルが……』

菅野が通信越しにゴルバへの懸念を露わにする。ゴルバはそれ自体が巨大な推進力を備えている。
冥王星並の大きさとそれに見合う質量がある。それを移動させるほどの推進力は強大無比。
かつて日本で「妖星ゴラス」というSF映画で『惑星回避のため、地球を移動させる』という物語が描かれていたが、
ゴルバはほぼ『冥王星を動かす』に等しい大きさと質量を持つので、そのアイデアを実現させたようなものである。

 

『あれじゃまるで妖星ゴラスだぜ……全く』
『随分マニアックな所言いますね』
『前に同僚に見させられたことがあったんだよ。惑星を動かすとかなんとかで……』

コスモタイガーUのコックピットで坂本茂は通信越しに菅野にそう口にする。彼はかつて映画好きの同僚に色々な時代の映画を見させられた事があり、
その中に『妖星ゴラス』があった事を思い出したのだ。彼自身も良く覚えていないのだが、
『地球を動かし、飛来する惑星を避ける』という思い切り凄いアイデアを掲示したという点だけは覚えていた。なのでそう比喩したのだ。

『惑星を動かすのなら、逆にその……動きを封じればなんとか安全は確保出来るんじゃ?』
『!!そのアイディアいいぞ!よく言った!』

坂本はそのアイディアにピンときたらしく、菅野にそういうと、すぐに工作室で波動カートリッジ弾の製造作業を引き続き行なっている真田志郎に通信を繋げる。

『真田さん、坂本です。ゴルバの動きを封じるアイディアをナオちゃんが言ってくれましたよ』
『何、どういう事だ?」
『実はカクカクシカジカで……』

坂本は趣旨を掻い摘んで、真田に説明する。自動惑星ゴルバの動きを封じるというアイディアを。

『あれだけの質量を高速で動かす程の機関だ。並の拘束じゃ無意味だ……ブラックホールでも無ければ……!ブラックホール……そうか!!』

真田お得意の閃きが冴えわたる。すぐに第一艦橋に行き、閃きを第一艦橋の面々に伝える。

 

 

 

−ヤマト 第一艦橋

「ゴルバの動きを封じる?」
「そうだ。あれだけの質量がイスカンダルにぶつかればイスカンダルが砕け散る事も十分にありうる。
そこで何か特殊な拘束力を持つ何かでゴルバの動きを封じ、一斉攻撃をかけるというわけだが……
問題はどうやってゴルバの動きを封じるか、なんだ。あれだけの質量を拘束出来る力を実現させるのは今の地球の科学では研究はされているが、不可能に近い』

そう。地球連邦軍は縮退炉を作れるほどに技術はあるが、
過剰にモノを吸い込まないような`無害な`人工ブラックホールを形成するまでには技術力は熟成されてはいない。
かつてガミラスが落とした遊星爆弾にはその技術が使われており、その技術を基に、
日本に残されていた『ミニ・ブラックホール』の製造技術を改良発展させる形で、基礎研究が行われているもの、
ブラックホールの特性上から『施設の一部を人が飲み込んでしまった』などのトラブルが多発しており、制御は今のところ、地球の技術力では困難である。
しかしガミラスはそれを可能としていた。

「そうだ。デスラーの副官のタラン将軍に相談すれば……」

航海長の島大介が言う。ガミラスでデスラーの事実上の副官であり、
元・大マゼラン星雲方面軍・本土防衛艦隊司令長官でもあった「タラン」将軍に話をつければその技術が使えるかも知れない。

「そうか、ガミラスならそれが出来る。相原、古代に伝えてくれ」
「了解」

島のこのアイディアはすぐに真田の指令により、ヤマト通信長の相原義一を通し、コスモタイガーに乗っている古代に伝えられる。

古代は更にそれをリレーする要領で突撃中のデスラー艦に伝える。

『……と、言う訳だ、デスラー。出来るか』
『我が艦隊の後方に特殊工作艦がいる。その艦にやらせよう。だが、敵に気取られるとまずい。非武装だから気が付かれたらすぐに沈められるぞ』
『こちらの戦艦と空母に護衛させる。直掩艦載機もつけておく』

古代は更に配下の戦艦の「テメレーア」と戦闘空母「クイーン・エリザベス」にガミラス特殊工作艦の護衛に着くように指令を発する。
両艦は戦後建造の後期製造ロットに入る「若い艦」であるが、士気は旺盛。古代の指揮に意気揚々と応じる。

『古代艦長代理!敵機がイスカンダルに降下!再度の暴走を促すつもりのようです!』
『何っ!?くそ、ここからじゃ間に合わない!!』

思わず歯噛みして悔しがる古代だが、すぐに相原から驚くべき報が伝えられる。

『あ!?こ、古代さん!真田さんが……真田さんがコスモタイガーの予備機で発進しました!!』
『な、なんだって!?』

−真田志郎がコスモタイガーUで発進した。おそらく親友である古代の兄「守」とスターシャを守るためだろうが、いくらなんでも単独では危険過ぎる。

そのため古代は焦りを感じ、イスカンダルの近くにいた北郷章香のVF隊に急ぎ真田機の護衛に向かうように指示し、自身はコスモタイガーUでデスラーの突撃を護衛した。

 

 

 

 

 

 

−真田志郎はコスモタイガーUで古代守とスターシャ夫妻(事実婚なため)を守るべく出撃。古代は直ちに北郷らに真田の護衛任務を命じた。

『さ、真田さん!無茶ですよ!いくらなんでもコスモタイガーで出るなんて』
『心配不要だ。俺の世代はガミラスが侵攻してきた初期の段階ではよくブラックタイガーで出ていたんだ。あの頃は人手不足で、なんでもやらされたからな』

真田はガミラス帝国に対し艦載機や反応弾以外に有効な攻撃手段がなかった初期の段階では整備長という立場であったもの、
すべての分野をつめ込まれた育成がなされた軍人が多く輩出された時代であった故、彼等は度々艦載機による攻撃にも駆り出された。
本職の技術士官からはかけ離れた任務にも真田はその類稀な才能により適応してみせた。
そんな彼にも悲しい過去がある。少年期に月面都市の遊園地での事故で自分の手足と実の姉を失う痛ましい事故に遭遇しており、
それを契機に絵画好きから転じて技術畑に進んだという経歴を持つ。
その事故からは失われた四肢に精巧な義肢(仮面ライダー達が残した技術により通常の手足同様の動作が可能となったもの)を取り付け、
機械技術などの細かい動作も何ら不自由なく行えた。彼が技術畑に行けたのは義肢の元々の高性能さと21世紀から急速に行われた進歩のおかげもあるのだ。

『いいか、敵よりこちらの機体の方が機動性は上だ。焦らず、確実に仕留めるんだ』
『了解!』

真田志郎はヤマトの戦闘可能な要員の中では年長者に属するもの、まだ20代の終盤である。
事実上のヤマトの副長、知恵袋として度々ヤマトの危機を救った功績が高く評価され、今では異例の若さで将官にまで上り詰めている
(これはヤマト艦長代理の古代が将官となっているため、彼を補佐する真田志郎を昇進させた。そのため真田志郎は北郷章香よりも階級が上である)
そのため編隊の指揮は真田が執っている。

敵の編隊が気づいたようで、ドックファイトを仕掛けてくる。ドックファイトにも真田は動じること無く応じて見せる。
突撃してくるイモムシ型戦闘機の背後を取る。その際のプロセスはまず相手の旋回半径の大きさに漬け込み、横腹から突っ込んで背後を取る。
後はタイミングよく機銃掃射するだけ。
それを見払うように、ヘッドアップディスプレイのレティクルの中心に捉えながら、機のラダー、フラップやスロットルを巧みに操作し、機を上手く操縦する。

(意外にに知られていないのだが、大気圏内に突入するとコスモタイガーUの操縦感覚は大気圏外のそれとは大きく変わる。
大気圏内では翼面荷重の関係でコスモタイガーの操縦感覚は昔で言うところの重戦闘機的な感覚になる。
前型機のブラックタイガーからの機種転換で、多くのパイロットが苦労させられた、名機の意外な側面である)

ヘッドアップディスプレイのレティクルの中心に捉えられたイモムシ型戦闘機は哀れ、多く備え付けられたパルスレーザーの蜂の巣にされる。
その鮮やかぶりに北郷たちも思わず感嘆させられる。

「こうなれば私もやるか!」

北郷も負けじと、VF−25Sをまずはファイター形態で突撃させ、ガンボッドを連射し、敵編隊を散らす。次にガウォーク形態になる。
この時の切り替え動作はVFシリーズが登場して以来、乗る戦闘機乗り達を戸惑わせたもの。
北郷やシャーリー達もその例外でなく、シミュレーターで何度も操作ミスをし、事故った事多数。
実機を使っての訓練でも『あわや』というヒヤリ・ハット体験をしている。
そんな苦労の甲斐あって、今ではVFの操縦法を身体で覚えた。
ガウォーク形態で通常の戦闘機には不可能な戦術であるホバリングを用いた機動でイモムシ型戦闘機を叩き落とし、最後にバトロイドへ変形。

「ターゲットロック……行けっ!!」

目を動かすと同時にターゲットをロックオンするヘッドマウントディスプレイの能力を活用し、ターゲットをロック。
それと同時に機体の各所から高機動マイクロミサイルが雨霰のように発射され、鮮やかな軌跡が空に描かれ、
ガンボッドやレーザー砲含めた全火力で敵編隊を撃墜する。

「おお、さっすが北郷さん!」

菅野が北郷の手際の良さに舌を巻く。さすがに軍神を謳われ、坂本美緒の師なだけあって、覚えが一番いい。シャーリーもVF−25Fを駆り、
そのスピードで敵機を追い回す。

「あ、アイツら宮殿に行くつもりか!?シャーリー、行けっ!」
「了解っ!!」

菅野に答え、シャーリーのVF−25Fは編隊から離れ、全速力で敵編隊を追った。

「うぉぉぉぉっ!!」

−イスカンダルの旧・市街地付近に潜り込む敵機を追ってシャーリーのVF−25Fが飛ぶ。

地球の人々が20世紀中盤に思い浮かべたであろう『未来的』な高層ビル群の廃墟を縫うように円盤型戦闘機とVF−25Fが飛び回る。

「コイツら動きがいい……エースか!」

そう。暗黒星団帝国にもエースパイロットはいる。シャーリーが追っているのはその部隊なのだ。
円盤型戦闘機は対戦闘機用の機体であり、イモムシ型より機動性が良い。
そのためイモムシ型では不可能な空戦機動も可能であり、市街地の建物の間を縫う細かな機動もこなせるのだ。

「お、おっ!?あぶねっ!」

危うく、ビルにぶつかりそうにあうが、ガウォーク形態に変形し、衝突を避ける。ホバリングでビルを走り、ファイター形態に戻り、再び飛ぶ。

−ディスプレイの表示や映る景色が矢のように過ぎていく。一歩間違えたら死ねるぜ……!

シャーリーは万が一のためにメットはかぶってはいないもの、パイロットスーツは着込んでいるが、腕に冷や汗が吹き出ているのに気づく。

「……怖いのか……?クソッ!!」

これまで命知らずのスピード狂であったシャーリーであるが、音速の壁を超えた世界での空戦はこれが初である。恐怖が無いといえば嘘になる。

−しっかりしろあたし!!音速の空戦は望む所じゃなかったのか!?

シャーリーは懸命に自分を奮いたたせる。すると、通信が入る。

『そこのバルキリー、聞こえるか!?奴らの機動には一定の隙がある!その隙を突くんだ!!』
『あ、あんたは……いったい……!?』

シャーリーはこの時まだ知るよしもなかったが、その通信の声は古代進の実兄にして、
『M-21881式雪風型宇宙突撃駆逐艦』の艦長であった古代守(冥王星会戦当時、大佐)であった。
彼は真田志郎の親友で、艦長になる前はパイロット経験もある優秀な軍人。そのため敵の円盤型戦闘機の空戦での動きを見切ったのだ。
彼は宮殿に残された通信装置を作動させ、それを市街地を飛ぶ新型バルキリー(古代守の知識ではVF−1が最新であったので)に伝えたのだが、
それがシャーリーの乗る機体であったのだ。そしてイスカンダルの宮殿ではスターシャが、
彼の生まれたばかりの愛娘のサーシャを抱きながら静かに戦況を見守っていた。

 

 

「うぉぉぉっ!!」

ミサイルのターゲットをロック。必殺のタイミングである。シャーリーは乾坤一擲、バトロイドに機体を変形させ、トリガーを引いた。

VF−25Fの各部からハイマニューバミサイルが打ち出され、サーカスと言われるまでの軌跡を描く。これが地球連邦軍の他国に対する優位であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−宇宙戦艦ヤマトには同型艦は長らく存在しなかったが、度重なる戦乱に駆り出される度に損傷してくるので予備パーツが新造されてきた。
その結果、2隻余計に新造できるくらいにそれが余った。地球連邦軍はその再利用策として、
イスカンダルに行っているヤマトの次世代艦への実験とヤマト型の可能性を追求する名目で、
地球連邦軍はヤマトの姉妹艦を大和型戦艦に習う形で建造。実験艦名目なので完全な同型艦ではないもの、
船体はヤマトの船体の予備パーツを組み上げた物が流用され、武装や、艦橋などの上部構造物などは新造パーツが用いられた。
一隻はラー・カイラム級などの建造成果を反映した戦闘艦橋を第一艦橋と分離させた構造を持つ新式の艦橋を添えつけ、武装を新式へ変えた戦艦としての性格を追求した艦、
もう一つはヤマト型の艦橋を改装したものを添えつけ、主力戦艦改級同様の戦闘空母としての性格を強めた「航空戦艦」として、
それぞれ後者が横須賀、前者が長崎で建造される事になり、2202年度艦船充実計画の下で、建造が認可された。名はヤマトと同型なので、武蔵と信濃。
これらはヤマトの「遅れてきた妹達」として建造関係者達の間で公然の秘密とされており、その存在は特に機密指定されていないため、一般人も知っていた。

ドラえもん達はかつて親交を結んだある惑星から派遣された大使に合う途中で連邦政府の関係者が車を近道させ、横須賀のドックが見える道路を通っていた。
そのため軍艦の建造の様子が見えたのだ。

「あれ?何か作ってるよ」
「ん?戦艦、いや空母?」

のび太の声にドラえもんが窓を見る。一見すると戦艦のように見えるが、チラッと見てみると後部に空母のような甲板が見える。
空母と戦艦を合体させるというのは海軍関係者達が幾度と無く夢見てきた。だが、実体弾主体の時代の技術では利点を相殺しあうとして、
結果的に2隻が既存艦からの改装で造られた程度であった。
だが、それは艦砲がビームの時代で発射炎や煙、衝撃波を気にしないで済むようになると一変。
戦艦でも軽空母並みの搭載機を持てるようになったこと、
ガミラスが戦闘空母を使っていた事にカルチャーショックを受けた地球連邦軍はそれまで強襲揚陸艦や空母のみであった機動部隊運用能力を、
戦艦などの戦闘艦艇にも設けるようになった。そして自前で戦闘空母を建造し、その運用データを発展させ、
次世代艦に反映させるための集大成的艦としてヤマトの3番艦は選ばれたのだ。艦載機は次世代機が予定されているとのこと。

「航空戦艦だよ。空母を多数揃えるには人員も金もかかるが、これなら両方の軍艦を揃える手間が省けて経費節約になるってわけ。
この時代の艦載機は昔の基準で言えば短距離離着陸機と言えるから甲板が短くても発進できるからって事もあるが」
「戦艦に空母をくっつけるか。どっかで聞いたな……それ」

「まあね」

その艦は後に宇宙戦艦ヤマトの血統を受け継ぐ空母として歴史に名を残すことになる。
そしてそれは宇宙戦艦ヤマトの血族がその後も絶えることと無く、地球連邦軍の象徴の1つとして延々と君臨し続けるのを決定付けることになる。
ドラえもん達はその3姉妹を後に目撃する事になる。

さて、ドックを通過した車は横須賀市内の式典会場に到着していた。そこで待っていたのはドラえもんたちには二度目の再会となる大人物であった。

「あっ、キー坊!」
「どうもご無沙汰しています。のび太さん、ドラえもんさん」
「外務大臣になったんだって?」
「ええ。植物星と天上人の融和に尽くしたのが評価されまして」

彼はキー坊。かつて植物自動化液で自由に動けるようになり、植物星に留学した木である。
現在では天上人のノア計画を押し留めた功績が高く評価され、外務大臣となり、星間国家へ成長した地球との接触により、
`知地球`の経歴により、外務大臣兼、地球駐在大使の任を負って里帰りしたのだ。

「そっちでの地球の評判はどう?」
「ガミラスやガトランティスの侵略にも屈しなかった`気骨のある国家`として知られてますよ」
「キー坊のほうにも来たの?」
「いえ運良くそれはなかったんですが、政府関係者達はみな戦々恐々としてましたよ。彼等に対抗できる軍事力は植物星にはないですから」

それは何者にも屈しない強い心を持つ地球人を賞賛するキー坊の心からの言葉であった。
アンドロメダ星雲を席巻したガトランティス(白色彗星帝国)の圧倒的な軍事力の前に地球は屈すると植物星の誰もが思っていたとキー坊はのび太とドラえもんに言う。

「でも最後の一兵までも抵抗してガトランティスを滅ぼした事で地球は一気に軍事大国として銀河に知れ渡り、
政府の人間達は皆、警戒心を持ってます。ですから私が直接やってきたのです」

それは軍事力的に地球がガトランティスをも超える事が示された事で、地球連邦が侵略行為に出るのでは無いかという警戒心を抱くのは当然であった。
しかし地球は散々侵略される側であったので、侵略の愚かさは宇宙で一番身にしみている。友好条約が結ばれた記念に式典が開かれたとの事。

「ええ!?そんな大層な式典ならこんな服でくるんじゃなかった」
「大丈夫だよ、アレがある」
「着せ替えカメラか!そうか、あれがあったんだ!!」

ドラえもんは着せ替えカメラを取り出し、皆を場に合う正装に着替えさせる。

(しずかは華麗なドレス姿である)。

「おっ、君たちも呼ばれたのか」
「隼人さん」

ドラえもん達の前に現れたのは一文字隼人=仮面ライダー2号。今日は本職のカメラマンとして呼ばれたらしく、正装である。

「式典にはそれ相応の服装が必要だろう?今日は本職で来てるしね」

一文字隼人はそう言ってレンタルで借りたと思われるタキシードを直す。サイズがきついようである。

「もう一個上のサイズ借りるべきだったかな……キツキツだよ」
「そのままだとボタン飛びますよ」
「本当かよ……どこだい」
「下の方です」
「ありがとう。これをもたせるしかない。何せカメラマンってそうそう稼げる職でもないから無理してるんだ」
「大変ですね」
「ああ。だから今度のモトクロスの大会に出て賞金をかっぱらおうって計画立ててるんだ」
「それじゃ勝ちは決まったじゃないですか」
「いや、運悪く風見と敬介もその大会にエントリーするっていうんだ。ライバルが多くて」
「仮面ライダー同士で争ってどうするんですか!」

のび太としずかが同時に言う。その言葉に一文字隼人は首を縦に振った。

「それを言われると困るなぁ。あいつらは可愛い後輩だが、こっちも生活かかってるんだ」
「生活?」
「商売道具のカメラ一式買い換えたらとんだ出費でね。光熱費払ったら食費が残らないんだ。それでなのさ」
「勝つ自信は?」
「あるとも。伊達にあいつらより長く仮面ライダーやってないさ」

一文字は笑い飛ばす。仮面ライダー2号である故に後輩たちにバイクテクニックでは遅れは取らないという自信からくるのか。
ストロンガーまでは同じく「立花藤兵衛」の下でバイクテクニックの研鑽を積んでいる。それがどう出るかはこの時代には
天に召された立花藤兵衛にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‐これはフェイトが戦役に従事した後、帰還した後に数年間かけて取りまとめられ、彼女が15歳の時に正式に提出した管理局への報告書の一部である。

『観測指定世界に分類が替えられた第120管理外世界は類稀な科学力を持っている。
連邦軍の象徴とされる『マクロス』、『ヱルトリウム』、『ヤマト』の3種類の艦船は強大で、
管理局の全ての艦隊を相手取っても、さらにお釣りが来るほどの力を保有し、
ヤマトはミッドチルダが科学全盛の時代でさえ`理論上の存在`、`机上の空論`とされた超光速の粒子`タキオン`を動力原にしているという。
更にヱルトリウムに至っては思考主推進機関という半ば化物じみた動力原を搭載している』

報告書にはフェイトが鉄人兵団との戦いで見てきて、体験した事が事細かに記されていた。あの`地球`がどのような発展を遂げ、凄惨な闘争を経験したのか。
そして自分自身が体験し、その一端に触れた事。内容は一貫して、ミッドチルダの上層部の右派や政治家達が吹聴する、
`ミッドチルダこそ次元世界の中心なのだ`という考え方に警鐘を鳴らす物だった。
さらに彼女がマクロス・フロンティア船団に乗船し、その航海の最終地点で「VF−22 シュトゥルムフォーゲルU」を駆って、
`マクロス・ギャラクシー`と戦った時に目撃した`物`、そして`歌`の力を垣間見た事についても触れていた。
注訳付きで最後に添えられていた一文だけだが、自分たちの想像を越えた存在が確かに存在する事を認識した上で、飽く迄人類の可能性を信じるなど、
彼女の率直な気持ちがこの報告書には現れていた。

地球連邦政府と国交を持った事で激しいカルチャーショックを受け、フェイトのレポートで自分たちが`井の中の蛙`だと知ったレジアス・ゲイズ以下の派閥は`脅威`に備えること、
本来であれば人数的に少数派であるはずの魔力素養がある人物が戦力の中心になっている組織に蔓延している人手不足を、
兵器を扱える戦闘要員の確保によって補うことを名目にして,それまで強硬に封印され、解禁されることすらタブー視されてきた旧時代の遺産の科学技術の解禁を強硬に推し進めるが、
それは魔力の素養と努力で成り上がり、その地位を築いた者達の猛反発を招いていく。
それが後々に管理局内の魔力保有者とそうでない者、地球に自らのルーツを持つ者など、お互いの不和を象徴すると、各世界の住人に揶揄される事となる。

そんな派閥争いを尻目に、なのはたちは史実と異なる道を選んだ。それは進学だった。`私立聖祥大附属高等学校`へ進学する道を選び、高校へ進学する。
無論、3人は持ち上がりの内部推薦なのだが、問題は中学2年までの文系(理系は完璧なのだが)の成績であった。
特になのはとフェイトは内部推薦が取れるか、ギリギリの水準で、3年の一学期の期末試験で全てを決するしか無いという状況だった。
しかし親友達に助けを求めるにも、彼女たちも自分たちの方で精一杯であるのは承知していた。そこでかつてのツテを頼る事にした。それは……


201X年 なのは達の地球

 

「う〜このままじゃ内部推薦がやばいよぉ〜どうしよう」

なのはの中学2年までの成績は「理系はずば抜けているが、その他の文系はあまり思わしくなかった」というもので、担任教諭からは
「高町、お前……文系をどうにかできんのか?このままじゃ内部推薦できんぞ」と釘を刺されている。

しかし今度の中間で全体的にいい成績取れば、3年間の平均でどうにか内部推薦が獲得出来る。そこでなのはは軍時代のツテを頼った。

 

『はい。こちら……お、なのはか?どうだそっちは?」
『黒江大尉ぃ〜〜助けてください〜!」
『ど、どうした?』
『実は今度の中間でいい成績取らないと高校の内部推薦が危ないんですよ……』
『何ィ!…そういやお前理系に偏ってたっけな……」
『どうにか出来ません?」
『新制高校はうちらで言えば`中学`になるから教えられないことはないぞ』
『本当ですか!?』

黒江達の扶桑皇国での教育制度はなのは達の常識で言えば`戦前期`のものである。
その為に尋常小学校、高等小学校、中学校、高校、大学(中・高・大のいずれも旧制)、高等女学校、師範学校などが存在している。
黒江達は陸軍航空士官学校(航士)のウィッチ養成科卒なので、高等教育をしっかりと施されている。
(ウィッチになるものの中には高等女学校以上の「帝大レベルの教育が受けられる」という理由で軍へ志願するものも多いとか)
特に黒江達の時代では女子に門戸を開いていた軍以外の高等教育機関は希少(ウィッチがいる事を勘案しても)であるので、
軍へ志願するものが増えている。(扶桑海事変の映画の影響も大きいが)
黒江や智子達はそういった時代では珍しい部位の「大卒程度の学力がある」女性。戦前の大卒は「将来を約束されたようなもの」
であったので、その意味は現在より遥かに大きいのだ。

『とりあえず明日にもそっちへ行くぞ』

と、言う訳で即断即決、黒江は智子を引き連れて教え子の救援(?)に赴いた。(未来での留守番は加東圭子と江藤敏子に頼んだ)

 

 

 

 

‐翌日 なのは宅の喫茶店「翠屋」

「ごめんください。高町なのはさんはご在宅でしょうか」

なのはの自宅は喫茶店なので、軍服の着用はまずいと判断した黒江と智子は戦闘服姿で入った。巫女装束なので
この時代でもあまり違和感はない。

「娘でしたらもう少しで学校から帰ると思いますが、どちら様ですか?」
「私たちはなのはさんと一緒にお仕事をさせて頂いた者です。入って待たせてもらってもよろしいでしょうか」
「ええ。構いませんよ」

なのはの父の高町士郎が智子達を応対した。なのはの家族はこの時期にはなのは達からおおよその仕事の事は聞かされていたので、
割とすんなりと通してくれた。(なのは曰く「軍にいたことはまだ話していない」との事)

(しっかしお母様もお父様も若いよなぁ……)
(ええ。気が若いっていいわねぇ)

黒江達はなのはの両親の若々しさに感心しつつ、なのはを待った。

 

「ただいま〜!」

なのはが帰ってきたようだ。中学の制服(ブレザー)に身を包み、息を切らせながら入ってくる。

「今日は遅かったな」
「うん、プラモ研の連中に呼ばれちゃってさ」

なのはの中学は当然ながら部活がある。中学以降は男女別になるが、何故かプラモ研(なんでも10年前にミリタリー研、ガンプラ研を統合したらしい)
があった。(女子で言えばコアな趣味の部位に入る)
そこで1年生当時、偶然ながら文化祭でプラモ研の「Ju 87」の模型を目にして、思わずダメ出ししてしまった。
(なのははハンナ・ルーデルや智子達に師事していたので、旧・ドイツ軍や旧帝国陸海軍の制式迷彩塗装やノーズアートは見慣れている)
その様子が、当時のプラモ研部長の目に止まり、顔を出すようになったとか。

「お前にお客さんだぞ」
「本当!?良かったぁ〜!」

「オッス」
「久しぶりね、なのは」

「お久しぶりです」
「大きくなったわね。歳はもういくつになったかしら」
「15です」
「そう。月日が経つのも早いものね。それで私達に勉強を教えて欲しいと?」
「高校に行けるかギリギリの成績なんですよ……文系苦手で」
「分かったわ。きっちり仕込むわよ。覚悟を決めなさい」
「はいっ!!」

と、言う訳で2人は翠屋に泊まりこみでなのはに勉強を教えることになった。なのはが学校に行っている間は暇なので、家の道場を使わしてもらい、
剣術の稽古に励んでいた。飛羽高之から教えられた「真剣による稽古」で。

そこへ士郎が見に来る。

「やってますね」
「お早うございます」

2人は素振りを止め、士郎に挨拶をし、雑談する。やがて本物の日本刀で稽古している理由と、
2人の眼光が常人のそれでは無いことを見抜いていた(士郎はSPなどの稼業をやっていた経験があり、足を洗った現在でも軍人やテロリスト
などを目で見分けられる)彼の質問に答える形で2人は「自分たちが別世界の日本陸軍の士官である」事を明かした。

「そうですか、別世界の旧軍の……変な言い方ですが」
「ええ。最も私たちの世界では大日本帝国ではないですが」

黒江と智子は自分たちの世界では「扶桑皇国」という国号であり、安土時代から歴史が枝分かれした世界である事を説明する。
その世界で脅威となっている怪異に対抗できるのが主に女性である関係で、女性の社会進出が進んでおり、日本においても女性の将校は当たり前となっている事も。

「女性の将校か……太平洋戦争に従軍していた親戚の方々が聞いたら目を丸くしますな」

大日本帝国時代、軍人になれた女性は皆無である。中世〜大日本帝国時代に至るまで男尊女卑的な思想が民衆に根強く根付いていたせいもあるが、
「女性は家を守るべき」という考えがあったためでもある。そのため、旧軍に在籍していた経験のある人間なら目を丸くすると言ったのだろう。

「私たちは航空畑の出身です。とは言っても陸軍ですがね」
「そういえば旧軍は空軍無かったですね。陸軍航空隊は通常部隊より自由な気風があったと聞きますが?」
「ええ。厳格である海軍よりその点は楽ですよ」

陸軍飛行戦隊は基本的に海軍航空隊より自由な気風があり、部隊マークなども自由に描く風潮があった。
それは海軍には殆ど無い文化であり、陸軍の美点でもあった。

「戦後は陸軍悪玉論のせいで陸軍の文化は殆ど顧みられる事無かったですからねぇ。戦後はなんでも海軍賛美で、
陸軍は罵倒されるばかりだって子供の時に親戚の人が言っていたのを思い出しますよ」

士郎の言うことは戦後に海上自衛隊という形で事実上の復古を遂げた海軍、関東軍・憲兵などのせいで戦後は日陰者の運命を辿った
陸軍の明暗であった。それを聞いている黒江達は少し複雑そうだった。

 

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